まゆとPは、肉体的距離感よりも精神的距離感の方がべったりでヤバいんじゃないかと常日頃から思っております。
うづりんでもみおあいでもなくってなんかすみません。
今日も残業だった。
資料の山に囲まれて逃げ道が無いような錯覚に陥る。いや、実際に逃げ道なんてものは無いんだけどね。いつものように少しずつ突き崩していくしかない。
ただ、最近ではちょっとだけ今までと変わったところがあった。
これまでちひろさんの援軍が無い日は基本的に一人で淡々とこなすだけだったけど、今はまゆが側にいてくれる。もちろん実際に仕事をさせるわけにはいかないけど、愛しい人が居てくれるというのは力になるものだ。……口に出さないからまだ良いけれど、とんでもなく恥ずかしい事を考えている気がする。我ながら順調にまゆに依存していってる気がして、どこかで歯止めをかけなきゃいけないとは思っていたけれど。
「プロデューサーさん、お茶ですよぉ」
「ん、ありがと。新婚さんみたいでなんだか照れるね」
「ふふ、まゆの夢はプロデューサーさんのお嫁さんですから……幸せです。おいしいですか?」
「おいしい。それに温度もちょうどいい。すぐ飲めるようにちょっと冷ましてくれたでしょ」
「うふふ、プロデューサーさんにはなんでも気付かれてしまいますねぇ」
嬉しそうなまゆを見て、その歯止めはもうちょっと先でもいいか、なんて思ってしまった。それにしても「将来の夢はお嫁さん」、か……なんとなく感じてはいたけど、やっぱりまゆもそういうこと思うんだ。
「そうだ、まゆ、そろそろ帰ってちゃんと休みな?明日も仕事あるでしょ」
「プロデューサーさんが帰るまでは帰りませんよ?」
「……さいですか。じゃそこに毛布あるから、せめてソファでゆっくりしてて」
こうなったら絶対に譲らない、というのも私は学習している。前に無理矢理帰そうとしたら、寒空の下まゆ一人で事務所の前で二時間ぐらい立っていた事があった。それ以来はせめて事務所で休ませるようにしている。これもいつものやりとりだった。
まゆもこれ以上は私が譲らない事を理解しているので、お互いの妥協点として素直にソファで私の仕事姿を眺める。すぐ近くというわけでは無いにしろ、二人きりの事務所でずっと視線を向けられるのはむず痒いものがある。しかしそれも慣れてしまった今では気になるのは最初の数分だけで、一度集中してしまえばちゃんと仕事と向き合える。
さぁ、早く一緒に帰るためにも、もうひと踏ん張りだ。まゆの淹れた紅茶をぐいと飲み干してキーボードを叩く。
今日の最後の仕事だった資料を作り終えて、思わず高らかにエンターキー。「ッターン!」って、パソコン使う人ならみんなやるよね。確か泉ちゃんとかありすちゃん、そういえばマキノちゃんもやってた気がするし。なるほど、これはクールな動作なのかも。
勢いに任せてエンターを押してしまったせいで、無駄に増えてしまった改行を消してから上書き保存をかける。無駄な動作が虚しい。
「まゆ、待たせたね……あ」
振り返ると、ソファではまゆが目を閉じていた。事務所の無機質な空間にぽつんと居るその姿はアンバランスに蠱惑的で、一枚の絵画を観るようにたっぷり数十秒見とれてしまう。
こうして改めて見ると、やっぱり本当に可愛い。起こさないようにそっと歩み寄って、特に何も考えないまま頬に手を添える。……すると真っ白だった頬がぷるぷる震えて赤くなってきた。
ほほう……いつから起きてたか知らんけど、狸寝入りを決め込もうってか。そっちがその気なら、ちょっとイジワルしてみよう。
「あー寝ちゃったかぁ。起きてもらわないと困るなぁ。もうここに置いて帰っちゃおうかなぁ?」
どうやら完全に寝たふりをやめるタイミングを失って、困っているようで面白い。それでもまゆはしばらく考えて、何か思いついたらしく少しだけ口角を上げた。
「……まゆはまゆを放ってお仕事しちゃうような悪い魔法使いに、魔法をかけられてしまいました……」
「いやいや、そんな事言ったってさぁ……」
「なので、まゆの愛しい王子様のキスでしか目覚めません……」
うぐっ……この手の駆け引きはやっぱりまゆの方が一枚上手か。しかも「愛しい王子様」なんて言われて嬉しくなっちゃってるあたり、我ながらチョロ過ぎる。メルヘンな趣味はとっくに引退したつもりだっていうのに。
「………………ん、ほら帰るよ」
「うふふ、おはようございます」
結局私は、「悪い魔法使い」と「まゆの王子様」という一人二役をしっかりこなした。
「なんてことがありまして。うへへ」
「うっわ今絶対アイドルには見せられないぐらいひどい顔してますよ」
苦々しげにちひろさんが毒を吐く。すぐにオムライスで口直しをして満足げな表情に戻った。
いつものようにちひろさんに相談……っていうかもはや惚気話をしていた昼休み。頭の回転が速く、察しの良いちひろさんはしょうもない惚気話から本題を見つけ出す。
「それよりも、ですよ。最近の毎日は楽しそうでなによりですけど、これからどうするんですか?」
スプーンを突きつけてくるちひろさん。行儀悪いですよ?
ズバリ悩んでいた部分を指摘されて、何も言葉を用意出来ていなかった私は言いよどむしかない。
「どうするってそりゃあ、やっぱりまゆをトップアイドルにして……それから……」
「そこまではもうこの前聞きましたよ。それから?」
「最終的には結婚……は出来なくとも、一生を添い遂げたいと思ってます」
ちひろさんは驚いたように目を丸くする。私が今後を考えてるのがそんなに意外なのか 。
「照れて何も言わないかと思ってましたけど……ちゃんと考えてるんですね」
「失礼な。いくら私だってそこまでじゃないですよ。でも、一つだけ問題というか、不安がありまして」
「不安?」
「そこまで考えてるのは私だけで、まゆはそんなつもりじゃないんじゃないかって」
「えぇー……あのまゆちゃんを見てそんな事を思いますか……」
コーヒーに三つ目のガムシロップを溶かし込みながら、呆れた顔を隠そうとしないちひろさん。さっきメニューを見ながら「甘いものは我慢します」って言っていたのはなんだったんだろう。
「まゆが私をどれだけ好いてくれてるのか、ってのはわかってますよ。でも、温度差っていうか、なんて言っていいかわかんないんですけど」
「要するに『えっ、私の恋愛重すぎ……?』ってことですかね?」
なんだろう、妙な言い回しなのに的を射ているのが腹立たしい。
私の沈黙を肯定と受け取って、ちひろさんは言葉を続ける。
「聞いてみればいいじゃないですか。将来ビジョンを」
「いやいや……なんて聞くんですか」
「それはどうとでも聞けますよ、多分。むしろ私はプロデューサーさんが……ここでは仮に『結婚』としましょう。プロデューサーさんが結婚に向いてるのかって方が問題だと思いますよ」
おっとこれは予想外の角度から不安の種が……。そういえば関係ないけれど、不安の種って漫画を小梅が幸子に読ませてたな。「たまにはこういうのも……いいよ?」とか言われながら読んで泣いてた。
それはさておき。
「私、結婚向いてないんですかね……」
「わからないからこそ、そこがどうなんですか?って話です。色々と要素があるじゃないですか」
「要素?」
結婚に向いている要素、ってことだろうか。
「そうです。例えば今後生活していく上でなら収入とか、性格とか。二人で生活していくならある程度の蓄えと収入が必要ですし、逆にどんなに高収入でも良くない趣味があったり、浮気や暴力を振るうなんてもってのほかでしょう?」
「うーん……確かに」
「人はパンのみにて生きるにあらず、ですけど、パンが無ければ生きていけないですから。いろんな面から考えていかないとですよね」
なるほど、ちひろさんらしいもっともな意見だ。
「プロデューサーさんは収入……に関しては言うまでもないですね」
「まぁ……高給取りってわけでもないですけど、同年代よりは間違いなく貰ってると思いますよ」
「問題はその他ですが」
「問題とか言わないでくださいよ」
そんな問題を抱えた人間とかじゃないんですから。多分。
ちひろさんの質問攻めが始まる。
「それじゃ、いきますよ……まずは大丈夫だとは思いますが、暴力癖は?」
「まゆに暴力振るう両腕があるぐらいなら切り落とします」
「まぁそうですよね、一応言ってみただけです。でも猟奇的な発言は控えてください。趣味は?」
「今は仕事ですね」
「社畜……」
「やめろ」
「では仕事で家庭をないがしろにしたりは?」
「しません。まゆのいる家に帰れないなら辞めます」
「……我が社はホワイトなので安心してください」
「ここ毎日残業三昧なんですけど」
「それはプロデューサーさんが買って出てるところもあるじゃないですか」
「そうですけど……今は家に帰っても暇ですからね」
「多分帰ろうと思えば帰れますよ。多分。子供は?」
「なかなかシビアなとこ突っ込みますね。好きですけど、それはどうなるかわからないですから」
「気を悪くしたならすみません……そういうつもりじゃないんですけど、もしもまゆちゃんが『子供がいる家庭』を夢見ていたなら、と思っちゃいまして」
「……いえ、気にしないでください。そう思うのが当たり前だと思いますし」
「それは追々考えるとして、ですね。ご実家は?」
「両親は普通の会社員と専業主婦ですよ。一人っ子です。特別な事は何もありません」
「嫌な言い方になっちゃいますけど、親御さんは『普通の結婚』については何か言われないんですか?」
「お前が幸せなら好きにすればいい、って感じですかね。多分悪くは言わないと思います。良くも悪くも放任主義な親ですから」
ふむ、と考えるちひろさんと同じタイミングでストローを咥える。矢継ぎ早な応酬で喉が渇いた。
「私が思いつくのはこんなところですか。まゆちゃんはどうなんですかね?」
「あー、私はなんでも受け入れる自信あるので大丈夫です」
「浮気も?」
「……絶対大丈夫だと思いますけど、やっぱり全部ちゃんとまゆと話し合います」
「それがいいと思います」
うーん……結局またちひろさんに言い包められてしまった。
さて、どう切り出したものか。
仕事の移動中の車内。今日は隣の県まで高速に乗って移動の長旅だった。
「結構移動しましたねぇ……そろそろ休憩にしませんか?」
まゆは基本的に私の運転の時は助手席に座ってお喋りをしつつ、赤信号で飲み物を取ってくれたりと世話を焼いてくれる。どこまでもいじらしくて、甲斐甲斐しい女の子だ。
「了解。次のサービスエリアで休憩ね」
多分この休憩も、運転を続ける私への気遣いなんだろう。それでも、そこを気取らせないような対応をする気立ての良さがもう、なんていうか、抱きしめたくなる……。
いけない、また本題から目を逸らしている。ちひろさんの言うとおり、これからについてどう考えてるのかは聞く必要があることは理解していた。うーん、悩むよりとりあえず話を振ってみるか。
サービスエリアに到着して、手近なスペースに頭から駐車する。ギアをパーキングに入れて、息を深く吸い込んだ。
「ねぇ、まゆ」
「はぁい」
ふわり、甘く、軽く、響く。
その声で自分の呼吸が緩むのを感じて、初めて自分が緊張していた事を自覚した。
「これからさ、どうしようか?」
「えぇと、今日は今向かってる撮影だけですねぇ」
「あ、いや、そうでなくて……」
どうしよう。なんて言っていいかわからなくて言葉足らずになってしまう。まとめてから喋り始めるべきだった……。
「もっと将来の話、したいなって思ってさ」
「将来の話、ですか……」
なんか私のセリフだけ聞くとすごくクズ野郎が使ってそうな気がして、言葉を選べばよかったと後悔した。
「この国にいる限りは法的には結婚出来ないわけだしさ、そういうのも含めてまゆはどう考えてるのかなって」
「まゆはプロデューサーさんがいればそれでいいので、まゆが死ぬまでご一緒しますよ?」
完全にノータイム。一瞬たりとも空けない答えだった。
さも当然のように言い放つのを見ると、考え込んでた私が馬鹿みたいだ。まゆがどう思ってるも何も、いつものまゆを見ていればそう言ってくれるのは明白だったのに。
きっと私はこの言葉が欲しかっただけなんだなぁ、と苦笑いする。
「私が死ぬまで、じゃないんだ」
「プロデューサーさんが死んじゃったら、私も生きてる意味が無くなっちゃいますから」
「真顔でそういうこと言わないでよ。年齢で順当に考えると、私のほうが先に死んじゃうんだからね?」
「嫌です」
「嫌って言われてもなぁ…… 後追いとか絶対に許さないからね」
言われたまゆは可愛らしくむぅ、とむくれるけど、その可愛い仕草の元を考えるとただ微笑ましくは見ていられなかった。
「とにかく、まゆは絶対にプロデューサーさんから離れません」
「暴力とか振るうかもよ?」
「プロデューサーさんはそんな人じゃありませんし、どんな事でも受け止めます」
「うん、絶対ないけど。私、仕事人間だよ?」
「まゆにも振り向いてもらえるように、努力は怠りません」
「それにその……子供もできないし」
「その分、まゆに愛情を注いでくださいね……?」
「浮気とかするかも。いやしないよ、しない」
「それは……ちょっと嫌ですけど、まゆ、頑張りますから……」
「いやしないしない絶対しない!」
しないから泣きそうにならないで! っていうかまゆってもっと「障害や邪魔者は力尽くでも排除する」みたいな感じじゃなかった? これはこれですごく可愛いけど、想像してた感じじゃなかった。
でもとにかく、私の憂いは晴れた。自己中心的なわがままを、まゆに私を押し付けることで、受け止めてもらうことで。
「……まゆ」
「なんですかぁ?」
「……ありがと。それから、早くトップアイドルになろうね」
「はい♪」
まゆとの暗黙の約束、まずはトップアイドルになってから。それを思い出して、前に進むために車のエンジンに火を入れた。
「なんてことがありまして。うへへ」
「またひどく緩んだ顔してますよ。デジャヴュですか、これ」
まゆと再び愛を確かめ合ってちひろさんへの報告だ。相談に乗ってもらった手前、報告するのが筋ってものだろう。
「惚気けたいだけですよね」
「バレましたか」
いつものオープンカフェではなく、事務所の休憩スペースでのお昼だった。近頃は私が内勤の日になると、ちひろさんと一緒にお昼を取るようになっている。
今日のちひろさんはオムライスではなく、自分で作ったらしいお弁当を広げていた。この人、料理できたのか。
「プロデューサーさん、お昼ごはんは?」
「今日はアテがあるので」
「アテ?」
「まぁ、大丈夫ってことですよ」
「はぁ……ならいいんですけど」
怪訝そうな顔をしながらも納得してくれるちひろさんだけど、多分突っ込むと面倒そうだから放っておこうってところだろう。そして、その予想は正しい。
「で、なんの話でしたっけ?」
「私とまゆの未来予定図です」
「予想図じゃなくってですか? ……確かにあながち間違いではないですけど」
予想っていうか、予定っていうか、だけど。でもこの二つの違いは大きいと思う。
これは私のイメージだけど、「予想」という言葉はどちらかと言えば、今確定している状況からこうなるのではないか、という未来を仮定するのに対して、「予定」にはこうしよう、という希望を含んでいる気がするのだ。
「まぁ、何にしても、とりあえずよかったですね」
「ほんとですよ……いつもありがとうございます」
「ふふ、お礼は期待してますからね?」
いじわるな笑みを浮かべながらも、最終的にはいつも一緒に喜んでくれるんだからやっぱり良い人だ。
「プロデューサーさぁん……楽しそうですねぇ……?」
突然ゆらり。人影がテーブルにかかる。
「ひっ!?」
「おはよう、まゆ」
声に驚いたちひろさんが飛び跳ねてて笑ってしまう。ちなみに私はもうまゆの神出鬼没にはすっかり慣れた。
「早速浮気ですかぁ……?」
「違うのまゆちゃん! 全然浮気とかそういうのじゃなくってね!?」
焦りすぎ焦りすぎ。普通だったら逆に怪しまれる。
「まゆ」
「はぁい」
「ちひろさんをいじめないの」
「うふふ、すみません」
「冗談……ですか?ほんとに?私消されないですか?」
「ビビりすぎですよちひろさん……」
まゆが本気で怒ってたらもっと目も声も冷えてる。
「そ、それでまゆちゃん?どうしたの?」
「プロデューサーさんにこれを持ってきたんです」
すっかり「いつもの」と呼べるようになったピンクの包みを持ち上げる。中身はまゆお手製のお弁当だ。いつぞやの夜からまゆは頻繁にお弁当を作ってくるようになっていて、外回りの時なんかは特に外食を探す機会はめっきり減った。
本人は何も言わないけれど、噂によると五十嵐響子ちゃんに対抗意識を抱いているらしい。言われてみれば確かに仕事的な意味ではあったけど、お料理アイドルも良いなぁ、なんて響子ちゃんを褒めた記憶がある。私の発言一つ一つがまゆに影響を与えてしまっている事実にちょっとだけ頬が緩みつつ、可愛らしい包みを受け取った。
「いつもありがと」
「……プロデューサーさん、最近社員食堂とかカフェにいなかったのってもしかして」
「うん、愛妻弁当」
「うっわ!いじろうとしたら自分で言いましたよこの人!」
「照れちゃいますねぇ」
言葉とは裏腹に全く照れた様子もなくただただ嬉しそうなまゆに、良くも悪くも「慣れ」を感じてしまう。まぁそこはお互い様か。
「まゆちゃんが幸せそうなので何も言えませんが、余所から見るとヒモみたいですね」
「いやいや、食費も家賃もちゃんと私が出してますから」
「家賃」
「あっ」
察しが良すぎるちひろさんには今の一言だけで全部バレてしまったっぽい。
「ふーん……へぇー……家賃が共有されるような生活をしてるんですねー……」
「いやちひろさん、これは合理的な理屈に基づいてるんですよ。私とまゆは同じスケジュールの機会が多いじゃないですか?つまり、住居を同じくすれば仕事場に直行直帰が出来たりするわけです。そうすれば私たちも負担は減りますし、会社としても余計な残業代を出さずに済む。ほら、合理的でしょう?」
「長々と早口で言い訳してるところ申し訳ないんですけど、あれだけ結婚だなんだって相談しといて今更にもほどがありませんか」
それはそうなんですけど、やっぱりこう、ちょっと後ろめたい気持ちが……ね?
突然、今まで黙って聞いてたまゆが口を開く。
「プロデューサーさん……『結婚だなんだの相談』ってなんですかぁ?」
「それがね、まゆちゃん聞いてくれる?この人ね……」
「わー!!ちょっと待ってちひろさん恥ずかしいから!!わーー!!」
慌ててちひろさんの口をふさごうとするけど、ひらりと逃げられ更にはまゆに取り押さえられ、ぺらぺらと私の恥ずかしい相談が暴露される。
年下の女の子を捕まえて「一生一緒にいてほしいけど私って重すぎるかな?」なんてウジウジ悩んでたの、間違いなく恥ずかしさの極致だ。
「うふ、うふふ……プロデューサーさんがそんなことを……結婚、素敵……っ」
あーもう嬉しそうに口元に手を当てるのやめてよ可愛いなぁ!ちひろさんもニヤニヤするのやめろ!
結局一連のわちゃわちゃは私が一人ダメージを受けるだけの時間だった。
未だにニヤニヤしっぱなしのちひろさんがお茶をすすって、いたずらっぽく笑う。
「それにしても本当、お似合いの二人が楽しそうでなによりです。……式には呼んでくださいね?」
「「はい♪」」
全く照れず、躊躇わず、声が揃う。
「少しは動揺しましょうよ……バカップルめ」
よほどお茶が渋かったのか、あるいは他の理由か、苦々しげに呟くちひろさんはどこか楽しそうにしていた。
昼休みも終わりになって今は二人きりの事務所。もうこれ以上恥ずかしいことも無いんだから、きちんと言っておこうとまゆに向き合った。
「まゆ、死ぬまで一緒にいてくれますか?」
「プロデューサーさん、天国でも一緒にいましょうね?」
「「喜んで」」
全く照れず、躊躇わず、心が揃う。
それ以上は何も言わず、そっと唇を重ねた。