この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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この機動要塞を守るために作戦会議を

「ほら、二人共早く! 屋敷に戻って荷物をまとめて出ますよ!」

 

 街の警報を聞いた途端、めぐみんは急に慌てふためき、私とイザナミを引っ張って屋敷へ帰ろうとしていた。

 

「ちょ、めぐみんちょっと落ち着けないかな?」

「落ち着いてなんかいられませんよ! デストロイヤーがこの街に来るんですよ! だったらもういっそのこと魔王の城にカチコミに行くしかありません!」

「まった、話が飛躍し過ぎ」

 

 いきなりラスボス戦は人生のゲームオーバーにしかならないと私は冷静に思った。

 ……というか、さ。

 

「あ、あのめぐみんさん……」

「声が小さいですよ、イザナミ!」

「ご、ごめんなさい! えっと……失礼だったら、今すぐ川に飛び込んで息を止めます。で、デストロイヤーってなんですか?」

 

 質問する前の前置きはなんなんだよってツッコミを入れたいけど、したら話が逸れそうなので一旦スルーしとく。実際やったら止めるまでの事。

 めぐみんもこれまでのイザナミの付き合いで特にツッコミを入れずに返答してくれた。

 

「前にも言ったじゃないですか、ワシャワシャ動いて全てを蹂躙する奴で子供達に妙に人気のあるやつです」

 

 うん。だからそれを知らないんだって。

 

「ご、ごめんなさい。そんなことも知らずに……失礼します」

「「ちょっと待った!」」

 

 運悪く、石橋を渡る途中でイザナミが川に飛び込もうとしていた。もちろん、私はめぐみんと協力してイザナミを止めさせた。私はイザナミの服を掴みながら詳しくデストロイヤーのことについて訊ねることにした。

 

「めぐみん、私とイザナミはデストロイヤーの事を知っていないの! だから教えてほしいんだけど、デストロイヤーって私達でなんとかできるものなの?」

「まず私達では絶対にどうもできませんね」

 

 めぐみんはきっぱりと事実だけを口にした。

 なんかその発言だけで頑張ればなんとかできるみたいな甘い話ではないのだろうと悟った。

 

「アスカもなんとなく察しているとは思いますが、機動要塞デストロイヤーはとにかくヤバい存在です。」

「まあ、大げさに言っているわけじゃないって事はわかっているけど……具体的に言うと?」

「デストロイヤーが通った後には草なんか残りませんね」

 

 つまりこのままだとこの街は何一つ残されないのね。天災なのかな?

 

「魔王軍の幹部だったベルディアよりも、度胸さえ示せば見逃されるチャンスがあるイエティよりも、冬精に手を出さなければ攻撃もしなければ土下座で許してくれる寛大な冬将軍よりも、無慈悲で恐怖の象徴ともいえるのがデストロイヤーです。これと戦うことは無謀を意味します」

「……死にましょう」

「早まらないの」

「あたっ」

 

 早まろうとするイザナミに軽くチョップする。

 今までのヤバい奴らを上回る存在となると、確かに立ち向かう事は無謀になるし命を落とす行為なのね。名前からして破壊の象徴だし、めぐみんが慌てるのも頷ける。

 

「あ、そうだ。めぐみんの爆裂魔法でなんとかならないの?」

「無理ですね」

「即答かよ」

「仕方がないですよ。デストロイヤーには強力な魔力結界が張られているんです。一撃を与える以前の問題なんですよ。無理に決まっているじゃないですか」

 

 ロマン砲さえも打ち消せるとか打つ手なし。

 

「そういうわけですので、早く逃げましょう。荷物をまとめ、そして魔王の城へ!」

「カチコミに行かなければ、この街を捨てる気もない!」

「……それはデストロイヤーを破壊すれば、街を守った英雄としてモテモテになるためですか? 例えそうなってもアスカがモテモテになることなんてありえないですから、もっとまともなことを考えてから発言してください」

「どうしてそこまで言われなくちゃいけないんだよ!」

 

 てっきり驚くと思っていたら、こいつ何言っているんだと冷たい目で冷淡に指摘された。

 そんなんじゃないもん。そうだったらいいなーって思うけど、そうじゃないんだもん。でもやっぱりモテモテになってハーレム女王への道が近づければいいなーとは……ちょっと思ったよ。

 

「……アスカさんのことですから、皆さんが帰れる場所を守りたいのですよね。それと英雄的な扱いになってモテたいのはめぐみんさんの言う通りです」

「やっぱり……」

「わ、私だって欲望あるよ! モテたい為に街を救おうとして何が悪いって言うのさ! でも、まあ……せっかく屋敷を手に入れたのに、早々と手放すなんてなんかもったいないじゃん? 別の街に移動したらまた馬小屋生活はちょっと遠慮したいじゃん」

 

 それと大家さんのご厚意と善意で住めるようになったんだし、私達の他愛の話を楽しみに聞いてくれているであろう幽霊のアンナに顔向けできないんだよね。私としてはそれくらいだけで十分戦う価値はあると思う。この事は……別に言わなくていいだろう。二人にはモテる為にやるのと、良い風に言っとけば私が戦う理由として十分伝わるでしょう。

 そう思っていたら、イザナミは呆れたように訊ねられた。

  

「アスカさん無茶をする気ですね……」

「モテる為に無茶をする……」

「モテる為に無茶をして何が悪い! めぐみんだって爆裂魔法を極めている様に、私はハーレム女王になるために戦おうしているのよ!」

「ちょっと待ってください、私の爆裂魔法とアスカの妄想話を一緒にしないでください!」

「辛辣!」

「アスカさんの場合だと悪いですよ」

「差別!」

「いえ差別では……まあ、無茶をやるにしてもあんまり心配させないでくださいね」

 

 半分諦めたようにイザナミはため息をついた。

 呆られたけど、止められないのはありがたい。

 

「とりあえず、ギルドに向かおう。私達だけではどうにもならなそうだし、冒険者達が集まられているのなら、そこでデストロイヤーの会議が行らわれるはずでしょ。おそらくカズマも来ているはずだし。うん、そうしよう」

「ちょ、ちょっと待ってください。本気でデストロイヤーを止める気でいるんですか!?」

「なんだ、めぐみんはノリ気じゃないの?」

「あんなのにノリノリでいられるわけがないですよ」

 

 めぐみんにとってはデストロイヤーがどれほど恐ろしい存在なのを知っているから、倒す気なんてサラサラないんでしょうね

 

「めぐみんさん諦めましょう。アスカさんはここを離れる気はありませんよ」

「だったら爆裂魔法をぶっ放して止めます」

「やめろぉ! その爆裂魔法を放つ相手は私でもこの街でもない! ってこら! デストロイヤー来る前に被害出そうとするな!」

 

 やめろって言っているのに杖を構え始めたら詠唱したので慌てて止めさせた。

 

「……わかりましたよ。どうせ成功しても失敗してもアスカは何一つ変わりませんからね」

「そんなのまだわからないじゃない!」

「果たしてカズマはギルドに来るのでしょうか? アクアと真っ先に逃げている気がするのですか……」

「ねぇ、私には希望すら見せてくれないのかい?」

 

 そう言ったら今度は無言でスルーされる。今回の戦いでめぐみんをぜってぇ振り向かせてやるんだから。

 で、カズマはギルドに来るのか疑問に思っている様だけど……。

 

「アクアはともかく、カズマはギルドに来ていると思うよ」

「何故言い切れるのです?」

「なんだかんだでカズマとも付き合いも結構経つんだよね。あいつがとういう人柄をしているのか、この数カ月を得て確信しているわ」

 

 カズマは間違いなくギルドにいる。そして街を守り、デストロイヤーと戦うだろう。

 サキュバスのお店という男にとっては素敵なお店のためにね。

 

 

 ギルドへやってくると、完全武装で馳せ参じている冒険者達が集まっていた。

 逃げずにここに来たって事はデストロイヤーという絶望の象徴から街を守るためにやってきたに違いない。きっとこの街が好きなんだろう。……男性冒険者達が比較的に多い気がするけど。

 その中にはやはりカズマも来ていた。

 

「お前ら朝からどこ行っていたんだよ」

「イザナミを探しに行っていただけだよ。ほら昨夜の件で」

「ああぁ……ん? いや、昨夜何が合った?」

 

 なんでこの男、納得したと思ったらとぼけ始めた?

 そんな疑問を抱く前に突然アクアが詰め寄ってきた。

 

「ねぇねぇ、ちょっと聞いてよ。カズマったらなんか物凄い気合い入っているのよ。まだ一日しか経っていないのに、長く過ごしたとか矛盾なこと言っているし、他になにか理由があるかって聞いても答えてくれないし、ねぇ、アスカは何か知っているの?」

 

 それを聞いた私はカズマが嘘ついていることはわかった。いや、正確に言えばちゃんと言っていないだけか。

 ……とりあえず、予想ついているけど確信はないから知らないフリでもしとこう。

 

「うーん……私にもわからないなー」

「わかんないの? ねぇ、今すぐ逃げた方がいいわよ! こんな無謀な戦いを挑んでも意味ないわよ! 今逃げれば、借金だってなくなるかもしれないのよ!」

 

 いや、領主が生きている限り借金はなくならないと思う。

 私はカズマに近寄って耳元でささやいて確認を取った。

 

「……どうせサキュバスのためでしょ」

「当たり前だろ。この街を守るのに十分な理由だ」

 

 こいつ清々しいほど不純な理由を認めやがったよ。反論したら文句言われそうなくらい、カズマは堂々としていた。

 予想は当たっていただけにこの男には呆れるしかない。でもまぁ……守れるのなら、何だっていいよ。

 それからデストロイヤー対策の会議が始まるまで、カズマ達となんでもない話を繰り返していた。

 

 

「お集りの皆さん、本日は緊急の呼び出しに応えて下さり大変ありがとうございます。ただいまより、対機動要塞デストロイヤー討伐の緊急クエストを行います!」

 

 ギルド内がざわめきは静まり、緊張感が走る。

 

「それではまず、現在の状況を説明させて頂きます! 最初に機動要塞デストロイヤーの説明が必要な方はいますか?」

 

 ギルドの受け付け嬢の言葉に、私は世間知らずなのを恥ずかしがらずに手を挙げる。隣にいるカズマとイザナミも手を挙げる。他にも数名いた。

 

「では説明させて頂きます。機動要塞デストロイヤーは元々、対魔王軍用の兵器として魔道技術大国ノイズで造られた超大型のゴーレムのことです。外見はクモのような形状をしていまして、魔法金属がふんだに使われた小さな城ぐらいの大きさを誇っており、外見に似合わず巨大な八本の脚で馬をも超える速度が出せます」

 

 そのノイズっていう国とんでもない厄介な物造りやがって……なんで人類の敵になっちゃったんだよ。

 

「特筆するのはその巨体と進行速度です。凄まじい速度で動く八本の脚で踏まれてしまえば、大型のモンスターとて挽肉にされ、小さな山はじゃがいものように潰されます。そしてその体にはノイズ国の魔道技術の粋により、強力な魔力結界が張り続けています。これにより、まず魔法攻撃は意味をなしえません」

 

 それはめぐみんが言っていたので知っていた、が……改めて説明されると絶望感がハンパないね。他の冒険者も絶望感を漂わせている。

 でも、これを止めないと街は守れない。

 ……魔法が効かないとなると、やはり物理系が効くのかしら。

 一応訊いてみるか。

 

「すみません、説明途中ですが質問いいですか?」

「はい、どうぞ」

「魔法が聞かなければ物理攻撃しかないんですよね? 投石とかバリスタみたいなもので攻撃は通じますか?」

「攻撃自体はできます。ですが、元が魔法金属性のゴーレムのためかなり頑丈です。おまけに機動要塞の速度もありますし、たとえ当たったとしても止めることはかなり難しいです。更に空から侵入しようとするのなら、自立型の中型ゴーレムが飛来する物体を備えつけの小型バリスタ等で撃ち落とし、なおかつ戦闘用のゴーレムが胴体部分の上に配置されております。ですので、奇襲も無意味だと思っていてください」

 

 思った以上に打つ手ないじゃんか! 

 これだけでも無茶苦茶なのに、デストロイヤーの説明は終わらない。

 

「そしてその機動要塞デストロイヤーがなぜ暴れているのかですが、研究開発を担った責任者が乗っ取ったと言われています。そして現在も機動要塞の中枢部にその研究者がおり、ゴーレムに支持を出しているとか……」

 

 とんだクレイジーな責任者がいるもんだな。

 そいつをどうにかすれば……いや、それまでが無理難題なんだよね。

 

「デストロイヤーと呼ばれている由縁は文字通り破壊尽くす天災だからです。クモのような脚で、この大陸のほとんどが荒らされ、蹂躙されていく……それは土地だけではなく、人類やモンスターさえも同じです。これが接近してきた場合は、街を捨て、通り過ぎるのを待ち、そして再び街を立て直すしか方法が無いに等しいです」

 

 空気が一変して重々しくなった。

 皆どこかで、なんとか頑張れば行けるという小さな希望を抱いていたと思ったはずだ。でも先ほどの説明で押しつぶされたと思う。実際私もその一人だ。

 

「現在、機動要塞デストロイヤーはこの街の北西方面からこちらに向かって真っすぐ進行中です。無理と判断した場合には、街を捨て、全員で逃げることになります。では、ご意見どうぞ!」

 

 どうしろというのだよ、こんな夢も希望もない防衛戦は。

 

「こんな時、ミツルギさんがいてくれたら……」

「ミツルギさん、どこに行ってしまったんだろうか……」

 

 一部の冒険者がミツルギだったらなんとかしてもらえると思っているだろう。

 それに関しては私達のせいでもあるんだけど、私はミツルギを頼る人達に聞いてほしい。

 魔剣グラムのないミツルギが、デストロイヤーを止められると思う?

 いないミツルギの事はいいわよ。私達だけでなんとかするしかない。

 だから疑問に思ったことはとりあえず意見を出そう。それで何かしら解決できる一つや二つが見つかるかもしれないんだ。

 

 

「……他にありませんか?」

 

 数分間、冒険者達が次々と意見を出すも会議は難航していた。

 とりあえず受け付け嬢の説明と、他の冒険者の意見を簡単にまとめてみると……。

 機動要塞デストロイヤーはとにかく速く、とにかく頑丈で、とにかく力強い。とにかく動いているだけで何もかも壊す。

 魔法は効かない。

 物理攻撃はほとんど効かない。

 投石やバリスタの兵器を使っても止めることはできないし、破壊されない。

 空からの奇襲は対策されていて撃ち落とされる。着陸しても戦闘用ゴーレムに待ち伏せされる。

 デストロイヤーを造った国は真っ先に滅んだ。

 防壁を張ってもデストロイヤーが止められなければ、穴を掘って進行を止めようとしても簡単に抜けられる。

 魔王軍はデストロイヤーを止める気はない。

 巨大ロープを更に束ねて脚を引っかけて転倒しようとするも、踏ん張ってすぐさま立ち直られてしまう。

 …………本当にどうしろっていうのよ。

 弱点がどこにもないじゃない。こんな天災兵器を駆け出し冒険者の街に来ちゃ駄目でしょ。

 というか、なんでデストロイヤーを造った国が真っ先に滅んでいるかな? もうちょっと頑張りなさいよ。例えば、暴走した時にデストロイヤーを止める装置とか物体とかさ、もしものために造ってくれてもいいじゃないの。

 …………でも、逆に言えば、挙げたものをどれか解決すればなんとかなるんじゃない?

 いや、できないから今も止める方法を難航しているし、今まで誰も止められないんだよね。

 

「イザナミ、何か案ない?」

「ごめんなさい。何も思い浮かばず、役立たずでごめんなさい。やはり私は役立たずですね……せめて私がバナナ変わりにデストロイヤーの脚を滑らせる役をしますので、許してください」

「デストロイヤーにとっては私達の事なんてバナナ以下のありんこにしかならないから無意味だって」

 

 ちょくちょく話が耳に入ってきているけど、誰もが上手く行くと思う案が一つもなかった。意見だけは飛び合う状況で何も進まない。

 このままでは会議するだけで、この街はデストロイヤーに破壊されてしまう。もしくは何も対策がないまま絶望の防衛線をしなければならない。

 ちくしょう……どうすればいいんだ。せめてめぐみんの爆裂魔法が通れば……。

 

「なあアクア。ウィズの話覚えているか?」

「え? 覚えているわけないじゃない」

 

 横にいたカズマは苦い顔をしたものの話を続けさせた。

 

「ウィズが言っていただろ。アクアの力なら、二、三人ぐらいで維持する結界を破れるって。なら、デストロイヤーの結界も破れるんじゃないのか?」

 

 あ、そうだ、そうだったじゃん! すっかり忘れていたけど、爆裂魔法を通す方法あった! 

 

「ああ、そういえばそんな事も言っていたわね。でも……やってみないとわからないわよ?」

 

 周りの期待が高まる中、アクアはどこか自信のない様子だった。

 珍しいというか……アクアだったら私にドンと任せなさいと胸張って言いそうな気がしたんだけど……試した事ないのかな? それだったら納得はできそう。

 でも、できないとは言っていない。

 私はアクアの気持ちが変わらないうちに頼み込んだ。

 

「アクア。悪いんだけど、やれるだけやってほしいお願い」

「そ、そうね……多分大丈夫、なはず」

 

 よし、後は途中で逃げ出さない様に気をつけるだけだ。

 

「でも結界を破れてもデストロイヤー本体にダメージを与える魔法が……駆け出しばかりのこの街の魔法使いでは火力が足りない……」

 

 喜ぶのも束の間。受け付け嬢が言った通り一つ解決しても、デストロイヤーを止める手段が見つかっていない。

 他の皆もどうすればいいのか再び悩んでしまった。

 だけどご心配なく。結界を破れる方法が見つかった今、私にはデストロイヤーを止める策がある。

 

「そこは大丈夫です。火力なら、うちのパーティーのめぐみんがいますから。だよね、めぐみん」

 

 悩む受け付け譲に言った私は、めぐみんを注目させるように手を使って仕向けた。

 並みの魔法で与えられないのなら、クレーターを作り出す程の火力がある魔法で破壊すればいい。駆け出し冒険者が集う街の中でそれができるのはめぐみんだけだ。

 この街にはめぐみんがいて、爆裂魔法を使える。その事実を知った冒険者の一人が口にした。

 

「そうか、頭のおかしいのがいるじゃないか」

 

 その頭のおかしいという言葉を強調するように、再びギルド内がざわついた。

 

「そうだった。頭のおかしいのがいる!」

「いたなぁ……頭のおかしいのが」

「名前忘れちゃったけど、頭のおかしい子がいるのが覚えている!」

「頭のおかしいのでなんとかなるかもしれない!」

「おい待て! 私の事を言っているなら、その略し方は止めてもらおうか! それと、名前忘れたって言った奴は誰ですか!?」

 

 当然、めぐみんは不名誉なフレーズに憤怒していた。

 完全なる風評被害だよね。ベルディアが頭のおかしい紅魔の娘呼ばわりしたあの日から、冒険者達はめぐみんのことを頭のおかしい奴だと認識する様に定着してしまった。

 

「おい、アスカ! まさかこういうことになるとわかっていて仕向けたんですか!? なんという卑劣な女!」

「めぐみんを怒らせてなんの意味があるんだよ。それより、めぐみんの爆裂魔法で結界を失ったデストロイヤーを破壊してほしいんだけど、できそう?」

 

 そのことを訊ねると、めぐみんは当然のように……とはならず、弱々しく返答した。

 

「えっと、その……わ、我が爆裂魔法でも、流石に一撃では仕留めきれない……と、思われ……る」

 

 本体を破壊する事は流石に難しいか……。

 

「だったら、デストロイヤーの片側の脚だけを狙って破壊してほしい」

「え?」

 

 私の要望にめぐみんは想定していなかったのか、きょとんとしていた。

 それを含めて私はみんなに伝わるように説明をした。

 

「私はアクアが結界を破れる前提で話を進めけど、めぐみんに片側の脚を狙えばなんとかなると思っている。理由は脚が弱点だから」

「弱点? デストロイヤーに弱点があるのですか?」

「えっと……まあ、明確に弱点とは言い難いですがおそらく、脚がデストロイヤーの致命的弱点の一つだと私は考えています」

 

 受け付け嬢の質問に答え、話を進める。

 

「私はデストロイヤーの存在は良く知らないけどが、デストロイヤーの恐ろしい所はほとんどの攻撃が効かず、それらを対処できる弱点が無い所と、機動力。これだけで大地を荒らし、小さな山すらも破壊する兵器であり天災とも恐れられる脅威となっている。だったら話は単純。デストロイヤーの脚を壊せばただの要塞になるはずだから、少なくとも街を踏み潰される心配はないんじゃないかな?」

 

 で、大丈夫だよね? あんまりうまく説明出来なかったけど、機動力を失わせれば後はなんとでもなると思いたい。

 クモの形状をしているのなら、脚はそこまで頑丈じゃないはず、だよね? 脚を破壊されたらホバリングして動く事ないよね? 再び脚が生える事もないよね?

 

「めぐみんには片側の脚を爆裂魔法で破壊してほしい。これなら出来る?」

 

 私はめぐみんに再度訊ねてみた。

 

「そう……ですね……脚だけなら、我が爆裂魔法でもなんとか大丈夫だと…………でも、今回に限っては私もどうなるのかわかないので……なんとも言えないですね」

 

 曖昧な返答だったが、私はそれにどこか納得してしまう。

 やはりどこか自信が失っている。今のめぐみんは不安な気持ちでいっぱいなんだろう。

 私も動く要塞相手に、爆裂魔法で本当に壊せるかどうか全然想像できない。 

 

「それに片側の脚を壊しても、もう片方で動くことはないのか? 相手はあのデストロイヤーだ。何があってもおかしくはない」

 

 一人のおっさんの冒険者の発言に私は片側の脚だけで動くデストロイヤーを想像した。

 ……すごいアンバランスに動きそうだなぁ…………もう片方動いたらどうしようもなくなるね。

 それにめぐみんの爆裂魔法で脚を壊したからといって、止まるとは限らない。例えバランスが崩れていても片脚だけで進んで来る事もなくはない。

 それを踏まえるのなら、片側もぶっ壊して完全に動かない状況を作ったほうが被害は少ないし、街を守る確率も上がる。

  

「そうなると、安全を兼ねてもう一人強力な魔法使いが必要なのか……」

 

 でもこの街は駆け出し冒険者しかいない。めぐみんみたいな一転特化のロマン砲を持つ冒険者なんているのだろうか……。

 そう思った時、タイミング良く扉が開いた。

 

「すみません、遅くなりました……! ウィズ魔道具店の店主です」

 

 中に入ってきたのは実は魔王軍の幹部の一人であり、リッチーであるウィズだった。

 とりあえず急いで来たのか、黒のローブの上に店で使うであろうエプロンをつけている。そのかっこうは炊き出しの手伝いにでも来た女将さんのようだ。

 ウィズに豚汁作ってほしいなぁ……デストロイヤーを止めたらお願いしようかな、なんて。

 しかし、何故ウィズはここに来たのだろうか。いや、本来は魔王軍の幹部という敵である存在が加勢してくれるのはありがたいことなんだけど。

 

「ちょっとあんた、なんでこんなところにいるのよ!」

「え、えっとアクア様。一応私も冒険者の資格を持っているのでお手伝いに……」

 

 タイミング良く、突っかかってきたアクアの問いに答えてくれた。

 すると周りの冒険者は、

 

「貧乏店主さんだ!」

「貧乏店主さんが来たぞ!」

「貧乏店主さん、いつもあの店の夢でお世話になっています!」

「貧乏だけど、店主さんが来た! これで勝てるぞ!」

 

 ウィズに対して熱烈な歓声を上げては歓迎していた。

 不安がっていた冒険者達の表情が和らぐ。戦場に現れた女神として見ているんだろうか、それくらい喜ばしい事なのだろ。

 

「なぁ、アスカ。なんでウィズが来たら急に騒ぎ出したんだ? もしかして俺達以外にもウィズがリッチーであることを知っているのか?」

 

 カズマが周りに聞こえない音量で話しかけてきた。

 

「んー……多分知らないと思うよ。みんなウィズのことを貧乏店主って認識しているっぽい」

「だよな……よくよく考えてみれば、敵であるリッチーを歓迎するのはおかしいしな。というか、なんでみんなして貧乏を強調するんだよ。やめてやれよ、ウィズが可哀想だろ」

 

 めぐみんの頭おかしい認識もそうなんだけど、この街の冒険者って結構失礼な奴多いよね。

 

「ん、なんだお前ら、貧乏店主さんのこと知らないのか?」

 

 私達の会話を聞いていたのか、もしくは歓声を上げていないから知らないと思われたのか、テイラーが話かけてきた。

 

「知らないわけじゃないんだけどね。さっきも自己紹介していたけどさ、ウィズ魔道具店の店主でしょ」

 

 そしてリッチーであり魔王軍の幹部でもある。これは言わないでおこう。

 

「ただ、こんなにも有名だったとは知らなかったのよ」

「そうだったのか。そう言えば、二人共遠いところから来たんだったよな。ウィズさんは元々高名な魔法使いで凄腕のアークウィザードとして名を馳せていたんだ。やがて引退して、しばらく姿を現さなかったんだけど、突然この街に現れて店を出したんだ」

 

 しばらく姿を現さなかったのは、ウィズがリッチーになって魔王軍の幹部になったからかな? それだと辻褄が合う気がする。

 

「それでなんでウィズが貧乏店主なんて呼ばれているんだ?」

 

 今度はカズマがテイラーに訊ねる。

 

「それは駆け出しが多いこの街では、高価なマジックアイテムを必要とする冒険者がいないのが原因だな。首都にでも店を出せば、もう少し需要はあると思うんだが……強敵と戦う訳でもない俺達が、高価な薬や超高額な魔道具を使うことはないからな。あと無駄に高いし。あの魔道具店に要があるとすれば、美人店主さんを見にこっそりと覗くことだけだな」

「いや、買ってやれよ」

 

 カズマのツッコミも私も同意した。

 

「ちなみに、ウィズさんはかなりの美人さんだろ。だからあの店にもかなりお世話になっているんだ」

「へーそのこと絶対に本人に言わないでよ」

 

 この街の冒険者達って、ほんとどうしようもない連中だな。

 でも、魔王軍の幹部であるウィズが味方になってくれるのは心強い。

 私は冒険者達にぺこぺこと謝っているウィズに近寄って声をかけて、デストロイヤーを止める方法を伝えた。

 

「……ということで、この方法でデストロイヤーを止めようと思うんだけど、どうかな?」

「そうですね……うん、私もそれがいいと思います。私も爆裂魔法で脚を壊しますので、後はそれを中心に作戦を組んではいかがでしょう」

「ウィズも爆裂魔法使えるんだ」

「あ、はい……めぐみんさんと違って、そんなに使う事はありませんが……」

 

 そもそもクレーター作る程の魔法を毎日毎日使っている方がおかしいから、あんまり使わない方が普通じゃね?

 改めてめぐみんはロマンを求める女だと再認識したところで私は皆の案をもとに作戦を組み立てた。

 

「では改めて今回の作戦を説明します」

 

 ある程度固まったところで、受け付け嬢の人が作戦を全員に指示を出した。

 

「結界を解除した後、爆裂魔法により脚を破壊。万が一、脚を破壊し尽さなかったら前衛職の冒険者各委員はハンマー等、鉄を破壊できる装備で破壊しそこなった脚を攻撃し、これを破壊。要塞内部にはデストロイヤーを開発した研究者がいると思われますが、この研究者が何かをするとも限りません。ですので、本体突入できる様にロープつきの矢を配備し、アーチャーの方はこれを装備してください。身軽な装備の人達は、要塞への突入準備を整えてください。以上で、説明を終えます。皆さんよろしいですね?」

 

 もうみんな覚悟は出来ている。あとは成功させるのみだ。

 

「やっぱり、遠くへ逃げたほうがいいんじゃないかしら」

 

 あ、一人覚悟できていない女神様がいた。いや、今回の作戦はあんたがいないと何も始まんないんだって。

 

「では、皆さんよろしくお願いします。もし作戦が失敗した場合は街を捨て、全員で逃げることになります。それでは緊急クエスト、開始です!」

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