この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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この死の呪いに守護を

「も、ももももも、もう一度言うぞ! 毎日毎日、俺の城に爆裂魔法を撃ち込んでくる、あ、あああああ頭のおかしいい大馬鹿者は誰だあああああああっ!!」

 

 まるで堪忍袋の緒が切れたと言うべきか、ついに我慢できずにとうとうブチ切れている感じでデュラハンは怒っていた。誰に向けての叫びなのかはわからないけど、周りの冒険者達は心当たりがないのかざわつき始める。

 デュラハンが怒っている原因ってさ……もしかしなくても、いつの間にか日課となった廃城に爆裂魔法を撃ち込んでいることだよね。つまり爆裂魔法を撃ち込んでいたあの廃城がデュラハンの城だってことだよね。

 そう言えば魔王軍の幹部が近くにやってきたってフラグが立っていたじゃないか。

 今思えば、あの廃城もなんかボスとかいそうな雰囲気だったし、爆裂魔法を何発も撃っているのにも関わらず全然形は崩れなかったね。

 そうとは知らずに毎日爆裂魔法を撃ち込まれていれば、騒音に耐えきれず近所のおばさんのように激怒するのも無理はないわね。…………どうしようか。

 

「……そう言えばあいつ、爆裂魔法って言ってたな」

「爆裂魔法を使える奴って……」

「この街で言えば……」

 

 私の隣に立つめぐみんに自然と周りの視線が集まった。

 それに対して、周囲の視線を寄せられためぐみんは思わず目を逸らして、近くにいる魔法使いの女の子へ一瞥した。するとそれに釣られるように、周りの冒険者はその魔法使いの女の子に視線を向けてしまった。

 

「ええっ!? あ、あたし!? なんで皆あたしを見ているの!? 爆裂魔法なんて使えないよ! それにまだ駆け出し冒険者だし、あ、あの、信じてください! あたしじゃないです! 本当なんです、信じてください!」

 

 ……あの魔法使い、可愛いしお胸が素晴らしい……じゃなくて、めぐみんのせいで濡れ衣を擦りつけれて困っているじゃないか。

 そういうことをするってことは、めぐみんは自分がしでかした事に気がついていることになる。そして思わず自分でないことをアピールするように目線を逸らしたら別の魔法使いの女の子が冤罪になってしまったんだ。

 めぐみんが困っていると、魔法使いの女の子も困っている。

 本来なら、この原因を作り上げためぐみんが謝るべきであるけど、相手はあの世界を滅ぼしそうな魔王の配下であり、その幹部だ。自分でないと避けるのもわからなくはない。

 ……仕方がないわね。今回の件に関して言えば、めぐみんに付き合った私にも否があるし、私も同罪になる。

 

「『アクセルダッシュ』」

 

 私は一気にデュラハンとの距離を詰める。でも、いきなり斬りかかっても困るのでちょっと距離を空けて対峙することにした。

 

「お前か……毎日毎日、俺の城に爆裂魔法をぶち込んでいる大馬鹿者は!」

 

 流石デュラハン。存在感だけでも人を恐怖にさせる威圧感がある。思わず軽く失禁しそうになっちゃうわ。けどね、そんなことで臆するわけにはいかないんだ。

 なんだって私はハーレム女王になる女。ここでかっこ悪いところは見せつけられないわ。

 

「我が名はアスカ! この街随一の爆裂魔法を操る者!」

 

 私はめぐみんの台詞をパクり、某ニチアサのかっこいいポーズを決めて名乗った。

 ……実は一度やってみたかった。異世界に来てから自分(ヒーロー)が現れたぞ……っていうのがやりたかったのよね。演劇でも特撮系はやらないから本物の敵の前で名乗るのは最高に気持ちが良いね。

 

「おい、なにポーズ決めてドヤ顔しているんだ。こっちは叱っているんだぞ!」

 

 なんか説教中に「お前聞いているのか!」って、更にお怒りになった先生のように言わないでよ。こっちにだっていろいろ考えているんだから。

 というのも、派手にポーズを取り、大げさに自分が爆裂魔法を操る者と言えばデュラハンは私が犯人だと思い込むだろう。そう認識させればめぐみんにも、あの魔法使いで可愛くてお胸が良い女の子にも被害が出ない。

 ただ問題があるとすれば、ここからどうすればいいのかわからない。

 

「……あれ? お前、さっきアクセルダッシュ使ってたよな。ということは、お前ゲイルマスターで爆裂魔法なんて使えないってことじゃないか!」

 

 あ、どうしよう。それ以前にバレてしまった。

 い、いや、まだ騙せる。正直者のフリをして、デュラハンの間違いであることを指摘させるんだ。

 

「み、見間違いじゃないかな……? ほら、よくあることだし、さ……私はどこからどう見ても爆裂魔法を撃てるじゃん?」

「いいや、見間違いじゃない! 一気に距離を詰める技を使えるのは貧弱な冒険者かゲイルマスターしかいないことは知っているんだぞ! 小娘よ、本物の爆裂魔法をポポポポンっと討ち込んでいる頭のおかしい奴はどこにいるのだ!! 知っているのなら連れて来い!!」

 

 駄目だ。完全に私のこと爆裂魔法を討ち込んでいる頭のおかしい人だと思ってくれない。急に冷静になりやがったと思えば怒りを再燃しやがって、なんて迷惑な首なし騎士だ。せっかく私が出た意味がなくなったではないか!

 そんで、どうしよう……めぐみんの代わりに出てきたのにそれが意味もなくなった今、デュラハンは再びめぐみんを探し出すのだろう。しかも彼は私の言葉に聞く耳も持たなくなった。

 なんてことだ! これではめぐみんとあの魔法使いの好感度があんまり上がらないじゃないか! くそっ! 流石魔王軍の幹部だけあって、人に嫌なことをさせてくれるわね!

 

「……まったく。私を差し置いて街随一の爆裂魔法を操る者と名乗るとはいい度胸ですね、アスカ」

 

 後ろから声がしたので振り返って見ると、めぐみんがこっちにやって来たのだ。

 

「誰だって……まさか、お前が……」

 

 デュラハンに訊ねられためぐみんは、肩のマントをバサッと翻して名乗った。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードにして本物の街随一の爆裂魔法を操る者!」

「……めぐみんって何だ。バカにしてんのか?」

「ち、違うわい!」

 

 せっかく紅魔族特有らしい名乗りをしても相手からすれば茶化していると思われてしまい、台無し感を漂わせてしまった。

 ……というか。

 

「なんでめぐみんが出ちゃうのよ……」

 

 めぐみんの代わりに出たのに、本人登場しちゃったら本当に私が出た意味がなくなっちゃうじゃないか。

 

「……それはこっちの台詞です。どうして爆裂魔法に遠慮していたアスカがデュラハンの前に出るのですか? しかも、人の台詞をパクっては私を差し置いて街随一の爆裂魔法を操る者と名乗った意味がわかりません。そこは遠慮してくれないと私が困ります!」

 

 この子、私がめぐみんを庇って出たことよりも爆裂魔法を操る者と名乗ったことに疑問を持ってそうだな。

 理由はまぁ……庇っただけだから言わなくてもいいだろ。

 

「……なるほど、お前が本当に毎日俺の城へ爆裂魔法をぶち込んでいく大馬鹿者か」

「大馬鹿者とは失礼ですが、事実ですね」

 

 めぐみんが肯定すると、プルプルと身体を震えさせながら溜まっていた鬱憤を吐き出すように怒鳴り出した。

 

「お、俺が魔王幹部だと知っていてケンカを売っているなら、堂々と城に攻めてくるがいい! その気がないなら、街で震えているがいい! ねぇ、なんでこんな陰湿な嫌がらせをするの? 毎日毎日ポンポンポンポンポン撃ち込んできて迷惑なんだよ! 正気の沙汰じゃねぇ、頭おかしんじゃないのか貴様!」

 

 ……要約すると、こちらからは特に何もしないから毎日爆裂魔法を城に撃たないでくださいと、悲願しているってことかな。

 ……本当にすみませんでした。

 ここは素直に謝った方がいいかな。そうすれば丸く収まってくれるだろう。

 

「フッ、我が爆裂魔法を撃ち続けていたのは、魔王軍の幹部であるあなたを誘き出すための作戦。……こうしてまんまとこの街へ一人で出て来たのが運の尽きです!」

 

 めぐみんの言葉に私は衝撃が走る。

 な、なんだって!? 爆裂魔法を撃たなきゃ死んじゃうとか、日課ですとか駄々をこねていたのも、実は作戦だったとは思いもしなかった。

 明かされる衝撃の真実……全てはデュラハンを倒すため……。

 私はデュラハンに聞こえないようにボソッとめぐみんに訊ねる。

 

「……それ、本当に作戦なの?」

「……今さっき思いつきました」

 

 そんなことだろうと思った。そうじゃなきゃ、他の冒険者に罪を擦り付けるようなことなんかしないもんね。

 というか、めぐみんの言葉でこちらに敵意があることを示されたじゃないか。時間的にもレベル的にもまだボスと戦うのは早い気がするから一旦引きたいんだけどなぁ……。

 

「なるほど、俺はまんまと作戦にかかってしまったわけか。だが、まあいいだろう。俺はお前ら雑魚にちょっかいをかけにこの地に来た訳ではない。この地にはある調査に来たのだ。しばらくはあの城に滞在する事になるだろうから、これからは爆裂魔法を使うな。いいな?」

 

 お、このままデュラハンに同意してもらえば帰ってくれる。今はそうしておこう。

 ……と思った矢先だよ。

 

「それは無理です。紅魔族は一日に一回、爆裂魔法を撃たないと死ぬのです」

「お、おい、そんな事、聞いた事ないぞ! 適当な嘘をつくな!」

 

 全力で折りに来やがったよ、あの爆裂魔! これから毎日爆裂魔法を撃とうってか? そんな嘘というか、変なこだわりを出さなくていいんだよ、今だけは!

 

「その嘘はともかく、どうあっても爆裂魔法を撃つのを止める気は無いのだな。俺は魔に身を落した者ではあるが、元は騎士。弱者を刈り取る趣味は無い。だが、これ以上、城の近辺で迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ」

 

 ほら、デュラハンさんが殺る気満々になったじゃないか。明らかにめぐみんを懲らしめようとしている。相手は魔王軍の幹部だからボスクラス……お尻ペンペンレベルでは気が済まない恐ろしいことをされてしまう。

 よし、まだ間に合うことを諦めないで、ここは話し合いで解決しよう。

 

「あのー……私達、あの城に住んでいるってわからなかったんですよ。ですので、ここは一つ……デュラハンさんが引っ越すっていうのはどうでしょうか?」

「こっちは被害者なのに、なんでそっちに合わせて引っ越さなければならないんだ! お前達が爆裂魔法を撃たなければ全てが済むのではないか! 俺、間違ったこと言っているか!?」

 

 デュラハンの正論に私は何も言い返せなかった。

 ごもっともな話です……。

 

「アスカのせいで怒っていますね」

「あんたのせいだよ!」

 

 一割私のせいだったとしても、九割私のせいでデュラハンが怒っているのだけは違うと断言できる。

 それにしても我ながらツッコミが早く言えたことにちょっと感動している。

 

「まったく、めぐみんが余計なこと言わなければせっかく平穏に終わりそうだったのに、なんで引き留めるようなことを言ったの?」

「アスカもあんまり人のこと言えませんが……あのデュラハンは私に死ねと言っているのです」

「人間はそれくらいで死にません」

「私は死にます」

 

 そんな真顔で言われても死なないって……。

 

「そういうことなので、あのデュラハンには痛い目に遭ってもらいますから」

 

 めぐみんは不敵な笑みを浮かべる。デュラハンを誘きだす作戦だととっさに思いついたわりに実はちゃんとした攻略方法を練っていたり、思いついたりしたのかな。

 

「デュラハン! 迷惑なのは私達の方です! 貴方があの城に居座っているせいで、私達は仕事もろくにできないんですよ! 余裕ぶっていられるのも今の内です。こちらには、対アンデッドのスペシャリストがいるのですから。では、アクア先生、お願いします!」

 

 まさかの他力本願。

 そんなんでいいのか、紅魔族随一の魔法使いよ。

 

「しょうがないわねー! 魔王軍の幹部だが知らないけど、この私がいる時に来るとは運が悪かったわね!」

 

 めぐみんに呼ばれたアクアは満面な笑みを浮かべでこちらにやってくる。先生って呼ばれたのが嬉しいんだろうなぁ……。

 

「やいやいやい! あんたのせいでまともなクエストが請けられないのよ! アンデッドのくせして私に嫌がらせをするとは良い度胸ね! さぁ、浄化される覚悟はいいかしら?」

 

 アクアが杖をデュラハンに向け、堂々と発言する。怖いもの知らずというか、自信が全面に表しているのか、こういう時のアクアは妙に頼もしい感はある。

 それに対してデュラハンは興味深そうに自分の首をアクアの前に出し、言葉を発した。

 

「ほう、これはこれは。プリーストではなくアークプリーストだな。この俺は仮にも魔王軍の幹部の一人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないし、アークプリースト対策はできているのだが……」

 

 デュラハンは人差し指をめぐみんに向ける。

 

「ここは一つ、紅魔の娘を苦しませてやろう」

 

 やっぱりそう来るか。

 何をしてくるかはわからないが、めぐみんを持ち上げてアクセルダッシュで避ければ、なんとかなるかもしれない。そうなるとアクアに標的されるかもしれないけど、わざわざ指名しておいて急に変えることはないと願う。

 

「何をしようと、私の祈りで浄化してやるわ」

「浄化できるものならやってみな。できたらの話だけどな」

 

 デュラハンの左手に禍々しいオーラみたいなのを纏ったその瞬間、

 

「汝に死の宣告を、お前は一瞬間後に死ぬだろう」

 

 今はともかく、めぐみんを持ち上げて……。

 

「アスカさん!」

「イザナ、ミっ!?」

 

 急にイザナミが駆け寄ってくれば視界が空を向け、地面へと倒れていた。

 

「イ、イザナミ!?」

 

 めぐみんがイザナミの名を叫んでいた。

 その反応を伺うようにすぐさま顔を上げ、視線をイザナミに向ける。

 いったい何が起きたのかわからなかった。パッと見ても何かが変化したとか、何かしらの状態を負う感じには見られなかった。

 

「イザナミ、大丈夫か!? 痛い所は無いか?」

 

 カズマもここへ駆け寄ってきて、ダクネスに訊ねていた。

 

「は、はい……私は無事です……」

 

 イザナミは平気そうにカズマに告げた。

 私から見ても、カズマから見ても、イザナミは正常だ。

 でも、めぐみんがイザナミの名を叫んだ感じが、何かを受けてしまったように聞こえた。その何かは、デュラハンが放った死の宣告という技。それを受けたとなると、イザナミは一週間後に……死ぬ。

 

「紅魔の娘を苦しませようとしたが、まあこれでもいいだろう。むしろ仲間同士で庇い合いを行い、固い絆で結ばれている貴様ら冒険者には、こちらの方が応えそうだな」

「ちょっと、それどういうこと!?」

 

 私はデュラハンに訊ねると、勝ち誇ったようにデュラハンは答えた。

 

「その呪いは今はなんともない。だが、あのデスサイザーは一週間後に死ぬ。ククク、紅魔の娘よ、これより一週間、仲間の苦しむ様を見て、自らの行いを悔いるがいい。素直に俺の言う事を聞いておけばよかったのだ! クハハハハハッ!」

 

 デュラハンの言葉にめぐみんは青ざめてしまう。私もなんだか急に寒気が走った。

 理解したくはなかったけど、当然そんな風になってしまう。一週間後にイザナミが死ぬと言われて、それが本当になってしまうことを受け入れたくない。

 私達はデュラハンを怒らせてしまった。その結果がイザナミの余命一週間という呪いだ。私たちが犯してしまった過ちだ。

 でも、だからって……イザナミが死んでいい理由にはならないんだ!

 よくもやってくれたわね。イザナミに呪いをかけた罪は、爆裂魔法よりもはた迷惑な罰を与えてやる。

 例え敵わないかもしれないけど、何もやらずにデュラハンの思惑通りの一週間に苦しんで待つ気はない。今、ここで魔王幹部であるデュラハンを討つ! 

 私は短剣を構え、アクセルダッシュを使おうとした時だった。

 

「ご、ごめんなさい!!」

 

 イザナミが突如、声を張って謝り出した。これには周りのみんなもポカンと呆気に取られる。

 なんで急に謝っているんだろうと思ったけど、自分が一週間後に死んでしまう事に対しての謝罪だと理解する。

 

「……デュラハンさん」

「え、お、俺?」

 

 デュラハンは自分に謝られていると思わなかったらしく、ちょっと慌てている。

 そして私もデュラハンに謝ると思っていなかった。

 

「あの……このことは、もっと早く伝えるべきか、それとも一応私達の敵なので言わないでおこうかと迷っていましたが、ごめんなさい。実は……効いてないんです」

「……何が?」

 

 デュラハンは素で返し続ける。こんなことを言われるなんて、微塵にも思わなかったんだろう。処理が追い付いていない感じに見える。

 それよりも、効いていないって……まさか。

 

「ご、ごめんなさい。私、死の宣告……効いてないんです」

「……は?」

「ごめんなさい! 私には効かないんです!」

「…………マジ?」

「……はい」

 

 ヘルムで顔を覆われているけど、デュラハンは信じられないような顔が浮かんでいると思うんだ。きっと頭の中は疑問とクエスチョンマークで詰め込んでいて戸惑うことしか表せないんじゃないかと思う。

 でも、イザナミは嘘なんかついていないと思うんだよね。本当に効いているのか、そうじゃないかの判断はわかないけど、なんとなく嘘ついているとは思わない。

 それに効いていたら、イザナミは一週間後に死んでしまってごめんなさいって謝ってきそうだ。

 

「う、嘘だ! どうせ強がっているに決まってる! だって、死の宣告が効かないなんて聞いたことないんだもん! お、お前は何者だ!?」

「わ、私は……」

 

 デュラハンはイザナミに訊ねると、申し訳なさそうに……。

 

「た、だだの……使えないゴミクズです」

「もっと生きる希望を持とうよ!?」

 

 まさかの敵のデュラハンからも慰めのお言葉を送るとは、そしてツッコミもしてくる。もしかしたら敵が一番の常識人なのかもしれないね。

 

「……なぁ、これってギャグなのか?」

 

 カズマが呆れてこちらに訊ねるように呟く。

 

「私に聞かないで」

 

 私もカズマも、なんか思っていたファンタジーと違うことに改めて戸惑ってしまった。

 

「……どうでもいいんだけどさ。イザナミは本当に何もないみたいだし、要がないのなら帰ってくれない? それかおとなしく浄化されてよ。早く終わらせて、帰りたいんですけどー」

 

 アクアがイザナミの身体をペタペタと両手で触りながら、デュラハンを煽る。ほんと、アクアのそのマイペースさと怖いもの知らずのアホさは見習いたいところだよ。

 

「お、おのれ……バ、バカにされたまま、引き下がってたまるか!」

 

 まずい、プライドを傷つけられた男……首なし騎士がこの後やる事と言えば……。

 

「汝に死の宣告を! お前は一週間後に死ぬだろう!」

 

 先ほどよりも早く死の宣告を唱え、アクアに向ける。

 イザナミが呪いを受けない体質でよかったけど、他の者にはそういう耐久なんてないのだろう。今度こそ食らってしまえば本当に一週間、苦しんで死んでしまう。

 標的はアクア。アクセルダッシュなら間に合わない距離でもない。下手なミスさえしなければ助けられる。

 

「アクセル」

「危ない!」

 

 アクセルダッシュを使用する前に突如現れたダグネスがアクアの前に立ち、死の呪いから庇ったのだ。

 

「おい、ダグネス! なにやってんだお前!」

 

 カズマがダグネスに駆け寄って心配する中、デュラハンは今度こそ勝ち誇ったように宣言した。

 

「あのデスサイザーが本当に効いていないのかは定かではないが、そのクルセイダーも一週間後に死ぬ。せいぜい苦しむがいいさ。グハハハハハハッ!」

 

 くそっ、イザナミが呪いを無効化させたのに、ダグネスがかかってしまえば向こうの思うつぼじゃないか。

 イザナミもそうだけど、私達のせいでこうなったのにも関わらず、ダグネスが死んでいい理由にはならない。

 今度こそ、ここでデュラハンを倒す!

 

「これで私は貴様の言う事を聞くしかなくなったということだな! そうだろ、デュラハン!」

「えっ?」

 

 ダグネスの言葉にデュラハンはまたも素で返していた。そんなことを言われるなんて思えるはずがないもんね。デュラハンはなんで嬉しそうな顔が隠しきれていないダグネスに理解したくないのだろうね。

 なんか……デュラハンが本当に可哀想に思えてきた。

 

「なに? 呪いを解いて欲しくば俺の言う事を聞けと言うことじゃないのか!?」

「え、えっと……」

 

 心なしか、デュラハンはイザナミよりも困惑しているっぽい気がする。いや、しているね。

 

「くっ! 呪いぐらいではこの私は屈しない。したくない! ど、どうしようカズマ! アスカ! このままでは凄まじいハードコア変態プレイを要求されてしまう! あのデュラハンの兜の下に見えるいやらしい眼、あれはまさしく変質者の目だ!」

 

 …………その、デュラハンさん。本当に申し訳ございません。私達があの廃城に爆裂魔法を撃ち続けていなければ、変質者呼ばわりもせず、プライドを傷づけず、ましてや数週間、騒音被害にも遭わずに済んだはずなんだ。

 本当にごめんなさい。

 

「カズマ……どうする?」

「俺に訊くな。考えたくもない」

 

 私達は考えるのを放棄してしまった。

 

「や、やっぱり私が言わなければ……デュラハンさんがあんな不憫な目に遭わずに……」

 

 イザナミはイザナミで自分の告げたことに後悔してしまい、デュラハンに謝っている。でもその謝罪は逆効果だと思うけどな。

 

「この私の身体は好きにできても、心までは自由にできるとは思うなよ! 城に囚われ、魔王の手先に理不尽な要求をされる女騎士とかっ! ああ、どうしよう! どうしようカズマ! アスカ! 予想外に燃えるシチュエーションだ! 二人ともそう思うだろ!?」

 

 私達に聞かないでください。

 

「行きたくない。行ってしまえば私は確実に汚される! 行きたくはない、が……仕方がない! ギリギリまで抵抗してみせるから邪魔、じゃなくて手助けしないでくれ! では、行ってくる!」

「止めろ! ワクワクが止まらないような顔をして行くな! デュラハンの人が本気で困っているだろ!」

「は、離せカズマ。全力で振り切ろうとするから、もっと強く握りしめてくれ」

「お前の頭はどうなっているんだよ、このドMが!」

 

 流石にこのままダグネスの暴走、もとい通常運転を放置しておけなくなったみたいで、カズマはダグネスを羽交い絞めにして引き止めてくれた。

 そしてなんかデュラハンがほっとしているように見えた。流石の物語に出てくるような存在でも、ドMは恐れるものなのね。

 

「と、とにかく! これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を撃つのは止めろ! そして紅魔の娘よ! そこのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい! そうしたら呪いを解いてやろう! と言っても、城には俺の配下のアンデッドナイト達が待ち受けている。それを乗り越え、最上階にある俺の部屋までたどり着けるかどうかの話だがな! せいぜい頑張ることだな、ひよっ子冒険者達よ。クククククッ、クハハハハハハハッ! ハッ!」

 

 デュラハンは大笑いしながら城へと帰って行ってしまった。

 …………ダグネスの誘い受けみたいな恐怖からさっさと逃げるようにも見えたけど、情けない姿をさらけ出すわけにはいかないから威厳を見せつけたというところかな。

 ダグネスのおかげというか、そのせいというか、急に緊張感がなくなってあっさりした感があるけど……普通に考えたら深刻な問題よね。

 今、ダグネスがくっころフラグを折られて落ち込んでいるけど、そのダグネスの生死に関わる問題を与えられてしまったのだ。

 今のところ、ダグネスの命は一週間しか持たない。

 でも逆に言えば一週間も余地がある。その間になんとかすればいいだけの話だ。

 

「イザナミ」

「あ、はい」

「ちょっと散歩してくるから、めぐみんの運ぶ係お願いね」

「ア、アスカさん!?」

 

 とりあえず、あの廃城に行ってデュラハンに呪いを解いてもらおう。奴はめぐみんに来てほしいと言っていたけど、適当な理由つければ話をわかってくれそうだし、なんとかなりそうだ。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 ……わかっていた。わかっていたけども、やっぱり君もあの廃城に向かうのね、めぐみん。

 そりゃあそうだよね。君はデュラハンに呼ばれたから行くしかないもんね。こっちはめぐみんに危険な目に合わないようにするために置いて行ったのが駄目だったね。

 ……無駄だと思うけど、引き留めてみるか。どうぜ数秒後にめぐみんから訊かれると思うしね。

 

「……なんでついてくるのかな?」

「ついてくると言いますが……私からすれば、何故アスカもデュラハンの所へ向かおうとしているのですか? アスカは呼ばれていませんよね?」

「それは私にも責任があるからよ」

「ですが、元々の原因は私なのですよ。先ほどのデュラハンの呼び出しといい、本来私が出たり向かったりしようとすると、どうして先にアスカがいるのかがわかりません。あと、やっぱり私を差し置いて随一の爆裂魔法の使い手と名乗ったのは解せません。あ、わかりました! アスカが廃城に向かうのも、私を差し置いて爆裂魔法の使いと名乗るためなのですね!」

「別に差し置いて名乗ったわけでもなく、これ以降名乗ることなんてないと思うけど……」

「なら、どうしてアスカも行くのですか? 教えてくれないと爆裂魔法を撃ちますよ」

「脅し方がオーバーキル過ぎるよ!」

 

 そんなことをやったら関係ない人も巻き込むからやめてほしいよ。

 それにめぐみんは理由を訊きたいようだけど、そんな大した理由しかないし、今さっき言ったことが理由なんだけどね。

 

「……アスカさんはめぐみんさんに危険な目や嫌なことを庇うために行こうとしているのですよ」

「ちょっ、じゃなくてイザナミ!」

 

 的確に本音をバラされて焦るよりも、イザナミがそのことをめぐみんに伝えたことに私は動揺してしまった。

 だって怖いじゃん。なんも前触れもなく、本心をバラされるんだもん。というか、そんなところまで私はわかりやすい人間だったのか? え、私って、ガチで単純人間だったの?

 い、いや。まままままままだ、まだまだまだごま、誤魔化せる。ここは落ち着いて、冷静に対処だ。

 

「へ、変なこと言うねーイザナミ。確かにそう見えるけど、真実は違うよ。本当の目的はめぐみんの好感度を上げさせるためよ!」

「そういうこと、全然思ってもいませんでしたよね? 普段は本当に女の敵でろくでもないことばっか口にしていますけど、人のためなら、ためらいなく守ろうとしますよね」

 

 …………私は、イザナミが何よりも一番怖いです。

 なんでこういう時に限って貶してくれないのよ。あ、一応貶しつつ言っているのか。

 そうだよ、その通りだよ! こんな時に限ってそんなこと忘れていたよ!

 

「私のためにアスカは庇ったのですか? なんでその必要があるんですか?」

「…………イザナミが言った通りだよ。聞くなって」

「そうですか……なら、余計なお世話です。そんなことしなくても結構ですので」

 

 ごもっともです。

 庇った結果がこれ。好感度が上がったかもわからず、余計なお世話で済ましてしまう。そこまで良いことをしているわけではないんだ。そんなことやった本人が一番わかっているんだ。

 でも、それでいいだ。見返りを求めないと決めているからこれでいいんだ。そして私のことをもっと好きになってほしいとも思わなかった。

 とはいいつつも、ちょっとは傷ついた。自分で言い聞かせているつもりで、毎回やめようとはちょっと思っているけど、性分だから一生やめられないのかもしれないね。

 

「……まぁ、でも。そうしたのも私がさっさと名乗らないのがいけないのですね。それは申し訳ないです。それと、私を庇ってくれてありがとうございます」

「めぐみん……」

 

 ……人間って、好きな人から礼を言われると、素直に嬉しくなっちゃうのね。見返りがあるとすれば、生きているだけで十分だと言い聞かせているのにね……。

 よし、心を入れ替えよう。

 

「なら、一緒に行こうよ。あの廃城に」

「それも余計なお世話です。今回の件は私の責任なので、ちょっとあの廃城に行ってダグネスの呪いを解かせていきます。……私が我慢すれば、こんなことにはなりませんでしたので」

 

 ……確かにその通りかもしれない。なんで余計なこと言ったのって思ったよ。あんなこと言わなければこうならなかった確率は高いだろう。

 でも、それはもう終わったことだ。一人で解決する問題でもない。

 

「だったら尚更一緒に行こうよ。そういう話なら、私ももっと前に止めていればこんなことにはならなかったんだし、責任はあるよ」

「ですが……」

「それに爆裂魔法しか使えないめぐみんが、どうやってデュラハンのところまで行けるの? 一人で行くには限度があるんじゃない?」

 

 それでも渋るめぐみんにもう一声、説得の言葉を送った。するとめぐみんは諦めたように肩を落とした。

 

「……わかりました。では、一緒に行きますか」

 

 説得を受けためぐみんと改めて廃城へ向かおうとした時だった。

 

「わ、私も行きます」

 

 イザナミが止めて来た。

 

「いや、イザナミはついて来なくていいよ」

「それはつまり、存在が邪魔でいるだけでも罪になるという意味ですねですが、それでもいかせてください」

 

 強気なのか弱気なのか激しいな。あと、そこまで言ってないわよ。

 ……まぁ、イザナミにも何かしらの責任があるかもしれない。なんだかんだで、結構押しが強いから、断られても諦めずについていきそうね。

 

「……ちなみに、ついていく理由はあるの?」

「私が言わなければダグネスさんに死の呪いはかからなかったはずです。やっぱり私は人に迷惑をかけ、死を招いてしまうゴミクズ以下の存在ですね。……こうなったら死にましょう」

「こらこら、急に自己嫌悪になるなって」

 

 それに死んだところでダグネスの呪いが解けるわけでもないでしょうに。

 わかっていたけど、やっぱダグネスに死の呪いをかけられたことに責任を持っているのね。

 

「……あと、アスカさんがめぐみんさんに手をかけないかを監視するためです」

 

 そしてそんなことも言うと思っていたよ。信用されていないっぽいけど、そこまで空気読めない女じゃないわよ。

 なんか、ハーレム作る前にイザナミを最初に攻略させて納得しないとできない気がする。見た目と性格に反して、厳しいよ。

 

「アスカもイザナミも頑固ですね」

「めぐみんも中々だと思うけどね」

 

 主に爆裂魔法とか。

 

「それもそうですね。では似たもの同士で一緒に行きましょうか」

 

 めぐみんを先頭に今度こそ廃城に向かおうとした時だった。

 

「おい、待てよ」

 

 今度はカズマに止められた。

 

「……なんですか、カズマ。いい加減、デュラハンに爆裂魔法を撃ち込んで行きたいので、邪魔しないでください」

「めぐみんの言う通り、こちらにもテンポがあるんだから止めないでよ。ついていくんだったら、こっそりついて行けばいいじゃない」

「なんで仲間に対して尾行みたいについて行かなければならないんだよ」

 

 だって、もう流れでわかるんだもん。どうせついていくか、そんなの放っとこうみたいなことを言うかのどっちかでしょ。

 

「俺も一緒に行く」

「カズマもですか……もう、これ以上いらないんですが」

 

 めぐみんがうんざりした顔で告げる。めぐみんも予想していたみたいで、どこかしら諦めている感じにも見える。

 それに対し、カズマは怒るわけでもなく余裕しゃくしゃくそうに自分が如何に必要なのかアピールした。

 

「そういうなって。俺の敵感知スキルで場内のモンスターを索敵できるし、潜伏スキルで隠れて行けることもできる。力は足りないが他で補うことならお前達に負けないからな」

 

 確かに、ここにはカズマのようなスキルを覚えている人はいない。カズマがいれば選択肢は増えて一週間以内にダグネスを呪いから解放できるかもしれない。

 というか、そういう点では出し惜しみとかしている場合じゃない。カズマも連れて行こう。

 

「でも以外だね。カズマだったら俺関係ないからいかないと思っていたけど」

「見くびるなよ、俺はそこまでゲス野郎じゃねぇって。それに途中から俺も一緒に廃城付近へ向かっておきながら、幹部の城だって気づかなかったわけだしな」

 

 カズマなりに責任とか罪悪感とかあると思うけど……。

 

「あんたはゲス野郎でしょ」

「お前もうちょっと言葉選べよ」

 

 しょうがないんじゃん。公衆の場で私のパンツを盗むわ、クリスという素敵な人のパンツを盗んでは相手に買い取ろうとした人間のフリをしたクズのゲス野郎しか浮かばないんだもん。

 思い出したら無性にカズマを殴りたくなった。でもここは抑えよう。理由なき暴力は嫌われる原因の一つだ。

 よし、これでやっと行けるわね。初のボスダンジョン攻略に1面ボスとなりそうなデュラハン退治。私達はそれをクリアしてダグネスを救い、好感度を上げさせて、魔王退治への一歩を踏み出そう。

 あ、そうだ。ダグネスに一声かけてから行こう。

 

「ダグネス! 呪いは私達がなんとかするから、安心して待って……」

「『セイクリッド・ブレイクスペル』!」

 

 私が声をかけているのを遮るようにアクアが魔法を唱え、ダグネスに淡い光を浴びさせる。ダグネス本人はなんともないように見えている。

 一体、アクアは何をしんだ?

 …………まさか。

 

「ふっふーん。この私にかかれば、デュラハンの呪いの解除なんて楽勝よ! どう、どう? 私だって、たまにはプリーストとして活躍できたでしょ?」

 

 アクアは自慢げに言っていた。

 …………まぁ、うん。ダグネスーから呪いが解かれたのは良いことだと思うんだ。ここは素直に喜ぶべきだよね。

 でもね、今からボスダンジョンであろう廃城に向かう代表として、これだけは言わせてもらいたいんだ。

 

「私達のやる気を返して……」

 

 というか、先にそういうことできるなら言うかもっと早くやってよ。

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