Re:超高校級の幸運のボクがゼロから始まる異世界生活?絶望的だね   作:エウロパ

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いや……本当に気持ち悪いところで切っちゃいましたね……
本当はあんなところで切っちゃいけない話でしたが……


第四話『フェルトの人生史上最大最悪の希望的事件』

狛枝は〝黒い板〟の様な物をカウンターの上に置く。

ロム爺はその板を手に取ってまじまじと見つめた。

フェルトも〝黒い板〟に注目した。

 

「なんじゃこの板は……?」

 

「ロム爺、アタシにも見せろよ」

 

フェルトはロム爺から黒い板を受け取って見つめた。

 

(固くて軽い……それに今まで触ったことのない感触だな……でも、この黒い板に一体何の意味があるんだ……?こんな物に価値があんのか……?)

 

フェルトは狛枝の顔を見つめた。

その顔は相変わらず自信に満ち溢れている。

 

「おい、兄ちゃん。一体、この黒い板に何の意味があるんだよ?」

 

「それじゃあ、ボクにそれを貸してみて」

 

フェルトは狛枝に疑問を投げ掛けた。

ロム爺もその回答に興味津々のようだ。

 

「これはね、ボクの国で作られた〝電子生徒手帳〟っていう物なんだ」

 

狛枝は黒い板を二人に見せつけるように見せた。

 

「デンシセイトテチョウ?」

 

「手帳って、あの手帳か?こんなんでどうやって字を書くんだよ」

 

「これは、説明するより見てもらった方が早いね」

 

狛枝はそう言うと黒い板……電子生徒手帳をカウンターの上に置き人指し指で軽く触れた。すると……、

 

「おっ光った」

 

フェルトつい呟いた。狛枝が指で触れるとさっきまで全面黒だった電子生徒手帳の一面が光りはじめたのだ。

それに良く見れば光っている一面には文字らしきものが書かれている。

でも読むことはできなかった。

 

「……これ何語じゃ?なんて書いてあるんじゃ?」

 

フェルトが聞く前にロム爺が狛枝に聞く。

 

「これはボクの国の文字でね。日本語っていうんだ。今表示されているのはボクの名前だよ」

 

「ふ~ん……でも兄ちゃん、名前がうつるだけで手帳なのかよ?」

 

「ちょっと待ってね。今始めるから」

 

そう言うと狛枝はもう一度電子生徒手帳の一面を触る。すると今度は別の絵が表示された。狛枝の言う〝日本語〟であちこち色々な事が書かれ良く見ると何かのマークみたいな物がその後ろに描いてある。

 

「実ね。この電子生徒手帳は色んな事ができるんだよ」

 

「例えばどんな?」

 

「例えばそうだね……まず一つとして時間がわかる。ここに表示されている文字が今の時間だよ。他には、これが一番ここでは貴重な物なんだろうけど、〝本、数十冊~数百冊分の文字をこの中に保存しておけるんだ〟〝本当はこういう使い方じゃなくて学級裁判に必要なコトダマをファイリングするための機能なんだけどね〟ほら……」

 

狛枝はそう言うと電子生徒手帳に〝文字盤〟を表示させてそこに触れ文字を打ちこんで見せた。

 

「数十冊から数百冊!?!?そんなのもう、ちょっとした図書館じゃねーか!?」

 

フェルトが驚愕する。

ロム爺は狛枝にもう一度、電子生徒手帳を見せるように言った。ロム爺も驚いているのだ。

 

「他には、あんまり使えないかもしれないけどミニゲームとか、ボクが閉じ込められてた〝ジャバウォック諸島〟の地図とかが見られるよ」

 

「初めて見るが……これが、噂に聞く〝ミーティア〟というやつかの」

 

ロム爺が興味深げに手を顎において呟いた。

すると、狛枝が〝ミーティア〟という単語に反応した。

 

「ミーティア?」

 

「魔法使いのようにゲートの開いていない者でも魔法が使えるようにできるという道具の総称じゃ」

 

「んなことより、値段だ。このミーティアは売ったらどんなもんよ?」

 

「さすがのワシもミーティアなんぞ扱うのなんぞ初めてじゃ。じゃが、お前さんの持っている徽章よりも、高値がつく事は間違いないじゃろう。時間が分かって、しかも小僧の言う通り本、数百冊分の文字がこのミーティアに入るとすれば聖金貨二十枚以上……いや、聖金貨三十五枚はくだらんかもしれん。もっと出すヤツも絶対におるじゃろう」

 

「さ、三十五枚!?冗談だろ!?」

 

フェルトはロム爺の鑑定を聞いて驚愕した。

 

「いや、本当じゃ。ワシの目に狂いはない」

 

(ロム爺がここまで言うなんて……聖金貨三十五枚……アタシが盗ってきた徽章よりも額は遥かに上…………それなら)

 

フェルトは狛枝の方を向いた。

狛枝の目をしっかりと見る。

 

「どうかな、フェルトさん。ボクの提案は?」

 

「…………分かったよ。気に入らねぇーが兄ちゃんの〝本気〟は伝わったぜ。その提案、乗ってやるよ。ただし、アタシの代わりに取引するからには失敗はゆるさねぇーからな。失敗したらお前の何とか手帳は売っちまうからな」

 

フェルトは完全に納得はしていなそうだが、仕方なさそうに言た。

 

「ありがとう、それで良いよ。むしろ、そう言ってくれると嬉しいよ」

 

「良く言うぜ……最初からそうさせるつもりだったんだろ?」

 

「とんでもない。ボクにそんな事ができるわけないじゃない。ボクは〝お願い〟しかできないよ」

 

「どうだか……それで?アタシは金さえ貰えればそれで良いけどよ、取引を兄ちゃんに任せるとして、その間、アタシとロム爺は何をしてれば良いんだ?まさか、兄ちゃんの隣で取引するところをただ、見てろってわけじゃねぇーだろ?」

 

フェルトは腕を組ながら狛枝に対して見透かした様に言う。

すると狛枝は嬉しそうに感心した。

 

「その辺の理解力はさすがだね。裏社会で生きているだけはあるよ……それじゃあ、お言葉に甘えて、フェルトさんと、ロム爺さんに協力してもらいたい事を説明させてもらおうかな。まずは、ロム爺さんだけど、ロム爺さんはこのまま、ここにいつも通りカウンターにでも居てよ。怪しまれたら嫌だからね。それに、ボクを見張る人が一人は居た方が良いでしょ?」

 

「いつのまにかワシまで協力することになってるんじゃが……てか、お前さんら、ワシの店で何をするつもりじゃ!!」

 

「ロム爺はとりあえず放っておいてアタシは?」

 

「なっ!?」

 

ロム爺が言葉を詰まらせてる間に狛枝は続ける。

 

「フェルトさんは、盗品蔵の外に居てよ。もちろん、表玄関の方じゃなくて裏口とかそっちの方にね」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!それじゃあ、アタシだけ除け者みたいじゃねぇーか!?」

 

「あのね……盗んだ張本人のフェルトさんがここに居たらボクが代わりに取引をする意味が無くなっちゃうでしょ?」

 

「そ、それもそうだな……でも…………」

 

フェルトはロム爺の方を見た。

狛枝はここへ来る前に言っていた言葉がフェルトの頭に蘇った。

 

――このままじゃあ、君の大切な人が永遠にさよならする事になるんだけど――

 

そんなフェルトの様子に気がついたのか狛枝はまたしても笑顔で自信満々そうにフェルトにネットリと語り懸けた。励まそうとでもしようとしているのだろうか?。

 

「そんな顔しないでよフェルトさん。大丈夫、心配なんていらないよ。ロム爺さんは絶対に生き残るからさ」

 

「どうしてそんな事が言えるんだよ……」

 

「あはっ!疑問を持つのも仕方ないかもしれないねぇ……でもね、ボクには、たいした才能じゃないけど一応、超高校級と呼ばれる才能があるんだよ。〝超高校級の幸運〟と呼ばれる才能がさ……そんな〝幸運〟の才能を持ったボクが〝フェルトさんの大切な人〟であるロム爺さんが殺されるなんていう〝不幸〟に見舞われると思うかい?」

 

「つまり、運任せと……」

 

「ま、簡単に言ったらそうだね。でも、ボクの運はそこらの運と一緒にはしない方がいいよ?」

 

「はぁ……ダメだこいつ、早くなんとかしないと……」

 

フェルトは頭を抱えた。

 

(兄ちゃんに、任せて良いか分からなくなってきた……)

 

「……そろそろ時間かな」

 

「時間?」

 

狛枝は電子生徒手帳の一面を見て呟く。どうやら、さっき言っていた時間を確認したようだ。

 

「それじゃあ、フェルトさん。そろそろ〝お客さん〟がここに来る時間だから〝これ〟を持って早く外に行った方が良いよ」

 

そう言うと狛枝は電子生徒手帳をフェルトに持たせた。

フェルトはロム爺の方を心配そうに見る。

 

「ロム爺……」

 

「良くわからんが、ワシは大丈夫じゃ。ほれ、早く行かんかい。終わったら説教じゃからな」

 

「フッ……やなこった」

 

フェルトはふと笑うと裏口の方向へと歩きはじめた。すると、その時。

 

「あ!ちょっと待ってフェルトさん!」

 

「何だよ兄ちゃん……今、そう言う流れだっただろ」

 

そう言う流れってなんなのかフェルトは自分で口に出してて良くわからなかった。

狛枝がフェルトに駆け寄る。

 

「危ない危ない忘れるところだったよ……フェルトさん、ボクに何かがあった時のために一つお願いがあるんだけど――――」

 

それからフェルトは狛枝からの急なお願いを聞いてから裏口を使って盗品蔵の外へと出ていった……。

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

「へっ……誰がそう簡単に逃げるかっつーの。ええっと……たしかこの辺に…………あった!」

 

盗品蔵の外に出たフェルトはこっそりと盗品蔵の壁に空いていた穴から盗品蔵の内部を覗いていた。

位置的にも内部の様子が良くわかり耳をたてれば音も良く聞こえた。

 

盗品蔵の中では狛枝が椅子に座ってフェルトの客を待っていた。

後ろのカウンターではロム爺が酒を飲んでいる。

 

(……何の話をしてるんだ?)

 

フェルトは聞き耳を立てた。

 

「……ねぇ、ロム爺さん。ロム爺さんは、フェルトさんと、どんな関係なの?このお店が大変な事になるかもしれないのに、どうして協力してくれるのかな?さっきは流れちゃったけど、追い出そうと思えばできたはずだよね?」

 

「そうじゃな……付き合いは短くない。頼られてやるとするわい」

 

そう言うとロム爺は壁際から大きな棍棒を持ち出した。

 

「ロム爺さんて、見た目通り結構力あるよね。僕なんかじゃ、そこらにある剣ですらきっと、振り回すこともできないよ」

 

狛枝がロム爺が棍棒を持ってる姿を見て感心する。

 

「こんな場所じゃあ、どいつもこいつも自分が生きるのに必死でな、幼子が生きていくには似た境遇の子らと徒党を組んだりするのが常なんじゃが……フェルトはそれに向かん。なのでワシがフェルトを守ってやらねばならん。というか、お前さん、巨人族を見るのは初めてか?まぁ、今じゃ、数も減ったし王都でも、他の巨人族を見たことないから当然と言えば当然じゃがの」

 

(ロム爺のヤロー、余計なこと言いやがって)

 

しばらく、そんなどうでもよい会話が続いた。

フェルトは客が全然来そうにないので乗り込んでやろうかと思っい始めていたその時だった。

 

「…………来た!」

 

トントン、と正面玄関の扉が数回ノックされた。

 

ノックの音を聞いた狛枝とロム爺は一瞬、向かい合うと頷きロム爺が扉を開けに向かっていった。

 

扉が開く音が聞こえ足音が盗品蔵に入ってきた。

 

(間違いねぇーな……アタシの客だ)

 

足音の正体は間違いなくフェルトの客だった。

全身に黒や紫を基調としたマントとドレスを身に纏い、特徴的な長い黒髪の女性だったのだ。

 

「よく来たな。まぁ、適当に座ってくれ。一応、取引の話はフェルトから聞いている」

 

ロム爺が女に席を勧める。

 

「……部外者が多いと言うより、部外者しか居ないような気がするのだけれど」

 

女は少し機嫌が悪そうに言い放つ。

当然と言えば当然だ。自分が依頼した相手が居ないのだから。

 

(悪いな姉ちゃん。文句は兄ちゃんに言ってくれ。さぁ……兄ちゃん、お手並み拝見とさせてもらうぜ……)

 

フェルトは息を飲んで状況を見守ることにした。

 

すると、機嫌の悪そうな声を聞いた狛枝が立ち上がり女の前に立った。

 

「やぁ、君が今回のフェルトさんの取引相手の人、ってことで良いのかな?」

 

「……あなたは?」

 

女は狛枝の目をしっかりと見て聞く。

 

「ボクは今回、フェルトさんの代わりに君と交渉する事になったフェルトさんの代理人だよ。よろしくね」

 

「代理人?てことは、あのフェルトって子はここには居ないのかしら?」

 

「うん、そうだよ。非常に申し訳ないんだけどね……実はフェルトさん、今回の依頼中にミスをしてしまってねぇ……」

 

「……ミス?まさか、とは思うけれど依頼に失敗でもしたのかしら?」

 

女は明らかに怪訝そうに目を細めた。

 

「あ、その辺は一応大丈夫だよ」

 

狛枝はそう言うとフェルトから預かっていた徽章をポケットから取り出して女に見せる。

その狛枝の表情はとても殺し屋の目の前に居るとは思えないほど平然そのものだった。

 

「そう、それなら良かったわ。でも、聞いてもいいかしら。どうしてあの子はここに来ないのかしら?」

 

女の言葉を聞いて狛枝は腕を組み、溜め息をつく。

 

「……いや、フェルトさんは一応ここには来たんだよ。フェルトさん、どうやら、今回の依頼中に盗んだ相手が反撃で魔法を使って来たらしいんだけど、その時にその魔法がフェルトの脇腹に当たっちゃったみたいでね……外傷は無かったんだけどこの盗品蔵に入って来てからしばらくして倒れちゃったんだ。たぶん、あの様子だと内蔵が潰れちゃったかも……でも、完全に気を失う前に取引の事をボクに任せてきたんだ。そのあとすぐにフェルトさんを治療ができそうな人のところに運んじゃったから、ここに居ないって訳だよ」

 

(あ、あいつ、息を吐くようにデマカセをペラペラと……アタシがミスなんかするわけねぇっつーの!)

 

フェルトは狛枝のデマカセを聞いて苦笑いを浮かべた。

 

「なるほど……事情は飲み込めたわ。こちらとしては、不本意だけど、それなら仕方ないわね。それでは、あなたが代わりに交渉するってことで良いのかしら?」

 

「うん。その認識で間違いないよ」

 

狛枝は笑顔で受け答えをした。

 

 

 

※※※

 

 

 

狛枝とロム爺、それからフェルトの客〝エルザ〟の三人はカウンターの前にある席に座り互いに向き合う形で交渉を始めていた。

エルザと狛枝の前のテーブルにはミルクの入ったガラス製のコップが置かれエルザはそれに口をつけていた。

ロム爺も極力、いつも通りに接客しようとしているようだ。

場の空気も少し和んできている。

 

「依頼料の聖金貨十五枚とフェルトって子の治療費として聖金貨一枚を払わせてもらうわ」

 

エルザは袋から聖金貨を取り出すとテーブルの上に広げた。

聖金貨が擦れてジャラジャラと金属の擦れる音が響く。

 

「うむ……十六枚、丁度」

 

ロム爺は聖金貨の枚数を数え、十六枚あることを確認した。

 

「実は〝依頼主〟から余分なお金を渡されているの。少しの上乗せを考える意味でね」

 

「依頼主……ということは、エルザさんも誰か依頼されてるだけって事なのかな?」

 

狛枝が依頼主という単語に反応する。

 

「そうなるわね。欲しがっているのは依頼主の方。でも、今回は上乗せではなくて治療費ということで少し多めに払わせてもらうわ」

 

「優しいんだねエルザさんは」

 

「あら、優しいだなんてお世辞が上手」

 

エルザは狛枝に微笑む。対する狛枝は……フェルトの居る位置からでは顔は見えないが、きっと笑っているのだろう。

順調に進む交渉の状況を見てフェルトは安堵した。

 

(なんか、このまま無事に終わりそうだな……てことはやっぱり、殺し屋云々はあの、兄ちゃんのデマカセか妄想ってことか……?だったら、この手帳、貰っちまうか。そうすれば、聖金貨十六枚に加えて聖金貨三十五枚以上……ヒヒヒ)

 

フェルトは笑みを浮かべそんな思考を巡らせる。

 

「はい、これが約束の徽章だよ」

 

狛枝はそう言うとなに食わぬ顔で徽章をエルザに手渡した。

エルザも徽章を手に取り確認すると聖金貨を狛枝の方へ渡す。

 

「確かに、受け取ったわ。あの子がここに居ないのは残念だけれども仕方ないわね。それじゃあ、私はそろそろ、失礼するわね」

 

エルザはミルクを一気に飲み干すと唇についたミルクを舌で拭き取り立ち上がった。

狛枝とロム爺も立ち上がる。

 

(なんだ……本当に何もなさそうだな…………)

 

「とても、有意義な交渉だったよ。エルザさん」

 

狛枝は意気揚々と両腕を肘から上げた。

 

「それは良かったわ。そう言えば…………そちらのご老人がこのお店の人というのは分かるのだけれど、あなたは一体、何者なのかしら?こう言っては、なんなのだけれども、あなたのその服装はとてもこの辺りに住んでいるようには見えないのだけれど」

 

エルザは当然とも言える疑問を狛枝に聞いてきた。

 

「ああ、ボクはね。最近この国にやって来たんだよ。色々あってねぇ……ここでお世話になっているんだ。ねぇ、そうだよね?ロム爺さん」

 

「お、おう……そうじゃな」

 

突然無茶ぶりされたロム爺だがなんとか返す。

 

(ドンマイ、ロム爺)

 

フェルトはクスクスと笑った。

 

「そう……」

 

エルザは笑みを浮かべる。

そうするとエルザは玄関の扉の方へと数歩歩いた。

 

(おいおい……マジでなにも起きないじゃんかよ……)

 

フェルトの狛枝に対するイメージが悪くなってる。

すると、そんな時だった。

 

「あっそうだわ。最後にもう〝一度〟だけ、聞いても良いかしら?」

 

エルザはテーブルから玄関までの中程で止まりまた振り返って狛枝の前まで迫ってきたのだ。

狛枝は全く動じようとしない。

 

「もちろん。ボクはかまわないよ」

 

「ありがとう。それでは〝もう一度〟聞かせてもらうわ……」

 

(……ん?)

 

フェルトはエルザの雰囲気に僅かな違和感を感じた。

正直言って表情も仕草もさっきと何ら変わらない。しかし、そのエルザの狛枝を見る目はどこか冷たく見えたのだ。

 

「あなたは〝本当は何者なの?〟」

 

「…………どういう意味かな?」

 

狛枝の顔から笑顔が消え真面目な表情になる。

 

「あら。あなたなら、頭の回転が早そうだし私の質問の〝意味〟がとってもよく分かると思ったのだけれど」

 

「悪いけど、君の言ってる意味はサッパリわから――」

 

「あくまで惚ける気なのね……それなら――」

 

「――っ!?小僧、下がれっ!!」

 

「うわっ!?」

 

(――――え?)

 

ロム爺が大きな声を上げた。

その後に続いて狛枝の驚いたような声が聞こえる。

その後に起きた事は一瞬過ぎてフェルトには理解できなかった。

 

ガッシャン!!と、盗品蔵内に大きな物音が響いたのだ。

 

(な、なにが起きたんだ!?)

 

フェルトの目は壁の穴に釘つけとなった。

冷静になって状況をよく確かめようとする。すると……、

 

「あら、避けられてしまったわね」

 

エルザは冷酷に言いはなった。

見るとエルザの右手にはナイフが握られていた。

 

フェルトはそれを見た瞬間、何が起こっているのか瞬時に理解した。

狛枝はエルザに攻撃されたのだ。

 

(あ、あの兄ちゃんは!?無事なのか!?)

 

状況の急変ぶりにフェルトは混乱していたがフェルトはすぐに狛枝を探した。

すると狛枝はロム爺のすぐ近くに居た。

カウンターに倒れ込む形で倒れている。

そのカウンターは破損しており、どうやら先程の大きな物音はロム爺がとっさに狛枝の体を引っ張ってナイフを避けさせたときにカウンターにぶつけた時の音らしかった。

 

(……あの兄ちゃんは無事みたいだな……ロム爺は…………)

 

フェルトはロム爺に目を向ける。

そして、大きく見開いた。

 

「ウグッ…………!!」

 

(…………え、ロム、爺?)

 

フェルトの耳にロム爺の声が聞こえた。

その声はフェルトが今まで聞いたことが無い曇った声だった。

ロム爺は左腕を覆うように屈みこんで苦しそうな表情を浮かべている。

床には真っ赤な血が垂れ水溜まりが出来上がっていた。

 

その血溜まりの真ん中には大きな手が落ちていた……。

 

「ロム、爺…………」

 

フェルトはロム爺の名前を呟いていた。その表情はかつて無いほど青ざめている。

 

そして、気がついた次の瞬間にはフェルトは立ち上がり裏口に向けて走り出していた。

 

(……この、この!!!!)

 

腰の短剣を引き抜き構える。

そして、裏口の扉を勢いよく蹴り破った。

 

「フェルト!?」

 

ロム爺が裏口から入ってきたフェルトに驚きの表情をした。

エルザがフェルトの方を振り向く。

 

「テメェ!よくもロム爺を!!」

 

フェルトはそう叫ぶと大きく跳びはね、目にも止まらない速さでエルザの頭上に短剣を勢いよく降り下ろした。

エルザは後退りながら咄嗟にナイフで短剣を防ぎ笑みを浮かべる。

 

「風の加護。ああ、素敵。世界に愛されているのね、あなた。――妬ましい」

 

フェルトは攻撃が入らないのを確認すると後方へ跳び後退した。

本当ならこのまま怒りに任せて攻撃をかけてもよかったがロム爺は手首を切断されただけでまだ、完全に意識を保っていた為、今はエルザをロム爺から引き離そうとの考えだった。

何故ならロム爺の武器である棍棒が少し離れた場所にあり今のロム爺は無防備の状態だからだ。

一方のエルザも、どうやら、フェルトの登場にそれなりに驚いていたらしいかった。その証拠にフェルトから若干だが間合いを取っていた。確かにさっきまで〝ここには居ない〟と言われていた人物が突然現れれば当然の行動だろう。

 

「あら。あなた、仕事に失敗したと聞いていたのだけれど……」

 

「ふん、あいにく仕事に失敗なんかしてないね!文句はそこでのびてる兄ちゃんに言うんだな!」

 

フェルトが挑発の意味も込めてそう言うとエルザは狛枝の方を向きそれを面白い事のように笑った。

 

「そう……全て茶番だったのね。まぁ、最初から何処か胡散臭いとは思っていたけれど……あら、どうやら〝青年〟が復活したようね」

 

「うぅぅ……イタタタ…………」

 

大きく陥没したカウンターから狛枝が手で頭を抑えながら唸り声を上げてゆっくりと出てきた。

 

「兄ちゃん無事か!?」

 

フェルトは立ち上がった狛枝に声をかけた。

すると立ち上がった狛枝はフェルトの方を見て驚く。

 

「……ふぇ、フェルトさん!?どうして戻ってきちゃったの!?」

 

「どうしてもなにも……ロム爺がやられたからに決まってんだろ!?」

 

「ロム爺さんが……?それはどういう……うわっ!?」

 

狛枝は足元に広がる血とうずくまっているロム爺を見てまた、驚いた。

 

「まさか殺されて……は、ないみたいだね。良かった」

 

狛枝は嬉しそうに笑う。

 

「勝手に殺すでないわ……片腕は失ったがの…………」

 

ロム爺は苦しそうに返答した。

 

「…………」

 

ロム爺の返事を聞いてから無言になり少しの間、腕を組んで狛枝は全体の様子を見回した。

 

(さすがに……兄ちゃんも、この状況には驚いてんだろうな……)

 

「ふーん…………なるほど、ね。そう言うことか……状況は理解したよ。フェルトさんが戻ってきたという〝大きな誤算〟はあったけど、ある程度はボクの想定内みたいだね」

 

「なっ…………」

 

「お、お前さん……冷静に分析してる場合ではなかろう……」

 

フェルトとロム爺は狛枝が状況を冷静に分析しだした事に驚愕した。

 

(こいつ……この状況に驚きも、ビビリもしないなんて……それに、想定内ってどういう……)

 

フェルトとロム爺が驚愕している一方、エルザの方も狛枝にさらなる関心を見せた。

 

「あら。貴方、この状況に驚きもしないのね……」

 

「ふん、ある程度は〝想定〟していたからね。でも、まさか君の方から〝アプローチ〟があるとは思わなかったよ……」

 

「想定していた……うふふ。ということは、あなた、私の正体に気がついていたのね?」

 

「当たり前でしょ……そうでもなければこんな回りくどい事しないって」

 

「色々聞きたい事はあるのだけれど、今一番私が聞きたい事はただ一つ……貴方は〝何者なの?〟あ、言い忘れていたけれどもう、はぐらかすのは止めた方が良いわ。そうしないと……」

 

エルザはそう言いナイフを狛枝に見せびらかせる。

 

「ボクから最初に殺すって事でしょ?そんな見えすぎた事を今さら言わなくても分かるって」

 

「物分かりが良くて嬉しいわ。私、貴方にすごく興味があるのよ?」

 

「はぁ……そんなに、ボクの事が知りたければ教えてあげても良いんだけどさ……その前にボクからもいくつか質問させてよ。さすがに、ボクが答えたら二人を見逃してくれなんていう〝無意味な条件〟はつけないからさ。答えてくれたら、ボクも答えてあげるよ。等価交換ってやつだね。ボクの質問に答えてくれない場合は残念だけどボクは君には何も言わない。もちろん、フェルトさんや、ロム爺さんを見せしめに殺したとしても、ボクは何も言わないよ?むしろ、その場合はボクは何も言わずに死なせてもらうよ」

 

「等価交換……良いわ。その提案のってあげましょう。確かに貴方が答えて私が答えないというのは、いささか不公平ですものね。それで?貴方は何が聞きたいのかしら」

 

エルザは楽しそうに狛枝に聞く。その狛枝の表情は真剣そのものだった。

 

「それじゃあ最初の質問だよ。単刀直入に聞くよ。君はどうして、ボクたちを殺そうとするのかな?」

 

「そ、そうだ!なんでアタシ達を殺そうとするんだよ!?」

 

フェルトは狛枝のエルザに対する質問に同調した。

 

「貴方達を殺そうとする理由?それは、貴方が私の問いに真面目に答えてくれなかったからではなくて?あの時に答えていれば、こんな事にはならなかったかもしれないわね」

 

「それは違うよ……」

 

「……何が違うのかしら?」

 

「君は……ボクがここに居なくてもフェルトさん達を殺そうとしていたはずだよ?君が〝今までやってきた事〟を考えればね……」

 

「それは……どういう意味かしら……」

 

エルザは笑顔のままだが狛枝を見るその目は鋭い。

 

「どういう意味って……そのままの意味に決まってるでしょ。王都を騒がせる程。君は世間では何て呼ばれてるか知ってる?もちろん知ってるはずだよね?ボクはその辺の話を聞いて独自に調べたんだよ」

 

「その辺の話って……」

 

フェルトは狛枝に恐る恐る聞いた。

すると狛枝は今日何度目かの溜め息を吐く。

 

「はぁ……フェルトさん、ボクはずっと、遠回しに答えを言っていたつもりだったんだけどなぁ。裏社会で生きている君なら少しは知っていると思ったんだけど……」

 

「い、良いから、さっさと教えろよ!!」

 

「しかたないね……答えが分からないフェルトさんの為にもエルザさんの機嫌が変わる前にボクの方で教えてあげるよ。エルザさんはね……実は、今、王都を騒がせている〝腸狩り〟だったんだよ。黒髪に黒い装束、それにその特徴的なナイフ……間違いないよ。ボクの情報源が正しければね……その正体は傭兵と言われているらしいんだけど、その殺し方は……その異名の通り、相手の腹を裂くという特徴的なものなんだ。これだけなら、ボクは別にいいんだけど一番の問題はここからだよ。君は、過去にも仕事関係でちょっとだけ関係をもった相手を殺した事が〝何度も〟あるはずだよね?ここからはボクの推測だけど、これって、エルザさんが殺しについて何か〝特別な意識〟を持っていたってことになるんじゃないかな?だとしたら、なんて〝絶望的〟な殺しをしてるんだろうね。君にはあんなに〝素晴らしい才能〟があるのに……才能の無駄使いだよ……君の殺しからは〝希望〟を一切感じない…………もちろん、この情報が間違っているなら、ぜひ、反論してよ。以上が今、ボクが持っている根拠だからさ。本当ならこれくらいの根拠じゃ言いがかりと言われても仕方ないんだろうけどね。だけど時間もなかったし……物証もほとんど無かったし……どうかなエルザさん?こんなゴミみたいな情報でも〝素直に〟認めてくれたらボクは嬉しいんだけど」

 

「…………すごいわ」

 

「それは、認めるってことで良いのかな?君が腸狩りだってことをさ……」

 

「ええ、認めるわ。全て真実だものね」

 

エルザは普通に認めた。自分が腸狩りだということを……フェルトはエルザの二つ名を呟いた。

 

「腸、狩り……」

 

「確かに貴方が居ても居なくても私は殺していたかも知れないわね。それは認めてあげるわ。それでは次は私の番かしら?」

 

「もちろん良いよ。ボクが聞きたかったことはもう、聞けたからね……」

 

「私、さっきも言ったけれど、貴方に今、スゴく興味があるのよ?今、貴方と目を見て話して私、スゴく感じたの。さっきだって、そう。貴方は私と何処か似ているって思ったのよ!何処が似ているかと言われたら困るのだけれど、私とは違う……」

 

エルザはそこまで言うと首を横に振った。

 

「うんうん、今まで私が感じたことのない〝別の何か〟を感じたの」

 

「支離滅裂だね……」

 

興奮ぎみに話すエルザに狛枝は端から見ても分かる嫌悪感を示した。

だが、エルザはそのまま続ける。

 

「まぁ、そう聞こえても仕方ないわね。でも、仕方ないのよ?私もこんな〝違和感〟を抱いたのは初めてなのだから。だから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方のお腹を開く前に、ぜひ、貴方の口から聞きたいの。貴方の正体を、ね……」

 

 

 

 

 

 

 

 




本当に絶望的なほどの長文でしたね……。
これを一話にまとめて投稿しようと思っていたなんて……。
本当はこの先まで書く予定だったんですがさすがに今は止めときました。
これ以上書き続けたらとんでもないほど更新が遅れたと思うので。

狛枝クンのねっとりボイスを聞きすぎて希望とか絶望っていう単語に過剰反応してしまうようになりました。今ニュースでやってる東京都知事の〝希望の塾〟とかとくに……。
塾長、狛枝クンで良いんじゃないですかねぇ……って、絶対ダメですね。
日本が希望厨だらけになっちゃいますね。
というか狛枝クンのボイスを聞きすぎてもはや狛枝クンの声が子守唄のように聞こえてしまいます。自分で言っていてなんですが、重症のようです。
皆さんもぜひ、やってみてください!希望って気持ちいね……。

最後に季節の変わり目なので皆さん、体調には気をつけてくださいね。

それにしても……どうして、今回の狛枝クンはここまで色々と知っているのでしょうかね……。

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