「へーあの悪霊のクエスト、アスカ達が解決したんだー。すごいね」
「と言っても、私は全然活躍していないんだけどね。アクアがいたおかげで楽にできたよ」
悪霊が屋敷に住み憑いた原因もアクアなんだけどね。
「そっかー……てっきり、またアスカとカズマの二人で解決したんだと思っていたよ」
「あははは……あれはたまたま上手くいっただけだって」
人肌が恋しく、冬の寒さが目立つこの頃、私はリーンとカフェで、一人の友人として他愛のない話をしている。
残念ながら、リーンに対する私に対する好感度はまだまだ足りていない。今は友人としか見ていない。でも私は諦めない。いずれリーンも、私のヒロインになるように攻略してやる。
地道だけども、今こうして会話するのが非常に重要になってくる。焦らず一歩ずつ深まれば私を好きになってくれると信じて攻略していこう。
「それにしても……ここ最近あんまり人いないね」
「そりゃそうだよ。この時季になると、みんな引きこもるしかないよ。クエストも高レベルのものしかないし、凶暴なモンスターしか活動しないからね。例外があるとしたら……めちゃくちゃ強い冒険者、魔剣グラムを持つミツルギくらいかな」
なるほど、冬でも関係ないのはチート持ちの連中ってことか。というかミツルギさん、この街の常識を覆すぐらいに強いんだね。一度戦った時は卑怯な方法で勝ったせいか、強いのか未だに曖昧になっている。
そうなるとこの街はある意味平和だよね。引きこもりが許されてもいい風になっているってことになる。
それに比べて私達は、魔王の幹部の一人であるベルディアを倒したのにもかからわず、結果多額の借金を背負わらせている。
お手軽なクエストでちょっとでも稼ぎたいのに、世間はそれを許してもらえない。金額が高いほど借金は早く返せるのだけど、まず私達のレベルが満たされていないのと、その代償として命を失いかねないのが現状である。辛いね。
「……あーお金がほしい」
「それさっきも言わなかった?」
「彼女も欲しい」
「きっと見つかるよ」
「……リーン、私の彼女に」
「やだよ」
くそう、可愛く断りやがって……でも可愛いから許す。
こんな感じで私とリーンは他愛のなくてくだらない話を時間の許す限り、繰り返していた。
●
「うー……やっぱ寒いなー……」
みんな冬にこもるのは正解だな。早く帰って新居となった屋敷で暖を取ろう。
そう思って真っ直ぐ帰ろうと思ったのだが、ふと前方でカズマと見たことある二人組を見かけた。
「カズマー」
私は気まぐれで声をかけた。
「うわあぁああっ!?」
すると何故か二人組のうちの一人であるチンピラな兄ちゃんが仰天する。そしてその勢いで腰が抜けるようになりかねていた。
ちなみに、チンピラな兄ちゃんのこけっぷりに、うひゃひゃひゃひゃとゲス……特徴的な笑いをしている人もいる。
「……ちょっとダスト、そんなに驚かなくてもいいじゃないの」
「い、いやだって、その……きゅ、急に声をかけんじゃねぇって。心臓に悪いだろ!」
「そんな潜んで驚かそうとしたわけじゃないんだけど……」
チンピラな兄ちゃんことダストは一日パーティーを交換した以来、私に対してトラウマになっているっぽい。あの時以来、私と顔を遭うと顔色が悪くなったり、時々敬語になったり、突然ごめんなさいと謝ってきたりする。今日はまだマシな方だけどね。
「……お前、ダストに何したんだよ」
「いや、説教しただけなんだけど……」
今思えばちょっとやり過ぎたかもしれない。
あの時、謝ったけどもう一度謝った方がいいのかもしれない。
「まあ……その……ごめんって。私もあの時はちょっとどうかしたんだよ」
「お、俺も悪かっただから……だからもう許してください」
話聞いていたのかな? 謝っているんだから、前のように戻ってよ。といっても、ダストの関係は他人以上、知り合い以下の関係なんだけどね。
「ところで、三人はこんなところで何やっているの? まさかナンパ?」
「一度も成功していないお前と一緒にするな」
なんでカズマがそのことを知っている。事実であるが、あんたに言われるのはしゃくに障る。帰ったら……罵ってやろう。
「じゃあ、なんなの?」
改めて訊ねると、カズマは急に鼻で笑った。
「お前何様だ? 外見だけ女の中身がおっさんのお前なんかに気軽に答えると思っているのか?」
「あんたが何様だよ」
たく偉そうに勝ち誇りやがって。しかも中身がおっさんとか普通にムカつくんですけど。
ちょっとした好奇心で最低ニート男に訊くのが間違いだったわね。何なのかは知らないけど、男同士BL展開でもやったいいじゃないの。
「そうですか。じゃあ、私はもう帰るから。帰ったらカズマの居場所なんかないかもしれないよ」
「おうおう好きにしろ。できるものなら」
帰ったらカズマのメンタルを削ぎ落とすくらい罵ってやろうと思いながら、自宅となった屋敷へ帰ることにした。
その直後、
「待てよ、アスカ」
キースに呼び止められた。
呼ばれたので振り向くと、これ以上ないくらい真面目な顔をしていた。これから告白する勢いの、覚悟を決めた男のように。
「アスカ。俺は……男の気持ちも持っているお前にも信用できる。本来なら、今から言うことはこの街の男性冒険者にとって共通の秘密であり、絶対に漏らしちゃいけない話だ」
「お、おいキース。お前、アスカに教えるっていうのか」
「ああ、かつて一緒に冒険した仲間だ。俺は信じている」
な、なんか知らないけど……ちょっと嬉しい。男扱いされているのは、ちょっとあれだけど。
「いいや、俺は言わないほうがいい! こいつは心がおやじだけど、俺達男の敵だ! 教えても俺達が後で地獄を見るに決まっている!」
おいカズマ、お前はもうちょっと信じろよ。それでも今まで過ごしてきた仲間だろ。
「お、おい、良いのかキース。秘密をバラすことになるんだぞ」
ダストも制止させようと発言するも、キースが先ほどの発言を取り消すことなく続けた。
「俺はそれでも構わない! アスカ、この街にはな、サキュバス達がこっそり経営している、良い夢を見させてくれる店があるって知っているか?」
その話を聞いた私は一度、視線をカズマに向ける。
カズマはそっぽ向いて冷や汗を流しながら口笛を吹いていた。
「とりあえずその約束は守るから、その話を詳しく教えて」
やっぱあの野郎は一度シメた方がいいのかもしれない。
●
サキュバスと言えば男性の夢に入り込んで淫らな夢を見させて関係を持つ女の悪魔。私が知っているのはそれくらいだ。
「いいか、アスカ。この街にはな、サキュバス達が住んでいる。それでな」
「ちょっと待って。普通に話さないでね」
そんな当たり前のことみたいに言ったから思わず遮らせた。
「その……サキュバスって悪魔じゃん。この街に住んでいいの?」
私はきっと誰もが思う疑問に訊ねてみると。
「お前……あの人達に死んで欲しいのか?」
「え?」
ダストが真剣な眼差しで私に言ってきた。
「サキュバスが悪魔だって知っているってことは、男の精気を吸って生きる悪魔だってことも知っているよな?」
「し、知っているよ」
「知っていてあの人達に死ねと言っているのか、お前は?」
かつて私がダストに怒鳴ったように、ダストも私に対して怒っていた。しかも静かにトーンも下げて言ってくる。
「え、えっ、だ、ダストって、そんなキャラだっけ?」
「俺のことなんていいんだよ。いいか、アスカ。この街に住むサキュバス達と俺達男性冒険者は共存共栄の関係を築いている。色々と溜まっているムラムラを解消させるために、彼女達の存在が必要なんだ。それをお前はこの街に住んでいいのかって言ったな? どうしてそんな酷いことを言えるんだ。サキュバス達が俺達の夢に出てきて凄いのを見せてくれてスッキリするし、冒険に支障をきたさない程度に手加減もしてくれて配慮もできるし、彼女達も生きていけるだ。誰も困ることなんてない、みんなが幸せになる。それなのに……お前はなんてやつなんだ」
「私が悪かったから、静かに怒らないでよ」
私もこんな感じでダストに怒っていたのだろうか。なんか申し訳ない気持ちがいっぱいだし、誰もが思う疑問を相手からすれば失礼になると思わされたよ。
私がイザナミを大事にするように、ダストも男性冒険者達もサキュバスを大事にしているんだね。
その想いが伝わったよ。
「なんか変なテンションで怒っているダストだけど、実は俺達もサキュバスがいることもその店のことを知ったのも最近だし、今日初めて行くんだ」
「は?」
「ついでに言うと、このダストはな。リーンにちょっかいかけて、ダガーで大事なところを切り落とされそうになったトラウマをかかえているんだぜ」
「う、うるせえ! アスカにも言っているんじゃねぇ!」
……なんか、私がダストに謝ったことを取り消してください。
これあれだ、サキュバスが悪いんじゃない。このどうしようもない男達が悪いのだ。この男達がいるせいで、サキュバスがこの街に住み着いているのだ。
それとチンピラ兄ちゃんことダストが、やっぱりクズ野郎だってことはわかったわ。
「要するに怪しげなお店に行くってことだよね」
「怪しげなお店ではなく、素敵なお店だ」
「私からすれば同じだよ」
いわゆるキャバクラ的なやつでしょ。男からすれば怪しいだろうが素敵の一言でくくれるのなら関係ないでしょうね。
どうでもいいことだけど、この期に及んで真面目なトーンで突き通すのか、死にかけたダストさんよ。
「まぁまぁまぁ、そういうわけだからアスカも来るか?」
「おい待てよ、キース。アスカはおっさんだけど、一応性別は女だぞ」
「あのさ、さっきからおっさんおっさんとか、女として一応見ているのだったら言わないでくれるかな?」
「確かにアスカは女だ……だからこそ、中身がおっさんのアスカなら俺達の想いに共感するに違いない! どうだアスカ、俺達と一緒に来るか?」
「だから中身がおっさんなのはいらないよね!」
どいもこいつもデリカシーのない野郎だ。こいつらは一回シメないと女であることを認識できないのかね。
それはともかく、確かに私はハーレム女王故の女好きだし、サキュバスも私のヒロイン候補に入ってくるだろう。正直言えば、男がわくわくするような夢のお店に一度行ってみたい願望はあった。
そのお店なら、イザナミや最近のめぐみんと違って、ぞんざいな扱いをせず優しく接してくれるに違いない。
そうよ。男達にとっては夢の店なら、私にとっての夢の店であることを証明されているんだ。
夢と現実は違うけど、せめて夢の中だけでも私はハーレム女王になりたい。
よし、そうと決まれば私はサキュバスの店に……。
「悪いけど断るわ」
「「「っ!?」」」
いかないことにする。
……何よ、三人共。そんなに私が断ったことが意外過ぎるのと、声も出ないほど驚くのよ。
特にカズマ。あんた、まるでギャグマンガみたいな盛り過ぎるくらいの変顔で驚いているのはなんなの? わざと煽っているの?
「ど、どうしてだ……アスカならわかってくれると思ってたのに……さ、さてはお前、アスカの偽物……」
「あの、そんなに断ったことが意外なの?」
動揺しているキースに私はちゃんと断った理由を伝えることにした。
「おっさんって呼ばれるのは不服だけど、気持ちはわかるよ。その店に行けば、私の溜まっている鬱憤を解消させてくれるでしょうね。でも私は夢の中ではなく、現実で実現したいの。夢の中でハーレム女王になったって意味がないの。現実で実現してこそ、夢が現実になるの!」
本当に実現させたいのなら、楽な道を進まない方が良いと思う。今はイザナミにぞんざいな扱いされているし、めぐみんにも危険視されているのもあれば、リーンなんて私のことを友達としか見られていない。きっとどれだけ交流を深めて、好感度を上げさても私のことを異性のように好きになってくれないのは大いにありえる。なんなら、男に恋をすることだってある。
実現しない不安はいっぱいある。でもせっかく二度も死んで蘇生できたのなら、夢のような話を自らの手で実現したい。お金を払って簡単に成立させたくはないんだ。
「……アスカ」
カズマは私の話を聞いた後、私の肩にポンと手を置いてきた。
そして儚げそうに……。
「女どころか男にも魅力が伝わらないのに変な威勢を張っている場合か?」
「お前、ほんとムカつく奴だな」
誰が俺は友達ができないんじゃない、作らないんだって言い訳するボッチだよ。誰が本気で勝負して負けたのに、実は本気出していないって言い訳するエセ強者だ。そんなつもりで言ったんじゃないわよ。
つうか、あんたにだけは言われたくはない。カズマにだけはそんなこと言われたくはない。というか哀れみの中にバカにしている顔はやめろ、ぶん殴りたくなるから。
「とにかく! そういうわけだから、私は遠慮しとくよ」
「あ、そうですか。俺はお前が来てくれなくて良かったと思います」
……なんでこんな奴と一緒の屋敷に住んで、共に行動を歩んでいるのだろうか。少しは残念がっていれば可愛げがあったものの、特に喜んでいないのがムカつく。
サキュバスのことは誰にも言うつもりはないから、もう男同士で勝手にすればいいと終えることにした。
●
カズマ達と別れた私は、少し寄り道してから屋敷に帰ろうとすることにした。今ならめぐみんもイザナミもいないから、新たな素敵なヒロイン候補に口説こうとしても邪魔されないが、私の実力不足だから、ナンパしても失敗すると目に見えているので現在はやらない方向にしている。
適当に新しい靴やブーツを見たり、たまには読書したいから本屋に寄ったりしていたら、時刻は夕方になっていた。
キースとダストの事情はともかく、カズマはラノベばりのハーレムな環境があるのにも関わらず、男達が行きそうな怪しげな店で堪能したい方が良いって贅沢していると思うんだよね。そりゃあ、短所しか見えないところもあるかもしれないけど、それだけ共に過ごしているからある意味で必然になってしまうことじゃないの?
もういいわ。カズマはカズマ、私は私でヒロイン達とイチャイチャでもしよう。
「ただいまー」
屋敷の中に入り、そのまま暖炉がある広間へ行こうとした時だった。
「アスカ、お帰りなさい! カズマは一緒じゃないの?」
「一緒じゃないけど、どうしたの?」
「実はね……」
どこか喜びを隠せないでいるアクアに様子を伺った時だった。
「ただいまー」
カズマが帰ってきた。
え、はやくね?
「カズマ丁度良いタイミングで帰ってきたわね」
「ん? 何かあったのか?」
いつになくウキウキなアクアにカズマは訊ねる。
「二人共う喜びなさい。今日の晩御飯は凄いわよ! カニよ、カニ!」
「「カニ!?」」
アクアが口にしたその言葉に私とカズマは食いついた。
カニ。とにかく美味しい食べ物。庶民がそう簡単に食べられるものではない、とにかく美味しい食べ物。
私とカズマは勢いのまま本能に広間にある食卓テーブルへと向かった。
そこには、まさしくカニ、KANIが並べていた。
「さっきダクネスの実家の人から、これからそちらでダクネスがお世話になっているみたいなこと言って来て、引っ越し祝いに極上の霜降り赤ガニが送られて来たのよ! しかも、とにかくすんごい高級酒までついてきたのよ!」
だ、ダクネスの実家の人……しゅごいです。
ふと冷静に考えてみれば、ダグネスって何者なんだ? 極上の霜降りガニと高級酒を送ってくれるなんて普通じゃない。
……まあ、後で聞けばいいか。今はカニじゃ、カニ! カニを食いたいんじゃあー!
「あわわわわ……貧乏な冒険者稼業を生業にしておきながら、まさか霜降り赤ガニにお目にかかる日が来るとは……ありがたやーありがたやー」
「やっぱりすごいものなの?」
霜降り赤ガニに手を合わせて拝んでいるめぐみんに訊ねると、オーバーリアクション気味に、勢い良く拳を振り上げて力説した。
「当然ですよ! 分かりやすく例えると、このカニを食べる代わりに今日は爆裂魔法を我慢しろと言われれば、大喜びで我慢します!」
「おお、マジか!?」
「そして食べた後に爆裂魔法をぶっ放します。それぐらいすごいものなんです」
「なるほど、それは凄……って、順番を入れ替えただけでいつもと何も変わらないじゃない!」
「何を言っているのですか! 爆裂魔法を撃ちたい瞬間があるんですよ! それを我慢しなければいけない気持ちがわかりますか!?」
「ごめん、わかんない」
小学生が欲しかったゲームをやり続けたいために、夕飯を後回しにしようとするのはわからなくはないが、爆裂魔法を撃ちたい瞬間は一生ないです。
ところで……。
「あれ、イザナミは?」
「うむ……先ほどまでゲームしていたのだが……余程ボロ負けしたのが悔しいのだろうか?」
ダクネスとゲームね……。
このファンタジーの世界にテレビゲームはないから、チェスとかオセロみたいなボードゲームでもやっていたのだろうか。
その話を聞く限りでは、イザナミがいないのはダクネスにボロ負けしたらしいけど……イザナミって勝手なイメージだけど、自分が負けて当然だと思い込んでいそうだから、悔しくていないわけじゃないと思う。
そう思っていたら、ふと視線を広間に入るドアに移すと、こっそりとこちらを伺っているイザナミを発見した。
「……入ってきなさいよ、イザナミ」
「い、いいえ。私のような甲殻類以下の存在が、カニさんを食べるなんて罰当たりです。私なんてカニカマで十分ですので、皆さんで食べてください」
「甲殻類以下の存在という謎ワードにツッコミたいところだけど、みんなで食べるんだから入ってきなさいよ」
「い、いいのでしょうか……」
「構わないさ。私達は仲間だろ」
「あ、はい……」
ダクネスの後押しによってようやくイザナミは受け入れてこちらへとやって来た。
……今の感じだと、ダクネスの言葉にだけ言うこと聞いた感じになっているのは仁徳の差とかじゃないよね?
そんなことは思い込んでいることにして、カニでも食べよう。
今食卓に並んである霜降り赤ガニを手に取ってパキっと割る。そしてそのカニの脚から取り出たギュッと詰め込んだ身をそのまま口に入れた。
「!?」
な、なんじゃこりゃああああああああああああああああああっ!!
う、美味い。
美味い。
美味すぎる。
めちゃくちゃ美味い。
美味すぎる!!
美味いしか浮かんでこない。本当に美味しいものは美味いしか浮かばない。それくらい美味い。この世にこんな美味いものがあるのかっていうくらい美味い。
語彙力? そんなの知ったことではない。美味い物を食べて美味い思って何が悪いんだ。
周りの皆も黙々と無言でカニを食べている。美味しいという感想はなく、ひたすらカニを頬張る。あのイザナミさえもカニの美味しさに黙々と笑みを浮かべながら食べている。かわいい。
「カズマカズマ、ちょっとここに火ちょうだいよ。今から、この高級酒の美味しい飲み方を教えてあげるわ」
アクアが僅かに残っているカニ味噌が入った甲羅とお酒を持ちながら言ってきた。そしてアクアの七輪のような物が置いてある。
カズマは言われるままにディンダーを唱え、炭に火をつける。するとアクアは金網の上に甲羅を置く。そしてそのまま甲羅の中に、高級な酒を注いだ。
あ、これ絶対に美味いやつだ。酒飲めないけどわかる。
そして軽く焦げ目がついた甲羅を炙って、熱燗にしたそれを一口……。
「ほぅ……っ」
CMに抜擢されそうな良い表情で美味しそうに息を吐いた。
ぶっちゃけ女神のくせにおっさん臭いし、女神の魅力とか一切感じなかった。でもずるいよ、アクア様。そんな幸福を感じさせられる飲み方をしちゃったら飲みたくなるじゃないか。
まあ、お酒飲めないんですけどね!
「おお、これはいけるな、確かに美味い」
ダクネスはアクアのマネをした甲羅酒を飲んでいた。
やっぱりマネしたくなるよね。飲めるのか、ずるいなー。
「ダクネス、私にもください!」
「めぐみんはまだ子供だろ」
「なにをー! 私だってお酒飲んでみたいです! いいじゃないですか、今日ぐらいは!」
「ダメだ。子供のうちからお酒を飲むとパーになると聞くぞ」
ダクネスとめぐみんがお酒の入ったビンを奪い合いという、じゃれ合っている中で、カズマはというと……。
「どうしたカズマ。お酒は飲まないのか?」
ダクネスがカズマを見て首をかしげていた。
そう言えば、なんか様子がおかしい。
「もしかして、うちのカニが口に合わなかったのか?」
ダクネスがちょっと不安そうな表情を浮かべたのに対して私は。
「カズマァ!」
「うおっ!? び、びっくりした……」
「あんた遠慮しないキャラでしょ。道に万札が置いてあったら交番に行かないで自分の財布に入れるような奴が一体何を遠慮しているっていうのよ!」
「そんなことしねぇし、お前俺をなんだと思っていやがるんだ……」
「言葉通りの男だよ」
「うっせ。おい、ダクネス。カニは凄く美味いし、感謝している。ただ、今日は昼間にキース達と飲んできたんだ。だからその……申し訳ないけど、きょ、今日はいいかな」
本当にそれだけなのだろうか? 言っていることは間違いではないけど、なにか隠しているのがわかる言い訳をしている。
「そうか」
私が疑っている中、ダクネスは安心したように笑みを浮かべる。
「あ、明日貰うよ……」
心なしかカズマから後ろめたさを感じるのは気のせいかな?
「せめて、たくさん食べてくれ。日頃の礼だ」
再び笑みを浮かべるダクネスに対し、心なしかカズマが申し訳なさそうに見えるのは気のせいだろうか。
……カズマが遠慮しているのって、絶対サキュバスに関係あるよね。
帰宅時間が早かったけどサキュバスのお店に行っていないわけじゃない。なら本番という物が味わえるのなら、おそらく今夜実行されるに違いない。
カズマがお酒を遠慮しているのは、サキュバスにお酒を飲んではいけないみたいなことを言われたからか? そうじゃなきゃ、遠慮する必要はないはずだ。
でもそんなこと仲間に言えるはずもなければ、純粋に日頃の感謝をしているダクネスの純粋さにカズマは欲望塗れの自分に後ろめたさを感じているのは気のせいなんかじゃない。
全く……一体何を遠慮しているっていうんだ。
「カズマ、大丈夫? 今日ぐらいは遠慮しなくていいんじゃないの?」
そんなことを言うと何故か睨んできた。お前わかっていて言ってんじゃねぇって言いたいのかな?
そうだとしても知らん。お前がサキュバスの店に行ったのが悪いんだ。
「飲まないとアクアが全部飲んじゃうかもね」
「そーよ。私が全部飲んじゃうもんねー。これを飲まないとはとんでもない! わーい、カズマの分は私が飲んじゃおー!」
流石煽りも一級品の宴会の女神様。お酒の効果で憎たらしさが増していて関係ない私でも腹が立ってきた。
さて、カズマどうする?
サキュバスを選ぶか。
私達を選ぶか。
何も迷う必要ないよね。
「それじゃあ、ちょっと早いけどオレはもう寝るとするよ。ダグネス、ごちそうさん、お前らお休み!」
あ、こいつサキュバスを選びやがった。
でも知っていたけどね!
カズマは何も迷うこともなく、先ほどの後ろめたさを振り払って早々と去って行ってしまった。
「どうしたんだろうか……やはり口に合わないだろうか」
様子がおかしいダグネスは心配そうに呟く。
あの男に漫画のような恋愛なんか一切来ないと強く願うことにしよう。ダクネスだってね、四六時中マゾじゃないはずなんだよ。
純粋に食べてほしいという願いを……あの男は…………もう知らん。
「カズマはカズマで何かあったし、美味しそうに食べていたのは事実なんだから大丈夫だよ」
「そうか……それだと嬉しいな」
……あの男、罰でも当たればいいんだわ。
もうカズマのヒロインはサキュバスでいいわね。ダクネスは私がもらうことにしよう。
「ちょっとイザナミー。あんた全然飲んでないんじゃないの!」
アクアがいきなりイザナミに絡んできた。それも厄介そうな上司が酔った感じで。
「え、わ、私はいいです……私なんかよりも飲んでください」
「なによあんた、私のお酒が飲めないの!」
ドンッと酒瓶の底でテーブルに叩いた。
あーこれはうざい奴だ。
「私が飲んでいいって言っているんだからたくさん飲みなさいよ!」
「いや、飲んでいいとは言っていないよ」
「細かいことは気にしない!」
酔っても酔わなくても細かいことは気にしないって言うのは……伝わらないから今はツッコミをするのはやめとこう。
「ほらほら、飲みなさいな~」
「あ、はい……じゃあ、すみませんが、一杯だけ」
アクアの勢いに負けたイザナミはコップを手に取り、お酒を注いでもらった。
「……美味しい」
「そうでしょ! もっと飲みなさいよ!」
「え、でも……」
「ほらほら、飲め飲め!」
アクアは飲み会のノリでイザナミの言葉も聞かずに勝手にお酒を注いだ。どうして同じ女神なのに片方はおっさんしか見えなくなるのだろうか。
まあ、今日ぐらいはいいか。せっかくのご馳走だもんね、楽しくワイワイと食べて飲んだほうがいいよね。お酒のノリとはいえど、独り占めしそうなアクアがイザナミに積極的に声をかけてお酒をあげているのも珍しいし、イザナミも困っているけど美味しいのは偽りないから困ることじゃないしね。
私はお酒飲めないけど、その代わりカニをたくさん食べよう。
なんだかんだでこういう小さな幸せが一番いいのかもね。
残念だなー、カズマはもったいない男だなー。
そんなこと呑気に考えていた私は、再びカニの身を頬張った。