夏休み長すぎる
「八幡、ちゃんと説明しなさい」
「お兄ちゃんには説明する義務があります」
「ひゃ、ひゃい」
俺は病室に移動し、かーちゃんと小町に叱られた後、事故の経緯について尋問されていた。なんか二人とも怖いんですけど...特にかーちゃんは金剛力士像みたいな顔になってる。つまり超怖い。誰か助けてくれ...あ、ダメだ。
「えっとですね...どっかのアホが犬のリード離しちゃったみたいで、犬が勢いよく道路に飛び出したんすよ...それで...反射的に....」
「い、犬の為に自分の命捨てようとしたっての!?それに反射的にって何!?拾える命は全部拾いたいとか思ってんの!?武装錬金なの!?熱血キャラなの!?」
「お兄ちゃんにそんなキャラ似合わないよ!お兄ちゃんにお似合いなのは、命を弄ぶ外道キャラだよ!」
「かーちゃん武装錬金知ってんのかよ...てか小町ちゃん、言ってる事酷すぎるからね?」
「うっさい、このゴミいちゃん!ボケナス!八幡!」
「八幡を悪口に使い始めたよこの子」
ほんとこの親子は俺をなんだと思ってんだよ。まぁ確かに、この言い訳には無理があるの重々承知してるけどさ。それにしても命を弄ぶ外道キャラとか中学2年の時の黒歴史が甦るな。精々今を楽しめよ雑種共!俺はいつでもお前らを消せるんだからな!とか脳内で叫んでた気がする。...忘れよう。この黒歴史は俺に効く。
「八千代、小町。売店で飲み物買ってきてくれ。なんでもいいから」
さっきまで黙り続けていた親父が急に声を出した。その顔からは何を考えているのか読み取れないが、いつもみたいなヘラヘラしている顔ではなかった。それを察してか小町とかーちゃんが黙って病室を出ていく。
「正直に答えろよ八幡。なんで犬助けた?」
そう来たか...やっぱバレるよな。
「...反射的に体が動いたんだって言っただろ。自分でも分からん」
「嘘つくな」
「嘘じゃねーって....てか俺も犬も助かったんだし、もういいだろ」
「よくない。なんでそんな見え透いた嘘つくんだよ?自分自身が一番分かってんだろ、八幡。反射的に体が動いた?おニャン子クラブ全員仲良し!ってキャッチフレーズの方がまだ信じれる」
「例えが古すぎて分かんねーよ」
「普段のお前からは全く想像できないってこったよ。今回の件は」
「....」
どうやら有耶無耶にはさせてくれないらしい。
確かに俺は嘘を付いている。そもそも俺は犬を助けたかったんじゃない。そりゃそうだろ、赤の他人の犬を命懸けで助けるなんてかーちゃんの言ったような熱血ヒーローか死んでもいいと思ってる様な奴だけだ。俺はそのどちらでもない。
俺が助けたかったのは犬の飼い主の方だ。見た感じ中学生ぐらいの女の子で、どこか小町を彷彿とさせる子だった。そんな子が今にも泣きそうな顔してたら...そりゃ犬助けちゃうだろ。お兄ちゃんスキルはパッシブだし。
そんで馬鹿正直に女の子の為に犬助けたなんて言っても絶対に信じちゃくれない。小町が言ったように、俺のイメージは冷めてて人助けする様な奴じゃないからだ。
真実を言っても信じて貰えないってのはかなり辛い。誰にも肯定してもらえないと酷く孤独を感じてしまうから。別に俺は孤独は嫌いじゃない。周りの奴に左右されず、なんでも自分の自由にできる。最高だ。でもそれは学校や社会での話で、家族は別だ。さしもの俺も家族にまで否定されたらかなりキツイ。いよいよ俺の居場所が無くなってしまう。
だからこそ俺は逃げて嘘を付いた。嘘なら否定されても仕方ない、そう自分に言い訳できる。しかしその嘘も見破られてしまった。ならもう俺に出来るのはボロを出さないように黙る事ぐらいだ。
時計の針の音だけが部屋に鳴り響き、それが余計に沈黙を重くする。なんで今日はこんなにしつこいんだよ親父。あんたこそらしくねーよ。
はぁ...っと親父がため息を付いた、どうやら先に根を上げたのはあっちのようだ。
「理由はもう言わなくてもいい。でも約束しろ八幡。二度とこんな無茶はするな。二度とだ。お前が居なくなると家族みんな悲しむ。だから、自分の命を粗末に扱わないでくれ。...もしも辛い事とか自分ではどうしようもない事が起きちまったんなら、俺を頼れ。いや俺じゃなくてもいい。お前には小町や八千代だっているんだ。お前からしたら頼りねぇかもしれん。でもな、八幡。これだけは覚えとけ。家族みんな、お前の味方だから。お前の力になりたいと思ってるんだよ」
てっきり怒られると思ったんだが...親父のこんな顔見たのは初めてだ。哀愁漂う顔って言うんだろうか。
「まぁ、犬救ったのは褒めてやる。よくやったよお前は。でも褒めてやるのは今回限りだからな?」
親父が近づいて来て俺の頭を雑に撫でる。その際に見えたんだが、頬には涙痕がくっきりと付いていた。
「じゃあ、俺仕事行くから。かーちゃんに車のキー渡しといてくれ」
「....あのさ」
あそこまで言われて気づかない程俺も馬鹿じゃない。親父は俺の事を本気で心配してくれてるんだ。小町のおまけぐらいにしか思われてないかと...違ったみたいだ。それと親父は俺が死にたがってると思ってるんじゃないだろうか。
誤解は解けない、もう解は出てるから。それでも俺は解かなきゃダメなんだ。親父をもう心配させたくない。信じて貰えなかったらそん時考えりゃいい。
「ん?」
「俺は別に犬を助けたかったんじゃないんだ」
「?」
「犬の飼い主の女の子が轢かれそうになってる犬見てこの世の終わりみたいな顔しててさ...どうしても犬を見捨てようって気にはなれなかった。それに車の速度的に助けれそうだと思ったから...」
「つまり女の子の為と?」
「...あぁ、こっちの理由のが信じれねーだろ?」
もうどうにでもなれ。
「俺は今すげー納得いったよ」
「え?」
「まぁ、そのだな。正直に言うとさっきまで俺はてっきりお前が死にたがってるんじゃないかって思ってたんだよ。だからそっちの理由の方がしっくり来るよ。お前意外と人情家だしな。今でも小学校4年の時の「黒歴史思い出すから勘弁してくれ!」すまん」
俺がイジメられてた奴助けてやったのまだ覚えてたのかよ。ちなみにその後イジメられてた奴は引っ越しちゃって、標的が俺になっただけと言うね。完全に骨折り損だったわ。てか、なんかあれだな。案ずるより産むが易しってのはこの事だな。
「...ふふっ」
「何笑ってんだよ」
「いや、正直に話してみるもんだなって」
「ったく。あーあ、悩んでたのアホらし」
「悪かったよ、親父。それとさ」
「ん?」
「その、なんと言うか。まぁないと思うけど困ったら頼らせてもらう...かも」
「...おう。待ってるよ」
親父が出ていく。悔しいけどニヒルな笑みはかっこよかった。
にしても頼らせてもらうかもか...自分で言ったとは思えない言葉だ。でも後悔なんてしてない。
「おにーちゃん良い子にしてたー?うわ、どうしたのお兄ちゃん?」
「あ?なにがだよ」
「お兄ちゃんニヤニヤしてて気持ち悪いよ?」
「....なんでもねーよ」