紀伊水道は大阪湾に通じる所にあるので、軍によってその航行に制限がかかっている。ために、夜半という時間帯の水道は、そのほとんどで真っ暗だった。
『所定の位置に着いたぜ』
『全目標設置完了です、提督』
「よし。隼鷹は通常の艤装展開を、大和達は帰還だ」
『『了解』』
だが、今日の新月の夜空は淡路島の南にある
その中心がほとんどの部屋で電気がついている海軍の施設で、一番大きな部屋に色々な立場の者達が集っていた。
「イムヤ。周辺海域はどうだ?」
『海中に敵の姿は無しね。このソナーも順調』
「加賀。空は?」
『同じく敵影の姿はなし』
3次元モニターを凝視しながら通信しているのが友ヶ島の提督で、彼の後ろに控えているのが彼に艦娘の一部を「返している」和歌山の提督と徳島の提督だがフォローの必要は無かった。
そんな彼らの後ろにいて、数値が絶え間なく動くモニターを凝視しているのが神戸鎮守府の
「エネルギー充填完了」
『目視において異常なし』
友ヶ島の提督の隣に座る明石と、隼鷹の近くで暗視ゴーグルをかけている夕張が、少し上ずった声で言う。
「……特殊艤装展開」
『了解。…………完了』「どうだ?」
『少しずしっとするが、動きには支障が無いな。それに が心配してくれるから万全さ』
「そりゃあいきなり人体実験をしてるからな」
「展開ならびに移動確認」
隼鷹と提督の会話を終わらせた友ヶ島所属の工作艦『明石』は、ずっと立ったままの彼を見上げる。
「……準備は?」
『万端。射ちたくてウズウズしてるぜ』
「じゃあ、カウントダウン始めるぞ?」
『了解』
10から提督はカウントを始め、減っていくごとに
「3……2……1……
『いっくぜー!!』
そして。
闇夜に染まる島影が、一瞬だけ大きく照らされる。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
アイオワ級戦艦1番艦『アイオワ』。
彼女が西海岸から港と島伝いに持ってきた物が、隼鷹に装備される事になり、その試射に成功する。
「見事だったわ、ジュンヨー」
「あれを持ってきてくれたこそからさ、アイオワ」
マリアナ沖海戦の時に同じ海域にいた者同士、固い握手を交わしあい、互いの健闘を讃えあう。そこに青葉が入り込み、早速取材を始める。
そんな3人をお酒を呑みながら優しい目で見ていた提督に近づく影が1つ。
「摩耶か?」
「……これの匂いか」フフ
「ああ」
「隣、良いか?」ギシッ
「座りながら聞いたら意味ないぞ? ……やっぱり、感慨深い物があるよな、摩耶にとってアイオワは」
「うむ。直接あいまみえる事は無かったが、な」
マリアナ沖海戦とレイテ沖海戦。
それはアイオワが参加した主要な海戦の2つであり、摩耶が参加した主要な海戦の2つでもあり、そして後者の戦いで摩耶は潜水艦によって沈んだ。
「話しかけようとは思うんだが、どうやらまだあの海戦自体に恐怖感を持ってるらしい」
「そう、か」
「だから、さ」
提督の片手に柔らかい感触と、心地いい暖かさ。
見ると、摩耶が宴会なので素手の提督の左手を両手で掴み、それを顔の前まで近付けていた。
「お前から勇気を貰うぜ」
「……俺でよければ」ナデナデ
「ん」
内心では心臓がバクバク言ってるのを感じつつも、なんとか提督は冷静に徳利を近くに置き、しおらしい彼女の綺麗な黒髪を撫で始める。
「提督~?」
軽い呼び掛けのはずなのに、呼ばれた提督は寒気がする。
そんな声をかけてきたのは、首を傾げているアイオワを引き連れてきた隼鷹だった。
「何してんのさ?」ジトッ
「あー……え~と……」
「アイオワと話すための勇気を貰ってた所さ」フフン
「Me?」
「ああ。艦娘として
「Ohh,i see! はじめまして、アイオワです!」
徳島鎮守府に「北方海域が落ち着くまで」一時的に所属する事が決まった彼女と、自分の鎮守府の精鋭の1人である摩耶が笑顔で話し合い始めた事にホッとしていると、入り口の扉の方から「失礼します!」と凛とした声が聞こえてくる。
「新入りさん連れてきたわよ、提督」
凛とした初めて聞く声の隣にいるのは、友ヶ島所属の長良型軽巡洋艦の『五十鈴』だ。
「よっ、半日ぶりだな」
「はい!」
神戸の提督に挨拶してから、アイオワではなく自分が着任する事になった事は知らない新入りの艦娘は自己紹介する。
「出雲型装甲巡洋艦2番艦の『
「友ヶ島の提督だ。やっぱり『出雲』と似てるな」
「はい!」
出雲とは違い新人感がヒシヒシと出ているのは、長きにわたって練習艦隊にいたからか。
そう推察しながら、彼女と握手をかわし、新着任艦なので3つの鎮守府の艦娘達から質問攻めにあいまくっている出雲を呼び、姉妹を再開させる。
夜遅くまで続いた宴は、その2人の事もあって和気藹々と進み、大規模作戦前に士気は上がる事になる。