ワールドトリガー「Re:自戒の絆」   作:悠士

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24話 開戦

「…初めてだな、学校に行くのがいやだって思うのは」

 

 始業式の今日は3学期が始まる日。ボーダーからは危険性はなく積極的であること、オレがネイバーだと流れた経緯などを報道した。けれど一度認めてしまった以上危険がないからといって以前と同じ生活が送れるわけじゃない

 学校に来るのでさえすれ違う人に見られて口を手で隠して何かを言っていた。菊地原みたいに耳がいいわけじゃないから聞こえないけど、いや聞こえないほうがいいのかもしれない。桐絵ちゃんのときみたいにまたオレが傷つけることに躊躇わなくなったらボーダーの頑張りが無駄になってしまう。せめて、卒業までは通わせてもらえると嬉しい

 

 たとえ喜ばれることがなくても、初めて通った学校で入学して最後は卒業したい。仲良くなんてもう無理なのかもしれないけど。高校にいけなくなったオレには一番の願いはそれだけだ

 

「ぅそ…」

 

「ぃや……なんで来てるのよ」

 

「……マジかよ。空気読めよ」

 

「…………」

 

 教室のドアを開ければ一斉にみんなオレを見て怯えたり睨んだりしてきた。当然だ。昨日まで普通に接していたやつが実は殺人鬼だったら、もうそれからは普通にできないのも。オレだって隣にそんなやつがいたら警戒はしてしまう

 

「ぉ、ぉはよう…」

 

 前みたいな元気はないけど、とりあえず挨拶はした。当然答えてくれる人なんて1人もいない中に入って席に行くが荒れていた

 落書きは当然、何かで叩いたのか凹んだり欠けていたり、油絵の具か何かで塗ったのかシミのような後もある。とりあえず椅子は無事みたいだからかばんを置いて空ける

 

「っ!!」

 

 チャックを開けるときでさえ怯えられる。少し悲しいけれど、このときオレは憤りもちょっとだけあった。母さんから平和なところと聞いてはいたけれど、実際に被害にあった後連れ去られた殺された遺族の怒りはもっともだと思った。だがそれ以外に家はなくなった、財産を失った、大切なものを壊されたなど自分より物のほうが大事という声に理解できなかった

 

 平和なのが一番なのだろうけど、それを謳歌しているだけじゃただ奪われるだけ。ネイバー(オレたち)の世界では命があれば大丈夫、物は壊れても直せる。その常識がここじゃ無意味だ

 確かに親しい人と過ごした家を壊されたり離れなければいけなくなるのは確かに悲しいけれど。オレだって10年以上過ごした家を離れるのに何も思わないわけじゃない

 

 だがオレがこんな憤りを感じたところでみんなには少しも理解してもらえないと思う。オレだって()()思うのは故郷で過ごした考えが基になっているからだ。ならオレがすることはこれ以上みんなの怒りを買わないように大人しくすること

 カバンからレイジさんがやるように言ってきた冬休みの宿題を教卓の上に提出した。そのあとは席に戻り廊下の水道から雑巾をぬらして机を拭く。絵の具は滲んで余計に酷くなる一方で、もっと酷いのは擦っても落ちない色だった。多分ペンキだと思う

 どんなに強く拭いても少しも拭き取れなかった。HRまでやってみたが綺麗にはならなかった

 

 それからどう過ごしたのかよく分からない。休み時間のたびに隣のクラスメイトはすぐに離れていった。相当オレが怖いらしい。オレが何かをしたというわけでもないのに。声をかけようものならごめんなさいの一点張りで聞く耳を持ってくれないし他の奴らからも睨み付けられる

 

「ふざけてんのかよ?ネイバーがいるだけで迷惑なんだよ!!」

 

「かえってお願い。願いだから日本から帰って」

 

 たった一つの願い。それを黒板に書いたら当たり前のように反対や許しを請う声があがった。今のオレの切実な願い

 

 卒業式に出たい

 

 入学式で中学に入ったら卒業式で終えたい。高校に行けなくなった今では学生生活で願うのはこれだけだった。だけど近界民(ネイバー)のオレにはそれすらも許されないらしい。反感を買うのは予想できていたけど、実際に目の当たりにするともう心が折れそうだった

 

「お願い…卒業式……出させて……」

 

 泣くのを堪えるがダメだった。頭を下げたら目から涙がポタポタと落ちて床を濡らした

 

「ふざけんな!!」

 

 丸められた紙を投げられた

 

「いるだけ迷惑ってなんでわからねぇんだよ!!」

 

 オレの筆箱を投げられる。落ちて中身が散った

 

「ネイバーが生きてるとかおかしいんだよ!死ねよ!!」

 

 ゴミ箱を投げられた。さすがに大きいから衝撃で倒れた

 起き上がろうとするが何でか腕に力が入らない。いや、震えていた。悔しくて、悲しくて嗚咽を漏らしながら蹲るしかなかった。世界は非情で残酷だと誰かが言った。人のほうが悪魔より悪魔だと何かで読んだ覚えがある。これが大勢の人の人生を奪ったオレへの罰なら受け入れるけど、だけどもう少しだけ時間が欲しかった

 

 世界はそんなオレのことなど気にもかけないみたいだった。けたたましいサイレンが三門市に響き渡った

 

「っっ!?……こんなときに…」

 

 大規模侵攻が今日、今このときに始まった。混乱するクラスにオレは立ち上がり叫んだ

 

「みんな逃げてくれ!!ネイバーが攻めてきた!!早く避難所に―」

 

「何が逃げてだ!!お前が呼んだんだろうが!」

 

「オレたちに復讐でもするのかよ!?オレたちが何をしたんだよ!!悪いのはお前たちだろうが!」

 

「誰が悪いとか今はそんなこと関係ないんだ!!オレたちボーダーが食い止めるから!早く逃げて!お願い…卒業まであと少しだったけど、みんなと楽しく過ごせてよかったよ。トリガーON」

 

 これからどう頑張ってもオレに学校の友達はできないし元に戻らない。それはもう諦めるしかない。だけどこのまま巻き込まれて死んでしまえなんて思わない。せめて少しでも遠く、避難所に逃げて無事でいて欲しい。ポケットからトリガーを取り出して起動する

 

「隊長!!」

 

「隊長…お前らっ」

 

「春多!いいんだ…っ……行こう。守るために」

 

 隣の教室から一菜と春多が来て、オレの足元を見て何があったのかをすぐに理解したようだけど出そうになる手を止める。オレたちがやるのは仕返しじゃなく戦って守ることだから。春多はまだ納得はできないみたいだけどトリガーとを取り出して起動する

 

「護!もしかしてこれって」

 

「そうだよ。大規模侵攻が始まったんだ」

 

 窓から飛び降りて着地すると後ろから同じくトリガーを起動した修たちが来た。本来なら咎められるはずのC級も使用の許されている。この前のイレギュラーゲートの一件が響いたのだろう

 根付さんからすれば使えるものが居ながら何もせず犠牲者を出すことのほうがボーダーのイメージや信用を落としかねないと危機感を持っているからだろう。実際正隊員のオレでも一般人が居る場所でいつもどおりの戦闘はできなかった。そういった意味では囮役としてでも居てくれると助かる

 

「隊長、指示を。この場に居る者たちの中で隊長が一番上です」

 

「オレも今回はそのほうがいいと思う。こっちのことはまだ分からないことが多いから護が判断してくれると助かる」

 

「…分かった」

 

 一菜と遊真の言葉で本部から指示が来るまではそうしたほうがいいとオレも思った。今居るのはオレを含めてA級春多、一菜。B級の修、C級の遊真、千佳、そして本部の訓練で友達になったという夏目出穂ちゃんの7名

 

 C級にはトリガーの使用も許可されているが威力は心許ない。千佳のトリオン量ならそれすらも覆せる、というか入隊日にアイビスで本部の壁を貫くという恐るべき事件を起こすほどだから誰かが守れば戦力にはなる。けれどまだ実戦経験はないから連れてはいけない

 対して遊真はC級であれど修のトリガーでモールモッドを撃破と言う実績も、傭兵として多くの国を渡り歩いた経験もある。みんなの経験やトリガーを考えると指示が決まった

 

「春多、一菜はいつもどおりオレと行動。千佳と出穂は避難誘導、ただし緊急事態だからトリオン兵が確認されたときはトリガーを使って可能であれば撃破、できなくても囮になって市民からなるべき遠ざけるように行動を。本部への報告と救援要請も忘れずに。遊真、悪いけど経験と知識も豊富だから一緒に行動してもらうよ。修は遊真とペアで行動、正直言うとお前一人じゃ心許ない」

 

「「了解」」

 

「分かった」

 

「りょ、了解っす」

 

「全然構わない、というよりそのほうがいいと思う」

 

「っ…分かった」

 

 春多たちはまだ癖が抜けないのか足をそろえて右手を額に持っていって敬礼をする。たまにするこいつらの行動に内心苦笑いしかない。ボーダーは確かに組織化されているが軍ではない。あくまで民間組織だ

 千佳と出穂もはじめての実戦で緊張しているのか顔が少し強張っている。修は少しショックを受けている感じもしたが、もう今は戦争が始まったから優しさはあまりかけていられない。遊真はオレの指示に異論はなかった

 

 行動方針が決まったことでオレたちは警戒区域へ向かった。一菜からの報告でゲートやトリオン兵は警戒区域内で出現しているらしい。本部の誘導装置が効いているおかげでまだ市街地へ侵入はしていない。けれどそれも時間の問題だと思う

 

「行くぞ!」

 

 1体でも早く倒して市街地への被害を抑えるためにオレたちは別れて行動を始める。道路を走ると建物を迂回しないといけくなるため屋根に乗って飛んで向かう

 

 空には曇り空の下に飛行型のバドが無数に飛んでいた。戦況を知るためとはいえ数が多すぎるような気もする。遠征にしては何が目的かで作戦も違うし、襲われた側も対応を変える必要がある

 それを考えるとバドのこの数は侵略でも考えているのかと思った。隊員の配置や戦況を詳しく知るためではないかと、けれど同時に何かを探すという目的もあるんじゃないかと考えられる

 

「隊長!見えてきました、バンダーです」

 

 一菜の声で考えを一旦中止してトリオン兵排除を優先した。砲撃方のバンダーが2体居てこっちを見て砲撃しようとしていた。けれど目が光って放たれても一菜のエスクード改で問題なく防いだ

 

「屈折旋空!」

 

 一度見たことでオレの目には盾越しでも位置がわかるから、春風を振って曲がる旋空を放ち目を貫いた。モールモッド、バンダー、バムスター、バドと4種類みたからすべてのトリオン兵の位置が判明した。春多と一菜が周辺を制圧している間、オレはトリオン兵の情報を玉狛支部の専用コンピューターと連動を開始する。サイドエフェクトで知った位置情報を仮想空間に疑似配置、共有登録者の位置情報も受け取りそれぞれの地点から見たトリオン兵の位置を表示する

 

「見えた!」

 

「ありがとうございます、隊長」

 

 玉狛支部の隊員なら全員登録しているから離れたところにいる迅さんにも共有されているはず。それは修も例外じゃない

 

「こ、これは…!?」

 

「オレのサイドエフェクトを利用した情報共有だよ。ただオレのサイドエフェクトの弱点を突かれたら消えるけどね」

 

 初めて共有する修は突然建物越しに見えるトリオン兵に驚いている。淡い青色の輪郭が見えるから辺り一面に広がる光たちに言葉を失っている。C級の遊真は正隊員でないから登録はされていないためどんな風に見えているのかは分からないと思う。けどオレの情報を共有しなくても十分な腕を持っているから問題ないと思う。むしろ調子が崩れてしまう可能性もある

 

「見えているからちゃんと周囲には気を配れよ?」

 

「分かった!」

 

 修もレイガストを装備して突撃した。遊真も続いて撃破していく。オレも準備は終えたから春風を構いなおして屋根から下りるとモールモッドの刃の攻撃を捌きながら横に振って目を斬る。その奥にバンダーが目を光らせて砲撃しようとしていた

 光が一際大きくなるとビームが放たれその瞬間に飛び上がって回避する。落下する前に春風を投擲の構えをしてバンダーに目掛けて投げる

 

「よし!やれば当たるもんだな」

 

 地面に着地して初めて槍投げをして成功したことに喜んでいると後ろからモールモッドが接近してきた。2本の鎌を広げて振り下ろすが、視界に表示される予測トリガーがどこに攻撃が来るのか教えてくれる

 

「お前の情報は嫌というほどあるから精度は高いから簡単に避けられるぞ!」

 

 3度ほど避けて振り返ると同時に弱点を斬って撃破する。オレの周りにはトリオン兵の影はないし、春多たちも粗方制圧はしたらしい

 

「修、後ろだ」

 

「え、うわぁ!?」

 

 少し離れた位置にいる修たちもなんとか終えたらしいが、遊真の能力は本当にすごいと思う。C級のトリガーは正隊員のより出力を抑えているから訓練室以外のトリオン兵相手には対してダメージを与えられないのだ。だけどそれを覆すっていることは相当トリオンを扱う能力が高い

 旅をしていたらしいけどその時に磨かれたんだろう。いつかオレにもそのコツとか教えてもらおうかなと思う

 

「隊長」

 

「一菜か、どうした?」

 

「今回の敵、目的は何だと思います?」

 

 周辺は制圧できたので移動をしていると一菜が今回の侵攻の目的を聞いてきた。遠征において重要な目的は大きく分けて2つ。国の征服、目標としている物、人の奪取。作戦があるとはいえトリオン兵が大量に使える最初の段階でネイバーが出てこないとなると、物か人を奪うのが目的かなと思う

 

 だけど一体誰を? っていう疑問が出てくる。トリオン兵だけを動かしている今は消耗させるのが目的なのだろうが、その後は? ネイバーが出てきて疲弊しているところで目的のもを奪うのかもしれない。成功率を上げるには確実ではある

 

「まだ判断材料が少ないから分からない」

 

「…ですよね」

 

 一菜も今回の目的は分からないようだ。ボーダーは軍隊といえるほど規模が大きいものじゃない。言ってしまえば小国レベルだ。けれど技術や隊員それぞれのレベルは高いと思う。何より汎用性に優れたトリガーは個性に合わせやすい。今までの国とは違う優れた点ではあるが

 1つの性能に特化していないためトリガーによっては応用力が低い

 

 今回の敵がトリガーの奪取だとしても大規模にやってくるほどの価値があるのかと考えるなら無い。衛兵とか下っ端に持たせるためのトリガーを探しているだとしてもやり過ぎだ。遠征にはトリオンが大量に必要になる。ましてやトリオン兵まで使えばその量は尋常じゃない

 

 それだけ大規模に侵攻するほどの目的が何なのか考えると1つだけある。ブラックトリガーだ

 通常トリガーの何倍もの性能を持つブラックトリガーなら可能性としてはありえる。大量のトリオン兵による襲撃も性能調査とトリオンの残量を減らすためと考えれば一応納得はできる

 

 けれどブラックトリガーは適合者が稀でもあるし、製作にも命を消費するので所持していない国も珍しくは無い。持ってても使えないなんてことも

 だけどミデンにはオレと迅さんと天羽の3人の適合者に加え遊真が新たに加わった。まあ迅さんがというよりは風刃の方は適合者の幅が広いけれど、一番長く持ってて使い方を熟知している

 

 他にあるとするなら占領して取り込むということだ。国としては戦力が増えるからメリットは大きい。いつかクーデターを起こされる可能性もあるが。戦争をしかける理由としてはありえなくもない。敵の目的が何なのか考えていたら一菜が呼びかけてきた

 

「隊長!!あ、あれ…」

 

「アレ?……ん?」

 

 見ているほうをオレも見ると撃破されたバンダーがいるだけ。何もおかしなところはないと思い始めたとき、亀裂が広がった。反応はないからこれ以上なにかがあるはずなんてない。だけど確かに最初見たときから亀裂は何度か広がって、限界に達したのか壁を吹き飛ばすように腹が破裂した

 

「なんだ……あれは?」

 

 そこから出てきたのははじめて見るトリオン兵。ウサギを模したような巨大な体躯で腕が以上に大きい。バンダーから出てくると目がオレたちを捉えた

 

 




約半年ぶりの自戒の絆

日常や心理描写がイマイチ上達しない・・・

最後にちょっとしたアンケを設置。色々書いているとどれが気に入られているのか少し気になったので
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