このあとは歯を抜くために行かなきゃだったからその前に完成できてよかった!
5年前
あたしにはたった1人の兄がいた。長引く戦闘で国から離れてしまった私たちは補給のためによった国と戦闘になり、その国の軍人を1人捕虜にした
気の毒だと思うけど私たちが生き残るには情報と、安全を確保するための人質になってもらう予定だった。その場しのぎなのは分かってはいたけど。だけどもう帰ることが叶わなくなってしまっては正常な判断なんてできない。お兄ちゃんも少しずつおかしくなっていったりもした
だけどその終わりは唐突だった
「お兄ちゃん!!」
捕虜の仲間が救出に来たのだ。遠征艇は破壊され私たちも次々と捕まっていった
私が見たお兄ちゃんの最後は、無惨な姿だった
「うわあっぁあぁああーーー!!」
捕虜の他にいた奴が作ったブラックトリガーで串刺しにされたのだ
「お兄ちゃん!!お兄ちゃーん!」
地面に落ちたお兄ちゃんは大量の血を流していた。たった1人の家族を失ってしまった。絶望の淵に立ってしまった私はもう生きている意味がなくなった。だけどそのときお兄ちゃんは残りわずかな命と全トリオンであたしのためにブラックトリガーを作ってくれた。何かを言っていたのかもしれないけど聞かなくても分かった。「アイツを殺せ」と言っているんだと
それからも地獄の日々だった
交渉材料にもならないあたしたちは軍に入るか、ただの一般人になるかしかなかった。あたしはどちらも選ばなかった。お兄ちゃんを殺したアイツに復讐をすることしか頭に無かった。あたしの身体は玩具のように醜い男どもの慰めに晒された
アフトクラトルが侵攻して崩壊したときは嬉しかった。あたしを苦しめ絶望に陥れた国が滅んだのだから当然の報いだと。混乱に乗じてお兄ちゃんのブラックトリガーを入手しアフトクラトルに取り入った。いつかアイツが逃げた国を滅ぼしてやるために、この手で殺すために
そしてついに今日、憎き敵を見つけた
「お兄ちゃんの仇を討たせてもらうわよ? 簡単に死ねるとは思わないでね」
お兄ちゃんのブラックトリガー「
『仇って…』
『ああ、十中八九…オレに言っているはずだ』
トリオン体の通信機能で会話をして、狙いがオレなんだと簡単に推測できた。仇ということは殺されたということ。置いて言った2年間のことは知らないけど、少なくとも2人からは誰の命も奪ってはいないという。ならば、消去法でオレということになる。誰の関係者なのかは知らないけど
「来るっ!」
ローブから手を出した敵は大きい鎌を出した。刃の部分が鎌らしくカーブしているが、先端がフォークみたいに三叉に分かれていた。まるで痛めつけることに特化したような奇妙な形状に警戒をした瞬間、迷いもなくオレに目掛けて接近してきた
「やっとこのときが…っ!? 邪魔ね」
「分かりきった行動をさせるわけ無いでしょ?」
鎌が振られる瞬間に一菜のエスクード改が割って入って壁を作った。敵は邪魔されたことに腹を立てるが、左右からオレと春多が攻撃を仕掛ける
「おらっ!」
「っふ!」
だがあっさりと飛び退いて躱されてしまった。別にそれは構わない、敵の出方や今更になって出てきた目的を探る意味でもすぐに倒しては情報を得られない。でも倒さないとトリオン兵がどんどん警戒区域を突破していく。被害が増えていくことに焦っていくのを待っているのかもしれない
「旋空!」
「弾いたっ!?」
着地の隙を狙って春多が旋空を使ったが、鎌を振って斬撃を別の方向へ弾いたのだ。シールドがあるなら使えばいい。多分破壊されるだろうが
じゃあ、もし使えないトリガーだったら武器で防ぐしかない。だけど勢いがある旋空を容易く弾くなんて難しい。ましてや着地のすぐだから踏ん張りは利かないはず
「っく! 見た目より早い! 無理に追撃はするな!!」
「「了解」」
それなりに練習を積んだ動きは恐ろしく、大きいくせに鎌の使い方が上手い。しかもシールドは壊されるし春風で受けても一撃が重い。完全に並みのトリガーとは性能が違う。オレが思っているよりも遙か上を行く性能に嫌な予感しかない
「屈折旋空!」
春多が離れた隙に屈折旋空で無理矢理距離を取らせた
そのタイミングでオレは気になっている予想をはっきりする為に問いかけた
「おまえ…そのトリガー、ブラックトリガーなのか?」
「あら? もうバレちゃったの? 隊長をやっているだけあって理解が早いわね。そうよ、これはあたしのお兄ちゃんのブラックトリガー。あんたが
「ブラック…トリガー……まじかよ」
「っ………まさ、か……あ、ぁいつの……即死、なんじゃ…」
問いかけられた敵は柄を撫でてあっさりと答えた。しかもオレにとっては因縁深い相手が作ったものだと
因縁というには数日だけしか会わなかったが、アイツはなんどもオレを傷つけていった仲間の1人だ。あの船に乗っていた奴ら全員未だに許せないが、串刺しという言葉ですぐに分かった
あの女のブラックトリガーは、オレが最初に殺した男が作ったものだ。母さんを殺されて怒りのままにトリガーで痛めつけた挙句体中に穴が開くほど刺した。父さんに止められてからは見て無かったけれどまだ息が合ったんだってことに驚いた
「隊長…隊長!」
「っ!? しまっ」
まさに過去からの復讐者って言葉が思い浮かんだ。罪も背負って生きていくと決めているし、罰も受けるとも思っている。だけど最初の犯した罪が罰を与えに来るなんて、こんな運命があるなんて怖くなった
一菜が呼んでいることに気づいたオレは目の前に敵がいるのに遅れて気付いて、回避しようと下がろうとするが遅かった
「遅い!!」
「っぐ!!……まだ大丈夫か?…っっぐ、っぁあぁっぁああぁあーーーー!!」
胸を切られてトリオンが漏れていくが、供給器官には届いていなかったらしく。狙いがズレたのか咄嗟の回避が間に合ったのか安心した。だけどそれも束の間、次には張り裂けそうな激痛が襲ってきた
痛い、死んでしまうほどに痛い。両手で胸を押さえて蹲るオレに敵は笑った
「あーっはっはは!! いい声で泣くじゃない? どう? お兄ちゃんのトリガーの味は? 痛いぃ? 死にそう? そうよねぇ、だって……これはトリオン体の性能に関係なく生身で斬られたと同じくらいの痛みを与えて苦しめるのがお兄ちゃんのトリガーなのよっ!!」
「っっぃ!!!……っがっぁあぁあっぁあああああーーーー!! ひぐ……っぐっぅぅううっ!!」
振り下ろされた鎌は右肩に刺さった。杭でも刺さったのかと思うような激痛にオレは苦しめられた。いやでもあの拷問をされたときを思い出される。涙は出ないけど、生身だったら絶対鼻水もあわせて顔を濡らしていたと思う
「隊長から離れろ!!」
「隊長! 大丈夫ですか!?」
春多が追い払ってくれたおかげで鎌は引き抜かれたけど、伝達神経はやられているみたいで右腕はほとんど動かない。一菜も心配して来てくれるが正直大丈夫でもない。痛みの所為で動きは格段に悪い
「あははは! すごいじゃない、それだけ痛めつけてもまだ動けるなんて!!」
「正直、逃げたい気分だ!」
同じ長物だから懐に入られると弱い。だから春風は捨ててスコーピオンを使うことで接近戦を仕掛けた。左腕だけじゃ決め手に欠ける。だから右腕の変わりはシールドとγでカバーしつつ、春多を主軸にして戦うことに切り替えた
幸か不幸か斬られたところが体の捻りなどで傷口が広がったり痛みが増すということは無かった。だが一定の痛みが襲い続けるから単調な動きしかできない。一菜も春多よりもオレの方を防御に集中している
「ぅぐ!…いってぇ! こんなのを隊長に斬りつけやがったのかよ!! てめぇ!」
「そうよ? だって敵なんだもん! お兄ちゃんの仇なんだから当然でしょ!!」
春多も腕を少し切られた。弧月を落として感じる痛みに吼えた。動きが悪くなったとはいえ3対1でここまで劣勢だと感じられるなんて予想以上だった
でもブラックトリガーだから鎌以外の攻撃はきっとあるはず。2人にそのことを伝えてもう一度戦いを仕掛ける
春多が先行して弧月を振るうが当たり前のように鎌で防がれる。けれど側面から一菜がライフルを構えて引き金を引いた
「その程度っ!」
「マジかよっ」
鎌を回して銃弾を防いだのだ。だが一菜が撃っている間は無防備になるから春多が反対から接近して切りかかるが、やっぱりオレの予想は当たっていた
「剣!? うわぁ!!」
背中から伸びた2本の剣で弧月を防いだ。弾いて春多を吹き飛ばしてからオレの方へ向かってきた
「っ…片腕じゃ…」
スコーピオンじゃ受け流すにも心許ないと春風を分離して、先端の剣の部分を持って対応するが徐々に押されていった。繋がっている金具のような部分を春多は斬った。どうやらそこの耐久力は高くないらしい
「助かった春多」
「隊長避けて!!」
剣だけでは動かないみたいで春多のおかげで助かった。だけど一菜が叫んだ次の瞬間、オレの身体は浮遊感に包まれた。どうしてなのか気付いたときには敵の手には何も持っていなかった。つまり鎌を投げたんだ
「っ!?……ベイルアウト…しないっ!?」
トリオン体を破壊されたオレはベイルアウトした。はずだった
玉狛支部に設定してあったはずなのに、オレの身体は戦場に残されたままだった。トリガーの故障なのか、あのブラックトリガーの性能なのかは分からない。初めての異常事態に混乱したオレは凶刃が向かっていることに気付かず棒立ちしていた
「っぅ!?……?……っが、っぁ……ゴヘッ……」
背中から飛ばされた剣が腹に突き刺さった。建物の外壁に衝突した。痛くて、熱くて動けない
「た、隊長ーー!」
「いや、ぃや……いやぁぁあああーー!!」
「あっははは!! いい様ね!! お兄ちゃんみたいに串刺しにするのもいいわね」
痛みで意識が朦朧としてる中で2人の叫びが聞こえた。オレを恨んでいる奴の喜びの声も
寒いのか熱いのかよく分からない。うなだれている頭の視線の先には流れ落ちる赤い液体が学生服を汚していくのが見えた
「に………げ、ろ……は……た……かず、な」
ろくに言葉も紡げないけど、春多と一菜には生きていて欲しい。また置いていってしまうのかもしれないけど、後を追ってくるなんてことはして欲しくない
もしこれで、オレの罪が清算されるってならそうしたい。罪を背負うなんて言ったけどやっぱり疲れた。楽になりたい。もっと生きたかった、もっと楽しいことをしたかった、もっと学校とかに行きたかった。でもこれがオレの罰なんだからしょうがない。殺した人の中にはオレと同じくらいの奴もいたし
ごめん、春多、一菜。また置いていって。こんな最低な奴で、ごめん
迅.side
磁力を使う敵ネイバーのヒュースと戦闘しながら地下水道から地上へ出た迅。自身の役割を全うするために挑発しながら引き付けていると、分岐点の1つに差し掛かったことに気付き足を止めた
「護…すまない」
「余所見をしている暇があるのか!」
「おっと」
護たちいる方向を見て小さく謝った。どういった意味を込めての謝罪なのかは迅にしか分からない。これまで未来が見えるサイドエフェクトを持ちながら多くの人を見捨ててきた、必要な犠牲を強いてきた迅は同じ屋根の下で過ごしてきた護を失うのは選んだ未来とはいえ辛い
4年前の侵攻で来ることも分かっていて見つけて仲間に入れた。このときのために、これからのために
自分を見ていないことにヒュースは更に怒りを募らせながらも、繊細な操作で持ち手のない剣を形成し迅に飛ばした。分かっていたようにあっさりと避けられているから回避や危険を察知するサイドエフェクトを持っているのだと理解している。そうでなければたかがボーダー隊員一人撃破すらできないなんてありえないのだから
回避や受け流しで撤退するまで相手をしなければいけない迅は、三雲たちのためにもヒュースを残らせる未来を選ばないといけない。その結果護の死亡率が高くなろうとも
そのときはまた、必要なことだったと割り切るしかないのだ
護…本当にすまない
何度目かの謝罪。口には出さなかったが、まだ押さないながらに大人すら迷うような罪を背負う覚悟をしたり、名前の意味を体現しようと努力したり、世間から辛い罵倒を浴びながらも簡単には負けなかった強さは尊敬するほどだ。だからこそ春多も一菜も一度は捨てられても付いてきたのだから
このまま成長すれば立派なボーダー隊員になれただろう
生きるか死ぬかは護次第だ。そこに迅が介入する余地は無かった
護が生身で攻撃を受けるのは前から考えていた流れでした
色々辛いことあったもんね。ラクになっていいんだよ?