「お・ま・え・が私の義兄で無ければ」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第54話:『羽黒の想い』(改)
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美保湾には月が浮かび、日は傾き屋台の立ち並ぶ鎮守府中央広場は、盆踊りのような雰囲気に満ちていた。ただ誰かが踊るということは無かった。
意外に、たくさん設置された屋台に金城提督に即席で教え込まれた艦娘たちが料理を作る。ほかにもイタリア系やらドイツ系の料理の屋台もチラホラ。
もともとこういった系のイベントは皆無だった美保鎮守府にしては奇跡的な、いや歴史的なひと時と言えよう。
ただ元々おとなしい艦娘が多い鎮守府である。多少、普段と変わったことがあったとしても『司令官が良いと言えば正義』的に収まるのは、どこも同じである。
舞台には黒潮と龍譲が登壇して勝手に司会をしている。
「お楽しみのところ、えろぉスンマへんなぁ」
おいおい、お前ら大丈夫か?
「うちらのトークはなぁ、別にぃ聞かなくってもええんやでぇ、皆はん!」
「そやなぁ。でもただ食べるだけっちゅうのはぁ寂しいからナ。ちょいと出て来てしもたわ」
どつき漫才のような司会進行が続いている中、副長官が司令の元に艦娘を連れて来た。
「あ……」
そうだ。彼女……この黒髪で引っ込み思案な雰囲気の艦娘は忘れないって。
「羽黒か?」
司令の言葉に彼女は聞こえるか聞こえないかくらいの小声で言った。
「覚えて下さって光栄です……」
何しろ周りが司会の声や喧騒で聞きづらい。思わず近寄る司令。
だが彼女を連れて来た副長官の声はとても良く通る。
「こいつはなぁ飛行機は嫌いだ! とか言ってな。列車でようやく到着した。バカだろ?」
そう言いつつ羽黒をグイグイ押している。彼女は、ただフニャフニャと押されるがまま。はにかんだ様にモジモジしている。
「あはぁン……」
何だか羽黒の吐息みたいな小声のブレスだけでも妙な色気があるから不思議な子だ。
すると彼女を目ざとく見つけた副大臣が大声を出して近寄ってくる。
「おおー、ハグハグじゃん!」
どうやら副大臣、既にアルコールが入って酔っているらしい。
「ハグハグちゃぁん、ハグしてあげよぉおおお!」
そう言いながら彼女に急接近する副大臣。
「きゃー!」
羽黒の叫び声と同時にバシッという感じの鈍い音がする。彼は羽黒の見事な片手捻りで一回転して、あっけなく地面に伏せられてしまった。やっぱり副大臣は『馬鹿』に違いない。
……ていうか
「すごいな……相変わらず」
感心したように司令が言う。
すると副長官は腕を組んだままニタニタした。
「フフフ、当たり前だ。私の部下だぞ。そもそも鍛え方が違う。小バエ程度ではビクともしないな」
地面で蠢(うごめ)く副大臣が情けない声で呟く。
「オレは小バエか?」
「ああ、その程度だな」
艦娘とはいえ女性は怖い。
その副長官は腕を組みながら羽黒に言う。
「羽黒よ。結局お前は、ここの貴重な実戦も戦後処理も十分に体験することなく終わってしまいそうだな。だから私は本省に残って居ろと言ったのに」
すると彼女は、俯(うつむ)きながら何か呟くように言った。
「……」
「あぁ? 聞こえないな」
副長官がわざとらしく聞き耳を立てる素振りを見せる。
「あの……その、私やっぱりぃ皆さんとお会いしたくて……」
「ホホウ?」
わざと目を細めてニタニタする副長官。
「良いんだぞ? お前いっそのこと美保で田舎暮らしでもするか?」
「……」
意味深な言葉に更に真っ赤になって固まってしまった羽黒。
「お前の好きな『皆さん』も居るし。軍隊の仕事なんぞ田舎でも十分出来るぞ?」
「……」
しかし鈍感な美保司令には、その言葉の意味が全然分かっていない。
副長官は、さらに追い討ちを掛けるように言う。
「まぁそれは冗談としてもだ。お前、何か持ってきたんだろ? お前の気持ちはもう分かっているから遠慮するな」
急かされた彼女はモジモジしながらハンドバックからファイルと書類を取り出す。美保司令は彼女の出した書類を見ていた。さすがにいくら鈍感でもそれが何かの察しはついた。
「もしかして……それ?」
彼は少々困惑した。
「養子縁組の書類?」
「……」
無言で、ただ頷くだけの羽黒。
すると同じように事情を察した副大臣が突然ガバッと跳ね起きる。
「許さぁん!」
「うわ、ビックリした!」
司令が驚いたのも無理はない。
副大臣ともあろう者が酔った上に羽黒に倒された挙句、腕や顔が擦りむけている。そして転がった拍子に服はドロドロ……。それでいて目だけは嫉妬心でギラギラだ。これは、まさに『ゾンビ』だろう。
そのゾンビは唸った。
「なんでさ、ハグハグまでが美保の『養子』になるわけぇ?……オレは許さん!」
「いえ……その」
書類の入ったファイルで半分顔をガードしながら徐々に後ずさりする羽黒。ちょっと可哀想である。
そんな彼女の気持ちを代弁するように副長官が応える。
「艦娘はな……副大臣が思う以上に、寂しくて繊細なんだぞ」
副長官は今度は司令を見た。
「しかも今日は武蔵も来ているが、あいつも兄貴(義兄)に縁組のこと、申し出ただろう?」
司令は頷く。副長官は「フン」と鼻で息をした。
「正直、私としても複雑だが(アゴで指しながら)兄貴なら間違いはない」
兄貴と呼ばれた美保司令は応える。
「はあ」
すると副長官は真面目な顔になる。
「しっかりしろ! だいたいなぁ、お・ま・え・が私の義兄で無ければ、速攻で却下しているところだぞ!」
「……」
美保司令が何も応えられずに居ると、さっきのゾンビが言う。
「そうだ、賛成、却下・却下・却下すべーし! ……あ痛っ!」
煽っていたゾンビは、直後に副長官のチョップと膝蹴りを浴びて再びうずくまった。こっちも何か可哀相だ。
副長官は羽黒を呼ぶ。
「こっちに来い!」
羽黒は顔を書類で半分隠しながらゾンビには近づかないようにしてこちらへやってくる。
副長官は言う。
「縁組の書類には後で私が署名してやる。その後で美保司令夫妻には私から渡すから安心しろ」
その言葉に、ポッと明るい表情になる羽黒。
副長官は呟くように言う。
「……ったく、あの時、お前と司令を握手させたのが、そもそもの間違いだったな」
「はぁ?」
よく分かっていない美保司令。
副長官は彼を見据えて説明する。
「あれから羽黒は、ことあるごとにお前の事を口にしていた」
「えっ?」
すると悪戯っぽく笑う副長官。
「冗談だ、バカ者」
そう言いつつも、急に緩やかな表情になって司令を見つめた副長官。司令は一瞬、ドキッとした。
「羽黒、もっとこっちに来い!」
副長官は、おずおずと近づく羽黒の手を取ると司令の手を掴んで強引に握手をさせる。二人は多分、真っ赤な顔になっただろう。少なくとも羽黒は暗がりでも分かるくらい赤くなっている。
副長官はホッとしたように司令に言った。
「やれやれ……。ちなみに本省で、お前と面識のある艦娘は、武蔵と羽黒くらいだよな?」
その問いに彼は答える。
「そのはず……ですが」
彼女は半ば独り言のように呟く。
「日向の奴は大人しそうだが、あいつ意外と饒舌なんだ。油断したな……それがトンだ影響だよ」
その時、副大臣がようやく地面から立ち上がり大きなため息をついた。
「はぁあ」
それを見ていた副長官は腰に手を当てて言った。
「おい、お前もこの程度で心が傷つくようなら、もう美保に来るのはやめてしまえ!」
「……いや」
砂を払いながら彼は芯のある声で言う。
「それとコレとは、話が別だ」
「へえ」
目を細める副長官。副大臣もめげないな。この二人は、何だかんだ言っても仲が良いのだろうと司令は思った。
その時漣が……メイド服を着てやって来た。彼女は司令ではなく副大臣に声を掛けた。
「ご主人様、参りましょう!」
あれ? ……良く見ると、漣だけじゃない。隣に居るのは同じくメイド服を着た朝潮に潮、朧って……真面目な艦娘ばっかりじゃないか?
このメイド服部隊の出現に副大臣は早速、鼻の下がビローンと伸びている。
ただ彼女たちは縁日のような会場の雰囲気に妙にマッチしているのが逆に怖い(笑)
しかし、あの生真面目な朝潮までがメイド服? ……彼女も何となく居心地の悪そうな表情をしている。しかし、そうは言いつつも心底嫌そうでも無い。まぁ、メイド服もフリフリが付いて可愛いタイプだから。女子は好きなのかも知れない。
「ああ、やっぱり君たちは天使だなあ」
心底嬉しそうな副大臣の表情にニコニコしているメイド部隊。なるほど、こういう癒しがあるから彼も美保から離れられないのか。
その朝潮も笑顔になった副大臣を見て何となく嬉しそうだ。おバカ副大臣とはいえ艦娘にとっては人の笑顔はホッとするものなのかも知れない。
「捨てる神あらば……だな? 騒がせたな。じゃあ漣ちゃんたち、行こうか?」
副大臣は漣たちと一緒に屋台へと向かう。
「フッ、まぁアイツも苦労しているからな。このくらいは大目に見てやるか」
そう言うと副長官も「お前たちも適当に食えよ」と言って、広場の人ごみの中に消える。
あとは手を繋いだままの羽黒と司令が残された。よく考えたら、さっきからずっと立っている。
「取りあえず座ろうか」
「はい」
なおも手は繋いだまま、彼らは近くのベンチに腰を掛けた。
いつもの彼なら慌てて手を離しただろう。だが……彼女の手の温もりを感じながら、もし彼女が養子縁組で正式に『娘』になるのであれば別に変に気を遣い過ぎることも無い。むしろ大井にも、そうであったように、しばらく手を繋いでいても良いのかな? と思った。
「あの……」
小さな声で彼女が言う。
「はい?」
司令が羽黒を見ると彼女はジッとこちらを見上げていた。
「済みません私、押しかけのようで」
一途な瞳である。
「いや別に良いよ。武蔵はもっと強引だったぞ」
彼が笑いながら言うと彼女は伏し目がちに言った。
「でも……武蔵さんは武勲もあるし、司令とは面識もあって当然というか」
その言葉に司令は応える。
「親子には特別な条件なんか要らないよ。今回も君が私を選んでくれたんだろう? 別に打算とか計算じゃなくて」
「……はい」
羽黒は緊張しているのか、手がかすかに汗ばんで震えているようだった。
司令はギュッと強く手を握り返す。羽黒はちょっと緊張した。彼は続けた。
「親子関係は理屈じゃない。自分が良いと感じたら、それだけで良い。少なくとも『美保家』ではそうだよ」
「はい」
やや沈黙。屋台の前を行き交う人々。浴衣を着た美保鎮守府の艦娘だけでなく一般のゲストも多いようだ。
そこから浮いたように二人はずっと手を握っていた。ただ徐々に羽黒の緊張は解けているようで手の震えは収まった。
その時、二人の前を大井親子が通りかかった。彼女たちは浴衣を着ている。ただこの状況に一瞬、張り詰める空気。再び緊張する羽黒。
そんな大井は司令に何かを言いかけた。しかし羽黒と司令の二人の姿を見ると何かを悟ったのだろうか? ニッコリ微笑むと何も言わずに会釈をして通り過ぎた。大人の余裕?
伊吹は相変わらずのポーカーフェイスだが軽く会釈をして慌てて母親の後を追いかけていく。
彼女たちの後ろ姿を見ながら羽黒は言った。
「あれが復活された大井さんですね」
「知っているのか?……ああ、本省ならそういう情報も持っているか」
「はい。ただ個人的にも彼女には興味というか関心がありますので」
やがて思い出したように彼女は口を開く。
「……私たち艦娘にとって人は立場以前に奉仕し支えるべき存在なんです」
司令が改めて羽黒を見ると彼女は真剣な表情だった。
「そう? ……なんだ」
「はい」
まだ手は繋いでいる。すると一瞬彼女の手が硬直すると同時に芯のある声が響いた。
「おお、ここに居たのか?」
見ると金城提督が金剛を引き連れてやって来ていた。彼も作務衣を着てラフな格好だ。
「お……羽黒か?」
彼に呼びかけられた羽黒は軽く会釈をした。
司令は提督の隣の金剛を見た。浴衣を着た彼女はまたキレイだな。彼は聞いた。
「金剛さんは、もう大丈夫なんですか?」
すると本人がブイサインをして応える。
「大丈夫……と言いたいところだけどネ、まだ本調子じゃないんだヨ。だけどdarling独りだと、いろいろ大変だから……」
提督もそれを聞いて応える。
「せっかくイベントやっているのに病室で独り居残りじゃ可哀相だしな。まぁ絶対安静でもないしコイツだって少しは出歩いた方が良いだろう? 浴衣も美保の金剛が貸してくれたからな」
司令も微笑んで頷く。
「そうですね」
その時、提督は何かを思い出したように言った。
「そうだ……さっきも言ったが、鎮守府ってのは飛び道具だけじゃダメってこと分かるよな?」
「はい」
司令が頷くと羽黒も合わせて頷いている。
提督は続ける。
「これは提案だが、近接戦の鍛錬だが、あれに真剣に取り組んでも良いんだぞ。ブルネイから『教官』を派遣しても良い」
「近接戦……」
司令が反復する。
すると急に羽黒が敏感に反応した。
「ブルネイの金城提督ですね。お噂は聞いて居ります……その……仰るアイデアはとても素敵です!」
「そうか?」
いきなり羽黒に言われて彼もちょっと驚いている。
彼女は隣の司令を向いて言う。
「美保司令、この提案は、ぜひ受けるべきだと思いますよ」
「え?」
ちょっと意外な司令。
彼女は再び提督を見て饒舌に語りだす。
「金城提督、ご存知のように美保鎮守府の弱い点は、まさにそこです。もちろん拠点によって得手不得手はありますが……でも私からも是非ご検討頂ければ嬉しいです!」
普段大人しい羽黒からの意外な反応には司令も提督も驚き放しだった。
ただ彼女の観点は的確だった。提督は大きく頷いた。
「美保司令、彼女の言う通りだろ? まぁ無理強いはしないが検討しておいてくれ」
そして彼は羽黒を見た。
「羽黒、お前も実は、なかなかだな?」
問われた彼女は急に恥ずかしそうに下を向いて「いえ……」と応えた。
「じゃあな」
提督は、そのまま軽く手を上げて金剛と腕を組んで立ち去って行った。
そしてベンチの二人は沈黙。
司令がふと羽黒を見ると彼女はボーっと脱力したようになっていた。
「大丈夫か?」
思わず声を掛けるとハッとしたように我に返る。
「す、済みません! 出しゃばったマネをしました!」
握っていた手を離して両手で頬を押さえながら、何度も頭を下げる羽黒。可愛いぞ。
「良いよ別に……でも的確な美保の分析だったな。司令として反省したよ」
彼ががそう言っても彼女は何度もその場で頭を下げる。そのたびに彼女のサラサラの黒髪が小さく揺れる。そして女性らしい甘い香りが辺りに漂う。『うわっ』という感じで、ちょっとドキドキする司令……参るなぁと彼は内心思った。
少し落ち着いた羽黒は、ようやく頭を下げるのを止めた。そして自分から語りだす。
「これはその……副長官の受け売りです」
「副長官?」
彼が羽黒を見ると、彼女もまた彼の顔を見詰めて答えた。
「はい……副長官は普段からキツイこと仰いますが心中では美保鎮守府のこと、いつも心配されてます。だから……私もこの鎮守府が他人事だと思えないのです」
あ、そうか……と司令は思った。曲がりなりにも副長官は義理の妹である。もちろん軍人として私情を挟むことはよろしくは無いが、感情を持つ姉妹であれば致し方ないだろう。
「それに……」
羽黒は恥ずかしそうに下を向いて言った。
「日向さんの変化に最初気付いたのは私で……それを武蔵さんに教えたら彼女が急に動き出して……あの私、それも心配だったので美保には絶対に行かなきゃって……」
急に砕けてきた彼女、頬も赤みが帯びる。良いねえ。
ただ、それを聞いて妙に納得した司令。武蔵と羽黒らしい挙動だよな……と。
その彼女は、両手を軽く組んで口元に添えながら言った。
「でもやっぱり今日、司令に養子のことをお伝えして良かったです。本当に日向さんの言う通り、お話しただけでも心がとても落ち着いてきましたから」
「そう?」
「はい……親子って良いものなのですね」
そう言って彼女は初めて安堵した表情を見せる。肩の力が抜けたような素朴で壁が無い笑顔……そうか、これが親子関係か。
だから羽黒はずっと甘い香りが漂う至近距離に居るのだが司令も余りドキドキしない。
ナチュラルに微笑んでいる羽黒に彼は改めて言った。
「そうだな、親子は良いよ」
「はい」
「書類も直ぐに出すよ」
「宜しくお願いします」
そんなやり取りをしつつ司令は思わず自分の両親のことを思い出していた。
自分の親も今夜のイベントに誘った方が良かったかな? でもバタバタしていて連絡どころじゃなかった。
「タケちゃん」
『!』
いきなり背後から自分の名前を呼ばれて驚く司令。
「タケ……ちゃん?」
羽黒も司令の名前を反復しながら振り返る。
「何かのコードネームですか?」
コードって……彼が苦笑して振り返ると、そこには副司令と司令の母親が立っていた。二人は微笑んでいた。
「あっ、母さん?」
司令は慌てて立ち上がった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。