視界を遮る。なんて可愛らしい程度で済まなくなってきた。
鼻にまでかかる前髪があまりに鬱陶しくて首を振る。
それでも少し目の前で揺れる髪を、目を瞑りつつ手で退ける。
「・・・切ったら?」
「・・・切ろうとは思うんだけど、面倒で」
一連の動作を見ていたヒュウガ。
黙って不思議そうに見つつ提案した答えを聞いて、珍しく苦笑いをしている。
「美容院行かないんだっけ?」
「うん、態々お金払ってまで切ってもらう理由がわからない」
自分で切るのが上手というわけではない。
下手な人に比べると器用な方だというだけ。
そんなわけで、長く鬱陶しいと感じるといつも自分で切っている。
「ハサミをどこに置いたかわからなくなった」
「・・・たまに本気で物無くすよね」
「新しいの買ってあげようか♪」なんて彼の言葉を放置しつつ、やはり落ちてくる前髪を少し指で摘む。
くるくると遊びながら視線を、組んでいる自分の膝あたりに移す。
「もうさぁ・・・」
「ん?」
「顔も隠せるし、これでいいんじゃないかって気に「切ろうね♪」・・・」
かぶせるように言ってきたヒュウガを軽く睨む。
そんなことしたところで、怖がるどころか面白がってニヤニヤ笑うだけ。
「せっかく可愛い顔してるのに、勿体ないよ~☆」
「はいはい」
「本心だよ♪」
楽しそうに私の前髪に触れるヒュウガに、溜息をつく。
私のように掴んだのではなく、本当に軽く手を当てるような触り方をする彼の手から、頭を引いて逃げる。
「明日にでも切っておいで♪」
「・・・ハサミが見つかったらね」
「切ってなかったらオレがパッツンに切りそろえてあげる♪」
「器用なんだから綺麗に切ってよ」
「いいの?」
きょとんとした顔で首を傾げる彼に、こちらが不思議に思う。なぜ疑問形?
「綺麗にパッツンにしてって言ってるんじゃないからね?わかってるよね?」
「もちろん♪そうじゃなくてさ、オレが切ってもいいの?ってこと☆」
「なんでそんなこと聞くのさ、ヒュウガ器用じゃん」
「オレ好みにしちゃうよ?」
「余程私に似合わない髪型とかじゃなければ、問題ないよ」
何を言い出すかと思えばそんなことか・・・なんて声に出さずに、邪魔な前髪を手で押し上げて机に肘をつきつつ斜め下を見る。
視界に映るのは、ヒュウガの靴。同じように足を組んでいるから、横に軽く出ているのだろう。
「なら明日切ってこないでね♪」
「・・・ハサミが見つからなければね」
「見つからないと良いな~♪」
「何言ってんの」
視界に映っていたヒュウガの靴がなくなった。座っていた彼が立ち上がったのだから当然。
戻るのかな?と考えていると、私の前に手を出した。
目線だけ彼の顔に向ければ、声の通り上機嫌な表情をしていた。
「いこっか♪」
「はいよ」
前髪を押さえていた手を離して軽く整えながら、出された手に指を軽く当てつつ立ち上がる。
手を繋ぐ気がないとわかると、「残念☆」と冗談のように言って並んで歩きだした。