この素晴らしき世界にハーレム女王を。   作:鮫島龍義

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この右手に殺意を

 この世界に来てからの二日目。

 入学式が終えた翌日の朝目覚めた時のように、わくわくと未知の領域に入り込むような、ドキドキ感を膨らませる希望に満ちたような気分だった。

 モンスターがいて、エルフがいて、冒険者がいて、魔王がいる、漫画やアニメ、ゲームに小説に出てくるような鉄板のジャンルであるファンタジーの世界。

 その世界が今の私にとっての現実世界なんだ。

 一日目は冒険者となり、仲間が増え、そして共にモンスターを倒す。言葉にすれば簡単だけど、その一日は案外濃い一日だった。

 そして二日目は、

 

「ねぇ、お嬢ちゃん。この街、昨日来たばかりで良くわからないんだ。だから、勝手なわがままになっちゃうけど、私にこの街を案内してもらえないかな?」

 

 私は可愛い女の子と口実を作ってデートしようとしていた。やっぱりファンタジーの世界に転生されたんだ。日本でもできることだけど、この世界でもできることならやるっきゃないでしょ。

 冒険者になったからとはいえ、目指すのは魔王退治でも救世主でも英雄でもない。

 いろんなヒロインを虜にするハーレム女王。ハーレム女王に私はなる!

 

「えーどうしようかなー……なーんてね。うん、大丈夫だよ」

 

 デートのお誘いに結構満更だったショートカットがお似合いの冒険者は、意外とお茶目だった。

 よし、貰った。この機会に交流を続け、いずれかは私のハーレムの一人にさせようではないか。

 日本では知人に止められることは多々あったけど、この世界なら私を知るものなどいない。

 もはや私を止められるものは、存在しないのだ。

 

「こんなところにいたんですね、アスカさん」

「この声……げえっ、イザナミ!?」

 

 私のデートを阻止するように、黒いフードを深く被り、顔を見せないようにしているイザナミが現れた。心なしか、少し強気に見える。死神の名残りなのか、外見だけだと不気味さを増している。今にも相手の命を刈り取りそうだと思われてしまいそうな恐怖がある。

 そんな外見で威圧をしているイザナミはデート相手の冒険者に近寄り、ご丁寧に頭を下げた。

 

「ごめんなさいごめんなさい。アスカさんが迷惑をおかけしました。お詫びとして、私のことを罵っても虐めてもかまいませんので、それで許してください」

「え、い、いいよ。許すもなにもこの子悪いことしてないよ」

 

 雰囲気は変わっても、中身は変わるはずがないってことを改めて認識できた場面だった。にしてもショートカットの冒険者さんは良い人だ。ドン引きしてしまいそうなイザナミの卑屈対して、気にしていない様子を偽っていない。

 とはいえ、イザナミが現れたってことは、先ほど謝った通りに私を止めに来たのだろう。つまり、ここにいると、イザナミの口で私の性的指向がバレてしまう……いや、バラさなきゃ認識してはくれないけども。だから、そういうものを計算して、気持ちを告げないと彼女は私のことを意識しない。そしてそれを告げる気持ちは今ではない。

 今ここで知らされるのは違う。まだ出会ったばかりで誰とも接点のない人に知られたら、きっとヒロイン候補から、ただのモブへと降格させられてしまう。相手はそんなことを気にしないけど、私にとっては重要なことだ。

 ……仕方がない。チャンスはまだある、はず。ここは引こう。

 

「ごめん。恥ずかしかったんだけど、実はさ、この子を探していたんだ」

「……そうだったのですか?」

 

 ごめん嘘。イザナミが何も疑わず、首をかしげる仕草に可愛いと思いつつ、そのピュアな心で罪悪感が沸く。

 すまん、イザナミ。今だけ、心を鬼にする。

 

「そういうわけだから、私達は行くね。また会おうね!」

 

 ヒロイン候補の冒険者に別れを告げ、私はイザナミを連れてこの場から去ることにした。

 さようならは……言わない。何故なら、また逢えるから……。

 だから君の声は再会した時にたっぷりと訊こう。

 また逢うことを願う冒険者が見えなくなったところで、私はイザナミに問い詰めた。

 

「ちょっとイザナミ! なんで私の邪魔をすんの!」

「ご、ごめんなさい……でも、そうしないとあの人が可哀想です……」

「それを言われている私が可哀想だとは思わんかね、君は」

 

 確かにちょっとズレた恋愛に発展せざるを得ないから、そういう意味では可哀想なのかもしれないけど、そこまで言わなくてもいいじゃん。

  説得力がないから言わないけどさ、普通の恋愛が幸せになることはないし、普通じゃない恋愛が幸せになることだってあるかもしれないよ。

 にしても、本当に私が女の子と絡む時は性格が変わるように強気になるよね。普段もそれでいてくれれば自分のことを非難しなくても済むのに……。

 

「……まぁ、あれよ。イザナミは可哀想だと思っているけど、それは勘違いだ」

「勘違いじゃないと思います……」

 

 一体どこからその特定を否定できる自信があるのだろうか……。

 

「確かに、女の子と同士の恋愛はいつか衝突が起こり、そして不幸にさせてしまう難題だって理解している。でもね、それは間違いではなければ、けして無理なことじゃないんだ。諦めたら何も導かないし、手に入れることができない。そして幸せにすることだって絶対に無理になってしまう。私が諦めたら、幸せを掴むことはできない。そして必ず幸せにさせる。目指すは、幸せのハーレム女王。私のハーレムのヒロイン全員は必ず幸せにさせるわ!」

 

 自分でも良い宣言だと絶賛しつつ、イザナミが被っているフードを取り出て顔を晒し出す。

 出て来たイザナミの表情は可愛いと思いつつ不満そうだった。

 

「もう私のことをわかっているなら、隠さないわ。イザナミは必ず、私の嫁の一人にさせるからね」

「そ、そういうのは、い、いいです……ご、ごめんなさい」

 

 ……なんとも言えない塩対応された。苗字の志尾だけにね。

 普通に困っているし、謝り方も精一杯な感じがしない。それがなんともリアルで結構心にグサッと刺さるものがある。

 ぶっちゃけ落ち込みます。何がいけないのかなぁ……。

 イザナミは中々手強い相手だ。てっきり優しくすれば、コロッと私にキュンキュンな恋を抱くと思っていた私が甘かった。きっと何年かけてもイザナミは私を好きになることはないのかもしれない。

 でも逆に考えれば、デレた時の破壊力は凄まじく、攻略し甲斐がある。

 希望はまだ堕ちていないんだ。

 

「まぁ、今のイザナミなら断ると思っていたよ。今日の所は諦めるとして、とりあえずカズマ達のところへ行こう」

「この先も私が断り続けると思いますが……カズマさん達がどこにいるのかわかるのですか?」

 

 さらっと私の挑戦に釘を刺しやがったよ。

 

「おそらく冒険者ギルドにいるでしょ。いなかったらいなかったで別にいいじゃん」

「……デートはお断りですよ」

 

 ずっと告白とかしていれば、イザナミはずっと強気でいられるんじゃないかな?

 

 

 冒険者ギルドへやってくると酒場では大変盛り上がっていた。

 

「アクア様! もう一度……もう一度どうか、どうか『花鳥風月』を!」

「お金なら払います。なにとぞ、なにとぞ『花鳥風月』を!」

「ばっきゃろ! アクアパイセンは金よりも食い物だ! そうですよね、アクア様! 好きな物を奢りますので、もう一度『花鳥風月』をお願いします!」

 

 大の大人達がアクアを囲んで花鳥風月というものを懇願していた。

 

「花鳥風月?」

「美しい自然の景色や、自然の風物を題材と詩歌や絵画などの風流を重んじる四文字熟語のことですね」

 

 その四文字熟語の意味をイザナミが答えてくれた。

 ……つまりいろんな自然の美しいさを表す言葉かな……? それを残念系であり、自称女神系であるアクアがその才能を持っており、大人達が嘆願するほどの魅力があるのか。

 ……それはちょっと見てみたいな。

 

「いい? 芸って物はね、請われたからって何度もやる物ではないの! 私は芸人じゃないし、芸でお金を受け取る訳にはいかないの! これは芸をたしなむ者への最低限の覚悟よ!」

「おおぉ……流石アクア様だ」

「お、俺達が間違っていました! それと感動したっす!」

「金儲けに使うことはせず、お稔りも受け取らないその姿勢に自分は一生ついていきます!」

「アクアパイセン、マジ感動したっす!」

 

 大人達がアクアの格言を受けて感動している。ある者は期待の眼差しで、ある者は希望の光を浴び、ある者は感動して号泣する者もいる。そして満更でもないアクアが降臨していた。

 ……初めてアクアが輝いてみえる。これが本来の姿なのか?

 

「おや、アスカにイザナミ。来ていたんですね」

 

 紅魔族にして随一の爆裂魔法使いのめぐみんが声をかけながら寄ってきた。

 

「……アクアは凄いですよね」

 

 めぐみんは人だかりを作っているであろうアクアを見て関心していた。

 

「確かにアクアが輝いているけど……何が凄いことなの?」

 

 この世界の住人であるめぐみんなら知っていると思って訊ねてみた。

 

「そうですね……宴会芸スキルであそこまで人だかりできるのは初めて見ました」

「…………宴会芸?」

「はい。宴会芸です」

 

 宴会芸とは、一発芸からモノマネ、コントに歌や踊りなど盛り上げるために披露するもの。

 つまり、あの人達はアクアの宴会芸を素晴らしい才能と証して懇願していたといのか。

 思っていたのと違う!

 花鳥風月って、なんかこう……もっと静かな感じで、日本古来の風流を感じさせるようなものだと思っていたよ。そうしたら、みんなでわいわい盛り上がるような真逆なものだなんて……っ。

 そういえば昨日、他の魔法よりも宴会芸スキルを真っ先に取ったようなこと言ってたな。真っ先に宴会芸スキルって、やっぱ残念系だ、あの自称女神は。

 

「ちなみに花鳥風月を習得するのに5ポイント取ります」

 

 思ったよりも高いよ。

 私は……いいや、習得しない。

 花鳥風月が宴会芸だと知ってしまった私は、気を取り直してめぐみんとイザナミと一緒に、近くにあったテーブルに座ることにした。

 

「そういえばカズマ見ないね。めぐみん何か知ってる?」

「カズマなら金髪の人と盗賊の人に盗賊スキルを教えに出て行きました」

「……ちなみに女?」

「女です」

 

 畜生、羨ましいっ! カズマのくせに、私達をカエルの囮にさせようとした人間のふりをしたゴミのくせに、女の子とイベントフラグを立てるなんて、卑怯にも程がある! こっちなんてな、イザナミのせいで一人ヒロイン候補が遠のいたっていうのに!

 ……帰って、恋人作っていたら別れさせるか。

 

「あれ? 人からスキルを教えることができるのだったら、めぐみんの爆裂魔法を私に教えることもできるの?」

「爆裂魔法に興味あるんですね。わかります!」

「うおっ!?」

 

 めぐみんが食いついてきて嬉しそうな顔をするも、すぐに悲しそうに変化してしまった。

 

「アスカに教えて共に爆裂道を歩みたいと思いましたが悲しいことに、爆裂魔法を使えるのはアークウィザードか全てのスキルを習得できる冒険者しかいないのです。そもそもゲイルマスターは魔法では風魔法しか覚えられませんから、どっちにしろ無理なのです」

 

 落ち込んでいるめぐみんにこんなこと言えないけど、別に爆裂魔法が使いたいわけじゃないんだよね。教えてもらうイベントが欲しかっただけなんです。

 イベントは進めなかったけど情報は手に入った。最弱職と言われている冒険者でも爆裂魔法を含め、私のゲイルマスターやイザナミのデスサイザーでしか習得できないスキルも覚えれば使用できるのか。

 それだけ聞くと、一番強い役職は冒険者であり、どこが最弱なんだと……某劣等生のお兄様並に嘘くさいと思ったけど、最終的には器用貧乏になりそうな予感がする。

 

「あ、カズマが帰ってきましたね」

 

 噂をすればなんとやらか。ちぇ、せっかくめぐみんとイザナミとでキャッキャウフフなトークでもしようと思っていたのに……。

 不満があるもののカズマに近づく。恋人作ったら、即行で別れさせてやる。

 

「ちょっとカズマ、どこ行ってたのよ。私の華麗な芸を見ないでって……その人どうしたの?」

 

 人だかりから解放してきたアクアが合流してくる。

 戻ってきたカズマの隣には、軽装で顔に切れ傷が特徴の銀髪美少女。何故か泣いている。

 そして銀髪美少女の一歩後ろには昨夜仲間入りを申し込んできたクルセイダーである金髪美女。何故か顔を赤らめていた。

 

「ねぇ、カズマ。その人達、どうしたの?」

 

 思わず状況が読めなかった故に私は訊ねてしまった。

 

「ああぁ、実は……」

「うむ。クリスはカズマにパンツを剥がされた上に、有り金を毟られて落ち込んでいるだけだ」

 

 金髪美女の証言で私はカズマがゴミに見えてしまった。

 

「カズマ……あんた……」

「お、おいアスカ、そんなゴミを見るような目で見るな! それは誤解なんだ! つか、あんた何口走っているんだ!」

「財布返すだけじゃ駄目だって……じゃあいくらでも払うからパンツ返してって頼のんだら……自分のパンツの値段は自分で決めろって」

 

 おそらくクリスであろう銀髪美少女の新たな証言により、私達はドン引きしてしまう。

 

「か、カズマさん。私よりも生きている価値ないんですね……」

「お、おい、待った! それは流石に心が抉られる! これも誤解だ!」

 

 イザナミの卑屈っぷりにツッコミたいところだけど、そんな卑屈なイザナミすら非難するカズマもどうなのよ。

 カズマも言っていたけど、心が抉られてしまい顔が真っ青になっていた。

 

「それだけじゃないんだ。提示する値段に満足しなかったら、あたしのパンツを我が家の家宝として奉るって」

「ちょ、それも誤解だ! 間違ってないけど、ほんと待てって!」

 

 さらに続く銀髪美少女の証言により、カズマの仲間である私達だけではなく、周囲の女性冒険者から同性の冒険者までもカズマに冷たい視線を送っている。それは当然の結果であった。

 

「カズマ……いえ、クズマ」

「クズマ!?」

「そうよ、あんただよクズマ。それだけのことをしでかしているのに何を仰天しているのか、私には理解し難いよ。昨日自分がまともなことを言っていたようだけど、人間的に一番まともじゃないってことがよ~くわかったよ。やっぱり正真正銘の人間のふりをしているクズだったとはね! 冗談のつもりが本物になるとは思った通りだったよ」

「思った通りなのかよ……。そうじゃなくて、ほんと誤解なんだって!」

「でも、間違ってないってことは、やったんだよね?」

「いや、だからな」

「やったんだよね?」

「い」

「やったんだよね?」

「そ」

「やったんだよね?」

「……はい、スティールって言う盗賊スキルを使ったら、クリスさんのパンツを盗むことになりました」

 

 うむを言わせず、カズマことクズマの口から言わせることに成功させた。

 やっと罪を認めたか、これで誤解だと言い続けていたらゴミのように燃やそうかと思ったよ。

 

「そのスティールでクリス……という美少女のパンツを盗んなんだ。言葉にしてみると本当にクズなことしているよね」

「言い逃れはできないし、確かに結果そうなったけど! 俺は最初からパンツを盗もうとやってない!」

「ふーん……」

「……その目は信じていないようだな……」

 

 そりゃそうだもん。クズマなら平気でパンツを盗み出そうだし、パンツを振り回して狂喜乱舞しそうだもん。

 

「……わかったよ。自分の潔白は自分で証明する。俺がけして、最初からパンツを盗もうとしたわけではないってことをな!」

 

 カズマは右手を突き出す。

 

「『スティール』ッ!」

 

 そしてスキル叫ぶと右手が煌いた。きっとあの右手には誰かのパンツを盗んだんだろう。それとも本当に故意じゃないのか? それだったら……普通に謝ろう。

 ……それにしても、なんか下あたりが違和感あるなぁ……。

 なんというか、風通りがよくなった。そう、なんかスース―する。

 スース―する?

 …………まさか。

 

「……あれ、なんだこれ」

 

 カズマの両手には赤色のパンツをびよーんと伸ばしている。公衆の場で、みんながいる中で、ヒロイン候補達の前で、パンツをお披露目している。私のパンツで。

 それを理解した私は、不思議と恐ろしいくらいに冷静になれた気がした。

 同時に、何かが切れた気がしなくもない。

 

「……クズマ」

「あ、あれ、おっかしいな……クリスが言うにはランダムで盗めるはずなんだけど……」

「懺悔の準備は、もうできているよね?」

「え、ちょっ、まっ」

「いいよ。まずはその戯言を」

 

 私は右手に殺意を込め、腕を思いっきり振りかぶって、

 

「すみま」

「ぶちのめす!」

「ぼふぁっ!?」

 

 土下座しようとしているカズマを阻止するように右ストレートで殴り飛ばした。

 人間、怒りが頂点に達すると逆に冷静になれるんだね。

 

 

「反省した?」

「はい、反省しました……」

 

 カズマは自分のやった罪に対し、深く反省してもらった。

 ……本当はまだ許さないし、もっと殴りたかったけど、私もそこまで鬼ではないから今回だけは一発だけで許してやろう。

 ……許したところで、周囲の評価が下がったままなのは変わりないけどね。それはカズマの自業自得だ。

 それにクリスが「パンツ盗られたからって、めそめそしてもしょうがないね。じゃあ、あたしは下着を人質にされたおかげでお金を失っちゃったから、稼ぎが良さそうなダンジョンに行ってくるね!」と、些細でカズマの評価にダメ押しをするかのようなことを言い残して行ってしまった。今思えば、カズマにセクハラされて傷ついたんだろうけど、心に余裕を感じられた気がする。むしろ弄っていたかのような発言もしていた感じがする。

 また彼女と会ってみたいなぁ……その時は、私がクリスを盗もう。そう、貴女の心という……スティールを。

 ……絶対こんなこと言わない方が良いわね。

 

「やはり間違いではなかった!」

 

 金髪騎士……クリスが言うにはダクネスという名のクルセイダーが何故か、目を輝かせながら私とカズマの間に入ってきて、テーブルをバンッと叩いてきた。ついでに隣に座っているイザナミがヒッと小さな声を漏らして驚いてしまったようだ。

 

「こんな健気な少女の下着を公衆の面前で脱ぎ取るなんという、なんて鬼畜だ許せない! だが、是非とも……是非とも、私をこのパーティに入れてほしい!」

「いらない」

「あはんっ! くっ……!」

 

 カズマの即答に、ダクネスは頬を赤らめては快感を味わうかのように身を震わせ、喜んでいた。

 やっぱりこの人、本物のドMだ。そんでもって変態だ。だけど美人だから許せる!

 

「ねぇ、カズマ。この人誰? 昨日言ってた、私とめぐみんがお風呂に行ってる間に面接に来たって人?」

「そうだね」

「だからなんでお前が答えるんだよ……」

 

 だってカズマのことだ、またおかしい人が増えるのはごめんみたいな感じで入れさせないようにするじゃん。

 

「ちょっと、この方クルセイダーではないですか。断る理由なんてないのですか?」

「そうだよねーめぐみん。私も入れた方が良いって言っているんだけど、カズマがねー……」

 

 ちらっ、ちらっとカズマに視線を送る。きっとカズマのことだ、アクアとめぐみんには会わせたくないと思っていたようだったし、昨日カズマが上手いこと理由をつけて、あの場から去って回避したつもりだったようだね。しかし、残念ながらそれも無駄のようだったね。

 さあ、カズマはどうやって回避しようと無駄に足掻くかしらね。

 

「みんな聞いてくれ。俺とアクアはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

「……その割には土木作業していたらしいじゃん」

「言うな。それは俺も自覚している」

 

 昨日アクアに聞いたんだけど、最近までクエストせず土木作業していたらしい。

 転生して異世界に来たのにも関わらず、冒険しないで土木作業の一日を送るって……それ、全国の異世界転生に憧れる人々に、厳しい現実を突きつけているじゃないか。

 躓きそうになったけど、カズマは話を続け始めた。

 

「昨日、一昨日はカエルに苦戦していたけど、それでも魔王を倒したい。そうなると、俺達の冒険は過酷な物になるだろう。特にダクネス、女騎士であるお前は、魔王に捕まってしまったらそれはもうとんでもない目に遭わされるかもしれない」

「ああ、そうなるかもしれないな。昔から魔王にエロい目に遭わされるのは、女騎士の仕事と相場が決まっているからな。それだけでも行く価値はある! 尚更私を仲間に入れてほしい!」

「え?」

「え? なんで驚くんだ? 何かおかしなことを言ったか?」

 

 おかしなことを言ったって言えば、おかしなことは言った。カズマが求めそうな答えじゃないもんね。

 

「めぐみん、相手は魔王だ。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうとしているんだぞ。そんなパーティに無理して残る必要はないんだ」

 

 こいつタグネスを後回しにしてめぐみんをやんわりと追い出そうとしやがった。

 そう思っていたら、めぐみんはガタンと勢い良く立ち上がる。そして右足をテーブルに乗せ、バサッとマントをひるがえす。

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者! 我を差し置いて最強を名乗る魔王という存在は我が最強魔法で消し飛ばしてみせましょう!」

 

 良い笑顔と良いドヤ顔で発する。

 カズマは追い出そうとしたどころか、めぐみんにやる気をさせてしまったようだ。

 

「アスカ」

「私は抜ける気ないから」

「まだ何も言ってないだろ!」

 

 いや、だってこの流れだと、私も追い出そうとしているから、断るのは当然じゃないかな。

 

「そもそも、私も魔王を倒すために仲間が欲しくてカズマの仲間になったんだから、抜けるわけないじゃん……ここ女いるし」

「お前、絶対魔王退治なんて二の次だろ」

 

 フッ、この男はなにを言っているだ。まるで魔王退治がおまけみたいなこと言っているじゃないか。

 そんなの当然じゃん。私の目的はハーレム女王だもの。

 

「……そんなんでいいんですか?」

 

 左隣にいるボソッとイザナミに言われる。別にそんなんでいいんです。誰がどう言われようが、魔王退治は二の次で、真の目的はハーレム女王なんですもの。

 なんのために日本から転生した。

 そんなの決まっている。

 ハーレム女王になるためだ。

 

「……イザナミ」

「え、あ、はい……仲間なのにも関わらず、皆さんとあんまり会話してなくてすみません……」

「いや、そこで謝ってもらいたいわけではなくてだな。むしろこっちから謝りたい。何度も言うようだけど、俺達は魔王退治に行くんだ。きっとその道はかなり厳しいものになっていくだろう。例え乗り越えたとしても、あの恐ろしい魔王と戦って生きていられるかわからない。だから臆病なイザナミが無理して俺達についていく必要はない」

「え、その……」

「抜けたという罪悪感を抱く必要もない。これは重要なことなんだ。だからけして、俺はどんな選択をしようがイザナミを責めない。俺としては、こんなところにいない方がイザナミのためになると思うが、決めるのはイザナミなんだ。考えてくれ……」

 

 おい、こら。まるで私達と一緒にいると、イザナミのためにならないこと言っているんじゃねぇよ。

 いい加減諦めなさいよ。むしろ、みんなのやる気を上げさせているだけだって。

 

「……そうですね」

 

 ダクネスとめぐみんと違って、イザナミが魔王退治にやる気を上げさせることはない。つまりそれはイザナミが説得しやすいってことだ。万が一でも、イザナミはカズマの言われた通りにチームを抜けてしまうのかもしれない。

 イザナミが出す、答えとは……。

 

「つまりカズマさんは私が役立たずのゴミクズだから、さっさとここから出て行け。さもなければ、スティールでパンツを盗むという脅しですね。当然ですね、実際私はいらないゴミなんですから」

「い、いやそういうわけじゃないよ!?」

 

 ……うん。

 なんとなく、そんな風に返ってくると思っていた。

 一方のカズマは地雷を踏んだかのように、しくじったという言葉を顔で表していた。そんでもってカズマが顔でどうにかしろと、訴えてきた。

 

「へーカズマって、イザナミのことをそんな風に思っていたんだー! あ! だから遠回しに私達のことを」

「よーし、イザナミ! 俺が言いたいことはな、大変だけどこれからもよろしくってことなんだ。これからもよろしくな!」

 

 笑顔でイザナミに伝えると、ギロッと私を睨んできた。

 なによ、カズマの表情通りにどうにかしたじゃない。私は悪くありませ~ん。

 

「言葉には気を付けないとね」

 

 そして私は笑顔でカズマに言ってやったった。するとカズマは、ブルブルと震えさせるように右手を握りしめていた。

 悔しいでしょね、自分の思い通りにならなくて。これを機に追い出そうと考えないことね。

 

「……あの、アスカさん」

 

 イザナミが小さな手で左腕を摘まんできた。かわいい。

 

「わ、私……カズマさんには残っていていいと言ってくださりましたが……なんか、誤魔化している感じがしました。もしかしなくても……気を遣われてしまいましたか?」

 

 イザナミがそう思われるのも無理はないだろうね。だって、私がわざとみんなに聞こえるように声を張って、カズマを悪者扱いにさせようとしたもの。ただでさえ、先ほどのスティールの件で外道であることを知れ渡ってしまったんだ。カズマとしてこれ以上、自分を悪者扱いにされたくはないだろう。

 ざまぁみなさい。異世界に転生したからといって、思い通りに行くと思ったら大間違いなのよ。

 

「カズマも本気で言っているわけじゃないから気にする必要はないよ。深く考えず、ここで私達と一緒に魔王退治を目指したらいいんじゃないかな」

 

 イザナミの頭をポンポンと、優しく叩こうとしたら振り払われた。

 ……もう一回、イザナミの頭をポンポンと、優しく撫でるように手を置こうとしたら振り払われた。

 

「……イザナミ?」

「き、気安く触らないでください……」

 

 そのうちイザナミから酷評をされそうね。

 そんな風に思っている時だった。

 事件は唐突に発生した。

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は至急正門に集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は至急正門に集まってください!』

 

 その警報は、この世界が異世界であり、日本ではないことを強く痛感させることになるものだった。

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