渋谷としまむら   作:Luigi Bloom

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同じプロダクションですが、正直うづりんもみおあいも関係ないです。
また脱線ですが、読んでいただけると嬉しいです。

佐久間まゆちゃんとそのプロデューサー(女性)の話です。
これはオリジナル主人公って事になるんですかね?

次こそはうづりんかみおあいを書くつもりですので……




まゆと女プロデューサーと隠せない気持ち

 佐久間まゆちゃん。

 プロデューサー業を始めて数年経つけれど、こんな子は初めてだった。

 愛らしくおっとりとした顔つきに、健康的でいて小さな身体。更にそれを百パーセント以上に魅せる技術と経験。その天性の容姿と努力の技術に負けていない、甘くとろけるような声。

 私に言わせれば、仕事のジャンルにもよるだろうけど、およそ「非の打ち所が無い」と言っていい。そう思わせる原石だ。

 

 そんな彼女だが、芸能界でやっていく上で大きな問題がある。

 

「プロデューサーさん……書類にサインはしていただけましたかぁ?」

「確認はしたよ。でも婚姻届はどうやったっておかしいよね? 現役のアイドルとは無縁でなきゃいけない書類だよ?」

 

 ……彼女はプロデューサーに恋をしていた。

 

「いいじゃないですか、役所に提出するわけじゃないんですから」

「そりゃあね。国が許してくれないよね」

「大丈夫ですよぉ。愛があれば性別なんて、です♪」

 

 ……そしてそのプロデューサー、つまり私は女性である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まゆをどうにか寮に返した後、パソコン前で事務仕事の山を切り崩していく。一緒に帰るとか私の家に来るとか色々言っていたけど、寮はここから近いし送るまでもない。そのまま無視して放り出した。どうして私にそこまで執着するんだろうか。

 断っておくけれど、私は決して同性愛がどうとか言うつもりは無い。むしろ私も女の子の魅力がわかるからこそ、こういう仕事が出来てるんだと思う。まゆはとても可愛いし、私がその辺の男だったら抱きしめるのを我慢できないような魅力を持っている事は間違いない。

 ただ、あくまで私はプロデューサーであり、まゆはアイドルだ。この関係で恋愛をしただけでも大問題なのに、増して女性同士ともなれば三流ゴシップ誌どころかマスコミ全体の餌食になってしまう。

「それはその問題さえ無ければ、手を出しちゃうってことですか?」

「心を読むのやめてくださいよ、ちひろさん」

 目に優しくない蛍光グリーンのジャケットが私を掻き乱しに来る。彼女の名前は千川ちひろさん。普段は別のプロジェクトチームで事務員をしているんだけど、余裕がない時はたまにこっちの部署を手伝ってもらっている。ちひろさんとは割と仲良くしてもらっていて、基本的に優しいし仕事も出来るし可愛いんだけど……ちょっと倹約が過ぎるのとイタズラ好きなのがよろしくない。

「まあいいや、この際だから聞いちゃいましょう。……女同士の恋愛って、どう思います?」

 うーん、と唸りながら腕を組んで、首を傾げる。わざとらしい仕草だけど、不思議と嫌味に感じないのも彼女の魅力の一つかもしれない。

「言っていいのかわかりませんが」

 もったいぶって、そう前置きをして。

「私のプロジェクトチームに所属してるアイドルが、まさにそうですよ」

 私にとっての爆弾が投下された。

「えっ」

「しかもアイドル同士で」

「えっ!?」

 驚いた。それなりに今の知名度も伸びしろも高いアイドルたちがそんな爆弾を持っていたとは。

「誰か、って聞いても大丈夫ですか?」

「うーん……まぁあなたなら言っても大丈夫ですよね。渋谷凛ちゃんと、島村卯月ちゃんです。それから本田未央ちゃん、双葉杏ちゃんと諸星きらりちゃんと……」

 矢継ぎ早に今人気急上昇中のアイドルの名前が出てくる。開いた口が塞がらない。マジか。

「へぇー……その、大丈夫なんですかね?」

「何がです?」

 何がって、なんでそんなにあっけらかんとしてられるのか、の方が私としては疑問ですよ。

「すっぱ抜かれたりとか、無いんですか?」

「あぁ、それは大丈夫……じゃないですか? 彼女たちは大人ではないにしろ、もう子供じゃないんですから。それに、女の子同士だからこそ出来てるカムフラージュもあるでしょうし」

 大人じゃないけど、子供でもない。なるほど、あの年齢を例えるならすごく適切な言葉かもしれない。カムフラージュだって、お泊りデートも他所から見れば「パジャマパーティ」と言い換えられる。手を繋いで歩いててもおかしくない。その上である程度の分別がついていれば、問題ないのだろう。

「いいじゃないですか、まゆちゃんを夜通しの打ち合わせーって言って家に連れ込んじゃえば。きっと喜んでついてきてくれますよ」

 考え込む私を尻目に、事務作業とお喋りを並行して続けるちひろさん。その上で私をイジる事も忘れないなんて、器用な人だな。

「……まゆの『好き』は、ただの恋愛への憧れですよ」

「じゃあ、あなたの『好き』は違うんですか?」

 言われて、息を呑む。図星を突かれたような反応をしてしまった時点で、もう私の負けだった。私から本音を引き出した満足感か、ちひろさんが微笑むのを見て悔しさで悪あがきをしたくなる。

「私も二十代半ばで、友達の結婚報告とかがチラついてくる年齢になりまして。生涯を添い遂げる相手を探さないといけないんですよ」

「あら、上手く明言を避けましたね。さすが業界人です」

 二の句が継げずにすすったコーヒーは、苦い敗北の味がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りました」

「おかえり、お疲れさま。こないだの雑誌のやつで撮影した写真、届いてたよ」

 まゆが入ってきて、事務所が一瞬にして甘い声と匂いに満たされる。それを出来る限り意識しないようにして、テーブルの上の封筒を渡した。

「うふ、まゆの姿、見てくれましたか?」

「いや、一緒に見たかったし、まだ空けてない」

 まゆが一瞬驚いてから心底嬉しそうな顔になるのを見て、やっと自分の失敗に気付いた。少しでも気を持たせるような事を言ってはいけないと思っていたのに。うーん、上手く距離を取るってどうしたらいいんだろう。

「開けてみなよ」

 とにかくこれ以上余計な表情を出さないように気をつけながらハサミを手渡す。気が急いてか、危なっかしい手つきでせっせとハサミを動かすまゆを見て愛おしさを感じてしまった。この感情を自覚すればするほど、まゆに惹かれて、ドツボにハマっていっちゃうんじゃないかと不安になる。

 ……これはまずいなぁ。

「プロデューサーさん、どうですか?」

 ちょっとだけしたり顔で、記事になるであろう写真を見せてくる。こちらを見つめる写真の中のまゆは、実物にも負けずにキラキラと、それでいて眩しすぎない優しい光を放っていた。

「うん、可愛いね。写真越しにも引き込まれちゃいそう。さすが私の育てた『アイドル』だ」

 アイドルを強調して言う。プロデューサーとしての発言なら、全く問題は無いだろう。

「嬉しいっ! まゆ、プロデューサーさんに可愛いって言ってもらいてくて、頑張ったんですよ?」

「こらこら。トップアイドル目指すなら、私だけにウケてちゃダメでしょ?」

 あくまで余裕のある大人を演じて受け流すが、内心は覗き込んでくる表情に動揺しっぱなしだった。まゆの目はよく「光がない」なんて言わてるけど、よくよく間近で見ればそんなことはなくて、感情が昂ぶったまゆの潤んだ瞳は輝いて、私をよく映す。

「でも、お仕事的な意味でもまずは一番にプロデューサーさんに可愛いって思ってもらわないと。ですよね?」

 言葉だけ見れば確かにその通りだ。一応まゆをイメージして私が受けた仕事だし、その確認という意味なんだろう。

「それでも、だよ。私一人がそう思ったって意味がない。それに言い方は悪いけれど、自分で育てた『商品』っていう贔屓目があるかもしれないしね」

「……大丈夫です。まゆ、わかってますし、本気ですから」

 微妙に会話が繋がってないような事を言って、まゆは再び紙面に目を落とす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく日も沈んだ頃、私は事務所に一人残って、書類の山と対峙していた。今日は全体的に帰りが早いスケジュールみたいで、うちの部署の事務員やアイドル全員含めても私しかいないみたいだ。

 っていうか最近毎日残業してるんだけど、労基は何をしているんだろう。ここに囚われのお姫様がいますよー、なんて思って、自分で笑ってしまう。どちらかと言えば私はプリンセスなんかじゃなくて、シンデレラを舞踏会へ送り出す魔女だし。

 そういえば偶然かはわからないけど、小学校でやった劇の演目がシンデレラで、その時も私は魔女をやっていた。もっと言えば、その時シンデレラ役をやっていた女の子は私の初恋の人だ。当時の私は幼いながらも、自分の恋心が表に出さない方が良いものである事はわかっていたから、初恋が実ることはなかったけどね。臭いものに蓋をして仕舞い込んだ恋心を思い出して、少しだけセンチメンタル。

 あれから十何年経って、私はまた魔女をやっていた。あの頃と違うのは、私はもう魔女の役目を理解している。愛してしまったシンデレラを着飾らせて、カボチャの馬車に乗せて、王子がいるであろう舞踏会へ送り出すのだ。二十代も半ばを迎えてメルヘンな趣味は捨てなきゃいけない年齢に差し掛かったし、改めて魔女の本懐を自分に言い聞かせる。シンデレラは、私のものにはならない。

 

 不思議なもので、考え事をしながらも仕事は少しずつ消化されている。一息つこうとコーヒーを淹れに立ち上がると、少しだけドアが開いて部屋を覗き込む影が入ってきた。

「……お疲れ、まゆ。どうしたのこんな時間に」

「お疲れ様です、プロデューサーさん」

 いつもより少しだけおどおどしているまゆに不審を抱くけど、抱きしめた小さな包みを見てなんとなく状況を察する。

「プロデューサーさんがまだお仕事してるって聞いて、まゆ、お弁当作ったんです……」

 ピンク色の可愛らしい包みを差し出されて、思わず受け取ってしまう。一瞬だけ遅れて気付く。これではまた、いつものように。

「まゆ」

 思ったよりも語気が強くなってしまったが、まゆは全く臆した様子がない。

「ありがとう、気持ちはすごく嬉しい。でも、明日はまた大事な撮影があるでしょ?万全の状態で臨めるようにしておくのがプロってものだよ」

 あくまで傷つけないように、でも呆れているように見える演技をする。アイドルとは言え、十代半ばの女の子に見破られるような演技はしていないつもりだった。私だって伊達に芸能界という世界で社会人としてやってきてないからね。

「でも、プロデューサーさんが仕事してるのに……」

「まゆ」

 二度目。無理矢理、目と声で押さえつける。こんなことはしたくないんだけど。

「……わかりました。ごめんなさい。けどせっかく作ったので、よかったら食べてもらえませんか?」

「ありがとう。これは美味しくいただくね。今日はもう帰って、ゆっくり休んで」

「はい、プロデューサーさん。……おやすみなさい」

 少しだけうつむき加減で出ていくまゆから、罪悪感がのしかかってくる。

「おやすみ……」

 心なしかいつもより重く閉まるドアの音が、胃の奥に沈んでいく感覚がした。

 

 改めて一人きりになった部屋で、お弁当の包みを広げながらまた考え込む。最近の私は考えてばっかりだ。

 気になったのはまゆの様子だ。「ごめんなさい」なんて口ではしおらしくしているが、なぜか表情や雰囲気はそれほどでもない、確かに悲しそうにはしているが、私の想像するほどではなかったという感じだった。もしかしたら自分で思ってるほど想われていない、自意識過剰だったのかなと思ったが、あの時の私は自分を押し殺すことに精一杯でそこまで気にする余裕は無かった。もし私の自意識過剰であったならいい。後でちひろさんにでも自虐的に話して、また自分の心に蓋をすればいいだけだ。

 でも、もしそれ以外だったら……。

 思考を中断して可愛らしいリボンがプリントされた弁当箱の蓋を持ち上げると、中身もまた可愛らしいお弁当だった。卵焼きに唐揚げ、ポテトサラダにソーセージ、アスパラのベーコン巻きと他多数。一緒に入っていた小さいタッパーにはカットされた梨が詰められていた。そういえばちょっと前に好きな果物を聞かれた気がする。それを一つ一つ覚えていてくれた事を嬉しく感じてしまっている自分がいて、この「嬉しい」の源泉は恋からなのか、その他の形の愛からなのかは気にしないことにした。

 卵焼きをひとつ頬張る。うん、すごく美味しい。味もだけど、量も多すぎず少なすぎず、栄養バランスに彩り、細部まで気を配ってくれているのがわかる。そんな気配りに気付いてしまえば、私はまたまゆの魅力に堕ちていって、堂々巡りに胸が締め付けられる。

 まゆのとろけるような目、甘く滲み込んでくる声、一途でしたたかなのにどこか抜けているところ、時折見せる年相応な可愛らしさ、年不相応な妖艶な表情。ひとつひとつ思い出す度に加速度的に、高く深く私の胸を真紅に染め上げる。

「うーん、すごいこれ……本当に美味しい。料理の仕事とかもっと取ってこようかな」

 結局全く蓋なんて出来てない自分の心から目を背けて、誰にともなく言い訳をするように呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちひろさん助けて」

 昼休み。私はカフェでのランチ奢りと引き換えにちひろさんに時間をもらっていた。

「体調不良ですか?そんな時にはスタドリですよ!今なら……」

「それはまた後ほどダースで買いますので」

「いつもありがとうございます♪ で、どうしたんですか?」

「まゆのプッシュが止まらないんです」

 先週の夜の弁当の一件から少しは距離が作れたかと思っていたんだけど、実際のところ全く状況は変わっていなかった。相変わらず距離は近いし、私への好意を隠すつもりも無さそうだ。

「だからー……もういいじゃないですか。受け入れちゃえば。好きなんですよね?」

「好きですけどそういう問題じゃない事ぐらい、ちひろさんならわかるでしょう?」

「そういう問題だと思いますけどねー……っていうかついに認めましたね」

 オムライスにスプーンを差し込んでは、口に運ぶ。唇の端についたケチャップを舐めとる仕草が、普段のしっかりしたちひろさんには無い子供っぽさで可愛らしい。

「もうここでごまかしても誰も騙せないですからね。諦めました」

 ちひろさんにはバレてるし、私自身はもう自覚してしまった。そうなってしまえば、後はどうやって理性でもって恋心を克服するか、しかない。いっそ嫌われてしまえば諦めもつくというのに。

「ちひろさん、なんかアイドルの好感度を適度に下げたりする薬とか無いんですか?」

「そんな怪しいもの、あるわけないじゃないですか……」

 スタドリも十分怪しいでしょ、と出かかったけどアイスコーヒーで流し込む。

「で、結局あなたはどうしたいんですか?」

 ちひろさんも順調にスプーンを動かしながらも、一応相談には乗ってくれるみたいだ。

「そりゃあ……仕事に支障が出ない、適切なアイドルとプロデューサーの距離をですね……」

 自分でもわかるぐらい薄っぺらい言葉が出てくるが、他に言いようがない。言ってはいけない。

「ふむ……それじゃあ、まゆちゃんを明確に拒否するしかないですね。恋愛は出来ないけど、ビジネスパートナーとしては頑張ろうね、なんて適当な事言っておけばいいんじゃないですか?」

 隠すことなく含まれる言葉の棘に、思わず顔をしかめる。

「……なんて言ってみましたけど、実際あなたはまゆちゃんを拒否できますか?できませんよね?」

 張られた罠に追い込むように、結論へ追い込まれていくのを感じる。

「今のあなたが言っている事は、無理がある気がします。まゆちゃんと距離を取らなきゃいけないって体裁を守りつつ、本心では手放したくないなんて、わがままもいいとこですよ」

「手放したくない、なんて言ってませんよ。シンデレラは魔女の手を離れて幸せになる運命なんですから」

「まゆちゃんはシンデレラなんかじゃなくて佐久間まゆちゃんですし、あなたが離れたくないのは私から見れば丸わかりですよ?」

 うっ……丸わかりか。

「うーん……じゃあ、言い方を変えましょう。仕事とまゆちゃん、どっちが大事で、欲しいんですか?」

 ただテンプレな質問を雑に投げられた気もするけど、要は『さっさと覚悟を決めなさい』って事なんだろう。

 ちょうどオムライスを食べ終えたちひろさんが、スプーンを置いて両手を合わせる。

「まぁ、どっちが~なんて言いましたけど、私は両方取っちゃうのもアリかなと思いますよ?実際うちのアイドルの子達なんてみんなそれをやってますから」

 やっぱりちひろさんは、私をそこに持っていきたいらしい。

「はぁ……そこまでするにはすごい覚悟が必要ですね……立場もありますし」

 ……でも、さすがはちひろさんだ。

「わざと意地悪な言い方しちゃいましたけど、私はあなたもまゆちゃんも、二人とも一緒に幸せになってほしいだけですよ」

「……わかってます」

 結局ちまちまと喉に押し込もうとしたクラブサンドは昼休みの終わり近くまで残って、最後にはちひろさんと半分こにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 多分、そろそろかな。

「どうしたんだ?そんなにそわそわして」

「あぁ、夏樹……お疲れさま」

「もしかして、まゆか?もうすぐ帰って来ると思うよ」

 落ち着かなくて癖で回していたボールペンを取り落とす。そんなに私わかりやすいの?

「ま、まゆは関係ないよ?」

「くくく……いくらなんでも嘘下手すぎるだろ……」

 夏樹が肩を震わせて笑う。いや確かに今のはごまかすの下手とかそういうレベルじゃなかったけどさ。「私だって伊達に芸能界という世界で社会人としてやってきてない」とか自信満々に思ってた自分をグーで殴りたい。

「まぁ、多分ある程度近くにいるみんなはその……アンタとまゆのこと、わかってると思うからさ。気にすんなよ」

 その瞬間思い出すのは『まゆ、わかってますから』の言葉。わかってるって、もしかして……うわうわうわ。もし本当に本人に悟られてるんだったら、なんて考えただけで顔がめちゃめちゃに熱い。多分火が出てる。

「アンタもそういう顔するんだな」

「ちょっ、待っ、私そんなにバレバレだった!?」

「まぁ、バレバレってわけでもないけどな。まゆは言うまでもないし、アンタもまゆには微妙に違和感ある対応が多かったから。よく見てりゃわかると思うぜ」

 何が『心に蓋をする』だ。思いっきり漏れちゃってるじゃんか。

「まぁまぁ、アタシはもう行くからさ、二人でゆっくりしなよ」

 こんな楽しそうな夏樹、李衣菜ちゃんにギター教えてた時以来かも。

「あ、それからさ」

「なに」

「多分まゆだってバカじゃないんだ、アンタの態度から察してるんじゃねーの?」

「なっ……!」

 夏樹は最後まで笑いながら、私の心に思わぬダメージを残して帰っていった。あいつめ、可愛い衣装の仕事持ってきて恥ずかしい目に合わせてやる。

 一人深呼吸して、どうにか、どうにか一度心を落ち着け……

 

「お疲れさまです、プロデューサーさん……なんだかお顔赤いですけど……?」

 

 ……るのは、間に合わなかった。気付いたらもうまゆは事務所のドアをくぐっている。

「おかえり、まゆ。確かに今日はちょっと暑いかな」

「ふふ、ここ数日で急に冷え込んだってお話、今朝したばっかりですよね」

 本当にごまかすの下手だな、私。

「お熱とかはないですか?」

 まゆのひんやりとした手が、額に当てられる。でも同時に身体中の血流が頭に集まってるので、かえって頭が熱くなる。

「っまゆ!近いから!」

「あっ……」

 ほんの一瞬だけ怯えたような目を見せて、すぐ様子を取り繕うまゆに罪悪感が過る。

「……えっと、違う。そうじゃないの。聞いて、まゆ」

「はい、まゆは大丈夫ですよ」

 いつも通り微笑むまゆを見ると肺が押しつぶされるような息苦しさがくる。これは罪悪感なのか、一大決心をした私の重圧なのか。

「今のは、まゆが嫌だったわけじゃない」

「……はい」

 先を促すように、小さく頷きながら相槌を打ってくれる。それは私にとって心地良いテンポだった。

「その……いやそんなアレな話じゃないんだけどね、その、今のは照れちゃって……」

「ふふ、やっとプロデューサーさんもその気になってくれましたか?……なんて、」

「うん、まぁ、そんな感じで」

 ピタリ、まゆの時が止まる。たっぷり三秒ほど静止して、油の切れた機械みたいなぎこちない動きでこちら見上げた。

「あの、それって」

「自分で言うのも恥ずかしいけど、多分まゆの期待する意味で合ってる。好きだよ」

 きっと本人の中で私の言葉の意味を噛み砕いて、飲み込んだ瞬間なんだろう。まゆの顔にはどの感情よりも先に涙が流れていた。

「な、なんで泣くの」

 喜んでくれると思ったのに、なんか間違えた?本人も私が言ってからやっと涙に気がついたらしく、自分で拭って確認する。

「あの、まゆ……まゆ……」

「……うん」

 さっきとは立場が逆転して、今度は私が相槌を打つ。一緒に過ごしてきた中で、まゆが一番話しやすいタイミングを狙ったつもりだ。

「プロデューサーさんが大好きで、ずっとわかってて、わかってるつもりで、ずっと、ひぐっ……でも、これはきっとまゆが、思い込んでるだけでって、……そうやって考えるといつも不安になって」

「大丈夫だからほら、過呼吸になっちゃう。ゆっくり息吸って」

 しゃくりあげるまゆを抱き寄せて、背中を撫でる。ブラウスにどんどん涙が染み込んでくるのは無視する事にした。

 

 

 やっと落ち着いた頃、いつの間にかまゆも私の背に手を回している。こういうところからいつものまゆのしたたかな面が垣間見えて、少しだけ安心する。その間要領を得ないまゆが吐き出した細切れの気持ちを全部受けとめて、私の中で再構築しては心にしまっておいた。

「そういえばプロデューサーさん、今更ですけど、大丈夫なんですか?」

「ん?何が?」

「私もプロデューサーさんも女の子ですし、アイドルとプロデューサーですし、他にも色々……」

「ああ、大丈夫だよ。だって私たち、運命でつながってるんでしょ?」

 正直ノープランだけど、ちひろさんのおかげでなんとかなるっていう自信はちょっと芽生えていた。それから今のセリフ多分、今夜ベッドで思い出して悶えるやつだと思う。

「……はいっ!」

 弾けるような笑顔を見せられて、またひとつ私の心の内側が真紅に塗り染められた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、まゆと名実ともに相思相愛となりました」

 一応、事の顛末を報告するために再びお昼休み。

「おめでとうございます!」

 目の前にはスプーンを持ったまま拍手するちひろさんがいた。……またオムライスだけど、そんなに好きなのか。

「とりあえずありがとうございます。ちひろさんにも色々とお世話かけさせちゃいまして」

「いえいえ、幸せそうで何よりです。もし何かあったらいつでも言ってくださいね、オムライスで協力してあげますので」

 報酬とるんかい。でもよくよく考えればオムライスひとつでちひろさんが味方になるんだから、破格なのは間違いないか。

「で、今後はどうするんですか?」

「まずはまゆを含めて私のアイドル達をトップまで導いて、それから考えます」

「なるほど、ノープランと」

 ……勘の良い事務員は嫌いだよ。なんて。

「まぁ周囲は暗黙の了解っていうか、それとなーく上手くやってくれてますからね。ありがたいですけど、この事務所どうなってるんですかね」

「正直、それは私もちょっと思ってました……」

「そのおかげで今の私とまゆがあるので、可愛いし幸せだし良いことなんですけどね」

 思わずポロリと言ってしまってから、少しだけ後悔した。

「うわ、もう惚気け始めましたよこの人」

 アイスコーヒーにミルクだけ注いで、かき混ぜる。今日のコーヒーは無糖なのに、前よりも甘い気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あ、そういえばもう一つ顛末を。

 

「まゆ、ひとつ聞きたいんだけどさ、やっぱりまゆも私の気持ちはわかってた感じ……?」

 出来る限り自然を装ったつもりで、ある意味私が一番気になっていた点に触れる。

「ええ、きっとプロデューサーさんはまゆを好きでいてくれてるってずっと思ってましたから」

「……その理由は?」

「運命に理由なんて有りますか?」

 それはもう真顔で本気の目だった。全然私の態度関係ないじゃん、夏樹! 絶対に次の可愛い系でちょっと露出のある衣装回してやる!

 

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