「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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美保鎮守府の埠頭でささやかな葬儀が行われ、赤城2号の棺が送り出される。加賀の胸にさまざまな思いが去来する。そして彼女は大きな峠を迎える。


第69話:『追悼』

「あなたは……本当に苦労してきたのね」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

 第69話:『追悼』

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 内火艇が美保鎮守府の岸壁に横付けされ、待機していた軽巡の姉妹たちがサッと乗り込んだ。他の艦娘たちが軒並み敬礼する中で赤城2号の棺は、ゆっくりと搬出される。

 赤城はずっと滂沱(ぼうだ)の涙を流している。気にしないでと言われつつも彼女の姿を見ると改めて胸が痛む加賀だった。

 

 今回の陰謀劇は、そもそも自分の復活から始まっていたような気がする。

 

そういえば昨日、赤城さんが言っていた艦娘が復活するために必須なもの。『現世に強く戻りたいと思っている魂』という言葉が引っ掛かった。

 

 そうだ。そもそも自分自身は、どうなのだ?

 いま埠頭に立っている金城提督。加賀自身、彼のことはボンヤリと覚えているのだが彼ゆえに激しく地上に戻りたいと思ったわけでもない。恨みも無い。

 

 では改めて自分が復活したのは、いったい何が動機だったのか?

 

「……行こう?」

 運び出される棺に合わせて船を降りようとした秋雲が、泣いている赤城と考え込んでいる加賀に声をかけてくれた。加賀は赤城の肩に手を添えた。赤城は泣き笑いの表情のまま、加賀と共に船を降りた。

 

 埠頭には既に軍用車が用意されている。その手前に簡単な祭壇が設けられ一旦、棺がそこに設置された。

 埠頭に並んでいた艦娘たちは一斉に、献花台に花を手向(たむ)ける。美保鎮守府は小さい拠点なので、この場に居る艦娘たちも百名に満たない。また埠頭で執り行われているこの式典自体も、ささやかなものだろう。

 

 それでも加賀にとっては、今まで自分が見てきた葬儀の中では一番、心に響くものがあった。もし加賀のように、過去に葬儀に参加したことのある艦娘であれば、きっと同じように感じたに違いない。

 

 赤城は加賀に肩を抱かれながら、ずっと泣いていた。自分より涙もろい赤城さん。それは自分にはちょっと理解出来ない世界だが、赤城さんらしいなと加賀は思った。

 

 一通り献花が終わった段階で司令が前に出た。

 

司令は制帽を脱いだ。そしてまずは棺に、続いて艦娘たちに礼をした。

「私たちは誰かを守るために、この場に居ます。この国を護ることはもちろんですが隣に居る姉妹を護ることも結局、同じことです」

 

 赤城さんと同じことを言っているなと加賀は思った。きっと赤城さんは普段から司令の想いを理解しているのだろう。

 

 司令は続ける。

「この場で不謹慎かも知れませんが私は嬉しい。量産型であっても艦娘は成長出来る。そして私のような人間にも決して劣ることの無い高い精神性を持てる。それは犠牲という行動を命令されなくても自然に行えること。そこまで至った赤城は美保の誇りです」

 

 何人かの艦娘は泣いている。娘と並んで立っている大井はしきりに頷く。

 

 美保司令はやや間を取ってから言う。

「2号だけでない。私は全員、皆さんを誇ります。だからこそ、護りたい。この国と艦娘を。私たちの、この身体は朽ちたとしても、その志は永遠に残ります。今日、この赤城の気持ちを受け継いで、私たちは前進して参りましょう」

 

 静寂。

 そうか……葬儀なので拍手は起きない。加賀は気付いた。

 

 大淀さんが合図をして、軽巡の姉妹たちが棺をトラックへ搬入する。白い手袋をはめた夕張と霞、それに軽巡姉妹たちは改めて司令夫妻に敬礼をして運転席に乗り込んだ。

 

 ここで副司令が、さっと全体を見回して号令を掛けた。

「一同、敬礼!」

 

 そこで、その場に居た艦娘たち全員が改めて敬礼をする。トラックがクラクションを鳴らして出発する。M-ATVが随送する。

 

 堪えきれなくなったのか赤城は加賀の胸の中で思いっきり泣き始めた。自分には分不相応だと思いつつも同じ一航戦。加賀もまた赤城の頭を抱きしめた。

 彼女も泣くまいとガマンしていたがダメだった。赤城ほどではないが加賀もまた静かに涙を流し始めた。艦娘への追悼の涙。自分でも信じられない。だが赤城と二人で同じ涙を流していることに、不思議なものを感じた。

 

 艦娘という存在は人間よりは長生きするようだが、轟沈してしまえばそれで終わりだ。ただ加賀は感じた。連綿と続く一筋の想いの連鎖。自分はその中の、ほんの一瞬に過ぎない。

 そもそも私たちは、どこから来て何をして何処へ行ってしまうのか? 果てしない流れの中の一瞬の煌めきの如く。そう思いながら彼女は司令夫妻と金城提督を見た。

彼らを見て悟った……そうかケッコンか。

 

 あの医師も言っていたな。ケッコンは第一世代の艦娘が鍵だと。だから彼は、自分の復活に情熱を注いで居らしい。それは彼が偶然、自分の轟沈後に回収された部品の一部を入手したことに始まったという。それがどういう経路でブルネイから彼の手に入ったのかは知らなかった。

 

 情熱か……あの医師は嫌いだったが、彼の情熱そのものは尊敬に値するかもしれない。赤城を抱きしめながら加賀は思った。あの医師は確か弟が居たようだ。彼もまた海軍だったかな? 

 

 なぜこんな事を思い出すのか? 私らしくない。だが姉のような赤城さんが側に居るからだろうか? 美保に来てから私はどうなってしまったのだろうかと加賀は思った。だが、それは彼女にとって、さほど不快感は無かった。むしろ、こういう変化は好ましいことかも知れない。

 

 トラックが視界から消えると自然に散会となった。その雰囲気で赤城も恥ずかしそうに加賀から離れた。

「ごめんなさい、加賀さん」

 

「良いのよ……」

 応えながら彼女は、金城提督のところへ行くべきか悩んだ。だがその前に副司令の祥高が声を掛けてきた。

 

「加賀さん」

 その口調で彼女は直ぐに副司令の意図を悟った。

 

「はい……従います」

 その言葉に、司令夫妻は顔を見合わせた。

 

 司令は言った。

「では、執務室へ上がろうか」

 

「はい」

 加賀は頷いた。そして歩き始めた司令夫妻に従った。だが彼女は金城提督とすれ違う際に軽く会釈をした。金城提督も軽く頷いた。そんな二人を感慨深そうに見詰めている大井。娘の伊吹は少し不思議そうな顔をしていた。

 

 それらを総括するように見ている二人の青葉と、感極まっている秋雲。

 

 巻雲が不思議そうに言う。

「ねえ、どうしたの?」

「深い……深いなぁ」

 

 秋雲の言葉に首を傾げる巻雲。

「えぇ? 何が深いの」

 

 だが秋雲は直ぐに応えずに、スケッチブックを頭に乗せる真似をしながら笑った。

「今に分かるよ」

 

「秋雲のイジワル」

 巻雲は口を尖らせた。 

 

 

 2階の執務室へ入る司令夫妻と加賀。司令はソファに腰を掛けると直ぐにプリントアウトされた資料を取り出した。

「中央で動いている次官や作戦参謀……あ、いや副長官からの報告によると君は興味深い立場に居るようだね」

 

「はい」

 加賀は躊躇(ちゅうちょ)無く答え、続けて補足するように言った。

 

「私が知っていることは全てお話します。どんな処分も受ける覚悟です」

 思わず顔を見合わせる司令夫妻。

 

「今回は複雑でね……君の復活のこともあるが、そもそも君の着任からして不透明だ。さらに君が金城提督を狙ったことと、彼の君への嘆願……いったいどこから手を付けて良いのか……」

 

 加賀は黙っていた。ただ分かっているところから始めよう。

「私は……復活する前は、恐らく深海棲艦の一派だったかも知れません」

 

「……」

 司令は書類を持ったまま加賀を見詰めた。

 

 加賀は続ける。

「その前は……ボンヤリとですが、ブルネイで沈んだような記憶があります……ですが金城提督を恨んでいたとか、そういったことはありません」

 

 加賀のその言葉に美保司令は何かに気付いたような表情を見せる。

「だろうな……それは分かるよ」

 

「え?」

 意外な表情の加賀。

 

 美保司令は腕を組んで言う。

「うちにも君のように敵陣から復活してきた艦娘が居てね。でも彼女も私のことは覚えていたらしいんだが、恨みとかは無いと表現していた……」

 

 副司令の祥高も続ける。

「人間だと、こういう場合は『恨み』が動機になることが多いけれど、艦娘の場合はちょっと違うみたい。そうね、恨みというより執着というべきかしら?」

 

「でも……」

 加賀は言う。

 

「私は……金城提督とかブルネイに、思い出とか執着があったわけではないの……ただ、あの医師に、引っ張られたような……」

 

 加賀の言葉に祥高が不思議そうな顔をする。

「医師?」

 

 すると美保司令は書類をめくり始める。

「確か副長官の資料にあった……あれだよ、君の妹が『息の根を止めてやる』って言ってた佐世保だかどこかに居た軍医」

 

 加賀は頷く。

「そう、その彼です。私は彼の実験の素材として復活しました」

 

「そう、そこまで技術は進んだのね」

 意外にも冷静な祥高。

 

 加賀は、復活技術を持つ祥高が目の前に居ることを改めて悟った。そう……もし可能であれば、自分が感じている疑問を彼女に聞いてみたい。だが……今の自分は罪人のようなもの。そんな失礼なことは出来ない。

 

 だが加賀の気持ちを悟ったのか、祥高が自ら口を開く。

「加賀さん」

 

「はい」

 一瞬、戸惑う加賀。

 

「あなたは本当に生真面目な子ね」

 その言葉に加賀は急に頭に血が上ったようにカーッとなった。図星、というより恥ずかしいというか、不思議な感覚に捉われた。

 

 そうだ、今まで自分の周りに居た艦娘も人間も、誰もが皆、自分に気を使って真綿に包んだような、回りくどい言い方しかして来なかったのだ。

それがこの祥高さんは……そうか。この人は赤城さんに似ている。同時にまた秋雲のようなストレートな純粋さも持っている。

 重巡『祥高』。武蔵に匹敵するという内容は、戦闘能力だけではないんだ。

 

「そんなに緊張しなくても良いのよ?」

「……はい、すみません」

 すると祥高は立ち上がって加賀の隣に座る。さらに緊張する加賀。

 

するといきなり祥高が抱きしめてきた。瞬間的に電気が走ったように硬直する加賀。

「あ……」

 

「良いのよ、ジッとして……あなたは生前も、生まれ変わってからも……苦労を自ら背負い込むのね」

「……」

 別に優しいわけでも、図星でも何でもないはずなのに……加賀の瞳は涙で溢れた。なぜ? 私が苦労を背負い込む?

 

「良いのよ、加賀さん。あなたが悪いわけじゃない。そういう位置に立ってしまう艦娘が居るの。あなたはその一人……」

 

 加賀は涙が止まらなかった。自分ではよく分からない。でも……自分の背後に何かが居て、それが泣いているような感じがするのだ。これは何だ? 

 

 祥高は言う。

「復活というのはね。言葉どおりじゃないの。ただ生命体として生き返っても、その子の魂が本当に『復活』しているかどうか? あなたは……本当に苦労してきたのね」

 

 加賀は何も言えなくなった。いや、思考すら停止しそうだ。祥高さんの言う『復活』とは、いったい……。

 

「加賀さん、何も考えないで。何も心配しなくて良いから……」

 祥高の言葉に、加賀は脱力した。そうか、ここは戦場じゃないんだ。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。

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