「これが……黙っていられるか!」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第2話:<記憶と葛藤>
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急に輸送機の無線担当者が何かを受電し機長に報告した。
「軍令部より入電! 本機はフィリピンを経由して美保へ向かうようにとの指示です」
それを受けた機長が提督に向かって申し訳無さそうに聞いてくる。
「提督……上からの指示ですので」
提督は直ぐに応えた。
「軍令部からか……仕方ないだろう」
彼は肩をすくめながら呟くように返答した。
機長はベテランらしく提督の不遜な態度にも「ハッ」と軽く敬礼しつつも同情するような表情だった。
提督は腕を組んだ。軍令部に飛行機までお膳立てしてもらって今さら何も文句は言えないのだが……。それでも少しずつ変更される命令に対して思わず無視したくなる衝動に駆られる自分に苦笑していた。
正直、軍部の朝令暮改振りにはいつも辟易していた。
『仕方ないよな。制服組の連中には現場の苦労は分からない』
内心、そう呟いた。嫁艦である金剛は、そんな夫の感情の動きを察して複雑な想いだった。
やがて機体はフィリピンの領空に入る。艦娘たちが艦隊行動する際にもコソコソと領海ギリギリを航行する場所だ。しかし今日は堂々と行ける。
金剛がいつになくウキウキしているのを提督は見逃さなかった。
『ああ! いつの日か世界の海を自由に航行したいな……』
金剛はそんな想いで一杯だった。
それは青葉も同様だった。彼女はカメラを抱えて窓際で準備していた。大した資料にはならないだろうけど、ここぞとばかりに米軍基地を撮りまくってやろう。
そして……もう一人の艦娘だけは、大人しかった。いや……むしろ不気味なくらいに静まり返っていた。提督は、金剛や青葉との温度差が気になっていた。
「おい、やっぱり『夜戦』が良いのか?」
半分からかったつもりだったが冗談が通じなかったようだ。あちゃー、失敗したかな? 彼はちょっと冷や汗が出た。
やがてノイズ交じりに英語で無線が入り始める。機長は英語で応対する。機体はフィリピンの米軍基地へと着陸態勢に入った。
「ワクワクしますネ」
「ホント」
金剛と青葉は喜んでいる。
そのとき突然、騒ぎが持ち上がった。後ろのほうでバタバタと慌しい動き。
「どうした?」
提督が振り返ると青葉が『その艦娘』を押さえ込んでいた。
「川内が……どうしても『やっつける』とか言って……」
提督は困惑した。彼女には、よほど米軍に対して腹に据えかねる思い出……過去があるのだろう。まぁ歴史的にも艦娘にとっての米軍とは深海棲艦に匹敵する『宿敵』だからな。
さすがの青葉もいきり立った川内を止められない。
「もうだめ……」
そんな青葉と川内の状況を見ながら提督は金剛を振り返った。そして目配せで何かの同意を求めると彼女もまた微笑んでうなづいた。
『darlingを信じているからネ』
そんな金剛の想いに提督も大きくうなづいた。そこには独特の信頼関係があった。
直ぐに青葉の手を振り切った川内は、いきなり機外へと出ようとした。その行く手を提督が素早く塞いだ。
「そこ、どいて!」
提督を睨みつける川内。
「まあ、落ち着け」
もはや普段の彼女ではなかった。
「これが……黙っていられるか!」
「言っても……無理か」
彼は落ち着き払って言った。川内は強行突破する勢いで提督に突進してきた。彼はスッと
避けるとドアへ向かう川内の足を瞬時に払う。
「あっ!」
小さく叫んだ彼女は、しかし素早い身のこなしで体勢を立て直した……が、それも束の間、瞬時に提督がもう一度、彼女の腕をつかんで足を払った。
「……!」
一瞬、獣のような形相をした川内は悔しそうに機内を転がった。
しかし金剛も青葉もさほど驚かなかった。いやそれは川内自身も同様だった。艦娘たちは提督が滅法強いことは知っていたから結局はこうなるだろうと……結末も予想出来ていたのだ。
むしろ本省から派遣された機長や無線手のほうがこの事態には驚いたことだろう。
どこかを打ったのか上体は起こしたが、その場で座り込んだまま腕を押さえている川内。
さすがに脱走する気力は失せたようだが、ようやく我に返ったのだろう。下を向いたまま身体を震わせている。
機長が申し訳無さそうにアナウンスをする。
「着陸態勢に入ります。ベルトをお願いします」
半分立ち上がっていた金剛と青葉は直ぐに席に戻った。提督は川内の傍に行くと、しゃがんで彼女の肩に手を掛けて優しく声をかけた。
「落ち着け川内。今の米軍は戦う相手じゃない」
「……分かってる」
絞り出すような声で応える彼女。
「だけど……」
後は声にならなかった。泣いているのか?
やれやれ……と思いながら提督は川内を軽く抱き寄せた。彼女はそのまま彼の胸の中に顔をうずめるとすすり泣いた。
そんな川内の姿を見ても誰も軽蔑はしなかった。また普段の勇ましい川内とのギャップを感じる者も居なかった。
艦娘とは一人ひとり抱えているものが違う。時にそれが思わぬ形で表出するのだ。
機長もまたホッとしたように言った。
「このまま着陸します。提督、注意して着陸しますので、ちょっと踏ん張って下さいね」
「ああ、任せたよ」
意外に杓子定規でないベテラン機長で良かった。提督は強く川内を抱き寄せた。ああ、この子も意外に華奢(きゃしゃ)なんだなあ。そんなことを思った。
機体はそのままゆっくりと減速しながら地上へ降りていく。窓の外に米軍基地の景色が流れる。
機長を寄こした軍令部……いや、ひょっとしたら叔父貴が何か口添えしたのかも知れない。提督はニヤッと笑った。『こういう根回しはやはり年の功がモノを言うな』
そのとき提督はふと気付いた。
「あれ? 寝ちゃったよ、こいつ……」
彼は川内を抱きながら呆れたように言った。こうしていると可愛いのに、いざ戦闘となると豹変するんだよな……まあ、このギャップ感が川内の魅力なんだが。ふと見上げると金剛も微笑んでいた。
「まぁ良い。お前もたまにはリラックスしろ」
川内の髪の毛に手をやりながら呟く提督。
艦娘たちは強力な能力と引き換えに、さまざまなものを失った。記憶もその一つだろう。普通の人間ならば遠い記憶を頼りに精神の安定を図る。だが艦娘たちにはそれが出来ない。むしろ予想も付かない記憶が突然噴出して来る事もある。
その記憶が良くも悪くも現実生活に影響を及ぼす。だから現実とのすり合わせは支えるべき人間との共同作業が不可欠なのだ。それが分からない指揮官は苦労してブラック鎮守府とか言われる羽目になる。
誰か……人間が大きな心で彼女たちを受け止めれば良い。そうすれば艦娘の精神的な不安定さは自然と納まっていくのだ。
提督も艦娘との付き合いは長くなった。その間に、いろいろなことを悟った。彼女たちが抱えるものはあまりにも膨大で重い。浅はかな性格の人間には手に余ることだ。付き合いが長くなるほど、むしろ慎重になる。だからこそオレは艦娘からは離れられない。彼は改めてそう思った。
やがて機体は滑走路に着陸した。機長はブレーキを掛ける。提督はホッとした。
「後はワタシがやるネ」
立ち上がった金剛がバトンタッチしてくれた。意外と金剛は面倒見が良い。それはケッコンしてから拍車が掛かったような気がする。
寝入った川内を抱きかかえた金剛は呟くように言った。
「私も最初はこうだったネ。でもいろんな想いは出し切ることも必要だよネ」
「ああ……」
そうだよ。悪い記憶は出してしまって、良い記憶を後から皆で創れば良いんだ。提督は金剛に抱かれた川内を見てそう思うのだった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。