神様転生なんて大っ嫌いだ!   作:名無しの魔砲使い

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「神様転生なんてしたくねえ!」


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『神様転生』、という言葉を知ってるだろうか。

 

いわゆる、「事故で死んだ俺が目を覚ますと目の前に神様が~(要約)」から始まる、チートだらけの原作ブレイクだ。通称『転生特典』と呼ばれるチートレベルの力なり別作品の能力なりを神様とやらに貰い、新たな生を受ける。

だけど、それ自体を物語に組み込んでる商業作品は滅多になく、基本的にはネット界隈で有象無象にひしめく二次創作がほとんど。

じゃあ、なんでネットではそんなに人気なのか。それは、このジャンルが作者の欲望を如実に反映するものだからに違いない。

——もし、あの作品のこの場面にこんな力を持った人がいたら。

——もし、あの作品のあの野郎をボコボコになるまでぶっ飛ばしたい。

——もし、あの作品のヒロインを侍らして酒池肉林(ハーレム)生活をしたい。

……最後のは胸糞悪くなる話だが、初期の頃はそんなのばっかだったみたいだし、三次元と二次元の差を無視れば妄想は誰でもすることだ。実際に行動したりしなけりゃ否定はできねえ。

 

と、そんなわけで神様転生モノに出てくる主人公は、ほぼ全てが喜び勇んで転生していく。

色欲にまみれた奴ら、登場人物に共感して運命を変えようとする奴ら、単純に好きだった作品の力を振るってみたい奴ら、今度こそ生を謳歌しようとする奴ら。

個々人に差異はあれど、基本的にはそれを忌避しようとしない。

 

だが、私にはそれが理解できなかった。

だって、よく考えてみろ? 行く先が物語の世界ということは、そこには必ずトラブルが起きるということだ。特に、戦闘なんかが起きる世界なら、命の危険があるのと一緒だ。

そんなところに進んでいく? 馬鹿馬鹿しい、いくらスゴイ力があっても死ぬときは死ぬのだ。わざわざ不幸になりに行く奴らの気が知れねぇ。人生普通が一番だ。

 

 

……さて、なぜこんなことを考えて(話して)いるのか。勘のいい方ならもうお分かりだろう。

 

——目の前に、自称神様とか言っている年若すぎる優男がいるからだ。

 

「というわけで転生して「フンッ!!」ぐゎぺぽッ!?」

 

いや、訂正する。視界に入る白一色の世界の中、体をのけぞらして宙を舞う、神を自称する二次性徴も来てないような優男がいるからだ。

 

「で。要約するとだ、

私がホントは別の世界に生まれるはずだった魂で、

そのせいでイロイロと浮き気味で、

それでも無理やり修正するのは服務規程違反だから放置して、

ようやく寿命で死んでくれたからお詫びもかねて元行くはずだった世界に転生させることにした……と。

なるほどぶん殴るぞこの野郎」

「な、殴ってから言うセリフじゃハイすみませんですからその足を下してくだい!」

「……ッチ」

 

ようやく諸悪の根源を完熟したザクロに出来ると思ったのに。いや、やろうとさえ思えば今すぐできるけど、土下座した相手を抵抗なく潰せるほど私も非情じゃねえ。吐き捨てるように唾を飛ばして、地面にへたり込む自称神様を睨みつける。

 

「で、拒否権は? どうせねーんだろうけど」

「えっと、ハイ、もう申請手続きは終わっちゃってるので、あとは特典を決めていただくぐらいしかできないんですけど……」

 

ほらみろ、予想通りいつもの通りだ。神様だとか運命だとか丁寧口調の赤毛の子供だとかは、どれだけ逃げてもいつかは追いつかれるんだよ。最初から諦めて受け入れたほうがまだ対処しやすい。この、いや前回のか? とにかく人生で学んだ教訓(ていかん)だ。

つーかマジで神様ってお役所仕事なのな、私の記憶だと割と自由に暴れてるイメージだったんだけど。いや、こいつらはあの悪霊女とはまた別ものなのか? サメにもコバンザメからジンベエザメまでいるみたいに。

まあ、それはどうでもいいか。

 

「転生先は? あと、そこの主人公サマたちには接触しなくちゃいけないのか? しなくていいなら全力で無視らせてもらうけど」

「えっと、あなたの世界にはない物語なので、教えるとなると特典の枠をひとつ使わなくちゃいけないです。

あと、規定で転生する魂には主人公といえる人たちに近しい運命の枠を使うことが決まってるので、望む望まないにかかわらず必ず接触はするかと……もちろん、そこからどのような関係を築いていくのかはあなたの自由です!」

 

なんでも、主人公の周辺には既定の路線へもっていこうとする力、いわゆる修正力が働いていて、ちょっとやそっとじゃその世界の存続にかかわるような路線にはいかないようになっているのだとかなんとか。

まー、そりゃ登場人物ガン無視で特典使いまくれば世界の覇権を握るのだって不可能じゃないし、その後どうなるのかなんてアレクサンドロス大王がわかりやすく示してくれてる。それを防ぐためって言われちゃそこに文句は言えねえな。

 

「そーかよ。じゃあ記憶やら魂の同一性はどうなんだ? たしか時間ループ系の超能力ですら時たま怪しくなってたはずだし、転生なんてそれ以上に難しいもんだろ」

「そうですね……20年ぐらいの魂ならそのまま送ることもできるのですが、あなたの場合だと少し魂が劣化しすぎてるので、記憶だけ外部メモリーのような感じで修繕した魂にくっつけることになると思います。その場合なら魂は記憶に曳かれて今の形に近づきますし、徐々に変化するので周囲に違和感は与えないかと」

 

ふぅん。そこは結構大事だからな、それなら懸念事項はひとつなくなったってことでいいか。

 

「ただ、それで“完成”というわけではありません。向こうで得た記憶や経験、肉体年齢でも魂は変わっていきますので、あくまで今お持ちの記憶と経験が“定着”する感じです」

「なら、その“定着”はいつなんだ? それまでに死んでましたとかなったら笑えねーぞ」

「えっと、それは大丈夫かと。周囲に違和感を与えないペースで間に合うようにとなると……大体5~6歳前後になると思います。それまでに命に係わるようなことがあったとしても交通事故ぐらいですし、それも運命に矛盾するので起きません」

 

……いいことを聞いた。今私は口がにやけそうになるのを食い止めるのに必死だ。

“間に合うように”、これはつまりその直後に何かが起きるということ。物語の本編か、主人公とかへの接触か……年齢的に考えるとたぶん後者だな。“運命”というのはさっき言ってた主人公に近しいって奴だろうし。

“交通事故”というのも聞き逃せないな。ある程度治安と技術が発展してないと第一候補としてはあり得ない可能性だし、かといって未来技術ばりに安全対策がなされているわけでもない。たぶん技術レベルは私が生まれたころと同等ぐらいか?

そしてなにより、“それまでに”というのは最重要単語だ。この言葉が出たということは、()()()()()()()ということ。何かが起きてドンパチするようになるのは確定的ということだ。はっきり言って気は進まないけど、まあ起きることが分かっている分だけマシだと思わねーと。

情報は力だ。こんな簡単な誘導に引っかかってちゃ、いつか騙されるぜ?

 

「んじゃ最後の質問だ。転生特典とやらの中身について包み隠さずに教えろ。どうせなんか条件があるんだろ?」

「はい。まずひとつが、対象とできるのは転生者一人だけということです。武器や能力など、本人の付随物と認定できるものは対象内ですが、たとえば『ヒロインを俺の彼女にしてくれ』などの他者へ直接的な改変を必要とするもの、『金運を最大値に』などのその世界のルールや全体の運命を操作する必要性があるものは規定により拒否しています。

ただし例外的に、漠然とした内容、たとえば『幸せな家庭に生まれたい』などの因果律の操作が少なく危険性も薄い場合に限り、運命干渉系の特典は認められることがあります。逆に、本人の能力だとしても他者の運命を操作しうるもの、いわゆる『ニコポ』や『ナデポ』なども含めた強い催眠系暗示系、その他運命に干渉しうる能力などに関しては厳しい使用条件が課せられるか、本人が述べた言葉の範囲で意図的に歪めて付加します」

 

ま、それは当然だな。どうも神様とやらの中では運命への干渉というのは禁忌に近いと聞き取れる。物語の中で努力の範囲で変化する分には問題ないが、外から一気に変えるのはご法度ということなんだろう。

 

「特典の歪みということでもう一つ。特典の付加に関しては、今言ったような例外的な事項でもない限りは、我々神自身の手ではなく機械的に処理しています。ですので、あいまいな望みを言われると……」

「明後日の方向で叶えられるから詳細に言え、ってことだろ?」

「いえ、必ずしもそうとは言えないんです。たとえば『○○の能力が欲しい!』という願いにはその能力を付加しますが、『○○()()()の能力が欲しい!』という願いには、元ネタとなった作品でのその能力の格付け(ランク)をもとに、転生先の世界での同ランク帯の中からできる限り類似した能力を選択して付加します」

 

なるほど、元ネタとなった話の平均のほうが高ければ詳細に言ったほうがいいけど、転生する世界のほうが高いならあえて濁すのも手なのか。

 

「ん? ってなると、転生先の“原作”を知ってる知ってないでかなりアドバンテージに差が出ねえか?」

「はい、そうですね。ですので、転生先に関する知識は特典一つ分として捉え、元から知っている方は二つしか叶えられません。ほかに注意するべき点としては、容姿や名前も“社会的な能力”として枠一つを使う必要があるということぐらいでしょうか。ああ、二つとも指定しても枠は一つですよ、あくまで“社会的な能力”の内部オプションなので」

「デフォはどうなってんだ?」

「基本的な転生だとランダムですが、あなたの場合は向こうに行くべきだった魂がこちらへたどり着いているので、すでに向こうの世界にこちらと同じ名前で同じ姿の枠を持ってます。特典を使えば別の姿名前にすることもできますが、どうしますか?」

 

前注意は終わり、こっからは三つの特典をどう使ってくかという話……にしたいのだろう。

だが残念だったな、私が素直に従うと思うなよ?

 

「いらない」

「……はい?」

「チート能力だの眉目秀麗な容姿だの原作知識だの、私の目的には一ッッ切必要ない! だからいらないって言ったんだよ! 望むとしたら平穏な家庭環境ぐらいだ」

 

ぽかんと口を開きやがって。んなもん当たり前じゃねーか。

強い力が面倒なトラブルを引き寄せるのはこの目で何度も見てきたし、私は別に力は欲しくねえ。普通に、平和にすごせりゃそれでいい……ん?待てよ?

 

「はあ。では本当にそれでいいです「いややっぱ今のナシで」か、ってええぇぇぇええ!?」

 

うっさい、私だって大見栄切って決め顔までしたのを撤回するとか死ぬほど恥ずいんだからな。

でも、さすがに今のままだとヤバイ。さっき自分でドンパチがあると推測してたじゃねえか。自慢じゃねぇがガチニートの私にバトルスキルなんてものはねー、主人公サマの戦いに巻き込まれたら死ぬ自信があるぞ。

 

「あとひとつだけ、最低限自衛できるだけの武器なり能力なりをくれ。私と家族、あとダチを守れるくらいでいい、下手に強すぎたりってのは却下だ。中身は……まあ私に向いてりゃ何でもいい、適正があるので頼む」

「はあ、それだけでいいんですか? ひとつ分余ってますから、原作知識なども大丈夫ですけど」

「ハッ、それこそありえねえ。そんなもん知っちまったらどうしてもフィクション感が出ちまうし、あてにならない未来知識ほど危ないもんはねーんだ。こっちは地に足つけて生きたいんだよ」

 

未来知識の危険性は私たちはよく分かってる。あと、行き過ぎた正義感もダメだ、ありゃ狂ってるのと何も変わらねー。自分が届く範囲で自分に出来る事をするぐらいでちょうどいい。

 

「まあそういうことなら。

では、これにてお話は終了です。後ろの扉から出た先には、新しい世界が広がっていますよ」

 

その言葉通り、いつの間にやら大きな青銅の扉があった。どっかで見たことあると思ったら、こりゃあれだ、ロダンの地獄の門そっくりじゃね-か、考える人もあるし。縁起がわりぃ。

 

「……ああ、ひとつ聞き忘れてたわ」

「はい、何でしょうか?」

「その姿、なんもできなかった私への当てつけか?━━ネギ先生?」

 

そういうと、若かりし恩師の姿をした神様は、静かに首を振った。

 

「いいえ。私は、あなたの知ってる彼ではありません。そこに悪意があるわけでもありません。ただ、この世界を代表する人物として彼の姿を借りている。それだけですよ」

「そーかい、あのガキがこんなトコまで来ちまってるんじゃないならそれでいいや。じゃあな、カミサマ」

「はい、お元気で——長谷川千雨さん」

 

もう振り返ることなく、ひらひらと右手を振って別れを告げる。本当に、いろいろとお世話になった運命(カミサマ)に。

 

「さーて」

 

『我を過ぐれば憂ひの都あり、

我を過ぐれば永遠の苦患あり、

我を過ぐれば滅亡の民あり

義は尊き我が造り主を動かし、

聖なる威力、比類なき智慧、

第一の愛、我を造れり

永遠の物ほか物として我よりさきに

造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、

汝等こゝに入るもの一切の望みを棄てよ』

——だったか? まあ要約すれば、「この先はすごい神様が造った地獄だから絶望してね」ってことだ。

 

だけど、知ったことか。

こっちは地獄すら生ぬるい絶望を乗り越えて、それでも前を向いて進んでったバカ共のダチやってたんだ。いまさら地獄の一つや二つ来たところでどうってことねーんだよ。

たしかにココにあいつらはいねえ、胸の中で生きてるとか綺麗事を言うつもりもねえ。

これは私の意地だ。あいつらみたいに前に立てなかった私が、それでもあいつらの友達だと胸張って言うためのちっぽけなプライドだ。

 

両手を扉にかけて力を籠める。開いた隙間から無色の光が溢れてくるも、構わず一気に全開にした。

 

 

「地獄だろうがフィクションだろうがドンと来やがれ!

例えどこに行こうが、私は長谷川千雨——白き翼(アラ・アルバ)の参謀だ!」

 

 

先の見えない無色透明の向こう側へと、今、一歩を踏み出した。

確かに胸に灯る、わずかな勇気(キズナ)を力に変えて。

 




「ちなみに扉の向こうに道なんてありませんよ」
「だよなぁぁぁぁぁあああッッ!?」
「……歴代1位の落ちっぷりですね」
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