「……美保め、許せん」
「はあ?」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第44話:『お風呂のお約束』(改)
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オスプレイの機内では対面座席の真ん中の床にライフル銃を従えた夕立が身体をベルトで固定して座り込んでいる。機内でも座席に座らない状況は軍隊では珍しくないが、それがスカートをはいた少女となると話は別だ。
その間にもオスプレイはエンジン出力を上昇させ、やがて軽い衝撃と共に機体が空に浮き上がる。
「おお、浮いたな」
「そうだな」
これは副大臣と副長官の会話。当前の内容であるが、航空機に乗ると、そんな当たり前の台詞が出てくるものだ。
暫くエレベーターが上昇するような感覚があって機体が上昇。次に翼のほうからエンジンを水平に向ける音が響くと同時に機体は徐々に前進を開始した。巡航時には通常のヘリの倍近いスピードで飛べるらしい。
副大臣が床の少女に問いかける。
「夕立ちゃんは、座席に座らないのかい?」
「うん。この銃を持って入るときは、いつでも撃てる状態にして待機するのがイイっぽい」
そう言いながら軽くライフルを押さえている。
「で、それはいつ頃、撃つんだい?」
副大臣の問いに夕立は長い髪を気にしつつ半分振り返って答える。
「うんとねぇ、最後だよ。最初に標的の様子を確認しておいて帰りに撃つっぽい」
「なるほど……それは良かった。初っ端だったら、それがメインで終わりそうだからなあ。遊覧飛行は外してほしくないし」
副大臣は、あくまでも自分の趣味が中心のようだ。
「遊覧飛行って……バカか」
副長官は呟くように言う。既に呆れ顔である。
「その格好じゃ、窓の外が見えないだろう?」
副大臣が夕立に言うが……同じ疑問は、実は提督や他の艦娘たちも思っていた。
だが彼女はニッコリしていう。
「パイロットの視覚情報がこっちにも来るっぽい……あ、付けるの忘れるところだった」
そう言いながら彼女はポーチから眼鏡のようなものを取り出した。
「それは何だ?」
興味深そうに聞くのは川内。
「これはね小型のHUD(ヘッドアップディスプレイ)っぽい。ここにパイロットの付けているバイザーのモニターと同じ情報が来るんだ」
小型のHUDとインカムを取り付ける夕立。ちょうど片眼鏡のような状態になる。
「今ね、パイロットと同じ景色が見えるんだよ……早苗さん、聞こえますか? ……うん、こっちはオッケー。今回の標的はまだ?」
インカム越しにパイロットと会話をする夕立。なるほど、時代は進んでいるんだなと誰もが思った。
「敵の兵器も……進んでいるのかな?」
ふっと川内が恐ろしいことを言う。その問いには副長官が答える。
「私のつかんでいる情報によると連中は主にシナやロシアと緩やかに連携しているらしい。だから当然そういった国々の軍事技術も提供される可能性はある」
「何だ、大昔の世界大戦と似たような構造になっていくな」
副大臣も意味深なことを言う。
その時、漣が案内をする。
「皆さん、この機体は今、夕立の標的付近を飛行しています。このため現地で暫く旋回しますのでベルトを外さないように気をつけて下さいね」
よく見ると彼女もインカムを付けている……パイロットと交信しているようだ。夕立もインカム越しにパイロットと盛んに交信している。そのたびにオスプレイのエンジン出力が変わり何度か旋回を繰り返している。
「そうか、その気になればオスプレイで偵察したまま攻撃を仕掛けることもできるし兵士を乗せていれば闇に紛れて強襲も出来そうだな」
副大臣が呟くように言う。だが実際そういった使い方は十分可能だろう。こういったオスプレイのような兵器を組み合わせることで艦娘も今後は立体的な作戦展開が可能になっていくのかも知れない。
「OK、もうダイジョウブっぽい」
夕立はインカム越しにそう言うと大きく背伸びをした。どうやら標的の確認は終わったようだ。飄々(ひょうひょう)としている彼女だが標的を捉えるまでは緊張していたようだ。
その姿を見た漣がインカム越しに何かをやり取りしている。やがて彼女は自分のベルトを緩めながら全員に伝えた。
「標的の確認が終わりましたので後は山陰海岸を水平飛行致します。ベルトは緩めて構いませんので、お寛(くつろ)ぎ下さい」
その案内と同時に、機内はホッとした空気に包まれた。床に座っていた夕立もインカムなどをしまうと、自分のベルトを緩めて立ち上がった。
「あぁ……」
なぜかそこで副大臣のため息が漏れる。副長官が提督を見て肩をすくめる仕草をするので彼も苦笑した。彼はまだ夕立のパン○にこだわっているらしい。
「缶入りの飲料ですが前にありますので必要な方は仰って下さい」
熱いお絞りを配りながら細々(こまごま)と世話を焼く漣……いつの間にかフリルの付いたエプロンをしている。何か勘違いしていないか?
「漣ちゃんも相変わらずプリティだな」
副大臣が鼻の下を伸ばしている。
「何か飲みますか?」
全く動じることなく笑顔で応対する漣。この子も強そうだ。
「そうだな……取りあえず珈琲をブラックで」
「了解です!」
敬礼をして小さな冷蔵庫から缶コーヒーを取り出す漣。小さなタオルで軽く水滴を拭うと副大臣に渡している。
副長官も声を掛ける。
「おい漣、私も頼む……紅茶系はあるか?」
「はい……微糖入りの『夜の紅茶』があります」
「それで構わん」
「はあい」
そんなやり取りを聞きながら提督は窓の外を見る。山陰海岸と平行してオスプレイは東の方角へと飛んでいる。
「このまま飛べば、砂丘だな」
彼が呟くと川内も窓の外を見た。
「コレが日本か……」
川内の呟きを聞いた提督は言った。
「そうか、お前も日本の海岸を見るのは初めてか」
「そうだね……提督の故郷も、こんな感じかなって」
その反応は提督にとっても意外だった。まさか艦娘に自分の祖国はもとより故郷にまで思いを馳せてもらうとは思っても居なかった。
いや、そもそも嫁艦である金剛からも、あまりそういう話題は聞かない。まあアイツは帰国子女だから仕方ない。そこは純国産の艦娘との違いだろう。
「そうだな、日本の海岸線は大体同じような……」
彼がそこまで言いかけたとき「ええ!」という奇声に遮られた。声の主は副大臣だった。
「漣ちゃんは司令と一緒にお風呂入っているのか?」
いきなり何の話だ? と提督や川内は思った。
「ええ? 私も入るっぽい」
ニコニコして言う夕立。
「おいおい、君たちぃマジかよ」
「何だそれは? 気になるな」
珍しく副長官も身を乗り出している。
「何の話だ?」
提督も思わず会話に加わる。副大臣は良くぞ聞いてくれましたという表情で説明を始める。
「聞いてくれよ! 美保鎮守府では例の暗殺未遂事件があってから四六時中、司令に護衛が付いていることは知っていると思う」
頷く副長官と提督。
「所帯持ちの司令は今、車でも数分の距離にある官舎に住んでいるが当然、そこへも護衛艦が付くそうだ」
「そりゃ、たいそうな身分だな」
思わず反応する提督。
「だろ?……まあ、百歩譲ってそれは認めるとしてだ。何でも入浴中も護衛が付くそうだ」
「……」
副長官は複雑な表情をしていたが、直ぐに口を開いた。
「姉さん……いや、祥高は何か言っているのか?」
夕立と漣のほうを見ながら聞いている。エプロンをいじりながら、まずは漣が答える。
「えっと、副司令が決めた『お風呂のお約束』があるんです」
そういうと順番に暗唱し始める漣。
1)コレは強制ではない。また司令が断ったら入らないこと。
2)司令と一対一では入らない、必ず二対一以上にすること。
3)駆逐艦に限定すること。かつ副司令の許可を得た者に限定。
4)司令の自宅警護のときだけに限定。他の場所では一切禁止。
5)夜22時以降は禁止。朝風呂も禁止。
6)どうしても軽巡が就く場合で入浴を希望する場合は水着着用でかつ副司令の許可を得た者に限定。
7)重巡以上は全面禁止(そもそも護衛に就かない)
「はは、禁止事項ばっかりだな」
川内が苦笑している。いや、問題はそこじゃないと思うが。
「その1)で断られたことはあるのか?」
速攻で副大臣の突込みが入る。
「ええっと、私の時は一回も断ったこと無いよ」
夕立が言うと、漣も頷く。
「漣もそうだな」
「あ、そうそう……」
ここで夕立が突然何かを思い出す。
「?」
身を乗り出す副大臣。
「ゼロ番って言うか、大前提は『司令と親子であること』ってのがあるっぽい」
「だからケンペイさんも本省も何も咎められないんだって」
「親子って最高っぽい」
「ぽいねぇ」
笑顔で顔を見合わせる艦娘たち。
副大臣は腕を組んでクソ真面目な顔で言う。
「……美保め、許せん」
「はあ?」
副長官は半分呆れながらも夕立に聞いた。
「当然、司令からの提案ではないと思うが……この『お風呂』は、いつ頃から始まったのだ?」
その問いに、顔を見合わせる駆逐艦たち。
「えっと……自宅護衛が始まって直ぐだったよね」
「うん、ご飯も布団も一緒なんだからお風呂も……って話を、私たちの方から提案したんだよね」
その会話を聞いた副大臣は『布団』という言葉に引っ掛かった。
「布団って……寝るときも同じ布団なのか?」
既に副大臣の目が血走っているような気がする。だが平然と頷く二人。
「だって、護衛なのに離れるってオカシイでしょ?」
「変ダヨねえ」
「いや、変なのはお前たち……」
と、そこまで言いかけて慌てて口をつぐんだ副大臣。二人の艦娘が妙なものを見るような顔つきで副大臣を見上げていたからだ。
そこで彼は矛先を提督に向けた。
「金城提督殿、この由々しき事態をドウ思われるか?」
何を取り乱しているんだ? と思いつつ彼は答える。
「まあ、オレだって重婚しているからな。別に美保司令だって強制しているわけでも無さそうだし……」
「いや、モラルがだな」
副大臣の口から『モラル』と聞かされても白々しい。案の定、副長官は既に苦笑している。彼女にとっては姉である祥高が許可したことなら問題ないと考えているようだ。
それでも念のため提督は川内に聞く。
「川内、お前は司令官が駆逐艦たちと入浴したり一緒に寝ることをどう思う?」
半ば無視するようにして窓の外を眺めていた彼女は、首だけ副大臣の方を見ると言った。
「提督と同じ……別に艦娘が嫌がってなければ良いんじゃない?」
「……」
もはや副大臣の負けだな。ただ美保鎮守府は、司令自身も知らず知らずのうちにハーレムのようになっていたのだなと提督は思った。
だがまだ諦めきれないのか副大臣は反撃に出る。
「そのゼロ番で……護衛艦隊が例えば親子の艦娘と、そうでない艦娘のペアだった場合は当然、一対一になるからナシだよな?」
「えっと……」
首を傾げる夕立。
「簡単だよ。親子の艦娘が一人でも、お母さん……副司令が一緒に入れば全然問題ないと思いまぁす」
「なに……祥高と駆逐艦と司令が同じ風呂に……」
副大臣は絶句している。
「でも親子なんだから当然っぽい」
「ねえ」
また笑顔で顔を見合わせる夕立と漣。
「……」
もはや副大臣は無言になった。かなり精神的ダメージを受けたらしい。
「だって司令も副司令も家では、ものすごいラフな格好っぽい」
「ギャップ感強いけどさ、家だとすごく二人に近く感じるよね。イイよね、心に壁がないって言う感覚」
「軍だと上下関係で厳しいけど……家庭って、きっとそれが全部外れてホントに安心出来るっぽい……不思議な感じ」
「ついつい警護、忘れちゃいそうになるんだけどさ……一度、体験したらもう、離れられないよね。何だろね? あれって」
「やっぱり、あれも『愛』っぽい?」
「うん、ぽいぽい」
結局、艦娘の指揮官という位置で彼女たちと上手く接していくと何らかの形でハーレムのような状態が作り出されるのだろう。
生真面目な美保司令でも、自動的にそういう状態になっているというのは逆に、提督や副長官から見れば微笑ましくも思えた。
副長官が総括するように言う。
「美保鎮守府の設営の目的は、司令と艦娘との理想的なつながりを模索する実験場的な意義もあったのかも知れんな……」
その言葉は深かった。提督はふと、元帥のことを連想した。
副大臣は言う。
「ああ……オレも政治ではなく軍人で居るべきだった」
『……』
彼ののボヤキには、その場の全員が苦笑するのだった。
夕立と漣の掛け合いは続く。
「でも駆逐艦でも、ちょっと大きい子……不知火とかは、お風呂って原則禁止っぽい?」
「あれ? でもこの前、ぬいぬい水着着て入ってたよ」
「あははぁ、不知火ってやっぱり執念深いっぽい」
「あの性格は絶対直らないよね」
「もうイイ……」
副大臣は止めようとするが女子の会話が止まるはずがない。
「不知火ってホント素直じゃないっぽい」
「そうそう、ああいうのをツンデレって言うんだよ、知ってた?」
「ええ?分かんないっぽいぃ」
「……」
副大臣、目が白くなっていないか?
「でもさ、時雨ってズルいっぽい」
「あれは反則だよね……あ、見てみて! 砂丘だよ!」
漣が指を指すと眼下には広大な砂丘……鳥取砂丘が広がっていた。
「わあ、空から見ても大きいっぽい」
「海から見ても大きいよ」
はしゃぐ艦娘たち。オスプレイは比較的低高度を飛んでいるから、かなり地表が良く見える。
「時雨の反則?」
なぜか川内が窓の外の景色を見ながら呟いている。それは他の者たちも同様気になるだろう。
だが当の艦娘たちは砂丘の方が興味あるらしく、窓の外を見ながらはしゃいでいた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。