「命を狙ったのに……なぜ彼は私を受け入れようと」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第74話:『出雲長官』
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司令が返事をする間もなく、執務室の扉が開いた。
「おう、お茶ぁ持って来たぞ」
そこには役人が着るタイプのベージュの作業服を着た女性……自分の腰を器用に使って執務室のドアを押し開けている。
それだけではない。その片手に茶碗を載せたお盆、そして反対の手にはポットを持っている。軽業師のような、あまりにも特長のある女性……
「長官?」
思わず声を出したのは美保司令だった。
呼ばれた彼女は両手のお茶セットをテーブルに置きながら言った。
「久しぶりだな美保司令。私の現職名を記憶してくれて嬉しいぞ」
「まあ、夫婦でも良く話題に出ますから」
苦笑しながら、まるで弁解するように応える司令。副大臣と一緒の飛行機で来たのだろうけど、何処に隠れていたんだ?
祥高も言う。
「姉さん、来るなら言って下されば良かったのに」
「いやホントは来るつもりは無かったんだがな……ちょっと気になる艦娘が居るだろう?」
彼女の視線は加賀に向けられていた。
その加賀も長官こと出雲(いずも)とは初対面だ。不思議そうな顔をしている。
そんな彼女に司令は説明をする。
「この人は軍令部技術開発局の出雲長官……副司令の姉で寛代の母親だ」
それを聞いた加賀は立ち上がると敬礼をした。
「初めまして、一航戦の加賀です」
お茶を入れながら顔だけ加賀をチラッと見た出雲は言う。
「強制的に復活させられても、しっかり『一航戦』は出てくるんだな」
「……」
加賀は敬礼を解いたが黙っている。
出雲は、お盆に乗せたお茶を配りながら言う。
「実はな、復活したお前を美保に着任させるように仕向けたのは私なのだ。小耳に挟んだがお前は金城提督からブルネイに来いと言われたようだが」
さすが長官、そういう情報は早い。
「……」
加賀は無言だったが、その表情から『でも、私は断りました』という想いが伝わってきた。
それを悟ったように出雲は言った。
「お前は、よほど彼に想われているんだな。まあ提督も提督だ。命を狙われた艦娘を迎え入れようなんて……それだけ彼も肝が据わってるんだな」
「……」
加賀は、なおも黙っていた。
茶碗を置くと出雲は加賀を見据えた。
「お前がブルネイで沈んだことも、そしてそれを知った金城提督が恐らく、お前を誘うだろうことも全て想定済みだ。もちろん、お前が断ることもな」
それを聞いた司令は出雲は、いつの間にそんな策士になったのだ? と思った。彼は、あのブルネイでの彼女の破廉恥な行動を思い出した。
すると長官は美保司令を振り返りながら言った。
「私もブルネイで武蔵に絞められてから、ちょっとは成長したんだ」
「はあ」
その言葉に苦笑する司令。それは、かなり昔の話だったな。
各自に、お茶を飲むよう勧めながら出雲は加賀に語りかける。
「赤城と違って沈着冷静なお前だ。だが提督に誘われて実は迷っただろう?」
「はい」
意外にもその問い掛けには直ぐに返事をした加賀。
彼女は絞り出すようにポツポツと語りだす。
「正直、金城提督の記憶が私の中にあまり残っていないのですが彼にはとても強く意識されているという感覚が、ずっとありました。だから……彼の誘いは嬉しい反面、それはダメだと言う気持ちがぶつかって……とても胸が苦しくなりました」
表情は相変わらず固い。だがその瞳には深い感情が込められていた。
「私は彼の命を狙ったのに……なぜ彼は私を受け入れようとするの?」
彼女は淡々と言う。
加賀のこの心情の吐露に美保司令は驚いた。同時にそれを聞いた彼は以前、美保の大井や青葉たちが様々な心情を通過して復活したことを連想していた。それもまた艦娘の成長に繋がるのだろうか。
出雲は頷きながら言う。
「今は苦しいだろう加賀。だが耐えろ。復活とは誰もが簡単に出来るものではない。お前はワカラナイだろうが復活する艦娘には、それ相応の使命があるのだ」
長官の言葉に頷く加賀。涙は流していないが、目は潤んでいるようだ。
「使命か……そうだよな」
ソファに深く腰かけながら副大臣は言う。
「そもそも艦娘の歴史上、最初に復活の道筋をつけたのは祥高だからな」
また意味深なことを言う副大臣だ。
思わず祥高と元帥の関係を突っ込もうと思った司令だったが、それはまたの機会にした。今はまず加賀を中心とした陰謀の整理だ。
改めて司令は聞いた。
「この場に金城提督を呼ばなくても良かったのでしょうか?」
すると副長官(石見)が口を開いた。
「空気を読め。さっきも長官が言っただろう。加賀と提督の微妙な関係を!」
「あ……」
司令はそこで悟った……というか自分の鈍さを恥ずかしくさえ思った。
見れば加賀は少し顔を赤くして俯(うつむ)いている。艦娘と言えども少女なのだ。鈍感な司令以上に繊細だ。
だが副大臣は、お茶をすすりながら言う。
「まあ良いさ。その鈍(にぶ)さが司令の良いところだよ」
彼が言うと、やっぱり何か含みを感じてしまう。そもそも祥高のことすら、あまり良く知らないと司令は思うのだった。
そこへ追い討ちをかけるように出雲も言う。
「そうだな。司令夫婦は二人揃ってボーっとしているから円満なのだろう」
『……』
思わず司令夫妻は顔を見合わせて苦笑した。それは言えているかも知れない。
「本題に入ろう。もともと海軍省内部には元帥閣下に反目する流れがあった。簡単に言えば左右と真ん中の三つに分けられるって処だな」
本当にざっくりと説明する副大臣。
司令はそんな彼を見て『この性格だから彼が事態を収拾出来たのだろう』と感心した。
「今回は、かなり用意周到に計画が練られていたようだ。実際、元帥閣下に従う者や鎮守府が集中して狙われた。美保やブルネイはその筆頭だな」
その説明に一同は頷いた。
「ただ今回のクーデターも政治家まで巻き込めなかったのは失敗だったな。オレも気付いたら首が飛びかけていたが、それは軍だけの話だった」
副大臣は軍籍もあるが基本は政治家だ。
続けて石見が説明する。
「あの医師の艦娘に対する想いは……たとえそれが歪んでいたとしても一途なものを感じた。何しろ今回の騒ぎでも私たち艦娘については一切、異動がなかったからな」
「そういえば今回、私たちには何の命令も出て無かったわね」
思い出したように副司令は言った。
「だから……」
副長官は湯のみを持ったまま思い詰めたように言う。
「あの医師に対する私の憎しみも今回の処分と同時に水に流したんだ」
妹の決意した言葉に、姉の祥高が微笑む。
「あら? それは成長したわね」
司令も聞く。
「最初に埠頭で見たとき、元気が無いように見えたのはそれ?」
すると石見は急にムッとしたような表情に変わる。
「鈍感星人め! それとこれとは話が別だ」
「いや……」
いきなり怒られれてタジタジになる司令だった。
だが彼が聞きなおす前に彼女は叫ぶように言った。
「イロイロ考えてな、私も養子縁組をしたんだ!」
「え?」
驚く司令。だが見ると祥高も出雲も、しきりに頷いている。どうも姉妹達は石見の決断を既に知っていたようだ。
話題が養子縁組に移った時点で既に宙に浮いたような加賀だったが、さすが一航戦の彼女は動じなかった。表情一つ変えずに、お茶をすすっている。その落ち着いた雰囲気は赤城にそっくりだなと司令は思った。
ハッとしたように司令は改めて問いかけた。
「養子って……誰の?」
直ぐに答えは分かった。
「オレだよ」
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。