「加賀さんも、青葉さんも、そして……」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第71話:『泣いてもオッケー』(改2)
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ほどなくして廊下を駆ける足音と慌ただしくドアをノックする音がした。
「どうぞ」
司令が返事をすると同時に赤城と秋雲が顔を出した。
『失礼します』
二人はまず神棚に一礼した後、司令夫妻に敬礼をした。夫妻も敬礼を返す。
赤城は直ぐに感極まって加賀に近づくと手を取った。
「加賀さん……正式な着任おめでとう」
加賀も立ち上がって赤城の手を取った。
「ありがとう……でも少し戦いの腕は鈍ったかも知れないけれど」
「ああ、やっぱり、こうなったね」
スケッチブックを抱えた秋雲は二人を見ながら、いろいろ知っているような口調で話をする。
その秋雲の言葉に赤城は不思議そうな顔をしたが加賀は微笑んでいた。3人の光景を見た司令は、ちょっと意外な感じを受けた。こういう場合は加賀が不思議に思うだろうと。そんな加賀も殻を破って少しずつ変わりつつあるのかも知れない。
続けてノックの音。副司令が返事をするとドアを開けて鳳翔さんが顔を出す。
「あのぉ、お食事はもう、こちらへお持ちしても宜しいでしょうか?」
「ああ、頼むよ」
司令の言葉を受けた鳳翔さんは会釈をして一旦、扉を閉める。
ほどなくして第六駆逐隊を引き連れて配膳部隊がやってくる。それからは執務室での、ささやかな昼食会となった。
一番大人しいのが一航戦の二人。次が副司令。逆に一番賑やかだったのが秋雲だった。その内容は、ほとんど加賀が聞いたという例の横須賀からの脱走劇だった。
今回は既に元帥の指示で彼女が脱走したということが知れていたので余計に喋り易かったのだろう。あるいは今まで秘匿していたから耐えていた何かが外れたのだろうか。彼女は食事中も一人でずっと喋っていた。
だが脱走劇の内容も変な表現だが『充実』していた。艦娘二人が夜行列車で家出少女と怪しまれない振りをする苦労話に始まって秋雲と巻雲の列車珍道中。
山陰への乗換えとなる京都駅では列車を降りた際に警戒していた憲兵に危うく捕まりかけたことなど。それは司令夫妻にとっても興味深い内容だった。
話が美保鎮守府に到着する部分に来たとき、司令は改めて聞いた。
「その京都で捕まりかけたってことは元帥の密命というのは他の誰も知らなかったのか?」
「そうだよ誰も。だからイロイロ大変だったんだ」
あっけらかんと答える秋雲。
「えへへ……敵を欺くにはまず、味方からってね」
おどける秋雲。その軽さは何となく副大臣を連想させる。
しかし彼女、この性格だから良かったのだろうなと思わずには居られない司令だった。
食事が終わると司令は赤城と秋雲に対して加賀への鎮守府の案内を依頼した。頷いた3人は、食事が終わると敬礼をして退出した。
その後は朝潮と五月雨が食器を下げに来た。副司令の祥高も片付けを手伝い、そのまま3人は執務室を退出。
一人残された美保司令は、ゆっくりと立ち上がると窓の外を見た。ちょうど本館の前を一航戦の艦娘たちと秋雲が会話をしながら埠頭へ向かう姿が見える。
彼女らを見下ろしつつ司令は思った。
自分は軍人なので上からの命令に従って戦うのが基本だ。しかしここは艦娘を中心とした部隊。海軍の中でも特殊である。
さらに本来は友好国では無い米軍との軍事協力体制。これについては帝国海軍も陸軍も、そして空軍までもが黙認状態だ。
そして、いつの間にか美保はコンパクトさにモノを言わせて最新兵器をふんだんに投入した日米合同の実験部隊となりつつある。
またそれ以前から相次ぐシナからの波状攻撃。あの国は太平洋へ進出するために日本帝国が邪魔になるのは良く分かる。佐世保や舞鶴だけでなく、ここ山陰地方の中央に設置された美保鎮守府は彼らにとっても微妙に目障りなのだろう。日本海の往来を邪魔する位置だから。
もしかしたら彼らは、この中国地方を陸路を通って太平洋に抜けるという大胆な戦略でもあったのだろうか?
正直、そこまでは何とも言えない。だが仮にそうだとしたら、ここに鎮守府を設置した元帥の着眼点は的を得ていたのかも知れない。
もちろん深海棲艦との戦いも継続中だ。あいつらも女性だな……。
美保司令にとって女性=艦娘は苦手だ。それでも四苦八苦しているうちに気がつけば艦娘とケッコンしていた。今では2世も生まれ、その子も大きく成長した。
その後、彼女は大井の娘と共に米国へ駐在武官として留学。そのまま海兵隊に所属しつつオスプレイの操縦士として美保に駐留。日米海軍の橋渡しとなっている。
彼は思う。今でも不思議なことは、あのブルネイ演習だ。そこで時間が歪んだために未来へ飛んだのだろう。現地で出会った金城提督との縁も深くなった。結局、彼とは時代を超えて再会した。また、ブルネイで沈んだとされる艦娘の加賀までやって来た。
では……これからの美保鎮守府は?
そして自分たちは、どうなっていくのか? いや待て、未来から過去の自分への干渉を改めてする必要はあるのだろうか?
そこまで考えて司令は苦笑する。下手に考えても仕方が無い。
彼は背伸びをした。
「そうだ……空気を入れ替えよう」
そう呟いた司令は空調を止め窓を開いた。
キラキラと光る美保湾に浮かぶ大山(だいせん)が綺麗だ。山陰の夏は日本海側の気候であり実は晴天が多い。せっかくだからと司令は執務室の出入り口の扉も開け放った。すると窓から海風が、ふんだんに通り抜ける。
美保司令はタバコは吸わない。そのまま窓枠に腕を置いて外を眺める。海から風が吹き、鎮守府中庭の木立の葉がサワサワと音を立てる。実に清々しい。
埠頭の向こうでは金剛に付き添われて歩行訓練をしている金城提督が見えた。彼は大丈夫だろうか? ちょっと心配になった。
「司令!」
そのとき下からの声。見るとカメラを構えた美保の青葉だ。
「良いですかぁ?」と言いながらカメラのシャッターを切ろうとする。彼はオッケーのサインを出した。微笑みながらカメラを構える青葉。
以前の美保司令なら写真を撮られるのが嫌いだったから直ぐに顔を隠したものだ。しかし最近は、あまり拒否をしなくなった。特に青葉なら問題ない。
「お前(青葉)とも、いろいろあったな」
彼は何気なく呟(つぶや)いた。そう、美保の青葉は、かなり初期の段階で彼の養女となっていた。いやむしろ、その案を副司令に進言したのは彼女だったと言う話もあるくらいだ。
そして美保鎮守府が特殊なのは、美保司令と艦娘が、ほとんど親子(養女)の関係にあるという点だろう。これは不必要に艦娘と指揮官がイチャイチャしなくなるだけでなく、男女ではなく親子と言うかなり強い絆が結ばれるため、士気や忠誠心が高まるという利点がある。
だから軍令部も、艦娘との新たな関係として推奨するのだが、他の鎮守府では意外と進んでいないのが現状らしい。
彼がそんなことを考えていたら、美保の青葉の側の木立から、もう一人の『青葉』が飛び出してカメラを構えるのが見えた。
「おい、ブルネイの青葉も便乗か?」
「えへへ、恐縮です!」
笑う青葉……だが司令も別に嫌な気はしなかった。これが青葉なんだから。
数枚撮影した後、二人の青葉はカメラを抱えながら軽く敬礼をした。司令も窓から軽く敬礼を返した。
彼女達の後姿を見下ろしながら司令は呟く。
「お前はいつも青葉だな……」
そもそも彼が初めて美保鎮守府に着任したとき直ぐに声をかけてくれたのが彼女だった。もちろん記者としての彼女なりの使命感や好奇心もあっただろう。
それでも女性だけの鎮守府で孤立しそうな彼には青葉の屈託の無さに救われた。
「お前も彼岸からの『復活組』だったよな」
彼は彼女がブルネイで一度沈んだことを思い出していた。そういえば表に出ていない彼女の轟沈や、司令暗殺事件の手記があったはずだ。今でも副司令が厳重に保管しているはずだが……いつか見せてもらおう。
ふと向こうを見ると金城提督に何度も頭を下げている加賀の姿が見えた。彼は金剛に支えられながら彼女に何か話しかけている。
執務室の窓からは遠くてハッキリしない。ただ頭を下げた加賀は、そのまま静止している。あ……アレは多分、泣いているのだなと司令は思った。
案の定、その隣に居る赤城が加賀の背中に手を当てて、やっぱり一緒に頭を下げている。さすが一航戦の二人……その一体化振りに、とても強い絆を感じた司令だった。
その脇で、やはり秋雲がサラサラとスケッチをしている。それも提出するのか? ……いや、あれは彼女の趣味だろうな。
司令は思った。恐らく、あの二人を軸として、この鎮守府の空母による攻撃力が増強されていくのだろう。だから今後は、美保鎮守府にも正規空母が次々と着任するに違いない。そんな期待と予感がした。
彼は窓枠に手を置いて再び正面の大山を見た。
今日の夕方には中央から副大臣と副長官が来る。その際には加賀に同席して貰おうと司令は考えていた。
窓を開けたままデスクに戻った彼は、午後の執務を始めた。
一時間ほど執務を続けていると窓の下が騒がしくなった。彼は執務を中断して窓辺から顔を出した。直ぐ下では秋津州が小躍りしていた。どうやら二式大艇の電波を受信したらしい。そっち方面の感度は高い子だなと司令は感心した。
「大艇が来るのが、そんなに嬉しいか?」
司令が窓から声をかけると彼女は、こちらを見上げた。
「あ……司令」
彼女は軽く敬礼をしてから言った。
「えっと、中央から大艇ちゃんが来るから……今度こそ、私の出番かも」
最近では、この子も意外と修理や整備の腕が立つことが分かった。
「そういえば夕張さんが『お前が来て助かった』と言ってたよ」
司令の言葉にニコニコしながら彼女は言った。
「でしょ? こう見えても私イロイロ出来るのかも……じゃない、出来るんだから」
「ああ、助かるよ」
彼の言葉に満面の笑みを浮かべる秋津州。この子も表情が明るくなったなと彼は思った。
「あ、そうだ。司令?」
急に声の調子を下げる彼女。
「何だ?」
司令が応えると彼女は周りを気にするようにして言う。
「大声だとアレだから……ちょっとそっちに上がっても良い?」
「ああ」
何事だろう? そう思いながら走り去る彼女を見ながら司令もまた執務室へと引っ込んだ。直ぐに廊下をパタパタと駆けて来る足音が響いた。
「ああ! こういうのも良いですね」
開け放った扉から、ひょいと顔をのぞかせた彼女は言う。
「何だ? 話って」
司令はデスクからソファに腰をかけるように促しながら、自分も彼女の反対側のソファに腰をかけた。
少し改まった彼女はモジモジして指先を絡めながら座った。司令は内線でお茶を頼む。
秋津州は言う。
「えっと……さっき司令が加賀さんを見守っていたり青葉さんに写真を撮られたり……あと、あと、私に声をかけてくれたりしたよね?」
「ああ」
よく見ているなと彼は頷く。
彼女は組んだ手を見詰めながら言う。
「私、前にさ……佐世保で酷い目に遭ったって言ったよね」
司令が頷くと秋津州は少し目を上げてポツポツと続ける。
「その、予想外の嫌なことさせられたとか変なことを言われたとか。それも辛かったけど」
「……」
いきなり心情の吐露……どうしたんだ? と司令は思った。だが何か話したいのだ。彼は彼女の思うがままに任せた。
「もっと泣きそうだったのは仲間の艦娘とか基地の司令がさぁ、私が酷い目に遭っていても見てない振りをしてたことかも。そう……皆、私に何もしてくれなかった……私を無視したのかも」
司令は少し驚いた。
「佐世保で? そんなことがあったのか」
彼女は司令を見て頷くと、ちょっと間を置いて窓の外を見た。司令はふと、佐世保は国内有数の『ブラック鎮守府』だと思い出した。以前はそうではなかったはずだが……。
風が時々吹き込んでレースカーテンを揺らしている。秋津州の髪の毛も風に揺れていた。
ちょうどその時、ドアの外から大井が顔を出した。
「あの、お茶を」
「ああ、有り難う。ココに置いてくれ」
お茶を持ちながら会釈をした大井は司令と秋津州の前に茶碗を置く。
その際に彼女は秋津州をチラッと見て微笑んだ。秋津州も笑顔を返している。何か……ホッとする瞬間だ。大井も変わったよな……司令は思った。
礼をして大井が退出すると『ふう』……っとため息をついた秋津州。
司令に促されてお茶を含んだ彼女は彼女は明るい表情に戻って言った。
「でも司令はさ、ちょっと頼りないかも」
「悪かったな」
苦笑して答える彼に秋津州は言う。
「ううん、違うの。司令はさ、それでも私たちのことは、きちんと見てくれるよね。絶対に見放さないよね……」
必死な目つきに変わる彼女。
「あ、ああ」
司令もタジタジになる。
「さっきの加賀さんも、青葉さんも、そして……」
そう言いながら彼女はキラキラした瞳で司令を見詰めた。彼はドキッとした。
「私のことだって……しっかり見てくれるよね? ……だから、だから私、頑張れるのかも!」
「そうか?」
司令は何とも、ぎこちない応答しか出来ない自分が歯がゆかった。でも、そんな司令でも彼女にとっては、十分なのだろう。彼の言葉に何度も頷いている。
「そう、どんな綺麗な言葉よりも司令官の眼差しが私たちには一番嬉しいかも」
何度も自分に言い聞かせるように言う秋津州。
「それで、お願いがあるかも……じゃない、あります!」
普段の彼女からは想像出来ない、とても真剣な表情と眼差しに司令は『あれ? この子、こんなにオトナっぽい子だったっけ?』と思った。
「私もその、司令夫妻の子供に、お願いかも……じゃない、よろしくです!」
舌が回っていないが真剣さは伝わる。
「あ?」
またバカみたいな反応をしてしまった司令。だが秋津州は気にも留めずにもう一度言う。
「何か、そのために条件があるなら、私が何か足りないなら一生懸命頑張る! だから、だから……」
そう言いながら彼女の目が潤んできた。
「おいおい……泣くなって」
動揺する司令。
「だって……だって……」
やだな、まるで私が泣かせたみたいじゃないか?
この光景を誰かに見られたら……と司令が思った瞬間だ。
「テイ……トク?」
やばいと思えば直ぐコイツだ金剛! 美保の彼女がドアから覗き込んでいた。
金剛の言葉に一瞬、ビクッとした秋津州はその反動か急にボロボロと涙を流し始めた。
やばい、やばいぞ。
「いや、これはそのだな。何でもないって言うか……私が泣かせたわけでは決して無いわけで」
……慌てる司令。嗚咽する秋津州。
「Noプロブレムね」
そう言った金剛は意外にもニコニコして敬礼をするとソファの彼らに近づいてきた。
そして彼女は秋津州の肩に手を置いた。その表情は何とも言えないほど優しさに満ちていた。へえ金剛でもそんな聖母みたいな笑顔をするんだ……と司令が思うほどに慈愛に満ちた笑顔だ。
金剛型の長女にして四姉妹の取りまとめ役の彼女。もちろん美保でもその位置は変わらない。そういった立場が彼女を成長させているのだろう。
金剛は泣きじゃくる秋津州を見上げるようにしゃがみこんだ。
「アキツシマ……分かるよ? うん、ワタシにはその気持ち分かるネ……」
その言葉に秋津州は更に涙を流す。長身の金剛は床に両膝を就くと、そのまま秋津州を上半身で抱きしめた。なかなか絵になる光景だ。元々包容力のある金剛だが、さらに人格の深みが増したか。
「良いんだよ、それで。美保司令の前ではタップリ泣いてもオッケーだから」
そう言いながら、いつの間にか金剛も目を閉じて涙を流していた。
そういえば……この金剛も、青葉同様に比較的早い段階で司令夫妻の養女になったな……そんなことを思い出す司令だった。
「祥高と相談はするが……ああ、分かったよ秋津州」
司令の言葉にビクッと反応する彼女。涙を流した顔で、金剛の胸元から顔を出す。
頷きながら司令は言う。
「養子申請の書類は準備するよ、秋津州。だから安心しろ」
「……」
無言で頷く彼女。その表情は嬉しそうだった。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。