※(改)で後半に加筆あります。
『それが彼女の運命なら、共に受け入れるしかないよ』
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第61話:『心の距離、心の扉』(改)
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副司令の指揮下で敵の亡骸の処理が始まる。鎮守府からも応援の車両が来た。運転していたのは利根だった。
司令は声を掛ける。
「悪いな、利根」
利根は、あっけらかんとした表情で応える。
「いや、これは大切なことじゃからな、父上」
その呼称に羽黒は少し驚いたようだ。
『利根さんも……娘なんだ』
こうなって来ると羽黒も美保司令と艦娘たちの関係に慣れてきた。もはや養子という驚きより『イロイロな呼び方があるのね』と感心する方が大きくなっていた。
だから羽黒が彼らを見ていると親子関係を通して艦娘たちの心情の幅が広がって、その結果として一人ひとりの個性がさらに引き出されているのではないか? そんな印象も受けるのだった。
彼女は美保の艦娘たちを見ているうちに自分の『個人的な興味』として、この鎮守府の養子縁組の状況を、もっと詳しく調べてみたい好奇心に駆られるのだった。
『また何度かここに来ることもあるかしら……』
実は副長官は数ヶ月おきに視察名目で美保に来ている。今回は特別と言うことで自分も同参する事が許されたが、出来るならいつの日にか代理でも良いから美保に来て見たいと思うのだった。
『副長官に、いつか相談して……私の調査課題に加えようかしら』
そう思うと羽黒はなぜか、ワクワクして来るのだった。
さて車を降りた利根は同行して来た秋雲と一緒に荷台を開けた。そこには簡易型の棺桶が準備されていた。
軍隊にとっては棺桶は珍しくない。誰もが当たり前のように接するのだ。
利根と横須賀メンバーは協力しながら棺桶に敵の亡骸を入れて軍用車の荷台へと運び入れた。秋雲はそんな光景をサラサラとスケッチしている。敢えてスケッチと言うのが意味があるらしい。
その作業を見守りながら司令は祥高に聞く。
「何処に埋葬するかな?」
「はい。美保鎮守府で犠牲になった艦娘用の墓地があります。そこへ埋葬する予定です」
祥高は予想していたように答えた。
「なるほど、ちゃんとそういう場所があるんだな」
「はい……司令が着任されてからは使う機会も減りましたが」
彼女は微笑んだ。
明るくなるに連れて少し風が出てきた。すると流される髪の毛を気にしながら大井がやって来た。彼女は状況を一目見て何が起きたのかを悟ったようだ。
彼女は司令に近づくと安堵した表情を浮かべた。
「私が言うのも変ですが……有り難うございました」
深々と頭を下げる彼女に祥高と司令は頷いた。
羽黒はまた、その光景を興味深く見ていた。こういった対応も小さな鎮守府だからこそ可能なのだろう。大きな拠点では、とてもこんな私心で行動する余地はない。ただ事務的に淡々と全てのことが片付けられていくばかりなのだ。
「やはり最期はこうあるべきだな」
武蔵が呟くと
「まったくだ」
日向が同意している。無言だが響も頷いている。
そのとき大井は言った。
「司令、少し……お話があります」
その言葉に司令は頷く。彼は副司令に目配せをしてから、大井と二人で装甲車の裏へと移動した。
周りにだれも居ないのを見てから司令は問いかけた。
「話とは?」
大井は周りを気にしながら口を開いた。
「今まで黙っていましたが、私の無線の周波数には、今でも時おり敵の通信が入ります」
「え!」
さすがに司令も驚いた。
だが大井は慌てて補足する。
「ごめんなさい! 決して悪気はなかったの。だから信じて、お願い……絶対に皆を裏切ってはいない。こちらからは一切、通信してないから」
彼女の思い詰めたような表情に司令も信じるしかなかった。
ただ彼は肩をすくめて言うのだった。
「気持ちは分かるが、ここは国防の最前線だ。安全保障に絡むことは秘密にして欲しくない。せめて……事実だけでも報告が欲しかった」
「ゴメンなさい」
彼女は力なく頭を下げるばかりだ。
これは下手したら軍法会議に掛けられる事案だ。だが一時期、記憶が途切れていた彼女だ。今さら問い詰めても何も始まらない。司令は、この件は自分だけで伏せて置くべきか? 少し考え込んで下を向いた。
大井は、なおも続ける。
「お父さん(司令)は裏切りたくないし。今の生活を壊すつもりもないの」
徐々に声が小さくなって最後には彼女の言葉は詰まった。
司令は顔を上げると、そっと大井の手を取った。
「分かるよ。私も、あの敵を見てつい、以前のお前を考えた。だから敵だが亡骸は陸軍に渡したくない……フフ、これも問題だよな?」
そう言いつつ司令は改めて自分の行動の根底には、やはり大井との関係が影響しているのだと痛感した。もし大井が何かで咎められるなら結局、自分も同罪なのだ。
「大井……お前の行動には問題もあるが、それは長たる私の責任でもある。だが、お前が私たちを信じてくれる限り私たちも、決してお前を見捨てはしない。だから安心しろ」
顔を上げた大井の目には、涙が溜まっていた。
「……本当に、ごめんなさい。私、未だに過去を引きずっているのね。もうどうしようもなくて……こんな私、八つ裂きにされても、おかしくないから……本当に申し訳ないわ」
苦しい胸のうちを吐露する彼女。そうだ、敵との因果関係は、もう彼女自身にも、どうしようもなくこびり付いた汚れのようなものだ。それをこれからの生涯、ずっと背負わなければならない。そんな彼女を誰が責められるだろうか?
せめてこの鎮守府で、いや私たち夫婦で護ってやろう。
そう思った司令は掴んだ彼女の手を改めて強く握り返して言った。
「いや、君が居るからこそ、この美保鎮守府に新しい希望が芽生えようとしているんだ。私と共に歩み続けてくれ」
あれ? ……と、そう言いながらも司令自身、自分が何を言っているのか分からなかった。もはや口が勝手に回っている感覚だ。まるで誰かに言わされているような……。
だが大井は微笑んでくれた。
「ありがとう……嬉しい」
そう言いながら彼女は司令にソット抱きついてきた。司令も彼女を優しく抱き止めた。最後は理屈じゃない。彼はそう思った。
司令は改めて言った。
「お前だけが悪いんじゃない。その責任の一部は私もある。だから……独りで解決するんじゃない。私も一緒だ。申し訳ない気持ちは私も同じなんだよ」
「……」
この場を誰かに見られたらちょっとマズイかな? だが本当に彼女は変わった……司令は改めてそう思った。
彼の腕の中で大井は言う。
「私……貴方と出合えて良かったと思っているの。だから、ごめんなさい。本当に、通信のことも怖くて言えなかったの」
彼女の髪を撫でながら司令は言った。
「良いよ。お前の気持ちは痛いほど分かる。だが、いつまでも独りで抱えなくて良いんだ。私も居るし今は祥高だって居るんだ。彼女も助けてくれる」
「うん……そうよね。ありがとう……」
彼女の言葉は、まるで小さい子の返事のようだった。
司令にとっての大井は今や艦娘と言うより本当に娘のようだった。彼の実子の早苗は素直な子だが、この子はちょっと複雑だ。それは生い立ちや通過してきた世界がそうさせているのだろう。
もちろん自分には大井を包み込めるだけの十分な愛があるわけではない。まだ彼女とは心の距離もあるだろう。それでも自分と彼女は親子だ。それは動かしがたい事実。
もし彼女と自分の心に距離があるなら縮めていけば良い。生きていれば、お互いに努力は出来る。彼女だって、こうやって正直に心情を吐露し心を開こうとしている。それで十分だ。あとは私も祥高も精一杯、努力するだけだ。
そこへ神通が来て申し訳無さそうに声を掛ける。
「司令、あの……そろそろ参りましょう」
「……ああ、悪かったね」
二人は恥ずかしそうに身体を離す。それでも思わず二人は『神通で良かった』と苦笑した。
神通は出来た子だ。二人を見て見ぬ振りをしている。同時に彼女もまた大井の事を心配しているのが伝わってきた。皆、姉妹だから。それが大井にも分かるのだろう。彼女も神通に深く頭を下げている。その姿に神通はちょっと恐縮していた。
彼女は改めて司令に対してM-ATVへの乗車を案内した。
「では司令、こちらへ」
「ああ」
彼も大井に軽く手を上げながら祥高や横須賀メンバーに見守られてM-ATVに乗り込んだ。それを確認した神通は続いて他の艦娘たちにも乗車を案内する。艦娘たちも次々と乗り込んでいく。
その間に神通は運転台に乗り込むと車体を起動させた。エンジンの始動音と共に車内の各種電装品も順次スタンバイしていく。直ぐに各パネルが鎮守府のサーバーと同期を開始したことを告げていく。それらを確認した神通はインカムを付けて最終確認を行う。問題無いようだ。
神通は改めて全員に告げた。
「では、発車します」
司令も応える。
「よし、頼む」
神通は車両はゆっくりと発進させた。朝日を浴びつつM-ATVは官舎の敷地を出た。まだ早朝ではあるが太陽は既にかなり昇っていて気温も徐々に上がっている。
朝日が差し込む車内で司令は端末を操作してモニター画面を見た。その画面の一部は赤くアラート表示されたままになっていて今なお、あと1名の敵が所在不明のままであることを告げていた。
「やれやれ。このシステムの情報は、どこまで正しいんだろうな?」
司令は思わず呟いた。信用しないわけではないが、こうも見つからないと焦ってくる。思わず端末にチョップを食らわせたくなってくる。
鎮守府周辺ではオスプレイが索敵を続けている。赤城2号も試作型ミニオスプレイを出しているようだ。司令の端末には通常のオスプレイの稼動表示と共に『mini』という表示も並列表記されていた。なるほど夕張も良い仕事しているな。司令は思わず微笑んだ。
米軍の技官が見たら目を丸くしそうだ。いや、この情報は米軍にも流れているからな。彼らは苦笑しているだろうか?
またオスプレイのシステムだけでなく数名の艦娘もまた海に出ている。彼女たちもリンクシステムと同期しながら哨戒を実施している。これらの情報は刻々とサーバーに送り込まれ、逐次分析処理されてフィードバックされる。
今、運転をしている神通を始めとした高位カテゴリーの艦娘たちは現在リアルタイムでオスプレイ同様リンクシステムで情報を同期させている。何かあれば直ぐに全員に情報が共有される。
司令は問いかける。
「何か新しい情報は?」
「いえ……特には無いようです」
神通は答える。
やがてM-ATVは早朝の幹線道路から交差点を左折して畑の中を走る。JR境線の踏み切りの手前で司令の携帯が震えた。彼がディスプレイを見ると大井からだった。
司令は電話に出た。
「どうした?」
電話口の向こうでは不安そうな大井の声が聞こえた。
『ゴメンなさい……あの、緊急でお話したいのですが、電話では……』
司令は返事をする。
「分かった。直ぐに鎮守府へ来てくれ。執務室で話そう」
『はい……』
電話を切った司令は、車内の艦娘たちの関心が集中しているのを感じた。
やれやれ……取り敢えず司令や大井の携帯も軍用なのでスクランブルや音声も暗号化されている。教官である大井が知らないはずはない。だが彼女は、それでも不安なのだろう。
『また機密に関わる何かかな?』
司令は顎に手をやりながら思った。
『大井……何か事件があると必ずその中心に居る子だな。まあ良い。それが彼女の運命なら共に受け入れるしかない。皆、一蓮托生だ』
彼はそう思いつつ腕を組んで窓の外を見た。今日も良い天気になりそうだ。
やがて海岸線を走った後に鎮守府ロータリーにM-ATVが到着する。司令が先に車を降りた。車両はそのまま車庫へと向かい艦娘たちはそこで降車する予定だ。
司令が執務室へ向かおうとすると玄関口に金剛姉妹がずらっと並んでいる。
『お帰りなさい!』
司令は苦笑する。いつも思うが金剛型にズラリと並ばれると威圧感があるよなぁ。彼はそれでもいつも通り彼女たちに挨拶を返した。
「ただいま」
……まあ良い。この一体感、そして元気さが金剛型の特長だからな。そう思いつつ司令は先頭にいる金剛に聞いた。
「ブルネイの金剛は元気になったか?」
彼女は少し表情を曇らせた。
「相当、疲れているみたいだネ。昨日は提督と一緒に居るつもりだったけど結局、病室に戻ったから」
「そうか……」
「はい、とっても……心配なのです!」
比叡は両手をぎゅっと握って真剣な目でこっちを見る。だから、それはオーバーアクションだよ。
「榛名も頑張りますから!」
『……』
司令と霧島は思わず顔を見合わせて、ずっこけそうになった。お前が何を頑張るんだよ?
ふと見ると玄関に制服を着た金城提督とブルネイの青葉が居た。彼は言う。
「おお、聞いたぞ。暗殺者だってな」
「はい」
さすがブルネイでも青葉は情報が早いなと司令は思った。
ふと見ると海外武官たちも集まってきた。司令は苦笑した。やっぱり皆、諜報部だ。
開口一番、イタリア武官が高い声で言う。
「やだぁ、そんな顔しないの! 心配しているんだからぁ」
「はい、ありがとうございます」
司令が応えるとすぐにドイツ武官も言う。
「敵は、やはり深海棲鑑か?」
「そのようです」
すると慌てたように走ってきたケリーが言う。
「ちょ……ちょっと! (ハアハア)何? このデータっ!」
寝起きで直ぐ駆けつけてきたらしい彼女は凄い形相で大型のタブレット端末を見せる。そこには既に司令も見慣れたアラート画面が出ている。
司令は落ち着き払って答える。
「はい。ですからおよそ2体の敵がこのエリアに侵入した模様です」
「それでっ? 何か分かったの」
彼女の食いつくような勢いが怖い。そんなケリーの頭はグチャグチャで、いつものピシッとした印象とは正反対だ。制服もボタンがズレていたりネクタイも半分緩んでいる。さては昨夜、飲んだな? ……あはは、POLAにも負けてないぞ。
彼女の慌て振りには他の武官や金城提督は明らかに笑いを堪えている。
司令は半身引きながら答える。
「一体は撃退して、もう一体は現在もなお捜索中です」
金城提督はニヤニヤしながら言う。
「ウチの川内が闘ったらしいが、敵の彼女は誇り高い戦士だったようだ」
すかさずケリーが言う。
「で? その敵の遺体はどうしましたか?」
「燃え尽きました」
「はあ?」
この時点で武官たちは堪えきれないように後ろを向いて肩で笑っていた。ただ彼らは司令が密かに遺体を処理しようとしているのは分かっているようだ。知らないのはケリーだけか。
そこで意外にもドイツが助け舟を出してきた。
「まあ良いではないか? 今はその残り一体を発見することのほうが重要だ」
「まあ……そうですけど」
ケリーもようやく感づいたようだが、それは不問にして渋々承知するようだ。
慌てぶりも含めて照れ隠しをすように空を見上げながら彼女は言った。
「えっと、オスプレイを出しているようだけど……まだ見つからないようね」
「はい。まあシステムのエラーと言うことも考えられますし」
司令は答えた。
そこへ副大臣と副長官がやって来た。軽く会釈をしたあとで彼は言った。
「まあ、ここは焦っても仕方が無い。ゆっくり朝食でも食べようぜ」
彼の言葉で、その場の雰囲気が和んだ。
そこへ鳳翔さんが来て言った。
「皆さん、朝食の準備が出来ています」
その案内で司令と副長官以外のメンバーは食堂へ向かう。副長官・石見はそこに残って司令に話しかけてきた。
「また暗殺未遂か。お前も大変だったな」
「はい……でも戦った艦娘が言うには相手がどこまで本気だったか分からないと」
司令は、こんな表現では馬鹿にされるかと思ったが意外にも副長官は頷いていた。
「ああ、分かるぞ。敵の中には案外人間臭い奴が居るらしいからな」
「というと?」
彼女はメガネを指先で持ち上げながら言う。
「お前も聞いたことがあるだろう? 艦娘が轟沈して敵に転ずると言う話」
「はい、まぁ噂話程度には」
そこまで言って彼はハッとした。
「あ、いえ……そういえばあの子、えっと大井がそうでしたね」
補足した司令に彼女は大きく頷いた。
「お前も知っているだろうが祥高姉さんも向こうの世界から戻った艦娘だ。私も普段は何も言わないが正直、これはやりにくい戦いだと思うことが常々ある」
「ハッ」
「あと……」
彼女は急に司令に顔を寄せてきた。彼は一瞬、焦った。
今でこそ艦娘(養女)と風呂に入っても何とも思わない司令だが、この義妹が密着してくると、さすがにちょっとドキドキする。
普段、色気もへったくれも感じさせ無い分、至近距離だと妙に女性っぽく感じる。そのギャップが凄いのだ。
「金城提督は危ないぞ」
「は?」
……祥高も石見も『突然』が多過ぎだよ。
彼女は苦笑する。
「済まん、舌足らずだったな」
一呼吸置いて副長官は言葉を続ける。
「下手すると彼の首が飛ぶかも……な」
「はぁ?」
「うーん、元帥が、ちょっとマズくて」
ここで彼女はチラッと司令の背後を見た。
「ダメだ、人目があるここでは話せん。また後でな」
結局、舌足らずだよ。おい。
副長官は司令の後ろを見ながら言う。
「ホラ、彼女が来たぞ」
司令が振り返ると自宅から来た大井が立っていた。
「お前に報告があるのだろう? しっかり聞いてやれ」
「ハッ」
大井は頭を下げていた。
「すみません……お願いします」
司令が美保湾を見ると今日も大山の青いシルエットが見えた。
司令は肩をすくめた。
『私も、あの山のようにもっと堂々としていよう』ふと、そう思うのだった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。