「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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中央から副大臣と副長官が戻ってくる。そして今回の騒動の整理が始まる。


第73話:『黒幕』

「あいつの兄が、その医師?」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

第73話:『黒幕』

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 二式大艇独特のエンジン音が美保湾に響き渡っている。

司令は立ち上がると双眼鏡を片手に窓から美保湾の方角を覗き込んだ。

 

 向こうに見える大山上空の青空に二式大艇のシルエットが確認できた。

「来たか」

 

同時に機体からの通信が順次入って来る。その機体に副大臣と副長官が乗っていることを敵に覚(さと)られないため通信は全て暗号化されていた。

 

「解読か……大淀さんたちの仕事が少し増えるな」

司令は呟いた。

 

 数分後、傾いた陽の光を受けた大艇は美保湾に着水した。

 

司令は鎮守府に留められているオスプレイを振り返った。今は整備をしているようだ。その機体を始め装甲車や火器類など米軍関連の武器は日米極秘協定により燃料や弾薬類の消耗品は全て相手持ちとなっていた。

その代わり美保の電算システムやネットワーク機器は全て米国製に統一されそのデータは米軍と共有になっている。

 

「元帥が主導していなければ絶対に通らない協定だよな」

司令は改めて思うのだった。情報の共有なんて絶対に軍令部の他の連中はいい顔をしないだろう。

 

その時、内線が鳴る。

「どうした?」

「大淀です……大艇の機長からの要請で、沖合まで内火艇が出迎えに行く必要がありますが宜しいでしょうか?」

「着岸出来ないのか?」

 

司令の言葉に大淀さんも少し苦笑している雰囲気だった。

「はい。機は副大臣たちを降ろした後、直ぐに呉へ向かうそうです」

「そうか、忙しいな……分かった。準備の人選は任せるから出してくれ」

「了解しました。あと、もう一点」

「何だ?」

「鳥取県境から広島の庄原上空までオスプレイでの護衛を付けて欲しいと……これは米軍からの要請です。そこから先は呉から飛ばすと」

「そうか分かった。許可するから早苗と伊吹にも連絡を頼む」

「了解しました」

 

受話器を置いた司令は呟く。

「米軍絡みの特務か……副大臣以外に、要人か物資でも乗っているのか?」

 

 直ぐに館内が少し慌ただしくなる。窓から見るとオスプレイ離陸当番の艦娘たちが慌てて格納庫へ走っているのが見えた。

 

「やれやれ……」

呟いた司令はデスクを片つけると執務室の窓を閉めた。

 

「直接、副大臣様を出迎えてやるか」

彼はハンガーの制帽を被ると階下へ降りた。

 

廊下で美保の青葉が声をかけてくる。

「あれ? お出迎えですか」

 

見るとカメラを抱えてメモ帳も片手に携えている。さすが情報が早いな。

司令は彼女に言う。

「ああ。来るか?」

「はい、同行致します!」

青葉は敬礼した。

 

 二人で廊下を進みながら司令は聞く。

「ブルネイの青葉は別行動か?」

「はい」

 

彼女は笑う。

「彼女は多分、大艇の出迎えには顔を出すと思いますけど」

 

そう言いながらちょっと周りを気にして急に小声になる青葉。

「さっき加賀さんと金城提督が中庭のベンチで話していましたから……それを取材しているのではと思いますよ」

「何で声を潜めるんだ? お前」

「ええ。だって司令、青葉が思うに提督は加賀さんをブルネイへ引っ張るつもりですよ、きっと」

 

意外に淡々と言うので司令は思わず聞き返した。

「おいおいマジか? でもその取材、お前は同参しなくて良いのか」

 

彼の言葉に急にニヤついて舌を出す青葉。

「えへへ。でも加賀さんって多分ブルネイへは行きませんよね?」

「え? ……そりゃ、中央からは加賀は美保に着任という命令は出たからな。真面目な彼女は拒否すると思うが」

 

 司令の言葉に彼女は頷いた。

「そういうことですよ」

 

そしてメモ帳をしまってからカメラのストラップを少し伸ばして言う。

【挿絵表示】

 

「美保の青葉としては、もうちょっと鎮守府が落ち着いてから加賀さんにはジックリ取材させて貰おうと思ってますから。それで良いですよね? 司令。だから今日は良いんです」

 

「なるほどね」

青葉らしいなと彼は思った。

 

 二人は館外へ出た。

 

今は夏だから湿気と暑さでムッとする。彼らが埠頭へ向かうと警備担当の朝潮と曙が銃を下げたまま敬礼をした。

 埠頭には既に副司令の祥高と秋雲が居た。その他、数名の艦娘たちも出迎えようと待機していた。非番の艦娘たちが自然に出迎える体制は美保では恒例行事だ。

こういったコンパクトな鎮守府ならではのフレンドリーな雰囲気は他には無いだろうなと司令は改めて思うのだった。

 

 祥高は司令に敬礼をして言った。

「先ほど機長から挨拶もせずに申し訳ありませんと入電がありました」

 

「ああ、何となく聞いていた」

 司令の言葉に軽く頷いて応答する副司令。

 

「早苗たちも準備OKのようですね」

「ああ」

次の瞬間、本館の向こう側からオスプレイが上空へ浮上するのが見えた。

 

「やっぱ命令が出てからの即応性の速さはピカイチですねえ」

そう言いながらオスプレイにレンズを向ける青葉。

 

司令もそれに応える。

「オスプレイと二式大艇が同居するシーンが見られるのも、ここくらいだろうな」

「二式大艇は航続距離は長いですからねえ……この戦時下では燃料は貴重です」

青葉は唇に手を当てながら言う。おい、その仕草はドキドキするからやめて欲しい。

 

 オスプレイはゆっくりとローターを前方へ戻しながら盛んに二式大艇と交信をしている。出発のタイミングを合わせているようだ。

 

「早苗も伊吹もバイリンガルだから便利ですよね」

秋雲もオスプレイをサラサラスケッチしながら言う。

 

「そうね。日本語も英語も堪能だから今回みたいな護衛任務だと重宝よね」

これは祥高。

 

「司令も片言の英語は話せますよね?」

いつの間に来た大井が言う。

 

「ああ……だがあの子供達には負ける」

司令の言葉に微笑む大井。伊吹は彼女の娘だ。

 

 港湾部の防波堤から内火艇が見えたときエンジン音を響かせながら二式大艇が飛び立つのが見えた。直ぐにオスプレイが続いた。

 司令はふと、秋津州が見えないなと思った。

 

すると祥高が言う。

「申し遅れましたが司令。秋津州は機長の要請で最初の内火艇で簡単なメンテナンスを行っていました」

 

 なるほど、と司令は思った。

「では副大臣たちと一緒に戻るのか」

「そうですね。大艇の修理もさほど、大事にはならなかったようです」

 祥高は少し髪の毛を押さえながら答える。

 

『司令』

いきなり艦娘のハモった声で彼は驚く。振り返ると青葉と秋雲だった。

 

 なるほど二人が同時に声を出していたのか。お互いに苦笑しあっているが、まずは青葉から口を開いた。

「後で報告しますが……加賀さんと金城提督の修羅場……見ものでした」

 

言いながら彼女はニタニタしている。だからその顔はやめろって。

 司令は顔をしかめた。

「おいおい覗き見か? ちょっと悪趣味じゃないか」

 

「でも」

そう言いながら今度は秋雲がスケッチブックを広げている。

 

「鎮守府内って公の場所でしょ?」

彼女はページをペラペラとめくっている。

 

「だから……ホラ」

「ホラじゃないだろう」

そう言いながら司令は秋雲のスケッチブックを覗く。

 

 何となく予想は出来たが……そこには深刻な表情で俯(うつむ)いている加賀と優しい笑顔の金城提督が描かれていた。

「上手いな……」

 

つい小言ではなく褒め言葉が出てしまうくらい二人の特長をよく掴んでいた。外見だけではなく精神的なスケッチとでもいうのだろうか。

 

 相変わらずぶっ飛んだ感じの秋雲だが絵を描くだけあって観察眼は鋭い。元帥が彼女に白羽の矢を立てたのも分かる気がした。

 

秋雲は言う。

「航続距離って言えばさ、秋雲さんも脚は長いんだよ」

 

「そうだったな」

何となく思い出した。

 

 そんな取り止めの無い会話をしているうちに内火艇が接岸する。

 

艦娘たちが敬礼する中、副大臣と副長官が上がって来た。美保司令と副司令もまた敬礼をして出迎える。

その後から秋津州も上がってくる。少しオイルで汚れた顔をしていたが、その表情は清々しかった。

 

司令は副大臣に言った。

「中央に行ったり来たり、大変でしたね」

 

副大臣はニタニタしている。

「ああ、しかも本省では武器を使わないバトル勃発。楽しかったぞ」

 

彼は相変わらずだ。だがその傍らに居る副長官を見て司令は違和感を覚えた。

「……」

いつもなら速攻で副大臣に突っ込みを入れる彼女が珍しく大人しい。

 

 するとすかさず祥高が聞いた。

「どうしたの石見、中央で疲れた?」

 

さすが姉妹だなと司令は思った。

 

「……中で話すよ」

やはり、ちょっと元気が無い感じ。妙だなと思いつつ司令夫妻は顔を見合わせた。

 

 廊下で出会った大淀さんにお茶を頼んでから司令たちは執務室へ入る。

窓から見える大山が夕日で赤く染まり始めている。

 

「おお、大山が綺麗だなあ」

副大臣が感動している。何をするにも大げさな人だが確かに大山は綺麗だった。

そのままソファに座った面々も、しばらく大山を眺めていた。

 

 司令はふと思った。

ここにいる二人の艦娘には自然を堪能する感性は備わっているのだろうか?

副長官は固そうだから微妙だが自分の妻である祥高は感動しているように見えた。

 

「速報で流したが……」

 副大臣が切り出す。

 

「中央での『お家騒動』も、首謀者たる医師の首切りと、大佐の逮捕で幕引きになりそうだよ」

「大佐……そういう人間も居たな」

司令は思い出した。

「その医師は取引をしたから、お咎め無しか?」

 

その質問に副大臣は答える。

「そういうことだ。司法の連中を丸め込むのが大変だったんだぞ」

 

 その時、執務室の扉を誰かがノックした。

「はぁい」

 

司令が応えると一航戦の加賀が入ってきた。

「お呼びですか、司令」

 

さっきよりも彼女の表情が明るくなっていた。

司令は思った。赤城と散策をしたからだろうか? それとも金城提督と何か話をしたから?

 

だがそれは後回しだ。彼は聞いた。

「今回の陰謀の概略のことだ。ここにいる副大臣を始め当事者の君も含めて整理しつつ確認したいと思ってね」

 

「……」

加賀は黙っている。

 

司令は念を押すように言う。

「……大丈夫かな?」

 

直ぐに軽く頷いた加賀は言った。

「はい、問題ありません」

 

「よし、座ってくれ。軍法会議じゃないからさ。気楽に応対してくれ」

相変わらず副大臣が言うと軽くなる。

 

加賀は静かにソファに腰をかける。本当に赤城さんとは対照的だなと司令は思った。

【挿絵表示】

 

 

副大臣は説明した。

「ざくっと言えば君を復活させたあの医師の処遇のことだが」

 

その言葉に彼女は少し表情が変わる。

 

「今回の内乱も彼自身はさほど主導していない。それに彼の艦娘に関する知識を失うのは惜しい……ということで逮捕はせずに軍籍だけを剥奪ということで落ち着いた」

 

「……そうですか」

気のせいか加賀は少し安堵したような表情を見せた。それが感情を抑えた雰囲気で、なおさら人間臭く見えるから不思議だった。

 

「しかし彼も復活の研究をして、しかもそれが、ほぼ実用化していたのだろう? 海軍から追い出すのは危なくないか」

司令が問いかけると副大臣は応える。

 

「いや、これは元帥閣下にも相談した上だ」

 

更に副長官が口を開いた。

「そもそも海軍に属していなければ艦娘には近づくことは出来ぬ。安心しろ」

 

「それにアイツの弟の口ぞえもあってな。だからしばらくは自重するはずだ」

頭の後ろに腕を組んで副大臣が付け加えた。

 

「弟?」

司令が反応すると彼は指を立てて言った。

 

「舞鶴に居た作戦参謀だよ。去年だったかな、ここにも視察に来ただろう? ア・イ・ツ・だ」

「え?」

副大臣の言葉に驚く司令。

 

「あいつか……あの兄が、その医師?」

絶句する美保司令。

 

副大臣はニヤリとした。

「そうだ……もしアイツが美保司令と仲直りしていなかったら今回の件もどうなっていたかワカラナイな」

 

司令は苦笑した。

「良く調べているな」

 

「その……閣下は?」

祥高が口を開く。

 

これには妹の副長官が答える。

「本人はこれを機に引退するそうだ。ただ表舞台から消えるだけで……」

 

「そういうことだ」

何だか副大臣が言うと彼が黒幕のように見えてくるから複雑だと司令は思った。

 

「そうそう、三笠も引退するらしいよ」

『え?』

この言葉に、この場に居る三人の艦娘が反応した。

 

「お二人は、今後どうなさるのでしょうか?」

祥高が聞く。

 

副大臣が応える。

「オレもハッキリとは聞いていないが、あの狸のことだ。引退とは言えども実質は陰で指示するだろう? それに中央ではなくて、もしかしたら美保のそばに来るという噂もある。何しろここは諜報力だけはあるからなあ」

 

「だけ?」

司令は苦笑する。だが次の瞬間、爆弾発言が飛び出す。

 

「しかも祥高は閣下の孫だろ?」

「は?」

何だそれは……聞いてないぞと彼は思った。そもそも彼女は艦娘で……。

 

「あ、いや。これは忘れてくれ」

副大臣はニタニタしながら手を左右に振った。やっぱりコイツが一番怪しい。

思わず司令は祥高と石見を見たが……彼女達は互いに苦笑するばかりだった。

 

その時誰かが扉をノックした。

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。
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