「ふぁぁ~...。うわ、まだこんな時間か」
皆さんも一度は経験があるのではないだろうか?目覚ましより先に起きてしまう謎の現象を。いつもなら二度寝する所だが何故か意識がハッキリしており目も冴えている。はぁ...。しゃーない、起きますかね。
「今日も一日がんばるぞいっと」
嫁を起こさない程度の声でお決まりの台詞を言った。
ベットから立ち上がり洗面所に向かう。そして顔を洗い髭を剃る。一時期、西島秀俊に憧れて髭を生やしていたが小町に髭剃った方がかっこいいよと言われたので朝は絶対剃る様にしてる。永久脱毛も考えたが結構いいお値段するのね、あれ。
コーヒー飲みながら本でも読もうとリビングへ向かうと、人の気配がする。どうやら俺より先に起きてた奴がいたみたいだ。小町か?小町だよな、きっと小町だ、間違いない。どんな話しよっかな...やっぱ学校の事か?いやいや、思春期の娘に学校の話題は良くないか。ここは最近できたケーキ屋の話でもしy....
「チッ...」
「え、なんで舌打ちされたの俺?」
残念ながら先に起きてリビングにいたのは小町ではなく、
「小町だと思って必死に話題考えてた俺の努力を返せ」
「なんで娘と話すのにそんな努力がいるんだよ...」
「小町に変な話題振って、もし嫌われでもしたら明日の京葉線が止まる」
「娘に嫌われたぐらいで死ぬなよ。それと死ぬならひっそり逝ってくれ」
「ばっか、これまで散々俺を苦しめてきた社会に最後くらい迷惑かけねーと割に合わん」
「清々しいほどのクズだな...ほれコーヒー」
「お、さんきゅ」
むっ!八幡め、コーヒーに練乳を入れたな?我が子ながら気が利くじゃねーか。こいつはきっといい主夫になる。貰い手がいなさそうだけど(笑)
「親父、俺もう行くわ」
「ん、もう行くのか?まだ早いだろうよ」
「家に居てもする事ねーし、早めに行っても損はないだろ?」
「それもそーだな。気を付けてな」
「おう」
「それと八幡」
「ん?」
「入学式行ってやれんで、すまん」
「いやいや、もうガキじゃねーんだから気にしないっての。寧ろ来ないで欲しいまである」
「そこはべ、別に来て欲しいなんて思ってた訳じゃないんだからね!って言う所だろ」
「....」
八幡は心の底から憐れむような顔をしながら無言で出て行った。なんだろうこの虚しさは....
八幡が出てってからすぐに小町と嫁が起きて、朝食を作ってくれている。今日は何故か比企谷家みんな早起きだ。明日は雨だな、こりゃあ。
しっかしこうして二人を見るとほんとそっくりだよなぁ。特に目元なんて超そっくり。俺の目が遺伝しなくてほんと良かった...山に籠って感謝の正拳突きを毎日1万回するレベル。
ちなみに俺はと言うと、カマクラを思うがままにモフってる。普段は俺に近寄りもしないが、今の俺にはササミ(猫のおやつ)がある。ササミの為に気に食わない奴にでさえ黙ってモフらせるカマクラは社畜適正Aぐらいあるな。八幡にも見習ってほしいもんだ。あ、ササミ奪って逃げやがった。
「ほら、朝ご飯できたよ」
「おーう」
「その前に手洗ってきな。カマクラ撫でたんでしょ?」
「うーい」
「おかーさん、電話鳴ってるー」
「こんな朝から誰よ、もう。...はい、比企谷です」
「はい、そうです。母親です。...え!?う、嘘でしょ!?大丈夫なんですか!?」
「お、お母さんどうしたの?」
「八千代、落ち着け。何があった?」
「は、八幡が車に轢かれて病院に搬送されたって...!」
「お兄ちゃんが!?」
一瞬頭に「死」と言う言葉が浮かび、俺まで取り乱しそうになるが理性で無理やり抑え込む。冷静になれ。今俺が取り乱してもどうにもならない。
車に轢かれた言ったが、トラックやダンプなどの大型車両の線は消していいだろう。もしそうなら「車」なんて漠然とした言葉は使わず、トラックならトラック。ダンプならダンプと言うはずだ。
次に速度の問題だが、あいつの出て行った時間は小学生の登校時間とも被ってるので制限速度以上を出す奴はほとんどいないはず。
それに
「八千代、代わってくれ....すいません、代わりました。父親の仲彦です」
「お父様ですか?○○警察署交通一課の小西と申します。先ほど息子さんが「嫁に聞きました、息子の搬送された病院と容体は分かりますか?」」
「〇〇病院に搬送されました。○○病院の者曰く精密検査はこれからなのでなんとも言えないが、足になんらかの異常があるとの事です。」
「ありがとうございます。今からでも○○病院に行こうと思うのですが、大丈夫でしょうか?」
「はい、そうなさってください。加害者の方も〇〇病院にいるそうです。それと逸る気持ちは分かりますが、くれぐれも安全運転を心がけてください。こう言った時に事故を起こしてしまう方が多いので。他にご質問はありますか?」
「いえ、ありません」
「それでは、失礼致します」
「ありがとうございました」
「お父さん、お兄ちゃんは!?お兄ちゃんは大丈夫なの!?」
小町が泣きそうになりながら叫ぶ。
「まだ分からん。今から〇〇病院に行くぞ。八千代、小町の中学と自分の会社に休むと連絡を。高校には俺が連絡しとく」
「分かった!」
「小町はダメ元で病院に連絡してみてくれ。たぶん個人情報が~とか言って答えないと思うが」
「うん!」
「車で待ってるからな」
予想通り、病院は患者の個人情報は言えないとの一点張りだったそうだ。個人情報の保護も結構だが融通が利かなすぎんだろ、クソッ!
ミラー越しに後ろを見ると二人とも泣いていた。そこで、少しでも安心できればと俺はさっき自分が立てた仮説を二人に言い聞かせる。そうすると多少はマシな状態にはなったが、彼女たちの瞳から溢れ出る涙を止めるには至らなかった。
それもそうだよな。俺の仮説は箸にも棒にもかからない様な物ではなく、ちゃんと筋は通っているとは思う。だが、所詮あの仮説は自分達にとって都合の悪いことを排除して作ったものにすぎない。彼女達もそれに気づいている。故に不安が消える事はない。
そもそもこれは仮説なんて言えるほどの代物ではないか。これはただの.....希望的観測だ。
朝なので大して人もおらず、病院に付いてからはスムーズだった。受付で身分証を見せ、八幡と血縁関係である事を証明する。
「こちらです、付いてきてください」
看護師さんに黙って付いていく。ここまで来たらもはや祈る事しかできない。どうか息子を助けて下さいと、普段ならいるはずがないと一蹴する神に頼む。情けない事この上ないが、今は藁でも神でもなんでもいいので縋りたかった。
看護師さんは個室の前で止まった。どうやらここらしい。
「先生、ご家族の方をお連れしました」
「どうぞ」
「お兄ちゃん!」
小町が勢い良く扉を開けるとそこには
「ん?」
ピンピンしてる八幡がいた。ピンピンしてる八幡がいた。
大事な事なので(ry
「あぁ、ご家族の方ですか。どうも、〇〇病院整形外科医の武井といいます。まぁ座ってください」
言われるがままに椅子に座る。
「息子さん、手と足に擦り傷と左足が折れてますが...MRIの結果、脳に損傷はありませんでした。それと折れてると言っても軽い骨折なので、手術の必要はありませんし後遺症も残りません。安心してください」
先生がニコッと笑うと小町と嫁が、心配させないでよ!、とか小町ポイント全部没収!とか言いつつワンワン泣きながら八幡に抱き付いた。八幡は申し訳なさそうな顔をしている。
ずっと気を張っていたので、急にどっと疲れが押し寄せてきた。
無事で良かった。本当に....良かった。
「トイレ行ってくる」
短く断りを入れると、俺はトイレへ急いだ。
...危ない所だった。結構我慢してたからめっちゃ出る。
泣いていいのはおトイレかパパの胸の中だけなんて言ったの誰だよ。俺パパだからトイレでしか泣けねーじゃねーか。
家族泣かした罰+神への感謝として八幡の小遣いを全部神社に入れよう。
そう決めて、目を真っ赤に充血させた俺は病室に戻った。