Lynx links to jinx.   作:祖父地図

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 リンクスへのアクセスはさほど難しいものではなく、むしろアクセス自体は簡単に受け付けるようになっていた。リンクスにデータを送り込むと苦痛があるようだが、吸い出す分にはさほど問題がないようで、束はひとまずリンクスのデータをまとめて部屋に帰した。

 リンクスから吸い出したすべての生体情報を整理して行くにつれ、自然リンクスの肉体的状況についてもよく知るようになる。

 リンクスのからだを構成しているものは生の肉と人工物からなっており、その割合は後者の方が多い。

 人工物と一言に言っても、たとえば脊髄と延髄を経由して脳髄との電気信号をやりとりするための装置、すなわちAMSのためのもともとからだに存在していないものや、ネクストの機動による急激で強烈な加速度に耐えるために臓器をより頑強な物質への置き換え、あるいはもとからある臓器の機能を助けるための装置の取り付けなど、人工物による強化の方法はいくつかある。

 その強化についてはどのように評価すればよいのかがわからない。AMS接続機構や、脳の演算能力を強化するチップなど人の体をただのタンパク質によって構成される電気信号下において反射活動を行う有機生物程度の認識しかしてないような強化から神経経路を導電性の高い繊維で補い人工筋肉と人工骨格によって耐久性や総合的な能力の向上を目指した義肢技術の延長線上にある技術や人工臓器によって内蔵機能を向上、機能不全に陥った臓器の代替も可能であろう医学的見地から諸手を挙げて受け入れられるだろう強化など多岐にわたり、手放しの非難も称賛もできない。

 技術の取り扱い方を間違えなければ相当な社会貢献ができるだろう。もっとも、このリンクスの完成度から見てそれまでの間に人体実験は存在しなかったと主張するのは不可能だ。もっと言うのなら、このリンクスも実験体の一人でたまたま成功した、あるいは失敗しなかっただけなのかもしれない。

 リンクスの身体的情報を抜き出してそれらを記録したのち、束はしばし思考にふける。果たしてリンクスは身体に障害を発生したのだろうか。

 もしも彼が臓器や肉体に障害を発生させ、その治療として人工物を肉体の代替物として組み込まれたというのなら、この状況に納得がつくものである。つまり、体のほとんどを最新技術の塊とでも言うべき人工物への置き換えをしたのならば法外とは言えない莫大な金銭を要求されたはずである。その治療費を支払うために、身体を改造しなければならないようなパイロットを強制されたのかもしれない。

 もっとも、束の直感はまさしく逆だと伝えている。すなわち、治療などではなく実験体としてからだをいじられ、その結果としてパイロットを強制されたのだと。

 これはいくら考えても詮無いことであり、答えを知っているだろうリンクスに尋ねるのも憚れる話である。束は考えることをやめた。

 リンクスの身体情報をもってネクストへのアクセスを試みると、これまでと比べればかなり楽な侵入となった。もちろん、リンクスの身体情報をどのように使うかなどのアクセス方法における試行はあったが、最終的にネクストのデータバンクへのアクセスを完了した。

 情報を読み出していくと、束はその貴重さやとんでもなさに頭を抱えたくなった。

 ネクストが保存していたデータはまさしく、おおっぴらに戦闘行動を取ることができない束からしてみれば値千金であった。すなわち、ネクストの頭部カメラがとらえていた映像のすべてや、各パーツにかかっていた負荷、その戦闘においてネクストが受けたダメージや負荷などの損傷、リンクスの感じていた加速度や精神状態、ネクストとやりとりしていたデータ関連、脳波とそれから推測されるリンクスの精神状態、ネクストがどこかと通信した履歴など、ネクストを通して知りうる情報のすべてである。

 情報を確認していくうちに、束は戦慄を覚えた。

 束のもつ知識に照らし合わせる限り、ありえないと言うべき情報だった。

 ISという、当たり前の常識を完全に打ち壊す外骨格装置を作り上げた束ですら疑う情報、それはネクストという超重量の質量が超音速で吹っ飛ぶ映像であった。

 束もISを超音速で飛ばすことは不可能ではない。しかしそれは、ISと人間を足した程度の質量だからこそ可能なのであり、ISよりも遙かに大きく、比べるのもばからしいほど重いネクストで音速を超えるなどどうすればよいのか考えもつかない。

 なによりその加速時間が短いことに驚愕を隠せない。最高速度まで一瞬で加速し、その後最高速度を保ち続ける。あるいは一瞬で最高速度を記録し、ネクストを瞬発的に移動させる。後者はISでも似たような行動をとれるが、当然ながらネクストよりも圧倒的に質量が軽いからこそなせる行動である。質量の軽重はそれほど重要なのである。

 常軌を逸している、というのは束の素直な感想だった。

 ネクストの機体データ、その整備情報や機体構成の変遷などを読み出していくとネクストの総合的な、あるいは基礎的な情報を推測できた。たとえば始めにリンクスが言っていたジェネレーターはコジマ粒子と呼ばれる特殊粒子を生み出し、これが圧倒的な動力源を担っていること。代償と言うべきか、コジマ粒子は恐るべき動力源となるが生態系への深刻な影響を与えるほどの毒性があり、人、動物、土壌、植物、水質、水棲生物、ほとんどあらゆる生き物と環境に破壊的障害を与える。だからこそリンクスはここら一帯が死ぬと言い表したのだ。

 整備の仕方などはネクストに蓄積された情報から読み取れる。束の頭脳をもってすればこの情報からその構造を読み取り、模倣することはさほど難しくない。そもそもで必要な物資などを調達できない、ということを度外視するのなら。

 コジマ粒子を人為的に生み出すための発生素子や、それらを制御するための構造物質などはとてもではないがどこから調達すればよいのか、さっぱりわからない。構造解析ののち、構造を模倣して生成しようにもどのように行えばそうなるのか、まったく想像がつかない。これまでにない初めての経験であり、戸惑うのと同時にまたおもしろさを感じ、俄然興味をかき立てられるのだった。

 束はこのネクストに挑戦してみたいと感じた。つまり、これを模倣しながらこれを製作するのだ。そのためにはどうしてもこれを使わねばならず、失敗した時点ですべてがご破算になる。つくりえない部品や物質を別のもので代用して、などとやっていたらそれこそ模型を作るのと変わらない。エンジンをかけられるがしかし動かせないというゴミをつくりだしても意味がない。だからこそつくれないものはそのまま流用し、あるいは手を加えつつ使用するのだ。

 そうと決まれば束の行動は早い。これまではただ情報を見るだけであったが、見つけられる限りの情報を洗いざらい拾い上げる。破損データ、破棄されたデータも可能な限り修復し、修復しきれないものであってもどうにかかたちにする。

 データを拾い上げ終えるまで、束をしてもかなりの時間を要した。これ以上拾える情報がない、と判断することが困難であったためだ。既存のプログラム構成とまったく違う情報管理であり、その把握からして難航を極めたことで探していない部分の判別がつかなかったのである。

 必要不要を選ばずただかき集めただけのデータの海。これらを種類別に振り分けるだけでも時間を食われることは間違いない。しかし束にとって情報の仕分けは不要である。すべての情報を見てしまえば順番がばらばらであっても正しく並べられていても同じだからだ。先に応用を見てその使い方がわからなくとも、あとで基礎を見て応用を理解する。そのくらいのことは、束にとってなんら難しいことではない。

 束はネクストから抽出できるすべてのデータを吸い出したと判断すると、続けてそれらの精査に移る。

 情報の形態は様々である。ネクストが頭部カメラでとらえていた映像、リンクスの心拍数、呼吸頻度、血中酸素濃度、肉体的損傷、疲労具合、脳波などの数値化されたバイタルデータ、どのパーツをどの場所からどのように整備したかなどの状況を読み取れる履歴、制作者や研究者などが何らかの目的で残したのだろうメモ書きのようなテキストデータ、火器管制システムや総合制御装置などのもとから組み立てられているシステムそのものなど、多岐にわたる。一言で情報を調べると言っても誰かがレポート形式でまとめているのでない限り、きわめて時間を要する作業である。この手の作業に慣れていないのであれば、大量の時間を浪費した結果何も得られなかった、ということも珍しくない。

 だが情報を扱うことに長けた束にとってそれらの統合、関連づけなど、読み取りやすいかたちに直すことはたやすいことである。束はより深く理解するために、また後学のためにそれらをわかりやすいかたちにまとめながら情報をかみ砕いていく。

 束の優れているところは、それこそいくつもあるが真っ先に挙げられるところは理解力であり、それに伴う発想力もまた束を語る上で必要な要素である。極端なことを言えば、束はある作品のあらすじを読んでその作者の作品的傾向や表現の好みを把握できればほとんど完全に内容をトレースできるほどの能力がある。

 ゆえに束は完成品が手元にあり、その材料を用意可能であれば、それこそ簡単にそれを模倣してしまう。その後、きっちりとそれよりも性能の高いものを作り上げるまでが一つの流れだと言ってよい。

 だからこそ、束はネクストの情報をまとめて行くにつれて寒気を覚える。それにつぎ込まれたのであろう開発費、研究費、人件費、資材費、その他雑費などの巨費と、ひたすらに長かっただろう開発期間。ただ戦争をするためだけの殺戮兵器にかける費用とは言いがたい。

 さらに言えば、現在のこのネクストの形状はいわゆる「完成形」であると同時に、「完成形」とは呼べないものであった。と言うのも、実のところこのネクストはいくつものパーツで構成されており、それらは同一規格による互換性を有している。すべてにおける起点となる胴体部分のコアを中心に頭、腕部、脚部、メインブースター、サイドブースター、バックブースターの外装と火器管制装置、ジェネレーター、チューンなどの内装からなりたち、両腕と背中、肩に武装を取り付けることでかたちになる。ゆえに、個人の好みや特徴に大きく左右され、企業によってパーツは供給されるもののそれらは特定の、かつ一定の形状や装備を保つものではない。

 このことが何を示すのかと言うと、一つは「これが規定の兵器ではない」ということ。すなわち兵器と言ってよい戦闘機は、一口に言っても攻撃機、爆撃機、万能機など用途によって使い分けるのが普通である。万能機を得意とするパイロットが爆撃機に乗って敵戦闘機を迎え撃つ、などということはまずありえない。しかしネクストであれば、それ一つあれば攻撃、爆撃、迎撃、それらすべてを同様にこなせる。

 そして一つは「兵器として致命的特徴を潰している」ということ。通常であれば換装というのはパーツ単位で行うものではない。対地ミサイルを対空ミサイルに換えるのではなく、戦闘機の両翼を付け替えて小型攻撃機から大型爆撃機に換えるようなものであり、強度的に考えてすべからく行うべきでない愚行である、そのはずだ。しかしこのネクストはどれだけ攻撃を受けてもパーツごとに分解されることはなく、それでいて超音速戦闘を行い、整備上の分解は簡単に受け付けている。

 意味がわからない、と束は頭を抱える。

 リンクスから警告を受けていたジェネレーターについて、それの生み出すコジマ粒子がネクストにおけるすべてだと行き着く。

 コジマ粒子によって生み出されるエネルギーは莫大である。コジマ粒子が担うそれは、まず一つネクストを動作させるための基本的なエネルギーである。すなわち、歩くために脚部を動作させる、狙うために腕部を動作させる、マニピュレーターの動作やブースターの通常使用など、最低限必要な動作と言える。そのほかには実弾兵装とは違うエネルギーをそのまま武器として用いる武装の、弾薬のようにも用いる。

 次に一つ超高速を可能とする機動である。こちらはエネルギー変換して使うのでなく、コジマ粒子をそのままにして使う。それがクイックブーストであり、オーバードブーストである。前者はコジマ粒子の圧縮、プラズマ化して爆発させ機体を瞬間的に加速させて一定の距離を即座に移動する。近距離における戦闘の要であり、相手との間合いを取る、間合いを詰める、攻撃を避ける、回り込むなど限定的でありながら重要な移動手段である。後者は通常ブーストにプラズマ化したコジマ粒子を混ぜて出力を上昇させるもので、通常のブーストのように移動手段となるが、それを超音速の高速化するものである。通常ブーストとの違いはやはり超音速での移動を可能にし、コジマ粒子をまき散らすことであるが、その最高速にクイックブーストのように一瞬で到達するところだ。

 そして一つ、機体の周囲に展開して循環させることでバリアとして展開するプライマルアーマーである。束からすればコジマ粒子という残留性の高く汚染能力も高い悪性物質をまき散らしながら展開するというのは狂気の沙汰にしか見えないが、それでもその能力は折り紙付きである。そもそもでネクストの装甲はとにかく軽量であることを求め、最低限の防御性能しかもち合わせていない――それでも、既存の兵器では物量作戦を強いられる程度には防御能力をもつ――にもかかわらず、並み居る超兵器すら置き去りにした防御機構である。プライマルアーマーの前に、物理的、非物理的を問わずあらゆる攻撃はその意味をかなぐり捨てる。

 束は吐き気を覚える。

 ISにも絶対防御機構という機能が組み込まれている。ISとしての最低限の機能すら投げ捨てて搭乗者を保護するためにあらゆるエネルギーをつぎ込むことで機能させる、最終防衛線と言ってよい機能だが――つまりネクストは性能を完全に発揮しながらこの機構をまとっていると言えるのだ。

 ではそのネクスト同士の戦闘はどうなるのかを見ると、ネクストに装備される武器は、ネクストを絶対として君臨させたプライマルアーマーをぶち抜いてさらにネクストそのものにダメージを与えるだけの性能をもっているようだ。手に持つライフルのような武器も、背負う大型の武器も、物理的、非物理的を問わずプライマルアーマーを貫く、あるいは消し飛ばす、それほどの攻撃能力をもつ。逆に言えば、もたざるをえなかったのだが――それでも、絶対を誇るほどの防御機構を貫く武装を作れてしまうのだから恐ろしい話だ。予備武装としての域を出ないハンドガンですら正確に命中させる技術があるのならネクストを落とせるだけの性能が保証されている。これらの武装をもってすれば、ISは一撃で落とされ追撃すれば絶対防御を貫いて搭乗者とISそのものを血煙と粉塵へと変化させるだろう。現行の軍事兵器であれば、付近でクイックブーストを噴かすだけで無力化できそうだ。

 さらに一つ、武器としての転用もできると来た。コジマ粒子を充填し、エネルギー弾として撃ち出す通称コジマ砲。自身の周囲に循環させまとっているプライマルアーマーを爆発的に展開し、プライマルアーマーを維持するための余剰コジマ粒子まで含めてすべてを吐き出す、諸刃の剣である。どちらも相手のまとうプライマルアーマーを吹き飛ばし、機体に深刻なダメージを与えられる。前者は充填に時間がかかること、後者は効果範囲まで接近し、外した場合は一方的に、仕留めきれなかった場合はお互いにプライマルアーマーを失うことが欠点であると言えるが、強力な切り札であることに違いはない。

 コジマ粒子がネクストの開発を後押しした、というよりもコジマ粒子がなければネクストは考えもされなかったはずだ。それほどに頭のおかしい兵器だ。狂っているとしか形容のしようがない高効率エネルギーをあてにして兵器を開発するというのはばかばかしいどころの話ではない。

 束にしてみれば、ISの核部分、これの開発を成功し、ISのすべてとでも言うべき部分をつくりあげたからこそISをつくったわけだ。宇宙へ行くためにISをつくった、というのはある意味で正しく、ある意味で間違っている。宇宙へ行くための手段を欲していたし、そのためのなにかを製作するつもりでいたことも事実であるが、その時点でISというものの現在の形状、形態を夢想していたのではない。

ネクストの武装をそのまま流用すればこの世のあらゆる覇権を暴力によって支配できるだろう。しかし弾薬の補充はできないしメンテナンスもできない。束の技術によって製造できるか、と問われれば可能だろうが、そのための研究開発期間を考えればISの拡張開発をしているほうがよほど現実的だ。

 最終的にネクストの情報をまとめあげ、整理し終えるまで数日を要した。単純に膨大な情報量であること、それらの関連づけが想像以上に面倒な作業であったことが理由として挙げられる。

 束の当初の目的はネクストを解析し、それをもとにIS技術を組み合わせてISを超越する絶対的と言うべき兵器をつくりあげることだった。しかし蓋を開けてみればこのネクストのどこにIS技術を組み込む余裕があるのか。

 コジマ粒子をジェネレーターから出力しそれを解析したうえで中和もしくは無毒化を図り、そうすることで莫大なエネルギーを得ながらも環境汚染を憂慮しなくて済むようにしようという考えは、コジマ粒子の特性とそれに連なる研究のデータから否定された。つまるところコジマ粒子の研究時点で毒素の改善は試みられたのであり、その手段も確立されたもののコジマ粒子の強烈な毒素を中和するにはそれから得られるエネルギーの減少を意味し、ネクストの出力としては役立たずになるのだ。ネクストの運用という観念から見れば完全に意味のないことであるが、しかし喜ぶべきか落ち込むべきか研究そのものはすでにされていて、束が手を出せるところがない。

 量子化という考え方もネクストにおいてはさほど意味を成さない。というのは、つまりネクストにすでに量子化という技術が使われているということと、ISが用いる大容量の量子化技術がネクストには必要ないということ、どちらをも意味している。

 ネクストの武装、その弾薬は量子化されて携行される。弾薬単位での量子化、もしくは弾倉単位での量子化がなされ、ネクストはそれらを撃ち終えると薬莢や弾倉を排出し、新たな弾薬、弾倉を量子状態から装填する。量子化される最大数量はさほど多くはないが、ネクスト一機を落として余裕がある程度には確保されている。だからこそ大質量の量子化は必要なく、それ以上を積載するのは完全に無駄である。

 通信技術は単純にどうしようもなかった。簡単に言えば現代の通信技術とはあまりにかけ離れており、現在使用されているそれらの技術を完全に捨て去ってあらたにシステムを構築せねばならず、これほど大規模な改革はさすがに行うことができない。それこそ、現代社会を完全に破壊しない限り。

束はどうするべきか、決定しかねた。手に余るどころの話ではない。成績優秀な高校生が買って出た家庭教師役のつくべき相手が、その分野において世界的権威と呼んで差し支えのない専門研究機関のすべてを統率する研究者であったかのような気分だ。

 ISが軍事転用され兵器として用いられているからこそ起きた勘違い、とでも言おうか。もともと束は研究者気質であり、軍事兵器の開発などはまったくの埒外である。それでも現状の軍事装備を一蹴できてしまうのは、偏にその頭脳が優れているからだ。

 束はネクストにおいてなにができるのか、なにをすべきなのか、考えをまとめる。

 これを修復してそのまま運用するというのがもっとも簡単に考えつく案である。しかしこれは目の前にぶら下がった餌に食いつきむさぼるだけでなにも考えていないのと同じことだ。このまま完全に修復して運用したとすると、コジマ粒子による極度の汚染が発生して地上に生きられる生物が限定されてしまう。ついでに言えば、それを克服したところで武装は同じものを作れると思わない。現状のこれを使い潰せば、あとはあくまで現状のレベルから延長線上にあるものしか用意できない。ネクストの、想像すら跳躍する狂気じみた武装は使い捨てにしかならない。

 次に、新たなネクストを模造することが思い浮かぶ。これは悪くないが、しかし可能なのはネクストのサイズダウンである。ネクストを同等のサイズで運用するには間違いなくコジマ粒子が必要で、これの無毒化による出力低下、および自前の装置によって出力の補助を行ったところでろくな機動がとれない。これでは無意味だ。戦闘機の出力を下げて両翼のサイズアップを行うのとなんら変わらない。ネクストが絶対である理由の一つはそのばかげた出力からなされる高速機動も含まれているのだから。

 最後に、ネクストの技術を取り込みISの技術を組み合わせ、新たななにかを混ぜ合わせそれらのさらなる高み、止揚にいたることである。絶対的な防御機構、殺人的な運動量、画期的な運用手段、歴史的な強者、圧倒的な攻撃手段――提灯に釣り鐘、並びない度外れた獰悪な殺戮機械。これを作り上げられるのなら、それこそが最高の、それ以上ない究極の答えだろう。

しかしそれが簡単にできるのなら世の中はこれほど停滞していないし、世の中に稀代の天才なる人物が生まれることもない。ゆえに、最後の案は理想論、夢物語でしかない。

 束の行動は決定される。すなわち、軍事研究施設の研究成果の奪取、およびそれらの解析、搭乗者であり軍事戦闘経験者であるリンクスの意見を交えた総合開発ののち、運用可能なサイズのネクストをつくる。どの程度のサイズになるかは、コジマ粒子無毒化による出力低下と、束自身の可能である限りの出力補助の兼ね合いによるだろう。

 ネクストを構成しているパーツをオーバーホール、流用することで開発という最大の手間と労力を省き、外装は甚大な破損状況であるもののまだ使える部分を継ぎ接ぎのようにつくりなおすなどして製造の手間を省く。そのようにしてもまだ、まったく必要には足りない。

 ネクストの製造までは時間がかかるだろう。どの程度なのか、それを予想することは不可能である。しかし、必ず完成させるだろう。束の頭脳とリンクスの経験、ネクストという実物があるのだ。できないはずがない。時間はかかるかもしれないが。

 逆に言えば、時間さえあれば束はやってのける。それだけの能力がある。

 束を有能たらしめている部分は模倣と改良であるが、それをなしているのはつまり、彼女の判断能力である。

 束の判断はほとんど確実である。それこそ、今回の場合に当てはめれば、どの部品は製作可能である、どの部品は製作不可能である、という判断が即決であった。

 通常、人は見ず知らずの技術が用いられた完成品を見た時に「これはなにか」という感情が表れる。それから理解できるものなのか、という判断をくだす。

 能力のある人物であればそこから「できるかもしれない」という感覚が表れ、もしくは自分の能力を上回っていると見れば「できっこない」という諦めが表れる。それはなにかに裏付けされた絶対のものでなく、漠然とした意識から生まれる希望的観測である。

 しかし束のそれは、漠然とした己の判断でありながら、ほとんど絶対的なものとして機能するほどの確実性をもつ。つまり、束が無理だと判断すればそれは不可能なことであり、できると判断すればそれは可能なことだ――前者はまずありえなかったのだが。

 自分の能力から見て「できない」という判断はおかしなものではない。だが、そもそもで製造可能な水準を超えているという判断ができるか、というのは困難である。なぜなら、実物はあるのだ。にもかかわらず不可能だという判断を下せるか、というのは常軌を逸していると言えよう。

 束の真に恐るべき才能はその見切りである。彼女の判断は己に可能であるか、ではない。現時点での人類の最大能力に可能であるか、であり、ゆえに彼女は人類史上に類を見ない天才だと言える。

 リンクスやネクストが現れなければ完全には発揮されなかっただろう能力だが、ネクストが束以外の誰かに渡っていたのだとしたら、それの模倣を目指して結局なんら成果を得られなかったという結果に、数十年後にようやくたどり着いてなにもかもを無駄にしたことだろう。

 そういう意味ではネクストが束の元にあるというのは、恵まれた状況なのかもしれない。

 




 ゲーム中においてネクストはコスモガンのごとく弾薬を消費しています。まあゲーム性を保つためのものなのでしょう。
 OP映像から、戦闘の様子を見る限りでは当然のごとく一発の銃弾が装甲を破壊するのに充分だという印象を受けます。ガンダム世界のビーム兵器がゲームにおいては……という感覚に近いのでしょうか。
 ここではネクストに充分な装甲があり、それを破壊しつつ致命的損傷を与えるために必要な弾薬を常備できる=ライフルにPAを貫きうる大量の弾薬が詰め込まれているという解釈の元、弾倉が量子化されているという描写にしました。
 逆に言えばそのためにしか存在していないのでリロード時にしか機能しない、という話になりました。

 束さんの天才っぷりのための話になっているのと同時に、ネクストの扱いと今後についての話でもある、かと。
 もっと言えば重要ではない、停滞気味の話になってしまっている、と思っています。
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