ワールドトリガー「Re:自戒の絆」   作:悠士

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前作にはないオリジナル展開になってしまった


18話 なんともない一日

 那須先輩の部屋に来て座ると詳しく噂の事を話してくれた。C級を中心に広まっているらしく、B級以上も少し知っていたりしている。出所は分からず、那須先輩もチームのスナイパーの日浦から、訓練中に聞いたといっていた

 

「一応聞くけど、護くんはネイバーなの?」

 

「ッス。噂は本当ッス」

 

「それを本部長達は?」

 

「知っているッス。来たのは4年半前、ネイバーの侵攻があった日ッス。そのときに叔父さんたちと出会ったッス」

 

 一応と言って聞かれるが、否定してもオレがネイバーだって言うのは払拭できない。それに落ち込みようからほぼ確定じゃないかと考えていると思う。だから素直に答えた。オレなりの誠意ってやつを

 

「そっか、本部長達が知っているなら大丈夫なんだね」

 

「オレは何かをしに来たわけじゃないッス。ただ、母さんが生まれた国を見てみたかった、それだけッス」

 

「お母さん?」

 

「オレの母さんはこっちの国の住人なんス。向こうで色々あって……嫌になって、それでこっちに」

 

「………ちょっとまって、ネイバーに連れて行かれた人って、生きているの?」

 

 ボーダーは情報に規制をかけているからネイバー=人間というのをほとんど知らない。大体がA級から知る事になる、遠征に行くときに知る事になるからネイバーフッドの事も含めて教えられるのだ。そして帰還したら口外してはいけない決まり。こうしている事で組織として維持しているのだ。オレは少しだけ、かいつまんで那須先輩に話した。だけどオレの過去に関しては大体にといった感じで

 

「……というわけで出会えた叔父さんと一緒に暮らしてるんス」

 

「そう、大変な世界なのね。ネイバーって」

 

 初めて知るネイバーの世界のことじゃなく、オレのことも聞いてどう答えたらいいのか分からないのだろう

 

「那須先輩…今日聞いたことはできたら誰にも言わないでほしいッス。これ以上広がると……叔父さんたちに迷惑かけてしまうから」

 

 ボーダーを盾に言わないでほしいという事もできたけど、これはオレの問題だからそういうことはしたくない。と言っても多分迷惑を掛ける事になるだろう。市民にも知られるのも時間の問題だと思う。足をそろえて頭を下げて土下座してお願いをする

 

「ま、護くん!土下座までしなくていいから、誰にも言わないって約束するから。だからそんな泣きそうな顔はしないで、ほら!今日好きな映画観て楽しかったじゃない」

 

 本当なら騙していたのかと怒ってもおかしくないのに、それなのに那須先輩はパンフレットを取り出した。優しいなと思うと、オレは周りにいる人たちは、オレがネイバーであっても気にしていない人が多い。主に玉狛支部のメンバーだけど。それだけでなく一菜と春多は一度は裏切られたのにまたオレに付いて来てくれた

 

 不安だった玄界(ミデン)の生活も気付けば助けてくれる人たちに囲まれていた

 

 そのあとは映画のことを少し話して家に帰った。ご飯のときに叔父さんに噂のことを話して迷惑かけてしまうことを告げた

 

 

 

「クリスマス?」

 

 今日も学校が終わって玉狛支部に顔を出すと、先に遊真たちが来ていた。いつもならそのまま訓練なのだが、今日は少し違った。あと5日後に迫ったクリスマスに玉狛はパーティーをするのだ。それを知らない遊真は首を傾けた

 

「この国にはサンタクロースっていう、赤い服を着て白いひげを生やしたおじさんがいて。そのサンタが毎年全世界の子供達に欲しいものをプレゼントするっていう日なんス」

 

「ほー、この国にはそんな変わったおじさんがいるのか」

 

「いや、実際にはいないんだ。子供達の間で信じられている空想上の人なんだ」

 

 多分遊真にはサイドエフェクトで嘘だと分かっているだろうが、言い伝えとか宗教などの話なんだろう思ったのか納得したように言った

 

「パーティでもするんですか?」

 

「そうだよ!みんなが買ったプレゼントを交換したり、レイジの兄貴のご飯を食べたり!」

 

 雨取のしつもんに春多が興奮して答えた。レイジさんを兄貴呼ばわりしたり馴れ馴れしいが、気にしていないみたいだからいいけど。なんでも春多のいたスラムでは、世話してくれる年上がいると兄貴と呼んだりもするとか。とにかく毎年玉狛では春多が言うようにパーティーをやるのだ

 

「だからお前達も参加するなら交換するためのプレゼントを買っておくことだ。別に高価なものを買えとは言わない。陽太郎も参加だからお菓子でも十分だ」

 

 お子ちゃまS級隊員の陽太郎はお小遣いが多くないので毎年お菓子くらいしか買えない。百均で売られているようなネタめがねでもいいのだ。目的は楽しんめればそれでOKなのだ。というわけでオレもプレゼントを買うために街へ。夜は任務のため今行くことにした。まあ明日でも明後日でもいいわけだけど

 

「さむ…………はぁー……」

 

 耳が痛くなるほどの寒さに息を吐いて手を温めようとするが、それは一瞬だけですぐに冷たくなった。まだ日は出ているから飾られている電飾は光っていないが、赤と白で彩られた街を見ると、なんだか昔を思い出して引き返したくなった。赤はどうしても血に見えてしまうから

 

「…………帰ろうかな……うわっ!?」

 

 あまり落ち着かないオレはまた違う日に来ようと思ったら、後ろから何かがぶつかって倒れそうになったが耐えた

 

「よ!さっき振りだな!」

 

「青柳?どうしたんだこんなところで?」

 

 飛び掛ってきたのは青柳で、今日の授業を終えて別れたばかり。2時間も経っていない

 

「それはこっちのセリフだって。今日は支部に行くって言って遊び断ったじゃんか」

 

「ああ、支部でパーティするからプレゼントを交換するからそれを買うために」

 

「へーへー楽しそうだね~お前は!そんな奴にはこうだ!!」

 

「ぎゃぁぁああ!!つめてー!!手抜けよ!!」

 

 ほぼ不意打ちで襲われる冷えた手が腹に触れて叫んでしまった。通行人から目を集めて恥ずかしくなり、青柳の頭を叩いて距離を取る。ケラケラと笑う奴に天罰が下りろと念じたりするが何も起こらなかった。それからは暇だからと買い物に付いてくる事になった

 

 適当に見て回るが、中々いいものが見つからない。最終的には菓子の詰め合わせでもいいやと考えていると青柳が映画の話をしてきた

 

「そういえばさ、つい最近お前が気に入ってるアニメが映画になったの知ってるか?」

 

「にゃん大冒険ッスよね!!昨日観たッス!!憎いはずの敵を殺さず、仲間にするのは感動したッス!他の仲間ともわだかまりを解決していって……名作ッス」

 

「お、おお………楽しめたならいいけど……」

 

「青柳も是非観るッス!!お勧めッス!」

 

「オレはいいよ!」

 

 両手で見ることを遠慮する青柳に口を尖らせてつまらない奴と吐き捨てる。なでだよと言ってくるが、あれほどの感動ものをオレは知らない

 

「なあ護」

 

「なんスか?観る気になったッスか?」

 

「ちげぇよ!……日本の生活には慣れた?住んでもう3年以上になるんだろ?」

 

 にゃん大冒険観る気になったのかと思ったけど、そうじゃないみたいで残念

 確かにこっちにきてもう4年半になる。青柳とであったのは中学からで、学校も中学からだ。それまでの1年半はこっちの世界の勉強とかいろいろしていたため遅れたのだ。その経験からボーダーと学校の両立はなれないと難しいということだ。宿題に任務と、それに加えて試験があったり大変だった。平均の点数を超えなかったら補習だったり、勉強する時間が難しいのだ。だから春多たちを四日市に住ませたのもまずは学校に慣れてもらおうと思ったから。1年ぐらいで十分だろうとこの前のブラックトリガー争奪の少し前に戻ってもらったのだが

 

 なにはともあれ、友達とかできて学校や日本での生活に慣れてきた

 

「そうッスね。大分慣れたッスよ。でも急にどうしたッスか?」

 

「いやーオレ達ももうすぐで高校生だなーって。護とはこれからも一緒だしさ、なんとなくそんな風に考えちゃって」

 

「おっさんみたいッスね」

 

「うっせ!」

 

 自覚はあるのかそう言った

 

「まあ確かに中学入って最初にできたの青柳ッスからねー。オレはこれからも友達でいたいと思うッスよ」

 

「そーかよ……試合にも来いよ」

 

「うーん、任務がなかったら」

 

「そこは行くって言えよ!」

 

 結局交換用のプレゼントは見つからず、そのまま支部に帰って夕食を食べた

 

「行ってきまーす!」

 

 トリオン体になって支部を出ると今日の担当地区に向かう。柿崎隊から引き継いで今からオレ達が任務を続ける

 

「春多、一菜。学校はどうだ?ボーダーとの任務もあるから少し忙しくなると思うけど」

 

「今のところ問題はありませんね。試験後に引越しだったので、そっちのほうが忙しかったですね」

 

「そうそう。別に夜はいつも訓練してたから任務が入っても大丈夫じゃないかって一菜と話したんだ」

 

 どうやらオレが何も言わなくても準備はしていたみたいだ。時間があれば訓練はするようには言っていたけど、訓練の時間を任務の時間と仮定してやっていたのなら問題はないだろう

 

 他に生活のほうも聞けば、こっちは全然問題はなかったようだ。A級に上がるまでに玉狛で常識や法律とか読み書きを教えていたおかげで特に困る事はなかったらしい。料理や家事等もレイジさんに教わっているので問題はないと。というかレイジさん家政婦としてもやっていけるような気もしてきた

 

 問題なく過ごせているようで安心した。まだまだ聞きたいことはあったけど、レーダーにトリオン兵が5体出現した事を知り中断した

 

「おっしゃー!オレが全部倒すぜ!」

 

「何言ってるの!バカ春多!」

 

 考えなしに先行しているわけじゃないだろうが、春多が弧月を抜いて接近する。一菜もカバーできる範囲を保って移動しながらアサルトにセットしているアステロイドで牽制。3体がモールモッドで背中の刃でガードする。当然視界が塞がれているので、跳んだ春多に気付かず旋空で腕ごと目玉も切断。2体まとめて倒せて、残りはオレが屈折旋空で腕を避けるように目玉だけを貫いた

 

 残りはバンダーとバムスター1体ずつ。だけどこっちも一菜がアステロイドで行動を制限して、上空から弧月と春風で貫いて撃破する

 

「そういえば隊長、ブラックトリガーって使っていないんですか?」

 

「支部の訓練室で時々。心配しなくても感覚は忘れないようにやってるよ」

 

 異例ではあるけどS級でないのにもかかわらずブラックトリガーを持っている。だけど任務で使おうと思ったら許可を取らないといけないし、S級隊員に上がらないといけない。そういうわけでこれから、というよりも今までも玉狛支部の訓練室で訓練しているのだ

 

「アレは極端な性能ですからね。定期的に使っていないのと大変ですもんね」

 

 防御に特化したあのブラックトリガーは本来は攻撃性はない。争奪戦のときに棒を攻撃に使っていたのは応用だ。2本の棒が出てその間に壁が出来る事で防壁として成り立つ

 

 その代わり壁を出している間は動けないのが弱点であるが。そこは春多と一菜がカバーしてくれる。まあ争奪戦のときは1年ぶりということも合って2人ともベイルアウトしてしまった。オレのサポート力もまだまだだった

 

「今度宇佐美先輩に頼んでやしゃまるシリーズ大量に出して連携訓練するか?」

 

「いいっすね!ひさしぶりにやりてー!」

 

 見た目は色違いなモールモッドだが、性能は固体によって違うからいい訓練にもなる提案すればまっさきに春多が賛成してきた。なんでも四日市の学校では部活には入っていないが、度々助っ人として誘われるらしい。運動神経はかなり良いようだ。勉強のほうはギリギリというところだ

 一菜も自前の弁当が人気で、調子に乗ってキャラ弁とか作ったりしていた。画像付きでSNSにあげていたり。手先が器用ということもあり料理部とか手芸部に呼ばれたりしたそうだ

 

 2人とも学校生活を楽しんでいたようで安心した

 

「ん?笹森先輩?」

 

 突然ポケットに入れていた携帯が震えて、取って見ると笹森先輩からメールが着ていた。明日訓練を頼めないかというないようだ。どうやらあれから弧月の振りは続けていたらしい

 争奪戦があって忘れていた、ってことは言わず学校が終わった後でいいかと送れば、すぐに了解のメールが返ってきた

 

「だれ?」

 

「本部の隊員ですか?」

 

「うん。ちょっとしたことがあってね、お前たちが戻る前に弟子になったんだ」

 

 かなり端折ったが2人にそう言った。そしたらおめでとうと言われてしまった。別に弟子を取る事に祝われるほどじゃないんだが、まあいいかと流して次の交代まで任務を続けた

 

 

 

「長い事空けててごめんッス」

 

「いいって。支部からじゃ遠いから仕方ないって」

 

 翌日学校が終わってそのまま本部に来ると訓練室にはすでに準備していた笹森先輩がいた。確かにすこし距離はあるけど、これないほどじゃない。単純にオレが忘れてただけだ

 

「じゃあはじめるッスか」

 

「おう!」

 

 オレもトリオン体に換装する。最初のときと同じで、ただただ戦うだけ。だが動きが少し違っていた。反応はまだ遅いけれど、斬り返しが早くなったし。シールドを展開して防御に移ったり。特に無理に鍔迫り合いに勝とうとしなくなった

 

「おっと……!」

 

「くそっ!」

 

 春風の刃と競り合っていたが、突然引いて少しだけ体が前に出てしまった。その瞬間に首を切ろうと横に振るってきたが、シールドで防いだ

 

 

 

「意外と前より動きがよくなっているッスよ」

 

「ホントか!?いつもよりはなんか馴染んだっていうのかな?普通に振れた」

 

「ただ振るだけでも手に馴染んでくれば、それだけで違和感が無くなってくるもんスよ」

 

 一通り動きを見て休憩も兼ねて話をしようと思って、訓練の様子を見るために設置されているベンチに腰掛けた。慣れない武器はただ持つだけでも動きに荒さが目立ってくるもんだ。だから振っているだけでも手に馴染んでくれば、動きは洗礼されていくのだ。軍学校の時代でも棒をひたすら1時間も振るだけとか、勝とうが負けようが時間いっぱい相手と戦う、なんて指導もされたものだ

 

「慣れてくればあとは実戦で磨いていくことかな?頻繁には来れないッスけど。……モールモッドを相手にすれば反射神経とか判断能力とか上がっていくと思うッス。手始めに3体同時に相手にするのいいと思うッス」

 

「さ、3体も!?」

 

「そッス。1人で」

 

 多分笹森先輩はこれまでチームで戦っていたから、個人の戦闘能力としては一般隊員と変わらないと思う。それに諏訪隊は先輩を前に立たせて、後ろから2人が撃っていくというスタイルだ。ガンナーの訓練はした事ないから教える事はできないけど、アタッカーなら経験がある。笹森先輩が強くなればトリオン兵倒して自信にもなるし、ガンナー2人の負担も減る

 

 次はモールモッド3体を5分以内に倒す、これがクリアできればランク戦でも少しは強くなっているはずだ。人を相手にする時に反射神経と状況判断能力が上がっているはずだ

 一瞬顔が曇るが、今日成長していたのを実感したのか、やってみると言った。モールモッドは動きもそこそこ早いし、何よりブレードを振るスピードはトリオン兵の中でも最速。硬度も高いので破壊はできない

 いかに早く倒すか、どうやってブレードを対処するか、判断が遅れれば逆にやられるほどだ

 

 オレも笹森先輩が成長しているようで嬉しくなった。訓練はこれで終わって、本部を出ると再び街へ。昨日変えなかったプレゼントを買わなくてはいけない

 

 

 

 

 




クリスマスまで5日と・・・冬休みって大体24日に終業式だったりするよねー・・・

あと4日・・・頭の中でなんどもあの展開を想像したけどどれも護くんが泣く流れに・・・・・

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