「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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夜遅くなっては居たが、司令の自宅で入浴することになる。そこで、いろいろと事件が。


第58話:『ゴメンなさい、お父さん』(改1.2)

「娘……早苗が良いなら私だって」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

第58話:『ゴメンなさい、お父さん』(改1.2)

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「あの……司令官」

 食卓のイスに腰を掛けた羽黒がモジモジしながら手を上げる。

 

「個人的な質問を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

「良いよ」

 司令は上着を脱いでソファでリラックスしている。

 

「あの、司令官は、その……」

 羽黒は、なかなか本題に入らない。何となく彼女のスローテンポ振りに武蔵が少しイラついているようで、そのこめかみに青筋が入ってきた。

 

「えっと……副司令と、その……」

 羽黒は既に勝手に赤くなっている。

 

 ちょうどその時、エプロンをした祥高(副司令)と娘の早苗がお茶を持ってきた。

「お茶が入りましたよ」

 

「……」

 祥高の姿を見た途端、急に制止してしまった羽黒。それを見た司令は羽黒って、触ると頭を下げるオジギソウみたいだなと思った。

 

 堪りかねたように日向が何かを悟ったように口を聞く。

「パパとママは、お見合いでケッコンしたと聞いたが本当か?」

 

『パパ?』

 武蔵と曙が同時に復唱して妙な顔をした。

 

 直ぐに豪快に笑い飛ばしたのは武蔵の方。

「あっはっは、日向が『パパ』か? それも良いなあ!」

 

(パパ?)

 小声でパパを復唱し呟いている曙。妙に困惑した表情だ。

 

 お茶を配りながら祥高は言う。

「良く知っているわね。そう、私たちは、お見合いよ」

 

 すると響が確認するように言う。

「でも祥高は司令が来る前からずっと美保に居たよね。その後からかい?」

 

「そう。私たちの場合は元帥閣下の推薦だったのよ」

「へえ、あの元帥が」

 相槌を打ったのは響。

 

「え? 響は元帥を知っているのか?」

 驚いたように質問する曙。

 

 すると珍しく笑顔を見せる響。

「まさか……噂で聞いただけだよ」

 

それを聞いた曙は、なぜかホッとしたような表情を見せる。

 

 そう、艦娘たちにとっても元帥閣下は雲の上の存在であり、三笠に至っては『神様』のような存在だろう。もちろん齢を重ねた彼らが美保鎮守府に来ることは、まずあり得ない。

 

 眼鏡を軽く持ち上げながら部屋を見回して武蔵が言う。

「ケッコンすると官舎に入れるって聞くが、なるほどねえ」

 

 羽黒も続く。

「中央でも民間の住宅は家賃が高いですからね。官舎って人気が高いですね」

 

 日向も呟くように言う。

「美保に海軍の官舎があったなんて知らなかったな……ケッコンなんて考えても見ないから気にもしていなかったが」

 

 司令が説明する。

「そうだな……日向が居た頃はまだ官舎はなかったよ」

 

『へえ』という表情で司令を見る日向。

 

 司令は続ける。

「結局、私たちのケッコンを機に整備されたが、敷地については二転三転した挙句に防衛上や法律の関係で美保空軍の敷地の一部を借りることで収まったんだ」

 

「なるほど」

こういう話題は武蔵が詳しそうだ。案の定、彼女が補足するように言う。

 

「私が聞いた噂では美保鎮守府が空軍と良好な関係を保っていたことと、親父の父上……私から見ればお爺様が空軍のエースパイロットだったという事も大きいとか?」

 

司令は苦笑する。

「まあ噂だが……そういう影響もあるだろうな。このときばかりは父親の威光に感謝したね」

 

 ずっと様子を伺っていたらしい曙がようやく口を開いた。

「あの……大井は、その後に入ったのかな?」

 

司令は曙を振り返る。彼女は一瞬、ドギマギしたような戸惑いの表情を見せる。 

「そうだね。彼女たちは……まあ、いろいろあったけど。幸い官舎も空きがあったし、個人的にはホッとしたね」

 

「……」

 曙は少し困惑した表情を見せた。大井の件は複雑だから分からないのかも知れない。

 

 羽黒も、ようやく口を開いた。

「でも祥高さんは美保に来る以前は横須賀にいらしたんですよね?」

 

問いかけられた祥高は微笑む。

「そうね。でもそれは美保鎮守府が開設される前だから、かなり前の話ね」

 

 すると日向が言う。

「しかし横須賀でも古くからの艦娘や古参の士官たちはママのことを良く知っている者が多いようだ」

 

(ママ……)

 曙は、どうもこの類の言葉に引っ掛かるらしい。小声で呟いている。

その反応を少し気にしている早苗。

 

「では元帥閣下とは、その当時からの知り合いなのか?」

意外な響の問い掛けに彼女は頷いた。

 

「そうね。知り合いと言うか……」

なぜか少しお茶を濁したような反応を見せる祥高。彼女は話題を逸らすように時計を見てから司令に言った。

 

「今夜はちょっと遅いですが司令、お風呂……どうされますか?」

「入りたいね」

彼は即答した。それを受けてフッと顔を上げる祥高。彼女と目が合うと同時に無言で手を上げている響。

 

 祥高は意味ありげに軽く頷くと響の方を見ながら言った。

「本当は22時以降の入浴は司令お一人だけという決まりですが今夜は特別に許可しましょうか」

 

「そうだね、それが良い」

ませた口調で立ち上がる響。

 

 すると彼女の行動に合わせたように一部の艦娘が反応する。

 

『あ……』

 この『あ』は複数の艦娘が発した。見るともう一人……いや二人の艦娘が手を上げていたのだ。

 

その状況を見て慌てた祥高。

「お二人の気持ちは嬉しいのですが……武蔵さんと日向さんは、その……ダメですよ」

 

「何だ? お風呂に入るんだろう? 親子水入らずで良いじゃないか」

「……同意見だ。私は抵抗がない」

武蔵と日向が、やや迫り気味に言う。

 

 少し深呼吸をしてから説明をする祥高。

「我が家では『決まり』があって、司令と一緒に入浴出来るのは原則、駆逐艦までとなっていますから」

 

 断定された返答に残念そうな武蔵。

「では……戦艦はダメなのか?」

「ダメです」

「固いなあ」

「そういう問題ではありません」

 

「でも……」

 一呼吸おいて日向が聞く。

 

「司令と艦娘……その駆逐艦が入ること自体は問題ないのか?」

 

祥高は振り向く。

「響は『娘』ですから。それにうちは早苗も居ましたから主人(司令)には同じ『娘』という意識しかありません。大丈夫ですよ」

 

 腕を組んでいる日向。

「ふーん」

 

すると武蔵が執念深く突っ込む。

「娘……早苗が良いなら私だって」

 

それに慌てて手を振って否定する祥高。

「いえ、今のは早苗が小さい頃の話です。さすがに今は早苗とは一緒に入りません!」

 

「でも今夜は響だけ? 単独でも良いのか?」

 何かを言わんとする日向に祥高は応える。

 

「ええ。司令と駆逐艦娘は一対一では入れない決まりもありますから……」

 そこで全員の目が曙に集中する。当然、目を見開いて真っ赤になる曙。

 

 響が淡々と問いかける。

「そういえば曙は司令とは初めてか?」

「……」

「曙も司令の『娘』だったよね?」

「……」

 

確認するような響の問いかけに何も答えない曙。

 

 その姿を見ていた祥高は少しため息をついてから言った。

「良いわよ曙。抵抗があるなら私が響と入るから」

 

そういって響の肩に手を置く祥高。司令もゆっくりと立ち上がる。

 

 祥高は改めて補足する。

「我が家の『お風呂のお約束』と言う事項があります。一部ですが……

・司令と一対一では入らない、必ず二対一以上にすること。

・駆逐艦に限定すること。かつ副司令の許可を得た者に限定。

・司令の自宅警護のときだけに限定。他の場所では一切禁止。

・夜22時以降は禁止。朝風呂も禁止

……最後の事項については私の判断で適宜許可を出します。今夜みたいに皆さんいらっしゃる場合は安心ですね」

 

 なるほど、そういうしきたりがあるのかと横須賀メンバーが思った瞬間だった。

 

「あの……」

比較的大声で叫ぶように言葉を発した曙に全員が再び注目した。

 

 祥高がニコニコして彼女の顔を見る。視線が合った曙は、ぎこちなく言った。

「大丈夫……入られますから」

 

変な日本語……明らかに動揺している曙だったが彼女の言葉に全員、安堵した雰囲気になる。

そして一番ホッとしていたのが早苗だった。

 

 祥高は改めて聞く。

「着替えはある? 準備するように伝達は……」

 

「はい! あります!」

 慌てたように返事をする曙。顔は真っ赤なままだが、少し観念したような表情に変わった。

 

「ほら、行くよ」

響がいつもの淡々とした声で曙の手を取った。一瞬、ドキッとしたような曙だったが引かれるままに響と一緒に浴室へと向かう。

 

「じゃ、ちょっとだけ失礼するよ」

司令も彼女たちと共に奥へ消える。

 

 武蔵は腕を組みながら言う。

「何だ、ここには、そういう流れがあるのだな」

 

彼女は日向と目を合わせて互いに頷き合っている。ただ羽黒は、美保司令宅の『イベント』には少々理解出来ないような表情を見せていた。

 

「駆逐艦でも大きい子も居るが、どういう区分けになるのだ?」

武蔵が興味津々と言った表情で祥高に聞く。

 

「基本的には駆逐艦限定ですが、私が許可を出した者に限定しています。だから夕立とか大きい子はダメです」

そう言いつつ彼女は苦笑する。

 

 その時、奥の方から『キャッキャ』と言う声が聞こえてきた。あの響か? いや、まさか曙か? いずれにしても艦娘たちにとっても『パパ』との入浴は楽しいのだろうと想像できた。

 

 祥高は続ける。

「駆逐艦と言えば時雨……あの子、養子になってから急に『若返った』んですよ」

 

「え?」

反応がいいのは武蔵。ただ他の艦娘たちも驚いている。同時に横須賀メンバーは美保の時雨を連想する。確かに、ここの時雨はちょっと幼い感じがした。

【挿絵表示】

 

 

 祥高は続ける。

「私も『まさか』と思いました。信じられない状況で彼女も最初、スパイかと疑われましたが……どう調べても同一人物です。結局、あの子は司令には心を開いたのでしょうね。私も、時雨なりに司令を慕ってくれているのだと理解しました。だから、あの子にだけは例外的に司令との入浴を許可しました」

 

武蔵が感心する。

「なるほど……一途な思いは艦娘の身体構造をも変えるのか?」

 

日向がまた聞く。

「戦艦は仕方ないとしても重巡や軽巡も時には小さい子は居るが……やはりダメか?」

 

 祥高は応える。

「軽巡までなら許可を出す場合もあります。ただ司令と入浴するのは、あくまでも護衛のためですから自宅警護の場合に限定です。それにもし人数が合わなければ私が入りますから……結局、今まで駆逐艦以外が司令と入浴したことは一度もありませんね」

 

なぜかその回答に妙に落胆した表情を見せる武蔵と日向。

 

 すると祥高は微笑む。

「でも私でよろしければ、お二人……いえ、羽黒さんも一緒に入りますか?」

 

 顔を見合わせる二人。当然……。

「え? あの……私も?」

 

 自分を指差して、あたふたしている羽黒。少しばかり髪の毛が逆立っているようだ。

 

 彼女を見た祥高は微笑む。

「無理に、とは言わないわ。でも我が家のお風呂は改造してあるから入渠と同じ効果も得られるの。それに一般の家庭より広く作り直して貰ったから、ゆったり入れるわ」

 

「おお! それは良い!」

「ぜひ……お願いする」

 武蔵と日向は即答。そして二人はほぼ、同時に羽黒を見た。

 

「はひ!」

両手を握り締めて固くなっている羽黒。

 

 まずは武蔵からの先制攻撃。

「何、ぶりっ子しちゃってるんだ? 今さら遠慮する仲でもあるまい」

 

「は……」

この慌て振りは羽黒らしい。

 

 続いて日向が突っ込む。

「最前線に出たら近くに居る僚艦とのチームワークは大切だ。戦艦2隻に重巡なら、一つになれば相当な攻撃力及び、防御力が期待できるが?」

 

 この妙な説得というか、解説じみた説明に早苗は苦笑している。

 

 その時、奥からパタパタという駆け足と共に寛代が出て来て祥高に言った。

「大変……曙がフロで引っくり返ってる」

 

「ええ?」

驚いた祥高は直ぐに風呂場へ向かう。直ぐに他の艦娘たちも続いた……と言っても官舎なので、あっという間に浴室前の廊下は艦娘で溢れた。

 

 そこには半分、扉を開けて司令が顔を出していたが、艦娘たちが来たので慌てて身を隠すようにした。でも取り敢えず目を背けたのは羽黒だけだったが。

 

 祥高が司令に問いかける。

「どうしましたか?」

 

「うん、曙が『のぼせた』ようだ」

それを聞いて浴室に集った面々は、安堵した。

 

 祥高は振り返って言う。

「早苗は冷たいものを用意して……寛代ちゃんはタオルと着替えを。あと羽黒さん、曙を寝室へ運びますから、ちょっと手伝って下さい」

 

「は、はい」

彼女の指示で、テキパキと動き出す艦娘たち。この一糸乱れぬ様は、さすが軍隊である。

 

 祥高は風呂の扉を開ける前に聞く。

「司令は、もう上がりますか?」

「ああ……響と百まで数えたら」

 

 祥高は微笑んで言う。

「分かりました……では羽黒が卒倒するといけませんから一旦、湯船に入って羽黒の視線から退避して下さい」

「分かった」

 

 扉から司令が響と共に湯船に入ったことを確認した祥高は羽黒と二人で浴室に入った。そこに、うずくまっていた曙を連れ出す。湯船では響がブツブツとカウントダウンをしていた。

 

 その雰囲気に武蔵と日向は思わず微笑んだ。美保鎮守府のまた違った『強さ』と『優しさ』を垣間見たような気がしたのだ。

 

「羽黒さん、そのままゆっくり後退して、そう、そこの扉です」

 祥高の指示で二人は寝室へ入る。

 

「寛代ちゃん、バスタオルと着替えを」

「……」

 廊下で待っていた寛代も寝室に入る。

 

「私たちは戻ろうか」

「はい」

 武蔵たちは居間へと戻る。

 

 さて……曙が気付くと、いつの間にか寝巻きを着て布団に横たわっていた。少しアタマが痛むなと彼女は思った。

 

「気付いた?」

 ふと見ると、薄暗い中に早苗が居た。

 

「あの……えっと」

 曙が上体を起こすと、まだアタマがズキズキする。

 

「良いのよ、無理しなくて」

 早苗が曙を制止する。

 

「いえ……その、失礼しました」

 徐々に……自分がお風呂で倒れたことを思い出した。そこへ寛代が入って来る。

 

「……」

「ウン大丈夫みたい」

 ジェスチャーゲームのような二人のやり取りだが寛代の意図は早苗に伝わる。彼女はお盆の水を受け取る。

 

「曙さん、お水飲む?」

 曙は早苗から差し出された水を口に含んだ。ちょっと落ち着いた。

 

 何処かから艦娘の笑い声が響いてくる。あれは……多分、入浴しているんだ。

 そう思うと彼女はクソ提督に謝らなくちゃと言う気持ちが湧いてきた。ただ、体が言うことをきかない。

 

「ちょっと明るくする?」

 早苗は立ち上がって部屋の照明を調整した。ボンヤリと明るくなる。寛代もそれに合わせてすっと部屋を出た。

 

 何気なく曙がその後姿を目で追っていると早苗が言った。

「緊張していたのよね……ゴメンネ。私も、もっと注意すれば良かった」

 

「いえ、そんな」

思わず否定する曙。確かに緊張はしていたが……何よりもクソ提督の自宅で、しかもお風呂に入っている最中に引っ繰り返ったと言うのが恥ずかしかった。

 

これが他の誰かに知られたら笑いものだなと思うと、それも嫌だった。

 

「ダメダメ」

 いきなり否定されて驚いた。

 

「ホラ? 今、『嫌だな』って思って緊張したでしょ?」

「あ……」

早苗の言葉に、よく分かっているなと驚く曙。

 

「もっとリラックスして良いのよ。母も言っていたけど、ここは鎮守府じゃないから」

「はい……」

 

 そのときだった。

「良いかな? 入るよ」

 

 司令だった。トレーニングシャツのようなラフな格好……そうかクソ提督の寝巻き姿だ。彼のいつも見ないカッコウに新鮮さを覚えた曙。

 

 司令は曙の傍らから少し離れた畳……早苗の近くに腰を掛けた。

「悪かったな」

 

「いえ……」

 否定しながらも曙は自分の醜態はおろか失神している裸体をクソ提督に晒したと言う妙な恥ずかしさが襲って来た。その様子を悟ったのか早苗がソッと曙の手を握った。

 

 その手の暖かさに驚くと同時に思わずビクッと反応してしまう彼女。

 

「……」

 無言で曙を見詰めている早苗。

 

 それを見た司令は静かに言った。

「気にしているのか? 私は誰にも言わないし響も横須賀メンバーも……寛代も早苗も誰にも言わないから安心しろ。電チャンや神通だって口は堅いだろう?」

 

曙は頷く。それを見ている早苗も頷いている。

 

 司令は続ける。

「お前も私の娘になったのなら……艦娘同士で仲良くなって欲しい。それが私の願いだよ」

 

 それを聞いた曙の目から、なぜか涙が出て来た。彼女自身それは不思議な現象だった。

 

司令は半分腰を上げると少し曙に近寄った。しかし曙は逃げなかった。いや、もはや彼女には司令から逃げる理由が無かった。

 

 彼は言った。

「もし、お前が風呂で引っ繰り返ったことが鎮守府の皆に知れたとしても、それを誰かがバカにするんじゃない。むしろ心配し合う事……そういう家族関係を、お前たち同士で作って欲しいなと思うんだ」

 

 ダメだと思うほど曙の目から涙が溢れてくる。『なぜ? こんなことで』

 

さらに司令は半身、身体を近付けて曙に顔を寄せてきた。やはり彼女は逃げなかった。

 

 司令は静かに言った。

「私も不十分だけど……精一杯、お前たちを受け止めたいと思う」

 

もうダメ……そう思った次の瞬間、曙は司令の胸に頭を埋めて泣き始めていた。

 

 いけない! クソ提督に、こんな事をしては……と曙の理性がブレーキを掛ける。

 

 しかし理性を越えた何かが彼女を突き動かしていた。それは彼女自身の中で壁が壊れた瞬間だった。もう良い、この人にすべて委ねよう。

 

 司令の腕にしがみ付く彼女の頭に彼はそっと手を置いた。大きなものに包まれる安心感。

 

 クソ提督って細面で華奢(きゃしゃ)な印象だったが、こんなに大きかったのか?

 そうか『形』にこだわる必要はないんだ。

嗚呼! 何て簡単なことだろうか?

 

 そしてクソ提督、いや自分の父親に全てを委ねたら良い。そう思った瞬間、彼女は自然に言えたのだった。

「ゴメンなさい、お父さん」

「ああ……」

 

 曙もまた初めて感じる『父親の腕』に全てを委ねていた。自分の身近に、こんな場所があったのか。それは母港と呼ぶ以上の何か。目には見えないけれど大切なもの。

 それが人の心の中にもあるのだと艦娘である彼女が初めて悟った瞬間だった。

 

 曙は青葉がよく冗談交じりに話していた『父親の腕』の話を思い出した。その時は他人事のようにしか聞こえなかったけど。そうか、これがそうなんだ。

 そういえばそれを話していた時の青葉は幸せそうな表情だったことを思い出した。

 

 彼女もきっと父親である司令に娘として安心して抱かれたことがあるに違いない。

 

 そんな二人の姿を優しく見守る早苗。直ぐに寛代も後から部屋に入ってきて早苗と目を合わせて微笑んでいた。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。
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