この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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一章
あの世界へ転生を


 今日がいつなのかはわからない。

 今どこにいるのかもわからない。

 だけど、どうやら私は死んだらしい。

 

「志尾明日香さん。貴女は不幸にも短い生涯を終えてしまいました」

 

 目の前にいる白いワンピースに黒いローブをまとい、白くて長い髪にチャームポイントとなりそうな、目にかかりそうなくらいの前髪と美白が特徴の少女が冗談みたいな話を、淡々と告げられた。

 ……正直、そんなことを急に言われても実感がわかなかった。

 まず、いくつもの疑問が浮かび上がり、私は混乱してしまう。

 目が覚めたら壁が見えない黒い部屋の中、もはや暗黒の空間とも言えるような場所で美少女が対面式で椅子に座っていることに、私は思わず内心ながらもテンションが上がった。

 美少女がいることに喜びを隠しきれない状況ではいるけど、不思議と良い気分でいられなかった。

 頭に浮かぶのは、疑問。どうしても死んだ実感が私にはない。そもそも私はどうしてこんなところにいるのか? 少なくとも見覚えのない白髪少女など知らない、こんな美少女が会っているのなら、私は絶対に記憶しているはずだ。それなのにも関わらず、あの子は私の名前を知っていた。私に内緒で調べたって言えばそれまでなんだけど……。

 あ、そうだ。ここに来る前のことを思い出せばいいんだ。確かあれば……。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………。

 …………ん?

 あ、あれ? う、うそん。全く思い出せない。うんともすんとも頭の中に記憶が浮かび上がらない。彼女が言うことが本当なら私はもう死んでいるはずなのに、死ぬ前どころか昨日歩いたこととか、何時に起きたこととか、何一つ覚えていない。これって、まさか記憶ソウシツってやつなのか!?

 いや、待て。全部が消えていない。そうだ、確か私は女の子にモテたいからわざわざ女子高に入学して、演劇部に入ってモテようとして、それからそれから……。

 

「あ、あの……」

 

 必死に思い出そうと頑張っているところに白髪美少女が伺ってきた。

 

「私の話……聞こえていたでしょうか?」

 

 いや、聞こえていたから冷静に死んだ原因を思い出そうと……あ、そうだ。

 

「ねぇ、ちょっと」

「ひっ」

 

 ひっって、なんで声をかけられてビクッと震えたのよ。そんな威圧かけた覚えないんですけど。まぁ、そんな些細なことよりもだ。

 

「私は……本当に死んだんだよね?」

「え、あ、はい。志尾明日香さんは現世でお亡くなりになりました」

「それがさ、死んだ記憶が一切ないんだよね。なんで私死んじゃったの?」

「っ!?」

 

 それを彼女に訊ねると、ガタッと椅子を揺らす勢いで立ち上がり、謝り始めた。

 

「ごめんなさい。私の配慮が足りませんでした!」

「え、いや、ちょっと……」

「ごめんなさいごめんなさい。急に貴女はお亡くなりになりました、と言われても本当がどうかわからないことを配慮せず、ごめんなさい」

「いや、その……」

「怒っていますよね。当然ですね」

「いや、怒ってないよ」

 

 いきなりペコペコと謝り始めると、勢いに乗り、美白の肌と裏腹に表情が暗くなっていった。

 

「やはり駄目で根暗でネガティブしか取柄のないろくでなしの私が志尾明日香さんの死後の案内役をまかされるのが間違いでしたのね。当然です、私なんて何もない、どうしようもない根暗でしかないのですから……」

 

 そして自虐を卑屈なことを口にしては、

 

「こんな私、生きていることが間違いです。ここで死んで償いましょう」

「ちょっと待ったー!!」

 

 死後の世界?で彼女は自殺しようとし始めたので、私は全力で彼女を止めた。

 

「怒ってないから卑屈になるのはやめなさい!」

「ご、ごめんなさい」

「もう謝らなくていいし、許すから私の死因を教えて」

「あ、は、はい! ごめんなさい!」

 

 また彼女の卑屈が始まり、ループになりそうだと、危機感を覚えた私は力づくで本題に入らせた。許すもなにも、許されるようなこと訊いた覚えはないわよ。

 

「志尾明日香さんの死因は……頭部による強打によってお亡くなりになりました」

「え、私、誰かに殺されたっていうの?」

「えっと、そうですね……明日香さんの記憶が曖昧になっているのは、そのせいなのかもしれません」

 

 そういえば、どこから死後の世界でも頭からやられた影響で最初は記憶喪失になっていた設定あったな。ということは、本当に私は死んでしまったということか。

 ……なんてこった。しかも誰かに殺されたのか。怨まれるようなことはしていないはずなんだけど。私が憎くて殺したとも限らない、不幸にも通り魔に巻き込まれて死んだということだってあり得る。そしてどんな理由であっても、私が死んだことには変わりない事実。

 ……そう思うと、母さんや父さん、演劇部やクラスメイト、思い出せない人達に申し訳ないな……。

 ……やめよう。私が死んだ後、どんな気持ちを抱いているのかなんて、想像すればするほど申し訳ない気持ちで溺れそうだ。

 死んだことを無理矢理でも受け入れよう。

 

「じゃあ、ここは死んだ人の世界ってことでいいの?」

「あ、はい。そうです。ここはですね、現世、つまり生きていた地球の人々が亡くなった時に送られる世界。正確に言えば現世で亡くなった人を異世界に転生させるためにある受付みたいなところです」

「……転生?」

「え、あ、はい。そうです、転生です」

 

 ……いつから私は異世界主人公になったんだろうか。もしかしたら、私という存在が現実ではなく、一つの物語の思考かもしれない。

 ……自分でわけわからないことを言ってしまった。どんな形であれど、私は異世界小説みたいに、別世界で生きていられるようになるようだ。

 しかし、異世界に転生できるなんて、死んで…………死んでは、良くはないわね、うん。ともかく、転生できるのはありがたい話だ。

 

「えっと、具体的に何をするの?」

「そうです、ね……あ、ちょっとすみません」

 

 彼女は黒いローブのポケットから紙を取り出すと、何か読んでいる様子だった。よく見ると紙の裏側には黒い文字が浮かび上がっている。もしかしなくてもカンニングペーパーだった。

 え、そんなんでいいのか? こういうのって、もっと神々しくやるもんじゃないの? なんか思っていたのと違うけど……この際、転生できるのであればなんでもいいか。

 数分か数秒経ったかわからないが、長く感じた時に彼女の暗記は終わり、話を再開した。

 

「えっと、ですね。まず、志尾明日香さんには転生した世界で一から始めるか、今の年齢で始めるかの二つを選んでいただきます」

「一から始めるかの選択ってなに?」

「高年齢の方々や一から始めたいという30代から40代、志尾明日香さんの年齢でも一から始めたい人がいるんです。そうじゃないと、高年齢の方はずっと高年齢のまま転生することになってしまうので」

「……そこは天国に逝かないの?」

「天国?」

「死んだ人が行く世界っていうか……地獄ってところもあると思うけど、普通は死んだら天国や地獄、またそのどちらでもない死んだ世界っていうのがあるんじゃないの?」

 

 生きていた頃、ふと死んだ人はどうなるんだろうという疑問を彼女に伝える。反応はというと、少し戸惑っているように感じで、どう答えたらいいのか、どう言葉を使おうか戸惑っているように見える。

 

「えっと、その……天国も地獄もないんです」

「ない?」

「志尾明日香さんが言う、どちらでもない世界が今ここなのです。死んでしまった人は必ずここに来て、異世界に転生されるんです。その後のことはわかりませんが……わ、わかりづらかったですか?」

「いや、大丈夫よ。理解できたから」

 

 彼女が嘘つくとは想定思えないし、嘘つくメリットもなければ、嘘だと思って考えれば考えるほど訳がわからなくなるので、彼女の言葉通りに受け入れよう。それにどっちにしろ転生する気でいるから、天国があろうかなかろうが、私にはどっちでも良かった。

 

「一からやるのもなんだし、今の年齢で転生するよ」

「わかりました。では最後に」

 

 そう言って彼女はどこから出してきたのが、自宅にある電話の下ら辺に置いてあるであろう黄色い分厚い本を取り出した。

 

「なにそれ?」

「えっとですね……志尾明日香さんの転生先はですね、魔王という恐るべき存在がおりまして、現世以上に死ぬ確率が多いのです」

 

 それを聞かれて、私はファンタジーとかRPGみたいな世界を想像した。転生物としては定番の行き先に私は内心、テンションが上がった。彼女が言う台詞もおおよそ予想できる。

 

「その世界で簡単に死ぬのは後悔が残ると思うんです。ですので、その本に載っている能力や武器を一つだけ持っていくことができます」

 

 きたあああああああああああああああああああああああっ!!

 能力授かりシステム。私だけのマイフェイバリット能力。これで私は何者にも勝てる。そんでもって、無双物、私TUEEEEEEEEの誕生、さすあすみたいなことが現実でもできる。そうなれば、私は女の子にモテモテだ!

 つまりだ。日本ではできなかったハーレム女王になれるのかもしれない。

 

「ありがとう。ほんと助かるよー!」

 

 さっそく私は迷わず分厚い黄色い本のページをめくる。とりあえずペラペラとめくって後でじっくり見よう。

 やっぱり能力者なら無効化する能力は鉄板よね。ザ・主人公の特権としてはそそるものがある。でも単純な火力だけならこのエクスカリバーという伝説の武器を持つのも悪くない。私もビームぶっぱなし剣を振ってみたい。あーでも、全てを反射されるリフレクトっていう魔法は、どことなく無さそうな強者を感じさせられる。いろいろあるからスキルコピーっていう相手の能力をコピーするのもいいのかもしれない。魔法を使えるのなら、あえて身体能力を上げて二刀流や拳だけで相手を倒すっていう無双も最近の主人公感があっていい。うーん、どれもこれも良い感じのチート能力とチートアイテムがたくさんあるから、そう言う意味では贅沢な悩みをしてしまう。私としては、女にモテそうな物ならなんでもいいけど、これは選べ切れないなぁ……。

 

「あ、あの……」

「ん?」

「ご、ごめんなさい! 決めているところに声をかけてしまいすみません! お詫びに息しませんので」

「しなくていい! 謝んなくていいから話して!」

「あ、はい」

 

 彼女は一呼吸ついてから私に訊ねた。

 

「あ、あの……よろしければ、私が事前に志尾明日香さんに似合う能力を揃えてきたのですが……もしかして、余計なお世話でしたでしょうか? ごめんなさい」

「そんな不安な顔しなくていいから! 余計なお世話じゃないから、むしろ助かるよ!」

「ご、ごめんなさい。では、さっそく……」

 

 彼女はいくつもの用紙を取り出し、一枚一枚丁寧かつ一生懸命に相手に伝えようとする気持ちを表すように説明しながら私に合う能力を薦めてくれた。

 

「明日香さんは女性が好きということなので、どんな攻撃を防ぐパーフェクトなんてどうでしょうか。これはですね……」

 

 彼女が一生懸命にも薦めている最中、私は失礼にもそれどころではなくなっていた。

 ……彼女、良く見ても本当に美少女だよねー……白髪と美白が良く似合う。死後の世界っていうから、神様か天使ポジションなのかもしれない。だとしても、それに合わない臆病なところとか、おとなしいところがグッとくる。

 正直、武器とか能力よりも彼女がほしい。私の彼女にしたい。彼女を私のメインヒロインとして勧誘したい。

 …………ふと、思う。

 一つだけ能力や武器を持っていけることができる。それはどこまで許せられるのか?

 

「……ちょっと質問がある」

「なんでしょうか?」

「持っていくことができるのは、別に本の中から選ばなくてもいいの?」

「そうですね……本に載っているもの以外ですと、主にケータイ、パソコン、サッカーボールや車や飛行機に魚雷、核兵器、丸太など持っていくこともできます。ただ、異世界で通用しないものもありますので、あまりおすすめしないです」

 

 なるほど、能力も武器も、異世界によっては相性っていうのもあるのか。確かに戦国時代にスマフォを持って行っても役に立たないだろうね。

 だけど、それらを持っていけることをわかればそれでいい。

 ……どうしよう。そう思っちゃうと、思わずにやけてしまう。

 

「一つだけなら、“なんでもいいんだよね”」

「一つだけならなんでもいいです」

「……そっか。ところで貴女の名前教えてくれるかな?」

「私ですか? あ、ごめんなさい。自己紹介がまだでした。私はイザナミと申します」

「イザナミだ」

「?」

「あ、ごめん。そういうネタがあってだね……」

「ごめんなさい! そういうネタをわからなくて、ごめんなさい! 知識のない愚かなバカ野郎ですよね。お詫びに、私は今からそのネタを調べに現世にて修行し直しに行ってきます」

「私が悪かったから行かないで!」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 

 イザナミっていう子はビクビクと謝り続ける。こちらが許しても彼女は止まらない。つか、イザナミって、日本神話の死を司る女神、つまり死神でもあるよね。死神にしては……謝り過ぎじゃないか? 威厳がなくなってしまうし、大丈夫なのだろうか?

 でも、いいだろう。そんな彼女を……私は愛してやろう。

 

「決まったよ、イザナミ」

「き、決まりましたか。何を持っていかれますか?」

 

 私は精一杯の笑顔で持っていく“者”を口にする。

 

「イザナミ」

 

 そして目の前にいる死神である白髪美少女を指す。

 違う、後ろではない。貴女だよイザナミ。

 

「わ、私?」

「他に誰がいる?」

 

 戸惑う気持ちもわからなくはない。なにせ自分を持っていくなんて絶対に思わなかったのだろう。でも、別に女神を持っていく決まりなんてないでしょ?

 

「え、そ、その、わわ、私を持っていくって……まさか、私をサンドバック変わりするんですね」

「なんでそうなるのよ!」

「なら、私をモンスターの餌変わりに持っていくんですね。そうじゃなきゃ、私を選ぶなんてありえないです」

「だから、どうしてそんな自分を咎めるようなことしか考えられないの!?」

 

 そんな時だった。

 

「お話のところ悪いけど、後が詰まっているからさっさと異世界に行ってもらうよ。志尾明日香にイザナミ」

 

 真っ白な空間に白いローブ……というよりかは、コートみたいなのを羽織った金髪の美少女が現れる。それと同時に私とイザナミを囲むように真下に夕日色のような魔法陣が作り出した。

 

「だ、誰っすか?」

「別に名乗るほどでもないわよ」

 

 いやいやいや。私達人類にとっては名乗るほどの名前でしょ。

 というかさ、この流れって、マジで異世界に転生さちゃうんだよね? 知らないけど、絶対にそんな流れだよね? いいの? 自分で言っておいてなんだけど、マジでイザナミ連れていっちゃっていいの?

 

「あ、あの、ね、姉さん!」

「姉さん?」

 

 イザナミがいう姉さんは十中八九、あの異世界に飛ばそうとしている金髪美少女のことだろう。

 

「こ、これ、本当に私も明日香さんと一緒に異世界へ転生されるですよね? あの、私、まだ仕事が残っているのですが、ど、どうなるんですか? これから私、ど、どうなるんですか? え、え、あま、まさか、私は用済みで、生きる価値もないゴミだから丁度良い機会として捨てるんですね! きっとそうに違いありませんうよね!」

 

 イザナミは涙目になりながらオロオロと慌てふためき、またも卑屈なことを口にして決めつける。そのイザナミにお姉さんはやれやれと、慣れたように返答する。

 

「後半はあんたの加害妄想でしかないじゃん。そこは安心しなさい、捨てるわけではない。ただ、あんたはもう死神でもないから、仕事を続けることができない。変わりにあんたの仕事は全部あたしが引き受けることになるから安心しろ……どっかのバカな誰かさんのせいで、仕事が増えたけどね!」

 

 そう言うと、イザナミのお姉さんはこちらをギロッと見つめる。それはまるでヤンキーにガンを飛ばず、ヤンキーのようだった。もしかしても、もしかしなくても、私のせいでイザナミのお姉さんが仕事増やされたって事は、実上の私がイザナミをクビにしたことに……なるよね?

 …………多少ね、多少本気だったけど、冗談なところもあるんだよ? あ、どうしよう、罪悪感がハンパない。イザナミちゃん、困惑しながら泣いちゃっているもん。イザナミのお姉さんは平気な顔をしているけど、妹と離れ離れになっちゃうもんね。

 ……思った以上に、私はやらかしてしまった!

 

「と、取り消すことは」

「取り消すことができるならとっくにやっているだよ、バカ!」

 

 手遅れだった。

 私はこのまま死後世界の神様に迷惑をかけたまま異世界に転生される。

 

「ともかく、志尾明日香! せいぜい魔王がいる世界で短い生涯を終えないように足掻きなさい。それと持っていくなら、イザナミをよろしく頼むわよ」

 

 ぶっきらぼうながら旅立つ者へのお言葉を送ると、私とイザナミは光に包まれていく。全てが包まれて消える前に私はお姉さんにお願いをしなければならない。

 つまりそういうことを言われたからには、こういうことを言ってもいいっていう合図だよね。

 

「妹のイザナミをください」

「駄目に決まっているでしょ」

 

 即答で断らちゃった。

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