「ここに君が居るって事は、辞めなかったわけか」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第35話:<ノブレス・オブリージュ>
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そもそも金城提督はブルネイの川内が『作戦』上において落ち込んでいる姿を、ほとんど見たことが無かった。
もちろん今回の『電チャンアタック!』作戦がまともなものかどうか……は怪しいとしてもだ。
提督は川内に声をかけた。
「どうした? おまえにしちゃ珍しいな?」
「ねえ提督……」
「なんだ?」
「電チャンってサァ、普段から人を助けるとか言っているよね……」
「ああ、言ってるな」
そこで一呼吸を置いた川内。寒気がするのか(鳥肌か?)手を押さえている。
「ここの電チャンは何か……怖いよ」
「怖い?」
すると脇で聞いていた青葉も近寄ってきて言う。
「それ……多分、青葉も同じように感じた内容ですね、きっと」
……そう言いながら二人でうなづき合っている。おいおい具体的に説明しろよって。
「まずブルネイの電チャンと何が違うんだ?」
青葉が応える。
「最初に青葉がやりとりしたときも何か変な感じがしたんですけど、やっぱり普通じゃないんです」
「そうそう普通じゃないよアレ」
だから二人だけで意気投合するなよ!
「何だ? お前でも形容するのに困る特異な現象があるのか?」
「……」
軽く腕を組んで聞き返す提督だったが、なぜか黙ってしまう青葉。
「何だろうな……」
ようやく川内が口を開いた。
「少なくとも電チャンの気持ちってさ、提督が思っているような恋愛感情じゃないよ。アレは」
「そう、それそれ。愛は愛なんだけどさ。もっと高い次元ってのかな?」
青葉も同意している。
「はぁ?」
「つまり……」
川内は言葉を捜しているようだ。
「うーん、私の語彙じゃ表現し切れないんだけど……強いて言えばそれは、やっぱり電チャンらしい『人類愛』ってのかな?」
「おいおい……だからそれじゃ抽象的で分かンねぇって」
ようやく青葉も反応する。
「個人的恋愛感情って言うよりは、むしろ奉仕というかボランティアかな?」
「そうそう、もっと次元が高いよねアレは……」
チョッと考えて川内は続ける。
「だから電チャンがよく言う『敵も助けたい』って。あの言葉に近いな」
それを聞いた提督もちょっと考えていた。
「つまり個人的な感情ではなくて純粋な『地球愛』みたいなものか?」
「そうですねぇ」
「ソレは『ノブレス・オブリージュ』デスよ」
いきなり嫁金剛が復活してきて驚いた。提督は直ぐに応える。
「つまり英国流の紳士道って処か?」
彼が返すと嫁金剛はチョッと首をかしげた。
「まあ電チャンは女子デスけどね。きっと電チャンの個人的感情で司令を慕っているというよりは純粋に『司令官と部下』という関係ですヨ。そこに何か高い精神的なポリシーが、ここ美保鎮守府にはあると思うのデース」
「おい、またいきなり饒舌だな? 酔っているのか」
だが金剛はやっぱり英国生まれだけはあるか。
「でもそれ聞くと分かる気がするな」
川内と青葉も頷いている。
「まあ中央集権的で堅物の美保司令だ。そういう電チャンみたいな潜在的公的精神をを持つ艦娘が感化されるのも分かる。そして不知火や大井は、逆にそういう高い『精神性』には、ついて行けないのかな?」
提督が言うと嫁金剛はまた首を傾げる。
それを見た提督は嫁金剛に突っ込みを入れる。
「何だよ、違うのか?」
金剛は空を見上げつつ、ちょっと考える仕草をしている。可愛いな。
「ウ……ン、不知火はやっぱ違うと思う」
偉そうに。
「良いんだよ、オレの想像だから」
「でも確かに……」
川内がその話に続ける。
「不知火や大井が見せる壁ってか? あのどことなく我慢しているような違和感って言うのはさぁ、電チャンについて行けないとという類じゃない気がするんだよね……」
青葉もウンウンと言って頷いて居る。
「いずれにせよブルネイの艦娘には、あまり無い感情だね。だからきっと得体が知れないと思ったんだよ。一瞬、怖く感じた」
「まさか……それを突き詰めると?深海棲艦化するとか?」
提督が半分からかうように言うと川内は考え込んだ。
「いや、それも一理あるかもしれない」
「おいおい、やめてくれよ……冗談じゃない」
川内は嫁金剛を見た。
「そのノブレス何とかっていうのは良く分からないけどさ……でも金剛の言うソレが一番近い感じはする……うん」
腕を組んで頷いている川内に提督は言った。
「なるほどね……まあ美保鎮守府には副司令を始めとした祥高型が中央とのパイプになっているし。元帥ジイさんとも近いようだ。そういう『公』の要素が強い結果がこの美保鎮守府って処だな」
「あ、その説明でビンゴっぽいです」
青葉が反応する。
「ぽいって……お前は夕立か?」
そこで一同は笑った。
川内はホッとしたように言う。
「あぁ、何か笑ったら、急に緊張が解けたな」
「そうそう、リラックスして食べましょうよ」
青葉が言うと二人は提督に会釈をして、また離れて行った。
「お前も意外に鋭いところあるよな」
夕日を受けながら提督が言うと嫁金剛は笑った。
「私も伊達に帰国子女じゃないデース」
「ああ……」
まあ、こういう意外性も良いもんだ。
「私もちょっとアッチへ行くネ」
そう言いながら嫁金剛は夕日に紅く照らされた電探をキラキラ反射させながら反転すると美保金剛のところへ行く。
やれやれ……謎が一つ解けたような心地になった提督は灰皿のところで再びタバコに火をつけた。その煙もまた夕日でやや赤みを帯びている。
「調査は失敗したわね」
いきなり背後から妙なアクセントの日本語……イタリア武官だった。慌てて振り返るとそこには武官と艦娘……POLAが居た。
(以下英語)
『そお、美保鎮守府は謎めいているのですぅ』
背の低い艦娘が何かフニャフニャ話している……直ぐにケリーが近寄って来た。
『POLA……もう良いの?』
『はぁい、ダイジョブなのデース』
彼女は腕を上げながらダンスのように腰を振っているが足元はフラフラだ。
彼女を見ながらイタリア武官はケリーに言う。
『リベはまだダメだけど、さすがPOLA強いわね……あとはケリーに、お任せするわよ』
『ありがとう』
『じゃ、チャオ!』
英語でひとしきり話した後、彼女たちに手を振って分かれたイタリア武官。再び提督の方を向いた。
「アナタ、美保司令のことを艦娘に調べさせようとしていたみたいだけど……」
さすが諜報部と思いながら提督は応える。
「いや……イマイチかな」
「ウフフ……そうだろうと思ったわよ。でも焦らなくても大丈夫よ」
そう言いながら彼はドイツ武官を見た。
見ると鎮守府の建物から美保司令が出て来てドイツ武官に何か話しかけている。彼の傍らに居るU-511が少し不安そうに見上げているがドイツは何度か頷き司令に手を差し出して……二人が笑顔で握手をしている。あれ? あの変化は一体、何だろうか?
「ホラ? ……徐々に何かが動いているでしょ? そのうち私にも声が掛かるわね」
「……?」
彼は提督に向かってウインクした。反応に困るな。
「そのうち美保司令がアナタに少しだけ種明かししてくれるわよ」
ソレを聞いて提督は思った……なるほど美保司令がこれから取るべき行動……それはジイさんが画策していることなんだろうけど。諜報部員である彼には既に『お見通し』って訳か。
「そういうこと……」
彼はチャオと言いながら離れていこうとした。すると急に何かを思い出したように立ち止まると再び振り返って言った。夕日に照らされた金髪が妙にキラキラしている。
「あの『電チャン』って子ね。あなたたちが想像する以上の過去を持つ子よ」
「過去?」
彼は訝しがる提督に説明する。
「少なくとも彼女が持つのは単なる恋愛感情ではないし公の精神が飛びぬけているわけでもないのよ」
「え?」
いきなり嫁金剛たちの解釈とは違うじゃないか?
「電チャンは過去の経験から美保司令にとても恩義を感じているの。そのためには特に彼のためには命でも喜んで投げ出す『覚悟が出来ている子』とでもして置こうかしら」
「……」
なぜ彼は、そこまで電チャンのことに詳しいのだろうか?
「アナタも忙しいでしょうけど、もし暇があったら美保司令と鎮守府のブルネイ海戦とか境港での2回の地上戦の様子も目を通して置くと良いわね」
噂は聞いているし報告書だって一回は読んだはずだ。
「見くびって貰っちゃ困るぜ。オレだって公報や作戦記録は読み込んでいるつもりだ」
彼がそう言うと武官は妙な顔をした。
「ダメよぉ? アナタも一介の指揮官なら敵の裏の裏を読むくらい報告書や戦闘記録の行間をジックリ読み込むべきね」
反論しようと思ったがやめた。相手は諜報部員だ。すると武官は微笑む。
「多かれ少なかれ、この鎮守府の子たちは司令に対して誰しもが同じような感情を抱いているのよ。美保が中央集権的に見えるのはそのためね、きっと。でも本質は違うわ」
提督は聞いてみた。
「一体、美保司令の過去に何があったんだ?」
「あらぁアタシにここの艦娘の全員の説明をさせるつもり? これでも大ヒントなのよ。どうせなら美保司令自身に聞いてみなさいよ」
そう言いつつイタリア武官は美保司令の方向へと立ち去って行った。
「なんだあいつ?」
提督は余計に混沌としてきた。ただ電チャンに何があったのかは知らないがイタリア武官の話を聞いて何となく合点がいく気もしてきた。あの子の一途な雰囲気は、そういうところにあるのかも知れない。
向こうでは彼の『予告』通り美保司令に話しかけられたイタリア武官は何度も大げさに驚く。そして頷くと……やはり握手をしている。何かの『約束』か『契約』でもしている感じだな。元帥ジイさんは既にドイツやイタリアには今後の計画を伝えていて……待てよ!
「オレにだけナイショって訳か!」
そこだけ『ピン』ときて思わずカッとなって口に出てしまった。それを聞きつけたわけじゃないだろうがイタリア武官と別れた美保司令が提督の元にやってきた。
「お待たせしました」
いや、さほど待っていないが、彼は続けて言った。
「私のことを電チャンに聞いたようですが」
あ、バレてたか。それは気にせず彼は言う。
「で、その結果で何か分かりましたか?」
調べる本人に質問されても気まずいがなあ……だが彼は笑った。
「元帥閣下からの『宿題』でしょう? どんどん調べてください」
「でも……あのイタリア武官は詳しかったぞ」
「ああ……」
美保司令は遠くに居るイタリア武官を見て言った。
「彼は私の『過去』を知って居ますし共に戦った仲ですからね」
それを聞いて提督は思わず口走った。
「オレも……お前のことは若い頃も含めて知っているんだが」
「ああ……」
美保司令は思い出したような顔をした。
「そうですよね。大将も私の過去を知っている一人でした」
彼はそういって微笑むのだが……何だか調子狂うな。元帥ジイさんほど悪意は無いとしても、なぜ美保司令は焦らすようなことを言うのか?
「大将、これは私のことではありませんが美保鎮守府についての小ネタを一つ」
「ああ」
ちょっと構える提督。それを知ってか知らずか司令は言う。
「今夜未明にドイツのUボートが出航します」
「えっと……だから?」
「ドイツの武官とU-511は残ります」
「なぜ?」
提督の顔を見てちょっと微笑む司令。
「……その理由は『ナゾナゾ』です」
「おいおい……」
美保司令は、どこまでが冗談でどこまでが本気なのだろうか? ……ただジイさんと美保司令の挑戦だと思えば腹も立たないか。
「分かった。考えてみるよ」
やれやれ、楽しませてくれるなぁジイさん。アンタの高笑いが聞こえるぜ。
一瞬タバコをふかした彼は何かを思いついた。
「一つ質問をいいか?」
「どうぞ」
「さっきイタリアに何か話していたが……ドイツと同じ内容か?」
司令の顔が変わった。
「なかなか鋭いですね。はい、それは正解です」
この質問はビンゴだったようだ。
「そこから先は、まだ思いつかないな……艦娘と一緒に考えても良いか?」
「もちろん……まだ時間はありますよ」
それを聞いてあれ?……と思った。
「そういえばオレは、いつまでここに留まる予定になっているんだ?」
「……」
なぜかチョッと考えるような美保司令。
「本当のことを言って良いですか」
「はぁ?」
いきなり何を言い出すんだ?
「これは元帥閣下からの直接指示で最低一週間が目安です」
「何だよ? 『最低』ってのは?……要するにクイズに正解しないと出られないって奴か?」
呆れてモノが言えないって言うのはこういうことだな!
だが提督はめげずに聞いてみた。
「真面目な話、アンタはあのジジイをどう思うか?」
「そうですね……個人的には好きですよ」
おいおい、シンパかよ?
「そういう大将は閣下のこと、お嫌いですか?」
美保司令は逆に聞き返してくる。
「いや……嫌いってほどじゃないが……まあ性格はひねくれているがオレたちや艦娘のことは真剣に考えてくれていることは確かだ」
腕を組みながら提督は自分に言い聞かせるように言う。
そして少し考えた彼は考えを改めるように言う。
「要するに正解すれば良いんだな!」
「そういう感じですね」
「よし」
ジイさんに乗せられるのは癪(しゃく)だがボーっとしているよりは良いだろう。それにジイさんだって馬鹿じゃない。彼なりに意味があってわざわざこんな手の込んだ仕掛けを準備してくれているんだ。腹をくくって乗り切ってやろう。
「ジイさんって?」
その時、彼らの会話を聞いていた艦娘が後ろで呟くように言った。彼らが振り返ると秋津洲だった。
「おう、どうした? もう飽きたか?」
彼女は今日、着任したばかりの美保鎮守府所属の新人だが提督は分け隔てなく声をかけた。
「ううん……まだここでは親しい人が居ないからさ……ちょっとね誰かと話がしたくって……」
彼女は少し押されるように、でも寂しそうな表情をして言った。
「おいおい! 海軍は全員同じ船に乗った仲間だぜ? 何を遠慮することがあるんだ?」
提督のその言い方に美保司令は彼の包容力の大きさを感じるのだった。
司令の想いを悟ったのか提督は振り返った。
「何? どうかしたか?」
「いえ……」
提督は再び秋津洲を見ながら言う。
「まあ細かいことはどうでも良い……そこに座れ。せっかく二人の指揮官が居るんだ、何でも相談に乗るよ」
美保司令は彼の応対振りを見ながら、その大きい人間性は見習いたいといつも思っていた。自分にはそれが無いから美保鎮守府は諜報機関みたいにコソコソするしかない……と。思わず自虐的になってしまい自ら苦笑する。
提督は近くにあったいくつかのイスを引いて、それぞれ座るように促した。
「うん」
秋津洲は大人しくイスに腰をかける。二人の指揮官もそれぞれイスを引いて座る。ふと周りを見ると他の艦娘たちも結構座り始めているようだ。
美保湾からの風が心地良かった。その風を浴びながらしばし目を細めて髪をなびかせていた秋津洲。そのグリーン系の制服が美保湾のエメラルドグリーンと大山の青い遠景に妙にマッチしている。二人の司令官も特に彼女に発言を促すことも無く、静かな時間が流れていた。
やがてゆっくりと正面を向いた彼女は思い出すようにポツリポツリと語り始めた。
「ここはまだ雰囲気が好い鎮守府かも」
「そうか?」
ホッとしたような表情の美保司令だった。
「そりゃ良かったな……で、お前さんは以前は何処に居たんだ?」
提督の問いかけに夕日を浴びながら少し微笑んだ彼女。最初は賑やかな艦娘だと思えたが、喋らないと物静かな印象すら与える不思議な子だ。
「あたしはね……佐世保鎮守府に居たんだよ」
「おお、大きなところじゃないか?」
「大きい?」
彼女は少し苦笑するように微笑んで言った。
「別にそれはさ、ただ大きいだけかも」
どこと無く投げやりな印象。
「ブルネイも大きいみたいだよね、でもそこより大きいかも……」
何かが込み上げて来たのか彼女は緊張を押さえるかのようにテーブルの上にあった飲料を少し含んだ。そして「はあ」というため息と共に続けた。
「最初はさ佐世保に航空機部隊を作るって話でさ。あたしは前もって『大型飛行艇の運用支援』って説明受けて。きっと二式大艇ちゃんも活躍できるって話だったのに……全然違ったんだよね」
まあ軍隊には良くある話だが……二人の司令官はそのように思ったが口には出さなかった。その代わりお互いに顔を見合わせていた。
「そうだよ。海軍の航空隊も管轄するって言うから期待したのに……行ってみたら滑走路はこれから作るんだって。敷地も無いのに?航空機もあったけど……皆、個性的な人ばっかりでさ。会議しても勝手に言いたいことぶつけ合っているばかりで結局さ、まとまりがなくて」
二人の指揮官は何度も視線を合わせた。美保やブルネイでは有り得ない話なのだが現実問題として一般的な鎮守府や軍関連の施設では彼女の言うような出来事は日常茶飯事だろう。
そう思えば改めて元帥直属ともいえる両鎮守府がどれだけ恵まれていることだろうか? 皮肉めいているというか彼女の訴えは、そんなことを改めて想起させる内容だった。
彼女の愚痴はなおも続く。
「航空隊とか整備の方も話し合いばっかりで全然前に進まなくて……気が付くとさあ、あたしも二式大艇ちゃんどころかひたすら修理三昧かも。でもさ聞いてよ! あたしってさ修理とか整備が得意なんだよ。でも話が違うよーって思ってたかも」
ひたすら自分の想いを吐露し続ける彼女。余ほど腹に据えかねていたのだろう。しかしよく美保鎮守府に転属できたなと美保司令は思い始めていた。それは提督も同じような……そう思って彼らがふと気づくと回りには副大臣や副長官、それにドイツやイタリア武官も取り巻いていた。
そうだよな、そろそろ皆、一通り食べて締めに入りたいよな。気を利かせた駆逐隊メンバーが焼きソバを作り始めている。美保司令は正直、焼きソバが食べたくなってきたが必死で愚痴っている秋津洲の手前、ちょっと動きづらかった。
そんな彼女の愚痴も盛り上がっていた。周りのギャラリーもそれに合わせてしきりに頷いたりため息が漏れたりしている。そういえば……美保司令は思った。司令官の前で艦娘が、こういう愚痴を吐きやすい環境がここにはあるんだなと。それはここを視察する指揮官たちが一様に驚く点だ。
実はブルネイも同様であった。特にあのBarの存在は大きい。お互いに同じ事を考えていたのだろう。二人の指揮官は再び顔を見合わせると思わず苦笑いをしていた。その時二人はフッとあの元帥の得意そうな笑い声を思い出しているのだった。
「一度さ、二式大艇ちゃんが佐世保に来た時にあたし言われもしないのに勝手に整備しちゃったもんだからさ」
その言葉に周りは固唾を呑んで聞き入っている。秋津洲もノリまくって得意になって話している。
「で、どうなった?」
思いっきり彼女の話に聞き入っている副大臣が促す。秋津洲は彼を見ながら続ける。
「うん、やっぱり当然、上官にもの凄ぉく怒られてさ『反省しろ!』てな感じで営倉に入れられて……」
ほおーっといった感じで周りからはため息が漏れる。
「そういえば佐世保は『通称ブラック』だったな」
副長官がメガネに手をやりならら呟くように言う。副大臣が聞き返す。
「ブラックって?」
「は……相変わらず世間に疎いなお前は」
また副大臣をお前呼ばわりである。
「美保やブルネイは特例だ。通常の鎮守府や泊地においては艦娘はむしろオマケみたいな位置づけでな。『オレ様提督』がいるところでは艦娘は酷い扱いを受けているって事だ。もっとも佐世保は位置的にシナも近く最前線的な要素も強いからある面、仕方が無いとも言えるが」
「あら知ってるわよ、そういう話」
イタリア武官がクネクネしながら言う。
「別にそれってさぁ日本だけの話じゃないのよ。ううん、むしろ海外のほうが酷いかも」
「そうだな。ある程度の艦娘が居て総統閣下の歪んだ理解があった、わが国の海軍でもそれはある」
ドイツが加わる。するとイタリアが応える。
「あらぁ、ドイツでもそんな現状?」
「ああ……残念だが」
傍らに居るU-511に手をかけながらドイツ武官はため息をついた。
「協調と言うのは人間だけに当てはまると勘違いする者も少なくない」
その言葉に一同はため息交じりで同調していた。
「で? 営倉からは出られたんだよな?」
思い出すように副大臣は秋津洲に問いかける。彼女は頷く。
「うん。でもそれであたし限界感じちゃってさ」
思わず固唾を呑むギャラリー。
「営倉から出るときに他の艦娘からチラッと聞いたんだ。あたしを軍事裁判にかけるって」
「酷いな……それは」
思わず呟いたのは副長官だった。
「バカはこいつだけで十分だと思って居たが」
「バカ?」
副大臣は自分を指差しながら変な顔をしている。だが彼はその程度の攻撃は当たり前のようで、それはスルーして言った。
「で?で?」
彼は先の話を急かす。それを横目で睨むような副長官だったが彼女も先は聞きたいようで、それ以上は特に何も言わなかった。
秋津洲は大きくため息をついた。
「もう海軍やめるって言ったの」
一同は『おおっ』といった感じの反応を見せた。副大臣は言った。
「おいおい……ってか、ああそうか。ここに君が居るって事は、辞めなかったわけか」
秋津洲は頷いた。
「うん……ちょうどその時、佐世保に偉い人が来てたかも。何だかお爺さんみたいな偉い人かも」
『あ……』
思わず声を合わせて反応したのは金城提督と美保司令だった。二人の反応に、その場に居合わせた全員が悟った。そう恐らくは佐世保には元帥閣下が居たのだ。
「ったく……あのジイさんは美味しいところには大抵、居るんだよな!」
提督は呆れたような口調だったが、その言葉には信頼感も感じられた。
「そっか……それで?」
誰かに促された秋津洲は再び頷いた。
「うん。美保への異動命令がその場で出たって……後から聞いたんだ」
「なるほど……」
美保司令も頷いて居る。
「で……結局、お前の相談ってナニ?」
提督が突っ込みを入れる。
「は?」
「は?……じゃないだろ? 何か悩んでいたんだろ?」
すると彼女はちょっと膨れたような顔になった。
「あたし……相談なんて言ってないよ」
「え?」
「ただ……誰かに聞いてもらいたかっただけでさ……でも。うん、良いの。何だか皆に聞いてもらったら、すっごく軽くなった感じかも。うん、もう大丈夫かも」
すると美保司令は笑いながら言う。
「そうだな。まあ少なくとも美保では君をいきなり捕まえたりすることはない。もちろんあまり自分勝手に動くのも困るけどな」
秋津洲は司令を見て応える。
「大丈夫かも……うん、大丈夫。司令と良くお話をしたら全然、問題ないと思うし……このオスプレイちゃんとも何となく仲良くなっていけそう」
その言葉にいつの間にかやってきていた早苗と息吹も微笑んでいた。主翼やローターを折り畳んで格納庫に鎮座するオスプレイも微笑んでいるように見えた。
「では、貴重なお話もまとまったところで、バーベキューもそろそろ終わりで宜しいでしょうか」
副司令である重巡祥高が言った。一同はその言葉に立ち上がる。
祥高の傍らには彼女の姪である駆逐艦寛代が焼きソバの皿を持って立っていた。
「……」
彼女は無言でその皿を美保司令に突き出していた。苦笑しながらそれを受け取る司令。ああ、この焼きソバは美保司令のために持ってきたんだなと周りの者は悟った。
「お、寛代か」
提督に声を掛けられた彼女は少し恥ずかしそうに微笑んだ。相変わらず無口な彼女だった。無線を傍受するのか、時おり首を傾げる仕草は昔のままだった。
周りでは片づけが始まり祥高や霞がゲストをゲストルームへ案内する。また一部のゲストは近くのホテルへ誘導するらしい。提督はここがブルネイなら敷地内で全員宿泊できるのだろうに……と思っていた。
美保司令は寛代から受け取った焼きソバをテーブルに置いて腰をかけた。彼は制帽を置くと独りで黙々と焼きソバを食べ始める。それを遠目で見ていた提督は、ふっと美保司令が孤独にも見えた。もちろん彼もまた艦娘たちに十分支えられているのだろうけど……。
その時、美保司令の側に一人の艦娘が近づいてきた。茶髪の艦娘……そう大井だった。ただ美保の大井はかなり特殊な経緯をたどっているらしい。そもそも年頃の娘が居るという点からしてかなり特異である。
「お隣、宜しいですか?」
「ああ……食べながらで悪いね」
「いえ」
少し恥ずかしそうな表情をしながら、ゆっくりと着席する彼女。
しばらく黙って美保湾を見詰める大井。それに構わず焼きソバを食べ続ける司令。不思議な構図である。
やがて彼女は言う。
「思い出します……こうやってあなたの隣で海を見詰めると」
焼きソバを食べながら司令も応える。
「そうだね。ただ私にはその記憶が無いが」
その言葉に大井は微笑みながら応える。
「ううん……良いの。それはお互い様だから」
彼女は暮れゆく大山を見詰めながら言う。
「でも因果なものよね。過去に苛まされる艦娘と過去を消去された指揮官……」
美保司令は食事の手を休めて顔を上げた。大井は相変わらず大山を見ている。
「まあな……だが、それがあったから今の私、いや美保鎮守府が存在し続けることができているのだと思うよ」
大井は改めて司令を見た。
「そうね。私と貴方がこういう位置を保てるのも、そのお陰だわ」
ふと見るとオスプレイの格納庫の影に人影があった。寛代だ。彼女も司令と大井を見守るようにして立っている。
「さっきの秋津洲の話ね。あれを聞いて私、思い出したの」
「何を?」
大井は再び美保湾を見る。既に日は沈み、大山も徐々に紫色に変化している。
「私、佐世保に居た記憶があるの……断片的に思い出したわ」
「そうか……奇遇だな。私も佐世保という言葉には何か引っ掛かったんだ」
二人の会話に寛代がハッとしたような表情を見せ何かを呟いている。どこかと通信をしているようだ。
実は大井も寛代の存在には気づいていた。だが特に気にしていないようだった。それは美保司令も同様で気にしていないのは彼も同じ。
「記憶が途切れているからこそ、こうやって緩やかに監視されて……」
「……」
美保司令は焼きソバを食べ終わったようだ。彼は椅子に深くもたれかかると大井と同じ方向……美保湾に浮かぶ消え行く大山を見詰めた。
「記憶が戻ったらどうなるんだろうな?私たちは」
「……」
黙る大井。司令は続ける。
「この生活環境も奪われるのだろうか?」
「イヤ……考えたくない!」
大井は苦しそうな表情を見せる。美保司令は彼女を見た。
「済まない」
暫しの沈黙の後、大井は続ける。
「ううん……良いの。それでも私は生きるしかないから。今は娘が生きがいだし、そして……」
寛代は無線を閉じたらしく本館へ向かって歩き始めた。
美保司令も立ち上がる。
「冷えてきたね。そろそろ中へ入ろうか?」
「ご免なさい……もうちょっとここに居たいの」
立ち上がりかけた司令は一瞬、躊躇したが再び腰を掛ける。それを見て少し微笑んだ大井。
小声で「有り難う」と言うと司令も微笑んだ。
離れた工廠の影に、もう独りの人影。北上の姿があった。彼女は腕を組んだまま黙って暗くなった美保湾を見詰めていた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。