「娘? 赤城さんが」
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「美保鎮守府NOW」(みほ10)
第75話:『心境の変化』
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「オレも石見(いわみ)から養子縁組がしたいと言われて驚いたけど嬉しかったぜ」
ニタニタしている副大臣だったが表情が強(こわ)張っていた。心なしか緊張しているように見える。それは副長官の石見も同じだった。
とはいえ養子縁組それ自体は、この二人の関係を知る者にとって予定調和的とも言えた。
「それは、おめでとう」
美保司令は祝福した。その言葉が適切なのかどうか少々自信はなかったが。それを受けて二人は軽く会釈をした。
見ると加賀はずっと黙っている、当然、周りが何の話をしているのか全く分かっていないようだ。
美保司令はそんな彼女を見て説明した。
「養子というのは法律的に親子になることで……ま、簡単に言うと家族になることだな」
「家族?」
加賀は相変わらず無表情だ。
その様子を見ながら司令は続ける。
「この美保鎮守府では司令である私の夫婦を中心に艦娘たちが軒並み養子縁組をしている例が多いんだよ」
「そうですか」
加賀は初めて理解したような、でもやっぱり分からないような複雑な表情をしている。もともとあまり感情の動きを見せない子なので分かり難いな。
美保司令は、こういう子の扱いは副司令などに任せないとダメだなと改めて思うのだった。
すると出雲が腕を組んで加賀に言う。
「安心しろ。別に強制でも何でもない。ま、ちなみにだが赤城は既に司令の娘になっている」
「娘? 赤城さんが」
やはり加賀は『赤城』というキーワードに弱い。ただ出雲も、この場で敢えてそれを言うかなあ? と司令は思うのだった。
案の定、加賀は急にソワソワし始めたようだ。すると今度は副大臣が加賀を向いて言った。
「まだ君にはイロイロ聞きたいことがあるが今日はもう良いよ、ありがとう」
それを受けて彼女は「かしこまりました」と言うと立ち上がって数歩下がって敬礼をした。
「加賀、退室致します」
「ああ」
司令もちょっと不意をつかれたように敬礼をした。
加賀が部屋から出た後、石見が呟くように言う。
「アイツもそのうち絶対に、お前たちの娘になるのだろうな」
「え……まあ、その可能性は高いかな?」
司令が頭をかきながら応えると石見がひと言。
「バカ者」
だが、その口調は優しかった。
「しかし石見よ、今回はどういう心境の変化だ?」
出雲がニタニタしながら言う。そりゃそうだ。副大臣と副長官はいつも廊下でバトルしていると言うイメージしかないから。
石見は応える。
「そうだな、艦娘は歳は取らないが人間は違う。そういったことも含めての『縁』という奴かな?」
「……」
副大臣も腕を組んで黙っている。
「縁か」
司令も呟くように言った。
すると祥高も言う。
「でも何か安心するわね。ここに居る皆は、もう家族なのよ」
副司令のその言葉に司令はハッとした。思わず正面にいる副大臣を見ると彼はニタニタ笑っていた。
「そうだな。いつの間にか美保司令とオレは義兄弟になったってことか」
ちょっと、ややこしいが。確かにそうだと司令も思った。
「ってことは美保の艦娘たちは皆オレの姪っ子ってことか?」
そこまで言いかけた彼は突然、叫んだ。
「痛ってぇ!」
横に居た副長官がつねったらしい。
「何だよ! ホントのことだろう?」
キッとした表情で石見を睨む副大臣。
しかし彼女はすまし顔。
「お前が言うと妙に、いやらしく聞こえる」
二人のやり取りを見た周りの姉妹と司令は逆にホッとするのだった。
「まあ痴話喧嘩はコノくらいにしておいてだな」
副大臣は、でん部をさすりながら急に真面目な顔になる。
「さっき呉に飛ぶ大艇にオスプレイを護衛に付けさせただろう?」
「はい」
「加賀を退出させたのも、その話をするためだ。実は今回の騒動で一番、神経を使ったのが彼だった」
「彼?」
司令はきょとんとしている。
副大臣は改めて周りを見る。
「この部屋、盗聴器とか大丈夫だよな?」
「はい。通信機器を入れ替える際に米軍担当者がチェッカーを入れますから」
祥高の言葉に頷く彼。
「あの大艇にはな、ブルネイの王室関係者が乗っていたんだ」
「え?」
驚く司令。
今度は石見が補足する。
「お前も知っていると思うがブルネイは現地の王室との関係も良好だ。特に金城提督はパイプも太い。そういう縁で帝国海軍とブルネイ海軍はしばしば互いに交流をしているんだ」
「へえ」
それは初めて聞いたと司令は思った。
今度は出雲が言う。
「この騒ぎの最中に、たまたまブルネイの皇太子が、お忍びで来日していたんだ。まったく肝を冷やしたよ。慌てて木更津に避難して頂いて、そこから大艇を急きょ飛ばした。念のため艦娘である私たちも護衛を兼ねて大艇に同乗した……という次第だ」
そして副大臣が苦笑しながら言う。
「ここに飛んでくる間もなぁ……各地の海軍航空隊や米軍の協力も仰いで、まさに護送船団だよ。何せ今の他の機体は脚が短いからな。その調整も面倒だった」
出雲は腕を組んで微笑む。
「だが、まだ若い皇太子は日本語も堪能で意外とこの状況を『危機管理の貴重な体験です』と喜んで居られた。あれは良い指導者になるぞ」
司令は聞いた。
「そのことは金城提督は知らないのかな?」
「知らないだろう。もっとも彼が希望すれば呉から皇太子と一緒にブルネイへ戻っても良いと考えている……確か彼にはブルネイの艦娘も同行していたよな?」
出雲の問い掛けに祥高が答える。
「そうですね。その件は提督には後で確認しましょうか」
一同は頷いた。
続けて副大臣が切り出す。
「あと『あけぼの(曙)』の演習航海スケジュールについてだが今回のゴタゴタのために、ちょっと遅れると思う」
いきなりの話題の飛躍である。ただ司令も、その案件は既に知っていたので軽く頷いた。
改めて司令は問いかける。
「『あけぼの』は山陰方面では貴重な抑止力です。あれがいなくなった後、この地域の防衛は大丈夫でしょうか?」
副大臣が続ける。
「一応、舞鶴や呉に打診して『あけぼの』がここを空けている間は空母か潜水艦の艦娘を廻して貰うように言ってあるが」
すると出雲が口を挟んだ。
「ああ、その件はな、ホラ例の医師だよ。アイツが……艦娘のレシピ情報を持っていただろ?」
副大臣と副長官が彼女のほうを向いて何か思い出したような顔をした。
「そうか、その手もあったな」
「何の話ですか?」
司令夫妻は、まだよく分かっていない。
出雲が言った。
「聞いていないか? 美保に空母の艦娘を入れるために意図的に建造をする。そのレシピをあの医師が持っているんだよ。司法取引って奴だな」
「あ……」
思い出した。ただ司令も、まさかこんなに早く空母建造の話が来るとは思っていなかったのだ。
彼女は続ける。
「美保の弱さは今は米軍の火力で補足されているが海軍としては自力での防衛力も不可欠だろう。美保自体のキャパはあるとしても可能な限り打撃力……特に正規空母はもっと入れるべきだな」
「確かに」
司令は腕を組んで頷く。
出雲はメモ帳を取り出して言った。
「私の方から舞鶴の建造ドックを借りるよう依頼はしてあるから、いつでもスタートできる。まあ艦娘だから数人増えるくらいは問題ない。美保はいつでも受け入れ可能だろう?」
「はい」
祥高も応える。
「決まりだな」
手帳を閉じた出雲は言った。
「しかし、いい加減、美保もドックを設営したらどうか?」
「いやあ」
司令は頭をかいた。
出雲は微笑む。
「それが、お前の優しさか……まあ良い」
「そういえば」
彼は思い出した。
「今回の騒動ではブルネイはどうだったのですか?」
「そうそう、それだよ! マジで大変だったんだぜぇ」
副大臣は膝を打った。
「金城提督が更迭されたと言う情報がブルネイの現地にも直ぐに伝えられたんだが……現地でもいち早くクーデター派の陸軍が動き出してブルネイの泊地を封鎖しようとしたんだ」
「それはチラッと聞きましたね」
司令が言うと今度は石見が言う。
「艦娘のネットワークというか、いち早く双方の青葉や大淀さんを通してブルネイの王室にも話が伝わったんだ。それからが騒動だったよ」
「どうなったの?」
祥高が聞く。
副大臣が応える。
「ブルネイ政府から、わが国の政府に……まあ臨時政府みたいな状態だったけど。突然、外交ルートを通じて通告してきたんだ」
「何て?」
彼はニタニタした。
「『金城提督の更迭を撤回しなければ、わが国への石油資源への禁輸措置を取る』とさ」
「えぇ? ああ、そういうことか」
一瞬、驚いた司令も直ぐに納得が行った。
祥高も頷く。
「それは凄い。現地では帝国海軍が信頼されているのですね」
「まあ、そういうことだな。オレもさすがに外野ながらビックリしたよ。金城提督も、ああ見えて、しっかり現地のコネクションを構築していたんだな。さすがだね……ま、これでクーデター臨時政府は右往左往だよ。あれは実に見物(みもの)だったな」
腕を組んだ副大臣は何度も頷く。
「いくらクーデターを起こそうがフネや戦車を動かす燃料を押さえられたら結局、何も出来ない。これで臨時政府は真っ二つに割れてね。そこでオレの出番さ」
……ああ、彼らしいなと司令は苦笑した。
「もちろん石見や羽黒がしっかり身辺警護してくれていたからオレだって堂々と国会議事堂の前で演説出来たんだ。実際、六本木辺りは緊迫していたんだぜ」
「なるほど」
金城提督に負けじと劣らず、コイツの肝っ玉の太さもなかなかのものだなと司令は思うのだった。
「お前、絶対に将来首相を狙っているだろう?」
石見が毒づく。
「もし、そうなれば艦娘の未来も明るいだろう」
出雲が笑うと同時に執務室内は和やかな雰囲気になった。
「もっとも留守を守っていたブルネイの大淀も大したものだぞ。その気になれば艦娘だけでも十分、反撃は出来たはずだが、提督不在の間は下手なことは出来ないからと一切反撃をしなかった。結果的にブルネイ政府も動くことが出来た」
出雲が褒める。
石見が続ける。
「確かに……もし泊地の艦娘が下手に動いていたらブルネイ側も日本政府への圧力は、かけ辛くなってただろうな」
「なるほど」
そこまで考えが回らなかった美保司令は感心した。まさかブルネイが日本政府に圧力をかけるところまで読んでいたのかは分からない。ただ美保の大淀さんも、そこまで機転が利くだろうか?
司令の思いを悟ったように副大臣が言う。
「大丈夫だよ。美保の大淀さんだって十分魅力的……痛ぁ!」
彼は再び石見に、つねられていた。親子になったら、なおさら遠慮が無くなったようにも感じられた。
痴話喧嘩をする二人を無視して出雲が言う。
「『あけぼの』の演習航海に関しては直ぐに軍令部から計画書を再送させる。基本的には、それに従ってくれ」
「ハッ」
敬礼する司令。
「今回は海外の武官や艦娘も同行してハワイへ向かう。だから呉や神戸、横須賀などへ寄港して貰うかもしれない。いま海外武官達と調整中だが……本当はここから全員、乗る予定だったのだがな」
副大臣を懲らしめながら石見が言う。器用だな。
ようやく落ち着いた副大臣が苦虫を潰したような表情で言った。
「今回、金城提督はどうする?」
出雲は腕を組んだ。
「彼が希望すれば演習に同行してもらっても良いが、長期になるからな。恐らく彼は断ると思う」
「そうですね。今回の美保訪問だけでもかなり時間を費やしましたから」
司令が言うと、石見も頷く。
「ちょっと今回は騒動が多すぎた。加賀の件もあるし落ち着けば、また改めてブルネイと交流する機会も持てるだろう」
彼女の言葉に全員が頷いた。
「良いなあ、ハワイか。オレも同行しようかな……あ痛っ!」
やはり石見に小突かれた。再び妙に和む執務室だった。
気がつけば、すっかり日も暮れていた。そこで会議は解散した。
三日月の出た美保湾を望む埠頭のベンチには金城提督と加賀が座っていた。
彼女は言った。
「提督が嘆願して下さったお陰で私も無事に美保への着任が決まりました」
「ああ、聞いている……良かったな」
彼はタバコを吸った。
そんな彼の姿を見詰めながら加賀は言った。
「何となくですが……タバコを吸う貴方の面影をボンヤリと思い出します」
「そうか」
はあっと煙を吐いた彼は月明かりに照らされた美保湾を見ながら言う。
「お前のことだ。今さら俺が何と言っても美保への着任の決意は変わらないよな?」
提督は彼女の方へ顔を向けた。
月明かりで青白く照らされた加賀の顔は、とてもスッキリしているように感じられた。
「はい」
夜風が静かに彼女のショートヘアをなびかせた。そして申し訳無さそうに答える彼女に彼は微笑んだ。
「良いよ。そういう一途なところは、お前らしい」
提督は再び夜の海を見た。
「オレも明日、呉経由でブルネイへ戻る。ホントはもう少し留まりたい気持ちもあったが、さすがに騒動の後だ。あっちも早く戻って収拾せにゃならん」
「済みません」
加賀が謝罪すると彼は首をかしげた。
「別に謝ることはない。俺にとっちゃ、お前が復活してくれただけでも十分だ。まぁ一緒にブルネイへ戻れなかったのは残念だがな」
微笑む提督。
「……」
彼女は黙っていた。何となく……泣いているのだろうか?
遠くに歩哨の艦娘が居たが提督と加賀に気遣っているのだろう。一定の距離を保って近づいて来ない。もちろん珍しく青葉たちもやって来ない。
「さて明日も早い。俺は休むよ」
彼はタバコを消すと、ゆっくりと立ち上がった。
「……提督」
加賀は澄んだ瞳で呟くように言う。
「どうした?」
提督に続いて立ち上がった彼女は、彼にソット抱きついた。
「ゴメンなさい……一緒に行けなくて」
彼もまた優しく加賀を抱きしめた。やや小柄な彼女だが確かに実体としてそこにある。それは彼にとって何とも言えない喜びだった。
彼女の体の温もりを感じながら彼は言った。
「なぁに、別に移管しなくても良いさ。生きていれば……また会ってくれるな?」
彼の言葉に彼女は、ゆっくりと頷いた。
「必ずブルネイへ参ります」
「はは、無理しなくて良いぜ。俺がこっちへ来ても良いんだから」
提督は応える。彼の太い腕に包まれながら彼女も微笑んでいた。
(ああ……絵になるなあ)
本館の陰から薄暗い中で秋雲がスケッチをしていた。彼女は夜目が利くようだ。
そこから数十メートル離れた倉庫の陰ではガタガタと音をたてながら蠢(うごめ)く数名の人影があった。
今にも飛び出そうとしていたブルネイの金剛と、それを必死に押さえている双方の青葉そして川内に比叡だった。
(だから……ダメですって!)
(そうですよ、青葉たちだって遠慮しているんですから!)
(ムキー!)
そこへ美保の金剛がやって来た。彼女は髪を軽くかき上げながら言った。
「気持ちは分かるけどね。この場はさぁ加賀さんの気持ちも考えなよ」
「ブー」
膨れっ面の金剛だったが、さすがに同じ金剛から言われれば彼女も観念する気になったようだ。
美保の金剛は微笑みながら腕を組んで言った。
「金城提督はサぁ、いろんな艦娘に慕われてるンだよ。ワンダフォーだね」
「……そりゃまぁ、そうだネ。ワタシのdarlingなんだから!」
急に胸を張る金剛に周りの艦娘たちも苦笑していた。
「ご馳走様」
「やれやれ、ですね」
「寝よ、寝よ」
美保の長い一日は、こうしてドタバタしながら過ぎようとしていた。
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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。