「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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美保鎮守府が戦闘状態に入った。同時に隠されていた兵器がその片鱗を表す。


第51話:『指揮官の本質』

「突出した艦娘が居るわけでもありません」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

第51話:『指揮官の本質』

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 作戦司令室はアラートが鳴り響いている。同時に大淀や寛代、それに霞は通信機を操作したり指示を出している。だが司令室は既に大人数で、さすがにちょっと息苦しい。

 

 美保司令は改めて言った。

「では皆さん執務室へ移動して頂きましょうか……祥高さん、後を、お願いします」

「はい」

 美保司令夫妻は、お互いに敬礼をする。

 

 司令は見学者を引き連れて退出すると皆を廊下の向かい側にある執務室へと案内した。

 執務室に入った副大臣は言う。

「何だ、この距離なら別に移動する必要も無さそうだな」

 

 司令も笑う。

「そうですね……一応、ここでも戦況を見ながら指揮は執れるようになっています」

 

 彼がデスクのボタンを操作すると天井のプロジェクターから戦況を示す地図と各種のグラフ、文字情報が白い壁を利用したスクリーンに投影された。

 

「私はインカムで逐次、指揮を取りますので、ご無礼をお許し下さい」

司令は、そう言いながら小型のインカムを耳に挟んだ。

 

 腕を組んでスクリーンに投影された概観図を見ながら副長官(軍令部作戦参謀長補佐)が聞く。

「相手の規模、状況はどうなっている?」

 

「はい……地図にも出ていますが彼らは二手に分かれています。索敵範囲ギリギリで様子をうかがっていた部隊と、更に遠くの本体と思われる大艦隊です」

 

画面を見て提督は言う。

「空母4、戦艦5、駆逐艦多数……本体との距離があるのが幸いだが」

 

 ドイツ武官も、スクリーンを見ながら言う。

「手前の部隊が高速で先制攻撃をして、こちらの戦力が弱まったところで本体が来る積もりかな」

 

 司令は頷いた。

「そのようです。とにかく敵の上陸は可能な限り避けなければなりません」

 

 スクリーンを見ると沿岸部の艦娘たちが一斉に展開して敵の先制攻撃部隊と迎撃戦闘に移っている様子が分かった。

 

 提督は腕を組んで言った。

「数的には五分五分か? 美保の艦娘たちは大人しい子が多そうだから上陸されて肉弾戦に持ち込まれたら、かなり不利じゃないか?」

 

 美保司令は微笑んだ。

「そうですね。それは避けたいです。ただ美保の艦娘たちの武装はデフォルトではなく、ほとんど換装しています。まあ見ていて下さい」

 

 前線の艦娘たちは司令部の祥高や寛代、大淀と交信をしているようだ。こちらのモニター画面にも各部隊のマーカーが点滅し、文字情報が盛んにスクロールしている。

 

「あの画面の上と下にある丸い点は何だ?」

さすが副大臣、着眼点が違うなと司令は思った。

 

 彼が説明しようと口を開きかけたとき、ケリーが説明を始める。

「あれは米軍の偵察衛星です。宇宙からも状況を逐次監視しています」

「ホウ」

 腕を組んで感心したような副大臣。

 

 だが副長官が眼鏡を指先で持ち上げながら言う。

「何だ? ……軍令部では、まだ衛星通信は本格運用はしていないはずだが」

 

 司令は答える。

「はい。これも米軍とのリンクシステム実験です。美保では陸海空軍だけでなく米軍とも情報をリンクさせているとお話しました。その実証です。申し訳ないのですが、これは軍令部を通さず元帥の直轄指示で実施しています」

 

 その答えに少し苦虫を潰したような顔をした副長官。

「そうか……まぁ、仕方ないか」

 

 面目丸潰れ……とまでは行かないが、気持ちの良いモノではないだろう。

副大臣は、なだめるように言う。

「まぁまあ……ここは元帥の箱庭だと思って」

 

「ああ……それは分かるがな」

 制度や体制のこともある。しかし美保の副司令が姉の祥高ということで彼女はガマンしているようだった。

 

 司令も言う。

「越権行為スレスレのことはお詫びします。しかし今回はチャンスかも知れません」

 

「というと?」

コレは提督。

 

「先も言いましたが、艦娘たちは主に米軍提供の最新兵器を実装しています。今日、見学戴いたのは地上兵器のほんの一部……実は海上兵器もいくつか提供されていますし、各種ミサイルも装着しています」

 

 スクリーンを見ていると戦闘は山陰海岸の美保湾を中心として数箇所で展開されている。そのほとんどが沿岸部の戦闘となっていた。

 

 司令の言葉を裏付けるように、従来の兵器での戦闘に見られるような、一進一退というリズムではない。最初は一方的に見えるのだが、ある一点を境に突然、こちら側が敵をねじ伏せているパターンが続いている。

 

 だから当初は数の上で敵のほうが、やや優勢かと思われたのだが、画面に表示される戦果を見ていくと明らかに戦況はこちが有利に展開しつつあった。

 

司令は言う。

「現代のほとんどの兵器が電算技術のカタマリですからね。しかもネットワークで情報を共有しています。何処かで戦端が開かれたら一気に敵の全ての情報が共有されます」

 

「つまり?」

質問する提督に、司令は応える。

 

「電算化によって照準だけでなくリンクシステム上の全ての艦娘の配置や、個々の武装の種類、残弾数等が共有されます。その上で敵の種類と位置を計算して最も効率的な戦術を立案し再び各艦娘にフィードバックします」

「なるほど」

「だから最初はこちらが押されるんですが直ぐに形勢が変わります。そして結果的には目をつぶっていても戦える……まあ、照準も自動ですから撃ったタマが勝手に当たるイメージですね」

 平然と言ってのける司令。頷くケリーと海外武官たち。

 

「究極的には、艦娘も不要になるでしょう」

「まさか……」

この美保鎮守府とは一体何だ?

 だがそう言って一番驚いているのは日本人だけかもしれない。

 

司令は言う。

「別に魔法でも何でもありません。美保には突出した艦娘は居ません。もはや時代は個別の艦娘の優劣ではなく相手の情報を多く捉えて分析し効果的に配分伝達するか? ということです。これは日本が苦手な目に見えない部分、つまり情報戦なのです」

 

そして彼はスクリーンを見て言った。

「沿岸部の敵は、もう時間の問題でしょうか」

 

 誰とも無くホウッというため息のような感想が漏れた。コレが現代戦、まさにゲーム感覚というものか。

 

 美保司令は帽子を脱いだ。

「もう少ししたら、隠岐周辺に展開中の敵艦隊……アレを狙います」

 

 副長官は驚いたような表情。

「まさか……何キロあると思っているんだ?」

 

 提督も言う。

「武蔵を使うのか? だが彼女で届くのか?」

 

 微笑みながら司令は首を振った。

「いえ武蔵ではありません。ただ敵には可哀相ですが実証実験を兼ねた標的になって貰います。この距離なら多少外しても、まだ余裕がありますしね」

 

「さっき言ってた、チャンスって?」

 コレはイタリア武官。

 

「はい、新しい時代の幕開けです。その瞬間をご覧下さい。すぐに発射に理想的な陣形になりますので」

司令はケリーと目配せをして微笑んだ。

 

 何だコイツらは? と提督は思った。それは彼自身ちょっと不思議な感覚だった。まるで自分や日本のメンバーが彼らに嫉妬しているような……いやいや、そんなことはあるまい。彼は慌てて否定した。美保司令は元帥の庇護の元で行動して居るに過ぎない。ここは一つの実証実験の場なのだ。

 

 司令はインカムに指を当てて状況を聞いているようだ。やがて「ちょっと失礼」と言うと自分のデスクに座って瞑想のように腕を組んで目をつぶった。何をしているのだろうか?

 

 あの武蔵が言っていた、何かの思索か瞑想の一種だろうか? 単に目をつぶって考え事をしているようには見えなかった。

 

 そう、その場の誰もが彼の『瞑想』に興味を持った。考え事というより、まるで祈りに近い姿だ。まるで、どこかと交信しているような雰囲気だった。

 

「祈っているのかしら……ね」

 イタリア武官が呟くように言う。

 

「そうだな……」

 ドイツ武官も同調する。彼らはクリスチャンなのだろう。だから美保司令の『瞑想』に祈りに近いものを感じたに違いない。

 

 そのとき部屋全体がカタカタと音を立て始めた。

「きゃあ!」

 と言ったのは副長官ではなくイタリア武官。余震のようだった。

 

「そうか……余震はまずいな」

 目をつぶったまま司令は呟く。

 

 やがて彼は静かに目を開けた。

「ああ、失礼しました。整いましたので、そろそろお見せ出来ます」

 

「何が?」

 副大臣が問う。

 

司令は応えた。

「まずはスクリーン上で隠岐周辺に展開している敵の艦船の状況に、ご注目下さい」

 

 言われるままスクリーンを見上げる一同。そこには隠岐の島より少し後方に展開している無数の敵艦が見えた。

 

「まさか……アレを攻撃すると言うのか?」

 副大臣が呟いたその次の瞬間だった。

 

 スクリーン両サイドの地形図には何かの設備の稼動状況を表すようなライトが点滅して文字情報ボックスが現れた。そこには何かが動き出したことを示すパーセンテージが表示されて直ぐにスタンバイとなった。

 

 ただ半分以上の設備には『注意』と黄色で表示され『one time』つまり一回限りと言う注釈が付いている。

 

 美保司令はスクリーンを見詰めている。ちょうどその時、彼はインカム越しに返事をする。

「祥高か?……うん、見ている。そうだな……余震で電源や照準装置、施設の安定性が維持できないかも知れないし……うん、そうだ。仕方が無い。ワンタイムのものは様子を見つつ行こう。とにかく撃てるモノから順次、攻撃に移そう」

 

 直ぐに、画面上の幾つかの設備図から『OK』と言う表示が出始める。

 

「これは何かの発射装置か?」

ドイツ武官が聞く。

 

 美保司令はまだ無言。一同は、改めてスクリーンを見る。ただ時折、設備図の表示が『OK』になったり消えたりしている。不安定なようだ。

 

 司令は意を決したようにインカム越しに指示を出す。

「よし、OKのものから順次、発射!」

 

 その場に居る誰もが何か大きな発射音がすることを半ば期待していた。しかしその『砲台』から距離があるせいだろうか? 全く音は響かない。

 

「何だ? 発射したのか?」

 画面の『FIRE』の表示を見ながら不思議そうに副大臣が言う。

 

 司令とケリーは顔を見合わせた。司令はスクリーンを見ながら微笑む。

「直ぐに結果は出ますよ」

 

 一同はスクリーンに注目した。特に隠岐周辺の敵艦隊の近くの画面には着弾予想時間のポップアップが開く。その時間は一桁程度で短い。

 やがてカウントダウンがゼロになると同時に艦影が一つ、また一つと消えていく。画面には『轟沈』という表示。

 

 ……最初、誰もが唖然とした。

 

 副長官が叫ぶ。

「何だ? この兵器は」

 

 司令は答える。

「レールガンですよ」

 

「はぁ?」

副長官たち日本人は知らないようだった。だが海外武官は言う。

 

「もう実用化していたのか?」

「さすがアメリカね」

「まだ実験段階ですけどね」

 ケリーは当然だがドイツもイタリアもさすが諜報部員だ。既に情報として知っていた。

 

 司令は肩をすくめながら言う。

「ただ電源がちょっと……山陰では電力のバックアップが弱いです。それに今日は地震がありましたからね。余震の影響で発射の環境そのものが不安定ですし」

 

 スクリーンを見ながら提督は言う。

「おい大丈夫か? まだ敵はたくさん居るぞ?」

 

 その時、司令はインカムに反応する。

「……大淀さん? ああ……そうだ。取りあえず地上砲台は全てチャージを優先させてくれ」

 

 ドイツ武官が聞く。

「どうだ? やはり連射はキツイか?」

 

 司令は応える。

「そうですね……一応、発射装置自体にも蓄電出来るので、ある程度の連射も可能です。ただ地震があったのが痛いですね。まあ敵もレールガンで狙われるとは思っていないでしょうから心理的に圧力を掛ける効果は絶大です」

 

 司令の言葉にイタリア武官も言う。

「そうねえ、シナやロシアもレールガンの理論は知っているにしても、まさか山陰の小さな美保鎮守府がそんな兵器を持っているなんて想定外でしょうね」

 

 ドイツもそれを受ける。

「ああ……何しろ戦場でアレにやらると、いきなり轟沈させられるからな。仮に轟沈を免れても何に狙われたのか分からないだろう」

 

『?』

 残念ながら日本の軍人たちにはレールガンと言われてもチンプンカンプンである。ただ堅実な美保鎮守府が使うのだから、変な兵器でないことは確かだ。

 

 スクリーンに表示される敵艦が徐々に山陰海岸に近づきつつあるのを見て、ケリーが言う。

「司令、どうする気? ……やはりアレを使う? 今、何処?」

 

 司令は頷く。

「取りあえず今は赤崎の沖で待機させています。確かに、あれは余震の影響は受けませんね」

 

 ケリーは腕を組み頬に手を添えて考えるような仕草をしている。

「もう使うしかないでしょう? 全滅させなくても、あと数隻沈めたら敵も撤退するでしょうし。レールガンは最初だけで後はミサイルを使うしかないわね」

 

 彼女の言葉に司令は頷く。彼は改めてインカムに向かって指示を出す。

「祥高さん、赤碕沖の部隊にレールガンの発射指示を……そう。射程は行けるはずだ。今日は波も少ない……うん。とにかく敵本体の進行を食い止めさせて下さい」

 

 その時、別の入電があったらしい。

「……何? ああ、寛代か」

 

 司令は忙しいな。

「……陸軍と空軍からも加勢したいって? ……そうだな。陸軍には、とにかく山陰沿岸の警備を固めるように依頼してくれ。特に遠浅の砂浜と国道は押さえるように。空軍は……」

 

ここで司令は自席の端末を操作して何かの情報を開いている。

「美保空軍基地に、これからリンクシステムの情報を流すから、もし敵機動部隊が更に近づくようなら支援戦闘機の出撃を依頼する。コードは5563、パスワードはB列で。ああ、それまで待機と伝えろ。……そうだ。以上!」

 

 提督は、これがあの『ボー』っとしていた司令だとは思えなかった。やはり記憶が途切れていたと言うのは本当だったのだろうか?

 もしかしたら……『演技』していたのかも知れない。何しろ美保は諜報も力を入れているらしいからな。

 

 彼は呟くように言った。

「戦闘になると修羅場になるのは、どの指揮官も同じだな」

 

 ふと顔を上げた司令も笑った……いや、苦笑いか。

「そうですね。特にここまでの大規模な戦闘は久しぶりですから」

 

 それでも一段落付いたのか、スクリーンの情報の更新速度が若干、遅くなる。インカムでの交信も少なくなった。

 

 この状況を見て提督は思った。あらゆる意味で対照的なブルネイと美保。

 最初は嫉妬のような複雑な感情が入り乱れたが司令が孤軍奮闘するような状況を見て、指揮官の本質は変わらない。

 むしろブルネイでも手こずりそうな規模の敵を相手に僅か百にも満たない美保鎮守府が良く戦っているなと少しずつ応援したい気持ちになってきていた。

 

 そういえば……彼は川内を思い出した。

『あいつ、しっかり待機しているかな? いや、もうどこかで戦っているかな?』

 

 司令は「お茶でもしましょうか」と言って、インターホンを押す。もはや余裕だな……それだけ戦況は有利に展開しているのか。

 

「えっと、誰が良いかなあ……」

 司令は腕を組んで目をつぶっている。何かをボソボソと呟く。時おり顔をしかめていたが、やがて目を開けて言った。

 

「まあ、皆さんお座り下さい。もう直ぐ艦娘がお茶をお持ちします」

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。
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