「美保鎮守府NOW」(第10部)   作:しろっこ

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舞鶴からの艦娘たちが到着し、いよいよ視察部隊のメンバーたちと最後の別れとなる。


第79話:『果て無き終章』(改1.3)

「やっぱり量産型でも赤城は、いかにも彼女っぽい。」

 

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「美保鎮守府NOW」(みほ10)

 第79話:『果て無き終章』(改1.3)

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 埠頭では秋津洲が一番、ウキウキして走り回っていた。そんな中を大艇が徐々に近づき、岸壁に寄せた。

接岸担当の重巡姉妹たちが車両に乗せた簡易桟橋を持ってくる。以前は人力だったが今は米軍か何処かから持ってきた専用車両だ。

 

 直ぐに手際よく桟橋が接続される。艦娘たちはその場で大艇のクルーと交信をしながら作業を進めている。秋津洲ほか数名の艦娘たちが、工具を片手に待機している。いつの間にかメンテナンス専門チームが結成されているらしい。

 

 やがて大艇のハッチが開く。最初にクルーが桟橋の接続を確認してから赤城……3号になるのか? 艦娘が顔を出した。周りを見て一瞬、恥ずかしそうにしている。そのチョッとはにかむ仕草は彼女らしい。

 

 赤城は一旦サッと桟橋に立った。そして全体へ向けて軽く敬礼をした。それを受けて埠頭で待機している面々も、一斉に敬礼を返す。

 

それを見ていた加賀は、意味あり気に呟く。

「やはり……一航戦ね」

 

「量産型3号……どんな性格かしら?」

加賀の隣に居た赤城(1号)も、長い髪の毛に手をやりながら言うのだった。

 

そんな二人を見ながら、さも知ったかのように副大臣も言う。

「そっか……同じ赤城でも、量産型によって性格は微妙に違うよな」

 

それを聞いた二人の空母たちは微笑んだ。

 

 簡易桟橋上の赤城は敬礼を解いた。続けて一旦振り返ると大艇の中に声をかけている。

「荷物は後で良いから……まずは皆さんに挨拶をしましょう」

 

……そう言っている無線が聞こえてきた。

 

「無線……ダダ漏れ」

寛代の言葉に埠頭にも苦笑が広がる。緊張していた埠頭は急に和やかになった。

 

「良いよな、こういう緩い感じ。やっぱり量産型でも赤城は、いかにも彼女っぽい。艦娘だよな」

金城提督がしみじみと言う。

 

 そうこうしているうちに、赤城3号を先頭に、正規空母たちが続々と降りてくる。

事前に連絡があった通りだ。赤城、飛龍に蒼龍、翔鶴といった正規空母たちだ。

 

 埠頭で小銃を肩から提げた朝潮が言う。

「量産型とは言っても、これだけ一気に着任なんて凄いですね」

 

「瑞鶴は……居ないのね」

加賀が思い出したように呟いている。隣の赤城は苦笑している。

 

「メンテ、入ります」

副司令に敬礼をして秋津洲たちが工具を片手に大艇へと乗り込んでいく。

 

 その時、埠頭にざわめきが広がった。大艇の翔鶴に続いて見覚えのある艦娘が出てきたのだ。

直ぐに黄色い声が響く。

「あれは私ですヨ!」

 

「お姉さま、私も居ます!」

……美保の金剛と比叡が驚くのも無理はない。明らかに建造して間もない量産型の二人が最後から空母たちに付いて出てきたのだ。

 

「おいおい、正規空母に高速戦艦か……舞鶴も出血大サービスだな」

副大臣の言葉に隣にいた石見も突っ込むことすら忘れて一瞬、呆然としていた。

 

「なるほど……これが元帥の答えか」

「え?」

美保司令が石見を振り返ると、彼女は言った。

 

「閣下は、美保を本気でテコ入れするつもりだぞ」

「……そうですか?」

 

とぼけたような美保司令の言葉に、石見は苦笑する。

「相変わらず鈍いな」

 

出雲も腕を組んで言う。

「まあ、半島や大陸の動きも不穏だからな。日本海側の守りを固めても、おかしくはない。そういう時代だ、心しろ美保」

「ハッ」

 

 やがて新たに着任する艦娘たちが埠頭に勢ぞろいした。

一瞬、挨拶をするのは新赤城か、新金剛か? どちらが先に口を開くのか微妙な雰囲気になった。

 しかし金剛は微笑み、それを受けて新しい赤城が改めて敬礼をした。

「舞鶴から参りました赤城以下、全6名。本日付けで美保鎮守府へ着任致します」

 

美保司令が前に出る。

「私が美保鎮守府司令だ。着任歓迎する」

 

 長い髪を美保湾からの風に、なびかせている新しい赤城。それは凛々しくもあった。そんな彼女は、スッと司令に近寄った。

一瞬、銃を構えて警戒する朝潮を始めとした警護の駆逐艦たち。

 

 だが新しい赤城は緊張する駆逐艦たちに微笑みかけると、そのまま美保司令の手を取って言った。

「美保司令……まだ建造したての私たちですが精一杯、美保鎮守府のために頑張ります。宜しくお願いします」

 

きらきらした瞳で言う彼女。

その意表をつく『攻撃』に青葉が感心したように言う。

「なるほどぉ……新しい赤城さんは、なかなか積極的ですね!」

 

「これはこれは! 美保の明るい未来が期待出来ます!」

意味深なことを言うブルネイの青葉。

 

 点検をしていた秋津洲たちメンテナンスクルーが、次々と大艇を降りてきて司令に敬礼をする。

「点検、終わりました。異常なしです」

 

「よし、では我々も乗り込むぞ」

司令と並んで立っていた副大臣の言葉に出雲や石見、それに金城提督をはじめとしたブルネイメンバーは荷物を持って歩き始める。

 

金城提督は美保司令に近寄ると敬礼した。

「世話にナったな……またブルネイにも来いよ」

 

「はい。近いうちに」

美保司令も笑顔で返礼する。

 

 敬礼を解いて歩き出そうとした提督に加賀が近づく。一瞬、緊張する金剛(妻)。ショートヘアを気にしながら加賀は静かに言った。

「私も、近いうちに参ります」

 

少し驚いた表情の金剛だったが、提督は頷いて言った。

「ああ、いつでも待ってるぜ」

 

 夫の言葉に『この加賀に……今は負けた』と思う金剛(妻)だった。だが不思議とジェラシーは湧かなかった。

 

改めて彼女は加賀を見て言った。

「加賀!」

 

「なあに」

静かに金剛を見つめる彼女。

 

「ワタシもベリー歓迎するからネ!」

やや表情が強張りながらも言い切った金剛。

 

その言葉に頷いて答える加賀。

「ええ……楽しみにしているわ」

 

二人のやり取りを見ていた提督は、自分の嫁も成長したなと思うのだった。

その加賀の横では美保の赤城も微笑んでいた。

 

「今から出たら、だいたい夕方に到着だな」

石見が時計を見ながら言う。

 

「呉からは別の飛行機かい?」

確認するように提督が言う。

 

「はい、軍令部からは追って指示を出すと……呉で泊まり掛けに成りそうです」

美保の大淀さんが指示書をめくりながら言う。

 

「さぁ、乗った乗った」

急かすように副大臣が言う。

 

訝しそうな顔をして石見が言う。

「何を焦っているのだ?」

「いやあ……」

 

すると青葉が言う。

「副大臣、機内で酒盛りするつもりですよ」

 

その発言に一瞬、防御体制を取る副大臣。だが石見は平然としていた。

「今回はいろいろあったからな。呉までの道中は目をつぶろう」

 

すると出雲も頷く。

「そうだな。私もご相伴(しょうばん)に預かろうか……寛代!」

 

彼女の呼びかけに駆け寄ってくる駆逐艦。直ぐに出雲に飛びついた。

出雲は寛代の髪を撫でながら言う。

「いつも慌ただしくてスマンな……曾爺さんが不意に立ち寄ることがあったら、よろしく言っといてくれ」

 

 爺さん……その言葉に、事情を知っている者には様々な想いが去来した。

恐らく、全ての発端は彼に始まるのだ。

 

「じゃ、行くぞ」

彼女のひと言で、全員が大艇へ乗り込んでいく。

 

やがてメインエンジンを始動させた大艇は、ゆっくりと離岸し港湾部の外へ向かう。埠頭では艦娘たちが手を振る。

 

その光景を見ながら祥高が言う。

「本当に今回は、慌ただしかったですね」

 

「ああ」

何気なく応えた司令は、ふと思い出したように言う。

 

「美保鎮守府の初代提督って……やっぱり閣下の?」

 

祥高は微笑んだ。

「はい。彼女は私の母親……元帥の娘です」

 

彼らの頭上を大きく旋回して大艇は飛び去って行く。ブルネイと美保に、また新たな歴史が刻まれることだろう。

 

 

 




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※これは「艦これ」の二次創作です。
(ごません様とのコラボ企画作品)
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サイトも遅々と整備中~(^_^;)
http://www13.plala.or.jp/shosen/
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PS:「みほ10」とは
「美保鎮守府:第拾部」の略称です。

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