気温が一段と下がるこの時間は昼のときと違って静かだ、だけどオレ達がいる警戒区域では遠くからトリオン兵と戦っている音が聞こえる。上を見上げてみれば星が輝いている
綺麗だなと見ていたら一菜が敵が来ていると言ってきた。上へ向いていた顔を正面に向けると太刀川体、風間隊、冬島隊A級上位部隊と三輪隊が立っていた、全員バッグワームを付けているからレーダーには反応がないわけだ
そりゃそうか、これから狩りに行くのに居場所を晒すなんてバカな真似はしないか
「あれ?迅さんと……忍田隊?アイツ等こっちに来ていたのかよ」
最初に口を開いたのは冬島隊の当真さんだった。オレの後ろにいる春多と一菜をみて不思議そうにしているが、まあ無理もない。帰国子女の2人は日本の勉強をするために四日市へ行っているとなっているから、今日この日に帰ってきているのは彼らにとっては良くない事だ
「よう、当真、冬島さんはどうした?」
「ウチの隊長は船酔いでダウンしてるよ」
「余計なことを喋るな、当真」
どうやら遠征から帰ってすぐに来たみたいだ。冬島さんがいないのは船酔いで倒れているからなのかと納得した。正直言ってトラッパーのやることは苦手だ。あっちには悪いけれど居なくて助かった
「こんなところで待ち構えてたって事は俺たちの目的も分かってるって訳だな」
「ウチの隊員にちょっかい出しに来たんだろ?最近ウチの後輩たちはかなりいい感じだから邪魔しないでほしいんだけど?」
普段はとんでもなくだらしない太刀川さんだけど、こういう戦闘関連では一気に賢くなる。それが普通に勉強のほうでも生かせたら、頭を悩ましている叔父さんとか風間さんとかストレスが幾分か減るだろうに
「そりゃ無理だ、と言ったら?」
「その場合は仕方ない、実力派エリートとしてかわいい後輩を守んなきゃいけないな」
「そッスね。たとえ本部隊員だとしても、アイツのブラックトリガーは奪わせるわけにいかないッス」
いつもより好戦的な迅さんに太刀川さんは気分が上がったみたいだけど、風間さんがそれを許さなかった
「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』、隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟があるんだろうな、迅、護」
「当然ッス、風間さんたちは命よりも重いものを遊真から奪おうとしているんだ、友人として、仲間として見過ごせないッス」
「それにね風間さん、ウチの後輩だって立派なボーダー隊員だよ。アンタらがやろうとしていることもルール違反だろ、風間さん」
その通り。ついこの間正式に入隊手続きは済ませた。玉狛では、だけど。迅さんはそれにと続けて言った
「ネイバーを入隊させちゃダメっていうルールは無い、現に
「「「「「!!」」」」」
風間隊と三輪隊が驚いた。それも当然だ。1年前の遠征では宇佐美が玉狛に来たばかりで、後任のオペレーターが部隊との連携に慣れるために風間隊は参加しなかったから知るわけがない
逆に太刀川隊と冬島隊とは一緒だったから知っている、そして城戸さんが正式に入隊を認めているためこうしてオレのチームにいるわけだ
「本当なのか、護?」
「そうッスよ、風間さん。産まれも育ちも『向こう』ですよ、こっちの世界にオレの出生記録なんて無いッス」
驚いている人の中で1人だけ、三輪だけはオレを殺そうとしそうなほど睨みつけている。トリオン体だからよかったものの、弧月を持っている手はきつく握られていて、生身だったらきっと血が出ていたと思う
「言っとくけど城戸のオッサンは許可しているからな!今更言っても何も変わらないぞ!」
「そうですね。たとえ人数差や戦力差があったとしても私達は彼を守るために、何度でも武器を持って邪魔をします。私たちのことはご存知ですよね?隊員となった彼を追っても処罰を受けるのはそちらですよ?」
アサルトを持って一菜がそう言うがまだ
「いいや、そんな事はないぞ。お前の後輩はまだ正式な隊員じゃないぞ。玉狛での入隊手続きが済んでも、正式入隊日を迎えるまで本部ではボーダー隊員と認めていない、オレたちにとってお前たちの後輩は1月8日までは野良ネイバーだ、仕留めのに何の問題も無い」
本当に最悪だ。
「……やれやれ、そう言うだろうなと思ったよ」
と言ったのだから。オレ達もそれぞれ武器を構えて戦闘態勢になる。しばらくの沈黙の後、先に動いたのはこっちだ。一菜が
「春多」
「了解!!」
サイドエフェクトが左の民家の屋根から誰かが忍び寄っているのが分かる。その情報はオレの隊の2人にも共有しているから春多にも分かる。弧月を抜いて一見何もないところを斬ろうとする。カメレオンを起動中は無防備なため防ぐには解除しないといけなくて姿を現した菊地原が2本のスコーピオンで受け止めた
「っく!やっぱり最初見られたから居場所が」
「それならオレに任せろ!
後ろにいた出水が分割したメテオラを放ってきた。これはオレのシールドでは防ぎきれないけれど、一菜が1辺10cmはある六角形の物質化した盾が守ってくれた。同じものがいくつも組み合わさって大きな盾になったから命中することはなかった
「マジかよ……あんなのありか?ちょ!!」
お互い盾で見えないが、オレにはサイドエフェクトで位置が分かるから、春風を振って屈折旋空を上空へ放つ。1度目の反射で出水に向かうが、当然避けられる。だけどバックステップで下がっている瞬間に、地面に当たる直前で2度目の反射、今度は左足を掠めた
「あれが曲がる旋空?チートじゃね?」
「隊長!!」
「おう、ようこそッスよ。菊地原!」
春多が斬りあっていた菊地原をこちらに飛ばしてきた。盾は移動して遮る物がなくなると春風で斬ろうとするが、直前で風間さんが庇った
「させると思うか?」
「当然、やらせてもらうッスよ!」
返す要領でもう一度振る。流石に耐えれなかったスコーピオンが砕けて腕の1本でも落とそうかと思ったら、三輪がハンドガンを構えていた。シールドを展開すると同時に一菜が3枚組み合わせた盾で防いでくれた。その瞬間鉛が生えて落ちた
「レッドバレッド!っく!」
アステロイドじゃなかったことに驚いていると、風間さんが蹴ってきた。体勢が崩れそうで1回バク転して前を見据える。隣に春多も来て弧月を構えるが、迅さんとやりあっていた太刀川さんが旋空を放とうとしていた。後ろに跳んで回避して屋根に着地すると、一旦逃げる。離れたところに当真さんのトリオン反応があるけれど、撃ってくることはなかった
取りあえずは凌ぐことが出来たオレ達は今後の作戦を話し合っていた
「それでこれからどうするッスか?」
「まとまって行動していたら一網打尽の可能性もあります。それにこちらは遊真くんを守るという立場を利用して分断してくる可能性高いと思います。三輪隊の2名は見ませんでしたが合流するかと」
一菜が現在の状況を告げてきた。古寺と米屋を見なかったけど合流していると思う。問題はどう動いてくるかだ。分断してきたらこちらもそうせざるをえない
片方を相手している間に、もう片方が玉狛支部に入ってしまうからだ。たとえ違ったとしても迂回して挟撃の可能性だってある
「そうだな、風間さんがそっちに言ってくれると嬉しいんだけど。オレのところに来るだろうな」
確かにそうだと思う。オレのサイドエフェクトじゃ風間隊は来る可能性はかなり低い
「私達を相手にするならまずは隊長のサイドエフェクトを封じるために出水先輩と春多の足止めに米屋先輩、それと三輪先輩のレッドバレッドの構成で来る可能性が高いかと」
「そッスね。太刀川さんは迅さんとやりたいだろうし」
「まーそうだろね。何人かそっちが相手をしてくれればこっちはやりやすくなる。お、きたみたいだ」
何人来ようと関係ない。遊真を守るためならいくらでも立ち上がってやるつもりだ。普段は付けない黒いヘアピンに触りながら覚悟を決めると予想通り二手に分かれて玉狛に向っている
「頑張れよ」
「そっちもッス」
最後にそれだけ言い残して迅さんは太刀川さんたちの所へ向かった。オレ達も三輪たちの所に行った。たとえここで撃退したとしても今度は更に戦力を増やして来る可能性が高いと思う、と言うより城戸さんなら多分やりかねない
それでも入隊日が来たとしても遊真の入隊を認めてくれるとも思えない。だとしても迅さんは何か策があるんだろう、でなければ隊務規定侵してまで守ろうとしないはずだし
そんな事を考えながら道で待っていると三輪達がやってきた。7,8mほど離れたところで止まると玉狛が何を考えているのかと問いかけられたが、そんなのオレが知るわけがない
「そんなの知らないッスよ。ボスも迅さんも飄々としているから何をしようとしているのかなんてさ。でも遊真の、アイツの大切なものを奪うっていうなら手加減はしないッス。全力で阻止するッスよ」
こっちに来て手に入れた衣食住を手放すことになっても、オレはきっと守るために立ったと思う。そして後ろにいる2人もさも当たり前かのように付いて来るだろう、喜べばいいのか呆れればいいのか分からないけれど
「そんなの……大切かどうかなんて関係ない!ブラックトリガーを持っているなら奪うのが当然のことだ!そうじゃなければ……オレ達が奪われ続けるだけだ!そんな理不尽なことがあってたまるか!!」
「っ!!あっぶな……」
怒りを抑えられなかったのか激昂してハンドガンを抜くと撃ってきた。何とか春風で弾いたが、乱戦状態だとそうもいかない。この1発が戦闘開始の合図となって出水がハウンドを放ってくるが、一菜のアサルトとエスクード改のお陰で全て防いだ
「オラッ!」
「させるか!」
三輪は横に動いて、米屋は真っ直ぐ向ってきて槍を突き出してくるが春多が弧月で弾いて守ってくれた。2本目の弧月も抜いて斬り合い始めた
「春多、任せたぞ」
「了解!」
旋空を除いて米屋に飛び道具はなかったはずだから、同じアタッカーの春多に任せてオレは先に出水を落とそうとしたが、当然三輪が邪魔をしてくる
「っ、通してくれないッスか?」
「させるわけないだろ、ネイバーがっ」
激しく憎まれてしまったな、なんて他人事のように思いながらバックステップで距離を取ると、銃を構えてきたがエスクード改が防いでくれた。その隙に出水のところに行くと背後にトリオン反応を感じた
「させるわけないだろ?」
「っ!?」
さっきまで春多と相手をしていたはずなのに、後ろにいたのは米屋だった。咄嗟にシールドを張ったが、幻踊弧月で巧みに避けて左肩を掠めた
「やっぱり護はすぐに落とせないか。おっと!」
「お前の相手はオレだろ!」
「それは悪かったな。じゃあお前を落としてからにするかな」
春多が切りかかるが当然防がれる。出水の元に行こうとした時違和感を感じた、あまりに離れていることに。シューターなら当然だがその顔に貼り付けた勝ち誇った表情が気になった。三輪は一菜と撃ち合っていて近づけるような距離じゃない。じゃあ何でなのかと思っていると足元にトリオンキューブがあった。気付いたときには遅く爆発した
「隊長!!」
「隊長!?」
「やってくれるな……!」
ギリギリでシールドを展開したが、トリオン体はそこそこダメージを受けた。仕掛けるタイミングは多分米屋を相手にしたときだ、あのときにこっそり置いて距離を置いたんだろう
オレのサイドエフェクトは見ないと感知できないから完全に不意を突かれた
「今度は三輪ッスか?人気者ッスね、オレ」
振り返れば三輪が弧月を振り下ろそうとしていたから春風で受け止めたが、背後はがら空きでいつ狙われてもおかしくない。すると一菜がハウンドをセットして上空へ撃つと放物線を描いて出水を狙った。だけどシールドで易々と防ぐとお返しと言わんばかりにアステロイドを分割して放った
間違いなくオレも射程に入っていてこれでは三輪も巻き添えを受ける、ここでシールドを展開すれば守ってしまうことになる、だからと言って何もせずにいると今度こそベイルアウトしてしまう
もうすぐで命中するって時に一菜がエスクード改で守ってきた
「隊長。出水さんの相手は私がします」
「……わかった。出来るだけ時間を稼げ」
「了解です」
後ろに立った一菜に出水の相手を任せるとして、春多のほうはどっちもそこそこのダメージを受けている。やっぱり幻踊弧月の前ではただ防いだり避けたりするのは限界があるみたいだ
「余所見をしている暇があるのか!」
「おっと」
他のところに気を取られていると三輪がアステロイドを撃ってきた。シールドで防ぐと屈折旋空を放つが避けられてしまう