「本当に今が一番幸せかもしれない……」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第36話:<大井に餌付けされた司令?>
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オスプレイの格納庫前で行われていたバーベキューが終わり、会場では既に後片付けの準備に入っていた。
「ほら、そこ早くするのよ!」
「……」
暁が口を出し、黙々と従っている(ように見える)響。
「そっち側さぁ、しっかり持っててよね」
「はい……なのです」
反対側でも同じように雷と電チャンがペアになってテーブルクロスを畳み始めている。
主に片付を担当しているのは駆逐艦娘たち。それ以外で会場に残っているのは少し前に焼きそばを食べ終えた美保司令。そして彼と話をしていた大井だけであった。
暁と響の会話が続く。
「ねえ響」
「……」
「なんで司令は席を立たないのかしら?」
「また……教官(大井)に制止された」
「相変わらずね……」
暁が大げさにため息をつくのも無理は無い。普通の軍隊で部下が上官に命令をするというあり得ない状況である。
しかし司令と大井の場合は彼女が『やや』強く出て司令が『静かに』従うという図式が出来上がっていた。それについては司令の嫁艦である祥高を始め誰も何も言わない。ここでは暗黙の了解なのである。
「さて……と」
そう言いながら大井も立ち上がると「失礼します」と言って司令が食べ終えた食器を集める。そしてさり気なく駆逐艦娘たちに混じって会場の食器類の片付けを始めた。
美保司令はその姿を見ながらも同じテーブルに座っていた。そして時折、頷くような仕草をしている。彼の周りでは駆逐艦娘たちが慌ただしく動いていた。
ある程度片付いてから大井はコップに水を入れて司令の前に持ってきた。
「司令、宜しかったらどうぞ」
「ああ、ありがとう」
その行動は極めて自然であった。こういった行為も二人の間では比較的よく見られる。だから陰では『大井に餌付けされた司令』と称されたりもする。
食器の片付けをしながら曙は聞いた。
「司令って美保の前から教官の上官だったって本当?」
「そうよ」
フォーク類を集めている霞は即答した。さすがは人事も把握する司令部付きの艦娘である。
曙は皿をまとめながら言う。
「ふーん、でも大井も私たちの片付けまでしなくても良いのにね」
「……」
その問いに霞は応えなかった。何となく大井の気持ちが分かる気がするのだ。
『教官』と呼ばれる大井は現在、美保鎮守府で主に座学を中心とした教育指導者という位置である。今日はブルネイや海外からの来客があるため講義は無かった。だから彼女は片づけを手伝ったり自ら水を持って来るのだ。
「でもさぁ、教官自ら片づけするのは止めて欲しいよねぇ」
「シッ!」
屈託が無いのは島風で、それを制止するのは潮だった。大井の姿に駆逐艦娘たちは軒並み恐縮している。だがその光景も美保鎮守府ではまた、よく見られるのだった。
以前、誰かが北上に『止めさせて欲しい』と直訴したこともあるらしい。だが彼女曰く『大井っちが良いなら別に……』というそっけないものだった。
美保の開設当初から所属していたオリジナルの駆逐艦娘たち……特に第六駆逐隊は初期の大井の姿を知っている。
かつての大井は絶対に『お手伝い』なんかしなかった。だから彼女たちにとって現在の大井の性格の変貌振りには、ただ驚嘆するのだった。
手伝いをしている巻雲が秋雲に言う。
「ねえねえ、大井教官ってさ、昔は北上さんラブだったって本当ぉ?」
あまり表情を変えず手だけ動かしながら秋雲は応える。
「そうらしいね」
「だからお互い離れるように配置転換されたって?」
一瞬、手を止めた秋雲は不自然に続けた。
「そうらしいけどね……あくまで噂だよ」
「ふーん」
実はこのとき巻雲はカマをかけていた。他の艦娘と違って赤城と同じ特殊任務に就いている秋雲なら何か知っているのではないだろうか? しかも秋雲の好きそうな『薄い本』ネタになりそうだし……そう思っていた。
「ねえねえ、最近もマンガ、描いてるよね?」
「うん……ちょっとペース落ちたけどね」
「そっか」
大井同様、秋雲も以前とは変わってしまったとよく言われる。今、片付けを手伝っている彼女は普通の艦娘の制服だが『特務』になると違う制服に変わるからよく分かる。
その雰囲気は今回やってきた米軍の女性士官やオスプレイの操縦士と雰囲気がよく似ていた。だからその任務が米軍との絡みがあることだけは巻雲にも想像はできた。
「ねえねえ、秋雲もたまにはさ、硬い漫画描かない? 海戦とか」
「うーん、逆にリアルすぎてダメだよ、きっと」
「ああ、それもそうだね」
巻雲の問いかけには、いつも通り答えてくれる秋雲。以前より若干、口が堅くなったけど性格は今まで通り屈託が無い。だから巻雲も敢えてその点以外は気にしないようにしていた。
彼女たちの隣で作業をしていた曙は言う。
「大井教官って舞鶴で轟沈したって本当?」
「……」
唐突な質問に思わず沈黙する霞。彼女はその情報は持っていたが、答えるべきか躊躇した。すると突然、背後から声がした。
「そうよ、私は一度沈んだの」
いきなり大井本人から回答された二人は硬直した。だが大井の笑顔にホッとした曙は大井をチラ見しながら再びテーブルクロスを畳み始める。
「でも副司令とか青葉に大井さんのこと聞いても笑って誤魔化すんですよ?」
まだ硬直している霞を尻目に大井も同じテーブルを拭きながら応える。
「そうね……でもそんな話、あなた達も直ぐには信じられないでしょう?」
テーブルクロスを数枚重ねながら曙は答える。
「そうですね……」
二人の対話を聞きながら霞は思った。美保鎮守府では大井だけではない。曙に問われた青葉自身もまたブルネイで『浮上』していた組だ。そもそも副司令の重巡祥高自身、かなり以前に横須賀鎮守府にて『復活』したと大淀から聞いたことがあった。
だが信憑性以前に当の本人たちが余りそのことに触れたがらないから自然、うやむやになっていた。当然、軍の公式記録にも記載はない。海軍省や軍令部自体が、その事実を隠そうとしている印象すら受けるのだ。
「それってさぁ」
潮と二人でイスを片付けながら島風は言う。
「深海棲艦と関係あるんじゃないかな?」
「……」
潮は黙っていた。そんなこと想像もしたことが無いからいきなり頭が回らない。ただ島風に向かって苦笑するだけだった。
美保鎮守府の本館正面玄関にはロビーがあり簡単な応接セットが設置されていた。そこではブルネイメンバーが集って話をしている。
まずはブルネイの青葉が説明する。
「今、美保にはブルネイ工廠で量産化の実用初期段階で建造された大井が居ます。そして彼女と同時期に建造されたとされる駆逐艦伊吹……彼女は大井の実の娘という噂です」
「その大井はオリジナルなんだろう?」
金城提督は問いかける。青葉はメモを片手に鉛筆でこめかみを押す。
「証拠はありませんが、かなりの確率でそう思われます」
「オリジナルと量産型の違いがあるのか?」
川内が問いかける。
「その『出産』という点に尽きます。特にこの美保にはオリジナルの艦娘が多いとされています。でもケッコンするから必ず出産できるとは限らないようです」
「へえ」
青葉の説明を聞きながら提督は以前、金剛が言っていた『darlingの子供が欲しい』という言葉を思い出していた。もっとも既に複数の艦娘とケッコンしている現状では、もし金剛か誰かの子供が生まれたらどうなるのだろうか?
正直あまり想像したくは無かった。だから現状のままが一番良いかな? そう思うのだった。
その金剛が思い出したように言う。
「私、他所の鎮守府の事はよく分からないケド、伊吹とか早苗って他の鎮守府に居るの? あまり聞かないよね」
メモをパラパラめくりながら青葉は言う。
「はい。伊吹に関しては、その後まったく量産型が出現していないことからオリジナルから生まれた二世だと解釈も出来ます。早苗も同様でしょう」
すると金剛はチョッと暗い表情になって言う。
「やっぱり……子供って量産型には無理?」
「……」
その問いに青葉は答えられなかった。情報が無さ過ぎるのだ。ただ事実として、その傾向はあった。
復活と出産……そのことが何を意味するのか? 否定できない現実を目の当たりにしながらも、その結果については艦娘であっても理解し難いものらしい。
ほとんど片ついたバーベキュー会場。ようやく司令は立ち上がる。それを見て大井は近づくと司令の手をスッと握った。彼も特に否定することなく手をつないだまま鎮守府の本館へと向かう。
それを見ていた第六駆逐隊のメンバーは片付けをしながらヒソヒソ話をする。
「ねえ、大井教官って、どうしてあぁなったわけ?」
「……」
暁に聞かれた響はしかし相変わらずポーカーフェイスである。もっとも暁自身も特に彼女には返答を期待していないようだ。それ以上は突っ込みを入れなかった。
「私が思うに彼女は司令官を愛しているのよ」
サラリと凄い発言をする雷に対して電チャンは応える。
「別にそれは、ここの艦娘は全員そうだと思うのです」
「……」
電チャンの言葉に『違う』とは言えない雷だった。つまり美保鎮守府の艦娘たちは誰もが司令官のことが好きである。だからいつも何らかの形で司令を支えたいと思っていた。
手を繋いで歩きながら司令は大井に言った。
「こうやって歩くのは、ここでは当たり前なのに相変わらず駆逐艦たちが騒ぐね」
「ウフフ……やっぱり『愛』は刺激的なのよ」
「そうだな」
二人は笑った。
大井は歩きながら続ける。
「でも不思議。愛にもいろんろな形が……心の広さに差があるのね。その想いには艦娘によっても違ってて。上手く表現する子も居れば空回りする子も居て」
司令は軽く頷く。
大井は続けた。
「電チャンはどちらかって言うと後者なんだけど。駆逐艦娘ってどうしても巡洋艦とか空母たちには心情の幅が負けるのよね。でも駆逐艦の中でも差があって……」
そこまで聞いた司令は何かを悟ったように付け加える。
「まぁ恐らく美保の駆逐艦の中では電チャンが一番不器用で一番に私への想いが強いだろうな」
「ウフフ、それが無かったらこんな車運転できないわよ」
大井は悪戯っぽく笑った。彼女の視線の先には車庫の中に停められたM-ATV(対地雷装甲車)があった。
二人は少し開いた車庫の扉から中に入った。その装甲車の前で立ち止まると同時に薄暗い庫内には自動的にライトがついた。センサーが付いているのだった。
「最近、少しずつ思い出したんだよ。電チャンがその身を挺して軍用車でシナの装甲車に突っ込んで行ったことを。神通もよほど印象的だったんだろうね。そのときの話は良く再現してくれるね」
手を繋いだまま大井も応える。
「それを機に第六駆逐隊で唯一の出世頭になったのに……あの子、優しいから全然、階級を意識させないから……」
司令は頷く。
「ああ、第六駆逐隊が存在し続けるのも、あの子の性格だな」
そこで大井は司令の手を離すと装甲車に近寄って言った。
「鎮守府によってはチームの誰かが出世すると、それがきっかけで一体感が無くなってチームを解散したり再編成することが多いの……でも美保鎮守府って電チャンだけでないわ」
彼女は装甲車に寄りかかりながら振り返った。健康的な太股が眩しい(笑)
「美保鎮守府って第六駆逐隊だけでなくて他の艦娘も、どんなに出世しても絶対に自慢しない……階級が違うことすら意識させないから平穏な雰囲気が保てるのよね」
司令も装甲車に近づいて言った。
「ああ、そこはあり難いね……私は良く分からないんだが、かつてあったというブルネイ防衛戦で、ここの艦娘たちが国家勲章を拝受しても態度が全然変わらなかったらしいね」
それを聞いた大井は装甲車のライトに手を当てながら頷いた。
「ええ……私がこちら側に戻ってからも皆、全く同じように接してくれたの。北上さんは信じていたけど……他の艦娘も皆変わらなくて。それがとっても嬉しかった」
司令は視線を地面に落としている大井を見た。
「でも昔の君を知る艦娘が決まって言う台詞が『何でそんなに変わったの?』っていう……君はそんなに変わったのか?」
大井は装甲車から手を離して司令に微笑んだ。
「昔……舞鶴に居た頃のあなたの記憶がもし、まだ残っていたのなら、それはとても良く分かって頂けたはずなんだけど……」
それを聞いた司令は表情を曇らせた。
「済まないね……舞鶴の記憶はあまり思い出せない」
すると大井は直ぐに首を振った。
「ううん……良いの。それは仕方が無いから……でも私、変わった。自分でも分かる」
彼女は掌を天井へ向けて何かを見るようなしぐさをしていた。司令は問いかけた。
「やっぱり子供が?」
その言葉に司令を見る大井。
「そうね……それもあるけど」
そう言いながら彼女は装甲車から離れて再び司令の手を握った。訴えるような瞳。
「今の関係が大きいわ。こんな繋がりもあるんだって」
司令は彼女の手を軽く握り返して言った。
「そうか……それは良かった」
すると手を握ったまま大井は下を向いて軽く肩を震わせはじめた。どうやら泣いている様だった。司令は小さく声をかける。
「どうした?」
彼女は下を向いたまま呟くように言う。
「本当に私は今が一番幸せかもしれない……」
暫く時間が過ぎて大井はポツリと言った。
「ホントのこと言うと私ね、佐世保だけじゃないの。今じゃ舞鶴のこともかなり記憶を取り戻しているのよ」
「え?そうなのか」
司令は驚いた。彼女は少し顔を上げて微笑みながら続ける。
「もちろん北上さんのことも……暗い海を漂いながら美保鎮守府を攻撃したことも何となく思い出してきたの……本当にゴメンなさい」
「良いよ、昔のことは……私は君ほどは記憶を取り戻していないから」
そう応えながら司令は彼女に問いかける。
「でも舞鶴のことを思い出したって……誰かに言ったか?」
彼女は首を振った。
「ううん、もちろん誰にも言ってないわ」
「そうか……」
少し間を置いてから彼は言った。
「今日来たブルネイの連中も、あれこれと君の事を探るかもしれないがガマンしてくれ」
それを聞いた大井は少し微笑んだ。
「フフ、あの青葉ね。大丈夫よ……オリジナルの青葉に比べたら……」
呟くように応えた彼女はふと何かを思い出したように言う。
「……そういえば、あのドイツ人やイタリア人にもいろいろ聞かれたわ」
「そりゃ大変だったな」
司令の言葉に大井は再び微笑んでいる。
「いえ……軍隊なんてそんなところでしょ? あの人たちは諜報部らしいけど、もうそんな人たちにも慣れたわ」
彼女の表情には余裕すら感じられた。
「作戦の名目で根掘り葉掘り聞かれて疑われて……友軍でも美保から一歩出たら周りは敵だらけ……深海棲艦も、他の軍人たちも本質は同じようなものだから」
ちょっと間を置く。
「それに私は記憶を失った振りをすれば良いから大丈夫なの」
「そうか」
司令には、そういう彼女が寂しそうにも見えた。
大井は再び司令を見上げて聞く。
「でも司令……舞鶴のこととか他に何か思い出されませんか?」
司令は少し天を仰いで考えるしぐさをした。
「そうだな……君と一緒に戦った時の気持ち、特にあの冬の舞鶴沖海戦の絶望感みたいなものは、ほのかに思い出すんだが……済まないな。あれは君にとっても嫌な思い出だろう?」
「ううん……」
大井は泣き出しそうな、それでいて嬉しそうな複雑な表情をしていた。
「不思議なの。あの海戦だって……絶望的な気持ちで沈んだはずなのに海軍や貴方に対する恨みは全部消えている。なせかしら……きっと、司令ご夫妻の家族になったからだと思うの」
それを聞いた司令も応えた。
「そういえば私の家内……祥高も、副司令としてではなく家族として個人的に君の話をもっとジックリと聞きたいと言っていたな……なかなか最近はバタバタしてそういう時間が取れないと詫びていたよ」
「そう……嬉しいわ」
大井は微笑んだが、ふと付け加える。
「でも、お話しするのは良いのですが奥様……いえ、副司令も同席されますか?」
「いや、どちらでも良いが。外してもらうか?」
「ううん……構わないの。一緒に聞いて欲しい。だって家族ですから」
少し間を置いて彼女は言った。
「出来たら……娘にも同席して欲しいの。私と司令の過去を知って欲しいから」
「そうか」
やがて大井は再び司令の手を離して車庫の入り口から外を見た。気がつくと外は、ほとんど真っ暗になっていた。風が彼女の髪の毛を撫でてサラサラとなびかせている。
「司令……私、貴方とケッコンしなくて良かったと思っているわ。もし一緒になっていたら、距離が近すぎて逆に私が変になっていたかもれない……だってほら、私ってよく暴走するでしょ?」
そう言いながら彼女は暗闇をバックに振り返る。髪の毛が揺れる。
司令はおもむろに言った。
「そうだな……」
それを聞いた大井はムッとした表情になった。
「酷い!」
「あ、ごめん……」
慌てて否定して謝る司令。だが大井は微笑んだ。
「ウフフ良いのよ……それも本当のことだから」
髪の毛を押さえながら大井は再び漆黒の屋外を見詰める。
「でも……こうやって、ある程度の距離があるから。司令には奥様がいらっしゃるから、私は今の私で居られると思うの」
敢えて、誰が聞くとも無い夜の闇に向かって語るように呟く大井。司令は彼女の背後から言う。
「君は……本当のご主人のことを知りたいとは思わないか?」
大井は振り返らずに応える。
「司令は……ご存知なんでしょ?」
「ああ、情報としてだが」
彼女は海から来る風に髪をなびかせながらなおも正面を見据えて応える。
「でも良いの。彼は死んだということだけで十分。だって娘を見れば分かるわ。何となく……一途で孤独な人だったのでしょうね」
「……」
司令は黙っていた。大井はゆっくりと振り返る。
「ウフフ、そこは私に似ていたのかもしれないわね……でも私のことを精一杯愛してくれたような気がする。そうでなかったら、あんな良い娘は生まれないわ」
「そうだな……」
彼女は再び髪の毛に手をやる。
「あの子は……司令の早苗ちゃんと双子のように育っている。今はそれだけでも十分なの」
「そうか……」
そこで何かを思い出したように彼女は言った。
「そういえば司令のこと……あの諜報部員たちに私の事を聞かれるときに逆に必ず貴方の事を聞いたりしているのよ。面白いでしょ?」
「……へえ例えば?」
大井は再び車庫の中に入ると、悪戯っぽく微笑みながら言った。
「そうね……司令のお父様のこととか……かつて貴方の家族が静岡の静浜航空隊に居たことも」
「へえ……そうなんだ」
大井は首をかしげながら言った。
「司令って、お小さい頃は静岡にいらしたんですってね」
「ああ……そうらしいが、よく調べたな……それも君を調査する相手に聞いたのか?」
彼女は軽く首を振った。
「ううん、これは諜報部ではなくて……副大臣ね。彼、よく鎮守府に来るでしょ? 彼が司令の父上のことや司令ご自身のことを喜んで教えてくれてたわ……フフフ、彼も貴方をお気に入りみたい」
やがて大井は再び司令に近づくと、彼の手をそっと握って呟くように言った。
「私も静岡には縁があるから……そういうところが貴方と似ているのかしら?」
「ああ、そうだな」
ふと何かにハッとしたような表情になる彼女。
「あ!……ゴメンなさい、私ったらまた勝手にお時間を……」
そして頬を紅潮させて恥ずかしそうな顔をする。
「やっぱり私って……暴走してダメね」
苦笑する彼女は、そのまま手を放すと再び車庫の扉から外へ出ようとした。
「大井……」
思わず呼び止める司令。だが彼女はそのまま、既に暗くなった庫外へと出て行く。司令も少し心配になって彼女の後に続いた。
急に屋外に出ると、まだ目が慣れないので真っ暗だった。こういうときは人間より艦娘の方が目が利くらしい。暫く目を慣らすためにジッとしていた司令。徐々に目が慣れてくると……大井は少し先の埠頭の端に立っているようだ。
海からの風で彼女の髪の毛が揺れているのが分かる。目が慣れてくると、朧月夜で薄っすらと美保湾が照らされているのが分かった。ふと……この状況に似た光景を遥か以前に見たような……そんな追憶が蘇る心地だった。
大井は黙ったまま美保湾を見詰めていた。その背中からは特に危険な行動を取るようには見えなかったので司令はゆっくりと彼女に近づいた。
司令の気配を察知した彼女。しかし彼が近づくのを待っているようだった。
司令は彼女に手が届くくらいまで近づくと、静かに語った。
「大井……別に私はこの時間を君と費やしたことを気にしていない、別に構わないさ」
「……」
大井は彼の言葉には特に反応は示さなかった。司令はそのまま彼女に並ぶようにして隣に立って共に夜の美保湾に視線を向けた。
「……」
喜怒哀楽を感じさせない、空気のような大井。司令は静かに続ける。
「そうだな……あの駿河湾に注ぐ大井川のように……時に荒ぶる君の自然な姿が素敵だと私は思うよ」
そう言いながら彼が彼女のほうを見ると、お互いに視線が合った。それは恋愛感情ではない人間と艦娘との間で結ばれた信頼関係。
彼女は少し首を傾けると微笑みながら言った。
「有り難う、お父さん」
「ああ……」
上官であり『親』でもある美保司令とは養子縁組によって娘の立場となった大井。二人はその関係があるからこそ彼女は安心してこの鎮守府に留まることができる。またに彼は精神的に支えられ護ってくれる存在が増えると同時に、彼の過去を取り戻す道案内者が増えることになるのだった。
「すっかり暗くなったね、戻ろう」
「はい」
この瞬間には彼の前で素直になる大井だった。二人は再び手を繋いで鎮守府本館に入ると、廊下で別れた。
さて、美保司令が本部に戻ると、ブルネイのメンバーが揉めていた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。