「頑張ってここで生き残るからネ……」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第72話:『司令の職業病』(改)
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美保司令は言った。
「養子縁組の書類の件は副司令(祥高)の確認も必要だ。秋津州には悪いが、また後で声を掛けるから執務室に寄って貰って良いかな?」
一旦、金剛から離れた秋津州は、軽く涙を拭うと笑顔で応えた。
「全然、オッケーかも……」
言いかけた彼女はハッとして慌てて言い直した。
「いえ、大丈夫です!」
司令は微笑んだ。
「ああ」
……彼女の口癖には閉口するが、自分でも分かっているんだな。彼女の慌てた表情を見て司令は安堵した。
「その言い方は、いつものお前(秋津州)だな」
「えへっ……ゴメンナサイ」
彼女も頭をかきながら笑顔で頷く。
その傍らに居た金剛も穏やかに微笑んで言った。
「じゃ、行きマスか?」
「はい」
二人は立ち上がった。
「では失礼しマス」
金剛に合わせて二人は敬礼した。その金剛は、ちゃっかりと司令にウインクをしている。おいおい……どさくさに紛れて何やっているんだ?
だが司令は苦笑しつつ立ち上がると敬礼を返した。
「金剛、お前もいつも通りだな」
「そうデース! 私はずっと……」
敬礼をしたまま、なぜか突然固まる金剛。
司令と秋津州は敬礼を直ったが、金剛は敬礼のポーズのまま硬直している。
「どうした?」
司令の言葉に秋津州も不思議そうに金剛を見た。一瞬、張り詰めた雰囲気になる執務室。
「テイトク、いや司令。ワタシ……」
言い直しながら金剛はボロボロと涙を流し始めた。
「ずっと、ずっとワタシ、頑張ってここで生き残るからネ……テイトクもずっと……元気で居てネ」
急に真面目な顔で言う。
一瞬躊躇した司令だった。しかし金剛のこの反応には思い当たる節はあった。
「加賀のことか?」
彼が聞くと、敬礼の姿勢のままの金剛は小さく頷いた。
美保の艦娘の多くが、あの金城提督の暗殺未遂と夕立の加賀追撃現場に居合わせていた。
その後の処置も含めて一連の情報は金剛の耳にも入っていたのだろう。
司令は優しい眼差しで、諭すように言った。
「安心しろ金剛。お前のその気持ちがあれば、私は大丈夫だ。ありがとう」
「うん……」
ようやく金剛はロボットのように、ぎこちなく敬礼を直った。
傍らで少しオロオロしていた秋津州もホッとした表情になる。一連のやり取りを見て何かを悟ったように軽く頷いた彼女は、その大きな瞳をキラキラさせて言った。
「そうかも。うん、きっと、そうですね」
直ぐに秋津州は自分のポケットからハンケチを取り出して金剛に手渡した。
「泣いても……良いんデスよね」
「サンクス」
そう言いながらハンケチを受け取った金剛は軽く目頭を押さえた。
「そう……司令の前で泣くとね、スッキリするのデース」
ようやく笑顔が戻った金剛だった。
彼女は秋津州に目配せをした。改めて二人は司令に会釈をすると揃って退室して行った。二人の背中が、とても清々しく感じられた。
「『スッキリするのデース』ってか」
金剛の言葉を反復する美保司令。彼女の日本語は相変わらず妙なイントネーションだ。
だが金剛は艦娘たちを自然に仕切るのが上手い。そして今の涙……彼女の心情は彼にも嬉しかった。そんな金剛の姿に司令は『また更に成長したな』と思うのだった。
二人の艦娘が出た後の執務室には再び静寂が戻った。窓からはセミの声と、遠方から聞こえる訓練の砲撃音が聞こえる。
司令は改めてデスクに戻って執務を始めようとした。ところが今度は彼の脳裏に艦娘たちのことが、いろいろと浮かんでしまって止まらない。妄想ではないがモヤモヤとする。ダメだ、これでは作業にならない。
「やれやれ」
彼は肩をすくめた。これは艦娘部隊指揮官たる者の職業病みたいなものだ。特に司令には養女となった艦娘が多い。つまり冗談抜きで彼は年頃の娘を持つ父親なのだ。
「休むか」
呟いた司令は座ったままイスを窓へ回転させた。
開け放った窓からは時おり美保湾の海風が吹き込んでいる。レースのカーテンがゆるやかになびく。基地内のセミはあちらこちらにいるらしくジワジワという声が立体的に響き始める。
司令は腕を組んで金剛のことを考えていた。
彼女の着任は確か去年の夏だ。その年は半ば強引に墓参したり、境港の夏祭りに参加したりと、実にバタバタしていた。
そして何だかんだで艦娘たちと司令の実家に泊まってしまった。そのお陰だろう。金剛を筆頭に美保の主要艦娘と自分の両親、さらに実家の近所の人達とも多少は面識が出来た。結果的には良かったのだろう。
今回、美保鎮守府で急にイベントを開催したのだが地域の人達が直ぐに集まってくれたのも日頃、彼女達が地域交流を続けた『効果』かも知れない。
実は一部の艦娘たち……吹雪は以前から広報部隊となっているが、それ以外にも面倒見が良くて人懐っこい艦娘も少なくない。
コスプレ好きの漣などは意外と外に出るのも好きだから、よく学校や幼稚園などにも喜んで『出張』してくれる。
「幼稚園で意外と言えば、あの天龍だな」
そう言いつつ司令はデスクの『広報』というファイルを取り出してパラパラとめくった。
そこには天龍と龍田が第六駆逐隊を従えて境港市や近隣の幼稚園や保育園に訪問している報告書や写真が綴じられている。
「外見から判断できないのも艦娘の魅力……いや、魔力かな」
ファイルを閉じながら彼は苦笑した。
デスクに目をやると何かのイベントのときの写真が立ててある。それは司令の家族と美保の主要な艦娘たちが正門前で並んで撮った写真だ。そこには『当然』と言った顔で白い歯を見せている金剛が居た。
「あの娘(こ)も最初は『やんちゃ娘(むすめ)』だったな」
去年のお盆に引き続いて最初のブルネイ遠征の際の金剛も、まだ手に負えない雰囲気だった。
だがそれは『現代』(当時)のブルネイへ戻って再び勃発した深海棲艦とシナ連合軍との海戦で少し変わったかも知れない。
「艦娘の成長か」
司令は呟く。それは美保の大井が良く使う言葉でもあった。
「そもそも大井自身だよな、一番変わったのは」
彼女もデスクの集合写真にはちゃっかりと入り込んでいた。そう、美保では彼女が最も成長した艦娘かも知れない。
「しかし……あの戦いは最初の演習からして酷かったな」
呟いた彼は再び立ち上がると窓の外を見た。そこには金剛と秋津州に話しかける夕張の姿が見えた。
彼は過去の記憶を手繰り寄せる。
「あの『遠征」には夕張も参加していたよな」
彼がつぶやいた『遠征』。それは後に『ブルネイ沖防衛戦』と呼ばれた海戦だ。
去年、美保鎮守府には軍令部からブルネイ遠征の指示が出た。そこでは当初、単なる模擬演習が行われるだけの予定だった。ところがそこでいきなりタイムスリップ。
挙げ句に、元に戻ったとたんに深海棲艦とシナ連合軍がブルネイ泊地に攻め込んで来たのだった。
遠征に参加していた美保の艦娘だけでなく当時ブルネイの研究施設で量産化に成功したばかりの艦娘もブルネイ防衛戦に同参した。
敵は何度も波状攻撃をしてきた。当時は現地での混乱もあって戦闘開始直後は敵に押されて惨憺(さんたん)たる戦果となった。最終決戦で美保も含め数名の艦娘が轟沈したのだ。
「はぁ……」
彼は思わず、ため息をついた。
窓の外……遠方の海上からは散発的な訓練の砲撃音と同時に美保湾に演習の爆煙が上がっている。そして時おり鎮守府上空を掠める艦載機のシルエットと爆音。
最近はダブル大淀さんが資材や予算関係をキッチリ管理してくれているので訓練資材も潤沢だ。定期的な訓練は軍隊にとっても生命線だ。
「この訓練体制が去年から実施されていていれば……」
彼は呟く。そう、去年の遠征の敗因の一つはそこにもある。訓練不足……それが悔やまれてならない。
美保司令は再びデスクに戻ると今回の計画書を改めて確認した。
「そういえば今回の美保に来たメンバーがほぼ全員、当時のブルネイに居たんだ」
それは不思議な廻り合せだと彼は思った。
去年の『ブルネイ沖防衛戦』では当時、たまたま現地に視察に来ていた海外武官と、彼らに同行していた海外の艦娘たちの加勢により形勢を挽回した。
「そういえば、あの戦艦『武蔵』も居たな」
司令は苦笑した。彼女は真面目な反面、妙に甘えたような表情も見せる。不思議な艦娘だ。最初は近寄り難いが次第に可愛く成っていくのだ。
だが彼らは例の軍医による『陰謀』のゴタゴタで半ば強制的に中央へ戻された。それでも副大臣と副長官が中央で『奮闘』してくれたお陰で事態は収束したらしい。
「副大臣か……」
あの浮ついて見える彼。しかし実務能力はあるに違いない。今回のゴタゴタも彼が中央に乗り込んで沈静化させたのだ。補佐として副長官も加勢しただろうことは想像に難くない。
「副長官は祥高の妹で石見(いわみ)って言ったよな……」
そこで彼は思い出した。
そもそも自分の妻となった重巡『祥高』からして謎めいている。今までは彼自身が暗殺未遂の後遺症で記憶が一部、飛んでいたことから、あまり深く追求しなかった。
だが今回、彼の記憶は、かなり戻った。そのきっかけが、また昨年の日向とのゴタゴタに結びつくのは笑える。
「日向か……あいつともイロイロあったな」
美保司令にとって彼女は大井と並んで艦娘導入の初期から縁があった。お互い口下手で感情表現も苦手な性格が似ているのが縁だったのだろうか? 妙に彼女とはツーカーの仲だった。
その後の養子縁組についても一番、嬉々としていたのは彼女だったかも知れない。そして日向は意外に筆まめで横須賀からよく手紙をくれる。メールとかで軽く出さないところが彼女らしい。
その日向が横須賀の近況でも時おり触れるのが『祥高型』についてだ。どうも現地では今でも語り草になっているらしい。中央に近いから……あの副大臣も良く噂しているなと司令は思った。
重巡『祥高』。司令の妻であり今は美保鎮守府の副司令の位置にある。司令は彼女について考える暇が無かったのでさほど意識もしていなかった。だが改めて考えると彼女への謎が深まる。
祥高型は、もともとは潜在能力も高かった。そこから更に戦艦並の能力にまで改造され破竹の勢いで敵を蹂躙(じゅうりん)した。
しかし敵の猛反撃に遭って当時の指揮官が戦死したらしい。その後なぜか祥高型は封印され表舞台から姿を消す。代わって台頭してきたのが大和や武蔵だ。
『ブルネイ沖防衛戦』では封印していた彼女の能力を再現させた結果、形勢逆転のきっかけを作った。
「しかし、なぜブルネイに彼女の古い艤装があったのか?」
彼は額に手をやって考える。
それは、やはり量産化のための研究用だったのだろうか? そもそも、その事実を知っていた副大臣も怪しい。元来いろいろ企んでいるような彼だ。
祥高型三姉妹と副大臣は横須賀時代からの旧い知り合いだ。それに元帥閣下と彼女たちも深い関係がありそうだ。
「秋雲も祥高さんを慕っていたな」
司令は秋雲は元帥の密命を帯びていたことを思い出した。
元帥と言えば記憶が飛んだ自分を司令に据え置いた彼の人事決定も今ひとつ解せない。軍内部からも反対意見があった内容だ。
それは、ひょっとして自分の暗殺未遂も何か関係が……急にイロイロなことがつながる気配がした。思わず鳥肌が立つ。彼は、それらの思考を停止した。今の彼には受けきれない気がした。
司令は自分のことを考えるのは一時中断して改めて『ブルネイ沖防衛戦』の資料を端末から閲覧する。
当時、最前線では轟沈した艦娘たちが軒並み復活するという奇跡的な現象が起きていた。当然、公式資料には一切触れられていない。
ただ、現地に居た彼も知っていることだが、そこで復活に関連して重要な役回りを演じていたのが、やはり祥高なのだ。彼女が状況を見極めて艦娘の復活を先導した。その結果として当時、現地で轟沈していた美保の青葉を始め、かなり以前に舞鶴で沈んでいたはずの大井までが戻って来たのだ。
「大井……か」
彼女と司令は舞鶴で最初に出会って以来、何かと縁があった。どちらかと言えば大井は日向と違って性格も性急でキツい。彼には苦手なタイプだった。ところが彼女とは腐れ縁のように接する機会が多かった。
一時期、二人が佐世保へ短期で異動した際にも、いろいろあったのだが。
「そうか」
呟いた彼は副司令の机を見た。
『復活』について副司令が指示を出して青葉がまとめた資料がどこかにあったはずだ。それは確か『ブルネイ海戦と復活について』という感じの表題だったと思う。
それは決して表には公表されず『極秘扱』として元帥にだけ提出された。提出前に一度、控え資料には司令も目を通していたので覚えいていたのだ。
ただその資料は提出早々に副司令がどこかにしまい込んだ。その件について改めて彼女に聞いても、いつも上手くはぐらかされる。仕方なく青葉にも聞いてみたが彼女もまた、のらりくらりと逃げるのだった。
「なぜだ?」
以後、司令も『復活』については深く追求するのを止めた。復活は艦娘にとっても何か言い難い秘密でもあるのだろうか?
彼は改めて自分の資料や本棚を確認してみた。だが当然、彼の知らない極秘資料が周辺にあるはずも無い。他の資料管理は副司令や大淀さんに全て任せているから分からないわけだ。
「やれやれ……」
彼は椅子に深く腰かけて天井を仰いだ。
「復活って言ってもなあ……」
その時、彼は自分が三途の川の入口のような『お花畑』に行ったことを思い出していた。最初は確かブルネイの初代五月雨だった。
その後は……はっきり思い出せない。
モヤモヤした彼は自席の端末で『復活』という項目で過去の軍部ログファイルを開いてみた。すると何件かヒットした中に別の項目を見つけた。
「あ……そういえば、あったな」
復活現象については、その後も発生していたことを思い出した。それは美保鎮守府として初めて正式参加した軍令部本部主導の合同海戦だった。
「赤城2号だよ」
彼は思い出した。
そこでもやはり祥高と、そして寛代が関係していた。寛代は祥高の姪……本部の技術長官『八雲(やくも)』の娘だ。
彼女も去年のブルネイ遠征の際、武蔵に締め上げられて……イロイロあったな。苦笑すると同時に彼には、また疑念が深まった。
そもそも祥高型三姉妹は、三人とも謎が多すぎる。それでいて……彼は彼女たちと深い縁があった。とはいえ頭で考えるだけでは埒(らち)が明かない。
「もう一度、祥高さんと話し合うべきだよな」
彼は呟くのだった。その時、美保湾の遠方から飛行音が響いてきた。
「来たか?」
同時に通信が入る。これが秋津州の言っていた二式大艇だなと彼は思った。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。