この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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この新たな仲間と冒険を

「……うーん、なんでこんな所に住みついたのかな?」

 

 山に向かう途中の草原で、リーンがボソッと口にする。

 

「それって、ゴブリンのこと?」

 

 私はリーンの呟きを拾うことにした。

 この世界でのゴブリンの立場が良くわからない。なんせキャベツが空を飛ぶ世界だ。常に逆立ちしているゴブリンがいてもおかしくない。ここは少しでもいいから情報は知りたかった。

 そんでもって彼女との交流を深めるのさ。

千里の道も一歩から。会話をすることで攻略していこう。

 

「ん? あーうん。そう、ゴブリンのことだよ。本当だったら森とか住んでいるのに、隣町へ続く山道に住み着いているんだよね。でも、おかげでゴブリン討伐なんて滅多に無いし、一匹で二万エリスだから、美味しい仕事が出て来た訳だから別にいいけどね」

 

 一匹で二万エリスか……確かに、美味しい仕事だ。

 それにゴブリンはそこまで強くないとも捉えられるから、比較的に楽で稼げられそうだ。

 でも油断はしない。本来起こるはずがないことが起きているってことは、その原因がなにかしらいるってことも示されているようなものだ。

 私としては、そんな原因とかイレギュラーな存在なんか出てこないで普通にクエストを達成したいところだね。

 そんなこと思いながら、すんなりと目的地の山へ到着した。

 あっさりと行けたなと思うのは、普段通りなら道中で何かしら問題が起こりそうなことがなかったからかもしれない。

 

「ゴブリンが目撃されたのは、この山道の天辺からちょっと下の所らしい」

 

 テイラーが皆に見せるように地図を広げて説明し始めた。

 

「この山道の脇にゴブリンが住みやすそうな洞窟でもあるのかも知れない。気を付けよう」

「洞窟ね……」

 

 テイラーの指示に私は少し疑問に思ったのと違和感を覚えた。

 元々、ゴブリンって森に住んでいたのよね。てっきり、緑豊かで秋になると紅葉が美しい山かと思ってみれば、荒れ果てたはげ山だった。

何故そこにゴブリンが住み着くようになったのだ? やはり本来起こることがない原因のせいってことなのか?

 それとも単にゴブリンは隠れる所があればどこでもいい生態なのか?

 ……考えても仕方ない。そんなことよりも私は違和感の正体が、いつもなら爆裂魔法を撃ちたいとか、私のせいですみたいな自虐を聞かないことに新鮮を感じている。あ、もしかしたら違和感の正体はそれかも。

 見て、カズマの顔。普段の会話が新鮮過ぎて軽く感動しているのが伝わっていくよ。

 

「アスカ? どうした?」

 

 テイラーに急に声をかけられた。

 どうしたって……あ、どうしよう、会話全然聞いていなかった。

 とりあえず、ゴブリン相手でも気をつけようってことだよね。

 

「うん、大丈夫だよ。ちゃんと気を引き締めるし、足引っ張らないように頑張るから」

「普段もそうしてくれると助かるんだが」

 

 うっさいうっさい。私は頑張っている方だし、カズマのためではなく、ヒロイン達のためにやっているんだ。

 カズマのぼやきがあったものの、私達はゴブリンが住んでいる洞窟へと登り始めた。

 その山道の一本道に険しい岩肌の山の間を通り、細い道が這うように伸びているところを歩く。思いのほか全員横になって歩くスペースはあるものの、一歩踏み外れてしまえば、崖に落ちておしまいだ。私達は二列になって慎重に足を動かす。

 

「……カズマ。私が落ちそうになったら踏み台にして生き残るから先に謝っとくよ……そーりー」

「謝る気なら全力で謝れよ。でも安心しろ。その時は踏み台にしようとしたら道ずれにするからな」

「うわ、外道。潔く独りで落ちろよ」

「お前に外道って言われたくない。ん? なんだ?」

 

 急にカズマが止まる。てっきり何かを見たのかと思えばそんなことはなかった。

 

「……何かこっちに向かって来ている。一体か?」

「え? どこにいるのよ、そんな奴?」

「敵感知に引っかかっただけだから見えねぇって」

 

 カズマとそんな会話をしていると、三人が驚いた顔でこちらを見ていた。

 

「なんだ? カズマは敵感知なんてスキル持っているみたいな話が聞こえたんだが、一体何かがいるのか?」

「それってゴブリンじゃないの?」

 

 私はテイラーに訊ねると首を振って答えた。

 

「いや、ゴブリンではない。基本的に群れで行動するけど滅多に単独行動はしないはずだ。……だとするとなんだ? こんな所に一体で行動する強いモンスターなどいないはずだが……」

 

 どうやらこの世界で住んでいて、おそらくそれなりに冒険者としての経験を積んでいるであろうテイラーでもわからないご様子。

 山道は一本道。このままだと対面する形になる。だけど都合良く茂みがあった。

 

「カズマ、私は茂みに隠れようと思うけど」

「俺もそうしようと思っている」

「けど、そこの茂みに隠れてもすぐに見つかっちまうだろ」

「いや、茂みに隠れても多分見つからないと思うぞ。俺、潜伏スキルを持っているから」

 

 テイラーの疑問にカズマが答え、話を続ける。

 

「このスキルはスキル使用者に触れているパーティーメンバーにも効果がある。せっかく都合よく茂みがあるんだし、隠れる選択があるのなら、とりあえず隠れといた方がいいか?」

 

 カズマの提案に皆は賛成し、茂みに隠れることにした。

 迎え撃つっていう選択もあったけど、相手が何者かがわからないことは結構きついことである。もし、イエティみたいな強いモンスターと遭遇して全員が生き残るとは限らない。戦いを避けることは、けして悪いことではないはずだ。

 それに、下手に死んじゃうのはこの前のイエティだけでいいよ。

 …………これがダクネスなら、迎え撃つんだろうなぁ。

 そんなことを思っていると、正体不明の敵が降りてきた。

 見た目はライオンや虎のような猛獣。特徴は全身が黒い体毛で覆われ、サーベルタイガーのような大きな二本の牙を生やしている。

 ベルディアやイエティ程ではないが、やばい奴だと確信した。カズマを除いた三人も、パッと見ただけでも緊張しているのが伝わったことから、危険なモンスターなんだろう。 あ、リーンがギュッと手を力強く握ってきた。ありがたやー。

 そしてその猛獣は私達がさっきまでいた山道の地面をクンクンと神経質に嗅いでいる。

 ……今思ったけど、潜伏スキルって匂いも潜伏できるの? 出来なかったら……匂いでバレるよね。え、やばくね?

 そうならないことを祈りながら、なるべく見つからないように息を潜め、自分がいないことを自分に主張する。

 そのことも含めてか、猛獣は辺りをしばらく嗅いだ後、私達が登ってきた道を降りて行った。

 

「ぷはーっ! こ、こここ怖かったぁ! 初心者殺し! 初心者殺しだよ! 本当に怖かったぁ……っ!」

 

 リーンが涙目になって怯えているのを見た私は……。

 

「怖かったね……大丈夫、私が傍にいてあげる。私はいつでも安心できる存在でいたいからね」

「お前といると安心できねよ」

 

 そんなことを言うカズマは……初心者殺し? 猛獣と遭遇してどんな反応をとるかっていう実験と囮をしてもらえばよかったと思った。

 

「ま、マジで心臓止まるかと思った! あ、あれだ……ゴブリンがこんなに街に近い山道に引っ越したのは、初心者殺しに追われたからだ」

「あ、ああ……そうだと思う。しかし厄介だな。よりによって帰り道の方に向かっていったぞ。これじゃあ街に逃げ帰る事もできないな」

 

 キースもテイラーもあの猛獣、初心者殺しに脅威を感じているようだ。

 私はもっとヤバい奴に殺されかけたから、あんまり危機感抱いていないけど……普通なら、今の私達にとっては遭遇してはいけないモンスターではないのか?

 つか、そんなことを思ってしまう私もそれはそれでやばくないのか?

 

「なぁ、さっきから言っている初心者殺し? あいつってそんなにやばいのか?」

 

 私も思っていたカズマの疑問に、三人はこのご時世にスマフォを持ってないのかと言わんばかりに信じられないような目で見ていた。

 ……これは多分、知らないといけない奴か。スズメバチに二度刺されると危険みたいな感じかもしれない。

 

「あーえっと、私もカズマも、ちょっと遠いところからやって来て、モンスターとか割と縁がなかったの。だから初心者殺しっていうのも実は知らないんだよね。悪いけど、教えてくれないかな?」

 

 別に間違ったことは言っていない。誤魔化しているけど。

 その言葉を信じてくれたのか、テイラーが教えてくれた。

 

「あいつは初心者殺しと呼ばれている非常に危険度が高いモンスターだ。ゴブリンやコボルトといった、駆け出し冒険者にとって美味しいといわれる、比較的弱くて倒せるモンスターの傍をうろうろして、弱い冒険者を刈るんだよ」

 

 初心者でも狩れるモンスターと戦っていたら逆に狩られるから初心者殺しっていうのかな。危険もそうだけど、モンスターのわりにはずる賢いやり方だ。うわ、かなり厄介。

 

「その話を聞くと、あの初心者殺しはゴブリンを餌にして冒険者を狩るってことだよね」

「ああ、アスカの言う通りだよ。しかも、ゴブリンが定住しない様にゴブリンの群れを定期的に追いやり狩場を変える。狡猾なところも持っているんだ」

「「なにそれ怖い」」

 

 思わずカズマとハモるように恐ろしいと感じた。

 カエルアンコウだっけ? なんかテレビでそういうアンコウがいるけど、そのアンコウは疑似餌という物を使って小魚を誘って捕食するという変わった魚だ。初心者殺しの場合は移動もするし狩場も変えるから、運悪く遭遇する確率が多いしアンコウと違って我々冒険者を狩ると思うと本当に危険度が高いのも頷ける。

 そんなモンスターとできれば相手をしたくはない。帰ろうにも帰る道に初心者殺しは行ってしまった。

 

「……テイラー。私はこの場にいてもしょうがないから、とりあえずゴブリン討伐を済まそうと思っているんだけど、どう?」

 

 この場にいても、帰って行っても初心者殺しと遭遇するなんて分からないのでテイラーに提案してみる。

 

「……そうだな。初心者殺しは、普段は冒険者を誘き寄せる餌となるゴブリン達を外的から守るモンスターだ。今、ゴブリン討伐しに向かっても初心者殺しがいる確率は低いと思う。そしてゴブリンを討伐したら山道の茂みに隠れて初心者殺しの様子を見よう。おそらく、俺達が倒したゴブリン達の血の臭いを嗅ぎつけて、さっきみたいに俺達を通り過ぎてそっちに向かってくるかもしれない。近づいてくればカズマの敵感知で分かるだろうし、アスカが言ったようにこの場にいてもしょうがない、まずは目的地へ向かうとしよう。それでいいな?」

 

 テイラーの提案に私達は賛同する。

 そして目的地へ向かおうとした時、リーンがカズマの背負っていた荷物の一部を手に取り始めた。

 

「もし初心者殺しに遭って皆で逃げる時、カズマは身軽な方がいいからね。あたしも持つよ」

 

 ……いいなー。リーンにそんなこと言われてさー。カズマのくせに、生意気だー。

 

「大丈夫だよ。カズマを囮にしても生きていられるから」

「無責任なこと言っているんじゃねぇよ」

「カズマだって私達をカエルの囮にさせようとしてたくせに」

「お前の場合は完全に見捨てるつもりで言っているだろ」

「逆の立場だったら同じこと言うくせに……」

「まぁまぁ、カズマの潜伏と敵感知スキルを頼りにするからさ、頼んだよ」

 

 リーンがそう言うと、テイラーとキースもカズマの背中から荷物を取り始めた。

 

「「べ、別に、俺達はカズマを頼りにしている訳じゃないからな?」」

 

 という、ツンデレのテンプレートみたいな台詞を口にした。

 珍しく仲間からカズマに頼られている。こっちの方がカズマは活々しているんじゃないかと疑いたくなるくらいに。

 ……そうだな。

 

「男のツンデレとかいらない」

「それを俺に言うな」

「ツンデレはリーンに言ってほしい」

「だからそれを俺に求めるな」

  

 

 初心者殺しというモンスターに警戒しつつも引き返してくる気配は無く、地道に山道を登っていく。するとテイラーの持つ地図通り山道が下り坂になる地点、ゴブリンの住んでいそうな辺りまでやってきた。

 

「カズマー、敵感知になんか反応ある?」

「この山道を下って行った先の角の曲がったところにいっぱいいるな」

「初心者殺しは?」

「俺達が登ってきた方の道からは何も反応がない。いるのは、さっき言った山道下った所にいる」

 

 とりあえず初心者殺しのことで心配する必要はないか。

 

「数はどれくらいいるの?」

「とりあえずいっぱいいる。多すぎてちょっと数えられない」

「いっぱいいるのならゴブリンだな。ゴブリンは群れるものさ」

 

 私とカズマの会話を聞いていたキースが気軽に言ってきた。

 カズマは数えきれないほどたくさんいるのは伝わったし、キースがその群れはゴブリンなのも察することもできる。

 でも、私とカズマはゴブリンの基準がわからない。

 

「ねぇ、ゴブリンって普通はどれくらいの数で群れるの? カズマ、今のところどれくらいいるか、おおよそでもいいから教えて」

「少なくとも……二十以上はいるかな。俺も思うんだけど、ゴブリンってこんなに多いものなの?」

 

 私とカズマはそんなことを疑問に感じていると、隣にいるリーンが不安になり始めた。

 

「ね、ねぇ……そんなにいるの? カズマもアスカもこう言っているんだし、ちょっと何匹いるのかこっそり様子を伺ったほうがいいんじゃない? そして勝てそうなら」

「大丈夫大丈夫! カズマばかりに活躍されてちゃたまんねぇ! おっし、俺は行くからな!」

 

 リーンが話している途中でキースはゴブリンの群れがいるであろう、下り坂の角から飛び出してしまった。

 

「おい、待てよキース!」

 

 それに続いてテイラーも角から飛び出して行った。

 ……まぁ、私達よりも冒険者としての経験は豊富な方だし、案外大丈夫じゃないかな?

 

「「ちょっ、多っ!!」」

 

 二人の叫びに私はガクッとうなだれた。大丈夫じゃないんかい。

 ともかく、私はテイラーとキースに続いて角を曲がる。後ろからはカズマとリーンもついていく。

 そこには二十以上、いやざっとそれよりも多いゴブリンの群れがいた。

 鋭い目つきと、不健康そうな全身抹茶色に染められ、小学生低学年くらいの大きさではあるが、そのほとんどのゴブリンがいろんな武器を持っている。そんでもって、そのゴブリンの群れがこちらを睨んでいる。

 あー……これ、結構やばくね?

 

「言ったじゃん! だから言ったじゃん! あたしはこっそり数を数えた方がいいって言ったじゃん!」

 

 泣き声でリーンは叫んだ。

 

「おいこら、私のリーンを何泣かしているんだよ」

「お前のもんじゃないだろ! つか仕方ねぇじゃん! 普通は多くても十匹なんだぜ!」

 

 キースが慌てて言い訳をしている中、テイラーが私達の前に出て盾を構え始めた。

 

「仕方ねぇ、このまま逃げたって初心者殺しと出くわして挟み撃ちになる可能性が高い! やるぞ!」

 

 テイラーの叫びにリーンとキースは攻撃の準備を始める。もっとも、悲壮感を漂わせているので、余裕でないことがわかる。

 

「ギャギャッ! キキーッ!」

 

 一匹のゴブリンが奇声を上げるとこちらに向かって駆け上がってきた。

 状況的には道の片方は崖、私達は坂の上に陣取っている。向こうが遠距離で攻撃してくる奴は……いるな……。

 ……あれ、この状況だと、あれが使えるんじゃないのか?

 

「ねぇ、カズマ。ベルディア戦でやった結局失敗したのをやってくれない?」

「その覚え方はやめろ。やるにもまず矢をなんとかしろ!」

 

 既に弓を構えたゴブリンが遠くから攻撃してくる。確かに矢をなんとかした方が安全ね。

 

「痛えっ! ちくしょう、矢を食らった! リーン、風の防御魔法を!」

「リーンが詠唱しているのが間に合わねぇよ! とにかくかわせ! 全員かわせぇ!」

 

 テイラーとキースは必死に叫ぶ。リーンは詠唱中で矢は撃ち続けている状況。

 これを打開するには一時的でも弓矢を何とかする必要はある。

 

「『ウインドブレス』!」

 

 カズマ程ではないが、私もある程度操作ができる初級風魔法でこちらに飛んでくる矢を吹き散らした。

 

「ア、アスカ! で、でかした!」

「お礼は後でいいから、テイラーは目の前のゴブリンを阻止して!」

 

 とりあえず私の役目は一旦終わる。その間にリーンの詠唱が終わるはずだ。

 

「『ウインドカーテン』!」

 

 リーンが唱えた風魔法は私達五人の周りに渦巻く風が吹き出された。

 ……何気に支援魔法とか初めてみるな。

 よし、これで矢はなんとかなるだろう。

 そうしたら今度はカズマの出番だ。

 

「『クリエイト・ウォーター』ッ!」

 

 カズマは初級水魔法を唱えると、大量の水を広範囲かつテイラーが立ち塞がる前の坂道にぶちまけた。

 

「カズマ!? 一体何をやって……?」

 

 水を坂道に撒いただけでは何も起こらない。そのことを理解している反面、リーンはカズマがやったことに疑問を思っているのだろう。

 それもすぐに判明する。

 

「リーンはあのゴブリンの群れの真ん中に強力な魔法を撃ってくれる?」

「え? あ、うん、よくわからないけどわかった」

 

 そうしている隙に、

 

「『フリーズ』!」

 

 カズマは初級の凍結魔法を全力で放つ。

 

「「「おおっ!!」」」

 

 何も知らなかった三人は驚愕する。そしてゴブリン達の足元が一面の氷で覆われる。

 すると面白いことに、ゴブリン達は簡単に氷に足を取られ、あちこちですっ転び始めた。

 それでも踏ん張って登ろうとしているゴブリンには、

 

「秘儀、ただの足払い」

 

 一匹のゴブリンを足払いで姿勢を崩してからすかさずゴブリンを蹴り飛ばす。すると勢い良く後ろに転がっていき、後ろにいるゴブリン達を巻き込んで転がせた。

 そしてとどめの一発。

 

「『ロックブラスト』ッ!」

 

 巨大な岩石が態勢を整えていないゴブリンの群れの真ん中へ放たれる。ゴブリン達は抵抗することもなく、押し潰れた。

 

「やったー!」

 

 喜ぶリーンはそのまま流れるように私とハイタッチした。

 こうなってしまったら、流れは完全に私達のもの。そして勝機はほぼ確定している状況になった。

 

「テイラー! この足場の悪い中だとゴブリンは簡単に上がってこない。それでも上がって来たら、俺とアスカとテイラーでしばこうぜ! そんで上がって来ないゴブリンは遠距離攻撃ができる後ろの二人に任せる!」

 

 そのことをテイラーに提案するカズマはどこか活々としていて嬉しそうだった。そして私達と一緒にいる時には見せないワクワク感を漂わせていた。

 

「で、でかしたカズマ! おいお前ら、やっちまえ! この状況なら、どれだけ数がいても関係ない! ゴブリンなんてやっちまえ!」

「うひゃひゃひゃ、なんだこれ! うわっ、楽勝! 簡単過ぎるぜ!」

「よし、もう一発強力な魔法をど真ん中に撃ち込むよー!」

 

 志気も十分、こちらに勝機の風が吹いている。後はもう、このままの勢いでゴブリンを蹂躙するまでだ。

 

 

 結果は言うまでもなく圧勝。ゴブリン討伐を難なく達成できた。

 その帰り道、私達は先ほどの戦闘を振り返っていた。

 

「しかし、あれ、だな。あ、あんな魔法の使い方、聞いたこともねぇよ。何で初級魔法が一番活躍しているんだよ! 初めて見たぜ!」

「ほんとだよ! 魔法学院じゃ、初級魔法なんて取るだけスキルポイントの無駄だって教わったのに! それな、のに、ふふっ、それが何あれ!」

「うひゃ、うひゃひゃひゃっ。あーやべ、こんな楽なゴブリン討伐は初めてだぜ! いやー、あの時、ゴブリンの群れを見た瞬間は、あ、終わったって思ったぜ!」

 

 話を聞いているとカズマが大活躍したみたいに聞こえる。いや、実際も大活躍していたけどさ。

 やっぱりカズマはこっちの方が活躍できるんじゃないのか? 現に絶賛されているんだし、今までと違って不憫でなくなっている。

 

「おい、戦闘終わったんだから荷物よこせよ。最弱職の冒険者は荷物持ちが基本だろ?」

 

 カズマは調子に乗ったのか、笑いながら皮肉なことを言い出した。でもその言葉から悪意は全くなかった。

 

「ちょっ、悪かったって。いや、今日は本当に助かった。あと悪かったよ、カズマ。これからは冒険者だからバカにしねぇって」

「ご、ごめんね。てか、何で最弱職って呼ばれる冒険者が一番活躍しているの? ほんとおかしいよ」

「おいカズマ、荷物寄越せよ! 今日のMVPなんだから、お前の荷物も持ってやるよ!」

 

 皆が和気あいあいとしている中、私は。

 

「あ、マジでいいの? それじゃあ私の荷物よろしくね、最弱職のカズマ君!」

「…………」

「なに、その……カエルと蛇の二匹を偶然道で見つけた時のような顔は」

「例えが適当過ぎるだろ」

「で、評価が一転したカズマさんは私に何か言いたいことでもあるの?」

「いや、別に……お前がいなければもっと良かったのにな」

「誘ったのはあんたでしょうよ」

 

 そんなやり取りをしていたら、リーン達の三人は笑い出した。周りは冗談だと思っているけど、カズマは本気で言ったんだと思う。

 最初はあんまり乗り気じゃなかったんだよね。だってここ男の方が多いんだもん。

そんな一回だけ交換されたこのパーティーになんかいいなぁって思えた。

共に戦い、共に笑い、共に危険を乗り越え、みんなで一緒に帰る。何事も予想外なトラブルも、ドッと疲れることもなく帰る。

 

「……カズマ、重大なことに気が付いたんだけど」

「なんだよ?」

「私達……ちゃんと冒険している。こんなのおかしいよ!」

「いや、これが普通だろ」

 

 今までは何かしらトラブルがあって、しっちゃかめっちゃかな状況になってもなんやかんだで無事に帰れたと一息つくことが多かったのに、今回は普通に冒険しているという事実に、私は驚きを隠せない。

 なんか違うんだ。これが普通なのかもしれないけど、私はそれを求めていない……わけじゃないんだけどさ。やっぱり私が求めているのはハーレム女王だ。

 うん。やはり私はあの癖のあるヒロイン達を攻略するべきだ。

 私は冒険がしたいわけじゃない。ヒロイン達と共に行動し、私のことを好きになってほしいんだ。

 

「そう思うとあのパーティーが愛おしくなってきた。……カズマもそう思うよね!」

「いや思わない」

 

 カズマは無表情で無情にも否定された。

 ほんと、そういうところはブレないよね。別にいいけどさ。

 もうカズマはいらないのかもしれない。無事に帰れたらイザナミ達に話すとでもしよう。

 ……無事に帰れたら……あれ、なんか一番忘れていけないことを忘れているような…………。

 

「あれ? 何かが凄い勢いでこっちに向かってきてないか?」

 

 キースが何かに気がついたように口にする。私は何も見えないが、キースだけは違うのかもしれない。アーチャーだから視力が良いのかもしれん。

 それで何かがこっちに向かっている……そうだ、そうだった。

 

「カズマ! 敵感知は?」

「もうやっている! 敵は一匹!」

 

 忘れてはいけない存在は、こちらに駈けてくる黒い猛獣を視界で捉えた瞬間、脅威となった。

 

「初心者殺し!」

 

 カズマが叫ぶと、それは合図のように私達は一斉に街に向かって駆け出した。

 

 

「く、くそっ! さ、最後の最後でこれかよ!」

 

 キースが荒い息で毒づく。勝利ムードの中、いきなりの敗北へと落されかねないからそう思うのは仕方がなかった。

 

「や、やばいよー。お、追いつかれちゃうよー!」

 

 リーンも荒い息で涙目に発する。

 そして初心者殺しは、私達のすぐ後ろにまで迫っている。一回でも足を止めた瞬間に襲われるのは確実だ。

 街まではまだ距離がある。このままでは逃げ切れないだろう。

 だけど、私だけなら逃げ切れる。街にたどり着くのも誰よりも早い。

 私達のパーティーの戦闘力を考えると、おそらくみんなでかかっても倒せない。倒せたとしても誰かが犠牲になってしまう可能性が大。

 全滅しない方法を考えれば、比較的に軽いリーンをおぶってアクセルダッシュで一気に駆け出して街へ帰り、そして応援を呼ぶ。

 あるいは……。

 

「リーン! このままでは追いつかれる! お前はカズマとアスカを連れて街へ逃げろ!」

「テイラーは!?」

「俺は初心者殺しの足を止める! 悪いけどキースは援護してくれ! そして街に帰ったらギルドに駈け込んで、応援を呼んでくれ!」

 

 テイラーが言ったように誰かが殿を務め、その間に街へ帰って応援を呼ぶ。これが確実に誰かが生き残る方法なんだろね。

 

「しょ、しょうがねぇな! カズマとアスカは他所のパーティーの人間なのに、今日は俺達よりも頑張ってくれたんだ! だったら、今度は俺達が頑張る番だよな!」

 

 キースは意気込んでいるけど、内心はビビっているか、怯えているに違いない。むしろ俺もカズマと一緒に街に帰りたいと思っているかもね。

 

「カズマ!」

「なんだよ!」

「このまま帰ったら私達は無事でいられるよ」

「前置きはいいから、何が言いたいんだよ!」

「……このまま街に帰って良いの!?」

「良くないだろ!」

「だよね!」

 

 私とカズマは足を止め、振り返る。こういう時に関してはカズマが何を考えているのかだいだいわかっていた。

 

「ちょ、ちょっと二人とも逃げないの!?」

 

 足を止め、その場から動くことをやめた私達に戸惑ったリーンは慌てだす。

 おそらく、カズマだけでなんとかなるけどカズマが動き出しやすいようにサポートぐらいはしよう。

 まずは初心者殺し。標的をテイラーから私に変えるために、自慢の敏捷力で颯爽と短剣で斬りつける。

 あんまり斬った感触がしないけど、これでいい。テイラーよりも私の方を狙うはずだ。

 

「お、おいアスカ! 何をやっているんだ! ここは俺が食い止めるから早く逃げろ!」

「そんなことしなくても私達でなんとかする! おい、黒毛玉! 私の方が美味しいと思うんじゃないの!」

 

 挑発するように叫ぶと、初心者殺しはこちらに向かって飛びかかってきた。

 よし、初心者殺しを誘えた。後はカズマがなんとかしてくれる。

 私は横へ避ける。

 

「『ウインドブレス』ッ!」

 

 すると私の後ろに隠れていたカズマが、あらかじめクリエイト・アースで手の平に土を生み出す。そして初心者殺しに向けながら風を飛ばした。

 真正面から大量の砂粒は顔面に直撃を受ける。初心者殺しは勢いを殺して、そのまま地面にうずくまってしまった。

 初心者殺しが私を捉えている間に土の初級魔法を唱え、後はタイミング良く初心者殺しに目つぶしをするだけだ。駆け出し冒険者にとっては恐れる猛獣ではあるものの、生物であることには変わりない。目つぶしだって有効になるんだ。

 と言っても効果は一時的だけ。

 

「え、ちょ、ええっ!?」

「驚くのは後で、今のうちに逃げるよ!」

 

 何が起こったのかわからないテイラー達に声をかけ、私達は全力で走り出すことにした。

 

 

「ま、撒いた?」

「一応……敵感知に引っかかってはない、な……」

 

 私達はなんとか街の近くへ降りて来られた。街まではあともう少しだろうけど、流石にここまで初心者殺しが追ってこないだろうと信じたい。

 

「ほ、本当に……撒いた? だ、大丈夫?」

 

 リーンが何度も後ろを振り返って言う。

 

「……ふっ、ふふ…………ふへへへっ……」

 

 突然キースがこらえようとするのを我慢できないように笑い声を上げる。おそらく、初心者殺しから逃げ切れたことへの笑いなんだろう。

 そしてそのキースの笑いにつられて、テイラー、リーンも笑い始める。

 

「くっ……くっくっくっ……くくくっ……!」

「あはっ、あはははっ…………あははははっ!」

 

 笑うつもりはなかったけど、私もつられて笑ってしまう。そしてついにカズマも笑い始め、その場の皆が笑っていた。

 

「お、おい、カズマ何だよ。さっきのあれは何だよ! 何しやがったんだよっ! ぶははははっ!」

 

 テイラーがカズマの背中をバシバシと叩いくると、カズマは珍しく上機嫌にテイラーに叩き返す。

 

「何って、初級魔法だよ。役に立たないと言われている初級魔法だよ! 最弱職の冒険者はな、初級魔法取れねぇんだよ! わはははははっ!」

 

 そう言い返すカズマの表情は本当に心の底から楽しそうで、今まで見たことのない笑みを浮かべていた。

 

「うひゃっ、うひゃひゃひゃっ! こ、こんな冒険者、いてたまる、かよっ! うひゃひゃひゃっ! は、腹いてぇよ……っ!」

「あ、あり得ないよ! この人、あり得ないよ! 色々と、おかしいよっ! 一体、どんな知力しているのさ!」

 

 キースもリーンもテイラーのようにバシバシカズマを叩く。乱暴に見えているけど暴力ではないスキンシップなのが伝わる。そしてカズマも嫌な気分でないことも伝わってきた。

 

「カズマ、リーンに冒険者カードでも見せたら? 面白いことになるんじゃない?」

 

 そのことを伝えると、カズマは素直にリーンにカードを差し出した。

 

「えっと、どれどれ…………あれ? 知力は普通なんだね。他のも普通…………って、幸運高っ!? この人幸運、超高いよ!」

 

 リーンが驚く様子を見て、二人もカードを見始める。

 

「うおっ、なんじゃこりゃ!」

「お、おい、今回こんなに都合良くクエストが上手くいったのは、カズマの幸運のおかげじゃね? お前ら拝んどけ拝んどけ! ご利益があるかもしれねーぞ!」

 

 私も幸運はそれだと良いなーって思っていたけど、関係ないと思う。

 でなきゃ、今頃もうちょっと優遇されても良いと思うんだよね。後、いろいろと苦労もしないはずだ。

 今回上手く行けたのはたまたま運が良かっただけなのと、今までがちょっと異常だっただけで普通がこれかもしれない。

 そう思うと、やっぱり今までと違って普通に冒険しちゃっているんだ。

 

「カズマの冒険はこれからだね」

「それだと打ち切りみたいなこと言うなって。まあ、そんな事よりもコーヒーいるか?」

 

 ツッコミにトゲがなくなっている。そんでもってカズマが気をつかってきた。

 カズマはこのまま戻らずにテイラーのパーティーにいた方が世界は平和になるんじゃと思うくらい、今日は危ないこともあったけど楽しかった冒険だった。

 

 

 時刻はすでに夜半を回っていて、私達は今回の討伐の報酬と初心者殺しが出た事を報告しに冒険者ギルドに向かっていた。

 

「あの山へ向かう度に初心者殺しに警戒しないといけないのか……」

「それは多分大丈夫だと思うよ。今回の討伐クエストでゴブリンを全滅させたから、初心者殺しは新しいゴブリンを探しにどこかへ移るはずだ」

「そうなんだ……」

 

 テイラーの補足からすると、少なくとも人里から離れるっぽい。新たな疑似餌を探しにわざわざ場所を移るとか、狡猾過ぎるでしょ……。

 次遭うまでに強くなっていたいね。

 

「着いたー! 今日はなんか大冒険した気分だよ!」

 

 リーンは声を発しながらギルドのドアを開けると、

 

「ガ、ガズマ゛アアアアッ!!」

 

 カズマに泣きじゃくって飛びつくアクアを払うように素早くドアを閉めた。

 

「誰かと勘違いしていたんだろうな」

 

 終いには他人のふりをし始めたぞ、こいつ。

 

「おいっ! 気持ちはよーく解るけど、ドアを閉めないでくれよ、なぁ!」

 

 閉めたドアが開き、顔を出したのは、今朝カズマに絡んできては私のヒロインを良い女ではないと揺れたチンピラ兄ちゃんだった。

 

「なあ、俺の話を聞いてくれよ! ほんと悪かったからさ! 頼むから無視しないでくれぇ!」

 

 今朝と打って変わって、半泣きで悲願しているような表情でカズマに訊ねるも、ガン無視されギルドの受け付けを向かって行った。

 おそらく、一目見て自分には関係ないと判断したんだろう。

 私も一目見て、酷い惨状で何が起きたのかおおよそ把握できた。

 チンピラの兄ちゃんは砂埃がついているめぐみんを背負っていて、泣きじゃくっているアクアは白目むいて気絶しているダクネスを背負っている。良く見たらアクアもダクネスも所々大きな歯形がついている。そしてイザナミは相変わらず床にのの字をなぞり書きを繰り返している。ぶつぶつ何か呟いているけど、自分を責めていることに違いない。

 カズマがあんな反応を取っているから、仕方なく私が話を聞こう。

 

「えっと、チンピラの兄ちゃん……取りあえず何があった?」

「聞いてくれよ! 街を出て、まず各自がどんなスキルを使えるのか聞いたんだ。そしたらあのデスサイザーの子はいきなり謝るんだよ。俺ただ聞いただけだぞ!」

「そんで?」

「そしてこの子が、爆裂魔法を使えるって言うもんだから、そりゃすげーって褒めたんだよ。だって上級魔法使えるんだぜ、絶対に凄いだろ。そしたら、我が力を見せてやろうとか言い出して、いきなり何もない草原で意味も無くぶっ放したら、ぶっ倒れて……聞いている!?」

「聞いている、聞いているから。そんで、それからどうなった?」

「そしたら初心者殺しだよ! 爆発の轟音を聞きつけたのか、初心者殺しが来たんだよ。さっきの爆裂魔法でやっつけてくれと頼んだら、肝心の魔法使いはぶっ倒れるわ、魔法は使えないわ。それで逃げようって言ってんのに、クルセイダーは鎧も着ていないくせに突っ込むんだよ! デスサイザーはずっと自分を責め始めるわ、あのアークプリーストは何もしないまま初心者殺しに」

「あー……もう、わかった。もうだいたいわかったから言わなくていいよ」

 

 これ以上訴えてくるとヒートアップして永遠と今日の出来事を私にぶつけると思うから、この辺で閉めとこう。

 

「まぁ……何とか全員生きて帰ってきたことは褒めてあげるわ。……でさ、あんたカズマに最初なんて言ったか覚えている?」

「本当にすみませんでした!!」

 

 チンピラの兄ちゃんはすぐさま土下座をする。それはもう、清々しい土下座だった。

 

「……えっと、謝るのならカズマにも謝ってよね。そして苦労がわかったのなら、変なこと言わないでよね」

「ああ! もう二度と言わないから許してくれ! カズマの言う通りだった。あんな悪魔みたいなパーティーなんてこりごりだ!」

 

 プツン。

 私の中で何かが切れる音が鳴った。

 

「……悪魔みたいなパーティーなんてこりごりだ?」

「あ、いえ、その……」

「あんた、私のパーティーを貶しているの?」

「ち、違う。違うんだ。い、今のは、言葉のあやで」

 

 私は土下座しているチンピラの兄ちゃんの胸ぐらを掴み上げた。

 

「……あんたさ、覚悟は出来ているよね? 悪魔みたいなパーティー? 一日良くないことが起きたからってパーティーのせいにしてんじゃないわよ。それとも何? ハーレムが出来たからそれで満足して、傷をつけてもいいとか思っているのかな? 君は…………一回、ちゃんと話さないと駄目みたいだね。そうだよね!」

「ごめんなさいごめんなさい!! 本当に悪かったよ!! もう二度と言わないし、思わないから許してください!! なんだってするから!」

 

 その後、イザナミに止められるまで私は本気で泣いて謝り続けるチンピラ兄ちゃんに説教をした。

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