「苗字って……美保?」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第46話:『艦娘の権利と教育』
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「このまま砂丘に着陸できたら良いっぽいね」
夕立が言うと漣がインカムに耳を傾けてから言う。
「ああー、着陸したいのはヤマヤマですが……当機はここで引き返します」
そう言って悪戯っぽく微笑んだ。
その直後にゆっくりと機体は旋回をする。
往路は『お風呂のお約束』の話題でゴタゴタして、ゆっくり機外の景色を眺める暇が無かったから、せめて復路は、じっくりと山陰海岸を観察しようかな……と金城提督は思った。そういえばさっきの時雨が云々という話題も気になる。時雨がずるいって、何のことだ?
一方の川内は、そういう話題には全く無関心で、ずっと機外を眺めていた。だから飽きているらしい。少しずつ漣や夕立に声を掛けて話をしている。
特に夕立にはライフルのことや美保の攻撃体勢など戦術的な事も聞いている。
「そのライフルもやっぱり『艦娘仕様』になっているのか?」
「ううん、コレは違う。無改造っぽい」
銃を手繰り寄せて夕立は答える。
「へえ、改造魔の夕張にしちゃ珍しいな。あの装甲車はかなりいじっているんだろう?」
だいぶ打ち解けたような川内はドンドン話しかけている。
その問いには夕立、急にニタニタする。
「これ話しちゃって良いのかなあ……この銃は無改造なんだけど米軍からは同じものをペアで貰って居るっぽい」
すると黙って聞いていた副長官が話に加わる。
「そうだな。普通、装備品も万が一に備えてペアで提供するから別に機密でも何でもないが。何だ夕立、やはり同じものがもう一丁あるのか?」
夕立は副長官に答える。
「うん、そっちは深海棲艦用に使っているっぽいけど」
ここで提督も聞く。
「けど、なんだ?」
「すごく良い銃なのに誰も使おうとしないっぽい、もったいない」
コレには全員苦笑するばかりだった。
副長官は言う。
「夕立専用というよりも、その銃身の長さに艦娘から敬遠されているだけかな?」
夕立は軽く頷くと銃を見詰めながら言う。
「伊勢はちょっと興味ありそうなんだけどね、やっぱり日向が居ないとダメっぽい」
副大臣も頷く。
「日向か……あいつなら喜んで撃ちそうだな」
「日向かあ、懐かしいよね……元気かな?」
相変わらずフリフリのエプロンを付けながら漣が言う。
窓の外を見ていた提督は振り返って聞く。
「美保には日向は居ないのか?」
夕立が答える。
「以前は居たっぽいけど脱走した秋雲とブルネイから来た伊勢と最上の身代わりに横須賀へ行ったっぽい」
それを聞いた提督は、芝生のそばにいたスケッチブックを持った少女の姿を思い出していた。
「あの長髪の少女……秋雲か」
そして川内は少し驚いたように言う。
「へえ、日向がねぇ……そうなんだ」
彼女の言葉に提督はふと思った。戦場ではとっさの時に仲間のために身代わりになるということはあるだろう。兵士であれば当然だ。
だが戦場でなくても、他の艦娘のために進んで犠牲になることが出来るということ。それはかなり高度な感情をも持ち合わせているといえる。
「その日向は、よほど優秀だったのか?」
提督が聞くと、夕立と漣は頷いた。
「射撃の腕は一番っぽい」
「ぶっきらぼうに見えるけど、意外と優しいんだよね日向」
「そうか」
それを聞いた提督は思った。
何となくその日向の性格は美保司令が好みそうなタイプかな? いや、逆なのか? 日向の方が美保司令的な指揮官を好むのかも知れない。
いずれにせよ艦娘は人間以上に興味深いといえるな。
それから数分は、皆も話し疲れたのだろう。機内は静かになった。
川内は黙って窓の外を見ている。提督は緩やかな振動とエアコンの効いた機内で半分眠くなってきた。
「素朴な質問を良いか?」
さっきの衝撃は癒えたのか副大臣が挙手をする。艦娘たちは彼を見て「何?」と言った。
「おいおい、そんな目で見るなよ……風呂の話題はもう終わったから」
苦笑いをして釈明をする副大臣。
「何でしょうか? 副大臣様」
改めて漣が呼びかけたことに少し嬉しそうな笑顔に変わった彼。
だが直ぐに副大臣は、ちょっと真剣な顔をして言う。
「これは、もっと真面目な話だ」
この言葉で艦娘たちも安心したような顔になる。
彼は軽く咳払いをして、さっきよりは真面目な顔をして聞く。
「君たちが美保司令と養子縁組をするってことは戸籍も同じになる。つまり君たちにも苗字が与えられるってことだよね」
この質問には改めて顔を見合わせる二人の艦娘。
まずは夕立から返事をする。
「苗字って……美保?」
「まぁ、多分そうだな」
何かを思い出すような顔をしていた夕立は、ふと漣に言う。
「あれかな……フリースクールで『名前』ってとこに最初に書くやつだよね」
漣も思い出したように答える。
「そうだね……そういえば市役所とか図書館で書類書くときに、いっつも『美保』って頭に付けたっけ」
それを聞いて安心した表情で頷くと副長官を振り返る副大臣。
「さっきはオレも取り乱したけどな……でも艦娘の権利と言う観点から見ても美保司令夫妻の判断は極めて的確だったわけだ」
彼の言葉に大きく頷く副長官。
「そうだな。養子縁組……さすがは祥高姉さんだ」
「……?」
ちょっとボンヤリしていた提督には良く掴めていない。
それを察した副大臣は提督を見て改めて言う。
「これは艦娘の『権利』という観点の話さ。彼女たちが軍の敷地内や、その周辺だけで生活をするなら問題は無いんだ。ただ、そこから一歩でも外へ出れば艦娘と言えども権利が保障されなければ、この日本では、まともに生活すらできない。君も少し聞いたかもしれないが美保の大井が失踪してから大変だったというのは、そういうことさ。まあ応急的にはケッコンすれば夫と同等の権利は、ある程度は受けられるがな」
「なるほど」
提督は返事をした。正直ブルネイに居ると日本的な規制とか規律というものは分かり難くなる。治外法権的な軍隊ではなおさらだ。
「可愛い艦娘たちがオレみたいな変なエロ親父に捕まったら可哀想だからな」
普通、自分で言うか?
今度は副長官が口を開く。
「さっき夕立が『フリースクール』と言っただろう? 要するに学校だ。結婚せずとも日本と言う社会で生活をする以上は一般常識は不可欠だ。それを鎮守府内だけで教えるのも限界があるだろう?」
「はあ」
彼女は眼鏡の真ん中を押さえながら言う。
「祥高から聞いたが美保で養子縁組をした艦娘は軒並み学校へ入れるそうだ。ただ艦娘は時間が不規則だから、ほとんどがフリースクールになる」
夕立と漣は頷いている。副長官は続ける。
「養子縁組をして扶養に入れるということは艦娘の生命はもちろん彼女たちの教育を受けさせる責任が生じる。要するに学校もきちんと出してやることだ。それは当然、軍事教練とは違う。一般的な教養と言うものだ」
「はぁ」
提督はまた生返事をした。ブルネイだって艦娘の教育と言うことは考えていないわけではないが具体的な事柄までは意識していなかった。
どちらかというと独りでは手が回らないので正直、艦娘の主体性に任せていた。
それを察したのだろう。副長官は特に咎めることなく説明を続ける。
「意識しなくて当然だ。今までは敵との戦いが精一杯だった人類には艦娘の教育はおろか基本的人権という観点すらなかったわけだからな。元帥の庇護下での美保鎮守府だからこそ初めて、そういった意識も出来るようになったのだろう」
「……」
提督は申し訳ないが正直、頭がボーっとしてきた。こういう話はちょっと苦手だ。
それでも何とか返事をする。
「でも……指揮官としては考えないといけませんね」
彼の言葉に副長官は頷く。
「お前も忙しいだろうが、補佐でも立ててでも意識すべき段階に来ているかも知れん。そこは現場で判断したら良いが、彼女たちの将来のことも少しは考えてやって欲しい……いずれ『戦後』はやって来るのだ」
「ハッ」
彼は軽く敬礼をした。課題は増えるが不思議と嫌な感じはしなかった。それは彼自身も、いつかはやらなければと思っていたことだ。
そのとき夕立が再び床に座布団を敷きなおしてライフルとベルトをチェックし始める。漣がエプロンを外して案内をする。
「そろそろ最後のメニューです。射撃演習場に近づきました。当機は訓練体勢に入ります。皆さん着席の上、ベルトをお締め下さい」
いよいよ今回のフライト最後の射撃演習である。
副大臣が夕立に聞く。
「今回は、どんなメニューだ?」
「うん」
夕立は長い金髪を顔から少し払いながら説明する。
「沖合いにある埠頭に標的があるから、それを狙撃するっぽい」
「狙撃?」
川内が不思議そうに言う。
夕立は川内を振り返りながら説明する。
「うん。でも飛行機からこの銃で標的を狙うって状況が実戦ではあり得ないから、ホントはあまり意味が無いっぽい」
提督が確認する。
「えっと、つまり?」
夕立はフッと不敵な笑みを浮かべる。
「もっと言うと艦娘仕様に改造した銃の方が……私、いつも戦闘ではそっちで撃っているっぽい」
補足するように漣が説明する。
「夕立が今日使う銃は無改造で、こういったデモンストレーションとか改造した銃のリファレンス用に使ってます。だから普段の夕立ちゃんの銃をお見せできないのがちょっと残念です」
提督は感心するように言う。
「へえ、そうなんだ」
だが川内は少し、考え込んでいるようだ。
「この銃は調整用なのか……」
その時、インカムを付けた夕立はパイロットと何かを交信する。直ぐに機体の後方へ向いて床に腹這いになると銃を構えスコープの調整を始める。
漣が案内をする。
「では皆さん、射撃訓練のデモを始めます。今回は後ろの扉をオープンしますのでベルトを確認して絶対に席を立たないように、ご注意下さい!」
「後ろを開くのか?」
コレは川内。
何となくワクワクしている副大臣……それは射撃そのものというよりもエロエロ大王的観点からであろう。何しろ夕立が後ろ向きに腹這いになっていると言う絶好のポジションである。さっきの言葉をもう忘れたのか?
漣が説明する。
「当機は空中で一旦、着陸態勢を取りつつ海上でホバリングをします。この体勢自体が特殊なので、オスプレイのフライトのデモも兼ねています」
その直後、エンジンの出力が下がり翼から機械音が伝わってくる。同時にブザーが響いて後方のハッチが徐々に開き始める。
夕立を除いた機内のメンバーは改めてベルトを確認する。
「皆さんの座席の下のポケットに双眼鏡があります。標的を確認する際にご利用下さい!」
ホバリングを開始して機体内外が騒がしくなる中、漣が大きな声で叫ぶ。
メンバーたちは次々と双眼鏡を取り出す。後ろを見ると開いた扉から日本海と鎮守府沖合いにある大きな堤防が見えた。
さらに良く見ると、その堤防の上に標的がいくつか並んでいる。それを認めた夕立は腹ばいになりながらライフル本体と、その上に取り付けられたスコープを再度チェックしている。なかなか精悍なスタイルだ。腰周りのチラチラするものがなければ。
「急な横風で機体が揺れることがあります。注意してください」
漣が叫ぶ。
だが提督は双眼鏡で堤防の上の標的を確認してちょっと驚く。
「何だ? あの標的は」
彼らの視線の先にあったものは、艦娘か深海棲艦を模したのだろう、人の形をした標的だった。
「あれを撃ち抜くって言うのか? ……趣味が悪ぃな」
提督は呟いた。
「まあ……当然だろうね」
同じく双眼鏡をのぞいていた川内も呟く。お前、冷静過ぎるぞと提督は思うのだった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。