「くぅ!!……っ」
鎌で構える敵に対して振り下ろした2本の剣で押さえつけ、その横から一菜がライフルを構えて射撃を行う。だけど自分の攻撃を受けるのを覚悟したのか腰から伸びた剣で肩にダメージを受けながらも強引に後退させてきた。そして剣同士を重ねて盾にすることで一菜の攻撃を防御した
「旋空、弧月っ!!」
「なっ!?……伸びた…!…斬撃を飛ばすものじゃないの!?」
その後ろでは春多が弧月をまっすぐに構えており突くようにして旋空を放つ。だが見え見えの攻撃など躱すことが可能で、ギリギリで体を捻ることで服を切られるだけで済ませた。だがそれだけで終わらないのがガーディのブラックトリガーだ
伸びた旋空の先に狼が口を開けて待機している
「よそ見注意だぜ!」
「…!! しまった!」
旋空を避けるためにバランスを崩したことで回避はできない。オレと入れ替わるようにもう一匹の狼が跳んで口を開けると、春多が突いた旋空が飛び出した。腹に命中したがトリオン器官より下だったため撃破とまではいかなかった
「このっ…罰を受けるやつが何を今更生きるのよ!!?」
敵は漏れるトリオンを手で押さえながら聞いてきた
「今更か……確かにオレは一度は生きるの諦めて罰を受けようと思った」
「なら、何でよ!!」
「…そんなもん簡単だ。死にたくないからだ」
「………は…?」
オレに復讐するために敵意を向けてくる相手に罰を受ける時が来たんだなって、剣が刺さったときそう思って抗うのを止めた。生きるのを諦めたのだ
だけどオレのために戦っている2人の気持ちを聞いてしまっては、簡単に死んでしまったらそれこそ裏切るようなことになる。信頼してくれる2人のためにもしぶとく生きようと思う
「それに……オレは、オレの願いのためにも生きなくちゃいけないんだ」
「死に損ないの願いなんて…大したものじゃないでしょうが……!」
「オレは忍田護だ。オレの名前にはオレが守りたいものを守れるようにって思いが込められてる。だから、オレはこの国を、
「っ……お兄ちゃんだって……まだ生きていたかったわよ!! 今更自分だけ生きようなんて思うなぁー!」
オレに『護』って名前を付けてくれた父さんと母さんのためにも、オレのために力を貸してくれるガーディのためにも戦わなくちゃいけない。誰に言われたことでもなく、オレ自身が選んだことだ。人の命を奪ってしまったことも
だからその責任は果たさないといけない
「行くぞ、春多! 一菜!」
「はい!」
「おう! ぶちのめしてやるぜ!」
女の子に対してその言葉はどうかと思うけど。それでも
春多が先行し弧月を振るった。鎌で受け止められ飛ばされると剣が伸びてくるが一菜のエスクード改が守った。視線が向いていないうちに一菜が撃ちながら腕のない左側に回りこむが、剣が飛んできてエスクード改でも防ぎきれず貫通する。だが狼が一菜を食べることで負傷することなく別の狼から現れる
「そうやって…狼の中を通っていたわけね」
「そうだ」
瞬間移動の仕組みを理解したところで困ることもないし、むしろ知ってくれたほうがどこから攻撃が来るのか? と勝手に警戒してくれたほうが隙が大きくなる
「っ!? っく!自分も移動できるなんて…!」
オレ自身を食べさせた後、後ろに現れたオレは腰から伸びてる剣を切り落とした。切ったところで意味がないことは分かりきっているが、そのままだと
「このっ、またこの鎌で苦しめ…ッ!?」
大鎌が振るわれそうになったが、それより早く柄尻の狼の頭が敵を飲み込み空中へ吐き出した
「浮いてッ!?…しま……」
「これで終わりだ」
宙にいる敵を中心に狼たちが覆うように顔を向けて囲っており、口を開けた瞬間食ったものを全て吐き出した。剣だけでなく、一菜の銃弾に春多の突きの旋空を
四方八方から攻撃を受ければさすがに無事じゃすまないだろう
「……っく……お兄ちゃんの…おにいちゃんのブラックトリガーが負けるなんて…」
どうやらギリギリで剣で守ったのかはわからないが損傷はかなり大きい。片足と残っていた腕も鎌を握る手がなくなっていた。顔にもヒビが入っているほどにダメージが入っていて、これじゃ戦闘継続は不可能なのは明白だった
「…無駄だと思うが、投降しろ」
「投降…? 冗談……あんたたちに捕まるくらいなら死んだほうがマシよ!」
「そう、なら死になさい」
「っ!!?」
復讐の相手に言われたところで意味は無いかもしれないと分かってはいたけど、やっぱり拒絶されてしまった。捕虜として大人しくするなら最低限の衣食住は保障するし、アフトクラトルとの交渉にだって使えるはずだ。こうなっては仕方ないと強引に連れて行くしかないと思った瞬間だった。音もなく黒い針が敵の胸を貫いていた
「ミラっ!? な、なにをするのよ!」
「命令には従わず、役割すら果たせないあなたは不要なのよ。それに、同じブラックトリガーを使っていながら易々と敗北するなんて。あなた、使い手として相応しくないわ」
トリオン体が破壊された次には突如空中に黒い空間が出現した。その中には角を生やした女のトリガー使いがいた。しかも黒色。間違いなくブラックトリガー使いだ
『た、隊長。どうします…?』
『様子見だ。空間系は迂闊には出れないからな』
一菜の緊張の篭った声が通信機から聞こえてくる。本来なら逃がすわけにはいかないだろうが、何も無いところに突如現れた。それだけでも普通のトリガーじゃないのは当然だ。しかも角が黒いことでブラックトリガーであることも確認できた。さっきの胸を刺した攻撃は音が無かったから背後に出されたら回避はまず無理だと考えるべきだ
オレたちの中で警戒心が極限まで上がっているとブラックトリガーの女は、仲間を助けるために手を差し伸べた。感情の篭っていないような表情で向かう手は高い位置にあった。違和感を感じていたオレはあの女の言葉を思い返して気付いた
「隊長!?」
「っ!!」
「あら? 以外ね。敵を助けるなんて」
気付けばオレは飛び出していた。ミラと呼ばれた女の手は、オレたちが相手をしていた敵の首元、おそらくブラックトリガーと思うものを掴んで引っ張った。それを奪った直後に周囲に黒い小さな空間がいくつも現れた
手を伸ばし体を抱き寄せた次には、さっきまでいた場所には黒い棘が伸びていた
「おまえ……仲間を…!」
「ミラ……? どういう、こと……なの?」
「不要なのよ、あなた。私怨にしか固執してなくて目的を忘れる。相手に痛みを負わせるブラックトリガーも満足に使えないなんて、使い手として相応しくないわ」
あの女は明らかに仲間を殺そうとしていた。表情一つ動かすこともなく、まるで
さっきまで敵だった奴は自分を殺そうとしていたのを理解して声が震えていた。それもそうだ、どれくらい仲間として過ごしたかは分からないが、遠征に来るのにそれなりに訓練はしたはずだ。多少の仲間意識はあるはずだから、この裏切り行為は信じられないと思うのも分かる
「返してっ! それはおにいちゃんのブラックトリガーなの、返してよっ!」
「残念だけど。コレは決定なの、元々国に置いてかれた人間なのだからいなくなっても困らないわ」
「待って、ミラ!! お兄ちゃんの……おにいちゃんの、トリガー………っっ」
冷たい声でブラックトリガーを回収した女はそのまま消えていった。駆け寄ろうとするのを止めながら次はどこから攻撃してくるのか警戒していたけどその必要はなかった。家族のブラックトリガーを奪われて泣き叫ぶ姿には同情はするけど、いつまでもそうしているわけにはいかない
「春多、一菜。おまえ達はッっァア!?」
「おまえが!…おまえがあのまま死んでいれば!! 裏切られることなんてっ……なかったのに!! おまえの、おまえの所為だ!! 何もかもおまえの所為で滅茶苦茶にっっ!!」
さっき助けた敵の女がオレを突然倒してきた。そのまま顔を殴られるがトリオン体だから痛みもないしダメージも受けない。ただ泣きながら叫ぶ言葉は胸が締め付けられた
オレがこいつの兄を殺したから。そのときから全てが狂ってしまったのだ。怒り任せに殺しさえしなければこんな事にはならなかったはずだ
オレが、あの頃のオレが慢心さえしてなければ捕まることなんてなかったんだ。そうだ、すべてオレが招いた結果だ。抗わず大人しく死んでいればよかったのかもしれない
「お兄ちゃんの……おにいちゃんの、仇を……離してっ‼︎ 邪魔しないでよ!!」
春多が泣き叫ぶ敵をオレから引き離した。その姿にいつかのオレを見ているような気分になった
「オレらの隊長をそれ以上責めるのは止めてもらうぜ。それでも言うってなら口を塞いででも黙らせるからな!!」
「いいよ、春多。そこまでしなくても」
「け、けど……」
さすがに口を塞ぐなんて乱暴すぎる。敵だから容赦する必要なんてないのかもしれないけど、それよりもオレたちにはまだやるべきことがある
「状況は?」
『護くん!? よかった、無事なのね!?』
「なんとか。それより修達は? オレたちはどう動けばいい?」
『修君たちは千佳ちゃんが…』
『雨取が敵のトリガーに当たってキューブにされてしまった』
「レイジさん!? やられたんですか!?」
今戦況がどうなっているのか知るために宇佐美に聞けば声が曇った。代わりに答えたのはまさかのレイジさんだった。修達はオレたちと別れた後人型ネイバーに遭遇、レイジさんたちが応戦するが撃破されたらしい。何をされたのか分からないくらいに一瞬で。それでも時間稼ぎはできたらしい。予想だが超高速の斬撃を放つタイプじゃないかと言う
その後迅さんと遊真が合流。それぞれ敵を分断してレイジさんを倒した敵を遊真が撃破したらしい。ただし同時に遊真のトリガー反応も消失したという。不安でもあるけどあいつは強いから生きていると思いたい。修たちと本部を目指していた烏丸だが、鳥を使うブラックトリガー使いと遭遇。これに応戦したが撃破されたと
だけどわかったこともある。そのトリガーは命中するとキューブになるということ。トリオン体に当たると操作ができなくなりベイルアウトしかできなくなること。またワープトリガーと連携して背後からの不意打ちも可能だということだ。しかも鳥だけでなく魚、ハチなど動物や昆虫など他の姿もあるらしい
『イメージとするならシューターみたいなものだ。動きはおまえでも知っている生物のそのものだ』
「とはいえ命中すると厄介だな…」
話を聞けば聞くほど面倒な相手だ。
『あ、いま出水くんからの報告で鳥を使うトリガーはトリオン以外のものには弱く破壊もできないみたいよ!』
ということは狼達に瓦礫を食べさせてそれを盾にってこともできる。でも瓦礫自体に運動はないから出した瞬間から落ちて意味がなくなる。とはいえ考えている暇はない。敵はなぜか雨取を狙ってるらしいから、なんとしてでも守らないといけない
「春多、一菜。おまえ達は捕虜を連れて本部へ連行だ。オレは修の援護に行く」
「危険です! 隊長のブラックトリガーでも敵のトリガーの前では意味がなくなります!」
一菜の言っていることは間違っていない。トリオンに対して絶対的な優位を持つ以上危険度は高い。だけど仲間を見捨てるわけにも行かないし、
「それに…おまえ達だって無謀なの分かっててオレの為に戦ってたじゃん? 逃げろって言ったのに」
「そ、それは……」
「とにかく戦いはまだ続いてんだ。後は頼んだぞ」
捕虜を一菜たちに任せて修の援護に向かうために地面を蹴って屋根に飛び乗る。距離があるから間に合うかは微妙だ。サイドエフェクトはリセットされてしまったから位置もレーダーでしか分からない
それでも諦めたくはない。最後まで戦って守るって決めたんだ