「私は一度、轟沈しました」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第21話:<誓約書と轟沈>
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霞が配ったもの……それは何かの誓約書だった。
美保司令が説明する。
「これから、ざっくばらんな自由討議の時間となりますけど。その前に申し訳ないですが誓約書に署名を頂きます。情報漏えいに関する機密保持の為の物で皆さんと帝国海軍との間で交わす誓約書になります」
『え?』という表情の艦娘たち。金城提督も何となく内容は分かるのだが……。
相変わらずニコニコして美保司令は続ける。
「ここは軍隊です。当然、国家機密も扱います。皆さんを疑うわけではありませんが、いま日本ではコンプライアンスとかいろいろうるさくて……上のほうから、こういう場では必ず署名を取るように言われていますので」
金城提督をはじめ、会場内のブルネイメンバーは皆、引いている。当然だろう。ブルネイにはこんな物はない。
「まあ、分かるがね……」
呟く提督。軍令部がお役所仕事なのは分かるが、いきなりこういう形式的なものが出て来ると当然、抵抗感がある。
「もちろん強制はしませんが、これに署名をされない場合は退席して頂きます。正直、私もこういうのは苦手ですけどね」
後ろのほうから相変わらず立ったままの美保司令が申し訳無さそうに言う。
「どうするの? darling」
金剛が聞いてい来る。
「そうだなあ……」
そのとき声がする。
「もう記入して良いか」
意外にもケリーが発言した。その横では、いつの間にか目覚めたPOLAが寝ぼけ眼でペンを握って早くも署名をしようとしている。おいおい内容は分かっているのか? ……あ、彼らの誓約書は英文だな。
その疑問を察したようにケリーが日本語で言う。
「これ、読み合わせしなくても書いてある内容を理解したと判断して自主的に書いても良いんでしょ」
「はい、仰るとおりです」
それを聞いて金城提督は思った。西洋人はこういう『契約書』的なものには慣れている。だからPOLAも抵抗感なく書面に署名しようとするのだろう。事実、念のためにケリーから書面の説明を受けながら何度もうなづいて記入をしているPOLA。
すると艦娘が一人手を上げながら立ち上がった。
「私、拒否しても良いかな……」
それは川内だった。
「こういうのって、イマイチ苦手なんだよね」
「もちろん自由ですが……」
そう言いながら司令は提督の顔を見た。提督も川内もハッとした。ここは個人の意見を主張する場ではない。軍隊なのだ……。
直ぐに頭を振って自分の頬を何度か叩いた川内は、赤くなった頬を更に赤らめながら言った。
「あの……すみません。寝ぼけて判断を誤るところでした……前言撤回です」
そう言って彼女は再び着席した。それを見ていた青葉がホッとしたような表情を浮かべた。直ぐに提督は腹を決めたように言った。
「念のために、読み合わせはしてもらおうか」
「分かりました。では祥高さん、お願いします」
美保司令は言った。するとケリーが割って入る。
「私たちは書いたからね」
米軍メンバー二人は既に記入済み……POLAは誓約書を横にして、また突っ伏している。
その後、5分ほど内容の確認をした。もちろんそれは軍人としては守るべき当然の内容である。少し違うのはブルネイメンバーが美保鎮守府に居る間に知り得た全ての軍事機密事項の保持という文言が有ること。それは仮に軍隊を離れた場合も契約が継続し、万が一国籍を変える場合は個別に協議することとある……基本的に艦娘には不必要な内容だが、お役所仕事だ。仕方がない。
書類を確認した祥高は、それを霞に渡し彼女はケースにしまうと礼をして一旦退出した。
何だかんだで午前中は残り僅かとなってしまった。美保司令が言う。
「ちょっと時間も少なくなりましたが午前中は軽く行きましょうか? では司会は副司令である祥高さんにお願いします。私は失礼して……」
ここで初めて司令は着席をした。一番末席に。
改めて祥高が挨拶をする。
「では司会進行を賜りました祥高と申します。よろしくお願いします」
会場から軽い拍手。
「あまり時間が無いからな、オレから行こうか」
提督が言うと祥高は「どうぞ」と言った。
「美保では、今でも轟沈ゼロ記録を更新中かい?」
これは簡単では有るが重要な質問だ。機密としてのランクは低いが軽いジャブ的なモノ。良くも悪くも鎮守府の内容を量るものといえよう。
金城提督としては、この質問は当然の結果が返るものとして、さほど重視していなかったのだが意外にも美保司令は答えに詰まったような表情をした。あれ?
いや司令は困った表情と言うよりも質問の意味をよく分かっていないような一瞬呆けたような表情を浮かべた。すると直ぐに赤城が挙手をした。
「赤城さんどうぞ」
ちょっと慌てたような祥高。(それも気になる)
赤城はゆっくりと立ち上がった。
「ブルネイの皆さん初めまして。私は赤城……って、見れば分かりますよね」
ギャグのつもりは無いのだろうが会場は笑いに包まれた。赤城本人も苦笑した。
だがこの赤城は普通(デフォルト)の赤城とちょっと違う印象だなと提督は感じた。本当に量産型か? そもそも彼女は戦闘服もなぜか普通の赤城のものではない。ケリーが着ているような米軍の軍服に近いタイプで人間の兵士が着るようなツナギの軍服なのだ。けしからんことに太ももが出ていない(笑)
(なおケリーの軍服は幸いにして膝から下は見えるスカートタイプである)
そもそも、さっきの轟沈の質問と、この赤城と、どういう関連があるのだろうか?
違和感のある『赤城』は語り始める。
「えっと……私は量産型の赤城になります。ここ美保にはオリジナルの赤城さんもいらっしゃるのですが……」
急にうつむき加減になって机に「の」の字を書き始めた赤城。おいおい、大丈夫か?
隣に座っている大井も心配そうに彼女を見上げる。視線が合った赤城は軽くうなづくと決意をしたように続けた。
「あの……済みません、私が一度、その轟沈しました」
「え?」
一瞬、彼女の言っている言葉の意味が分からなかった。それは艦娘たちも同様だろう。なぜ轟沈した艦娘がここに?
ただケリーは意外に真面目な顔をして腕を組んで見ている。美保司令は帽子を脱いで机に片肘を付いてアゴに手をやっている。彼もケリーと同じように事実を確認しているように淡々とした表情を浮かべている。
この二人は当然、赤城轟沈の事情を知っているのだろうが当事者である美保司令から妙な違和感が感じられるのはナゼだろうか? まるで他人事のような……轟沈ゼロ鎮守府提督らしくないと金城提督は思うのだった。
赤城は続ける。
「でもゴメンナサイ。私もその時は必死で……あまり記憶が無くて。最前線で既に大破していた私は撤退命令が出てもおかしくない状況で、なおも敵陣に突っ込みました。気が付くと敵の航空機に囲まれていて、そこから発射された魚雷が4発ほど直撃したことまでは覚えています」
軽い質問のつもりがいきなり会場内は重くなった。赤城は立ちながら固まっている。
「赤城さん、ありがとう。もう良いわ」
祥高が言う。大井とは反対側に座っていた美保の金剛が赤城の肩を抱えながらゆっくりと座らせた。この金剛は何かを知っている雰囲気だな。
祥高は補足する。
「美保鎮守府で遠征初参加の際に量産型の赤城さんが一度、轟沈したことは事実です。彼女が参加して大破したことは軍の公式記録にも残っていますが……轟沈とは記述されていません」
「はあ?」
提督は思わず声を出した。
「どういうことだ?」
「はい」
意外にも祥高は微笑んだ。
「公式的な記録では、美保の赤城さんは一旦轟沈寸前の大破まで行きましたがその後、瀕死の状態で海上を漂っているところを重巡祥高および駆逐艦寛代によって発見されました。そのまま彼女は前線基地まで曳航されました」
「結局どっちが正しいネ?」
堪らずブルネイの金剛も突っ込んだ。
「はい。ですからどちらも正しい……でも軍の公式記録では結果だけが残されました」
初っ端から混乱させられる状態になった。やはり一筋縄では行かなかったか。何となくあの祥高や金剛、大井は何かを伏せている……そんな印象だ。
思わず元帥の得意そうな顔が思い浮かんだ。あのジイさんは恐らくこういった裏の事情も全て知っているのだろうな……可愛くない。
だがブルネイの青葉が手を挙げた。
「青葉さん、どうぞ」
司会に指名された青葉が立ち上がった。
「一つ確認です。美保の大井さんも似たような経緯を辿った、というのは事実でしょうか」
いきなり強烈な質問だ。提督を始め他の艦娘も騒然とする。だが青葉は何処からそんな情報を掴んで来たんだ?
すると大井が手を挙げた。
「大井さん、どうぞ」
軽く会釈をして立ち上がった彼女は言った。
「美保鎮守府で教育を担当しています大井です」
いよいよ本命登場か。彼女も妙に落ち着いた感じで量産型の大井とは少し印象が異なる子だ。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。