「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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意外なほど大盛況だった臨時イベントも無事に終了した。そこでも様々な『事後処理』が必要になるのだった。


第56話:『漂う余韻と縁』

「組織的にやるだけじゃ回らない事も多いさ」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

第56話:『漂う余韻と縁』

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 花火もフィナーレを迎えた。会場も盛り上がっている。

 

 だが司令はベンチに腰を掛けながら呟く。

「正直、何がメインなのか、よく分からない祭りだな」

『……』

当然、日向も羽黒もノーコメントだ。はなから回答は期待していない。

 

 だが腕を組んで仁王立ちしている武蔵が半身振り返って言った。

「何だ? 祭りの意義付けなんて後付けで良いのさ。そうだな、さしづめ『日本海海戦料理記念祭』辺りでどうかな?」

「なるほど」

 

 さすが武蔵くらいの艦娘になると判断力、頭の回転、どれも一流だ。まさに『別格』。こういう艦娘を迎えるくらいの鎮守府になりたいと司令はふと思うのだった。

 

 武蔵は再び正面を向いた。ちょうど花火は終わって、夜の美保湾には祭りの後の余韻が漂っている。会場の艦娘たちは隊列を組んで戻り始め会場の司会を担当していた黒潮たちはイベントの終了と帰る人たちへの注意を呼びかけている。

 

 武蔵は言った。

「無理に私を迎えようと思うな……各拠点には器というものがある。大なり小なり適材適所で良い」

 

 腕を組んだまま再び振り返る武蔵。

「外部からこの広場にゲストがたくさん来ただろう。軍用車を出すとか、タクシーを手配するとか、帰りの脚を確保しろ。取り急ぎ司会にも案内させた方が良いな」

 

 矢継ぎ早に意見を出す武蔵。司令は頷いて副司令を呼んだ。彼女は直ぐに朝潮や霞に武蔵が言った通りの指示を出す。

 

 直ぐに千歳と千代田が軍用車を出す。営業ではないので無料だ。場所は事前にある程度聞いておいて、荷台に便乗する駆逐艦から逐一、希望する降り口を聞いて対応することにした。

 

「外部のゲストと言っても、ほとんど徒歩でしょうから。あまり遠くには行かないと思います」

 これは出発前の千歳の報告。

 

 ある程度、会場の指示を出した後で、司令はいったん執務室へ戻ることにした。すると日向が言う。

「パパ、残務整理、私も手伝おうか」

「ああ……頼む。あと……パパは止めろ」

「うん」

 

 ダメだ……この『いつも』と違う日向には強烈な『破壊力』がある。司令は『ぶりっ子日向』の『愛娘攻撃』に翻弄されっ放しだった。

 

 ただ不思議とそれは司令にも楽しい感覚があった。何だろうか?実の娘である早苗とは、また違った魅力が光る。それは恐らく早苗よりも遥かに齢(運用年数)を重ねている第一世代の艦娘独特の経験値だろう。

 

 2階に上がると執務室ではなく作戦指令室に入った。そこでは大淀さんと寛代が無線機を駆使して祭りの後の采配を振るっていた。そこの作戦ボードには手書きで『お客さん移動』とか『屋台』『タクシー』いろいろ殴り書きしてある。

 

 機転を利かせた日向が言う。

「そのボード周り、私がやりましょう」

 

「助かります!」

 大淀さんが受話器を置きながら日向に応えた後、司令に向き直って言う。

 

「司令、軍用車でピストンを掛けていますが台数が少ないのと、一部、高齢者が居られますので、全員乗り切れて居ません」

 

 続けて寛代もボソボソと言う。

「タクシーが何台か着ているけど、さっきからタクシー屋さんから、何台か廻そうかと聞いてきているよ」

 

 司令は応える。

「その問い合わせのあったタクシー業者に言って大型タクシーを何台か借り切ってくれ」

 

「了解」

 寛代は手先で敬礼すると直ぐにインカム越しに外線に接続してタクシー会社に連絡を入れ始める。

 

「あと……」

大淀さんがメモを片手に報告する。

 

「地元の『屋台を取り仕切る業者』と名乗る団体から打診が……」

「は?」

 司令には何の話か理解出来なかった。すると誰かが司令室をノックして入ってきた。金城提督だった。

 

「おお、大盛況だったな……で、多分、怪しい系の団体から屋台について問い合わせがあっただろう?」

「そうですね」

 良く知っているなと思いつつ司令は応える。

 

 彼は続けた。

「こういうイベントを定期的にやると連中にとっちゃビジネスチャンスの種だからな。妙な連中が声掛けて来るんだ……お前、こういう世界は疎いだろう?」

「ええ……まぁ」

 

 提督は司令の言葉に頷きながら言う。

「オレは、そういう関係の知り合いが本土……日本にも何人かいる。いちいち軍を通すわけにゃ行かない世界だが時には潤滑油になるような連中だ。良かったら口を利いてやるぜ」

 

 司令はホッとした。

「ああ、それは……助かります」

 

 蛇の道は蛇だなと彼は思った。クソ真面目な美保司令には分からない世界。こういうアドバイスが無ければ、祭りの屋台についても杓子定規にシャットアウトして地元と無用の火種を残していただろう。

彼は手近な電話であちこち連絡を取り始めている。逐一、メモが大淀さんに手渡される。

 

「なかなか奥が深いですね」

思わず司令が言うと、提督は笑った。

 

「何事も経験だよな。実際ブルネイじゃ軍務以外の稼ぎも大きくてな……あ、これはオフレコで頼むぜ」

 その言葉に大淀さんや寛代も笑っていた。そういえば彼女たちも今回は『お祭り』という本来の業務ではないにも拘らず、良くやってくれている。

 

 提督は呟くように言う。

「軍隊ってのは地方に行くほど、やることが増える。ただドンパチばかりやってりゃ収まるってモンじゃない。そこは身体で覚えるしかない」

「はい」

 

 司令だけでなく、その場の艦娘たちも神妙に聞いている。

「ただ軍隊組織のキャパもある。ウチみたいに大きければいろいろ出来るが美保は小さいからな。背丈に合ったやり方でいいさ。オレも可能な限り援助するぜ」

 

 ちょっと胸が熱いもので一杯になる司令だった。

「ありがとう……ございます」

 

 彼は思わず両手を差し出した。二人は握手をした。

 

提督も握手をしながら言った。

「まあ、互いに遠いがコレも何かの縁だ」

「はい」

 

 ……縁か。それは不思議なものだと司令は思った。

 

 提督は手を放しながら言う。

「鎮守府も杓子定規にやるだけじゃ回らない事も多いさ」

 

 今でこそ司令官の位置にいる美保も元々は父親に反抗して軍人になる積りはなかった。ただ戦時下であれば選択肢は限られてくる。

 

 結局は軍の道を選ぶが、それでも、せめてもの反抗だと空軍だけは拒否した。

 そして海軍……それがいつしか艦娘という海軍でも特殊な部隊の指揮官になった。さらに元帥閣下の仲立ちで艦娘とケッコン……。

 

 おまけに十数年前には海外演習の際に未来のブルネイへタイムスリップ。それが再び、こうして自分の故郷で彼らと再会していることも不思議だ。

 

 暫く電話を掛けていた提督は、一段落ついたようだ。「ほう」っと受話器を置いて言う。

「どんな小さな出会いでも大切にして置けよ。オレも若い頃からハチャメチャやったが、その縁がこうして意外なところで役に立つ。本当に悪い人間なんて滅多に居ない……あ、いや」

 

 そこまで言って彼は苦笑する。

「良く分からんが軍人……特に艦娘の周りには悪い奴も多い。むしろ屋台の連中の方が根は良い奴らが多いな」

「はあ」

 この辺りになると美保司令には謎の世界だ。

 

 だが提督はニヤニヤして言った。

「あのジイさんだって限りなくグレーだからな、注意しとけ」

 

「ははは」

 司令も取りあえず笑ったが、それは徐々に分かるような気がしてきた。ただ上に立つ者は清濁あわせ飲む覚悟は不可欠なのだろう。

 

「じゃ、オレはそろそろ宿所に引っ込むよ。嫁も待っているしな」

 提督は軽く手を上げて退出した。

 

 彼の出た後で大淀さんが言う。

「最初は怖い人かと思ったのですが、意外とそうでもないですね」

その言葉に寛代も頷いている。

 

 日向も作戦ボードの前で言う。

「彼の言う通り……私も中央に出て悪い人が少なくないという感覚は分かる。それに影響されて性格が歪んでしまう艦娘が少なくないんだ」

 

「そうか」

 シリアスな話だが、それは艦娘だけというより人間社会でもあり得る事だ。

 

「あと司令、もう一つご報告があります」

思い出したように大淀さんが言う。

 

「何だろうか?」

司令が聞くと彼女はやや困惑した表情で言う。

 

「ウチで出した屋台は基本的に無料でしたが、どうしても支払うと仰る方が多くて……結構な金額が集まってしまいましたが」

 

 一瞬考えて彼は答えた。

「分かった。それはまとめて福祉協議会と赤十字に寄付してくれ」

「了解しました」

 

 なるほど……人が集まるところには、お金も集まるか。金城提督の言う通りだなと司令は思うのだった。

 

 指令室のドアを開けて副司令が入ってきた。彼女は司令の前で敬礼をして報告をする。

「司令、会場に残っていた一般客は全員、乗車完了しました。あとは軍関係者が残るのみで、念のため哨戒班に継続して警戒とチェックはさせています。会場の撤収もあと20分もあれば終わります」

 

「分かった。ご苦労」

 司令も敬礼をする。

 

『失礼します』

 ドアをノックして、夜の当番が入ってきた。大淀2号と朧だった。

 

「あれ? 朧はさっきコスプレ……」

 司令が突っ込むと彼女は少し恥ずかしそうな顔をする。

 

「はい……でも、大丈夫です。仮眠も取りましたし、大淀さん(2号)も今夜は問題ないでしょうって」

『……』

 司令夫妻は何とも言えなかった。まあ、この子も好きなんだなぁと思うばかりだった。

 

 気を取り直したように副司令は言う。

「大体目処は立ったので私たちは上がりますが……そうだ、横須賀のメンバーもうちに来たがっているのですね、司令?」

 

「あ、そうだった」

 彼は頭をかいた。

 

 副司令は軽く頷いて言う。

「では神通に指示、M-ATVをもう一台出して、そこに横須賀の3名を乗せて下さい」

 

 それを聞いた日向。

「あのマ……いえ、副司令?」

 

こいつめ、明らかに『ママ』と言いかけたな。

 

「何か?」

 祥高は振り返る。

 

 日向にしては珍しく少し言い難そうな表情で申告する。

「よろしければ……私、ご夫妻と同じ車で帰りたいです」

 

「……」

 少し考えた祥高は頷いた。

 

「分かりました日向さん。私たちは電チャンの運転のM-ATVで戻りますから同行して下さい」

 

「はい」

 急に表情が明るくなる日向。

 

 航空戦艦とはいえ、前線では主力クラスの日向が、妙に素直な姿というのも不思議な感覚だ。ただ彼女はあの扶桑・山城姉妹の系列だよな……根は似ているに違いない。

 

 指令室では日勤と夜勤が引継ぎをしている。ちょうどそこへ司令夫妻の警備隊が来る。曙と響だった。

「あれ……曙は警備は交代するんじゃないのか?」

 

 だが彼女は少し赤い顔をして、うつむき加減に言い放つ。

「うるさいクソ提督!」

 

 決して大声でもなく刺々しくも無い彼女の台詞に日向も含めその場の全員が苦笑する。

 

 響も言う。

「相変わらず……素直じゃないよね」

「うっさい!」

 

 そう言いながら曙は、もっと真っ赤になる。事情はどうであれ、これがいつもの曙の『ノー・プロブレム』な反応なのだ。

 

 そこへドアをノックして電ちゃんが来る。

「お迎えに上がりました……神通さんは下で待機。武蔵さんと羽黒さんも準備を終えて先ほど車庫へ向かいました」

 

「ありがとう。あ、そっか……」

 祥高は彼女の報告を受けると何かを思い出したように言う。

 

「警備班が居るから電チャンに私たちに日向と……1号車は定員ギリギリね」

 

 司令も確認するように言う。

「2号車が確か神通と武蔵と羽黒だよな」

 

 すると響が手を上げる。

「何なら私が2号車に乗るよ」

 

するとホッとしたような表情で振り返る祥高。

「そう? ありがとう。それで、お願いするわ」

「了解」

 

 響は敬礼する。なお、この美保の響は、まだ『改』である。

 

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。
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