「私は逃げも隠れもしないわ」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第68話:『覚悟の涙』
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秋雲は一時間以上も延々と一人で語り続けた。
最初は巻雲との出会いから始まって横須賀での楽しかった思い出。そして仲良しだった巻雲が突然、美保へ転属と聞いてショックを受けたこと。
さらにガマン出来なくなって横須賀を脱走した顛末……それは本来なら重い処罰となるはずだ。しかし日向の嘆願で許されたこと。その代わりに日向が横須賀へ移ることになったことなど。
秋雲は身振り手振りで時にはスケッチブックまで使って語ってくれた。何となく、その姿にふと、機嫌が良い時の赤城の姿を重ねてしまう加賀だった。
ただ彼女の思い出話の中で気になることがあった。それは秋雲の脱走事件を解決する際に、武蔵が口添えをしたという点だ。それは加賀にとっても意外なことだった。
それだけではない。今回の美保訪問についてもそうだ。日向は分かるとしても、なぜ武蔵までが、わざわざ地方の僻地である美保まで、やって来たのか?
加賀は思わず呟く。
「あの武蔵は、なぜ美保を気にかけるのだろう」
すると秋雲が反応する。
「えっとね。確か古(いにしえ)の艦長さんが司令と同郷なんだって。それで……だったよ」
「そう……」
なるほど、と加賀は思った。艦娘はそのカテゴリーが大きく成るほど性能だけでなく人格的な部分も深くなると言われている。実質的に艦娘の頂点に位置する武蔵や大和が深い感情の世界を持っているとしても何ら不思議ではない。
秋雲の話を聞く加賀が、また意外に思ったのは美保の副司令だ。それは重巡『祥高』。彼女はかつて横須賀に所属していた。そして、その当時から秋雲は彼女を慕っていたという。彼女が言うには、脱走の原因の一つに、彼女を慕ってと言う点もあったらしい。
そういえば……加賀にとっても祥高型というのは謎が多い。噂では、あの『武蔵』に匹敵する戦闘能力を有しているとも言う。それがなぜ前線を退いたのか? そしてなぜネームシップが次女なのか? さらにここ美保という地方に居るのはなぜか?
武蔵に祥高……何か引っ掛かるものを感じる加賀だった。
だが、さすがに夜も更けてきた。秋雲も語り疲れたらしい。
その姿を見て加賀は言った。
「ありがとう、もう休みましょうか?」
「……そ、そうだね」
ハッとした秋雲も話を切り上げることにしたらしい。
長い髪を振りながら彼女は頭を下げた。
「ごめんなさい、先輩に長々と話してしまいました」
加賀は微笑んだ。
「良いのよ。貴女の体験談は私には無い世界だったわ。そう、とても興味深かったわ」
「……」
秋雲は少し赤くなっている。
加賀は最後に秋雲に聞いた。
「アナタは、また横須賀に戻りたいと思わないの?」
ちょっと考えて秋雲は言った。
「うーん、確かに美保は田舎だけど住めば都って言うし。祥高さんに巻雲もいるからさぁ、寂しくないよ」
「そう……」
秋雲は長い髪の毛を気にしながら続ける。
「それに美保ってさ、時々中央からも次官とか……あと今回みたく武蔵とか凄い艦娘も来るんだよね」
「そのようね」
思わず相槌を入れる加賀。
「うん。それに……ここは米軍も入っていてさ、いろいろ設備も凄いんだよ。だからスパイとか変な緊張感もあるし」
「緊張感?」
意外な言葉に加賀は思わず笑った。
「ウフフ、アナタ本当に美保が好きなのね」
「あ、そっか」
加賀に指摘されて初めて自覚したような表情をした秋雲。
加賀は優しい眼差しで秋雲に言う。
「実はね、私も着任するまでは不安があったの。だけどアナタのお陰で私も美保が好きになりそうだわ」
その言葉に秋雲は目を輝かせた。
「うん、きっときっと……加賀さんも、ここを好きになるよ」
「そうね」
秋雲はベッドの横で直立すると敬礼をした。
「では秋雲、失礼します!」
「ありがとう」
加賀もベッドの上で敬礼した。
秋雲が退出した後、病室は静かになった。でも加賀は疲れていたのだろう。直ぐに寝入ることが出来た。
加賀はぼんやりとした、お花畑の夢を見たような気がした。ただ、ハッキリとは覚えていなかった。
翌日、誰かがドアをノックする音で加賀は目覚めた。彼女は久しぶりに熟睡出来たようだ。
思わず彼女は呟いた。
「秋雲にも感謝しなきゃね」
彼女が上体を起こすと同時にドアが開いた。
「失礼します!」
ドアが開くなりサッと敬礼をしてカゴを抱えた駆逐艦娘が入ってきた。
彼女は繋ぎの様な長袖、長ズボン姿だった。
「朝潮と申します。加賀さん、お体の方は宜しいですか?」
珍しくキビキビした駆逐艦ねと加賀は思った。
「ありがとう、大丈夫。とても調子良いわ」
朝潮は微笑んで言った。
「それは良かったです。慌ただしくて申し訳ないのですが、これからお着替えをして頂いてから陸へ戻ります」
「聞いているわ……でも」
加賀は改めて自分の着替えが無いことに気づいた。
「申し遅れました。加賀さんの着替えは、こちらにご準備しています」
彼女は持っていたカゴを加賀の前に差し出した。
「ありがとう」
加賀はベッドから起き上がり床に足を着けるとゆっくりと踏みしめるように立ち上がった。やはり潜水艦ね、少し揺れるわ。
彼女はカゴの着替えを手に取った。
「あら……洗濯してくれたのね」
「はい」
朝潮は少し恥ずかしそうな顔をした。
そんな彼女を見ながら加賀が着替えを始めようとすると、朝潮はやや戸惑ったような表情を見せた。
加賀は言った。
「良いのよ、そこに居ても。まだ私は監視すべき対象でしょう?」
「……」
朝潮は更に困惑したような表情を見せる。
「大丈夫、私は監視されるのは慣れているし……貴女も任務なんだから、もっと堂々として良いのよ」
「はい……」
小声で頷く朝潮。
加賀は付け加える。
「ゴメンなさい……もうちょっと穏やかな言い方があると思うのだけど、やっぱりダメね私」
「いえ、そんなこと無いと思います!」
慌てて取り繕う朝潮に加賀は微笑む。
「ありがとう……美保は皆、貴女のような優しい艦娘ばかりなのね、きっと」
「……」
朝潮は真っ赤になった。
そうこうしているうちに加賀は手際よく着替えた。寝巻きはカゴに返し、朝潮の案内で彼女は病室を出ると艦内を進んだ。
「潜水艦」
何気なく加賀は呟いた。潜水艦娘は何度も見ているが実物の内部に入るのは初めてだ。通路で時おり乗組員とすれ違うが、ほぼ全員が艦娘らしい。
やがて垂直の登り梯子の下に来た。
「ここから登るのですが、お怪我の方は……」
心配そうな朝潮に加賀は微笑む。
「大丈夫。普段、弓を扱っているから片手でも十分、登れるわ」
彼女は手馴れた様子で片手で梯子を上っていく。ふと朝潮を見ると気を遣っているらしく目を背けている。そうだ、下からはパン○丸見えね……思わず微笑みながら、彼女は改めて悟った。だから艦内の乗組員は、普通の艦娘の制服ではない。長袖、長ズボンだ。
ただ昨夜の秋雲は普通の艦娘の格好だったわね。状況に応じて臨機応変、着替えているのかも知れない。
そう思いながら加賀は表に出た。そこは早朝の美保湾だった。風が強いが朝日が出る前らしい。朝の清々しさと艦の喫水線から舞い上がる粒潮が心地良かった。やはり自分は艦娘なのだ。彼女は改めて思う。私は海を離れて生きることは出来ない。
ふと見ると船体には内火艇が横付けされていた。
「加賀さん」
潜水艦の甲板に立つ赤城が声をかけてきた。
彼女は風になびく長い髪を片手で押さえながら言った。
「腕は……まだ痛むの?」
「ええ……少しだけ」
少し腕を押さえながら応えた加賀に赤城は微笑んだ。
「そう……じゃ、行きましょうか?」
赤城は手を差し出してきた。一瞬、戸惑った加賀は、軽く頷くと赤城と手を繋いで内火艇へと乗り移った。
船体が小さいので内火艇は大きく揺れていた。やはり海上は風が強く、うねりもある。
「これじゃ、そのまま海の上を航行した方が良い感じね」
苦笑する赤城に加賀も頷いた。
だが彼女は薄々感づいていた。これは自分が逃亡しないよう、緩やかな監視の下で護送するのだろう。それは仕方が無い。だって自分は裏切り者なのだから。
船内には固定された大きな箱……それが何であるか加賀は直ぐに悟った。自分を助けるために犠牲になった赤城2号だ。そう思うと胸が痛んだ。
赤城は言った。
「いろいろあったけど……気にしないでね加賀さん。私は、個人的には全て水に流して貴女を迎えたいと思うのよ。だけど……」
「良いのよ」
加賀は応えた。
「私は逃げも隠れもしないわ。償うべきは償う。受けるべき処罰は全て、受け入れるつもりよ」
その言葉に赤城は微笑む。
「やっぱり……貴女ね、加賀さん。ウフフ、何だか貴女らしくてとっても安心するわ」
そう言いながら赤城は、なぜか涙ぐんだようで、軽く涙を拭っていた。
加賀も、やはり目の前が涙で一杯になって慌てて拭った。幸い、船内には赤城と加賀、それに……。
「どーしたの?」
「何でもないわ」
「ふーん」
そう、船内にはもう一人。秋雲が居るだけだった。
そういえば今、赤城も秋雲も普通の艦娘の制服を着ている。
「どーしたの? 加賀さん」
秋雲は屈託が無い。
「潜水艦の乗組員は艦娘なのに、専用の制服を着るのね」
「ああ、あれ?」
この子は相変わらずだなと加賀は思った。でもこういう裏表の無い艦娘も好きになれそう。加賀はそう思った。
その時、運転台から艦娘が振り返って声をかけて来た。もう一人、居たのね。
「宜しいでしょうか? 出します」
青い髪の……確か五月雨か。
「お願いね」
赤城が答える。
高まるエンジン音。そして赤城と秋雲が突然立ち上がって敬礼をする。加賀も慌てて敬礼をすると……いつの間にか、潜水艦の甲板には艦娘たちが勢ぞろいして内火艇へ敬礼をしていた。
加賀は直ぐに悟った。そうか、彼女たちは赤城2号の棺に対して敬礼をしているのだ。
自分の身代わりになった赤城2号。そして彼女を敢えて復活させなかった赤城。赤城2号は、きっと今までも精一杯、一途に戦ってきたに違いない。そんな彼女にとって、もはや悔いも恨みも何も残らなかったのだろう。
杓子定規で儀礼的な所作は苦手な加賀だ。しかし今回はごく自然に赤城2号に対して敬礼をしていた。そう、加賀にとっては今まで、ほとんど感じることが無かった戦死した艦娘への追悼。それがこの瞬間、なぜか初めて胸の悼みを感じた。そして……誇らしく感じたのだ。
何だろうか? 加賀は自分でも意外なことに鳥肌が立った。と、同時に涙が溢れてきた。
「やだ」
思わず小声で否定した。
艦娘として国を護る。誰かを護る。ただ、それだけなのに……。
誰かに強制されたわけではない。だがそれは、自分の中から湧き出てきた艦娘としての自然な感情の高まりだった。
ふと気付くと赤城も微笑んでいた。いや、笑顔を作りながらも彼女も泣いていたのだ。そうか……そうよね。加賀は改めて心が苦しくなった。
だが赤城は言った。
「良いのよ、加賀さん。これは私たちの宿命だから」
「そうね」
本心から同意したとは思えなかったが自然に言葉が出た。
秋雲は泣いては居なかったが、やはり感極まっているようだった。スケッチブックで何かを書きかけて……静止していた。
やがて内火艇は、美保鎮守府の港湾部に入る。早朝にもかかわらず、その埠頭には、たくさんの艦娘たちが立ち並んでいた。加賀は躊躇したが、もはや逃げられない。
すると赤城は立ち上がって加賀の手を取った。
「大丈夫。誰も貴方を責めはしない。もしそんなことがあれば、私が全力で貴女の盾になるから」
「ありがとう。でも大丈夫」
応えながら加賀も立ち上がる。
「私もここで戦う覚悟を決めたから」
加賀の言葉に赤城は微笑んだ。
艦娘たちの表情が見分けられるくらいに埠頭に近づいたとき、加賀は金城提督の姿を認めた。やはり自分が盛った毒が効いているのだろう。金剛の肩を借りて何とか立っている様子の彼。まだ調子が悪そうだ。
彼の姿を見た加賀は一瞬、動揺したが直ぐに思い直した。
「私はもう逃げない」
そんな加賀を赤城は優しく見つめるのだった。
そのとき大山の稜線を黄色く染めた朝日が美保鎮守府に光を差し込んだ。港湾部の群青色の海と赤いレンガの建物。
そして建物の影に見えるオスプレイの白い機体。その背後の島根半島の木々の緑。
グレーの埠頭に色とりどりの制服に身を包んで敬礼をする美保の艦娘たち。あの金髪の夕立も茶髪の大井もいる。そして、その中央には白い制服の美保司令夫妻。加賀には二人がとても神々しく思えた。
なぜかその煌めく光景を見た加賀は涙が溢れて止まらなくなった。
国造(くにつく)り神話が残る山陰地方。この地域……特に美保鎮守府周辺の名前を関した艦娘が皆無だという不思議な事実に気付く加賀。そこには何か深い意味があるのかも知れない。
祥高も武蔵も、そして日向も……いや、この美保鎮守府の存在自体が何かこの国にとって大きな意味を持つに違いない。なぜかそんな確信が沸いてきた彼女だった。
そうだ、もう何も恐れなくて良いんだ。私は独りじゃない。加賀は思った。私はここで新生する。
彼女は呟いた。
「ただいま……みんな。私は戻ったわ」
美保司令夫妻が微笑んだように感じられた。その瞬間、加賀は暖かい何かを感じた。そうか、これか……。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。