「私はまだ……行けない」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第66話:『帰還』
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「赤城さん!」
加賀は、なぜ叫んだのか自分でも分からなかった。
しかし反射的に……体が勝手に動く。
彼女は急いで赤城の側に近寄って海面に浮かんでいた彼女を助け起こす。
「赤城さん! しっかり」
そう言いながらも加賀の脳裏には繰り返し『偽善者』という言葉が飛び交う。
(良いのよ、偽善者でも)
加賀は自分の怪我も忘れていた。ただ必死に、目の前の赤城の体を擦るようにしていた。
既に自分も右半身の感覚が無い。しかし赤城は氷のように冷たい肌をしているのだ。きっと彼女のボイラーか何かが稼動していないのだろう。かなり危ない状態なのが直感で分かった。
彼女は何度も赤城に呼びかける。やがて加賀の腕の中でビクッと赤城の体が反応した。
「ゴホッ……ゴホ」
既に海水を飲んでいたらしい彼女は、何度もむせ返す。
「赤城さん!」
なおも自分の頭に、しつこくまとわりつく『偽善者』という詞(ことば)を、頭の中で必死に払い退けながら彼女は連呼した。
「……」
そんな赤城は暗闇の中で、側に居るのが加賀と分かったようだ。
彼女は弱々しく言った。
「赤城さんは、やめて……私は量産型よ」
やはりそうか。美保で『2号』と呼ばれていた彼女だろう。
ただ加賀にとって赤城は尊敬の対象だ。その相手が量産型であったとしても自然に敬語になる。また量産型だとしても艦娘の本質は変わらないと思うのだ。
「早く逃げましょう」
この身に代えても彼女を護りたい……そんな感情が自然に芽生えるのだ。
だが赤城の体が強張っている。体温も低い……焦る加賀。
しかし赤城は意外にも、落ち着いて言った。
「良いのよ加賀さん……さっき側面から直撃して、もう私は無理……」
「ダメ!」
加賀は咄嗟に感情的に叫んだ。
「あなたは生きなきゃ」
そう言いながら加賀は、やはり私は偽善者なのだと観念した。
でも……裏切り者の私より他の艦娘のために犠牲になった貴女こそ生きて欲しい。
その間にも戦闘は続いていた。だが徐々に美保側が押しているのだろう。雷撃される回数も徐々に減っている。
突然、遠くの海で火柱が上がった。少し遅れて陸地の方から何かが発射されて滑空する音が聞こえた。
加賀は直ぐに悟った。あれが美保に設置されているという『レールガン』に違いない。そうだ。敵もあの新兵器を極度に警戒していたな。
本来、美保に潜入した加賀は、そのデータを収集するか、さもなくば破壊しなければならなかった。それが至上命令だったが。
「もうダメね」
彼女は苦笑した。
すると彼女の腕の中で赤城が言った。
「お願いがあるの、加賀さん……」
「何?」
赤城は続ける。
「私のミニオスプレイと妖精さんたち……加賀さんが引き継いで欲しいの」
加賀の中では『偽善者め、愛想よく返事なんかしなくても良い』……そう叫ぶ自分が居た。それを払拭するように加賀は言った。
「何を言っているの? 貴方は生きるのよ!」
だが赤城の体は小刻みに震えている。嫌な予感がする。
「私なんか……とても無理。オスプレイは相応しくないわ」
加賀は否定する。
しかし赤城は意外なほど明るい声で言う。
「美保司令ね……とても喜んでいたの……貴方の着任を。だから大丈夫……」
「止めて! ……私なんか」
何となく、暗闇で赤城が微笑んでいる感じがした。赤城は昔からそうだ。苦しいはずなのに……。
赤城は続ける。
「もし貴女が居なくなったら……司令が悲しむから。お願い……」
「待って! 何を言っているの? 私なんか……」
腕の痛みも忘れて加賀は叫ぶ。
だが次の瞬間だった。彼女の腕の中で急に赤城が重く感じるようになった。
「赤城さん?」
反応がない。
「嫌っ! 起きてっ……赤城さん」
認めたくない……嫌だ、こんなのは。
だが……どんなに声を掛けても、体をさすっても、彼女は二度と目覚めなかった。
「いや……」
思いっきり泣き叫びたいのに……頭が働かなくなった。自分も失血し過ぎだろうか?
少し目まいがして、いよいよ頭がクラクラしてきた。
もうダメか……それならば私も赤城さんと一緒に死のう。このまま沈んでしまえば……そう思ったとき、突然辺りの海面が動き始めた。
「何?」
彼女が赤城を抱きかかえながら構えると、少し離れた海面に何か巨大なものが静かに浮上した。
それが何であるか、加賀にも直ぐに分かった。
「これは潜水艦……日本海軍の艦なの?」
かなり大きな潜水艦だ。美保にはこんなものまであったの? これは聞いてない。
もちろんリアルサイズの潜水艦は彼女も見たことはある。だがこれは……初めて見るタイプだ。しかも巨大な割りに、非常に静かだ。
直ぐにハッチが開く。中から出てきたのは……
加賀は呟くように言った。
「赤城……さん?」
そう、あれは美保の赤城……第一世代。
そうか、久しぶり……赤城さん。彼女のシルエットを見た途端、加賀は意識が遠くなった。
「加賀さん……しっかり!」
気が付くと加賀は色とりどりの花が咲き乱れる野原に居た。日差しは穏やかで周りは、なだらかな丘陵地帯。少し離れた場所には数本の木立も見える。
「お花畑?」
思わず呟いた加賀。普段の自分には想像も出来ない場所ね……彼女は苦笑した。
右肩を見ると、いつの間にか怪我も治っていた。不思議なこと。そう思いながら、ここには他に誰も居ないのかしら……と、長くて細い道を歩き始める。
少し歩くと誰かが立っていた。
「川内?」
それは、まともな姿の川内だった。
「加賀!」
満面の笑顔を浮かべて意外に嬉しそうな彼女。
「何がそんなに……」
と思わず冷静な言葉が口について出た加賀。
だが彼女が疑問に思うと同時に、衝突するのではないか? と思うくらいの勢いで彼女が駆け寄ってきた。
「ありがとう……」
「え?」
川内は、やはりそのままの勢いで加賀に抱きついた。
「ちょ……ちょっと?」
慌てる加賀。
一瞬、自分の腕の怪我を思って体が硬くなったが……やはり怪我は大丈夫なようだ。
加賀は少し落ち着いて川内を観察し始める。
相変わらず良い香りがする子ね。そう、川内は意外と身だしなみには気を遣っているのだ。そんなことを思いつつ加賀は聞いた。
「一体、何のことなの? 私は貴女にお礼なんか言われる覚えは無いわ」
「ううん。貴女のお陰なのよ」
そう言いながら彼女は、ようやく頭を離して加賀を見た。
「美保司令の自宅攻撃命令って……覚えている?」
「覚えているけど、それが何か?」
ああ、あの陽動作戦ねと、加賀は思っていた。
「貴女、あたしに『本気を出さなくても良い、むしろ負けたほうが良い』って言ったわよね」
「……そうだったかしら?」
正直、はっきりとは覚えていないのだが。
でも構わず川内は続ける。
「私ね、実は反発していたの。貴女の提案なんか無視して全滅させてやろうって……でも、出来なかった」
彼女はちょっと下を向いた。
「だからさ……結果的には、負けちゃったんだけどね」
そう言う割には嬉しそうな彼女。加賀は首をかしげた。
川内は言う。
「あの後でね、美保鎮守府の人たちがどうしたと思う?」
「……」
そこで彼女は笑顔になる。
「私の遺体をね、丁寧に埋葬して……祈ってくれたの。分かる? これがって、どういうことか?」
やはり加賀には、何のことかサッパリ分からない。だが川内は加賀の手を握ったまま嬉しそうに言う。
「もし私がね、そのまま犬死していたら……ここには絶対に来れなかったのよ」
「ここ……に?」
そもそも、この場の状況すら、まだ理解出来ていない加賀だった。
川内は加賀の手を離した。そして呆気に取られている加賀を忘れたかのように、彼女は自分の顔を手で何度も押さえている。そして花の中で飛んだり跳ねたり、腕を曲げたり伸ばしたりして、まるで子供のように確認している。
ただ冷静な加賀も不思議と、そんな川内の姿を自然に眺めていた。
やがて川内は確認するように加賀を振り返って言った。
「見て……あたし嬉しいんだ……元の体に戻って……」
「……」
川内は改めて加賀に言う。
「貴女も誰かに祈ってもらっんでしょ? でなきゃ、絶対にここには来れないんだよ」
「……さあ」
自分ですら愛想をつかしているのに一体、誰が私のことなんか。
その時、他の人の気配がした。
「加賀さん」
呼ばれた彼女は驚く。
「え?……赤城……さん?」
二人が顔を向けると、紛れもない。そこには赤城が微笑んで立っていた。
「嬉しいわ、貴女もここに来たのね?」
「いえ……私は……」
加賀は赤城と出会ったことは嬉しかった。ただ、ここは一体何処なのだろうか? そして、この場に来るとか、来ないとか……そもそも、自分だけは場違いな気がしてならない。
まだ混乱している加賀のところへ赤城は近づく。そして彼女の手を取った。
「ここはね、誰かに想われている人で無いと決して来ることが出来ないの」
「……」
ますます理解出来ない。こんな私を誰が一体、想うだろうか? むしろ疑われ、憎まれ、排斥されて当然だと思っている。
そんな加賀の心中を察したのだろうか? 赤城は微笑んだ。
「加賀さんらしいわね……良いのよ。そこも私は大好きだから」
赤城にそう言われた加賀は、急に恥ずかしい感情が芽生えた。でも嫌な気はしない。むしろ嬉しかった。そういえば目の前の赤城さんは、量産型(2号)だろう。だから自分との思い出の蓄積も無いはずだった。それなのになぜ? この子はそこまで言い切れるのだろうか?
「ウフフ、加賀さんのその疑問、私にも答えられないわ、きっと」
いや、それは期待していない、と加賀は内心連想した。
「でも私は思うの……この世界は、心の優しい人で無ければ絶対に来ることが出来ないって」
そう言いながら赤城は川内と目配せをしている。
「加賀さんも、本当はとっても優しいのよ」
「……」
自分で赤面しているのが分かった。でも……止めてとも言い辛くて下を向く加賀。
その時、遠くからゴーっという音が聞こえて、丘の向こうから風が吹いてきた。花びらやタンポポのような綿毛の植物が舞っている。
無数の花びらが舞い上がる。しかし、決して根こそぎ持っていくような強い風ではない。力強さと繊細さと、両方を感じさせる不思議な優しい風だった。
それが波打つように彼女達の周りを旋回し始める。無数の花びらや綿毛がダンスを踊るようにリズミカルに舞い上がる。やがて手を振るようにして川内が風に乗って浮き上がった。
常識から見れば、不思議な現象なのだが……何故か、加賀にもそれが、とても当たり前のことのように感じられた。やがて優しい風は、赤城も包み込んだ。その瞬間、彼女がキラキラと輝いたように見えた。
これも……とても当たり前のことのように感じられる。なぜだろう……ここでは、全ての疑いや疑問、悩みと言ったものは無数の花びらと共に消えてしまうようだ。
風に包まれた赤城は、スッと掌を加賀に向けた。何となく……加賀にも彼女の言わんとする事が分かった。
だが……加賀は自然に答えた。
「ごめんなさい、赤城さん。私はまだ……行けない」
すると風の中の赤城はニッコリ微笑んだ。そのまま風に乗って行ってしまうかな……と、加賀が思った次の瞬間だった。突然加賀は赤城に抱擁されている自分に気付いた。
赤城は何も言わなかった。加賀も黙っていた。しかし二人は、お互いを確認しあうように、しっかりと抱き合った。
いつか、また会えるかしら?
ううん、いつでも会えるのよ。
そのまま、永遠に時間が止まって欲しかった。でも、それも間違いだ。時間も空間も、全ての壁や溝は、心が一つになれば、自ずと消えていくのだ。
想う事、想われる事。
加賀は思った。
私も還ろう、私を待つ人たちの所へ。
そう思った瞬間、加賀は静かに目を開けた。彼女はベッドの上だった。ふと見ると自分の側に赤城がいた。彼女は加賀を見た。
加賀は躊躇わずに言った。
「ただいま」
赤城は応えた。
「おかえりなさい……加賀さん」
どちらとも無く差し出した手を、二人はしっかりと握った。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。