それからしばらくして村を探索してみたが、見事に何も無くなっていた。何か形見の物を見つけて供養でもと思っていたのだが……。
仕方なく村を後にし、翡翠に手を合わせようと山奥の小屋に向かった。小屋に着いた瞬間、異変にはすぐに気付いた。簡易に土葬しただけの小さな墓だが、それが掘り起こされ翡翠の遺体が無くなっていた。
「そ……そんな……誰が」
それも最近ではない。大分昔……それこそ詩翠が旅に出たくらいと言っても過言ではないくらい前だろう。
「私……呪われてるのかな」
「詩翠様、これは誰のお墓です?」
「あ、蓮達には言ってなかったね。これは私の母様のお墓。……でも一体誰が何のために?」
いくら鬼の血肉といえども死体では喰らったところで意味はない。山で遭難し、空腹のあまり死体を掘り起こして食べたなどという阿保みたいな奴はいないだろうし……。
「ひゃぅ!?」
詩翠がガラにもなく(?)可愛い声をあげた。蓮がビックリする程だ。詩翠に同行してこんな声は今まで聞いたことがない。
「詩翠様!?」
寄って来る蓮を手で制止させ、もう一方の手で自分の足元のモノを拾った。
「付いて来ちゃったの? それとも偶然?」
すねこすりだった。すねこすりが詩翠の足にいきなり甘えるように体を擦り寄せたからだった。
蓮は肩を落としながらも安心したようだ。
「詩翠様、これからどうします?」
蓮の問いに詩翠はすねこすりを撫でながら答えた。
「母様の体が無いのは何か嫌な予感はするけど……あ~、やっぱり火葬にしとけば良かったかなぁ……」
俯きながら落ち込む詩翠……実に可愛いらしい。
「ここで何を言っても意味はないし、とりあえず江戸に行こう」
「はい」
そして、狛犬になった蓮に跨がって詩翠はかつての故郷を後にした。
「(でもさっき私どうやってあんな力使ったんだろう……? 羽衣狐の時もそうだったし……母様の体のことも気になるし……あーもう分かんない!)」
そんなことを終始考えているとあっという間に江戸に着いてしまった。
聞いた場所へ行くと、鴉天狗が迎えに来てくれ、
「待ってましたよ。詩翠様」
などと言われ、むず痒い思いをしながらそのまま家まで案内された。すると縁側で珱姫に膝枕をしてもらっているぬらりひょんの姿が見えた。
「なぁ珱姫、デェトをしよう。デェト」
「でぇと、ですか?」
などとラブっていたので邪魔してはいけないと思い、ぬらりひょんへの挨拶は後にして黒と咲に帰ったことを報告しようと探すことにした。
「にしても広いね~蓮」
「はい。予想以上で私も驚いています」
「……全然そんな風に見えないけど」
「何か言いましたか?」
「ううん。何も」
「?」
などと言っていると咲と廊下で鉢合わせになった。
「あら、詩翠ちゃん。お帰り……って言っていいのかしら?」
「うん。私達もこれからここでお世話になると思うからそれで良いと思うよ。ただいま、咲」
「詩翠様、どこでお世話になろうと私は詩翠様に仕える身ですから」
「はいはい。それは道中何度も聞いたよ蓮」
笑いながら詩翠が答える。
「でも、ここの
「……はい」
蓮はぬらりひょんのことを気に入ってないのか最後の返事だけは間ができてしまった。
それからぬらりひょんの耳にも詩翠の帰宅が届き、喜びながら詩翠達を自分の部屋に招いた。そこは何も無いが、触り心地が良い畳が敷き詰められた和室だった。
「さて、ここに集まってもらったのは、ここで暮らすにおいて色々話しておきたいことがあったからだ」
ちなみにぬらりひょんと詩翠と蓮、黒、咲の五人しかいない。
「まずは『出入り』についてじゃ。出入りになるとワシを含め、ここの奴らはほぼいなくなる。まぁ小さな出入りならさして問題は無いんじゃが……そこでな、大きな出入りになったときは、お前らは別に付いてこんでいいぞ。お前らはワシの百鬼夜行じゃないからな」
「分かった」
「次はここでの生活のことだが……そこらへんはまぁ特に決まりごとはないから好きなように住んでくれ」
「うん」
「最後に聞きたいんだが、お前らは盃を交わしているのか?」
「……ん? お酒を一緒に呑んだことはないけど」
「やっぱり知らんか……まぁワシらとは違うからな……いや、いい。最後のは忘れてくれ」
そう言い残してぬらりひょんは部屋から出て行った。なんとも後味が悪いものである。
「父様は何が言いたかったんだろ……まぁいいや。ねぇ皆」
詩翠は自分の後ろに座っている蓮達に振り返り問うた。
「私はここで父様と暮らそうと思うんだけど……皆はどうする?」
つまりは、自分の旅に同行してはくれたが、自分がゴールしたから皆はどうする? ということだ。
すると三人は顔を合わせ、また詩翠の方を見た。
「そんなの」
「決まってます!」
「私達は詩翠ちゃんにお供するわ」
三人は笑いながらそう言ってのけた。一生付いて行く、と。もちろんすねこすりも詩翠に体をこすりながら答えていた。