「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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羽黒は複雑な夢を見ていた。そして物語は急展開する。



第60話:『真の防人として』(改2.5)

「羽黒も……好きなんだな」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

第60話:『真の防人として』(改2.5)

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 武蔵や日向は、あっという間に眠りに落ちて行ったようだ。武蔵はやや大きな寝息。日向は生きているか疑うほど静かな寝息だ。

 

 羽黒は枕が替わると眠れないタイプだった。しかしここは鎮守府でも研修所でもない。アットホームな雰囲気……司令の自宅だから当たり前である。

 

『変な緊張感がないから、きっと眠れそうだわ』

 そんなことを思いながら、しばらく薄暗い中で天井を見上げている羽黒。彼女は横須賀所属である。武蔵や日向のように美保司令の養子になる縁はない。

 

 ただフッと彼女たちが羨ましくも思えるから不思議だった。艦娘である彼女にとっては養子とか親子と聞いても、それは単なる符号にしか感じない。

 

 だが日向や武蔵の雰囲気の変化を見ていると、そこにはきっと理屈では捕らえられない何かがあるのだ。それだけは何となく感じられた。

 

 思えば美保司令とは自分の上司である重巡「石見(いわみ)」の縁で出会った。そして彼女の姉(祥高)と司令は結婚している。だから全くの他人という訳でもない。

 

 そんな取りとめのないことをアレコレ考えているうちに自然に眠気がやってきて彼女はスーッと寝入っていた。

 

 その夜、羽黒は久しぶりに夢を見た。気が付くとポカポカとした陽気の下。自分は、お花畑に居た。周りを見るとボンヤリと人影が見えた。

 

 あのシルエットは……ガッシリとした方が武蔵、スリムな方が日向だろう。それは直ぐに分かった。彼女が近づいていくと……あれ?

 

 武蔵が黒っぽい服を着ている。よく見ると、その袖や襟にフリフリが付いてる。これって、もしかしてメイド服? いや、ちょっと違うような……。確か『ゴスロリ』とかいう種類ではないか?

 その隣に居る日向は、もう完全にメイド服だ。しかもピンク色って 嗚呼! 彼女らしくないっ。

 

「あの……お二人の、その服は?」

 羽黒が絶句しながらも振り絞るようにして問いかける。二人に近づくと腕を組んだ武蔵が口を開いた。

 

「おお、羽黒。似合っているな!」

 その言葉に彼女がふと自分の体を見ると驚いたことに自分自身が同じようにピラピラした原色のメイド服を着ていたのだった。

 

「え? なに!」

 慌てる彼女に追い討ちを掛けるように日向が言う。

 

「羽黒も……やっぱり好きなんだな」

「ち、違いますっ!」

 その時、羽黒は『ハッ』として目覚めた。上体を起こした彼女が見ると周りは、もう朝だった。

 

「今のは悪夢?」

 

 彼女は呟きながら気付くと手には、じっとりと汗をかいていた。

『私としたことが、らしくないわね……でも夢で良かった』

 

 そう思いながら彼女が落ち着くと改めて……清々しく感じる朝だった。朝日が差し込むリビングは平和な雰囲気に満ちていた。

 そうか昨夜はきっと敵の襲撃は無かったに違いない。台所に立っているのは副司令だろう。ああ、良かった。彼女は、いつもの海軍の制服を着ている。

 食卓にはもう、寛代と早苗が……あれ?

 

「お早うございます、羽黒さん」

 早苗の言葉に言葉を失う羽黒。

 

 何で二人はメイド服なの?

「ええーっ?!」

 

 さすがの彼女も驚嘆の声を上げる。その瞬間だった。自分の体が激しく揺れた。

 

 ハッと気付くと日向が羽黒の身体を強く揺すっていた。

「……?」

「シッ……静かに」

 

 あれ? まだ暗いんですけど夜なの? ……ていうか今の、二重の夢だったの?

 

 まだボンヤリと、だらしなく口を開けて……危うく、よだれが流れ落ちそうな羽黒。

 だが直ぐに周りの、ただならぬ気配に気付く。

 

「えっと……何か?」

 小声で問い返す彼女に日向は言う。

 

「気をつけて……様子が変だ」

 既に武蔵も上体を起こし、曙は短機関銃を構えている。

 

 え? ……今は何時だろう? 

 

羽黒がそう思った次の瞬間、隣の寝室の窓の外で何か大きな音がした。それは何かが争っているようにも聞こえた。

 

「外だ!」

 武蔵が叫ぶと同時に一斉に部屋の明かりがつく。また屋外から慌ただしいエンジン音が響く……外の音をきっかけに大井宅から装甲車が来たらしい。

 

「皆、伏せろ!」

 武蔵が叫ぶと同時に屋外で機銃を連射する音が聞こえる。その兆弾だろう、バチバチと小石が窓ガラスに弾く音がする。

 直ぐに機銃の音が止み、M-ATVらしき車両が官舎のそばでガードするように急停車する音がした。

 

「様子は分かるか?」

司令の問いかけに、半身身を屈めながらも武蔵が耳を澄ます。

 

「誰かが一対一で闘っているようだが」

 

 すると寛代がタブレットを起動させる。

「川内が敵と戦っている。神通と電が装甲車で支援した」

 

 直ぐにタブレットにビデオ画像が来た。司令が近寄ると周りに居た日向や武蔵も覗き込む。

「M-ATVからの映像か?」

「闘っているのは川内か」

 

 司令が言った直後、ビデオ映像は激しく一騎打ちをする敵と川内を写す。

「この映像は誰が?」

「多分、電チャンが砲座のカメラから撮っているだと思う」

 

 日向は腕を組む。

「川内も、なかなかの剣の使い手だが敵はそれに匹敵するな……さすが暗殺部隊だ」

 

 艦娘にも軍刀や忍び刀を使いこなす手慣れが居る。もちろん鎮守府によってそのメンバーは異なるが横須賀の日向やブルネイの川内はその筆頭である。

 

「とにかく様子を確認しよう、寛代!」

 司令の問いかけに黙って情報を収集し続ける彼女。

 

 やがてボソッと言う。

「大丈夫、あれ以外、近くの敵はいない」

 

 司令は振り返る。

「曙、着いてきてくれ」

「はい!」

 体操服(寝巻き)姿の司令と、やはり寝巻き姿の曙は短機関銃を構えたまま屋外へ出る。

 

 外にはライトを付けたM-ATVと、運転台から様子を見ている神通。電チャンは恐らく車内でリモコンカメラを操作している。

 その前で激しく戦っている二人。ブルネイの川内と敵の暗殺者だ。

 

 この川内は通常の剣の使い手ではなく忍者……隠密行動、いわゆる特殊部隊だ。普通の剣術よりもかなり高度な技量を持っている。ただ今回は、それに匹敵する敵である。

 

 ライトに照らされて闘う二人。時おり激しく火花が散っている。

 

 浴衣のまま腕を組んだ武蔵が司令に近づいて言う。

「敵と……日向と川内では、どっちが強いと思う?」

 

 司令は苦笑した。

「あまり考えたくないですが……」

 

 すると直ぐに武蔵がムッとしたように言う。

「親父!」

「あ、スマンな……私の丁寧語はクセだ」

 司令は口調を詫びた。だが武蔵は微笑んでいる。そんな二人を見て曙は良いなと思うのだった。

 

「なかなか見られない戦いだぞ、これは」

 響が呟く。

 

 少し遅れて制服に着替えた羽黒がやってくる。彼女は目の前の状況に目を見張っている。 

 普段、洋上で砲雷撃戦を主とする艦娘が地上で戦う姿は珍しいだろう。しかも今回は敵と味方、お互いが恐らく特殊部隊だ。表舞台に出ることのない二人である。

 

 羽黒は呟く。

「あの二人……何となく似ていませんか?」

『……』

 実はその場で見ている誰もが感じていた。体型だけでなく雰囲気、剣の腕、全てが似通っている。それがなおさら戦いを長引かせているのだ。

 

「良いか、手出しはするな……」

 思わず口走る司令。この戦いを見ていると誰もがそれに同意するだろう。 

 

 日向が呟く。

「気のせいだろうか……あいつ(敵)はわざと一騎打ちに持ち込んだのではないか?」

 

 短機関銃を下げたままの曙が聞く。

「それは何で? わざわざそうする意味があるの?」

 

 日向は曙を見て言う。

「それはな……剣を扱う者のプライドというか誇りのようなモノだ」

 

「誇り?」

 曙は首を傾げる。

 

すると響が言う。

「それがあるから私たちは闘い続けることができるんだよ」

「……」

 

 二人の会話を見て司令も考えさせられた。果たして自分にはそういった物があるだろうか?

 

 日向が武蔵に言う。

「あの二人、会話していないか?」

「らしいな」

 

 羽黒が驚く。

「え? 会話?」

 

 日向が言う。

「いや、そう見えるだけだ。実際に話しては居ないのだが……真剣に闘う者同士は時に戦いの最中にあっても会話のように互いに意思を通じ合わせることがある」

 

 響が頷く。

「それ……分かるな」

 

 徐々に形勢は川内が有利に傾く。敵は戦闘後に上陸しているから疲労度が違うだろう。

 

 武蔵は言う。

「あいつ(川内)、躊躇してないか?」

 

 日向も無言で見ていたが呟くように応えた。

「いや曲がりなりにも剣士だ。決着は付けるだろう」

 

 やがて勝負はついた。ライトは力なく倒れる敵のシルエットを浮かび上がらせる。

「川内が勝った……」

「何か、納得出来ない表情ね」

 

 そしてM-ATVから砲手の電チャン、続いて神通も降りてきた。

 

 その前の地面に力なく横たわる敵……深海棲艦と、その傍らに刀を持ったまま茫然と立ち尽くすブルネイの川内が居た。

 

 司令は彼女に近寄って声を掛けた。

「ご苦労……どうした?」

 

 ややボーっとしていた彼女は、ハッとしたように振り向くと敬礼をした。

 そして呟くように言う。

「何となく胸騒ぎがした。司令の自宅に侵入しようとしていた敵を、食い止めようとして……でも、なぜ敵は司令を狙ったのか、なぜ私はここに来たのか分からない」

 

 司令に遅れてやってきた浴衣姿の日向は状況を見て言った。

「相手は暗殺者だ。理由なんて分からないものだ、気にするな」

 

 川内は日向を見て軽く頷く。それは剣を扱うものにしか通じない何かだろうか。

 

 同じくパンパンの浴衣姿の武蔵も来て言う。

「どうした川内」

「いえ……何か釈然としなくて」

 

 ゆっくり刀を納めながらも、納得行かない表情の川内だった。

「相手がどこまで本気だったか分からない……私は果たして、これで良かったのか?」

 

 司令は言った。

「だが助かったよ。もし君が早々に気付いていなければ、もっとたくさんの被害が出ていたかもしれない」

「はい」

 その言葉に少しホッとしたような表情を見せる彼女。

 

 だが川内はM-ATVの前に居る美保の神通(改)に近寄った。

「神通……」

「なあに?」

「胸を、貸してくれ」

「良いわよ」

 

 川内は無言で神通の胸に抱きついた。涙は流していないようだが。誰も何も言わなかった。神通も川内の頭にソッと手をやって抱きしめている。

 所属は違っても、やはり姉妹なのだ。川内にとっては神通が最も安心できる存在なのだろう。

 

 川内は問う。

「神通も戦いで悩むことはあるか?」

 神通は微笑む。

「私たち艦娘は悩みと共に戦うのよ」

 川内は神通の腕の中で頷く。

「……そうだよな。私たちは艦娘なんだ」

 

 そのやり取りに司令は胸が痛くなる思いだった。

 

 夜は少し明けてきていた。薄っすらと青白くなっていく東の空には大山が黒いシルエットを浮かび上がらせている。

 

 直ぐに遠くから飛行機の飛び立つ音……

 

「オスプレイ?」

 羽黒が遠くを見渡す。

 

「そういえば早苗さんが居ませんね」

「ああ、彼女は未明に伊吹と鎮守府へ戻ったんだよ」

 司令が応える。

 

 続けて寝巻き姿の寛代がタブレットを見ながら報告する。

「オスプレイ、データリンク開始。M-ATVと一部の艦娘に同期完了」

 

 司令は副司令を振り返る。

「祥高さん、鎮守府から別動隊を出して敵の遺体を処理してくれないか……出来れば陸軍にも米軍にも渡さずに」

 

 すると武蔵が手を上げる。

「親父……それは我々がやろう。横須賀のメンバーが勝手に処理してしまったとでも報告しておけば良い」

 

「そうか……助かる」

 この時、羽黒は密かに衝撃を受けていた。わざわざ着替えたのは自分だけ。司令を始め他の艦娘たちは全員、着の身着のまま飛び出したのだ。

 

 武蔵は言う。

「では副司令……いや母さん、直ぐに我々は着替えて遺体を丁重に埋葬したい」

「分かりました。では武蔵を中心に横須賀メンバーは遺体の処理をお願いします」

『了解』

 武蔵と日向、それに少し遅れて羽黒も……いや全員が敬礼をし続けて自然に黙祷をした。

 

 その後、武蔵と日向は着替えに戻る。

 

 徐々に夜が明けてきた。その場に居る者たちも顔が見えてきた。

 

 司令は言う。

「寛代、このビデオデータも消去しろ」

「……」

 彼女は黙って頷いてタブレットを操作している。

 

 そんな彼らを見て羽黒は思った。

 自分は数年来、ほとんど前線に出ていない。もちろん中央官庁でも毎日緊張の連続だ。しかし、とっさの前線での緊張感。それが足りないのではないかと反省した。

 

 しかも敵の遺体処理で見せた司令と武蔵のやり取り。暗に規則を破ってでも敵の誇りの為に醜態を晒すまいとした司令と、その意図を素早く酌んだ武蔵。

 その上に自分たちが司令の身代わりに責めを負っても良いという彼女の判断。またそれを認めた司令。無言だが恐らく同意している日向。

 

 敢えて命令せずとも一糸乱れぬ姿勢……これが親子なのか?

 

 そんなショックを受けている羽黒をよそに司令は次々と指示を出す。

「電チャンと横須賀メンバーは処理後に後から鎮守府へ来てくれ。副司令もここで残務整理の指揮を頼む。私と曙、寛代、響は直ぐに着替えて神通のM-ATVで鎮守府へ移動だ」

『了解』

 

 着替えに戻りかけた司令は、ふと立ち止まる。

 彼は神通から離れて既に落ち着きを取り戻しているブルネイの川内を振り返った。

「君はここに残って祥高の指揮下に入り横須賀メンバーと行動を共にして貰って良いかな?」

「了解」

 川内は敬礼をした。

 

 ちょうどその時、大山の稜線を縁取っていた光の筋が破れるようにして旭日が彼女たちを照らした。

 誰がしたのだろうか? いつの間にか敵の亡骸には薄いスカーフが掛けられていた。

 

 羽黒はその場の光景に衝撃、いや感銘を受けていた。艦娘たちは海上でも地上でも誇らしい存在なのだと。

 

「これが真の防人なのね」

 彼女は自然に呟いていた。

 

 私も、そうありたいと彼女は思うのだった。改めて敬礼をした。誇りを以て。

 

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。
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