※(改)で不知火と司令の逸話を追加しました。
「養子縁組は親子関係、すなわち上下関係です」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第37話:<不知火に何か落ち度でも?>(改1.5)
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※(改)で不知火と司令の逸話を追加
廊下で大井と別れた司令が2階の本部に戻ると誰かが大声で揉めていた。見るとスタッフに強い口調で食って掛かかっている金城提督と困惑する大淀さんだった。
「何か?」
美保司令が聞くと大淀さんよりも先に金城提督が振り返った。
「おお、ちょうど良いところに……オレたち艦娘と一緒に泊まるのが良いんだが、こいつ『分かれて下さい、ダメです』の一点張りでさ。何とかならないのか?」
それを聞いた司令は困惑した表情を浮かべた。
「ウチも狭いですしねえ」
「そこを何とか頼むよ、な?」
珍しく両手を合わせて拝むような格好をする提督。
司令は表情を緩めて提督に言った。
「そんな格好は止めて下さい……仕方ないですね。ではブルネイメンバーは、ここに宿泊するように手配しましょう。大淀さん、調整をお願いします」
「ハッ」
大淀もホッとしたような表情になった。
問題が片付いて安心したのか提督は大淀さんに向かって言った。
「じゃあ、後は無線でも良いからウチのメンバーに伝達お願いするよ」
「はい?」
いきなり振られて困惑する彼女。構わず話し続ける提督。
「周波数は知っているだろ? ブルネイの標準でも良いしオレたちも美保の標準チャンネルは聞いてるからそれでも良いよ」
「はあ……」
提督の変わり身の早さに戸惑っているような大淀さんだった。
そして彼は司令を振り返ると言った。
「どこかで一時間くらいジックリ話せるかな? お前のこととか美保のこと」
それを聞いた司令は軽く腕を組んで微笑んだ。
「そうですね……では私の執務室に参りましょうか?……じゃ、大淀さん、後はよろしく」
「はい、畏まりました」
改めて敬礼する彼女。提督は内心『美保司令の命令はスンナリ受けるんだな』と思った。
司令部を出た二人は執務室へと向かう。美保では司令部を出て直線距離にして十数メートル歩くこともなく執務室なのだ。そのドアの前で提督は苦笑した。
「本当に近いな……冗談抜きで、こういうコンパクトさも良いなと思えてきたよ」
「そうですね。視察に来られる方は皆さんそう仰いますよ」
司令も笑った。
ドアを開けて中に入ると、司令官の大きな机とその横には副司令の中型の机。その前に応接セットが置かれている。やや大きな窓にはレースのカーテンがあり昼間なら恐らく煌めく美保湾が見えたことだろう。
壁には神棚があり二人はまず神棚に礼をした。それから提督は、さっと執務室の中を見渡しながら言った。
「標準的な執務室か……やっぱり、ここが一番落ち着くな」
「そうですね。残念ながら、ここにはBarはありませんが」
「はは……ある方がおかしいだろ、普通」
二人は笑った。
司令に促されて提督はソファに腰をかけた。司令は自分の机から受話器を取ると内線で誰かに、お茶を頼んでいる。提督は司令の隣の空いた机を見ながら言った。
「秘書艦は今日この時間は居ないんだな?」
「そうですね」
「なぁんだ、チョッと残念だな」
訝しがる司令に促された提督はソファに腰をかけながら司令に聞いた。
「艦娘は基本的に美人揃いだが彼女もとびきりの美人だろ?」
「はあ」
提督は、そんなことまで覚えていたんだと司令は感心するやら呆れるやら……。
「艦娘の司令官なんて、そういう楽しみもなくっちゃな?」
「はあ」
「……連れないなぁ、相変わらずお前は!」
「スミマセン」
そう言いながら、お互いに苦笑した。
提督は続ける。
「で、実務はほとんど彼女が担当しているのか?」
「そうですね。鎮守府の実務面、特に艦娘の応対は副司令と大淀さんが全面的に担当していますからね。ほとんど、ここには居ないです」
「命令とか全部やっているのか?」
「はい。通常の指示以外にもメンタル面の管理まで……何しろ年頃の娘が何十人も居るわけですからねえ。指示連絡業務は通信機能が充実した寛代にも補佐で入って貰っています」
「ああ、寛代か……元気か?あの子は」
「はい、相変わらず淡々としていますが」
提督には無口な寛代が印象に残っているようだった。
「じゃあ、お前はここで何やっているんだ?」
提督の問いかけに司令は思った。
『そうか、ブルネイでは提督がほとんど全部仕切っているんだな』と。
彼は答える。
「主に戦闘の指揮ですね。最近は各チームリーダーも育ってきたので私は大まかに見るだけでOKですが」
「へえ」
提督は腕を組んだ。
「それはウチでも徐々にやっているが……なにしろブルネイは大所帯だからな」
「ホントよく一人でやって居られますよね」
「だからこそ、美人の艦娘たちで癒されないとな」
「ああ、やっぱり」
また二人は笑った。
やがてドアをノックして鳳翔さん……ではなく意外にも大井が「失礼します」と言って入ってきた。提督は思った。この光景はある意味貴重かもしれない。
彼はマジマジとお茶を置く彼女を見た。その視線に気づいた大井は言う。
「あの……何か?」
「あ、いやナニ、お前がお茶を出すのって北上だけかと思ったぜ」
一瞬、硬直したような彼女だったが直ぐに微笑んだ。
「ウフフ。それは昔の私。今は変わったの」
「そうか」
二人にお茶を出した後、彼女は胸の前にお盆を抱えると提督を見て改めて言った。
「艦娘だって成長するんですよ、提督?」
彼女のその言い方に今度は提督のほうが驚いたような表情をした。
「あ……ああ、そうだな」
やや硬直した提督を前にして、お盆を胸の前に抱えた大井は軽く首を傾けると「失礼しました」と会釈をして、ゆっくりと退出していく。
その姿を見送っていた提督は呟くように言った。
「へぇ、あの大井がねえ」
「はい。彼女は美保でも一番『変わった』艦娘でしょうね」
「変わった?」
不思議そうな顔をした提督に司令は応える。
「彼女も言っていましたが艦娘も感情がありますか。性格とか好みも変化しますよ」
それを聞いた提督は腕を組んでいった。
「そうだな……オレも嫁艦の金剛ではそれを実感するぜ」
しばし沈黙。ふっと呟く提督。
「金剛もあのくらい『お淑(しと)やか』に変わってくれたらなあ」
そこまで言った彼は直ぐに半分身を乗り出して聞く。
「そうだ! あの『大井』は、お前の何なんだ? 確かお前、彼女とは結婚はしていないんだろ?」
ストレートに来たなと司令は思った。しかし平然として頷く彼。実は大井を知る人からは『この手』の質問は良く受けるのだ。
彼は淡々と応える。
「やっぱり変に見えますか? 私たち」
何度も頷きながら提督は続けた。
「ああ……変って言うと悪りぃんだが」
彼はちょっと気恥ずかしそうに頭をかいた。
「実はオレんとこの艦娘たちが『お前らは怪しい』ってしつこくてな。オレもあいつらに『正解』を教えてやらんと連中、煩(うるさ)いから」
再び上体を起こしながら彼は悪戯っぽく笑った。彼のその表情を見た司令も笑った。
「そうですね、隠しても仕方ないでしょう。彼女は私の養女なんです」
「養女? ……養子か」
提督は一瞬、驚いたような表情を見せたが直ぐに手を叩いて言った。
「あぁ、そっかぁ……なるほどぉ、その手があったか」
大きく何度も頷く提督。
「はぁ? 『その手』って……」
訝(いぶか)しがる司令。
提督は「戴くよ」と言って、まずはお茶を含んだ。
それから彼は苦笑しつつ答える。
「オレの嫁艦……金剛が最近オレの子供を欲しがっているんだ」
その言葉に司令も頷く。
「なるほど。そういえば大将は、たくさんケッコンされてるんですよね」
それを聞くと珍しく恥ずかしそうな顔をした提督。
「いや、ちょっとばかりケッコンし過ぎたかなぁって今さら反省しているんだ。ほら艦娘って可愛いのは当然だが人間より、ずっと素直で従順だろ? オレとしても純粋な彼女たちの想いには真摯に応えてやりたいと思ってな」
言い訳とも取れる彼の言い方だったが司令はそんな彼の真剣さを羨ましくも思うのだった。
緊張していたのだろうか? 彼はまた、お茶を含んで続ける。
「こんなオレにでも真剣に対して来るあいつらにはオレ流にでも精一杯、そして分け隔てなく愛してやったらな、どの艦娘もそりゃ掛け替えが無いだろ? 気づくと『ハーレム』になっていた……ってところだな」
彼はそう言って笑った。やはり提督は憎めない人だなと司令は思った。
司令もお茶を含んでから言った。
「でも艦娘のほうから『子供が欲しい』って言ってくることは、やっぱり大将の人格がなせる事ですよ」
「そうかな?」
「ええ。艦娘は普通の人間とは違う分しっかり『教育』してあげないと人格や感情も育ちません。ブラック鎮守府みたいに単なる戦闘バカを量産したら、お互いに不幸なことですよ」
「ブラック鎮守府か」
そう呟く提督の言葉に司令は応える。
「はい。あの大井だって元々は私の対応の拙さで深海棲艦側に追いやったようなところがあります」
少し苦しそうな表情を見せる司令。
その言葉に提督も大きくため息をついてソファに沈み込んだ。彼は壁の海図を見ながら言った。
「オレの嫁艦は金剛なんだが……ちょっと嫉妬深いけど良い子になったなぁ。ソコも魅力なんだが」
美保司令もそれを受けて言った。
「軍隊という特殊な環境だからこそウソや偽りが通用しない。人間と艦娘の正面からのぶつかり合いの壁を越えてこそ本物になっていくと思いますよ」
その言葉に提督は深く頷いた。
「艦隊運営は楽しいことばかりじゃない。オレの鎮守府だって辛いことや嫌なこともたくさんある。それでもあいつらの姿を見ているとな……こんなオレでも頑張ろうって気になるんだ」
「それは分かりますよ」
やや間を置いて提督は呟くように言う。
「そういう意味では、あのジイさんにも感謝はしているがな」
「……」
提督は続ける。
「美保司令もケッコンしてたよな?」
「はい。一人、祥高だけですね」
再び身を乗り出してくる提督。
「お前はその一人だけで良いのか? 重婚とかする気は無いのか」
「無いですね」
即答かよ?と提督は思った。
「そりゃあ、もったいない!」
「は?」
「いや」
苦笑する提督。そうだよな……このクソ真面目な美保司令には重婚は無理か?
「それも、あるのかな」
彼は呟いた。美保司令は怪訝な表情をしている。
提督は続ける。
「お前が重婚しない分、大井は養子って言うのは分かったが、まあ彼女は子持ちだから仕方ないとしよう。でも、ここには彼女以外でも、ほとんどの艦娘がお前に好意を寄せているだろう?」
司令は少しホッとしたような表情で答える。
「多かれ少なかれ鎮守府における艦娘っていうのは司令官に好意を寄せる確率が高いでしょう」
「だろ? だからなおさら、お前が一人としかケッコンしないのは解せない。ウチの艦娘たちの見立てでは、かなり熱烈にお前を想っているらしい艦娘が数人いるようだぞ。せっかく法律で許可されているのに何故かな? って思うんだ」
すると美保司令は何かを思い出すような顔をして続けた。
「確か、この法律の雛形を作ったのは祥高型三姉妹なんですよ」
「へ?」
この答えには提督も少し意外な感じだった。
彼は続ける。
「それに、あの副大臣も絡んでいるらしいですよ」
「あの副大臣が?」
その時だった。
「おれがどうした?」
『ひっ!』といった感じで度肝を抜かれた二人……副大臣は神出鬼没である。
だが美保司令は彼の行動には慣れているのだろう。直ぐに彼を見て応対した。
「ちょうど艦娘とのケッコンの法律について提督と話をしていたところです」
「ああ、あれか」
副大臣は躊躇なくソファーに腰を掛けて言った。
彼は腕を組んでちょっと思い出すような素振りを見せた。その間に司令は再び内線を取ってお茶を頼んでいる。
やがて副大臣は口を開いた。
「アレは大変だったって言うかなぁ。主導したのは祥高の姉さんで実務担当は妹だ」
すると興味深そうに提督は質問する。
「祥高の姉さんとは?」
「ああ……本省に居る技術参謀長官こと『八雲(やくも)』だ。提督も確かブルネイ演習の際に出会っているはずだが」
それを聞いて彼も何となく思い出した。あの白衣を着て武蔵に締め上げられていたマッドサイエンチストだな。確か無口な駆逐艦寛代が娘だったはずだ。
「そういえば……」
提督が何かを言おうとしたとき、誰かがドアをノックした。
「どうぞ」
司令が応えるとドアが開いた。提督は、また大井かなと思っていたが意外にも今度は寛代だった。無言でお茶を置く彼女を見ながら提督は言う。
「そういえばお前、寛代だよな……ブルネイに来たよな?」
彼の問いかけに、軽く頷く彼女。
「そっか……母さんは元気か? 何となくオトナっぽくなったかな?」
その言葉にチョッと恥ずかしそうな顔をして、軽く何度も礼をすると、そそくさと退出して行った。
それを見送りながら司令が言う。
「私もそうですけど……ウチの祥高さんも八雲姉さんも結局、重婚してませんよね」
それを受けて副大臣は言う。
「あの法律は技術参謀のケッコンがきっかけで制定されたが初期案には重婚という項目は無かったんだよ」
『へえ』といった感じの反応をする提督と司令。
副大臣は頭の後ろに手を組んでソファに寄りかかる
「実はな、その条項を付け加えさせた変な役人が居たんだ。眼鏡を掛けたいかにもガリ勉的な……性格も捻くれてて嫌味なやつでさ」
「うーむ、どこにも居るよな、そういう嫌なやつ」
提督も苦笑している。副大臣も苦笑しながら続ける。
「ああ……そんな嫌味な奴でも艦娘は慕ったりするから数名の艦娘を侍らせてケッコンして、プチハーレムでも作ろうとしていたのかもな」
「人のことは言えないが……そいつのやり方は気に入らねぇな」
「まったく」
提督と司令も同意する。
そこで副大臣は少し状態を起こすと声を潜めて言った。
「これは噂だが……そいつは何かを企んでいたらしくてね。そのために重婚も可にするよう工作したらしい」
直ぐに後ろから声が響いてきた。
「そうだ、それに気付いた私は策を弄してアイツを追い出してやったんだぞ」
『うわぁ!』
いきなり出現したかのような副長官……前の作戦参謀である。
「なんだ石見(いわみ)副長官殿、いきなりの御参戦ですな?」
ニタニタ笑いながら副大臣が茶化す。
彼女は真面目な表情で続ける。
「アイツを海軍から完全に追い出せなかったのが、私もつくづく悔やまれるんだ」
悔しそうな彼女。その表情が知的な彼女の魅力を引き立てるようだ。
「それじゃ、その変な奴は、まだ現役で居るのか?」
提督が聞く。
彼女は言う。
「ああ。西日本管内のどこかに居るらしい。だが幸か不幸か奴が結婚したという噂はまだ聞かないな」
ずっと仁王立ちしている彼女に美保司令がソファに座るよう促す。腕を組んだままソファに座った彼女。それを見た司令は再び内線でお茶を頼む。何だか彼も内線ばかりで忙しいなと提督は思った。
「ま、あいつだって石見が中央から目を光らせているのが分かるんだろう? 下手にケッコンしたら居所がばれるからな。あっはっはクワバラ、クワバラだなあ」
副大臣は茶化しながらお茶をすすっている。
だが石見は怯むことなく眼鏡の真ん中を指先で押さえながら言う。
「案ずるな。さっき秋津洲が危うく軍事裁判に掛けられそうになったという話をしていただろう? あれを聞いてだな。私はピンと来たんだ」
「ホウ?」
相変わらずな副大臣。それは無視して話を続ける副長官。
「西日本管内の全ての鎮守府のデータを検索させ、ついでにそいつの条件に合う軍人をリストアップして絞り込んだ結果……見つけたよ」
「見つけたのか?」
ここでようやく彼女は副大臣の顔を見た。
「やつは佐世保に居た。しかも非常勤の艦娘専門の軍医として西日本管内を転々としていたらしい……つまり特定の鎮守府所属ではなく海軍省直轄でもない」
「へえ、そりゃ見つからんわけだな」
提督が口を挟む。彼の顔をチラッと見た副長官は続ける。
「ああ、狡猾な奴だよ。着かず離れず艦娘にちょっかいを出せる位置に留まりながら本省からも見つかりにくい日陰に居るわけだ……そして佐世保にも確認をした」
「居場所ですか?」
司令が問いかけて彼女は答えた。
「いや、それは分かっていた。秋津洲の裁判の件だよ。それを提案させたのは、やはりそいつだったらしい」
それを聞いて仰け反る副大臣。
「ひゃー! 性格変わンねぇな。しかしアイツもしぶといんだな」
再び彼の顔を見た副長官は、再びメガネを押さえつつ答える。
「ああ、そもそも秋津洲を呼びつけたのもあいつの提案らしい。まったく本省を追い出されても、各地を転々としながら虎視眈々と再起の機会を伺っていたのだ。あんな下らないやつは相手にしたくないものだがな」
そう言いながら彼女はようやく表情が緩んだ。
「人間なんて、そう簡単に変わるものではない」
そして彼女は海図を見詰めながら決意するように言った。
「だが、ここで見つけたのが百年目だ。必ず息の根を止めてやる」
「おいおい副長官殿……穏便に頼みますよ!」
副大臣の言葉に彼女は微笑んだ。
「当たり前だバカ、本気にするな」
また現職の副大臣を捕まえてバカ呼ばわりである……だが司令には、彼女は本気でその彼を潰しに掛かっていることを感じるのだった。
提督と司令がお互いに顔を見合わせたとき再びドアがノックされた。恐らくお茶の準備が出来たのだろう。さて、今度は誰が?
「お待たせしました……ちょっと皆さん全員のお茶を入れ替えますので、準備にお時間がかかってしまってスミマセン」
そう言いながら入ってきたのは鳳翔さんだった。なぜか彼女の横に手伝いでついてきたのは不知火だった。
二人の艦娘が応接机のお茶を入れ替えている間、提督は不知火を見詰めていた。彼はブルネイの艦娘たちが彼女のことをやたら気にしていたのを思い出したのだ。そしていきなり聞く。
「不知火だよな? お前」
「……はい?」
いきなり問われて少々引いて警戒している彼女。
「単刀直入に聞くが、お前さんもひょっとして司令の養子だったりするのか?」
彼のその質問に、確かにストレートだなと美保司令も思った。恐らくブルネイの艦娘たちに疑われている一人が彼女なのだろう。
不知火は一瞬、司令の顔を見たが彼が軽く頷いたので改めて提督を見ると澄ました表情で答える。
「はい。私も司令の養女になっています」
「えっ?」
なぜか提督は声を上げた。
彼の反応に司令は思わず聞いてしまった。
「何ですか? その『えっ』って……ある程度予想されたんじゃないですか?」
提督は頭の後ろに手をやる。
「いや……確かに予想はしてたけどなぁ、いざ直接本人から聞くとやっぱオドロキだ。へぇ……って感じだな」
そうやって提督にマジマジと見詰められた不知火は言う。
「……不知火に何か落ち度でも?」
ついに十八番(おはこ)を発した彼女。そのセオリー通りの反応に『笑ってはいけない』……と、その場の全員が思いながらも、ついつい含み笑いをして悶絶した。
そんな場の雰囲気に訝しげな表情をしているのは不知火だけだった。
ただ彼女の場合はその当たり前の反応が妙に可愛らしくも思えるから不思議だった。
「いやいや……」
ようやく落ち着いた提督は掌を振って否定しながら言った。
「お前ってさぁ、パッと見は取っ付き難いのに意外に可愛かったりするんだよな。うちの不知火もそうだから分かるぜ」
彼女は小声で「いえ……」と言いつつ真っ赤になった。
すると副大臣が加わる。
「美保司令は奥さんは一人だが、今や『娘』が無数に居るわけだ」
副長官も口を出す。
「そうだな、私も最初、祥高姉さんから大井の養子縁組について相談されたときは『夫婦でよく相談したら良い』と半分突き放したが、気がつけば養女が増えてるからな。お前たち夫婦は意外性のカタマリだ」
それを聞いた提督は少し驚いた表情で聞く。
「まさか……美保鎮守府の全員が養女なのか?」
すると司令は手を軽く振って言った。
「いや、さすがにそれは無いです。副長官が仰ったように最初、養女にしたのは大井でした。それから金剛、赤城と続いて電チャンや青葉、不知火、時雨、夕立……他にもあの扶桑と山城も居ますね。結局は主要な艦娘はほとんど縁組してますが」
その時お茶を入れ替え終わった鳳翔さんと真っ赤になったままの不知火が一礼をして退出する。ちょっと場の雰囲気が落ち着いた。
「あの艦娘は可哀相な子でね……」
ポツリと司令は言う。
「確か、うちの副司令がいわゆるブラック鎮守府から呼んだ艦娘です」
「へえ……」
これは提督。
直ぐに副長官が付け加える。
「祥高姉さん……そういう噂を聞くとガマン出来ないからな」
すると副大臣も加わる。
「そうそう、そういう艦娘の移動は大体俺が手を廻したんだぜ。しかし祥高は昔から虐められっ子には優しかったよな。三姉妹の仲では一番大人しいのに……誰かと違って」
「その誰かとは私のことかな?」
腕を組んで副大臣を睨む副長官。
「いやぁ……」
シラを切った彼は、そのまま司令を見ながら続ける。
「君は知らないだろうが不知火ってのは、どこの鎮守府でも両極端な扱いを受ける」
「……」
「頑張って心を開いて生き生きとしているか。或いは見たままの姿を敬遠されて捻(ひね)くれるか……まあ、どちらかというと後者が多い」
すると司令は思い出したように口を開いた。
「そうだ。あの子は一生懸命なのにいつも空回りするンだ。それを紛らわすように戦闘に勝ち抜いて生き残るほどに誤解を重ねて……あの子は自分が戦艦や巡洋艦でないことを何度も呪ったらしい」
その話しぶりは、いつもの彼ではなかった。
そんな彼に少々違和感を感じつつも提督は聞いた。
「そんな難しい不知火を良く手なづけたものだな」
そう言いながら彼は『手なづける』という言葉は不適切だったかなと思った。だが司令は気にせず急に大声を出した。
「……そうか思い出した!」
『え?』その場の一同が声を揃える。
司令は焦点の合わない表情で続けている。
「あの子は確か時雨と一緒に着任したんだ。そして……時雨は割りと直ぐに心を開いてくれたんだが不知火は……」
記憶を手繰っているのだろうか? 司令は非常に苦しそうな表情になった。
「おい、無理しなくて良いぞ」
副長官が口を挟む。
「いえ……こういう機会がないと艦娘との記憶がなかなか戻らなくて……」
しばらく頭を抱えていた彼は、ようやく顔を上げた。
「あの子は孤独だった。着任当初も秋雲みたいな明るい艦娘を妬んでしまう事があってね。ここに来るまでにも自分は一生懸命やっているのに直ぐに尋問、解任、謹慎の連続だったらしい。だから不知火なんか沈んでしまえと……なおさらギリギリまで必死に戦って。でもその度ごとに結局、生き残ってしまう。絶望の日々だよ」
彼は、まるでどこかとシンクロしているようだった。
「あの子は最後には感情が動くことすら煩わしいと感情を押し殺して意図的に冷淡になろうとまでしたんだ」
場は少し重くなって沈黙した。
「それが過度なまでの戦果の追求、そっけない素振り、きつい言葉遣い……悪循環だよな。苦しかっただろう」
少し間が空く。それまで緊張していた司令は、フッと穏やかな表情になる。
「そんなあの子も夜明けの時間が好きらしくてね……激戦の末にただ独り、生き残ることが多いそうだが、ここに来る前は時々、誰も居ない海を独りでフラフラ漂うのが好きだったらしい。それがまた怪しまれたりして……」
細かい内容を断片的に思い出す司令。
「そんなあの子は必死に変わろうとして私に心情を吐露してくれた……そして私たちと一緒にここで生きる決意をしてくれたんだ」
すぐに副長官が呼応する。
「そんなことがあったのか」
司令は、なおも何かを思い出したように言った。
「実は時雨も同じようだったが……もっとも彼女は不知火ほど酷い仕打ちは受けていなかったようだね」
そこまでの記憶の断片を手繰り寄せた司令は急に何かが抜けたような雰囲気になった。そしてソファにグッタリと沈み込むような姿勢になる。
「おい、体調悪いならお開きにするか?」
心配した副大臣が聞くと彼は軽く手を上げて言った。
「いえ、大丈夫です。身体は疲れますけど……こうやって、あの子たちとの絆を少しずつ取り戻すことは、私も嬉しいことなので」
「そうか……」
何かを反復するように掌で額を押さえつつ呟いている司令。やがて彼は、お茶を含んでから深呼吸をすると明るい表情に変わった。
「ここには姉妹艦もたくさん居ますけど、不知火と時雨みたいに似た境遇の艦娘も少なくないです。艦隊行動が多いからということもあるでしょう」
副長官は腕を組んで頷きながら言った。
「そうだな……お前には艦娘のメンタル管理は苦手かも知れないがな。それでも心を病んでいる艦娘は少なくない。そこは姉さんと協力して頑張って欲しい」
「はい」
何かを思い出したように提督が司令に聞いた。
「姉妹艦といえば……たとえば美保の金剛型で養子になったのは長女だけなのか?」
司令は提督を見て応える。
「そうですね。比叡……あの子は、しばらく悩んでいましたよ。でも結局は縁組しましたけど。そういえば榛名や霧島は、まだ検討中ですね」
提督は感心したように言う。
「へえ、面白いな。全員一致でもないんだ。まあ強制じゃないからな」
副大臣も聞く。
「確かここには赤城は二人居たよな?」
司令は少し思い出すような表情をした。
「はい、実は養女になったのも2号が最初らしくて……確か金剛とほぼ同時だったようです。2号ってのは祥高さんが『復活』させた子ですから、想いが強かったのでしょう。でもオリジナルの赤城はボーっとしていたのか分かりませんが、祥高が言うには思い出したように申請して来たようです」
そこで珍しく副長官が合いの手を入れる。
「そこは赤城らしいな」
すると司令はまた何かを思い出したように続ける。
「変わったところでは横須賀所属の日向ですね」
「え? 他所の所属の艦娘なのに?」
不思議そうな表情の提督に副大臣が応える。
「そこの日向はもともと美保に居たんだ。確か司令とは縁が深いんだよな?」
悪戯っぽい顔で聞いてくる副大臣に司令は頷いて答える。
「日向は美保の伊勢が私たちと養子縁組した後で個人的に直接、電話で伊勢の報告を受けたようです。直ぐに彼女から直接、電話が掛かって来ましてね。あの淡々とした口調で『なぜ私に知らせてくれなかったのですか?』……って電話越しに詰問されましたね」
彼は苦笑した。その表情は嬉しそうにも見えた。
提督は改めて腕を組んだ。
「なるほど……いや、ある程度の人数は居るとは思ったけど、相当なものだな。海軍省は特に何も言わなかったのか?」
司令はお茶を含んでから応える。
「別にお咎めは無かったですね。むしろ『忠誠心が高まるので宜しい』と言われましたよ」
彼は笑った。そして続ける。
「夫婦とか恋人は横のつながりですが養子縁組は親子関係、すなわち上下関係です。これは軍隊組織にも通じるので、ここが中央集権的に感じるのはその点かもしれませんね」
副大臣と副長官は大きく頷いている。
提督は思った。美保司令は生真面目で大人しいかと思いきや、その行動は意外に大胆だ。それはコンパクトながらインパクトのある美保鎮守府自体にも言えることかも知れない。
時計は21:00を回っていた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。