Re:超高校級の幸運のボクがゼロから始まる異世界生活?絶望的だね 作:エウロパ
「え?今、自分のいる場所が分かってなくてお金もちょっとしか持ってなくて字も読めなくて頼れる人もいない……ひょっとすると私より危ない立場なんじゃ……」
徽章を探して街中を歩いていたサテラは隣を歩いている狛枝に対して驚きの声を上げた。
あの路地を出て猫?が「僕はパック、よろしくー♪」と最後に自己紹介をしてからサテラは狛枝から軽く今の近況を聞いていたのだ。
「そうだね。確かに君よりもまずい立場なのは間違いないよ」
「いや、そこは笑って答えるところじゃないでしょ……」
サテラは相変わらずヘラヘラしている狛枝に若干呆れたような顔をする。
「え?そうかな?まぁ……確かに普通の人ならそかもしれないね。でもね、ボクは〝幸運〟なんだよ。だから、心配なんていらないよ」
「その自信は何処から来るのよ……」
すると、サテラは改めて狛枝の体をじっと観察した。
狛枝の言動といい振る舞いといい服装といい何か思うところがあったのだろう。
そして、サテラはある事に気がついた。
「こうして見ると、体を鍛えているとかはしてないみたいね……えっと、狛枝って」
「大丈夫。狛枝であってるよ」
名前があっているのか、間違っているのか、少し躊躇った様子のサテラを狛枝は優しくフォローした。
「まぁ……特に運動とかやっていなかったしね」
「ふーん……狛枝って、かなり良い家柄の出でしょう?」
「いや……ボクは特に良い家柄だった訳じゃないよ。ごく普通の一般家庭だよ。そう、ごく普通の家庭……」
狛枝がそう言うとサテラは突然、狛枝に近寄った。
サテラは本当なら狛枝の手を直接触りたかったが彼と会ってまだ二十分もたっていないためしなかった。
普通の男ならこんな美少女にこんなに近づかれたら恐らく驚いたりするのが普通だろうが狛枝に動揺はほとんど無い。
いきなりで少しだけ驚いただけだ。
「この指もそうだけど、とても綺麗。庶民とは暮らしが違いすぎる手だもの……」
サテラは狛枝の手を見ながら言う。
「しかも、体、鍛えたり何もしてないみたいだしねー♪」
パックも追い討ちをかけるように正直に言った。
続いてサテラは狛枝の来ているコートに目をやり、コートはそのまま、手で触る。
「服装も見たことの無い物だけど、間違いなく上等品……それにルグニカでその状態って事は上等な生活ができる証拠……どう、当たりでしょ?」
全て当ててやったと言わんばかりに自信満々で微笑むサテラに狛枝は困ったような表情をした。
「えっと……何て言ったら良いか分からないけど、とりあえずこれだけは言えるよ。それは違うよ」
「え、違うの?」
「うん。残念だけどね……」
サテラは狛枝のそれを聞いて残念そうにする。
「それじゃあ、狛枝の住んでいた場所はどんな所だったの?」
「確かにそれは、僕もちょっと興味あるなー」
サテラの話に同調するようにパックも狛枝に対して〝さらなる〟興味をよせ狛枝の周りをクルッと回った。
「うーん……なんて言ったらいいかな……」
狛枝は腕を組んで考えだす。
「そんなに、考え込まなくても良いのに。言えないなら詮索なんてしないわ」
「いや、そう言う訳じゃないんだけどさ……そうだね。これぐらいの情報は教えてもあげてもいいかな」
狛枝は深く考えて言える範囲の事を瞬時に脳内で彼女らにも分かるように構築し口にした。
サテラとパックは好奇心のまま狛枝の話に聞き入った。
「……ボクの居た国はここよりも遥か遠くにあるから君たちは知らないかもしれないけど、それなりに文明が発展してて裕福な国でね、魔法とかは全然だったけど他の技術は色々と優れていたんだ。もしかしたら、技術力だけなら、この国に勝っていたかもしれないね」
「へ~……ルグニカよりも技術が発展してるなんて……」
「さすがの僕もそんな国があったなんて驚きだよ」
サテラもパックも驚いたような顔をした。
(なるほどね……今の反応でこのルグニカっていうファンタスティックな国の立ち位置が少しだけ分かったかな)
「まぁ、聞いたことがないのは当然だよ。たぶん、地図にも載ってないだろうからね。あ、別に信じてもらわなくても結構だよ。ボクみたいな怪しい男の言うことなんて信じろっていう方が無理な相談だからさ。でも、さっきの質問に答えるにはこの前置きが必要なんだよ」
相変わらずヘラヘラしている狛枝をパックがじーっと見つめる。
「…………嘘を言っているようにはみえないね」
「ありがとう。そう言ってくれるとボクも嬉しいよ。パック君」
狛枝はパックにニコッと笑いかける。
「とにかくボクはそんな国で暮らしていたんだけど、その国は裕福だったから一般人でもボクみたいな、〝運動もろくにしないような人間が普通に沢山いる〟んだよ。どうかな?今の話で分かってもらえれば嬉しいんだけど」
「……信じられない話だけど、とりあえず、理解したわ」
サテラはまだ内心、疑問が心の中に幾つかあったようだが、とりあえず、理解を示してくれた。
「そう言ってくれるとボクも嬉しいよ」
「うーん、分からないなー……」
するとパックが狛枝の前まで飛んできて腕組をした状態でやって来た。
「何が分からないのかな?パック君」
「いや、君が住んでいた国がどんな国かは分かったけど……君の話を総合するとつまり、こう言うことだよね?君の国は遠い所にあって技術も進んでてとても裕福。それも〝一般人の君が体力がなくてもでも暮らせる程〟にね」
「確かにそういう事になるね」
「そうだとすると君の居た国は、このルグニカよりも裕福な国って事になるんじゃないのかな?」
「…………」
狛枝はまだ何も答えない。
サテラはパックの的確な指摘に狛枝の答えを聞こうと狛枝の方を見る。
「ルグニカは確かに大きな国だけど一般人が君が言うみたいに楽に生活できるような国ではないからね。すると、ここで一つの疑問が出てくるんだ……なぜ君は、そんな裕福な国から出てわざわざ、こんな国にまでやって来たんだい?君は頼る人もお金も殆ど持てないんでしょ?てことは、その国で何か起きたか、君の身に何かが起きたってことだと僕は思うんだけどなー?」
「…………」
(……この国に来た理由?そんなもの有るわけ無いんだけど……どうしようかな……それに、パック君の質問、けっこう確信に迫ってきているね。どうやらお喋りが過ぎたみたいだね…………)
狛枝はサテラとパックの顔を見た。
二人とも狛枝の答えを待っている様子だ。
「さすがだよパック君。君なら聞いてきてくれると思っていたよ。でもね、残念だけど、これ以上の事は今は言えないんだ」
「どうして……」
サテラが首をかしげる。
すると、狛枝は……。
(……さすがにあの〝事〟は…………無理だね)
狛枝は真剣な表情をした。
狛枝の脳裏にある内容が思い出された。
あのコロシアイ修学旅行の事、それとあの〝ファイル〟こと……。
あれ〝ファイル?〟
(……ファイル…………ファイルってなんのことだっけ…………よく思い出せない…………それになんだろうこの嫌悪感は…………ファイル、ファイル、ファイル、ファイル、ファイル、ファイル、ファイル、ファイル、ファイル、ファイル、ファイル、ファイル、ファイル......)
「狛枝……大丈夫?顔色が悪いわよ?」
サテラとパックが急に心配そうな表情を向けた。
狛枝は我に帰った。
「…………え?ボクの顔色が?」
「うん……急に黙ったかと思ったら急に…………」
「それも、血の気が一気に引く感じでね。休んだほうが良いんじゃない?」
サテラとパックが相変わらず心配そうな顔で狛枝に教える。
「いや……もう大丈夫だよ」
狛枝は無理に笑顔を作って答えた。
(もしかして……また、記憶をいじられてるのかな…………?)
もちろん、狛枝が何を考えているか、そんな事はサテラとパックには分からない。
だが、狛枝がもう一度落ち着いた様子でサテラとパックの目を見るとその瞬間。狛枝の雰囲気が変わった事をサテラとパックは感じとった。
「とにかく。今、ボクが言いたいのはこれだけだよ。ボクは君達のような〝希望〟を〝絶望〟に染めたくはないんだよ。だから、これ以上の詮索はまた今度にしてもらえるかな」
「「…………」」
狛枝の強い口調にサテラとパックは何も言い返さなかった。
いや、何も聞けなかったと言うのがこの場では正しいだろう。
それだけ狛枝の言葉には圧力があったのだ。
この青年の過去に何があったんだろうか?
サテラはそう思った。
だが、今、釘を刺されたばかりなのに。知り合ってちょっとしか、たっていないのにそんな事を図々しい事を聞くことはできない。
「「「………………」」」
三人の間を無言で何となく重い空気が流れた……。
僅か数秒間が長く思えるほどに……。
しかし、その空気は不意に消える事になった。
それはこの空気を作った狛枝自身だった。
「ごめん、ごめん。変な空気になちゃったかな……でもさ、ボクのクダらない話はこの辺にして、そろ、そろ、サテラさんの探し物探しを再開させようよ。このまま、お互いに口チャックしたままじゃ、見つかる探し物も見つからないしさ」
「え?う、うん…………そうね」
狛枝はあたかもそんな重い空気は無かったとでも言うようにいつもの雰囲気で話題を元に戻す。
「そう言えば……確かここは〝王都〟だったよね?だとすると……」
狛枝は顎に手を当てて考える。
サテラはよくあんな重い話をしておいてすぐに話題を変え考え込むことができるなと、思った。
「サテラさん。この街の中心はどっちかな?」
「中心?この街の中心は……あっちだけど……」
サテラはまだ、心のモヤモヤがとれなかったが、とりあえず狛枝の問いに答え王都の中心の方角を指差した。
その方角を見て狛枝は一度頷く。
「なるほどね……それじゃあ…………」
狛枝は街の建物を見上げる。
そして、後ろを向いた。
「あっちに行こっか」
狛枝はそう言うと突然、ちょうど王都の中心部からま反対の方角へと歩きだした。
「え?ちょ、ちょっと!?」
急に歩きだした狛枝にサテラは一瞬、慌てて早足で追いかける。
「急に動き出してどうしたの?」
「少しボクに考えがあるんだよ。上手くいけばサテラさんの探し物が見つかるかも知れない」
「え!?本当に?」
「その通りだよ。ボクの推理が正しければ……君の探し物はこの街の郊外、もしくは、はずれにある可能性が高いと思うよ」
狛枝は得意気な表情をしてサテラに言った。
「ちなみに、その理由はなにかな?」
狛枝の推測に対してパックが面白そうに聞いてくる。
「ボクはこの街を数時間くらいブラブラ歩いていたんだけど、その時に気がついたんだ。この都市はとても高度に整備された都市だってね。それでボクは分かったんだよ。その高度に整備されている地域は恐らく中央のお城から始まっている……でも、治安はそこまで良くないみたいだ。ボクが襲われたのもそうだけど、君の物を盗んだあの金髪少女。あの年齢で盗みをするという事は……それなりの貧困層の人々がこの都市の何処かに〝存在〟しているという事だと思うんだ。さらにその貧困層の人々が独自のコミュニティーを形成して貧困街がこの街の何処かに存在する可能性も若干だけどあると思うんだよ。でも、そんな貧困街は少くともこの辺りにあるとは思えないんだよね」
「……どうして?」
「だって、ここは王都だよ?あれだけ派手なお城を作るくらいだもん。しかも首都なんて国としては見栄を張りたいところでしょ?だったら貧困街がありそうな場所は必然と中心部より離れた場所にあるって事になると思わない?」
「確かに…………狛枝って頭が結構回るのね」
サテラは狛枝の推理に素直に驚いたような顔を感心した。
「ありがとう」
「でも……どうしてこっちの方角なの?もしかしたら、こっちじゃないかも知れないのに…………」
「そんなの決まってるよ」
狛枝は笑顔で自信満々に言った。
「「……?」」
サテラとパックは首をかしげる。
狛枝の自信が何処から来るのか分からなかった。
でも、それはすぐに分かる事になる。
それはもはや、狛枝のある種の〝必殺技〟のような才能だった。
「もちろん、犯人が逃げていった方角から見た推測も理由の一つでもあるけど……一番の根拠はボクが〝幸運〟だということなんだよ!ボクのとりえは、それくらいしかないしね」
「幸運って……」
サテラは唖然と。パックは目を細めて狛枝を見た。
「さぁ、行こうか…………あれ?どうしたの?」
「…………えっと、その……」
サテラは立ち止まってしまった。
サテラのその様子はまだ、色々と決めかねている様だった。
「ああ、そうだね。確かに不確定な要素が多いもんね。決めかねるのも分かるよ。それじゃあ、聞き込みをしながら行くことにしようよ。元々ボクもそのつもりだったからさ。それなら安心でしょ?」
「……それなら」
「それじゃあ、同意も得られた事だし出発しようか」
サテラは納得できないまま縦に首を振り再び狛枝と歩き始めると二人と一匹は中心部の城のある場所から間反対の方向へと歩きだしたのだった……。
※※※※※
「う、うそ。本当についちゃった…………」
サテラはまたしても困惑としていた。
そこは王都の外れ、郊外と言っても良いような場所だった。綺麗な石造りの建造物は減りボロボロな家が広がっている。
狛枝の推理通り〝幸運的〟にも本当に貧困街に着いたのだ。
そこで暮らす住人たちは狛枝やサテラを〝変な目〟で見つめていたが狛枝はそんな住人達を完全に無視して前へ進んだ。
途中でパックが〝タイムリミット〟らしく消えてしまったがその後も順調に物事は進み。
そして今、サテラの目の前には恐らく〝徽章〟が持ち込まれたであろう〝盗品蔵〟の建物が存在していた。
本来ならサテラはどうしても見つからない時は微精霊を集めて聞こうかと思っていたがそれすらする必要がなかったのだ。
盗品蔵についた頃には辺りは暗く
時刻は恐らく、夜の時間帯に入っていた。
ここまで、途中聞き込みを、〝たったの〟数回程しながらやって来たが狛枝が休憩を何回もした為、本来ならもっと早く到着するハズが、こんな時間になってしまっていた。
「ね。言ったでしょ?ボクは幸運だってさ」
「また、幸運って……もう〝普通の幸運〟の域を越えてるでしょ……」
得意気に言う狛枝にサテラは若干、疲れた顔を見せた。
実は狛枝はここに来る途中に数回程〝偶然〟通りかかった人に聞き込みをしたのだが一人目二人目はサテラにはよく分からない会話をしていたが三人目の時には徽章を盗んだ少女の名前が分かり四人目の時には貧困街の方向が合っている事を聞き、五人目の時にはロム爺という人物が経営している盗品蔵の場所を聞き出したのだ。
サテラはこれを全て〝偶然〟の一言で片付けて良いのか分からないほどの事だった。
すると、サテラがまたもや困惑する顔を見て狛枝は自信満々に笑顔で訳を語った。
「あれ?言ってなかったっけ?ボクは元々いた国ではこう言われていたんだよ〝超高校級の幸運〟ってね」
「……チョウコウコウキュウの幸運?」
「そう。簡単に言えば〝幸運〟というゴミクズみたいな〝才能〟を持っているって認められたっていう意味なんだよ」
「幸運が才能なの?よく分からないわ……」
「まぁ、そうだよね……ボクも分かってるよ。こんな、ゴミクズみたいな才能じゃ、そりゃあ認めてはもらえないよね……」
「い、いや、だから、そこまで言ってるわけじゃ……それに、そんな酷いこと私、言わないわよ!」
「それじゃあさ、答え合わせも兼ねて現場に突入しよっか。そこで君の探し物が見つかればボクは〝幸運〟だったという事の証明になるよね」
「はぁ……もう、そう言うのいいから……それじゃあ早く徽章を取り戻しましょ」
サテラは色んな意味の疲労から溜め息をつくと狛枝と共に盗品蔵に向かって歩きだした。
これで、ようやく、徽章が自分の手元に戻ってくる……。
サテラはそう思いながら進んだ。
だが、不意に狛枝が足を止めた。
「狛枝?どうしたの?」
「……………」
狛枝は突然、黙って顎に手を当てて考え始めた。
サテラが狛枝の元へと寄る。
「…………ちょっと嫌な予感がするんだよねぇ…………」
「嫌な予感?」
サテラは首をかしげた。
(なんだか……上手くいきすぎてるよね…………これって。だって、いつもなら〝幸運〟な事が起きる前とかにはその幸運と比例するくらいの〝不幸〟が起きるはずなのに。この世界に来てからボクは絶望の島からは抜け出せたし。未知の言語は理解できるし。お金は貰えたし。不良からも助けてもらったし。彼女に会うこともできたし。盗品蔵まで簡単についちゃうし…………まだ、ボクはここに来てから不幸な目にあっていない…………あ、もしかしてこの世界に来た事でボクの幸運が強くなったりしてるのかな?アハハッ!だとしたら問題はないよね!だけど…………)
狛枝はランプの光で周囲を照らし見つめた。辺りには明かり一つなく闇が広がっている。
遠くを見れば王都の街の明かりだけが光っていた。
その様子はまるで、この国の光と影を現すようであった。
だが、狛枝が懸念しているのはそんな狛枝にとって〝どうでもいい〟事ではない……。
(この違和感は何だろうね……まるで、死体を発見する時みたいなこの感覚…………いや、まさかね)
「アハハハ……ごめん、ごめん、ちょっと考えごとをしちゃってたよ。さぁ、行こうか」
狛枝は心配そうに見つめるサテラに謝るとサテラは「そう」と首を傾げつつも再び歩き始めた。
盗品蔵に二人はどんどん近づく。
「ねぇ、狛枝……盗まれた物を返してもらうのに、どうしてお金を払わなきゃいけないのかしら」
サテラがふと納得できなさそうに言った。
「アハハハ……確かにその気持ちは分かるけどね。今回ばかりは仕方ないんじゃないかな」
狛枝も同情するように苦笑いを浮かべる。
実は、ロム爺の盗品蔵という存在を聞いたときに狛枝は取り返す方法も聞いたのだが、その人物が言っていた言葉にこんなものがあったのだ「取り返したかったら金を払うしかねぇな」つまりは、自分達で買い戻せという意味だ。
「まぁ、ここはとりあえず、ボクに任せてよ。〝一応〟交渉はしてみるからさ」
「……分かった。狛枝に任せてみる」
「希望の踏み台になれるならボクは何だって甘んじて受け入れるよ」
狛枝は片腕の肘から下の腕だけを上にあげてニコッと笑った。
「もうっ……そう言うのはいいの!」
すると、サテラは若干、頬を膨らませてムスッとした表情を浮かべた。
「今日、狛枝は私のために色々と知恵を貸してくれたんだもの。むしろ私が足を引っ張っちゃったくらい……幸運とか希望とか胡散臭そうな事はいっぱい言うけど…………でも」
サテラは真剣な眼差しで狛枝の目を見つめた。
「私は狛枝を信じてみる」
狛枝はサテラの言葉にしっかりと聞き入る。そして…………。
「がんばって」
サテラは僅かだが笑みを浮かべて言った。
その愛らしい顔を見た狛枝は胸の奥に込み上げてくるものを感じた。
「うん、そうだね。頑張ってみるよ」
狛枝は笑顔で言った。
やがて二人は盗品蔵の玄関前数メートル手前で立ち止まる。
「それじゃあ……そろ、そろ、中に入るけど。そうだね、サテラさんは外で見張りをお願いしようかな。ボクは一人で中に入ることにするよ」
「分かったわ」
「あ、そうだ。それと、合図の事だけど……」
「合図?」
「うん。ボクに何か大変なトラブルが起きた場合のね。その場合の合図は中からパン!って大きな音がなると思うからその回数で判別してよ。それ以外はボクが直接自分の声で言うからさ」
狛枝の言う合図はかなり重要だ。
ここは反社会的な集団の集まる街だ。
そんな所の盗品蔵に無闇に入るなど自殺行為だ。
「とりあえず分かったわ。それで?その回数って?」
「ええっと、まず、パン!って音が一回の場合はボクには対処できないけどサテラさんなら対処できる敵が現れたって意味ね。次にパン!って音がすぐに連続して二回以上鳴った場合だけど、その意味はボクやサテラさんでも対処できないであろう敵が現れたって事ね。その合図の時はこの盗品蔵からできるだけ離れて身を隠すんだ」
「それって、逃げろって言うことじゃ……」
「いいね?サテラさん」
「う……うん。分かったわ。気をつけてね」
サテラは不納得の反応を見せたが最後は狛枝の圧しで何とかした。
「それじゃあ、行ってくるよ」
狛枝は笑顔で言うと玄関へ続く数段の木の階段を登った。
登りきった所で狛枝は改めて盗品蔵の窓を見る。
(灯りがついていない……他の民家がついてないのは分かるけど……闇取引をする盗品蔵まで灯りをつけないなんて…………やっぱり警戒した方が良いね)
狛枝はサテラから渡されたランプを持った手と逆の手でポケットの中に入った銃を握った。
狛枝は入る前にもう一度サテラの方を見る。
「サテラさん。くれぐれも、ボクの合図無しに中に入っちゃダメだからね」
「…………」
「どうしたの?」
サテラは狛枝の顔を何か言い残した事があるような、ばつの悪そうな表情で見ていた。
「ううん……なんでも、ないの……徽章を取り戻せたら……ちゃんと謝るから」
狛枝から見たサテラの顔は若干だが罪悪感を感じている人間の表情に近く思えた。
これは皮肉なことだが狛枝がこんな事を判別できるようになったのは学級裁判のおかげとも言えた。
「〝君〟が謝りたい事は今までの君の行動を見ていれば大体察しがつくけど君が謝る必要なんてないよ」
「狛枝には……なんでもお見通しなのかもしれないわね」
「アハハハ……それは買いかぶり過ぎだよ。流石のボクも何でもは分からないからね……」
そう言うと狛枝は盗品蔵の扉に手をかけて中へと入っていった……。
※※※
盗品蔵の中はまさに闇だった。
ランプがなければ一寸先も見えないほどに……。
(誰も居ない……?)
狛枝はランプの光で店内を一通り照らしてみた。
店内はそれなりに広く部屋の中央には木製の大きなテーブル。その奥にはカウンターがあり、その後ろや壁の棚には壺や皿、人形などの生活用品から甲冑や盾等の防具が沢山並べられていた。
さすがは盗品蔵といったところか。
(おかしい……どうして誰も居ないんだろう……それに、この臭いは…………)
鉄の臭い……狛枝は確かにそれを感じていた。
狛枝は右側に移動した。
とりあえず、部屋を一周しようと考えたのだ。
すると…………、
ぴちゃっ…………
狛枝が踏んだ足元に何か水のような音がした。
足元にランプを向ける。
そこには………………真っ赤に染まった床と大きな腕が一本、落ちていた。
狛枝は一歩下がった。
だが、狛枝は動じていない。
あの、コロシアイ修学旅行で慣れてしまったから……。
(……〝もう〟多少の事じゃ驚かないだろうとは思っていたけど……そんな自分にちょっとだけ、ショックかな)
狛枝はこの腕の持ち主を探そうとランプの光を前に向けた。
そして、意外にもその腕の持ち主は狛枝のすぐ目の前にいた……。
大きな大男だった。
大男は血だらけで口から血を垂れ流し確実に絶命しているであろう事が見て分かった。
頭の片隅でモノクマが『死体が発見されました!一定の捜査時間のあと、学級裁判を開きます!』とアナウンスをした気がするが、それはきっと気のせいだ。
「アハハハ……ボクとしたことがこんな世界まで来てもアイツの事を思い出すなんてね……」
(それよりも今は、この死体の方が重要だよね。血が今も流れたまま……ということは…………もしかしたら犯人は)
狛枝が考えているとその声は唐突に現れた。
「――ああ、見つけてしまったのね。それじゃあ、しかたない。ええ、しかたないのよ」
それは狛枝が初めて聞く女の声だった。
狛枝は声のする方を振り返ろうとした。
しかし…………、
「てっ――!?」
気がついたときには狛枝の体は弾け飛ばされていた。
壁に衝突し手に盛っていたランプは狛枝の手から離れ何処かへと飛んでいく。
狛枝の視界は闇に包まれた。
「一体何が起き――――ぐあっ……」
狛枝の全身に強烈な衝撃が走った。
それは熱とも表現できるだろう。
さらには咳が異常に出て口から鉄の味がする液体を盛大にぶちまけた。
それは、全然、止まる気配がなかった。
狛枝は自分の腹部へと手を伸ばす。
ぬちゃぁ…………腹部に触れた瞬間、異様な生暖かい液体を感じた。
狛枝は目を一瞬、見開き全てを理解した。
理解した瞬間、狛枝の意識が朦朧とし始めた。
(……なる、ほどね…………ボクの体は…………殆ど……真っ二つ…………みたい……だね…………)
誰かが狛枝に近寄ってくる……。
恐らく狛枝を襲撃してきた〝襲撃者〟であろう。
「あ、アハハハ…………け、結局ボクは…………希望の踏み台にすら……なれなかったんだね…………」
狛枝の独り言に対して女は楽しそうに何かを言ったが、狛枝には既に理解ができなくなっていた。
(でも…………)
これは、人間が本来持つ力とでも言うのか分からない。
火事場の馬鹿力とでも言えるのではないだろうか。
なんと、狛枝はその朦朧とした意識のなか、ポケットに突っ込んでいた手を瀕死の重傷をおっているとは思えないほどのスピードで引き抜き銃を目の前の〝襲撃者〟に向けて引き金を引いたのだ。
パン!
リボルバーの撃鉄が回転式弾倉内部の銃弾に下りその瞬間、銃弾の火薬が爆発。弾頭が銃より発射された。
発砲によって辺りが一瞬だけ明るくなる。
「――――っ!?」
狛枝は直感だが、手応えを感じた。
距離が短かったのもあるが、何より目の前の〝襲撃者〟は鈍い声を漏らして後ろに跳ね狛枝から一定の距離をとったからだ。
狛枝は狙いを定めずに、自分の幸運を信じてさらに二発、三発、四発、五発と銃を発砲した。
その回数分、一瞬だけ辺りはオレンジ色に明るくなる。
狛枝はその〝襲撃者〟の顔をはっきりと見た。
襲撃者は黒髪の女だった。
女は銃撃を……恐らくこの世界では未知の攻撃かもしれない攻撃を受けているにも関わらず笑っていた……。
カチッ、カチッ……銃弾がきれて無用と長物とかしたリボルバーが金属音をたてる。
「……ボク、は、なんて、ツいて、るんだ…………」
狛枝は掠れた声で笑った。
(こんな……得体も知れない世界で…………不本意な死に方……だけど…………あの〝襲撃者〟がボクを即死させて、くれなかった、おかげで…………二回以上発砲できたし……サ、テラ、さん、に……合図が…………出せた……ん、だからさ…………あぁ、ボクの……死に、場所は、ここ…………なの、かも………………)
しれない。そう思っていた。これで、自分は不本意な状況ではあるけれど希望の踏み台になれると……だが、その時だった……。
玄関の扉がバタン!と大きく開く音がした。
「狛枝!!大丈夫!?」
サテラの叫ぶような心配するような声が狛枝の耳に聞こえた気がする。
だが、その声もしばらくして僅かな悲鳴によってかき消された。
狛枝のすぐ横にサテラが……サテラだった人型の物がバタッと倒れこんできた。
彼女の体からはドクドクと赤い血が流れ狛枝と同じ様に大きな血溜まりを作っていった……。
(ツイてないね…………サテラ……さん、の…………性、格から…………考、えて…………ボクを………………助けに…………………………来ない、わけないか…………………………………………結局ボクは………………今度も希望の、踏み台にすら…………なれなかったんだね…………………………………………)
狛枝はもう動くことができなかった。
銃を持っていた腕はいつの間にか無くなっている。
恐らく切り落とされたのだろう。
そうでなくても、銃弾も全弾撃ち尽くしたし、抵抗する気など既にそんな力は完全に失われていた。
意識が完全に無くなりかける。
「絶望、的だねぇ………………」
狛枝の意識は永遠の彼方へと深く沈んでいった……。
――――うぷぷぷぷぷ!うふふふふふ!わははははは!いひひひひひ!だあははははは!――――
狛枝の意識が完全に途切れる寸前、遠くでモノクマが笑っている様な気がした……。
※※※※※
「――――い、おい。おい。どうしたんだよ、兄ちゃん。急に呆けた顔して」
「――――はぁ?」
がたいの良い男に急に声をかけられ狛枝は状況が理解できず声を漏らした。
「だーかーら、遠慮せずに持ってけっつってんだよ」
男は狛枝に巾着袋の様な袋を狛枝の手に握らせた。
狛枝は男の顔をジッと見た。
それは、知っている顔だった……。
「…………店主、さん?いや、お金なら……さっきもボクに渡さなかったっけ?」
「はぁ?何言ってんだ。お前とはついさっき会ったばかりだろ。意味わかんねー事言ってねぇーで、ほら、行った。行った。商売の邪魔だ!」
「う、うん。ありがとう。このお金はいつか必ず返すよ…………」
「期待はしねぇーが、そうしてくれ。じゃあな」
狛枝はお礼を言うと呆然とした様子で〝果実店〟から離れた……。
※※※
狛枝は大通りを往来する人々や蜥蜴の牽引する馬車を見ながら腕を組み最初の頃みたいに建物の壁に背中をつけて考え事をしていた。
その時間、約一時間ほど……。
こういう時は一度、冷静に考えるのが一番の得策だ。
(またしてもだけど……一体、何が起きてるんだろうね…………)
狛枝は空を見上げた。
ファンタスティックな街を青空のもと太陽の光がサンサンと照らしている。
まるで困惑した狛枝を嘲笑っている様だ。
(ボクの記憶ではさっきまで夜だった筈だ。それに……)
狛枝は自分の腕を見た。
そして、服を持ち上げて腹部を触る。
「腕もちゃんとついてるし、お腹の傷も……無いみたいだね……銃弾は……」
狛枝はポケットから銃を取り出してロックを解除し回転式弾倉の中を見る。
中にはちゃんと〝五発〟の銃弾が装填されていた。
さらに一応〝最初〟に果実店の店主から貰ったお金の巾着袋を探してみるが何故か見つからない。
あるのは〝さっき〟果実店の店主から貰った物だけだ。
「あの時、盗品蔵ボクは銃弾を全部使ったはずだけど……弾は全部残ってる。お金の袋はリンガを買った方の袋が〝無くなっている〟ボクに一体何が……」
最初の時みたいに再び今度も狛枝は自分の身に何が起きているのか理解できないでいた。
だが、今度の謎は最初よりも理解不能だ。銃弾が五発装填されているのを見て狛枝の頭にいくつかの推測が浮かぶ。
(あの時、ボクは間違いなく死んだはず。その状況で考えられる可能性は三つかな……一つは全て夢だったという可能性。でも、あれが夢だとしたら、それはそれで絶望的な夢だ。リアル過ぎるからね…………二つ目は何らかの原因によって未来を知る事ができたという可能性。でも、これも違う気がする…………そうなると三つ目は…………)
「はぁ…………とにかく移動しようか。ここで考えても埒が明かないし……全てを確かめる為にもね…………」
狛枝は溜め息をつき片手で頭を押さえると、この現象の真相を調べるべく、〝あの路地〟へと向かったのだった……。
どうも、エウロパです。
第二話をなんとかニュースでお伝えした期間内に投稿できました。
今回の話はやっぱり狛枝クンが死んじゃいましたね……。
不定期更新ですが今後もこんな感じで更新していこうと思います。
何か変な所があれば、ぜひお教えていください。
タイトルの変更を行いました。