「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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午後の討議はフリーな感じになり赤城が登場する。彼女には轟沈という過去があった。



第30話:<トラウマと縁結び>

「ヘリ空母なら本当は加賀さんが」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

 第30話:<トラウマと縁結び>

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 美保司令の提案で、そのままの流れで討議に入ることには誰も異議を唱えない。

まずは会議室のテーブルをすべて取り払ってイスだけを緩やかに円形にした。なるほど、これならお互いにフラットに向き合えるようだ。ざっくばらんに討議出来る雰囲気に変わったな。

 

「これから1時間ほど討議したあとで、外に出てオスプレイの実機の説明をすることに致しましょうか?」

 美保司令は立ったまま全体に提案する。

 

「おお、オスプレイか、待ってました!」

 副大臣が言う。確かにあれは目玉だよな。

 

しかしかつての敵国によくもまあ最新の機体を貸し出してくれたものだ……あ、ここで思い出した。金城提督は立って様子を見ている美保司令に近づいて言った。

 

「美保司令、スマン。これを忘れていた」

提督は内ポケットからフィリピン海軍元帥からの親書を手渡した。彼はチラッとそれを見ると誰からの物か、直ぐに察したようだ。

 

「ああ、わざわざ、有り難うございます」

それを手渡しながら提督はふと思った。あの白髪の元帥の後押しがあったからフィリピンの米軍も動いたのだろう。こっちのジイさんもそうだけど、両国の元帥が動いて現場の指揮官が助けられるという構図。正直、実感が無かったが軍や国家がそうやって動く。軍の組織だけでなく国境を超えるものを感じて思わず鳥肌が立ちそうだ。

 

「どうかしましたか?」

美保司令に問いかけられて、少し慌てる提督。

 

「いや、まさかオレが艦娘と一緒に美保鎮守府に来るとはねえ……」

「そうですね。思えばあの演習も不思議な出会いでしたね」

 それを聞いて提督はふと思った。

 

 確かにあの演習のお膳立ては元帥が立案したにせよ結果として美保鎮守府との不思議な結びつきが出来た。人の縁とは分からないものだ。特に美保鎮守府はコンパクトながら不思議な出会いをもたらす場なのか。

 

 その時、副大臣が言う。

「どうせならオスプレイで遊覧飛行したいねえ。試験飛行ってことで時間取れないかなぁ? 稟議は後でオレが上げるからさぁ、空から大山とか出雲大社とか行こうぜ」

 

 だが直ぐにメガネを抑えつつ副長官がたしなめる。

「馬鹿かお前は?」

 

また大臣に対してバカ呼ばわり……しかし、この二人も良いコンビだよな。

 

 そんな彼の言葉を聞いて提督は気づいた。美保は縁結びの神様(出雲大社)が近いよな。人と軍人そして艦娘……出会いは無数にある。そのどれもが自分にとっては重要なものに違いない。

 

「どうしたのdarling? 座ろう」

「ああ」

一瞬、立ち尽くしていたが金剛に促されて席に座る提督。

 

 一部二列になっているが大体円形に並んだイスに武官や艦娘たちが座っている。お互いの表情が良く見える。霞だけはパソコンの端末のあるデスクに座って資料検索を担当する。

 

 改めて見ると赤城の服装は普通の艦娘の制服ではない。やはり米軍仕様だ。祥高の後ろに立った美保司令が言う。

「では午前中よりもフリーな感じで参りましょう。ほとんど発言者も限られていましたが、この時間は敢えて司会を立てずに各自、討議しましょう。司会は流れを整える程度で始めましょうか」

 

 提督は美保司令の姿を見て思った。機密情報を扱うからこそ、こういった討議の場も自然に直ぐ組める。そういった流れに普段から接している印象を受ける。ジイさんの言うとおり美保は諜報戦でも最前線を行っているようだな。

 

 一方のブルネイは、どちらかといえば艦娘を中心とした実戦的な戦闘重視部隊だ。各自の主体性にウエイトを置く。ブルネイの艦娘たちだって、あまり細かい策略とか緻密な作戦は敬遠しそうだ。そういう回りくどい作戦はオレだって苦手だと提督は思うのだった。

 

 両者それぞれ個性がありジイさん流に言わせれば今後、帝国海軍の艦娘部隊での要となっていくのだろう。それじゃ将来的にはブルネイにもオスプレイを導入するのだろうか? アメリカの艦娘も少しずつ増えているしな……そう思っていたら美保司令が赤城の後ろに移動した。

 

「えっと、美保には赤城が二人居て、こちらは2番目に着任した子です」

 美保司令が彼女を紹介する。赤城は少し恥ずかしそうな表情を見せる……たまらんな。

 

「ただ事情がありまして一度前線を退いて居ましたが……今は新しい任務についています」

 それを聞いたブルネイの青葉が小声で言った。

 

「あの子が一度、轟沈した子ですね……噂ではそれがトラウマになってしばらくは前線に立てなかったという話ですよ」

「oh、それは可哀相デスね」

 金剛も小声で返している。

 

「だが新しい任務で復帰したって……まさかオスプレイと関係あるのか?」

提督が言う。彼の声が少し大きかったせいか美保司令がこちらを見て言った。

 

「察しが良いですね……では赤城さんからどうぞ」

司令に促されて恥ずかしそうに立ち上がった彼女は軽く会釈をした。

 

「一部ではご存知の方もいらっしゃるようで……私は轟沈から浮上しました。深海棲艦側に行くことは無かったのですが精神的ダメージが大きくてしばらく艦載機を扱うことが出来ませんでした」

 

 空母がそれでは深刻な話である。実は同じように精神的ダメージから前線に立てなくなる艦娘は少なくない。それが解決できる一つの案として彼女の例が役立つのだろうか?

 長髪の赤城が憂いを含んだ表情を浮かべる。こういう深刻な話が妙に似合うのだ。何か、つい手を差し伸べて抱きしめたくなる脆さを感じさせる彼女だ。

 見ると副大臣も同じ想いなのかウルウルしているが……横に居る副長官に速攻で小突かれて苦笑している。笑わせるな、この二人は。

 

 そんな赤城は明るい表情になって続ける。

「悩んでいたとき美保にオスプレイが導入されました。説明を聞きながら機体を見た私は『このタイプなら運用出来るのではないか?』と思ったのです」

 

 そこまで聞いた提督は挙手をして、そのまま発言した。

「ちょっと良いかな?」

 

「はい」

 デフォルトで憂いを含んだ赤城の瞳が妙にキレイで思わずドキっとする提督。隣に居る金剛に悟られて小突かれやしないかと冷や冷やしながら質問をした。

 

「ごめんね、最後まで聞かなくて……そのフルサイズのオスプレイはそこに有るけど、それに君が乗り込むってことかい? それとも……まさか?」

 

 質問をしながら提督は既に赤城の答えを想像出来ていた。そのことを悟ったのか彼女は微笑んだ。

「ご想像のとおりです。私たちは今、艦娘サイズのオスプレイの導入試験を行っています」

 

 その言葉で急にざわめく会議室。そりゃそうだ、米軍の最新型機を早くも美保では艦娘サイズでコピーしたことになるんだ。シナもビックリだろう。

 

するとドイツ武官が手を上げながら聞く。

「だがオスプレイは戦闘機ではなく支援機だろう? 艦娘サイズでは輸送量も限りがあるはずだ。あまり運用面でのメリットは無いと思うが」

 

 鋭い……というか、へえぇそうなんだって感じだ。そもそもオスプレイがどういう用途で使われるのかがよく分かっていないんだが。

 

赤城は答える。

「ええ、仰るとおりです。ただ私の場合は直接、最前線に出る任務ではありません。もちろん必要に迫られて最前線を通過したり作戦行動の一部として戦闘区域に入ることはありますが、私自身が直接戦闘することはありません」

 

「ほう、そんな任務があるんだな」

副大臣は感心したように言う。

 

 轟沈で受けた赤城の心の傷がどれくらい深いか分からない。ただ現在の彼女は、それを克服したようだ。恐らく彼女自身、新しい任務は、とてもやり甲斐があるに違いない。

 赤城は微笑みながら付け加えた。

「実機ではヘリコプターという選択肢もありますが……ウフフ。これがヘリ空母だったら本当は加賀さんがやるべきなんでしょうけどね」

 

 は? そうなのか? なぜいきなり『加賀』がヘリ空母なんだ? 彼女のこの発言は何かの冗談か? ……少々解せないが幸せそうな彼女の笑顔に免じてスルーしておこう。

 

「そうだネ、この赤城はすっごく幸せそうに見えるヨ」

 提督の思いに呼応するように金剛が言う。確かに赤城の表情には何処か吹っ切れたような壁の無さを感じる。ただその要因は彼女自身が最前線に出ない……ということだけではなさそうだ。

 

 ところがいきなり、そこに艦娘が乱入してきた。

「なんでオスプレぇなの? 二式大艇ちゃんだって、まだまだ活躍出来るもん!」

 

 勢いで立ち上がっているのは秋津洲だった。

「なんで? ……ここには二式大艇ちゃん、すっごくいっぱい居るのに! その変な米軍の機体を使わなきゃいけないわけぇ?」

 

『変な……』と聞いてケリーや副大臣は苦笑している。まぁ艦娘を知らない武官や官僚だったら呆れているところだな。

 

 一瞬、会議室の雰囲気が変わりかけた。だが赤城は微笑みながら落ち着いて応える。

「貴方の気持ちもよく分かるわ。でも貴方と同じようにオスプレイも、いろいろ使える器用な子なのよ」

 

「使える子?」

秋津洲の表情がちょっと変わる。

 

赤城は顔に掛かった長髪を少し払うと続けた。

「そうね……航続距離は二式大艇が圧倒的よ。それに敵機に対する攻撃や反撃能力も長けていることは知っているわ」

 

「でしょ?でしょお!」

 二式大艇を褒められて秋津洲は嬉しそうに飛び上がる。何か元気な子だな。

 

「でも私はね、新しい機体を救助のために使いたいの」

「救助?」

 秋津洲は不思議そうな顔をしている。そんな彼女は隣に居た大井に一旦座るように促されて席に座った。

 

それを見ながら赤城は続ける。

「私は自分が一度、轟沈したから分かるけど……痛みに耐えながら徐々に沈んでいくあの感じ……本当に嫌なものだわ。でも同じ気持ちを艦載機の妖精さんたちが味わって居ることにふと気づいたの」

 

「……」

秋津洲だけではない。会場内の全員が注目して静かに聞いている。

 

 赤城は何かを思い出すような遠い目をすると同時に少し苦しそうな表情を浮かべた。

「戦闘になれば空母はひたすら艦載機を打ち出して……でも激戦になるほど戻って来る艦載機が目に見えて減っていくの。最初はあまり意識していなかった……むしろその数に比例して敵を倒せるから。わが軍の勝利のためにそれは必要な犠牲だと思い込んでいたの」

 

場内は静まり返っている。深刻な表情だった赤城はふと顔を上げると真面目な表情で秋津洲に聞いた。

「貴方は……沈んだ経験はある?」

 

「……」

 それは無茶な質問だと提督は思った。普通は沈んだら終わりだ。あまりにも分かり切った質問にさすがの秋津洲も返答に困っている。

 

「私はあるわよ……」

 いきなり秋津洲の隣に居た大井がボソッと呟いた。一瞬、場内が凍りついたようになる。何か話を続けようとする大井を赤城は止めなかった。じっと立ったまま彼女を見守っている。その雰囲気に気付いた大井は、ゆっくりと口を開いた。

 

「普通は轟沈の経験なんて無いわよね……フフフ、もしそんな経験をしている子が居たら『貴方は何者なの……幽霊?』って聞かれるわね」

 ポツポツと語る大井。何だろうか? 妙に凄みのある彼女……恐らくその経験は本物なのだろう。

 

「沈む瞬間の気持ちは赤城が言ったとおりよ。痛みと絶望、そして私を暗く深い海底に押しやるのは誰? ……ってところね」

 全員無言。ではこの場に居る大井は、まさに幽霊なのか?

 

 だが美保司令をはじめドイツやイタリアの武官たちは何かを知っているような表情だった。待てよ、大井は娘と一緒に、かつてのブルネイで建造登録されているって言ってたよな? つまりその当時のブルネイで何かあったのか?

 

「沈んでいたときの記憶は一切残っていないわ。ただかろうじて美保司令に対する恨みの気持ちと沈んでいる間に生まれた娘への想い……これだけは消えなかったわね」

 良いのか? この話を聞いて……青葉とケリーは必死にメモを取っている。

 

「でも不思議……恨んでいるはずの司令がなぜか気になって、おぼろげに途切れる記憶の中でもひたすら彼を追っていた気持ちがあるの」

 美保司令は腕を組んでじっと聞いている。

 

「そんな気持ちの渦……寄せて返す波のように意識と無意識の世界で何度か行き来する中で……司令の姿が次第にハッキリしてきた……不思議よ。恨んでいるはずの本人がハッキリと見えるほど、だんだん私の恨みの気持ちが消えて行く……」

 

 ここで彼女は黙った。会場も誰も何も言わない。間を置いて再び大井は話し始める。

「気が付いたら私、司令と再会したみたい。無意識の中で彼の『暖かい気持ち』に包まれていた……そう、私はこれを探していたんだ! って気付いた……幸せと安堵の想いの中で急に細長い暗闇の中に引き込まれて、副司令や鎮守府の皆が呼ぶ声がしたの」

 

「そうねぇ思い出すわぁ……貴女キレイだったのよ」

 なぜかイタリア武官が呟く。

 

 更に続けようとした大井だったがチラッと時計を見ると自分で現実に戻ったようだ。語りを急にセーブした。

 

「ごめんなさい……つい長く話してしまった。でも私が戻ることが出来たのは『あのとき』の皆さんがそこに居たから……司令夫妻と美保の皆、そしてわざわざ海外からいらした武官の皆さん……」

 

彼女は静かに立ち上がって軽く礼をした。

「本当に有り難う。今では米軍にも感謝しているの……ケリー、貴女にも」

 

名指しされたケリーは微笑んだ。

「フフフ、人の縁ってのは不思議ね……貴女を見ていると本当にそう思うわ」

 

 そう言いながら、なぜか二人は微笑み合うのだった。この二人は深い関係があるのか?

 

 大井は改めて赤城の方を向いて言った。

「ごめんなさい赤城さん、せっかくの場をこんな話で」

 

だが赤城は微笑んだ。

「良いのよ大井さん……轟沈した艦娘は大体同じような心境を通過する。それを聞くだけでも意義深いものがあるわ」

 

 二人は顔を見合わせてお互いに笑っている。通過したものにしか分からない彼岸の世界か。

 

 武官や年季の入った艦娘は良いとして案の定、秋津洲はぶっ飛んでいた。そんな半分呆けたようになっている秋津洲を見ながら赤城は続ける。

「秋津洲さん、今の大井さんのお話は特殊だけど……艦娘だけじゃない。戦場に出た妖精さんたちも必死に戦い、その多くが敵に落とされ命を落とすのよ」

 

美保司令は相変わらず腕を組んで立っている。赤城は続ける。

「それを考えたら私、急に弓が引けなくなってしまったの……それが救出された直後の数週間だったわ」

 

 武官たちは腕を組んで聞いている。艦娘でなくても戦場に接する者には分かる内容だ。決して他人事ではない。

「こんな状態で私、戻ってきても良かったのかしら……って、何度も自己嫌悪に陥ったわ」

 

 それを聞いて深く頷いている大井……彼女も同じような気持ちを通過したのだろう。

「そんな私たちを美保司令夫妻は温かく見守ってくれたの……ううん別に特別に何かやってもらったとか、そんなのじゃない。目に見えないモノで包まれる感じ。それがこの美保鎮守府なの」

 

 過去を思い出しながら、その幸せな気持ちを思い起こして浸っているような彼女。基本的にその気持ちは美保鎮守府の艦娘しかワカラナイだろう。

 

 ただ鎮守府を包む大きな『引き付けるもの』があるのは分かる。そうでなければ、いくら元帥が号令したところで、ここまで一気に他国の武官たちが集うことも無いだろう。

 

 赤城はケリーの方を見て微笑みながら続けた。

「でもオスプレイが着て……最初の担当官はケリーさんだったわね。彼女の説明する内容がとても印象的で私にはどうしても忘れられなかったの」

 

 ケリーもうなづいている。なるほど、そこに繋がるのか。

 

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。
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