「この頃、本格的に艦娘が世間に認知されたと」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第38話:<白黒分け>
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「最初出会った時のアイツは初々しい奴だったけどなあ……」
思わず呟く提督。嫁艦の金剛を始め艦娘たちも、しんみりする。
「おいおい、そんなに暗くなるなよ!」
自分で言っておいて無責任ではあったが慌てて提督は前言撤回した。
「悪ぃ悪ぃ……」
そう言いながら、ふと気がつくと時刻はもう午前0時を回っている。良い子は寝る時間だ。提督も、さすがに報告会は終わりにしたかった……
「あ……」
見ると青葉がまだ何か言いたそうな目をしていた。肩をすくめた彼は言った。
「いいよ、話せ」
「スミマセン」
恐縮する青葉は話し始めた
「正史では、あのブルネイの演習のあと美保鎮守府のメンバーは無事に過去……つまり自分たちの時代に戻れたようです」
「だろうな。でなきゃあんなに歳は取らないだろう」
青葉はメモをめくる。
「そこで結局、再び彼らの時代のブルネイメンバーと演習したようです」
「そこはオレが着任するより遥か前だな」
「へぇ、そんな前からブルネイってあったんだ」
これは川内。
頷いた青葉は続ける。
「このときブルネイ沖で突如侵攻してきたシナと戦闘してこれを撃退。艦娘たちはブルネイ国家から表彰されました。この頃から本格的に艦娘が世間に認知され始めたといわれています」
「それが『ブルネイ防衛戦』ってやつか。チラッと聞いたことはある」
川内が言った。艦娘にも知られているんだな。
青葉は軽く頷いて続ける。
「そして美保司令は、その1年後に飛び級で大将に昇進。同時に美保鎮守府の所属部署も変更されています」
金剛が首を傾げる。
「というと?」
「そこでいわゆる海軍史における『白黒分け』と呼ばれる元帥直属の鎮守府と、そうでない場所に分けられたんです」
「なんだそれ?」
あまり分かっていない川内に提督は説明する。
「簡単に言うと『ホワイト鎮守府』と『ブラック鎮守府』って奴だよ。元帥の態度は軍隊の私物化とか言われて一部では、もの凄い反発を招いたらしいんだがな……オレも良くは知らん」
「分かる! ブルネイはホワイトだよネ」
金剛が嬉しそうに言う。確かにそうかも知れないが改めて艦娘に言われると何だか妙な感じだな。
飲み込みの早い川内は腕を組んで聞き返す。
「ふうん、それと美保司令と何か関係があるのか?」
青葉は軽く視線を合わせるとメモを見ながら続ける。
「はい、その美保司令が大将に昇進した時期と彼の失踪がちょうど重なるんですよ」
「……」
「しかも一時期、美保司令は誰かに暗殺されたという怪情報が流れたんです。これは古い記者には結構、知られています」
「ああ……でも結局、死んでなかったんだろう?」
「まあ、そういうことですが」
提督は再びソファに深く沈みこむ。
「オレがまだ若い頃だよな……確かそんなニュースも流れたような気がする」
「あ……」
突然金剛が小さく叫ぶ。
「私、思い出したヨ。それって何処の誰という肝心なところが伏せられてて、敵の事も、暗殺の場所も日本海側の何処かとしか報道されなかった……」
提督は少し驚いて目を丸くした。
「良くそんなこと覚えているな」
すると彼女は自分の頭を何度も指差してニタニタしている。アタマが良いのは分かったから、その顔止めろ!
青葉が軽く咳払いしたので、他の艦娘たちは注目する。
「実はですね……当時の軍部では同時期に失踪した大井親娘……彼女たちが一番、疑われたんです」
「……」
沈黙する艦娘たち。
青葉は続ける。
「時間がないので、あまり詳しく調べてませんが、自分への逆風で居づらくなった大井が自分から美保を離れたとも言われてます……当時の美保の艦娘たちにも聞いて回ったところ、実は失踪当時に街角で彼女たちを見かけたという情報もあるんです」
「へえ……じゃ失踪っても遠くに逃げたわけじゃ、なかったんだ」
「はい。ただ軍隊を離れた当時の彼女は心身ともにボロボロの状態で……弱々しく娘の手を引いて居る姿は見ていられなかったそうです」
「……」
提督や艦娘たちは絶句した。あの大井親子は非常に辛い体験をしてきたことが想像できたのだ。
川内が呟くように言う。
「あの大井の優しい笑顔って……戦場だけじゃなくって、いろんな修羅場をくぐり抜けた結果なんだな」
それを聞いた提督が意外だったのは、金剛を始め艦娘たちが、そういう他人の痛みを理解出来るくらい心が成長していたことだった。
悲惨だった大井親子をダシに使うことには抵抗がある。
しかしブルネイの艦娘たちとの付き合いも長くなった今、この美保に来て改めて彼女たちの成長振りを知ったことは大きな意義があるだろう。
まさかあのジジイ、これも含めて今回の視察を計画したのか?
「いや、それは無いだろう」
半分は彼自身の悔し紛れかもしれないが提督は思わず呟いてしまった。
その言葉に「え?」と驚く青葉。
「あ、スマン。大井のこととは別件だよ」
慌てて否定する提督。
「まあ、青葉の言うことが本当だったとして、今の大井親子には居るべき位置が出来たわけだ。娘も成長してオレが見たところ彼女自身も現状に満足している感じだよな……結果オーライだろう」
「そうですね」
青葉もホッとしたような表情をした。
提督は青葉を見て言った。
「それにだ……お前も気付いていたか?」
「はい?」
不意を突かれたような青葉。
「最初、ここに到着したときの赤城2号や秋雲、大井たちの服装が他の艦娘と微妙に違っていた……しかも皆、独特のエンブレム付きだ。もっとも秋雲はバーベキューのときは着替えていたが」
「よく見てますね、提督」
改めて目を丸くして驚いている青葉。
「何だ、お前は目の前の艦娘を観察していないのか?」
提督の言葉に恥ずかしそうに頭をかく青葉。
提督はゆっくりと立ち上がった。
「オレにとっちゃ艦娘であればブルネイだろうが美保だろうが区別はしないぜ」
「……」
ここでなぜか金剛がまた白い目でガンを飛ばしてくるが無視。
「美保司令に明日でも出会ったら彼の服を良く見てみろ。見慣れない特殊部隊の指揮官の徽章が付いている……そういうのって興味あるだろ?」
「そうですね」
青葉はメモを取り始めた。
「そういや以前ブルネイで美保の青葉がスパイ行為を働いて武蔵に軟禁されて、たしなめられていたよな」
川内がニヤニヤしながら言う。
「まさかお前は、逆の行動に出たりしないよな? くれぐれも自重しろよ」
提督が返すと彼女は「はい!」と言って軽く敬礼をする。
時計を見るともう深夜1時近い。
「やれやれ、夜更かししすぎだ。明日は朝食後にオスプレイ試乗だ」
「そうですね」
「ウヒヒ、楽しみだな」
「まてまて、全員乗れるかどうか分からないぞ」
そんなやり取りをしながら全員立ち上がる。
「明日は各自で直接食堂で朝食をとって、オスプレイ前に集合してくれ」
「はい!」
全員敬礼し、提督と金剛は1階の部屋へ。青葉と川内は2階へと上がる。
嫁艦と共に部屋に入った提督は、ざっと部屋を見渡した。簡易ベットが二つ。ロッカーと洗面台と小さな事務机。あとは内線と……。
「何見てるのdarling?」
そう言って金剛が背中から抱きついて来る。
提督は前を見たまま答える。
「今日一日で、いろいろあったな……新しい出来事が続くと人は疲れるもんだ」
「そうだネ。でも楽しかったヨ」
しばし沈黙。
「darling」
「なんだ?」
「チョッと痩せたね」
「そうだな……」
そのまま二人はベッドへ倒れこんだ。
翌日も快晴だった。蒼い美保湾が大山を薄っすらと反射させている。
鎮守府の食堂には各自が自主的に集っている。実際ブルネイよりは遥かに小さな食堂だが、うまくローテーションされているらしく、ほとんど混まない。
提督がそう思っていたら金剛が「ホラ!」という。その指先を見ると中庭とか埠頭で朝食を食べている艦娘たちが居る。
「へえ、ここでも、ああいう食べ方、アリなんだネ」
「ああ」
なるほど自由な雰囲気は、ここにもあるんだと提督は思った。
彼は既に朝食をとっている他の海外武官たちに挨拶をした。
「今日は、いよいよオスプレイね」
答えたのはイタリア武官。ボーっとしているリベッチオを連れている。
彼らの対面には米軍のケリーが居る。隣のPOLAもまたボーっとしているが、この子の場合は元々そういう性格のように見えた。
普通に会話をしているのは英語だろうか? POLAは、やたらフニャフニャしているのが分かる。
「良く眠れたかな?」
そう話しかけてきたのは、ドイツの武官だ。腕の赤い腕章が印象的である。そしてやはりボーっとしているようなU-511。偶然だろうが今回、海外から来ている艦娘は、なぜか皆ボーっとしているな。
提督の思いを察したのかドイツ武官は言う。
「この子も戦闘になれば意外なほどシャキッとするが、どうも地上ではスローテンポになる」
そう彼は苦笑した。そういえば海外武官たちはさすが日本語が上手い。そんな武官たちを人選したのだろう。
「darling、早く座ろう」
「ああ」
金剛に促された彼は窓辺の席に座った。
その隣には副大臣と副長官が居た。
「おお! 金城提督も良く寝た……わけでもないか」
副大臣が茶化すように言う。
実は昨夜、金剛と『励んだ』後で彼女が爆睡。そのまま提督にがっつり張り付いたため身動きが取れなくなってしまい若干寝不足気味なのだ。目がチカチカするので恐らく充血しているのだろう。
「なぁに、一晩や二晩くらい寝なくても大丈夫だろう?」
副長官もアゴに軽く手を添えながら言う。何となくこの二人って、似ているよなと彼は思った。
やや遅れてブルネイの川内と青葉が入ってきた。川内は明らかに寝起き直後だが、青葉はあちこち取材をしていたようだ。
彼らも提督に会釈をして同じ席に着くと、潮と響が配膳をしてくれる。そうか、我々はゲストなんだなと改めて実感する提督だった。
朝食をとりながら窓の外を見ると、軽巡と駆逐艦が銃を携帯しながら巡回している。小さいながらも警戒は厳重らしい。
「ほら、あの警備している艦娘が持っている小さな銃がイスラエルのモデルですよ」
青葉が教えてくれる。何となくオモチャのような小さなものなので拍子抜けしてしまう。だが青葉が言っていたように夕張が手を加えた可能性のある艦娘の武器だからな。外見で判断してはいけないだろう。
「ブルネイでも、ここまで厳重な警戒はしないよな」
川内がフッと呟くように言っている。そうか彼女は『調査』を目論んでいるからな……やはり警備体制は気になるだろう。
オスプレイや装甲車を始め、各種の新兵器に満ちている鎮守府だ。簡単に探らせてくれるとは思えない。小さいからと言って侮ってはならないだろう。
「川内、別に無理しなくても良いぞ? どうせいずれ種明かしはされるだろうし」
何となく気になった提督は川内に声をかけた。
何かのドリンクを飲んでいた彼女は笑顔で応える。
「自分の限界は知っていますよ。大丈夫、少しでも情報を集めたいっていうのは私個人の欲求でもあるから……」
「そうか」
そこまで言われると、さすがに彼も任せざるを得ない。もちろん提督の権限で彼女の行動を規制することも可能だ。
しかし正直、彼自身も、もう少しこの美保鎮守府について知りたいという気持ちがあった。川内だって素人ではない。ここはある程度、彼女に暴れてもらうのもアリかな? 美保鎮守府の胸を借りるようで悪いがジイさんの鼻を明かしてやりたいという気持ちもあってか彼は何となくそう思うのだった。
「あの、こちら宜しいでしょうか?」
可愛らしい声に振り返ると、バインダーを持った見慣れない艦娘が立っている。
「えっと……君は確か司令の?」
彼女は微笑んで答える。
「はい、早苗と申します。ちょっと父……いえ美保司令が手が離せないので私が代わりに今日の内容について簡単にご説明致します」
すると気を利かせた青葉が直ぐに席を立つと提督の近くの席を空けた。
「では早苗さん、どうぞこちらへ……」
「スミマセン」
そう言って軽く会釈をした彼女は提督の隣……ちょうど金剛の反対側に座った。
提督は軍服を来た彼女の襟を何気なく見た。確かに見慣れない部隊の徽章がついている……米軍のものか?
彼の視線を感じたのか彼女は言った。
「ああ、これですね……私の所属は米軍からの派遣という形になっていますので軍服も米軍のものです」
彼女の声は母親である祥高と似ていた。透明感があって癒し系なのだが意外に張りがありグイグイ食い込んでくるタイプ……美保司令と真逆だなと彼は思った。
早苗はバインダーを持ちながら言った。
「他の武官の方々には既に説明済みですし、時間の都合もありますので、お食事の時間に説明することをお許し下さい」
軽く頭を下げる彼女に他の艦娘たちも一様に頭を下げた。
フッと軽く微笑んだ後に彼女は説明を始める。
「お食事が終わって08:50を目処に一旦全員がオスプレイの格納庫前に集合して頂きます。そこで簡単にチーム分けをして順番にご搭乗頂きます」
そこまで聞いて金剛が軽く手を上げる。軽く会釈をして発言を促す早苗。
「いっぺんに全員乗るんじゃないデスか?」
「はい」
早苗は微笑んで説明する。
「オスプレイの定員ですと一度に済ますことも出来ますが万が一の事態に備えて一つの部隊ごとにグループ分けをします」
「なるほどぉ」
と、青葉。
「リスクヘッジって奴か」
これは川内。
「それじゃ全員オスプレイに乗れるデスか?」
お前は論外。
「はい、可能な限り乗って頂きます」
彼女は微笑んだ。嬉しそうにお互いに顔を見合す艦娘たち。
早苗は続ける。
「オスプレイに登場している方以外の皆さんには、米軍製の装甲車や小火器類などをご見学頂く予定です」
そこまで聞いた提督は思わず言った。
「まるで米軍基地の見学コースだな」
「ウフフ……」
早苗は不敵に笑う。
「そう思って頂いても構いません。ご存知でしょうが米軍との協力体制は元帥閣下もご了承の内容です。それに今回の視察はブルネイの皆様の為にセッティングされたようなものですから」
たったこの一言だけでブルネイメンバーは一瞬凍りついたようになった……この子、可愛らしい顔でアニメ声だが意外に肝が据わっているぞと彼は思った。それは母親譲りなのか、それとも?
チョッと緊張した空気になったが、気を利かせたのか青葉がそれを破った。
「そのオスプレイについて伺いたいのですが」
「どうぞ」
青葉は少し微笑むとメモをめくりながら言った。
「装甲車を俯瞰するオスプレイという表現を伺ったのですが、あれは互いの作戦上のの位置関係を象徴した表現でしょうか? それとも……?」
提督には既に青葉のその言い方からして半分チンプンカンプンだったが早苗は直ぐに何かを悟ったように微笑んだ。
「具体的なネットワークが組めると考えて下さい。つまり装甲車とオスプレイだけでなく、それらを束ねる司令部と、そこに繋がる前線の兵士まで含めたリアルタイムでの情報のやり取りが可能になります」
「……」
既に絶句している青葉。いや、その内容の凄さは提督や金剛たちのも直ぐに分かった。
「じゃあ……」
川内が口を開く。
「美保鎮守府の艦娘たちは?」
早苗は微笑む。
「はい、前線に出撃可能で信頼性の高い艦娘から順次、そのシステムへの連携を可能にしています。具体的に誰というのは機密事項になりますので今は申し上げられませんが、オスプレイに関わる艦娘は全員……」
そこまで言って彼女は表情を緩めた。
「もっと分かりやすく言うと司令ご夫妻と親子の艦娘には、全員装備されているということです」
「艦娘を全てネットワークで繋ぐということか」
提督がつぶやくと川内も受ける。
「全体が目になるようなものだな」
すると早苗も頷く。
「そう、このシステムと連携する艦娘たち全員が一つの有機体のようになります。前線において要となるのがオスプレイです」
金剛も言う。
「あれってプロペラ機で、そんなに凄い機体には見えなかったのにネ……」
「でもますます興味が湧くな」
意外に川内は乗り気のようだった。それは純粋な興味なのか『調査』の一環なのか……両方かも知れないなと提督は思った。
その間にも食堂には入れ替わり立ち代わり艦娘たちが出入りして順次食事を取っている。ふと見ると大井親子も居る。大井は提督を認めると軽く会釈をしたので彼も軽く返した。
美保鎮守府か……小さい鎮守府だと思って正直、甘く見ていたかも知れない。あのジイさんが肩入れする鎮守府の一つだ。それなりの内容はあるんだなと彼は思うのだった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。