「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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次々と美保鎮守府を出発する二式大艇やオスプレイ。残された金城提督はブルネイが落ち着いたと聞いて安堵するのだが。


第64話:『加賀』

「あなたが悪いのよ……」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

 第64話:『加賀』

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 軍令部の指示が出てから急きょ、美保鎮守府では秋津洲が行ったり来たりしている。二式大艇を扱うなら彼女が一番だ。

「もう倒れるかもぉ!」とか言いながらも、嬉々として走り回っている。

 あの子は本当に二式大艇が好きなんだなと司令は思った。

 

 昼前には海外武官たちが乗り込んだ美保のオスプレイが飛び立った。このオスプレイは一旦呉へ飛び、そこから改めて大阪と中央へ向かう便を出す予定だ。操縦は二世の早苗と伊吹。出発ポートではリベッチオやPOLA、U-511が見送っていた。

 

「最後は何処?」

 秋津洲がハンドタオルで汗を拭いながらロビーで聞く。ブルネイの艦娘たちが立ち上がる。

 

 二人の青葉が互いに握手をし、ブルネイの川内が美保の神通と別れの言葉を交わし、かなり体調が戻ったブルネイの金剛が美保の金剛・比叡と別れを惜しんでいる。

 

「では出発するか」

 金城提督が声を掛けると艦娘たちが外へ向かう。

 

 美保鎮守府の埠頭にはブルネイから来た二式大艇が待機している。艦娘たちは次々と乗り込む。金城提督も埠頭で見送りだ。その側には数名の美保の艦娘たち……赤城や加賀、利根が居た。

 

 利根が言う。

「行ってしまうのじゃな」

 

 赤城も相槌を打つ。

「ちょっと寂しいですね」

 

「……」

 加賀は無言。 

 

 やがて大艇は離岸して港湾内で加速、そのまま大山の方角へ飛び立った後、美保のメンバーに挨拶をするように上空で先回、反転した後、オスプレイと同じ呉方面へと向かった。

 

「行ったか」

 司令は呟くように言う。

 

 写真を撮りながら青葉が言う。

「ブルネイの青葉と話をしたんですが、やはりこの人事の背後にはブルネイを叩いて弱体化させる狙いがあると感じたそうです」

 

 金城提督も頷く。

「そうだな。オレもブルネイでイロイロやっているがシナがオレ達の活動を軍事面だけじゃなく経済面でも疎んじているのは感じるぜ」

 

 利根が腕を組んで言う。

「そうじゃな。美保もブルネイも敵から見れば、どちらも目障りじゃろう」

 

 青葉も応える。

「美保も米軍と協力しているからジャマでしょうけどね。ただ地理的要件とか規模を見たら、やっぱりブルネイから先に叩こうと思ったのではないでしょうか?」

 

「そうだな」

 司令も応える。 

 

 金城提督は美保の青葉に聞く。

「ブルネイでゴタゴタがあったみたいだが続報とか分かったら知りたいな」

 

 それを聞いた青葉は確認を求めるように司令を見た。彼は頷きながら応える。

「そうだな青葉、可能な限り情報収集を頼む。合わせて、わが国の中央政府の様子もチェック出来るか?」

「了解です」

 青葉は敬礼をするとバック類を抱えて退出する。

 

 司令は改めて金城提督に聞く。

「当面は美保に留まることになりますが」

 

「ああ。そのことだが……」

彼は加賀と赤城をチラッと見ながら言う。

 

「前にも言ってただろう? 艦娘への特別訓練……ここに何日留まるか分からんが短期間で覚えられる格闘技や護身術、それに……」

 彼はちょっと間を置く。

 

「それに?」

 司令が聞くと彼は笑って言う。

 

「疲労回復に効くレシピとか、いろいろ披露してやるよ」

「それは有り難いお話ですが……でも一度に大丈夫ですか?」

 

 心配する美保司令に金城提督は応える。

「なに、オレにとっちゃ料理は息抜きだからな。材料さえ揃えて貰えば、オレは全然平気だぜ」

 

 副司令と顔を見合わせた司令は微笑んだ。

「イロイロと助かります……ぜひ、よろしくお願いします」

 

 その日の午後、急きょ美保鎮守府の艦娘たちが呼び集められ、鬼のような特訓が始まった。最初はニコニコしていた艦娘たちも次第に表情が硬くなり、最後にはダウンする者が続出。

 

 美保鎮守府の午後。時おり埠頭から聞こえる艦娘の悲鳴にも似た訓練の掛け声。美保司令が着任してからは、ほとんど聞かれることの無かった声である。

「いつまで……やるねん?」

 これは黒潮。

 

「もぉアカン」

 そう言いながら倒れる龍譲。

 

 ああ、これが噂に聞くブルネイの地獄の特訓か! 司令が思った頃には美保鎮守府の艦娘たちは軒並みダウンする事態となっていた。

 

 ただ一部の軽巡や駆逐艦は、そのシゴキにもきっり付いて来た。やはり川内姉妹や白露型である。

 

「なるほど、どこの川内もタフだな」

 金城提督も感心していた。

 

 美保の指令室では警戒態勢が続いていた。

「やはりレールガンの射程を想定した範囲外で、国籍不明の小型艦船が確認されます」

 

 大淀が言う。司令は聞きながら応える。

「何かのタイミングを計っているのだろうか?」

「そんな気配ですね」

 

 やはり気になる。司令は訓練の様子を下でスケッチをしている秋雲を無線で呼んだ。

『なぁに?』

「金城提督に、手が空いたら執務室まで上がるように伝えてくれ」

『了解……』

 

 司令が執務室へ移動すると、数分で金城提督が上がってきた。

 彼は上半身ランニング姿で、夏服を羽織っている。オマケに黒いサングラス……まるでどこかのヤク○に見えるな。

「あ、スマンな。何しろ暑いもんで」

「いえ、気にしません。まあお掛け下さい」

 そう言いながら司令は内線でお茶を頼んだ。

 

「どうですか? 訓練は」

「ああ、悪くないね」

 金城提督はソファに腰を掛けながら言った。

 

「正直、もっと酷いかと思っていたが、さすが艦娘だ」

 二人は笑った。

 

 司令は話題を変える。

「お呼びしたのは美保鎮守府周辺で今後、予測される敵の動向です」

「……」

 

 汗を拭いながら提督は黙って聞いている。

司令は続ける。

「敵は何かのタイミングを窺(うかが)っているようです。恐らく……」

 

 すると提督は、あっさりと言う。

「オレの暗殺と同時に美保鎮守府への総攻撃……恐らくトロイの木馬のように内部から防衛システムをダウンさせる戦法だろう」

 

 美保司令は目を丸くした。

「え? もう、そこまで?」

 

 提督は笑う。

「うちの青葉がイロイロ調べてくれてね。ああ、美保の青葉も情報提供してくれたらしいが」

 

 それを聞いた美保司令は渋い表情をする。

 

だが提督は言う。

「そんな顔をするなよ。とにかく敵は、まずブルネイを凍結状態にした上で美保を叩きに来る。その前段階としての副長官や海外武官の人払い、そしてオレの暗殺だろう」

 

「……」

 美保司令は黙って頷く。

 

「対外的にはブルネイは札付きと目されているからな。武力を使わずとも堂々と叩ける。だが美保は真面目で優等生タイプだから敵も大っぴらには叩けない。だから可能な限り戦力を削いでから叩きに来るつもりだろうな」

 

 美保司令は言う。

「トロイの木馬……刺客ですか?」

「ああ」

 

 汗が引いたのだろう。提督は上着に腕を通してから言う。

「あの加賀だが、完全に敵とも言いがたい。あの子は何かを知っているはずだ」

 

 その時ドアをノックして青葉が入ってくる。

司令は言う。

「やっぱり君か」

 

彼女は笑う。

「報告とお詫びと、イロイロありあますから」

 

彼女は、お茶のセットを置いて準備しながら言う。

「まずブルネイの青葉に美保の機密情報を流したのは、お詫びします。懲罰を受ける覚悟もあります。ただ……」

 

 青葉はお茶を配る。ちゃっかり自分の分も忘れていない。

 最後に、そのままソファに腰を掛けて彼女は続ける。

「金城提督からお聞きになりましたよね? トロイの木馬と……」

 

司令は、お茶に手を伸ばしながら頷く。

「ああ」

 

 青葉は続ける。

「取りあえず今、美保鎮守府に迫る危機に対する対抗策を練りましょう。これには金城提督の素案が凄く良い感じなんです。だから……青葉の独断で情報提供しました。ごめんなさい」

 

 頭を下げる青葉に司令は言った。

「なるほど……事情は分かった。懲罰の前に、君の口から対抗策の素案を聞かせてくれ」

 

「了解です」

 青葉はメモを取り出しながら説明を始める。

 

 美保鎮守府始まって以来とも言うべき鬼の特訓は夕方には終わった。死屍累々という言葉が、しっくりくるような状況が美保鎮守府のあちこちで展開。途中から指導教官の代理となった川内姉妹たちも容赦がなかった。

 

 訓練は日勤の全艦娘に及び、赤城や加賀も例外ではなかった。だが意外にも彼女達は厳しいシゴキにもしっかり耐えた。さすが一航戦である。

 

 そして青葉には懲罰と言う名の特別メニューが与えられた。彼女はヒイヒイ言って青色吐息だったが、その表情は意外に明るかった。

 

 夕食は金城提督の指導の下、特別メニューとなった。班編成の関係で訓練に参加しなかった艦娘を中心に調理が進められた。

 

 だが訓練を通過しながらも余力のある艦娘たちは、進んで調理を手伝いたがった。やはり艦娘も女子。金城提督の提案する特別なレシピをこの機会に身に付けておきたいと言う気持ちが強いらしい。

 

 美保鎮守府では全員が一度に夕食を食べることができないため、時間差で順次夕食となる。ところが一部の艦娘は我慢できずに中庭や埠頭で食べ始めた。本来は禁止なのだが今回は特例と言うことで許可された。 

 

 ある程度、調理の指導を追えた金城提督は、美保司令と共に作戦指令室へ入る。そこからブルネイへコンタクトを取る。

「どうだ?」

「……」

 寛代が何度か通信を試みる。やがて断片的に返信が来た。

 

 金城提督は心配そうに聞く。

「どういう状況だ? 分かるか?」

「……」

 寛代がメモで走り書きをする。

 

美保司令は首を傾げながら解読をする。

「えっと……一時、ブルネイ政府軍と小競り合いになったが、これは収束。最初はクーデターの疑いありという謎の情報に振り回されたが、ブルネイの大淀さんが身を挺して誤解を解き、最終的には軍令部ではなく、日本政府から訂正と謝罪の連絡がブルネイ政府に入ったらしい」

 

「そうか……良かった」

 提督はほっとした表情を浮かべた。

 

 大淀も続ける。

「若干の怪我人も出たらしいですがブルネイの艦娘たちもギリギリまで我慢して決してブルネイ軍には攻撃を仕掛けなかったようです」

 

 それを聞いた提督は頬を紅潮させて憤った。

「くそ! オレのいない間にブルネイで内戦でも起こすつもりだったのか?」

 

 司令は寛代の新しいメモを受け取る。

「あ……やはり中央政府で副大臣が頑張ってくれたらしい。まずはブルネイの火消しに走ったようだ」

 

 それを聞いた提督は安堵した表情になって言った。

「そうか……あいつにも美味いもの、ご馳走したやらないとな」

 

 司令も笑った。

 

 提督は大淀に聞く。

「元帥のジイさんは……ダメかな?」

 

 大淀はメモや書類にザッと目を通しながら返事をする。

「そうですね……そっちの情報は、まだありませんね」

 

 寛代も首を振っている。

 

 提督は言う。

「まあ、ブルネイが無事に収まりそうなのが分かっただけでも良しとするか」

 

 司令は時計を見ながら言う。

「どうしますか? 今夜……空いている官舎に泊まっても良いですよ?」

 

 だが提督は首を振った。

「いや、オレはココに泊まるよ。もしかしたら鎮守府に寝泊りできるのも、これが最後になるかも知れないしな」

「……」

 

 司令は無言だったが、提督は笑いながら続けて言った。

「そんな顔をするなって。軍籍を解かれたとしてもオレはブルネイのあの子達の父親の積もりだ。地を這ってでも……いや、海を泳いででもブルネイに戻るぜ」

 

 それを聞いた提督も笑う。

「その言葉で、何かホッとしましたよ」

「見くびって貰っちゃ困るぜ。所属は違っても艦娘はオレたちの大切な娘だろう?」

「そうですね」

 彼らは互いに頷き合った。

 

 司令は言う。

「じゃ、引き続き頼むよ。時間が来たらいつも通り夜の当番と交替してくれて構わないから」

 

「ハッ」

 大淀と寛代は敬礼をする。

 

 司令と提督は廊下に出る。夕方の美保湾と大山、その向こうに月が出ている。 

 

 司令はフッと窓の外を見て立ち止まる。

「思えば不思議な縁ですね……艦娘を中心として私たちが出会って、イロイロありました」

 

 金城提督も月を見ながら言う。

「まぁな。人生なんてそんなものだろう? オレは平々凡々な生活よりも、今の波乱万丈な状態の方が楽しいぜ」

 

 司令は苦笑する。

「さすがですね……まあ正直、私も平穏な毎日よりは、変化のある今のほうが良いのかも知れません」

 

 そこへ秋雲が通りかかる。

「あ、夕ご飯、準備できるってよ?」

 

 それを聞いた司令は提督を振り返る。

「ご一緒しますか?」

 

 提督は軽く頭を振る。

「いや……悪いが一服してからで良いかな?」

 

 司令は笑う。

「分かりました……私は先に食べていますから」

「ああ……」

 

 すると秋雲が何かを取り出す。

「これ……使う?」

 

 二人が見るとそれは灰皿だった。

 

 提督は苦笑した。

「はは、察しが良いな、お前は」

 

 秋雲は悪戯っぽく笑った。

「伊達にイラスト描いているわけじゃないんだよ」

 

 美保司令と分かれた金城提督は、薄暗くなった埠頭へ降りた。適当な木箱に腰を掛けると、タバコを取り出して火をつけた。

 

 彼はフッと、以前大井が泣きながらタバコを吸っていた姿を思い出した。

「イロイロあるよな……」

 

 彼は何気なく呟いた。その時、人の気配を感じて振り返る。そこには加賀が立っていた。

 

 提督は声を掛けた。

「おお、お前か……さっきは悪かったな」

「……」

 加賀は無言。いつものことだなと彼は思った。

 

「タバコ臭いが、隣に座るか?」

「……」

 相変わらず無言だったが彼女は軽く頷くと、彼の隣に座った。当たり前だがこの子は敵ではない。普通の艦娘、紛れもない『加賀』の雰囲気だ。

 

「良い月だな」

「……」

 彼女は黙っている。普通の艦娘なら気を遣うところだが提督は不思議と加賀には、あまり気を遣わない。それは美保の加賀でも同じだった。

 

 それでも何か言うべきかと思っていたら加賀のほうから口を開いた。

「懐かしい香りですね……」

「……」

 

 提督は少し動揺した。いや、こいつは敵ではないし亡霊でもないはずだが……すると彼女は前髪を気にしながら提督を見た。

「私が亡霊か何かだと思っていますか?」

「いや……その……」

 

 彼はふと、美保司令が悩まされた大井の幻の話を思い出した。ただアレは、繊細そうな彼だから見たものだと思っていた。現実主義の金城提督自身が、そんなものに惑わされるわけが無い。ましてや目の前に居るのは紛れもない艦娘だ。

「私にも一本、下さる?」

「良いのか? ……ここは原則禁煙だぞ」

 

 彼女は差し出されたタバコの箱から躊躇無く一本取り出すと、提督から火を分けて貰う。そして「はあ」と吐き出した。

 

 何だろうか? 別にブルネイでもタバコを吸う艦娘は少なくない。だがここでは妙に違和感が残る。ましてや相手は加賀……彼は少々混乱していた。

「美保が禁煙……知っているわ。大井も苦労していたようね」

 

「……」

 何だコイツは? さすがの提督も焦ってきた。だが彼女は止まらない。

 

タバコをふかしながら聞いてくる。

「私が止めても、提督の位置を解任されても、あなたはブルネイへ戻る積りですか?」

「……ああ。それはな」

「残念ね」

 一瞬、提督には、その言葉の意味が分からなかった。

 

次の瞬間、彼のわき腹に針で刺したような痛みが走る。 

「なに?」

 

 そう言いながら提督が立ち上がろうとすると急に力が抜けた。彼の手から落ちたタバコが埠頭に転がり、火の粉が舞う。

 

 加賀は自分のタバコを木箱でもみ消した。

提督の体が痺れ始めた。それでも彼は腹に力を入れて聞いた。

「お前は……」

 

 彼女は無表情のまま、埠頭に膝をついて脇腹を押さえている提督に言う。

「あなたが悪いのよ……」

 

 ゾッとするような冷淡な瞳。だがその奥に悲しみが宿っているような……だが提督の周りの風景が回転し始めた。徐々に意識が遠のく。

 ぼやける視界の中で彼は、自分のこめかみに銃のようなものを突きつけている加賀の姿を見た。

「大丈夫、私も直ぐに行くから」

「止めろ!……またお前は……早まるな」

 

 息が続かない。油断した。まさか相手が加賀とは……。

 

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。
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