「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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大井は暗殺者について知っていることを司令に伝える。後から加わった青葉は意外な分析を司令に伝える。そして美保鎮守府には意外な艦娘が……。


第62話:『一航戦』(改2)

『私の事で、もう苦しまないで』

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

第62話:『一航戦』(改2)

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 司令のところに大井が近寄ってくる。

「済みません司令……お手間を取らせます」

「ああ」

 彼は一瞬、副長官を見た。彼女は黙って腕を組んで頷いている。

 

「それじゃ、執務室へ上がろうか」

 そう言って彼は本館の入り口へ向かう。

 

「あの……」

 大井の呼びかけに、司令は立ち止まると振り返った。

 

「?」

「ごめんなさい……でも」

 そこには恥じらいながらも手を差し伸べている大井が居た。

 そうだよな……既に母親となった彼女も孤独や不安を感じることもあるだろう。

 

「ああ、構わないよ」

 司令も手を差し伸べて彼女の手を取った。その瞬間、彼女はホッと安堵の表情を浮かべた。

 

 二人は手を繋いだまま揃って鎮守府本館へと向かう。数名の艦娘もチラチラとこちらを見ているが副長官が何もいわない光景を見て、これは『公認の仲』だと納得している雰囲気が感じられた。

 

 まあ大井に関しては普段から司令とよく手を繫いでいる。それは妻の祥高も公認だ。

 

 彼らは本館に入ると、そのまま階段を上がって執務室へと向かった。

 

 その途中の踊り場で司令は青葉とすれ違った。

 彼は彼女に声を掛けた。

「青葉」

「はい?」

 彼女は立ち止まる。階段は声が響く。

 

「これから執務室で大井と話をするのだが……もしかしたら後でお前に声を掛けるかも知れない。留意しておいてくれ」

「了解です」

 青葉は敬礼をした。

 

 彼女は割とサバサバしているから、司令と大井が手を繫ごうが全く気に留めていない。そこは助かるよなと思う。

 

「あとスマン、誰かに言って執務室に2名分の、お茶を頼む」

 立ち去りかけた青葉に司令は追い討ちのように続けた。

 

「はいはぁい」

 青葉は背中で応えた。

「……」

『はい、は一回だぞ!』と司令は内心思った。

 

 2階の執務室に入る二人。祥高は、まだ来ないようだ。

 本当は彼女と一緒に話が聞けたら良かったと司令は思っていたが後処理が長引いているのだろう。仕方ない。彼はメモ用のノートを取り出すと副司令は待たずに大井の話を聞くことにした。

 

「折り入って話とは?」

 彼は大井と向かい合わせにソファーに腰を掛けて聞いた。

 

 彼女は珍しく鋭い目つきになり周りを気にしてから言った。

「ここは盗聴器とか無いわよね?」

 

「あぁそうだな。米軍のシステムが入るときに全てチェックしてある。後から付けても分かるようになっているから大丈夫だ」

 司令の言葉に安心したような表情になった大井は続けた。

 

「今朝の敵の暗殺者のことで」

「ああ」

 司令はノートを開いてペンで書き留める。もちろん略語を使ってパッと見ただけでは分からない書き方をする。

 

 大井は少しボーっとした感じで司令の手元を見ていたが直ぐに意を決したように語り始めた。

「あの官舎で川内と闘った敵……あの子が通信していたの」

 

 司令は略語でそのことを書く。

「二人とも暗殺者だけど司令の自宅の住所を敵の本体には伝えていないそうよ」

 

 司令は驚いた。

「ちょっと待った……今、二人目を必死に探しているんだが、やっぱりもう一人居るのか?」

 

 大井はハッとして言い直す。

「そ……そうよ。今回は二人居るの」

 

 司令は筆記の手を止めて聞く。

「なぜ、そんな行動を? 敵だろう?」

 

 司令の問い掛けに困惑した表情の彼女。

「それは分からない。ただ彼女たちはそう言っていたから」

 

 司令は腕を組んだ。

「もしかして……彼らの狙いは私ではないのかな?」

「……」

 

 司令は再びメモを取りながら聞く。

「だが……そんなにハッキリと敵の無線が入ったのか?」

 

 大井は頷いて言った。

「断片的だったけど……」

 

 司令は壁にある境港市の地図……司令の自宅官舎がある場所を見ながら言った。

「では私の家を狙って行動を起こしたのは片方だけ、ということか」

 

 大井は頷く。

「そうね。もう一人は官舎からは少し距離があるみたいだったわ。あの川内に似た子もそうだったけど、もう一人も筋金入りの暗殺者というか……とても落ち着いた口調だった」

 

 司令は無言でメモを取り続ける。大井は窓の外を見る。

「敵にこう言うのは変だけど、あの暗殺者……特にもう一人は教養の高さを感じたわ。単なる野蛮人じゃない。かなり上級の相手っていう印象。それで居てプライドも高い」

 

 司令は手を止めた。

「そうか。そういう敵は逆に厄介だな」

 

 彼は先の副長官の言葉を思い出していた。元艦娘から転落した敵……しかも相手に品があるとしたら副長官が躊躇するように、心情的にも戦いにくい相手だといえる。

 

「やれやれ。単なる戦闘バカな敵の方が気楽だよな」

 司令の言葉に大井も微笑んでいた。彼女も司令の、そういった気持ちは分かるようだ。

 

「敵もシナやロシアと組むんでしょう? それなりの知性はあると思うし」

「そうだな」

 

 その時、誰かが執務室のドアをノックした。司令が応えると「失礼します」と青葉が、お茶を持って入ってきた。

 

 司令は思わず反応した。

「何だ、お前が来たのか?」

 

「ええ? だって……この方が一石二鳥でしょ? 鳳翔さんだって忙しいし」

 そう言いながら、お茶を置く青葉。

 

「まあな」

 司令が見ると彼女は、ちゃっかり3人分のお茶とお菓子を持ってきている。

 

「よいしょ!」

 明るくソファに腰を掛ける青葉。座ったままお茶を準備している。その傍らには青葉の商売道具……数冊のメモ帳に筆記用具、カメラなどが置かれている。ツール魔だよな。

 

 そんな青葉を見て大井は不安そうな表情をしている。

 それを見た司令は聞いた。

「あ……青葉?」

「はい?」

 お茶を配りながら彼女は反応する。

 

「今、大井と最高機密情報を扱っているんだが……お前なら大丈夫だよな?」

 司令の質問に青葉は笑った。  

 

「信じてよ! お父さん」

「ああ、そうだったな」

 司令は苦笑した。これは一本取られた。そんな二人のやり取りを見た大井も、その表情が和んだように見えた。

 

 お菓子の袋を開けながら青葉は言う。

「その機密情報、何か当ててみましょうか?」

「あ?」

 

 好きだよな青葉。

「えっと、今朝の暗殺者のことでしょう?」

「……」

 

 さすがに司令も驚いた。

「なんだ、お前まで今朝のこと知ってたのか」

 

 司令は脱力した。それは何となく大井も同じ気持ちのようだった。

 

 青葉は続ける。

「いえ、鎮守府の名誉のために申しますと決して情報漏えいしたとかセキュリティに問題があったわけではありません。ただ……」

「ただ?」

 

 青葉は微笑む。

「通常回線ではないんですが艦娘同士の特種無線で、どうしても漏れるんです。でも心配しないで下さい。美保鎮守府では基本的に『司令の家族』以外には、絶対的に重要な情報は漏らしませんから」

 

 そう言いながら彼女は大井にも笑顔を見せた。大井も安堵したような笑顔を見せる。

司令は『あれ?』と思った。このとき彼は初めて……美保の大井が他の艦娘にも自然な笑顔を見せたような気がしたから。

 

 大井は少しリラックスしたのだろう。「いただきます」と言ってお茶をすする。

「どうぞ」

 そう言いながら青葉もメモ帳を開く。

 

 司令は二人に説明をする。

「ではお前のその言葉を信じて……今、大井から二人目の暗殺者が、まだこの管内に潜んで居ることが確認できた。ハッキリしていないが敵の狙いは私ではない可能性がある。彼らの本当の狙いは何か? それについて検討しようと思っていたところだ」

 

「あと……」

 青葉はペンを取り出しながら言う。

「果たして暗殺者は、もと艦娘なのかどうか? ですよね」

 

 その言葉に司令は苦笑した。

「まあ、そういうところだ。情報通のお前ならゴシップネタも含めて何か知らないかな、と思ってな」

 

 青葉は少し考えるようにしてから話し始める。

「そうですね……まず今朝の場合ですと最初の暗殺者は川内に良く似ていたらしいですね」

「ああ」

「でも司令は今まで、美保の川内と何かトラブルってありましたか?」

 

 司令はちょっと考える。

「いや……川内とは無いな」

 

 青葉は、なるほどと頷きながら言う。

「そこなんですよ」

『?』

 

 司令と大井は首を傾げる。

「これは青葉の想像なんですが……今回の敵は、わざと艦娘に似ている子を寄こしてますよね。しかも司令の自宅に行った子は恐らく陽動部隊です」

 

 司令は腕を組む。

「つまり敵の本当の狙いは別にあるとして……敵の戦術として狙った人間と因縁のある艦娘……今回で言えば元々川内だった子を意図的に当ててくるって言うのか?」

 

 彼の言葉に青葉は頷く。

「大井さんを例に出して申し訳ないのですが……大井さん自身が司令に対して……そうでしたよね?」

 

 彼女の言葉に大井も頷いて言い訳するように話し始める。

「そうね……でもそれは敵に命令されたと言うよりは、なんでしょうか? 正直あまり覚えていませんが……」

 

 大井は少し恥かしそうな顔をした。司令と青葉が優しく頷くと彼女は続ける。

「私……司令に対する恨みとか好意とか、その特定の相手に対する個人的な想いが強い動機だったとしか言えないんだけど」

 

 そこまで聞いて青葉は身を乗り出して言った。

「それですよ、それ……彼らは組織的に動いていると言うよりは、感情を中心に行動していると思うんです。ただ……今回に限っては、意図的に陽動作戦をしている感じで」

 

 彼女はペンで頭をつついた。

「つまりシナが入れ知恵したか、あるいはかなり頭の良い敵が指示していたと思えるんです」

 

 司令は言う。

「それは……厄介だな」

 

 大井も頷いた。

「私が言うのも変ですが、そういう感情を中心に動くという感覚。凄く良く分かります」

 

「でしょ?」

 青葉はちょっと得意そうだ。 

 

「では……彼らの本当の狙いは?」

 そこまで言って司令はハッとした。

 

「まさか?」

 青葉と大井も頷いた。

 

 司令は思わず頭をかいて繰り返した。

「まさか……なあ」

 

 だが青葉は確信を持って応えた。

「はい。今ここを訪問している金城提督を狙っていると思われます」

「すると……やはり夜来るのかな?」

 

 司令の言葉に青葉は腕を組んで思案する。

「うーん、さすがにそこまでは分かりませんね。確かに夜狙うのが定石ですし簡単ですが、それはお互いに不利というか……夜って相手にとっても狙いにくい状況ですから」

 

 すると大井が言う。

「むしろ日中、堂々と狙うパターンだってありますよね」

 

 青葉は頷いた。

「そうですね。確か大井さんも境港で昼間とか司令のところへ来られましたよね」

 

 大井は少し顔を赤らめた。そのときは敵だったとはいえ、この反応はちょっと可愛く感じた。

 

 青葉も苦笑しながらペンで自分の額を押さえる。

「でも大井さんって、それほど激しく司令を狙っていませんでしたよね」

 

「それは……その、まあ……」

 大井はさらに恥ずかしそうに下を向いた。顔が赤くなっている。その当時の気持ちを思い出しているのだろうか? うむ、ますます可愛らしいが……いかん、自重! と司令は反省した。

 

 照れ隠しをするように司令は言った。

「でもなあ、もし金城提督を狙うとしたら変な話、暗殺者も5人や10人では済まないような気がするんだよなあ」

 

「あはは」

 青葉もワザとらしく笑った。

 

 大井は、ほんのり頬を紅潮させたまま顔を上げて言った。

「まさか、あの金城提督がブルネイで沈めたっていう古い艦娘でしょうか?」

 

 青葉も頭をかきむしる。

「うーん、その可能性もありますし……無いかもしれませんしぃ」

 

 さすがに、こればっかりは予測の付けようがない。

 

 その時、デスクの内線が鳴った。司令が受話器を取ると大淀からだった。

『司令、た、大変です』

「どうした?」

 

 大淀にしては電話で取り乱すとは珍しい。 

『……直ぐにロビーまで降りてきてください』

 

「何事だ?」

『本日、緊急に着任したと言う艦娘が来ているのですが……』

 彼女の背後が騒がしい。

 

 司令は応える。

「分かった、直ぐに降りる」

 

 受話器を置いた司令は立ち上がる。

「着任したと言う子が来ているらしいが私は何も聞いていない。お前たちも知らないよな……」

 

 二人は首を振るが、青葉がハッとした様に言う。

「司令、まさか?」

 

「ああ、その可能性もある。取り敢えず降りるよ」

 司令が降りようとすると大井が言う。

 

「私が警護します」

 彼女は立ち上がると執務室のロッカーを開けた。そこには非常用の短機関銃が入っている。

 

 司令は言う。

「くれぐれも慎重にな」

「はい」

 

 マガジンを点検しながら微笑む大井。

「大丈夫、私は変わったから」

 

 だが3人が下へ降りると意外な状況が展開していた。

 ロビーでは美保鎮守府の主要な艦娘が新しく着任したという艦娘を取り巻いていた。特に2人の赤城が嬉しそうにしている。

 

 そこに居る艦娘は今朝、司令が官舎で見たような異形の敵ではなかった。

その彼女は完全に普通の少女の姿をしている。つまり……紛れもなく艦娘だろう。

 

 司令は思わず呟くように言った。

「これは……敵ではないよな」

 

 青葉も大井も戸惑っていた。

「はい、多分」

「……」

 

 やや長身のその子は空母だった。赤城がときめくはずだ。

 

 そして、その艦娘は司令の姿を認めると敬礼をした。

「美保司令、初めまして」

【挿絵表示】

 

 日向のように淡々とした口調と涼しい目元。だが敬礼を直ってから彼女は、ちょっと微笑む。

「……私をご存じの方も多いでしょうけど」

 場が和む。この場慣れした度胸、合わせてゾッとする程の美しさが反って引き立つ。

 

 彼女自身が言った如く、まだ美保鎮守府には未着任だったとはいえ沈着冷静なその子を司令や艦娘たちが知らないはずが無い。

 

「ああ、初めまして……改めて美保鎮守府へようこそ」

 ぎこちなく敬礼をする司令に彼女は再度ピシッと敬礼を返した。

「本日着任いたしました一航戦、加賀です」

 隙がない。

 

 その時、誰かが息を呑んでいる気配がした。

司令が振り返ると、そこには目を丸くしている金城提督がいた。

 

「加賀……」

「え?」

 司令は少し驚いた。この加賀は艦娘だが量産型だろう。それなのに提督はなぜ慌てて驚くのだろううか?

 

「提督?」

 彼の隣に居たブルネイの青葉も司令と同じ気持ちらしかった。

 

 彼女は言う。

「美保に着任した普通の加賀さんですよ」

 

 提督は頭を振る。

「そうだよ……すまん、つい……な」

 

 すると加賀は微笑んだ。

「金城提督ですね。噂は伺っています。今回は僅かな期間かと存じますが、よろしく」

 

 そう言いながら彼女はスッと金城提督に近づくと手を伸ばした。一瞬、司令や大井は緊張した。少し躊躇するようなブルネイの提督と、その手を半分強引に掴むように握る加賀。

 

 彼女は提督に言う。

『私の事で、もう苦しまないで』 

 

提督の表情が固まった。だが、その理由を知る者は少ないだろう。

 

司令は少し嫌な予感がした。

「この子は、本当に艦娘なのだろうか?」

 

 その思いは、その場に居た美保の青葉、大井も感じたはずだ。

 

 ただ大多数の艦娘たちは、赤城を始めとして完全に加賀だと思っているようだった。

 

加賀は提督に会釈をして離れるが、彼は硬直したままだ。

 

 こうして美保鎮守府の長い一日が始まる。

 

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。
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