「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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祥高の対応に感銘を受ける加賀。彼女は自分から全てを話そうと決意する。そして祥高の口から語られた秋雲ほか艦娘に関する内容は衝撃的なものだった。


第70話:『策略』

「駆逐艦の脱走劇にしては、妙だと思わなかった?」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

 第70話:『策略』

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 加賀は家族というものを知らない。

 

 しかし祥高に抱かれた彼女は、その物理的な体温だけではなく感情的な温もりと同時に安堵感を味わっていた。それはまた全ての恨みや不安までも溶かし去るようだった。

 

また何かの新しい力が満ちてくるようでもあった。人間社会にある家族関係とは、こういうモノだろうか? 彼女には何となく、そう思えた。

 

『これは赤城さんと話している感覚に似ているかも知れないわね』

彼女はそう思った。ただ、それを具体的に意識したのは初めてのことだった。

 

 そういえば自分は復活する前も、それ以後も、わき目も振らず、ひたすら前進していた。周りを見たり他の艦娘との関係を意識することは皆無だった。自分は兵器に過ぎないから必要以上の護身や保身、さらに自分の存在意義を考えるなどナンセンスだと思っていた。

 

 もちろん赤城さんは自分とは違う。あの人は、そういった人間的なことも考えるかも知れない。でも自分に感情論など無縁だと思ってきた。

 

 だから加賀には今、祥高に触れて味わうこの感覚に戸惑いもあった。それでいて彼女自身、ここにずっと留まっていたいと願う不可思議な気持ちも芽生えていた。

 

 ……この重巡『祥高』とは、いったいどんな艦娘なのか? 彼女の過去の戦歴や経緯が気になる……。

 

 そんな彼女の思いに呼応するように祥高は司令に確認を取った。

「加賀さんには、どこまで話しましょうか? 司令」

 

司令はアゴを手で擦りながら頷く。

「そうだな」

 

 だが加賀は彼らが言うより先に自分から話そうと思った。

「あの……」

 

 加賀の問い掛けに司令夫妻は注目した。

 

彼女は祥高に軽く会釈をして身体を離した。そして改めて襟元を正しながら言った。

 

「お二人には私の知っていることからまず、お話をさせて下さい」

そういって頭を下げた。加賀にとっては自分から話す方が楽になると思えたのだ。

その申し出に対して司令夫妻も頷いた。

 

 彼女は記憶を手繰るようにポツポツと語り始めた。

「私はかつてブルネイに所属していた記憶があります。でも当時のことは正直、はっきりと覚えていません」

 

「その感覚は分かるよ」

司令は言う。

 

「一度沈んだわけだから、そこは当然だ。深海棲艦側に行った場合は、なお更だよ」

 

「え?」

加賀は少し驚いた。

 

祥高が続ける。

「そうね。だから復活した子は特定部分だけの記憶が残っていることが多いわ。人間関係とか、他の艦娘との思い出。或いは海戦の記憶とか……そういう記憶があるから、戻ってくることが出来るとも言えるわ」

 

彼女も復活という現象に関しては詳しそうだ。

 

 だが加賀は、その考え方を緩く否定した。

「いえ……私はブルネイや金城提督に強い執着があるとか、そういう感覚は無いです」

 

司令は、また大きく頷いて言った。

「君の気持ちも分かるよ。だが……うちの大井がね、復活してからも君と同じようなことを何度も言うんだよ。敵側に居た間の記憶は、やっぱりボンヤリしていると言うんだね」

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祥高も頷く。

「そう。艦娘は単なる機械じゃないから、時間が経つと人間のように記憶もボヤけて来るのね」

 

 二人の言葉に逆に戸惑いを覚えた加賀。彼女自身、艦娘とは機械が進化したものだとばかり思っていた。

 

「あの……」

つい言葉が出た。

 

「艦娘が機械じゃないって……どういうことですか?」

 

 加賀の問い掛けに笑顔で応える祥高。

「あなたの質問そのものが、その答えよ。機械だったら疑問も反発も起きないでしょう?」

 

「はい」

納得し、同意した加賀。ところが彼女の中には『まさか』と思う部分もあった。何なの? この矛盾した感覚は。

 

 改めて加賀は思った。私は美保に来て暗殺未遂事件を起こして結局、自分までおかしくなってしまったのだろうか? 

 

 すると祥高が続ける。

「もし貴女が機械だったら悩みも迷いも無いはず。だけど貴女は今も、そして過去も……ううん、沈む直前のブルネイでも、いろいろ悩んでいたはず。それは答えの出ない問い掛け。人間も同じことよ」

 

「……」

 加賀は沈黙した。人間に比べたら私など取るに足らない。

 

 祥高は、そんな加賀の顔を見て微笑む。

「正面から、悩みにぶつかっていく子も居れば、ひたすら逃げようとする子も居る。そのどちらも機械ではありえない反応。悩みが生じて、それに葛藤する姿は人間そのもの……。だからこそ『艦娘』らしいとも言えるわね」

 

加賀は目まいがしそうだった。ただ、そうやって混乱する自分自身が、まさに機械でない証拠なのか。

 

 彼女の思いを悟ったかのように祥高は言う。

「分かった? 思い悩むことは機械なら問題だけど、艦娘であれば当たり前のことよ。そして貴女は他の艦娘とは違う経験をしているから、悩みが多くなって当然なの」

 

 安堵すると同時に、この副司令の大きさに圧倒される加賀。改めてこの人は何なのだろうか?

 

 祥高は言う。

「司令?」

 

「そうだな……」

二人は相槌を打っている。

 

司令も加賀を見詰めて腕を組んで言った。

「君は副司令のことが、とても気になるようだね」

 

「……」

彼の問い掛けに加賀は黙り込んだ。

 

祥高は微笑む。

「良いのよ。それはきっと加賀さんが私と似ているからね」

 

「いえ……そんな」

加賀は面映(おもはゆ)い気持ちだった。

 

 やや決意したような顔つきで副司令は言った。

「これから話すことは念のため口外無用で……約束できる?」

 

「え……」

もちろん自分の今後は分からない。今回の件で処分されるかも知れない。そのことは司令夫妻も知っているはずだ。それなのに何を自分に明かそうというのか?

 

「私如きでも宜しいのでしょうか?」

 謙遜する加賀の言葉に祥高はとても暖かい眼差しを向ける。

 

ドキッとした。こんな表情をする艦娘を彼女は初めて見た。極めて人間臭い……褒め言葉だ。

祥高は言う。

「加賀さん、これは司令以外の誰にも話したことがないこと。ただ貴女は今後、美保で重要な役割を担うようになると思うから今話しておくのよ。分かる?」

 

「はい」

加賀は躊躇無く答えた。そう、副司令は信頼してくれる。そして彼女には自分の全てを委ねても大丈夫だと確信した。

 

「あなたを信頼します」

発したその言葉に加賀は自分自身、鳥肌が立った。

 

 司令夫妻は頷き合った。そして祥高は言う。

「良い子ね」

 

 その言葉で加賀は全ての重荷が外れた心地だった。ここにあるのは『恐れ』ではない。ただ司令夫妻に信頼されている安心感。加賀にとっては赤城との信頼感よりも、さらに強い絆。それが芽生えた瞬間だ。

 

 祥高は言う。

「秋雲のことはいろいろ聞いているわね」

 

「はい」

昨夜、潜水艦で彼女の話を長々と聞いたばかりだ。

 

「実は昨夜、身の上話を聞きました」

加賀は淡々と説明する。それを聞いた司令夫妻は顔を見合わせる。

 

祥高は言う。

「あら、秋雲らしい……あの子、横須賀から脱走した事も話していた?」

 

「はい。それで日向がここから移ったことも聞きました」

 

加賀の返事に祥高は頷く。

「秋雲は駆逐艦だけど……単なる脱走劇にしては、妙だと思わなかった?」

 

加賀は首を傾げながら答える。

「え? ……まぁ、個人的にはなぜ、武蔵まで口を出したのか疑問で」

 

すると司令が言う。

「そうだね。実は秋雲の脱走そのものが、元帥閣下の指示されたことだったんだよ」

 

 驚く加賀。

「まさか……本当ですか?」

 

司令は頷いて続ける。 

「秋雲はね、よく絵を描いているだろう? あれも単なる趣味じゃない。ああやって人の動きを観察しているんだよ。それは逐一、元帥にも報告される」

 

「……」

加賀は絶句した。そういえば秋雲は元帥と面識はないと即答していた。しかし考えてみたら、その答え方も不自然だった。

 

 その時、司令夫妻が同時に『何か』に反応する。一瞬、二人で顔を見合わせていたが副司令が受電した。

「はい……あらぁ、石見。どうしたの?」

 

 石見(いわみ)? 何処かで聞いたことがある。すると司令が言う。

「石見は軍令部の作戦局副長官、祥高さんの妹だよ」

 

「……」

 加賀は黙って頷く。その祥高の会話は続いているが、やがて彼女は無線を終わる。副司令が報告するのかと思ったら二人は互いに頷くだけだった。

 

 怪訝そうな加賀の表情に、副司令は言う。

「今日の夕方の便でね、副大臣と副長官がまた美保に来るそうよ」

 

「え?」

驚く加賀に司令も言う。

 

「つい今しがた軍令部及び艦隊司令部、さらに海軍省を含めて、君の処分が決定した」

 

「……」

思わず身構える加賀。

 

 司令は言う。

「結論から言うと、君はこのまま美保に着任だ。そして一時、解任された金城提督はブルネイの提督の位置に戻る」

 

「え?」

一瞬、信じられない加賀だった。

 

「良かったわね、加賀さん」

 副司令も喜んでくれる。そうか、喜んで良いのか……と頭の中で反復する加賀。何かこみ上げてくるものがあり涙が流れそうになった。

 

 しかし司令が続けた言葉で彼女は現実に引き戻された。

「君を復活させた医師は解任だが……ここで取引があったようだ」

 

「取引?」

 

怪訝(けげん)そうな顔をする加賀に司令は説明する。

「あの医師も根っからの悪人という感じではない。どちらかというと彼の取り巻きに唆(そそのか)された感じが強い……というのは次官の分析だが」

 それを聞いてなぜか少し安堵した加賀だった。確かにあの医師は嫌いだったが彼の艦娘への情熱そのものは純粋で、さほど悪意を感じなかったのだ。

 

 司令は報告書をめくりながら言う。

「まとめると結局、彼が責任を取って海軍を辞め、それ以上は責任を追及しない代わりに君の残留と正規空母二隻を美保に着任させることで話がついたようだ」

 

加賀は驚いた。

「そんなことが可能なのですか?」

 

司令は腕を組んだ。

「まあここは復活した艦娘が多く大井の前例もある。それに彼は艦娘の復活や二世について、かなり研究していたらしい。意図的に空母を建造させるレシピも持っていて、それを提供する条件を出したようだ」

 

 すると副司令が口を挟む。

「意図的な空母建造? ……では美保でも大型艦建造を始めますか?」

 

 しかし司令は書類を見ながら頭を軽く押さえる仕草をした。

「いや、その積もりはない。今のところ舞鶴か呉の協力を仰いで、そちらで空母艦娘を建造して回送することになりそうだ」

 

副司令は微笑んだ。

「量産型でも、美保に空母が増えたら貴重な戦力ですね」

 

司令も頷く。

「そうだね。まあ現状でも赤城に加賀が加われば美保には十分だが」

 

加賀も口を開く。

「でも……赤城2号の悲劇は繰り返したくない。一航戦だけでは不足です」

 

その言葉に司令は大きく頷く。

「君の言う通り。今まで赤城にばかり苦労をかけた。米軍の協力があるとは言っても、やはり艦娘を中心に闘うべきだ。空母の層を厚くすることも必要だろう」

 

その言葉に加賀も頷く。

「そうして頂けると嬉しく思います」

 

 ちょうどその時、構内に、お昼のラッパが鳴り響く。

 

司令は時計を見ながら言う。

「そうか、もうお昼か……どうする? 食堂で食べても良いが」

 

副司令が遮るように言う。

「司令、まだ彼女を表に出すのはどうでしょうか?」

 

「そうだな」

司令は頷くと、内線を呼び出す。

 

「大淀さん? ああ、私と副司令は加賀さんと執務室で昼食をとる。食事の準備と、あと赤城さんと秋雲に確認。時間があるなら一緒に執務室で昼食を……ああ」

 

 ほどなくして廊下を駆ける足音と慌ただしくドアをノックする音がした。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。
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