「他所の司令に灰皿を頼むバカが何処に居るんだ」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第42話:<護って欲しい>
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「M-ATVがもう一台あるって聞いたけど同時に2台出る場合は誰が運転するんだ?」
大した質問ではないと思いつつも提督は聞いた。
美保司令はちょうどデモ走行から戻ってきた車両を見ながら答える。
「そのときの当番にも選(よ)りますが、ここぞというときには、やっぱり電チャンと神通のペアがメインですね」
「神通?」
そこで思わず反応する川内。彼女の反応には提督だけでなく近くに居た武官や艦娘たちもちょっと注目したようだ。
美保司令は川内を振り返って答える。
「さっきの電チャンもそうですけどウチ(美保)の神通も、かつてシナの装甲車に対して身を挺して私を護ってくれたんですよ……そういった『戦果』を考慮しています」
「その時ってさ……」
何かを言いかけて一瞬、言葉に詰まる川内。
彼女の次の言葉を待っている美保司令に対して川内は一瞬、呼吸を整えてから改めて問いかけた。
「そのときの神通は、もう司令の娘だったのかな?」
いきなり意外なことを聞く川内に提督は驚いた。
だが美保司令は微笑みながら軽く首を振って答える。
「いや、私たちが養子縁組を始めたのは大井が軍属に復帰してからです。シナが上陸したのは、その数年前ですから当時はまだ、私は誰とも養子縁組はしていませんよ」
「そう……」
なぜか、ふっと寂しそうな表情を見せる川内。
提督は思った……彼女はなぜ突然、美保司令にそんな質問を投げかけたのか?
川内といえばブルネイでも戦闘や諜報と縦横無尽の活躍をしてくれる頼もしい艦娘だ。今回、ブルネイから半ば無理やり連れてきたのも突発的な事態が起きても彼女なら柔軟に対処できるだろうと思ったからだ。
決して彼女が特別というわけではない。艦娘というのは理屈抜きで敵と戦い自国や提督そして艦娘といった友軍を護るのだ。
だが今の川内の反応は質問は気になる。もしかしたら彼女なりに誰かを護る意義を考え始めているのだろうか?
もちろんケッコンや養子縁組だけが艦娘の闘う動機ではないだろう。一部からは『夜戦バカ』とも称される彼女だが、そんな艦娘が一人や二人くらい居ても良いと思う。軍隊には、いろんな人間……いや艦娘が居て当然だ。
そこで提督は考え込んだ。
そもそも彼女たちはどこから来たのか? そして闘い抜いた後に運悪く轟沈した艦娘は、いったい何処へ行ってしまうのだろうか?
彼はつい加賀の……嫌なことを思い出した。轟沈した彼女たちは噂にあるように深海棲艦になってしまうのか?
だが美保鎮守府周辺では、あの大井を始め数人の艦娘が復活してきたという事例もあるらしい……。
「darling!」
そこで金剛に呼ばれてハッと我に返る提督。
「ドウしたの?」
金剛が覗き込んでくる。澄んだ瞳につい引き込まれそうになる。
「いや……」
それは時間にすれば一瞬だったのだろう。柄にもなく難しいことを考えてしまったようだ。
周りを見ると他の武官や艦娘たちは装甲車の周りに群がって電や神通、そしてケリーから説明を聞いている。
それを見ながら提督は改めて金剛に言った。
「なあ金剛、オレは正直装甲車も小火器も興味ないんだ。ちょっと外れてタバコ吸っても良いかな?」
一瞬キョトンとした表情の彼女は直ぐに笑顔で頷いた。
「darlingがそれで良いと思うならOKダヨ」
そこで提督は何食わぬ顔で集団から外れた。その際に念のために川内にも声をかけて連れ出すことを忘れなかった。やや混沌とした感じの表情を見せていた彼女は大人しく付いて来た。
「学生時分からエスケープは得意だがな……さすがに軍隊で明からさまに逃げ出すと『脱走兵』扱いされ兼ねないからな」
そう言いつつ提督は笑う。そして、さほど離れずに道路を挟んで軍用車の見えるベンチに腰をかけた。こういう場合は美保鎮守府のコンパクトさが便利に思える。
「おい金剛、その辺の警備している艦娘に言って何処かから灰皿を調達してくれ」
「ウン」
そそくさと立ち去る金剛。別に彼女を追い払ったわけではないが提督はポケットからタバコの箱をまさぐりながら川内を呼んだ。
「おい、ここに座れ」
彼は自分の隣の空いたベンチを指差した。
「……」
川内は無言。いつになく表情が硬いな。
「そんなに緊張するなって。別に尋問するわけじゃないよ」
「うん、分かっている……」
そう言いながら川内は、ようやく提督の隣に腰をかける。
「はぁ」……と言いながら詰襟の前を少し開いて空を見上げる提督。青空に白い雲……風はあるが徐々に気温が上がっているな。
「……」
川内は相変わらず黙っている。いったい、どうしたんだ?
別にオレが金剛とイチャツクのはいつも通りだ。それくらいで気分を害することはないだろう。
「ちょっと堅苦しくてスミマセン」
なんだビックリした。灰皿を持って現れたのは美保司令だった。おいおい、いきなりお前自ら来るのかよ?
「金剛?」
そう言いかけた提督は、その本人(金剛)が美保の金剛と道路の向こうで楽しそうに談笑している姿を見た。
「あのヤロ、任務放棄か?」
美保司令もその姿を認めながら言う。
「あ、大丈夫ですよ。灰皿のことは彼女から直接聞きましたから任務放棄ではありません。彼女を責めないで下さいね」
彼はそう言いながら灰皿を提督の前に置く。
「チッ、他所の司令に灰皿を頼むバカが何処に居るんだよ」
ちょっとばつが悪くなった提督は、言い訳のように呟いた。
「いくら軍とはいえ、興味無いものは詰まらないですよね」
そう言いつつ美保司令は提督とは反対側……川内の隣の空いた場所に座った。
彼女は少し身体をずらして提督にちょっと密着した。彼女の柔らかい肌が接するのを感じたとき彼は『あれ?』と思った。普段から化粧っ気の無い川内だと思っていたが意外にも彼女からは、お香のような香りが漂う……何か付けているんだ。
『駆逐艦と違って川内くらいになると、いろいろ気を遣っているのだろうか?』
提督は内心そう思うのだった。
「悪ぃな……敷地内は原則、禁煙じゃないのか?」
彼が言うと司令は笑う。
「来客があるときは制限しませんよ……別に普段から厳密に禁止しているわけでもないです。ただ、ここでは禁止しなくても酒やタバコを吸う艦娘がいないだけですよ」
「……あ、そうだったな。じゃ遠慮なく」
提督は慣れた手つきでタバコに火をつけた。
「プハァ……」
少し離れた場所に居るゲストたちもチラチラと提督を見ている。もしここでドイツ武官が居たら直ぐにタバコを吸いに近寄って来ただろう。
二人の指揮官に挟まれた川内は、いつになく緊張しているようだ。何となく固くなっている様子は、いつもの勇ましさとは裏腹に妙に少女っぽさを感じる。相変わらず彼女からは良い香りが漂ってくる。
提督がそんなことを考えていると美保司令が口を開いた。
「元帥からの宿題は、ある程度解けたようですね」
一服してリラックスした提督は、タバコを口から離して答える。
「マル付けしたわけじゃないがな……いろいろ考えさせられたよ」
そう言いながら提督は急に思い出した。
「うちの青葉がいろいろ調べて……お前、死にかけたり失踪したり、いろいろあったようだが普通、そういう事件に巻き込まれた指揮官は二度と用いられないと思うんだ。ジイさん……いや元帥からはお前、何か聞いているのか?」
あまりにも単刀直入だと思ったが回りくどいことは嫌いだ。
その質問には意外にも美保司令もまた躊躇することなく答える。
「そうですね……なぜ記憶の飛んだ私を用いるのか? って実は私も閣下に直接聞いたことがありますよ」
「……で?」
提督は新しいタバコをくわえた。
美保指令は当時を再現するように語り始める。彼の再任は10数年前に呉で行われたそうだ。
当時、呉の某所にて元帥と三笠そして美保司令と祥高の4人だけが集まっていた。先の美保司令の疑問に対して元帥は答える。
『再任の理由か? ……お前が祥高の夫だからと言うことではダメか?』
『はぁ?』
美保司令には元帥の言葉の意味が分からなかった。彼は座ったまま司令の目を見据えていたが、その目はいつもの獲物を射抜くようなものではなく意外に優しく澄んでいた。
元帥は続ける。
『記憶が無くなる前のお主の経歴はワシが知っておるから安心せい。聞けばお主、全ての記憶を飛ばしたわけではなくて……指揮官としての通常任務には全く支障がないと祥高からも聞いておる。そういった事情を加味した上での判断じゃ』
『はい……』
彼は顎をしゃくりながら言う。
『実はこの人事には軍部でも反対意見があるのじゃ……今のところ何とか押さえ込んでおる。正直、今お主にゴネられると困るがのォ』
美保司令は慌てたように答える。
『いえ、お断りするつもりはありません』
そこで大きく頷いた元帥は一瞬、三笠と目を合わせた。そしてゆっくりと確認するように語り始める。
『困ると言うのはな……お主には美保鎮守府の艦娘を護って貰いたいからなのじゃ』
『護る……とは?』
訝しげな美保司令。
『あそこには徐々にオリジナル……第一世代の艦娘を可能な限り集めつつあるのは知って居るな?』
『はい』
司令は量産化技術が確立する以前から、やや偏りはあるが美保にオリジナルの艦娘が集められているのは感じていた。
『それは何か理由があるのでしょうか?』
『今は言えぬ……』
元帥は口を閉ざした。
以前の美保司令であれば理由を詮索して悩んでいたかも知れない。だが一度記憶が飛んだからだろう。彼は淡々と聞いていた。
元帥はお茶をすすって続ける。
『軍の内部には、お主の暗殺未遂や記憶喪失の事故はワシが仕組んだと疑って居る者もいる。じゃが信じてくれ。ワシは決して左様なことはせぬ』
『はい、承知しております』
司令と祥高が軽く頷くと元帥もホッとしたように腕を組む。
そのとき三笠が『宜しいでしょうか?』と言って発言を求める。元帥が彼女と視線を合わせて頷くと三笠は語り始める。
『今後、艦娘は広く世に認知されるでしょう。量産化と同時にケッコンも増えます。でも艦娘は人間に近い存在ですが感情的には脆く弱い部分もあります。また世間のことも疎い。そこを二人で護って欲しい……特に艦娘個人ではなく、もっと広く艦娘の文化、血統と言ったものを重視して欲しい』
『文化……?』
美保司令が小さく呟くと三笠は軽く頷いた。初めて聞くが艦娘にも独自の伝統文化があるのだろうか?
美保司令は元帥の願いに対して躊躇した。艦娘を護るといっても具体的にどうするのか?
『そう仰られても如何にすれば良いのか?』
すると元帥が応える。
『そこは、お前たち夫婦で考えるのじゃ。基本的にワシは何かを命令したり押し付ける気は無い。むしろ現場で声を聞くのじゃ』
『はぁ……』
思わぬ難題に祥高と二人で顔を見合わせる司令。
元帥は急に優しい口調で言った。
『案ずるな。お主らは夫婦……決して独りではない。お互いに支えあい協力して越えてくれ……ワシらもそうやって越えてきた』
三笠もまた元帥の腕に手をかけて優しく微笑むのだった。
……そこまで話を聞いた提督は言った。
「何だ、お前もジジイからのデッカイ宿題を抱えていたんだな?」
司令は苦笑して言った。
「そうですね……ただ閣下は単に命令して従わせるだけの指揮官ではありません。何かとてつもなく大きな課題を抱えながら、それを信頼する部下にも担ぐように期待されていると思います」
提督はタバコをくわえたまま肩をすくめた。
「期待か……オレには単なる偏屈なジイさんにしか見えないがな」
「その結果が……艦娘を護るのが養子縁組ってことなのか?」
突然、二人の真ん中で大人しくしていた川内が発言する。一瞬、驚いた彼らだったが美保司令は直ぐに微笑んで応えた。
「そうです……艦娘を護る為にはケッコンという方法もあったかも知れません。でも私は重婚出来るほど器用な性格ではありません。正直、妻は祥高だけで十分ですから」
司令の返事に川内もまた微笑んでいる。その表情を見た提督は安堵した。彼女がどこか腑に落ちたような印象を受けたから。
そこでタバコを灰皿に入れた提督は大きく背伸びをする。
「まだ謎の宿題は残っているんだけどなあ……」
ここの赤城や秋雲の変わった軍服と目の前に居る美保司令の謎の指揮官章……それは何の部隊なのか? 直接聞いても良いが、どうせはぐらかされるだろう。
「正直もう、美保のナゾは解明しなくてもイイ気もするんだがな」
そう言った彼は川内を見詰めた。それは暗に彼女に、これ以上はもう美保の詮索を無理にしなくても良いぞと言うメッセージだった。
その時だった。
「あぁ! ブルネイの川内っぽい?」
この特徴のある喋り方は……彼らが振り返ると長い銃を背負った夕立が立っていた。
「夕立?」
川内が聞くと夕立は微笑んだ。
「うん、私っぽい」
提督は改めて彼女を見た……まだ『改2』になっていない『改』だろうか? 見た目は普通の夕立だが彼女が背負っている長身の銃が気になる。
「何だその長いのは? まるでお前が空母みたいだな」
半分冷やかすように提督が言うと夕立は金髪の長い髪を気にしながら微笑んだ。
「そうだね……でも弓と違ってスッゴク重たいんだよコレ」
そりゃそうだ。重さもそうだが、その長さでは背の低い駆逐艦娘には、とても扱えないだろう。
「それがお前の『お気に入り』なのかい?」
川内が聞くと夕立は嬉しそうに笑った。
「そうっぽい。威力あるんだよコレ」
「威力……」
一瞬、小さく呟いた川内は興味深そうに改めて聞く。
「もしかして、それをこれから撃つのかい?」
「うん、そうっぽい」
夕立は悪戯っぽい顔をして笑った。よほど好きなんだろう。ただ提督には川内の表情が再び硬くなったのが気になった。
美保湾からの風は、徐々に高くなる気温を少し和らげていた。だが何か起きそうな気配を感じる提督だった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。